説明

基地局または受信装置および移動局測位システム

【課題】マッチドフィルタなどの大規模な回路を必要とすることなく受信時刻を精度よく検出することができる受信装置(基地局12)、および移動局位置測位システムを提供する。
【解決手段】受信部26により受信した符号データにおけるデータ変化タイミングを測定する受信符号解析部30と、測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のいずれか一方を所定のずらし量だけずらして比較し、相関指標値を算出する時間ずれ検出部32と、前記ずらし量を受信符号解析部30における分解能に基づいて決定するずらし量決定部38と、算出される相関指標値が最小となる際のずらし量に基づいて受信時刻を算出する受信時刻算出部44とを有し、受信時刻算出部44によって算出された複数の基地局12における移動局からの電波の受信時刻に基づいて移動局の位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局が送信する電波を複数の基地局が受信し、その受信結果である基地局のそれぞれにおける受信時刻に基づいて算出される電波の伝搬時間に基づいて移動局の位置の推定を行なう移動局測位システムおよび基地局に関するものであり、特に、受信した電波に含まれるデータのデータ変化タイミングとレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとの対応するデータ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和に基づいて前記受信時刻を算出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局が送信する電波を複数の基地局で受信し、これらの複数の基地局のそれぞれにおける電波の受信時刻に基づいて、前記移動局と前記複数の基地局のそれぞれとの距離を算出し、算出された距離に基づいて移動局の位置の検出を行なう測位システムが提案されている。
【0003】
かかる測位システムにおいては、前記移動局と前記複数の基地局のそれぞれとの距離は、電波の伝搬時間に基づいて算出される。また、この電波の伝搬時間は移動局による電波の送信時刻と前記複数の基地局のそれぞれにおける電波の受信時刻に基づいて算出されることから、測位精度を高精度に行なうためには、前記複数の基地局のそれぞれにおける電波の受信時刻の検出をより高精度に行なう必要がある。特許文献1には、無線端末間でスペクトラム拡散された信号の位相を精密に検出することにより電波の伝搬時間を検出する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特表2001−510566
【0005】
例えば特許文献1が開示するように、移動局および基地局間で拡散符号を含む電波の送受信を行い、受信側において受信した拡散符号とそのレプリカ符号との相関値を算出し、相関値のピーク値の発生に基づいて受信時刻を得る方法が広く用いられている。かかる拡散符号を用いる方法においては、前記相関値のピークが顕著に生ずるため、受信時刻の検出が容易であるという利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受信時刻の精度を向上させるためには、受信側におけるサンプリング周波数を高くすることが考えられる。しかしながら、前述のように拡散符号の相関値を算出し、そのピークの発生に基づいて受信時刻を得る方法においては、具体的には例えば前記サンプリング周波数によりサンプリングされた受信データとレプリカ符号とから例えば図23に示すようなマッチドフィルタにより相関値を算出するので、サンプリング周波数を高くすると、相関値の算出に必要となる計算量、あるいはそれを処理するマッチドフィルタの規模が膨大となり、実現が困難である。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、マッチドフィルタのような大規模な回路を必要とせず、高精度に電波の受信時刻を検出することのできる基地局または受信装置および移動局測位システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するための請求項1にかかる発明は、(a)所定の符号データを含む電波を受信し、受信した電波に含まれる前記符号データと予め記憶された前記符号データのレプリカ符号とを比較し、その比較結果に基づいて、電波の受信時刻を算出する受信装置であって、(b)電波を受信する受信部と、(c)該受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングを測定する受信符号解析部と、(d)前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部が時刻の測定を実行する区間を決定する解析実行区間設定部と、(e)前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のうちいずれか一方を所定のずらし量だけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値を算出する時間ずれ検出部と、(f)前記ずらし量を前記受信符号解析部における分解能に基づいて決定するずらし量決定部と、(g)前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻を算出する受信時刻算出部と、を有することを特徴とする。
【0009】
好適には、請求項2にかかる発明は、(a)前記受信時刻算出部は、反復実行される前記時間ずれ検出部により算出される複数の相関指標値に基づいて、前記相関指標値の最小を検出するものであり、(b)前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の実行回数に基づいてずらし量を決定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3にかかる発明は、前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の初回の実行結果に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4にかかる発明は、前記ずらし量決定部は、前記受信部により受信した電波におけるジッタ量に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定することを特徴とする。
【0012】
また好適には、請求項5にかかる発明は、前記時間ずれ検出部は、前記レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間において前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないことを特徴とする。
【0013】
また、前記課題を解決するための請求項6にかかる発明は、(a)移動局から送信される電波を複数の基地局において受信し、該複数の基地局における電波の受信結果に基づいて前記移動局の位置を算出する移動局測位システムであって、(b)前記移動局は、所定の符号データを含む電波と、該所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号を含む電波とを送信する送信部を備え、(c)前記基地局は、電波を受信する受信部と、(d)該受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングを測定する受信符号解析部と、(e)前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部が時刻の測定を実行する区間を決定する解析実行区間設定部と、(f)前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のうちいずれか一方を前記所定のずらし量だけずらして比較し、両者の対応するデータ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値を算出する時間ずれ検出部と、(g)前記ずらし量を受信符号解析部における分解能に基づいて決定するずらし量決定部と、(h)前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻を算出する受信時刻算出部と、を備え、(g)前記受信時刻算出部において算出される移動局から送信された電波の各基地局における受信時刻と、前記各基地局の位置とに基づいて移動局の位置を算出する測位部を有することを特徴とする。
【0014】
好適には、請求項7にかかる発明は、(a)反復実行される前記時間ずれ検出部により算出される複数の相関指標値に基づいて、前記相関指標値の最小を検出するものであり、(b)前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の実行回数に基づいてずらし量を決定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項8にかかる発明は、前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の初回の実行結果に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9にかかる発明は、前記ずらし量決定部は、前記受信部により受信した電波におけるジッタ量に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定することを特徴とする。
【0017】
また好適には、請求項10にかかる発明は、前記時間ずれ検出部は、前記レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間において前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1にかかる受信装置によれば、前記受信符号解析部により、受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングが測定され、前記解析実行区間設定部により前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部がデータ変化タイミングの測定を実行する区間が決定され、前記時間ずれ検出部により、前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のうちいずれか一方を所定のずらし量だけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値が算出され、前記ずらし量決定部により、前記ずらし量が前記受信符号解析部における分解能に基づいて決定され、前記受信時刻算出部により、前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻が算出されるので、例えばマッチドフィルタなどを用いた相関値の算出を行なう大規模な回路を必要とすることなく受信時刻を精度よく検出することができる。
【0019】
また、請求項6にかかる移動局測位システムによれば、前記移動局から送信される電波について、前記基地局の前記受信符号解析部により、受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングが測定され、前記解析実行区間設定部により前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部を実行する区間が決定され、前記時間ずれ検出部により、前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングとレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のいずれか一方をずらし量だけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値が算出され、前記ずらし量決定部により、前記ずらし量が前記受信符号解析部における分解能に基づいて決定され、前記受信時刻算出部により、前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻が算出されるので、前記基地局において例えばマッチドフィルタなどを用いた相関値の算出のような複雑な計算を必要とすることなく受信時刻を精度よく検出することができる、また、前記測位部において、前記受信時刻算出部において算出される移動局から送信された電波の各基地局における受信時刻と、前記移動局における電波の送信時刻と、前記各基地局の位置とに基づいて移動局の位置が算出されるので、前記精度よく算出された受信時刻に基づいて精度のよい移動局の位置の算出を行なうことができる。
