説明

基地局装置

【課題】基地局装置と端末装置との通信中に、基地局装置の送信電力を変更した場合に生じる問題を抑制する。
【解決手段】基地局装置1の処理装置3は、基地局装置が送信するデータ信号の送信電力を変更する電力変更処理と、送信電力の大きさを示す電力パラメータの変更を端末装置に要求する変更要求を端末装置に送信する送信処理と、直交振幅変調が選択されることを禁止する変調方式制限処理と、を実行する。通信制限処理は、基地局装置における送信電力の大きさと端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になり得る期間において実行中となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタル変調方式として、QPSKなどの位相偏移変調(PSKphase shift keying)のほか、16QAM又は64QAMなどの直交振幅変調(QAM:quadrature amplitude modulation)が知られている。
16QAM又は64QAMなどの直交振幅変調で変調された信号を復調するには、信号の位相情報とともに、信号の振幅情報が必要とされる。16QAM又は16QAMで変調された信号を復調する際に必要な振幅情報は、基準となる電力
例えば、LTE(Long Term Evolution;非特許文献1参照)では、16QAM又は16QAMで変調された信号を復調する際に必要な振幅情報は、基準となる電力との比で定義される。そして、基準となる電力としては、参照信号(CRS:Cell-specific Reference Signal)の電力が用いられる。
したがって、端末装置は、実際に受信した参照信号の大きさと実際に受信したデータ信号の電力との比を求めることで、復調しようとする信号についての前記振幅情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Farooq Khan、“LTE for 4G Mobile Broadband:Air Interface Technologies and Performance”、Cambridge University Press、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本発明者は、基地局装置と端末装置との通信中に、基地局装置による送信電力の大きさを変更することが好ましいという着想を得た。基地局装置と端末装置との通信中における環境変化に応じて、送信電力の大きさを変更することで、適切な送信電力による送信が可能となる。
【0005】
ところが、基地局装置と端末装置との通信中に、基地局装置が、送信電力の大きさを変更すると、次のような問題が生じる。
すなわち、基地局装置が送信電力を変更するタイミングと、端末装置が送信電力の変更に対応するタイミングと、を一致させることは困難である。したがって、両タイミングにはズレが生じる。このズレの期間中は、端末装置が把握している送信電力は、基地局装置が実際に送信する電力とは異なるものとなる。この結果、端末装置は、正しい振幅情報を得ることができず、正確な復調が困難となる。
その結果、基地局装置は、送信に失敗したデータの再送処理などが必要となり、円滑な通信が妨げられる。
【0006】
そこで、本発明は、基地局装置と端末装置との通信中に、基地局装置の送信電力を変更した場合に生じる問題を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、位相偏移変調及び直交振幅変調を含む複数の変調方式から選択された変調方式による変調をデータ信号に対して行う基地局装置であって、基地局装置が送信するデータ信号の送信電力を変更する電力変更処理と、前記送信電力の大きさを示す電力パラメータの変更を端末装置に要求する変更要求を前記端末装置に送信する送信処理と、前記位相偏移変調による変調が行われるように変調方式として前記直交振幅変調が選択されることを禁止するか、又は、前記端末装置へのデータ送信を休止する、通信制限処理と、を実行する処理装置を備え、前記通信制限処理は、前記電力変更処理又は前記送信処理の実行によって前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になり得る期間のうちの少なくとも一部の期間において実行中となることを特徴とする基地局装置である。
【0008】
本発明によれば、前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致となっても、データ送信の失敗を抑制できる。つまり、通信制限処理として、位相偏移変調による変調が行われるように変調方式として前記直交振幅変調が選択されることを禁止した場合には、復調に振幅情報が必要でなくなるので、前記不一致は問題とならなくなる。また、端末装置へのデータ送信を休止する場合には、復調すべきデータ信号が送信されないので、データ送信の失敗も生じない。