【0020】
また、請求項2にかかる受信装置、あるいは請求項7にかかる移動局測位システムによれば、前記受信時刻算出部によって、反復実行される前記時間ずれ検出部により算出される複数の相関指標値に基づいて、前記相関指標値の最小が検出され、前記ずらし量決定部により、前記時間ずれ検出部の実行回数に基づいてずらし量が決定されるので、基地局または受信装置において受信した電波の受信時刻が算出される度に前記ずらし量が決定され、受信時刻の検出精度を向上させることができる。
【0021】
また、請求項3にかかる受信装置、あるいは請求項8にかかる移動局測位システムによれば、前記ずらし量決定部によって、前記時間ずれ検出部の初回の実行結果に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量が予測され、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量が決定されるので、前記時間ずれ検出部の反復実行に要する時間を短縮することができる。
【0022】
また、請求項4にかかる受信装置、あるいは請求項9にかかる移動局測位システムによれば、前記ずらし量決定部により、前記受信部により受信した電波におけるジッタ量に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量が予測され、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量が決定されるので、電波の受信において生ずるジッタのジッタ量を考慮して前記相関指標値が最小となる際のずらし量が予測され、前記次回実行時におけるずらし量を好適に決定することができる。
【0023】
また、請求項5にかかる受信装置、あるいは請求項10にかかる移動局測位システムによれば、前記時間ずれ検出部により、前記レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間において前記受信符号解析部によって測定された符号データにデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないので、移動局と基地局との通信にビットエラーが生じる場合においても、その影響を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の測位システム8の構成の一例を示した図である。図1に示すように、測位システム8は、移動可能な移動局10、既知の位置に固定され、前記移動局10と無線による通信を行なう機能を有する第1基地局12A、乃至第4基地局12Dの4つの基地局12(以下、第1基地局12A、乃至第4基地局12Dを区別しない場合、基地局12という。)、および例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂コンピュータを含んで構成されるサーバ14を含んで構成される。なお、移動局10の数は1個以上であれば特に限定されない。また、基地局12はそれぞれ、通信ケーブル18によってサーバ14と接続され、例えば基地局12およびサーバ14によりLANが構築され、相互に通信可能とされている。なお、基地局12が本発明の受信装置に対応する。
【0026】
図2は、移動局10の有する制御機能の一例を説明するブロック図である。移動局10はアンテナ62、送受信切換部64、受信部66、時計70、送信符号発生部72、送信部74などを含んで構成される。また、この移動局10は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記送信符号発生部72などにおける処理を実行するようになっている。
【0027】
受信部66および送信部74は、いわゆる無線通信機能を実現するものであって、アンテナ62を用いて電波の送受信を行なう。例えば送信部74は、後述する送信符号発生部72によって発生された符号などを含む電波を送信する。また、受信部66は、基地局12によって送信される電波を受信する。すなわち、送信部74は、所定の周波数の搬送波を発生する発振器、電波により送信する信号に基づいて前記搬送波を変調し、またデジタル変調などの変調を行なう変調器、前記変調された搬送波を所定の出力に増幅する送信アンプなどを有し、また、受信部66は、アンテナ62によって受信された受信波を増幅する受信アンプ、受信波から所定の周波数成分のみを取り出すフィルタ、デジタル復調や検波器などによる復調を行なう復調器などによって実現される受信機能を含む。このとき、送信部74および受信部66が行なう無線通信は例えばいわゆるデジタル通信が好適に用いられるので、送信部74および受信部66はそのデジタル通信に必要となる変調あるいは復調のための機構を含む。
【0028】
また、アンテナ62は、前述の送信部74および受信部66が電波を送受信する際に用いられるものであって、送受信する電波の周波数に適したものが用いられる。また、移動局10の位置にかかわらず、すなわち移動局10から見た基地局12の方向に関わらず移動局10からの距離が同じ位置に基地局12が存在する場合には同じ強さで電波を受信できるように、アンテナ62は少なくとも電波の伝搬方向に関して無指向性であるアンテナが好適に用いられる。
【0029】
送受信切換器64は、前記受信部66と送信部74との何れを作動状態とするかを切り換える。すなわち、移動局10が無線の受信状態にあるか送信状態にあるかを切り換える。好適には例えば、通常は移動局10を受信状態としておき、例えば後述する送信符号発生部72によって生成される符号データを含む電波である測位のための電波を送信する場合など、基地局12へ電波を送信する時においてのみ、移動局10が送信状態とされてもよい。
【0030】
送信符号発生部72は、移動局10から送信される電波に含まれる送信符号を生成する。この送信符号は、移動局10からの電波を受信した基地局12において後述する受信符号解析部30、時間ずれ検出部32、受信時刻算出部44などにおける電波の受信時刻の算出に用いられる符号データと、その符号データよりも予め定められた所定時間だけ前に送信される予告符号とを含んで構成される。この符号データは、例えば好適には0と1の出現が規則的でない符号、例えばM系列符号や、GPSにおいても使用されているGold系列符号などの疑似雑音符号(pseudo−noise code;PN符号)が用いられる。また、予告符号は、これを受信する基地局12との間でその内容が予め共有された符号であればよく、例えば前記符号データとは異なる内容の拡散符号や、移動局10と基地局12との通信におけるプリアンブルが用いられる。
【0031】
図5に、送信符号発生部72によって発生させられ、送信部74によって送信される送信符号の一例を時間の経過と共に示す。図5においては右に行くほど時間の経過を表している。図5に示すように、例えば、時刻t01から時刻t02までの間予告符号を送信し、所定時間tintだけ待機を行なった後、時刻t03から時刻t04の間、すなわち時刻t03からTsの時間において符号データの送信を行なう。この時間Tsは、送信される符号データの符号長、移動局10と基地局12との無線通信における通信速度などによって定まる値である。
【0032】
時計70は、時刻を計測するものであって、例えば送信部74が電波を送信する際に参照され、送信時刻に関する情報は符号データとともに基地局12に送信される。
【0033】
図3は、基地局12の有する機能の概要の一例を説明するブロック図である。基地局12は、アンテナ22、送受信切換器24、受信部26、解析実行区間設定部28、受信信号解析部30、時間ずれ検出部32、レプリカ符号発生部36、ずらし量決定部38、ずらし量予測部40、受信時刻算出部44、時計46、送信部50、通信インタフェース部52などを含んで構成される。また、この基地局12は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記解析実行区間設定部28、受信信号解析部30、時間ずれ検出部32、レプリカ符号発生部36、ずらし量決定部38、ずらし量予測部40、受信時刻算出部44などにおける処理を実行するようになっている。なお、ずらし量決定部38およびずらし量予測部40を合わせて広義のずらし量決定部38wと考えることもできる。
【0034】
受信部26および送信部50は、前述の移動局10の受信部66および送信部74と同様に、いわゆる無線通信機能を実現するものであって、アンテナ22を用いて電波の送受信を行なう。例えば送信部50は、移動局10の作動を制御する指令などを含む電波を送信する。また、受信部26は、移動局10によって送信される電波を受信し、その内容を必要に応じて受信符号解析部30、解析実行区間設定部28などに渡し処理を実行させる。すなわち、送信部50は、所定の周波数の搬送波を発生する発振器、電波により送信する信号に基づいて前記搬送波を変調し、またデジタル変調などを行なう変調器、前記変調された搬送波を所定の出力に増幅する送信アンプなどを有し、また、受信部26は、アンテナ22によって受信された受信波を増幅する受信アンプ、受信波から所定の周波数成分のみを取り出すフィルタ、デジタル復調や検波器などによる復調を行なう復調器などによって実現される受信機能を含む。このとき、送信部50および受信部26が行なう無線通信は例えばいわゆるデジタル通信が好適に用いられるので、送信部50および受信部26はそのデジタル通信に必要となる変調あるいは復調のための機構を含む。
【0035】
また、アンテナ22は、前述の送信部50および受信部26が電波を送受信する際に用いられるものであって、送受信する電波の周波数などの電波の性質に適したものが用いられる。
【0036】
送受信切換器24は、前記無線部26と送信部50との何れを作動状態とするかを切り換える。すなわち、基地局12が無線の受信状態にあるか送信状態にあるかを切り換える。好適には例えば、通常は基地局12を受信状態としておき、例えば無線通信に使用する周波数を設定する場合など、移動局10へ無線により送信する必要がある時においてのみ、基地局12が送信状態とされてもよい。
【0037】
解析実行区間設定部28は、後述する移動局10から送信される電波に含まれる予告符号を受信したことに基づいて、後述する受信符号解析部30を実行させる。すなわち、後述する受信符号解析部30は、高精度な作動、すなわちサンプリングタイムの短い高頻度での作動を行なうため、計算量が比較的多いものとなっており、それに伴って消費電力も多くなっている。具体的には例えば、受信符号解析部30は、基地局12の他の機能、例えばレプリカ符号発生部36などに比べて720倍のクロック速度により動作させられている。そのため、必要ない時点においては、受信符号解析部30の作動を停止しておくことができれば、消費電力を低減できる。一方、本実施例においては、前述したように移動局10から送信される電波は、受信符号解析部30の解析の対象となる符号データと、その所定時間だけ前に送信される予告符号を含むので、基地局12において予告符号を受信した場合に、前記所定時間が経過するまでに受信符号解析部30の実行を開始させることにより、それまでの間は受信符号解析部30はその作動を停止することが可能である。
【0038】
図5はこの解析実行区間設定部28の作動を説明する図である。前述のように、移動局10から送信される電波に含まれる送信符号は、例えば、時刻t01から時刻t02までの間予告符号を送信し、所定時間tintだけ待機を行なった後、時刻t03から時刻t04の間、すなわち時刻t03からTsの時間において符号データの送信を行なう。かかる符号が基地局12において、時刻T01から時刻T02までの間予告符号を受信された場合、解析実行区間設定部28は、その受信後所定時間tintよりもマージンmaだけ小さい時間の経過後である、時刻Tstart=T02+tint−maから受信符号解析部30の作動を開始させる。また、時刻T02において予告符号を受信した後、前記所定時間tinと符号データの送信に要する時間Tsにマージンmbを加えた時間の経過後である、時刻Tend=T02+tint+Ts+mbに受信符号解析部30の作動を終了させる。すなわち、解析実行区間設定部28は、受信符号解析部30の作動の実行する時刻tの区間を、T02+tint−ma≦t≦T02+tint+Ts+mbのように決定する。ここで、マージンmaおよびmbは移動局10から基地局12への通信においてゆらぎ(ジッタ)などが生じた場合であっても前記符号データを過不足無く受信できるように、ジッタの発生量などを考慮して定められる。
【0039】
図3に戻って、受信符号解析部30は、受信部26によって受信された移動局10からの電波に含まれる符号データにおけるデータ変化タイミング、すなわちデータの立ち上がりおよび立ち下がりが生じた時刻をそれぞれ測定するものであって、解析実行区間設定部28により定められた実行区間において実行される。図6は、この受信符号解析部30による測定を説明する図である。図6には、後述するレプリカ符号発生部36によって発生されたレプリカ符号と、受信部26によって受信された符号データの一例が示されている。なお、単に受信部26によって受信された符号データを表わす場合、図6の下段に示す符号における所定のずらし量は零である。受信符号解析部30は、かかる符号データにおけるデータ変化タイミング、すなわち、例えば図6において受信された符号データにN+1個のデータ変化が含まれる場合には、最初のデータ変化(図6の例であれば立ち上がり)を生じた時刻trx_0、次にデータ変化を生じた時刻trx_1、その次にデータ変化を生じた時刻trx_2、…、最後にデータ変化を生じた時刻trx_Nをそれぞれ測定する。この受信符号解析部30は、後述する時間ずれ検出部32、受信時刻算出部44などにおける結果の精度に直接関係するものであるので、高精度(高分解能)の時計を用いることにより、前記データ変化タイミングが検出されることが望ましい。具体的には例えば、移動局測位システム8に要求される測距精度re(m)が設定される場合において、その測距精度reを電波の速度c(=2.997×10(m/s))で除した値te(=re/c)が同期時刻の検出のための精度(分解能)として必要とされる。従って、受信符号解析部30は、データ変化タイミングの測定における精度が前記te(sec)もしくはこれよりも高精度となるように、すなわち、サンプリング周波数がfs(=1/te)(Hz)以上となるように作動する。
【0040】
図3に戻って、レプリカ符号発生部36は、移動局10が送信した送信データとしての符号と同一の符号であるレプリカ符号を発生させる。具体的には例えば、レプリカ符号発生部36と、前述の移動局10の送信符号発生部72とで、予め複数の符号データの候補を共有しておき、移動局10と基地局12との通信の冒頭部分(プリアンブル)において移動局10の送信符号発生部72が使用する符号データについての情報を移動局12に伝えることにより、レプリカ符号発生部36は移動局10から送信される電波に含まれる符号データのレプリカ符号を発生することができる。このとき、レプリカ符号発生部36は基地局12が移動局10から送信される符号データを受信する際のチップレート(速度)と同じチップレートによってレプリカ符号を発生する。すなわち、移動局10の送信符号発生部72における符号データを発生する速度や、移動局10から基地局12への無線通信の速度等を考慮して、レプリカ符号発生部36におけるレプリカ符号を発生する速度が定められる。また、レプリカ符号の発生とともに、前記受信符号解析部30において受信符号のデータ変化タイミングが検出される際の精度と同程度の精度によって、そのレプリカ符号のデータ変化タイミングが算出されている。
【0041】
時間ずれ検出部32は、受信部26によって受信された符号データと、レプリカ符号発生部36によって発生された符号データのレプリカ符号とを、これらのいずれか一方を例えば後述するずらし量決定部38により決定される所定のずらし量だけ時間方向にずらして比較し、両者に対応するデータ変化タイミングの時間ずれ、すなわち信号の立ち上がりおよび立ち下がりの生じた時刻の差の絶対値の総和である相関指標値を算出する。具体的には、時間ずれ検出部32はまず、受信部26によって受信された符号データを前記所定のずらし量だけ時間軸の負の方向に、すなわち受信された符号データの各データ変化タイミングを速める方向にずらす。そして当該ずらし量だけずらされた符号データおよびレプリカ符号において対応するデータ変化を、例えばその発生順序によって識別する。例えば、受信部26によって受信された符号データおよびレプリカ符号のそれぞれにおいてn番目に発生したデータの立ち上がりあるいは立ち下がりどうしを、対応するデータ変化であると識別する。そして、対応するとされたそれぞれのデータ変化が発生した時刻の差の絶対値を算出する。これを符号データおよびレプリカ符号の全てのデータ変化について繰り返し、算出された時刻の差の絶対値の総和を前記相関指標値として算出する。受信部26によって受信された符号データとレプリカ符号とは同じ符号データであるので、例えばビットが反転する通信エラーが生じたような場合を除けば、受信された符号データとレプリカ符号とには対応するデータ変化タイミングが存在するようになっている。なお、前記通信エラーが生じた場合の対応については後述する。
【0042】
図6を用いて時間ずれ検出部32の制御作動を説明する。図6においては右向きに時間軸が設けられ、右に向かうほど時間が経過することを示している。また、時間軸の左端は時刻Tstart、すなわち前述の解析実行区間設定部28により設定される受信符号解析部30の実行区間の開始時点を表している。また、図6に示された2つの符号データのうち、上側の符号は、前記レプリカ符号発生部36によって発生されたレプリカ符号の内容を時間軸上に示したものである。また、下側の符号は受信部26によって受信され、前記所定のずらし量だけずらされた符号データを表している。なお、図6においてレプリカ符号及び符号データは何れも1および0、あるいは1および−1のいずれかの組み合わせからなる2値をとるようにされている。
【0043】
時間ずれ検出部32は、レプリカ符号と受信部26によって受信された符号データとにおけるデータ変化タイミングを対応づけ、そしてそれらの発生時刻の差の絶対値である時間ずれを算出する。すなわち図6の例で言えば、受信した符号データにおけるデータ変化タイミングtrx_0とデータ変化タイミングに対応するデータ変化のデータ変化タイミングtrep_0とが対応するとして、その時間ずれをΔt0=|trx_0−trep_0|のように両者の差の絶対値として算出する。同様に、受信した符号データにおけるデータ変化タイミングtrx_1、trx_2、…、trx_Nとデータ変化タイミングに対応するデータ変化のデータ変化タイミングtrep_1、trep_2、…、trep_Nとが対応するとして、その時間ずれをΔt1、Δt2、…、ΔtNを算出する。そして、これらの時間ずれの総和Σを相関指標値として算出する。すなわち、
【数1】

である。なお、後述するずらし量決定部38によってずらし量slが決定される場合においては、時間ずれ検出部32は、このずらし量slだけずらされた符号データとレプリカ符号との間の時間ずれの総和Σを算出する。
【0044】
図3に戻って、時間ずれ検出部32はビットエラー処理部34を有する。前述のように、移動局10と基地局12との間の通信には通信誤りが発生する。移動局10と基地局12との間の通信において1000ビットの通信を行なうごとに1ビットのエラー(ビットの反転)が生ずる場合をBER(Bit Error Rate)=1×10−3と表し、移動局10と基地局12との間には例えば前記BER=1×10−3程度の通信誤りが発生する。図7はこのビットエラーの具体例を説明する図であって、レプリカ符号において存在している1対の立ち上がりおよび立ち下がり(図7中E参照)が、移動局10から基地局12までの通信における通信エラーにより失われ、受信部26において受信された符号データには存在していない(図7中E’参照)状態を表している。
【0045】
このように通信エラーが生じている場合において、前記時間ずれ検出部32によって対応する相関指標値が算出されると、受信部26によって受信された符号データおよびレプリカ符号において対応するものでないデータ変化であるにもかかわらず対応するデータ変化であるとしてその発生した時刻の差が算出され、誤差を生じる場合がありうる。具体的には、図7の例において、レプリカ符号における時刻trep_11およびtrep_12に対応するデータ変化が、通信エラーにより受信部26によって受信された符号データに生じていない場合に、前記時間ずれ検出部32は、実際にはレプリカ符号における時刻trep_13に対応するデータ変化である受信部26によって受信された符号データにおける時刻trx_13を、レプリカ符号における時刻trep_11に対応するデータ変化であるとして、この時刻の差tE(=trx_13−trep_11)の絶対値を算出し、時刻の差の総和である相関指標値に算入してしまう場合がありうる。かかる場合においては、レプリカ符号における時刻trep_11に対応するデータ変化以降のデータ変化についても同様に誤って算出されるため、算出される時間ずれ検出部32によって算出される相関指標値は大きな誤差を含むことになる。
【0046】
そこで、ビットエラー処理部34は、レプリカ符号におけるデータ変化に基づいて、レプリカ符号における各データ変化に対応して受信部26によって受信された符号データのデータ変化の検出を行なうエッジ検出区間を設け、そのエッジ検出区間において受信部26によって受信された符号データのデータ変化が1回検出されたか否かに基づいてビットエラーの発生を検出し、ビットエラーが発生した場合には、そのビットエラーに対応するレプリカ符号におけるデータ変化は時間ずれ検出部32における時間ずれの総和Σの対象としないことにより、ビットエラーによる前記相関指標値への影響を低減する。
【0047】
具体的には、ビットエラー処理部34は、レプリカ符号における符号の先頭から各データ変化trep_iまでの時間piと、受信部26によって受信された符号データの先頭が受信された時刻であって、前記所定のずらし量だけずらされた時刻t0と、所定のエッジ検出区間幅wとに基づいて、エッジ検出区間を設ける。図8はビットエラー処理部34によるエッジ検出区間の設定を説明する図である。図8においては、前述の図6と同様に、レプリカ符号発生部36により発生されるレプリカ符号と、受信部26により受信される符号データとが同一の時間軸上に表されている。レプリカ符号におけるi番目のデータ変化trep_iに着目すると、このとき、ビットエラー処理部34は、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応する受信された符号データにおけるデータ変化を検出するためのエッジ検出区間を、
ts_i≦t≦tf_i
のように決定する。ここで、
ts_i=t0+pi
tf_i=ts_i+w
であり、時間piはレプリカ符号における符号の先頭からi番目のデータ変化が生ずるまでの時間、すなわちtrep_i−trep0である。また、trep0はレプリカ符号の先頭が受信された時刻、t0は符号データの先頭が受信部26において受信された時刻、wはエッジ検出区間の幅であり、例えばサンプリング開始および終了時刻を決定するときに使用するマージンmaおよびmbの合計値が望ましい。
【0048】