なお、通信制限処理は、前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になり得る期間のうちの少なくとも一部の期間において実行中となれば足りるが、当該期間全体を含む期間で実行中となるのがより好ましい。
【0009】
(2)前記通信制限処理は、基地局装置が前記変更要求を送信してから、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信するまでの期間のうちの少なくとも一部の期間において実行中となるのが好ましい。
端末装置は、前記変更要求を送信してから前記変更通知を受信するまでの期間内で、電力パラメータを変更する。したがって、前記変更要求を送信してから前記変更通知を受信するまでの期間は、前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になり得る期間である。
【0010】
(3)前記通信制限処理は、基地局装置が前記変更要求を送信する前に開始するのが好ましい。この場合、端末装置による電力パラメータの変更が実行される前に、予め通信制限処理が実行されていることが保証され、有利である。
【0011】
(4)前記通信制限処理は、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信した後に終了するのが好ましい。この場合、端末装置による電力パラメータの変更がなされるまで、確実に通信制限処理が継続していることが保証され、有利である。
【0012】
(5) 前記電力変更処理は、前記通信制限処理が開始されてから、前記通信制限処理が終了するまでの間に実行されるのが好ましい。この場合、基地局装置による前記電力変更処理が、通信制限処理実行中に行われることが保証され、有利である。
【0013】
(6)前記電力変更処理は、基地局装置が前記変更要求を送信する前に実行されるのが好ましい。この場合、比較的早期に基地局装置による前記電力変更処理が行われるため、できるだけ早く送信電力を変更したい場合に有利である。
【0014】
(7)前記電力変更処理は、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信した後に実行されてもよい。この場合、端末装置が電力パラメータを変更してから、基地局装置の電力変更処理を行える。
【0015】
(8)前記電力変更処理は、基地局装置が前記変更要求を送信した後の所定のタイミングにおいて、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知の受信の有無を判断することなく実行されてもよい。この場合、端末装置による電力パラメータの変更の実行タイミングと基地局装置による電力変更処理の実行タイミングとのズレを小さくすることが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致となっても、データ送信の失敗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】基地局装置及び端末装置を示す図である。
【図2】基地局装置の構成図である。
【図3】LTEにおけるレイヤ構造を示す図である。
【図4】LTEのリソースブロックを示す図である。
【図5】参照信号、制御チャネル、PDSCHの電力の大きさを示す図である。
【図6】(a)はQPSKの説明図であり、(b)は16QAMの説明図である。
【図7】ユーザごとに異なる送信電力を示す図である。
【図8】(a)は干渉が生じる端末配置を示す図であり、(b)は干渉を回避のための電力調整の説明図である。
【図9】電力変更シーケンスの第1例である。
【図10】電力変更シーケンスの第2例である。
【図11】電力変更シーケンスの第3例である。
【図12】電力変更シーケンスの第4例である。
【図13】電力変更シーケンスの第5例である。
【図14】電力変更シーケンスの第6例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、基地局装置(BS;Base Station)1と、基地局装置1に無線接続する端末装置(MS;Mobile Station,又はUE;User Equipment)2a,2bと、を有する無線通信システムを示している。本実施形態の無線通信システムは、例えば、LTEが適用される携帯電話用のシステムであり、各基地局装置1と、端末装置2a,2bとの間において、LTEに準拠した通信が行われる。ただし、通信方式は、LTEに限られるものではない。
【0019】