そして、ビットエラー処理部34は、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応して設定されたエッジ検出区間において、受信された符号データにデータ変化が1回生じた場合には、そのデータ変化をレプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応する受信された符号データのデータ変化であるとする。図8においては、例えば破線(a)で表されたデータ変化は、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応する受信された符号データのデータ変化であるとされる。一方、エッジ検出区間において、受信された符号データにデータ変化が生じなかった場合や、2つ以上のデータ変化が生じた場合には、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応する受信された符号データのデータ変化は、ビットエラーにより存在しないものとみなす。図8においては、例えば一点鎖線(b)で表されたデータ変化は、エッジ検出区間内にないので、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化に対応する受信された符号データのデータ変化であるとされない。そして、受信された符号データにおいてビットエラーが生じたとされたデータ変化は、時間ずれ検出部32における時間ずれの総和Σの算出の対象とはされない。すなわち、レプリカ符号における先頭からi番目のデータ変化にビットエラーが生じた場合には、時間ずれ検出部32による時間ずれの総和Σの算出においては、1番目からi−1番目まで、およびi+1番目からN+1番目までのデータ変化に対応する時間ずれΔtの総和として算出される。
【0049】
このようにしてビットエラー処理部34によりビットエラーの発生を考慮してレプリカ符号におけるデータ変化と受信された符号データにおけるデータ変化とが対応づけられた後、時間ずれ検出部32は、相互に関連づけられた受信部26によって受信された符号データにおけるデータ変化と、対応するレプリカ符号のデータ変化とのそれぞれの発生時刻の差の絶対値を算出し、それらの総和である相関指標値Σを算出する。
【0050】
図3に戻って、ずらし量決定部38は、前記時間ずれ検出部32においてレプリカ符号と受信された符号データとを比較する際におけるいずれか一方のずらし量を決定する。具体的には例えば、前述のように、時間ずれ検出部32により、ずらし量slだけずらされた受信された符号データとレプリカ符号との対応するデータ変化タイミングの差の絶対値Δtiの総和が相関指標値Σとして算出される場合において、ずらし量決定部38は、ずらし量slの初期値を0とし、時間ずれ検出部32による相関指標値が最初に算出され、その後時間ずれ検出部により相関指標値が算出されるごとに、所定量aだけずらし量を増加させる。すなわち、時間ずれ検出部32による相関指標値の算出と、ずらし量決定部38によるずらし量slの所定量aだけ増加とが繰り返し行なわれる。例えばn回目における時間ずれ検出部32による相関指標値の算出は、ずらし量sl=a×(n−1)とされて行なわれる。
【0051】
図9は、この時のずらし量決定部38によるずらし量slの決定と、決定されたずらし量だけずらされた符号データとレプリカ符号との時間ずれ検出部32によるデータ変化タイミングの差の絶対値Δtiの変化の様子を説明する図である。図9には上から順に、レプリカ符号発生部36によって発生されるレプリカ符号、受信部26によって受信される符号データ、ずらし量決定部38によって決定されたずらし量sl=sl1だけ時間軸負方向にずらされた前記符号データ、ずらし量決定部38によって決定されたずらし量sl=sl2(>sl1)だけ時間軸負方向にずらされた前記符号データ、およびずらし量決定部38によって決定されたずらし量sl=sl3(>sl2)だけ時間軸負方向にずらされた前記符号データがそれぞれ同一の時間軸と共に表されている。なお、本図9においては各符号についての冒頭部のみ、すなわち3つ目のデータ変化までが記載されている。
【0052】
図9に示す様に、ずらし量slの大きさが大きくされるのに伴って、受信した符号データは時間軸の負方向、すなわち図9においては左側に移動する。そして、レプリカ符号および受信した符号データに対応する各データ変化タイミング、すなわちtrep_iおよびtrx_iの差の絶対値の値Δti(i=0,1,…,N−1)は、ずらし量slが零の状態から順次大きくされるのに伴って徐々に減少し(sl=0〜sl2)、レプリカ符号と受信した符号データとが一致するずらし量sl=sl2となるときに最小値Δti=0となる。一方、さらにずらし量が大きくされると(sl=sl2〜sl3)、各データ変化タイミングの差の絶対値の値Δtiの値は徐々に増加する。なお、図9において各変数の符号に続けて括弧が設けられた変数は、その括弧内に記されたずらし量slにおける変数の値を表している。例えばtrx_0(sl1)は、ずらし量sl=sl1である場合、すなわち時間軸負方向にsl1だけずらされた受信した符号データの最初のデータ変化タイミングの値を表している。図9においては、後述するジッタの発生がなく、受信した符号データとレプリカ符号とは同一の時間変化をするものとしている。
【0053】
ここで、前記ずらし量の所定の増加量であるaは、例えば、受信符号解析部30における受信された符号データのデータ変化タイミングの検出における分解能に基づいて決定される。具体的には例えば、前記ずらし量の所定の増加量であるaは、受信された符号データのデータ変化タイミングの検出における分解能(サンプリング周期)と同一の値が用いられる。
【0054】
図10は、時間ずれ検出部32による相関指標値の算出と、ずらし量決定部38によるずらし量slの所定量aだけ増加とを繰り返し行なった場合における、時間ずれ検出部32により算出される相関指標値Σと、時間ずれ検出部32の繰り返し回数との関係を表した図である。図10に示すように、相関指標値Σは当初繰り返しに伴って減少し続けるが、最小値を迎えた後は増加する。相関指標値Σが最小値となる繰り返し回数におけるずらし量slの値は、前述した図9におけるずらし量sl=sl2に対応する。なお、ずらし量slが前記所定の増加量aずつ増加させられる場合であって、ずらし量slがsl2に一致することがない場合は、ずらし量slがsl2に最も近くなる場合に対応する。
【0055】
図3に戻って受信時刻算出部44は、例えば前記図9に示した相関指標値Σの値Σと繰り返し数との関係に基づいて、移動局10からの電波の受信時刻を算出する。具体的にはまず、相関指標値Σの値が最小となった繰り返し数を算出する。例えば、時間ずれ検出部32において相関指標値Σをずらし量slを前記所定量aだけ増加させる毎に繰り返し算出する場合において、繰り返し毎に減少していた相関指標値Σの値が、ある繰り返し回数it_min+1において前回の値に比べて増加した場合、その前回である回数it_minが最小となった繰り返し回数とする。そして、相関指標値Σを最小とする繰り返し回数it_minとして時間ずれ検出部32による相関指標値Σの算出を行なった際の時刻を受信された符号データとレプリカ符号との同期時刻であるとして算出し、これを移動局10からの電波の受信時刻とする。なお、移動局10と基地局12との通信において符号データの各チップの長さが変化することなく移動局10から基地局12に到達すれば、受信された符号データとレプリカ符号とはその時間変化が一致するので、前記相関指標値Σの最小値は零となる。例えば、前述の図6に示したように、1回めの時間ずれ検出部32の実行時(繰り返し数n=0)、すなわちずらし量sl=0に対応する時刻は受信符号解析部30の実行区間の開始時点であるTstartであるので、相関指標値Σが最小となった際の繰り返し数n=it_min(図10参照)に対応するずらし量sl=a×it_minおよび符号データの受信に要する時間Ts(図5、図6参照)を、前記受信符号解析部30の実行区間の開始時点であるTstartに加えることによって、
tack=Tstart+Ts+a×it_min …(2)
のように、受信された符号データとレプリカ符号との同期時刻tackを算出する。なお、ここで、aは前記所定のずらし量の増加量であり、例えば受信符号解析部30におけるサンプリング周期te、すなわち受信符号解析部30の動作周波数fsを用いて1/fsと等しい値である。
【0056】
基地局12とサーバ14はLAN(local area network)により通信可能とされている。このときLANが有線であれば通信ケーブル18によって基地局12はサーバ14と接続される。基地局12の受信時刻算出部44によって算出される電波の受信時刻としての同期時刻や、移動局10から送信される電波に含まれる送信時刻についての情報が基地局12からサーバ14に送信されるほか、サーバ14からは、基地局12は移動局10の作動に関する指令などが送信される。
【0057】
時計46は、時刻を計測するものであって、例えば解析実行区間設定部28、受信符号解析部30、時間ずれ検出部32、ずらし量決定部38、などの作動において時刻が参照される。ここで、各基地局12の時計46の時刻は既知の方法により同期させられている。
【0058】
なお、図3において、ずらし量予測部40は後述する別の実施例で用いるものであって、本実施例の基地局12においては必要とされない。
【0059】
図4は、サーバ14の有する機能の概要を説明するブロック図である。サーバ14は有線通信インタフェース82、測位部86などを有している。また、サーバ14は、前述のようにCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂コンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、図4に示す測位部86などにおける処理を実行するようになっている。
【0060】
通信インタフェース82は、サーバ14と基地局12との例えばLANによる情報通信を行なうためのインタフェースである。この通信インタフェース82は、例えばサーバ14から基地局12に対し、基地局12の制御作動に関する指令を行なったり、あるいは移動局10の制御作動に関する指令を基地局12を介して行なわせたりする。また、有線通信インタフェース82は、基地局12から送信される情報、例えば基地局12における電波の受信時刻に関する情報や、移動局10からの電波に含まれる移動局10における電波の送信時刻に関する情報などが受信される。
【0061】
測位部86は、予め既知である各基地局12の位置に関する情報と、各基地局12の受信時刻算出部44において算出された移動局10からの電波の受信時刻とに基づいて、移動局10の位置を算出する。具体的には例えば、第1基地局12Aの位置を表す座標が(x,y)、第2基地局12Bの座標が(x,y)、第3基地局12Cの座標が(x,y)、第4基地局12Dの座標が(x,y)であり、第1基地局12Aと移動局10との距離がr、第2基地局12Bと移動局10との距離がr、第3基地局12Cと移動局10との距離がr、第4基地局12Dと移動局10との距離がrである場合において、移動局10の位置を表す座標を(x,y)とすると、第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12C、第4基地局12Dおよび移動局10の位置の関係は図11に示す様になる。すなわち、移動局10は第1基地局12Aの位置を中心とする半径rの円と、第2基地局12Bの位置を中心とする半径rの円と、第3基地局12Cの位置を中心とする半径rの円と、第4基地局12Dの位置を中心とする半径rの円との交点に位置する。従ってこれらの関係は次式(3)で表される。
【数2】

ここで、移動局10と各基地局12との距離r(i=1〜4)は、移動局10と基地局12との間の電波の伝搬時間に電波の速度c(=2.997×10(m/s))を乗ずることによって得られる。移動局10における電波の送信時刻をttとし、移動局10の時計70の時刻と各基地局12の時計46の時刻とのずれをsとし、各基地局12の受信時刻算出部44において、第1基地局12Aにおける移動局10からの電波の受信時刻がtack、第2基地局12Bにおける移動局10からの電波の受信時刻がtack、第3基地局12Cにおける移動局10からの電波の受信時刻がtack、第4基地局12Dにおける移動局10からの電波の受信時刻がtackである場合において、前記式(3)は、次式(4)のように書き表される。
【数3】

なお、前記時刻のずれsは、各基地局12の時計46の時刻に対する移動局10の時計70の時刻の進みとして定義される。また、前述の様に各基地局12の時計46はその時刻が同期されているので、前記時刻のずれsは各基地局12に共通である。すなわち、前記式(4)の右辺における(tack−tt−s)(i=1〜4)は、移動局10が送信した電波が各基地局12へ到達するまでの伝搬時間を表している。