前記無線通信システムが備える基地局装置1としては、例えば数キロメートルの大きさの通信エリア(マクロセル)MCを形成するマクロ基地局装置(Macro Base Station)のほか、マクロセルMC内などに設置され数十メートル程度の比較的小さなフェムトセルFCを形成するフェムト基地局装置(Femto Base Station)がある。以下では、好ましい一例として、基地局装置1がフェムト基地局装置であるものとして説明するが、基地局装置1はフェムト基地局装置に限定されるものではない。
【0020】
図2に示すように、基地局装置1は、処理装置3と、送受信回路4と、を備えている。処理装置は、送受信回路4にて送受信される信号に対するデジタル変復調処理、及び、通信制御、その他の通信に関する処理を実行する。
【0021】
送受信回路4は、処理装置3から出力された送信信号(ベースバンド信号)に対するアナログ信号処理(周波数変換処理、増幅処理など)を行って送信信号をアンテナ5から出力するとともに、アンテナ5にて受信した受信信号に対してアナログ信号処理を行って、その受信信号を処理装置3に与える。
【0022】
図3は、LTEにおける基地局装置1の無線通信に関する層構造を示している。図3の層構造は、無線通信に関する第1レイヤであるPHY(Physical Layer)10と、その上位層としてMAC20と、を有している。MAC20の上位には、RLC(Radio Link Control)30と、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)40が配置される。さらに、PDCPの上位には、RRC(Radio Resource Control)50、RRM(Radio Resource Management)60が配置される。処理装置3は、これら各層における処理を実行するよう構成されている。
なお、端末装置2a,2bも、基地局装置1と同様の層構造を有している。
【0023】
図4は、LTEにおける基地局装置1の送信フレーム(ダウンリンクフレーム)を構成するリソースブロック(RB;Resource Block)構造を示している。リソースブロックは、端末装置(ユーザ)へのリソース割り当ての最小単位である。ダウンリンクフレームは、周波数方向及び時間方向それぞれに複数のリソースブロックが配置されて構成されている。各端末装置(ユーザ)には、一又は複数のリソースブロックの組み合わせが割り当てられる。これにより、一つのフレームを複数ユーザのために使用することが可能となっている。
【0024】
一つのリソースブロックは、周波数軸方向及び時間軸方向それぞれに複数のリソースエレメントが配置されて構成されている。図4では、リソースブロックの先頭の3シンボルは、制御チャネル(PCFICH/PHICH/PDCCH)として確保されており、残りのシンボルが共有データチャネル(PDSCH)である。
PDCCHなどの制御チャネルは、リソースブロックの割り当て情報などの制御情報(L1/L2制御情報)の端末装置への通知のために用いられる。PDSCHは、下りのデータ信号の送信のために用いられる。
なお、リソースブロック内には、参照信号(CRS)が、散点的に配置されている。
【0025】
各端末装置(ユーザ)2a,2bは、リソースブロック単位で、PDSCHが割り当てられる。PDSCHに含まれるデータ信号の復調は、全端末装置で共通の参照信号を用いて行われる。
【0026】
LTEでは、前記制御チャネルの変調方式は、QPSKで行われる。これに対し、PDSCHでの変調方式は、QPSK、16QAM、64QAMの3つの変調方式の中から、伝搬路環境等に応じて、選択される。
【0027】
図5は、基地局装置1から送信される下り信号の種類ごとの電力の大きさを示している。参照信号(CRS)の送信電力の大きさは、−50dBm〜+60dBmであり、全端末装置に共通の値である。参照信号の送信電力の大きさは、PDSCHにおけるSIB2(System Information Block 2)で、各端末装置2a,2bに通知される。
【0028】
制御チャネルの送信電力の大きさは、参照信号との電力比で規定され、参照信号の送信電力に対して、−6dB〜+4dBの範囲となる。制御チャネルの送信電力の大きさは、端末装置ごとに可変である。ただし、制御チャネルの変調方式はQPSKであるため、端末装置が送信電力の大きさを把握する必要はない。つまり、図6(a)に示すように、QPSKで変調された信号の復調には、信号の位相情報があれば足り、振幅情報が必要ないためである。したがって、制御チャネルの送信電力の大きさは、基地局装置1から端末装置2a,2bに対して通知されない。
【0029】
PDSCHの送信電力の大きさも、参照信号との電力比で規定され、参照信号の送信電力に対して、−6dB〜+3dBの範囲となる。PDSCHの送信電力の大きさは、端末装置ごとに可変である。PDSCHの変調方式には、位相偏移変調であるQPSKのほか、直交振幅変調である16QAM及び64QAMが含まれているため、基地局装置1から、各端末装置2a,2bに対して、PDSCHの送信電力を通知する必要がある。