【0062】
ここで、前記式(4)の各式の平方根をとり、得られた第2式の両辺から第1式の両辺を、第3式の両辺から第1式の両辺を、第4式の両辺から第1式の両辺をそれぞれ減ずると、次式(5)が得られる。
【数4】

この式(5)を解いて得られる解(x,y)を移動局10の位置とする。なお、この式(5)は前記式(4)と比べて、移動局10における電波の送信時刻tt、移動局10の時計70の時刻と各基地局12の時計46の時刻とのずれをsを有していないので、移動局10の位置の算出に際して、これらの情報を測定する必要がない。
【0063】
図12は、本発明の移動局測位システム8の制御作動の一例を説明するフローチャートである。まず、各基地局12の時計46の時刻の同期が行なわれる。この時刻の同期は、例えば次の様に行なわれる。まず、いずれか1の基地局から他の基地局に対して所定の時刻に電波の送信が行なわれ、他の基地局は送信された電波を受信する。そして電波の送信時刻に対応する前記所定の時刻と電波の受信時刻とに基づいて電波の伝搬時間の実測値を算出する。一方、各基地局12の位置は予め既知とされているので、前記電波を送信する1の基地局と前記電波を受信する他の基地局のそれぞれとの距離も予め既知とされている。そこで、前記他の基地局のそれぞれは、前記電波を送信する1の基地局との距離と電波の速度cに基づいて、その電波を送信する1の基地局から送信された電波の自局への伝搬時間の理論値を算出する。前記電波を受信する他の基地局のそれぞれにおいては、前記伝搬時間の実測値と前記伝搬時間の理論値を比較し、自局の時計46の時刻を前記伝搬時間の実測値が前記伝搬時間の理論値となる様に補正する。この様にすれば、各基地局12の時計46の時刻を、全て前記電波を送信する1の基地局の時計46の時刻と同期することができる。
【0064】
移動局10の送信部74などに対応するSA2においては、移動局10から各基地局12に対して測位のための電波が送信される。この電波には、受信時刻の検出に用いられる符号データよりも所定時間だけ前に送信される予告符号と、符号データ、および電波の送信時刻に関する情報が含まれる。
【0065】
各基地局12の受信部26などに対応するSA3においては、SA2において移動局10から送信された測位のための電波に含まれる予告符号が受信される。また、各基地局の解析実行区間設定部28に対応するSA4においては、SA3において予告符号を受信したことに基づいて、予告符号よりも所定時間だけ後に送信される符号データを高精度で解析し、符号データにおけるデータの立ち上がりおよび立ち下がりが生じた時刻であるデータ変化タイミングを計測するSA6を実行する時間区間を決定する。この時間区間は、例えば、予告符号の送信と符号データの送信との間に設けられた間隔と、ジッタなどを考慮するためのマージンmaおよびmbによって決定される。
【0066】
レプリカ符号発生部36に対応するSA5においては、SA2において移動局10から送信された電波に含まれる符号データと同一の符号であるレプリカ符号が生成され、さらに、生成されたレプリカ符号におけるデータの立ち上がりおよび立ち下がりが生じた時刻であるデータ変化タイミングを解析するレプリカ符号解析ルーチンが実行される。
【0067】
図13はこのレプリカ符号解析ルーチンの一例を説明するフローチャートである。まずSB1においては、時刻をカウントするカウンタが、所定のクロック速度fpn(Hz)において動作を開始させられる。続いて、SB2において、SB1で動作を開始したカウンタの値が零とされる。すなわち、レプリカ符号の先頭の時点trep0がカウンタの内容が零となるようにされる。また、データ変化の発生順序を表す変数iが0にされる。さらにSB3においてレプリカ符号の解析が開始される。具体的には、拡散符号のチップレートと同じ速度で発生させられる。
【0068】
SB4においては、レプリカ符号の解析が1符号周期分だけ行なわれたか否かが判断される。レプリカ符号の解析が1符号周期分だけおこなわれた場合には、本ステップの判断が肯定され、SB7が実行される。一方、レプリカ符号の解析が1符号周期分終了していない場合には、本ステップの判断が否定され、引き続きレプリカ符号の解析が行なわれる。
【0069】
SB5においては、レプリカ符号における信号の立ち上がりあるいは立ち下がり、すなわちデータ変化が生じたか否かが判断される。データ変化が生じた場合には本ステップの判断が肯定され、SB6が実行される。一方データ変化が生じなかった場合には、SB4に戻る。
【0070】
SB6においては、SB5においてデータ変化が生じたとされた際のカウンタ出力の値がそのデータ変化の順番iに基づいて配列trep_temp[i]に記憶される。そして、SB7においては、次に発生するデータ変化に備え、データ変化の発生の順番を表す変数iが繰上られ、i=i+1とされる。
【0071】
一方、SB4の判断が肯定された場合、すなわち、レプリカ符号の解析が1符号周期分だけ実行された場合に実行されるSB8においては、SB6においてデータ変化の発生の順番にその発生時のカウンタの値が保存された配列trep_temp[i]が、後述するSA6における受信した符号データの解析におけるクロック周波数fsを基準としたカウンタの値に換算されて、配列trep[i]として保存される。具体的には
trep[i]=trep_tmp[i]×fs/fpn
のように変換される。この配列trep[i]の内容がレプリカ符号のデータ変化タイミングtrep_iに対応する。
【0072】
図12に戻って、受信符号解析部30に対応するSA6においては、移動局10から送信される電波に含まれる符号データが受信され、その符号データにおけるデータの立ち上がりおよび立ち下がりが生じた時刻であるデータ変化タイミングを検出する受信符号解析ルーチンが実行される。
【0073】
図14は、この受信符号解析ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。まずSC1においては、時刻をカウントするカウンタが、所定のクロック速度fs(Hz)において動作を開始させられる。このクロック速度fsは、前述のように、たとえば測位システム8に要求される測位精度に基づいて決定される値である。続くSC2においては、SA4において設定された受信符号解析部の実行区間の開始時刻Tstartとなったか否かが判断される。そして、時刻tがTstartとなった場合には本ステップの判断が肯定され、続くSC3以降が実行される。一方時刻tがTstartより前である場合には、本ステップの判断が否定され、SC2が反復される。すなわち、本ステップSC2においては、時刻tがTstartとなるのが待機される。
【0074】
続いて、SC3において、SC1で動作を開始したカウンタの値が零とされる。すなわち、レプリカ符号の先頭の時点がカウンタの内容が零となるようにされる。また、データ変化の発生順序を表す変数jが0にされる。
【0075】
SC4においては、時刻tがSA4において設定された受信符号解析部の実行区間の終了時刻Tendとなったか否かが判断される。そして、時刻tがTendとなった場合には、本ルーチンを実行する時間区間が終了したとして、本ステップの判断が肯定され本フローチャートは終了する。一方時刻tがTendより前である場合には、本ルーチンを引き続き実行すべく本ステップの判断が否定され、SC5以降が実行される。
【0076】
SC5においては、受信された符号データにおける信号の立ち上がりあるいは立ち下がり、すなわちデータ変化が生じたか否かが判断される。データ変化が生じた場合には本ステップの判断が肯定され、SC6が実行される。一方データ変化が生じなかった場合には、SC4に戻る。
【0077】
SC6においては、SC5においてデータ変化が生じたとされた際のカウンタ出力の値がそのデータ変化の順番jに基づいて配列trx[j]に記憶される。この配列trx[j]の内容が、受信された符号データのデータ変化タイミングtrx_jに対応する。そして、SC7においては、次に発生するデータ変化に備え、データ変化の発生の順番を表す変数jが繰り上げられ、j=j+1とされる。
【0078】
図12に戻って、時間ずれ検出部32、ずらし量決定部38、および受信時刻算出部44などに対応するSA7においては、SA5およびSA6においてそれぞれ得られた、レプリカ符号におけるデータ変化タイミングが記憶された配列trep[i]、および受信された符号データのデータ変化タイミングが記憶された配列trx[j]に基づいて、相関指標値Σが算出され、算出された相関指標値Σに基づいてレプリカ符号と受信された符号データとの同期が検出され、その同期時刻tackが移動局10からの電波の受信時刻として算出される受信時刻算出ルーチンが実行される。具体的には、所定の変化をさせられるずらし量slに対し、ずらし量slが変化するごとにそのずらし量slだけ時間軸の負方向にずらされた受信した符号データ、およびレプリカ符号について相関指標値Σが算出され、相関指標値Σが最小となった際のずらし量slに基づいて同期時刻tackが算出される。すなわち、相関指標値Σが最小となったことがレプリカ符号と受信された符号データとが同期したものとして、相関指標値Σが最小となった際のずらし量slに基づいて、その時刻が同期時刻として算出される。
【0079】
図15は、この受信時刻算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。まず、SD1においては、相関指標値Σの算出の反復回数nおよびずらし量slの値を表す変数が零に(リセット)される。続くSD2においては、変数prev_valにレプリカ符号および受信した符号データに対応するデータ変化のデータ変化タイミングの差の絶対値の総和Σのとり得る最大値Σmaxが記憶される。変数prev_valは総和Σが繰り返し算出される場合において、前回算出時のΣの値を記憶する変数であるが、初回実行時においては前回算出時のΣの値が存在しないため、SD6の判断が否定されるための適当な値として例えば、SA4において受信符号解析部の実行区間を決定するのに用いられたマージンmaおよびmbの値の合計ma+mbがΣmaxとして記憶される。具体的には例えば、マージンmaおよびmbがそれぞれ1/2チップ(chip)に相当する時間として予め設定される場合には、Σmaxは1チップに相当する時間とされる。
【0080】
時間ずれ検出部32に対応するSD3においては、ずらし量slだけ時間軸の負方向にずらされた受信した符号データ、およびレプリカ符号に対する相関指標値Σの値を算出する時間ずれ算出ルーチンが実行される。
【0081】
図16は、この時間ずれ算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。まず、SE1においては、レプリカ符号におけるデータ変化の発生順序を表す変数i、受信された符号データにおけるデータ変化の発生順序を表す変数j、および相関指標値Σを表すカウンタが零と(リセット)される。なお、図16の時間ずれ算出ルーチンにおいては、受信された符号データとは、図15のSD1もしくはSD8において設定されたずらし量slだけ時間軸の負方向にずらされた符号データを意味している。
【0082】
ビットエラー処理部34に対応するSE2においては、レプリカ符号におけるi番目のデータ変化に対応して設けられるエッジ検出区間ts_i≦t≦tf_iに、受信された符号データのデータ変化が1つ存在するか否かが判断される。そして、前記エッジ検出区間に、受信された符号データにおけるj番目のデータ変化が1つだけ存在する場合、すなわち受信された符号データのj番目のデータ変化タイミングtrx_jが、ts_i≦trx_j≦tf_iである場合には、本ステップの判断が肯定され、受信された符号データにおけるj番目のデータ変化と、レプリカ符号におけるi番目のデータ変化とが対応するものであるとして、それらの時刻の差を算出すべくSE3が実行される。一方、前記条件が満たされない場合、すなわち、エッジ検出区間ts_i≦t≦tf_iにおいて、受信された符号データのデータ変化が1つもない、もしくは2以上の複数個が存在する場合には、本ステップの判断が否定される。すなわち、レプリカ符号におけるi番目のデータ変化については、受信された符号データとの時間ずれの算出の対象としないものとして、SE5以降が実行される。
【0083】
時間ずれ検出部32に対応するSE3においては、SE2において対応づけられた受信された符号データにおけるj番目のデータ変化と、レプリカ符号におけるi番目のデータ変化とのそれぞれの発生時刻の差の絶対値Δtiの値が、変数Σに加算される。この変数Σが受信された符号データにおけるデータ変化および対応するレプリカ符号におけるデータ変化のそれぞれの発生時刻の差の絶対値の総和である相関指標値Σに対応する。
【0084】
SE4においては、受信された符号データにおける次のデータ変化について着目すべく、変数jの値に1が加算される。
【0085】
SE5においては、レプリカ符号における次のデータ変化について着目すべく変数iの値に1が加算される。
【0086】
SE6においては、変数iの値が、レプリカ符号におけるデータ変化の総数であるNを上回ったか否か、すなわち、全てのレプリカ符号におけるデータ変化についてSE2の判断の対象とされたか否かが判断される。i>N、すなわち全てのレプリカ符号におけるデータ変化についてSE2の判断の対象とされた場合には、本ステップの判断が肯定され、本フローチャートは終了する。一方、i≦N、すなわち全てのレプリカ符号におけるデータ変化についてまだSE2の判断の対象とされていない場合には、本ステップの判断が否定され、SE2以降が繰り返される。
【0087】
図15に戻って、SD4においては、SD3で算出された相関指標値Σの値が今回算出した相関指標値Σを表す変数now_valに記憶される。SD5においては、変数now_valの値と変数prev_valの値とが比較される。すなわち、SD3による相関指標値Σの算出が反復して行なわれる場合において、今回実行時における相関指標値Σの値が前回実行時における相関指標値Σよりも大きいか否かが判断される。そして、変数now_valの値が変数prev_valの値よりも大きい場合には、前回実行時の相関指標値Σが最小であったとして、本ステップの判断が肯定され、SD9以降が実行される。一方、変数now_valの値が変数prev_valの値よりも小さいあるいは両者が等しい場合には、未だ相関指標値Σの最小値を検出していないとして、本ステップの判断が否定され、SD6が実行される。
【0088】
SD6乃至SD8においては、繰り返しSD3における再度の相関指標値Σの算出を行なうための準備が行なわれる。まず、SD6においては、SD4において今回の相関指標値Σを表す変数now_valに記憶されていた値が1つ前における相関指標値Σを表す変数prev_valに記憶される。また、SD7においては反復実行回数を表すカウンタnに1が加算される。さらに、ずらし量決定部38に対応するSD8においては、SD7において1が加算されたカウンタの値に基づいて、ずらし量slがsl=a×nのように決定される。これらSD6乃至SD8の作動が行なわれた後、繰り返しとなるSD3の作動が行なわれる。
【0089】
一方、前記SD5の判断が肯定された場合、すなわち、総和Σの値の最小値が検出された場合に実行されるステップであるSD9においては、総和Σの算出の繰り返し回数を表す変数nの内容を変数it_minに記憶する。そして、受信時刻算出部44に対応するSD10においては、SD9において記憶された総和Σが最小となった際の繰り返し回数n=it_minと、ずらし量a、SA6の実行開始時刻であるTstart、SA6の実行に要する時間Tsとに基づいて、前記式(2)すなわち、
tack=Tstart+Ts+a×it_min
のように、同期時刻を算出し、これを受信時刻とする。
【0090】
図12に戻って、各基地局12の通信インタフェース52およびサーバ14の通信インタフェース82などに対応するSA8においては、SA7において算出された移動局10から送信された符号データの受信時刻についての情報が各基地局12からサーバ14に送信される。
【0091】
測位部86に対応するSA9においては、SA7において算出された各基地局12における移動局10からの電波の受信時刻としての同期時刻tackと、予め既知とされた各基地局12の位置に関する情報とに基づいて、移動局10の位置が算出される。具体的には例えば、図11に表す関係である場合において、前記式(5)を解くことによって移動局10の位置が解(x,y)として算出される。
【0092】
前述の実施例にかかる移動局12によれば、受信符号解析部30により、受信部26により受信した符号データにおけるデータ変化タイミングが測定され、解析実行区間設定部28により所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の受信部26による受信に基づいて受信符号解析部30が時刻の測定を実行する区間が決定され、時間ずれ検出部32により、受信符号解析部30によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されレプリカ符号発生部36により発生されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のいずれか一方を所定のずらし量slだけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値Σが算出され、ずらし量決定部38により、ずらし量slが受信符号解析部30における分解能に基づいて決定され、受信時刻算出部44により、時間ずれ検出部32によって算出される相関指標値Σが最小となる際のずらし量slに基づいて受信時刻が算出されるので、例えばマッチドフィルタなどを用いた相関値の算出のような複雑な計算を必要とすることなく受信時刻を精度よく検出することができる。
【0093】
また、前述の実施例にかかる移動局測位システム8によれば、移動局10から送信される電波について、基地局12の受信符号解析部30により、受信部26により受信した符号データにおけるデータ変化タイミングが測定され、解析実行区間設定部28により所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の受信部28による受信に基づいて受信符号解析部30を実行する区間が決定され、時間ずれ検出部32により、受信符号解析部30によって測定されたデータ変化タイミングとレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のいずれか一方をずらし量slだけずらして比較し、相関指標値Σが算出され、ずらし量決定部38により、ずらし量slが受信符号解析部30における分解能に基づいて決定され、受信時刻算出部44により、時間ずれ検出部32によって算出される相関指標値Σが最小となる際のずらし量slに基づいて受信時刻が算出されるので、基地局12において例えばマッチドフィルタなどを用いた相関値の算出のような複雑な計算を必要とすることなく受信時刻を精度よく検出することができる、また、測位部86において、受信時刻算出部44において算出される移動局10から送信された電波の各基地局12における受信時刻と、各基地局12の位置に関する情報とに基づいて移動局10の位置が算出されるので、前記精度よく算出された受信時刻に基づいて精度のよい移動局10の位置の算出を行なうことができる。
【0094】
また、前述の実施例にかかる基地局12あるい移動局測位システムによれば、受信時刻算出部44によって、時間ずれ検出部32を反復実行することにより相関指標値Σの最小が検出され、ずらし量決定部38により、時間ずれ検出部32の実行回数に基づいてずらし量slが決定されるので、基地局12において受信した電波の受信時刻が算出される度にずらし量slが決定され、受信時刻の検出精度を向上させることができる。
【0095】
また、前述の実施例にかかる基地局12あるいは移動局測位システム8によれば、時間ずれ検出部32により、レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間であるエッジ検出区間において受信符号解析部30によって測定された符号データにデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないので、移動局10と基地局12との通信にビットエラーが生じる場合においても、その影響を抑制することができる。
【0096】
なお、前述の実施例においては、前記時間ずれ算出部32による相関指標値Σの算出とずらし量決定部38によるずらし量slの変更とが反復して実行され、相関指標値Σの最小値が検出された。しかしながら、相関指標値Σの最小値の検出には前記時間ずれ算出部32による相関指標値Σの算出とずらし量決定部38によるずらし量slの変更との反復実行が必須ではない。
【0097】
また、前述の実施例においては、ビットエラー処理部34が設けられ、ビットエラーが生じた場合の受信された符号データにおけるデータ変化タイミングとレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを対応づけたが、このビットエラー処理部34がない場合であっても一定の効果を得ることができる。
【0098】
続いて、本発明の別の実施例について説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0099】
前述の実施例1においては、時間ずれ検出部32による相関指標値Σの算出においては、受信された符号データはずらし量決定部38によって決定されるずらし量slだけ時間軸の負方向にずらされたものが用いられた。そして、ずらし量決定部38は、時間ずれ検出部32が相関指標値Σを計算するごとにずらし量slを所定量aだけ増加させることにより、時間ずれ検出部32による相関指標値Σの算出とずらし量決定部38によるずらし量slの変更とが交互に繰り返された。このときのずらし量slの変化と総和Σの値との関係を示したのが図9である。この図9において、ずらし量slの値と総和Σの値との関係が直線で示されるように、ずらし量slを増加に比例して、総和Σの値は減少している。これは、総和Σが前述の(1)で示すものであるところ、ずらし量slが1回、すなわちaだけ変更(増加)されることによって受信された符号データのデータ変化タイミングは、
trx_i(sl=a×(n+1))=trx_i(sl=a×n)+a
のようにaだけ時間経過方向に移動する(図6参照)。ここで、trx_i(sl=q)は、ずらし量slの値がqであるときの受信された符号データにおけるi番目のデータ変化タイミング、すなわち受信された符号データのi番目のデータ変化タイミングが時間軸負方向にqだけずらされた時刻である。また、レプリカ符号における(N+1)個の全てのデータ変化タイミングについて同様であるので、総和Σの値はずらし量slが1回、すなわちaだけ変更(増加)されることによって、次式(6)で表されるように、a×(N+1)だけ減少する。
【数5】

ここで、Σ(sl=q)は、ずらし量slの値がqであるときの相関指標値Σである。
【0100】
従って、最初に、すなわちずらし量sl=0において時間ずれ検出部32による相関指標値Σ(=Σ0)の値の算出が行なわれると、前述のように相関指標値Σの最小値は零となるので、その相関指標値Σ0と、前記ずらし量slの1回あたりの増加量a、およびレプリカ符号におけるデータ変化の数(N+1)とに基づいて、総和Σが最小となるずらし量sl、あるいは時間ずれ検出部32の繰り返し実行数nを予測することが可能である。
【0101】
ところで、相関指標値Σの値は前記(1)で表されるところ、受信された符号データにジッタが存在しない場合には、受信された符号データにおける符号データの先頭から各データ変化までの時間は、レプリカ符号における符号データの先頭から各データ変化までの時間と同じである。そのため、レプリカ符号におけるデータ変化タイミングと対応する受信された符号データにおけるデータ変化タイミングの差は全て等しい。例えば、図6においてΔt0=Δt1=Δt2=…=Δtnである。そのため、前記相関指標値Σは、例えばレプリカ符号における先頭から1番目のデータ変化について、そのデータ変化タイミングと対応する受信された符号データにおけるデータ変化タイミングとの差の絶対値Δt0=|trx_0−trep_0|を算出し、このΔt0をデータ変化の個数(N+1)倍した値であるといえる。すなわち、
Σ=Δt0×(N+1)=(|trx_0−trep_0|)×(N+1) …(7)
である。
【0102】
このように相関指標値Σが表される場合であっても、前述の場合と同様に相関指標値Σが最小となるずらし量slあるいは時間ずれ検出部32の繰り返し実行数を予測することが可能である。すなわち、ずらし量slが1回、すなわちaだけ変更(増加)されることによってレプリカ符号における先頭から1番目のデータ変化タイミングは、次式(8)のように変化する。
trx_0(sl=a×(n+1))=trx_0(sl=a×n)−a …(8)
ここでtrx_i(sl=q)は、ずらし量slの値がqであるときの受信された符号データi番目のデータ変化タイミングである。また、レプリカ符号における(N+1)個の全てのデータ変化タイミングについて同様であるので、相関指標値Σの値はずらし量slが1回、すなわちaだけ変更(増加)されることによって、次式(9)のように、a(N+1)だけ減少する。
Σ(sl=a×(n+1))=(|trx_0(sl=a×(n+1))−trep_0|)×(N+1)
=(|(trx_0(sl=a×n)−a)−trep_0|)×(N+1)
=(|trx_0(sl=a×n)−trep_0|−a)×(N+1)
=(Σ(sl=a×(n+1))−a)×(N+1)

=(Σ(sl=0)−a×(n+1))×(N−1) …(9)
ここで、Σ(sl=q)は、ずらし量slの値がqであるときの総和Σである。
【0103】
すなわち、相関指標値Σが、前述のようにレプリカ符号における先頭から1番目のデータ変化のデータ変化タイミングと対応する受信された符号データにおけるデータ変化タイミングとの差の絶対値Δt0のデータ変化の個数(N+1)倍した値として表される場合であっても、ずらし量sl=0における相関指標値Σ(=Σ0)と、前記ずらし量slの1回あたりの増加量a、およびレプリカ符号におけるデータ変化の数(N+1)とに基づいて、相関指標値Σが最小となるずらし量sl、あるいは時間ずれ検出部32の繰り返し実行数nを予測することが可能である。
【0104】
そこで、本実施例においては、図3に示す基地局12は前述の構成に加えてずらし量予測部40を有する。このずらし量予測部40は、前述のように、ずらし量sl=0において時間ずれ検出部32による相関指標値Σ0の値と、前記ずらし量slの1回あたりの増加量a、およびレプリカ符号におけるデータ変化の数(N+1)とに基づいて、総和Σが最小となるずらし量sl、あるいは時間ずれ検出部32の繰り返し実行数it_min_p(回)を予測する。具体的には、Σ(sl=a×n)の値が0あるいは最初に負となると予測されるnの値がit_min_pである。そして、予測された相関指標値Σが最小となる繰り返し実行数nよりも所定回数iternum(回)だけ前に少ないit_min_p−iternum(=iskip)回目から、時間ずれ検出部32による相関指標値Σの算出を行なう。所定回数iternumは、例えば10(回)のように定められるものであって、受信された符号データにおける後述するジッタ等の通信誤差や、移動局10および基地局12のそれぞれが有する時計70および時計46のクロック誤差などによる誤差により、相関指標値Σが最小となると予測された時間ずれ検出部32の繰り返し実行回数it_min_p(回)と実際に相関指標値Σが最小となる繰り返し実行回数it_minとが異なった場合、特に予測された回数よりも実際の回数が少ない場合であっても、実際に相関指標値Σが最小となる時間ずれ検出部32の繰り返し実行回数を検出することができるように設けられる値である。このようにすれば、時間ずれ検出部32の繰り返しの実行のうち、2回目から(iskip−1)回目までの実行を省略することができる。なお、図3において、ジッタ処理部42は後述する別の実施例において用いるものであり、説明は後述する。
【0105】
図17は、本実施例における受信時刻算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。図17のフローチャートは前述の実施例1の図15に対応するものであって、図12のフローチャートのSA7において実行される受信時刻算出ルーチンに対応するものである。まず、SF1においては、反復回数nおよびずらし量slの値を表す変数が零(リセット)される。続くSF2においては、変数prev_valにレプリカ符号および受信した符号データに対応するデータ変化のデータ変化タイミングの差の絶対値の相関指標値Σのとり得る最大値Σmaxが記憶される。変数prev_valは相関指標値Σが繰り返し算出される場合において、前回算出時の相関指標値Σの値を記憶する変数であるが、初回実行時においては前回算出時の相関指標値Σの値が存在しないため、SF7の判断が否定される値として適当な値の一例としてΣmaxが記憶される。このΣmaxは前述の実施例1におけるSD2と同様にして行なわれる。
【0106】
ずらし量予測部40に対応するSF3においては、相関指標値Σの値が最小となるずらし量slを予測し、その最小となるずらし量slよりも所定回数だけ前の繰り返し回数nを予測するためのずらし量予測ルーチンが実行される。図18はこのずらし量予測ルーチンの制御作動の一例を説明するものである。まず、SG1においては、総和Σの値が最小となるずらし量slの値sl_min_pおよびそのずらし量sl_min_pに対応する繰り返し数it_min_pが予測され、その予測された繰り返し数it_min_pに基づいて時間ずれ検出部32の次回実行時における繰り返し数がiskip=it_min_p−iternumのように決定される。ここで、変数iternumは、予測される相関指標値Σの値が最小となる際の繰り返し数よりもどれくらい手前から時間ずれ検出部32の実行を行なうかを決定する変数であり、予め、例えば10回、のように定められる。
【0107】
SG2においては、図17のフローチャートにおいて反復回数を表す変数nにSG1において算出された次回実行時における時間ずれ検出部32の繰り返し数iskipの値が記憶される。続くSH3においては、SH1で決定された繰り返し数iskipとなるように、具体的にはずらし量slがsl=a×(iskip−1)となるように設定される。
【0108】
続くSF4乃至SF11は、前述の図15のSD3乃至SD10に対応するものであって、各ステップにおける作動は同様であるので、詳細な説明は省略する。すなわち、SF3において決定された繰り返し回数iskipに対応するずらし量slから相関指標値Σの算出が行なわれ、相関指標値Σが実際に最小となった際の繰り返し数nに基づいて受信された符号の受信時刻が算出される。
【0109】
前述の実施例によれば、前記ずらし量予測部40(SF3)によって、前記時間ずれ検出部32の初回の実行結果Σ(sl=0)に基づいて前記時間ずれの絶対値の相関指標値Σが最小となる際のずらし量slおよび反復回数n(=iskip)が予測され、該予測されたずらし量slに基づいて次回実行時における前記ずらし量slが決定されるので、前記時間ずれ検出部32(SF4)の反復実行に要する時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0110】
前述の実施例においては、ジッタ、すなわち受信された符号データにおけるデータの立ち上がりおよび立ち下がりの発生時刻の揺らぎが生じないこととしていたが、実際の移動局10から基地局12への通信伝送においては、前記ジッタが発生しうる。かかる場合においては、レプリカ符号におけるデータ変化タイミングと対応する受信された符号データにおけるデータ変化タイミングの差はデータ変化タイミングごとに異なり得る。例えば、図6においてΔt0、Δt1、Δ2、…、Δnはそれぞれ異なることがありうる。時間ずれ検出部32による前記データ変化タイミングの差の絶対値の総和の算出と、ずらし量決定部38によるずらし量slの増加とを繰り返し行なった場合における、時間ずれ検出部32による相関指標値Σと、時間ずれ検出部32の繰り返し回数との関係は図19に示すようになる。この図19は前述の実施例における図10に対応するものである。
【0111】
図19は、ジッタの大きさの標準偏差が12.5(nsec)であるとした場合のシミュレーション結果である。図19に示すように、時間ずれ検出部32による相関指標値Σは当初繰り返しに伴って減少し続けるが、最小値となった後は増加する。しかしながら、前述の実施例における図10の場合と異なり、その減少は相関指標値Σの最小値Σminの近辺において繰り返し数nに比例するものではない。また、相関指標値Σの最小値Σminも0とはならず、相関指標値Σが最小となる際の繰り返し数it_min’も図10の相関指標値Σが最小となる際の繰り返し数it_minとは異なる場合がある。
【0112】
ところで、図20および図21は、データ変化ごとに異なるジッタの大きさの標準偏差の値がそれぞれ12.77、25.54、50.44、100.97である場合に、所定の複数回(たとえば30回)算出された相関指標値Σの最小値Σminの平均値を算出し、それらの関係を示した表およびグラフである。これらの図によれば、ジッタの大きさと相関指標値Σの最小値Σminの平均値とには相関があることがわかる。さらに、前記所定の複数回算出された際の相関指標値Σの最小値Σminの標準偏差sを用いて、相関指標値Σの最小値Σminに誤差が生じるなどして最大となった場合の値、すなわちΣminの最大値Σmin’を、例えばΣmin’=Σmin+3sのように算出することができる。本実施例にかかる発明は発明者らによるかかる知見に基づくものである。
【0113】
本実施例においては、基地局12の機能の一例は図3のブロック図に示すものである。本実施例においては、ずらし量予測部40は、前述の実施例2では用いられなかったジッタ処理部42を有する点において前述の実施例と異なる。このジッタ処理部42は、例えば複数のジッタの標準偏差の大きさについて予めシミュレーションにより図20に示すように相関指標値Σの最小値の平均値Σminおよびその標準偏差sを算出する。そして、算出された複数のジッタの標準偏差の大きさに対する相関指標値Σの最小値の平均値Σminおよびその標準偏差sのうち、移動局測位システム8の設計仕様により見込まれるジッタの大きさに最も近い前記ジッタの標準偏差の大きさに対応する相関指標値Σの最小値の平均値Σminおよびその標準偏差sを選択し、選択された相関指標値Σの最小値の平均値Σminおよびその標準偏差sに基づいて相関指標値Σの最小値Σminの最大値Σmin’を算出する。具体的には相関指標値Σの最小値Σminの最大値Σmin’は、前述のように、例えばΣmin’=Σmin+3sのように算出する。
【0114】
図22は、本実施例における移動局12のずらし量予測部40の制御作動の一例を説明するフローチャートであって、前述の実施例における図18に代えて、図17のSG3において実行されるずらし量予測ルーチンである。まず、時間ずれ検出部32に対応するSH1においては、ずらし量slが零である場合の相関指標値Σの値Σ0が算出される。このΣ0の算出は、例えば前述の図14の受信符号解析ルーチンを実行することによって行なわれる。
【0115】
ジッタ処理部42およびずらし量予測部40に対応するSH2においては、まず、移動局測位システム8の設計により見込まれるジッタの大きさに対応する相関指標値Σの最小値の平均値Σminおよびその標準偏差sに基づいて、ジッタの標準偏差の大きさに基づいて相関指標値Σの最小値Σminの最大値Σmin’が算出される。そして、算出されたΣmin’、SI1において算出されたずらし量slが零である場合の相関指標値Σの値Σ0、および、前記ずらし量slの1回あたりの増加量aに基づいて、時間ずれ検出部32の次回実行時における繰り返し数iskipがiskip=(Σ0−Σmin’)/aのように決定される。
【0116】
SH3においては、図17のフローチャートにおいて反復回数を表す変数nにSH2において算出された次回実行時における時間ずれ検出部32の繰り返し数iskipの値が記憶される。続くSH4においては、SH2で決定された繰り返し数iskipとなるように、具体的にはずらし量slがsl=a×(iskip−1)となるように設定される。
【0117】
前述の実施例3によれば、ジッタ処理部42(SH2)を有するずらし量予測部40(SH2乃至SH4)を含むずらし量決定部38(SH4)により、受信部26により受信した電波におけるジッタ量に基づいて相関指標値Σが前記Σmin’となる際のずらし量slが予測され、予測されたずらし量slに基づいて次回実行時における前記ずらし量が決定されるので、電波の受信において生ずるジッタのジッタ量を考慮して相関指標値Σが最小Σmin’となる際のずらし量slが予測され、前記次回実行時におけるずらし量を好適に決定することができる。
【0118】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0119】
例えば、前述の実施例においては、時間ずれ検出部32においては、受信部26により受信された符号データをずらし量slだけ時間軸の負方向にを移動することにより相関指標値Σを算出するようにしたが、このような態様に限られない。例えば、レプリカ符号をずらし量slだけ時間軸の正方向に移動することによって算出してもよい。
【0120】
また、前述の実施例においては、測位部86は3つの基地局12のそれぞれにおける受信時刻の差と、各基地局12の位置に関する情報とに基づいて移動局10の位置の算出(測位)を行なったが(TDOA方式)、この様な態様に限られない。例えば、3以上の各基地局12における移動局10からの電波の受信時刻と移動局10における送信時刻、および各基地局12の位置に関する情報に基づいて移動局10の位置の測位を行なうTOA方式によって移動局の測位を行なうこともできる。この場合、移動局10の時計70の時刻および各基地局12の時計46の時刻とが精密に同期されていれば、より正確な移動局10の位置の測位が可能である。そのため、前記TOA方式により移動局10の位置の算出を行なう場合には、移動局10および基地局12は、それぞれの有する時計70および46の時刻を既知の方法により同期させる時計同期のための機能を有してもよい。また、前記TOA方式により移動局10の位置の算出を行なう場合には、少なくとも3局の基地局12により移動局10から送信される電波が受信されればよい。
【0121】
また、前述の実施例においては、予告符号と符号データとの間に設けられる送信間隔tintは固定された既知の値とされたが、この様な態様に限られず、例えば、送信間隔tintの大きさはその都度変更されるものであって、予告符号が送信間隔tintに関する情報を含むようにしてもよい。
【0122】
なお、前述の実施例においては、移動局10が2次元平面を移動する場合の測位の例について示したが、これに限られず、移動局10が3次元空間を移動する場合も同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の移動局測位システムの概要を説明する図である。
【図2】移動局の構成と制御機能の概要を説明するブロック線図である
【図3】基地局の構成と制御機能の概要を説明するブロック線図である
【図4】サーバの構成と制御機能の概要を説明するブロック線図である
【図5】解析実行区間設定部による解析実行区間の設定を説明する図である。
【図6】時間ずれ検出部による時間ずれの検出を説明する図である。
【図7】ビットエラー発生時の符号データを説明する図である。
【図8】ビットエラー処理部によるビットエラー発生時の処理を説明する図である。
【図9】受信された符号データが複数のずらし量についてずらされる様子を説明する図である。
【図10】相関指標値と繰り返し数の関係を説明する図である。
【図11】測位部による移動局の測位を説明する図である。
【図12】本発明の移動局測位システムの制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図13】レプリカ符号解析ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図14】受信符号解析ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図15】受信時刻算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図16】時間ずれ算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図17】本発明の別の実施例における受信時刻算出ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートであって、図15に対応する図である。
【図18】ずらし量予測ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートである。
【図19】ジッタが存在する場合の相関指標値と繰り返し数の関係を説明する図であって、図9に対応する図である。
【図20】シミュレーションによって得られたジッタの大きさの標準偏差の値に対応する相関指標値およびその最小値およびその標準偏差の大きさを表す表である。
【図21】シミュレーションによって得られたジッタの大きさの標準偏差の値に対応する相関指標値およびその最小値およびその標準偏差の大きさを表す図であって、図20の表を表したものである。
【図22】本発明の別の実施例におけるずらし量予測ルーチンにおける制御作動の一例を説明するフローチャートであって、図18に対応する図である。
【図23】従来の同期時刻検出に用いられる相関値を算出するためのマッチドフィルタの一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0124】
8:移動局測位システム
10:移動局
12:基地局(受信装置)
26:(基地局の)受信部
28:解析実行区間設定部
30:受信符号解析部
32:時間ずれ検出部
34:ビットエラー処理部
38:ずらし量決定部
40:ずらし量予測部
42:ジッタ処理部
44:受信時刻算出部
74:(移動局の)送信部
86:測位部
Σ:相関指標値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の符号データを含む電波を受信し、受信した電波に含まれる該符号データと予め記憶された該符号データのレプリカ符号とを比較し、その比較結果に基づいて、電波の受信時刻を算出する受信装置であって、
電波を受信する受信部と、
該受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングを測定する受信符号解析部と、
前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部がデータ変化タイミングの測定を実行する区間を決定する解析実行区間設定部と、
前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のうちいずれか一方を所定のずらし量だけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値を算出する時間ずれ検出部と、
前記ずらし量を前記受信符号解析部における分解能に基づいて決定するずらし量決定部と、
前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻を算出する受信時刻算出部と、を有すること
を特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記受信時刻算出部は、反復実行される前記時間ずれ検出部により算出される複数の相関指標値に基づいて、前記相関指標値の最小を検出するものであり、
前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の実行回数に基づいてずらし量を決定すること
を特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の初回の実行結果に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定すること
を特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項4】
前記ずらし量決定部は、前記受信部により受信した電波におけるジッタ量に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定すること
を特徴とする請求項3に記載の受信装置。
【請求項5】
前記時間ずれ検出部は、前記レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間において前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないこと
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の受信装置。
【請求項6】
移動局から送信される電波を複数の基地局において受信し、該複数の基地局における電波の受信結果に基づいて前記移動局の位置を算出する移動局測位システムであって、
前記移動局は、
所定の符号データを含む電波と、該所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号を含む電波とを送信する送信部を備え、
前記基地局は、
電波を受信する受信部と、
該受信部により受信した前記符号データにおけるデータ変化タイミングを測定する受信符号解析部と、
前記所定の符号データを含む電波よりも所定時刻だけ前に送信される予告符号の前記受信部による受信に基づいて前記受信符号解析部がデータ変化タイミングの測定を実行する区間を決定する解析実行区間設定部と、
前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングと予め記憶されたレプリカ符号におけるデータ変化タイミングとを、両者のうちいずれか一方を所定のずらし量だけずらして比較し、両者の対応する各データ変化タイミングの時間ずれの絶対値の総和である相関指標値を算出する時間ずれ検出部と、
前記ずらし量を前記受信符号解析部における分解能に基づいて決定するずらし量決定部と、
前記時間ずれ検出部によって算出される相関指標値が最小となる際の前記ずらし量に基づいて受信時刻を算出する受信時刻算出部と、を備え、
前記受信時刻算出部において算出される移動局から送信された電波の各基地局における受信時刻と、前記各基地局の位置とに基づいて移動局の位置を算出する測位部を有すること
を特徴とする移動局測位システム。
【請求項7】
前記受信時刻算出部は、反復実行される前記時間ずれ検出部により算出される複数の相関指標値に基づいて、前記相関指標値の最小を検出するものであり、
前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の実行回数に基づいてずらし量を決定すること
を特徴とする請求項6に記載の移動局測位システム。
【請求項8】
前記ずらし量決定部は、前記時間ずれ検出部の初回の実行結果に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定すること
を特徴とする請求項6に記載の移動局測位システム。
【請求項9】
前記ずらし量決定部は、前記受信部により受信した電波におけるジッタ量に基づいて前記相関指標値が最小となる際のずらし量を予測し、該予測されたずらし量に基づいて次回実行時における前記ずらし量を決定すること
を特徴とする請求項8に記載の移動局測位システム。
【請求項10】
前記時間ずれ検出部は、前記レプリカ符号におけるデータ変化タイミングを含む所定の時間区間において前記受信符号解析部によって測定されたデータ変化タイミングが存在しない場合、該レプリカ符号におけるデータ変化タイミングは前記時間ずれ検出部による相関指標値の算出に使用しないこと
を特徴とする請求項6乃至9のいずれか1に記載の移動局測位システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−246830(P2009−246830A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93248(P2008−93248)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】