つまり、図6(b)に示すように、16QAMなどの直交振幅変調では、信号の位相情報のほか、信号の振幅情報(振幅の大きさ)が必要となる。
【0030】
そこで、端末装置2a,2bは、参照信号の受信電力の大きさを基準として、PDSCHの受信電力の相対的な大きさ(電力比)を振幅情報として算出する。そして、PDSCHの送信電力の大きさを考慮して、復調を行う。
ここで、PDSCHの受信電力の絶対的な大きさは、PDSCHの送信電力の大きさ及び伝搬路環境によって影響を受けるため、振幅情報としては適切ではない。上述のように、PDSCHの振幅情報を、参照信号との受信電力比として求めることで、伝搬路環境による影響を打ち消すことができる。ただし、QAMにおける同じ信号点であっても、PDSCHの送信電力の大きさが変化すると、その信号点を示す振幅の大きさは変化する。そこで、PDSCHの送信電力の大きさを考慮することで、PDSCHの送信電力の大きさが変化しても、適切に復調を行うことができる。
【0031】
図7に示すように端末装置2a,2bごとに送信電力を異ならせるのが好ましいケースとしては、例えば、図1に示すように、基地局装置1からの距離が、ユーザ端末Aとユーザ端末Bとで異なる場合である。図1では、ユーザ端末Aの方が遠くに存在するため、図7に示すように、ユーザ端末Aの送信電力を大きくするのが好ましい。
【0032】
また、図8(a)に示すように、フェムト基地局装置1aが、マクロ基地局装置1bが形成するマクロセル内に設置されている場合、フェムト基地局装置1aに接続するユーザ端末2bと、マクロ基地局装置1bに接続するユーザ端末2aとが、ダウンリンクに関し、同じ周波数のリソースブロックを使用すると、フェムト基地局装置1aからの下り信号が、ユーザ端末2aに対する干渉信号となるおそれがある。
この場合、図8(b)に示すように、フェムト基地局装置1aは、他セルと競合する周波数リソースの電力を低下させることで、ユーザ端末2aへ干渉を与えるのを防止できる。
【0033】
基地局装置1が端末装置毎にPDSCHの送信電力を変更した場合に、端末装置2a,2bが復調を正確に行うには、端末装置2a,2bは、変更後の送信電力の大きさ(参照信号との電力比)を把握しておく必要がある。
基地局装置1は、端末装置別の送信電力の大きさ(参照信号との電力比)を示す電力パラメータを有しており、送信電力変更の際には、基地局装置1は、その電力パラメータを変更する。また、端末装置2a,2bも、基地局装置1が自身に対する送信の電力の大きさを示す電力パラメータを有している。端末装置2a,2bは、自身が有する電力パラメータを参照することで、PDSCHの信号復調時において、基地局装置1の送信電力を考慮することができる。
【0034】
したがって、基地局装置1は、PDSCHの送信電力を変更するために、自身の電力パラメータを変更する際には、端末装置2a,2bが有する電力パラメータの値も変更されている必要がある。このため、送信電力を変更しようとする基地局装置1は、送信電力が変更される端末装置に対して、電力変更要求を送信すれば、端末装置が有する電力パラメータの値を、基地局装置自身が有する電力パラメータの値に一致させることができる。
【0035】
ただし、LTEでは、基地局装置1が、通信中にPDSCHの送信電力を変更する送信電力制御を行うことは想定されていない。LTEでは、遠くの端末装置2に対しては、送信電力を大きくするのではなく、変調方式や符号化率を変更することで対応する。LTEでは、送信電力の制御を行わないことで、端末装置2に対して電力情報を頻繁に送信することを回避できる。
これに対して、上述のように送信電力を変更しようとした場合、その送信電力の変更タイミングは、基地局装置1と端末装置2a,2bとの接続が確立した通信中であることもある。
LTEでは、参照信号の送信電力はSIB2で頻繁に通知されるのに対し、PDSCHの送信電力の通知は、RRC Connection Setup/Reconfigurationを利用して行う。本実施形態では、RRC Connection Setup/Reconfigurationを電力変更要求として利用する。ところが、RRC Connection Setup/Reconfigurationは、RCCレイヤにおけるメッセージであるため、SIB2での通知に比べて、メッセージのやりとりに時間がかかる。
【0036】
図9〜図14は、基地局装置1と端末装置2との通信中において、基地局装置1がPDSCHの送信電力を変更すべきとの判断をした場合(ステップS1−1)における、電力変更処理シーケンスを示している。
【0037】
図9に示す電力変更処理シーケンスの第1例では、処理装置3が、送信電力変更の判断(ステップS1−1)をすると、処理装置3は、選択可能な3つの変調方式であるQPSK、16QAM、及び64QAMのうち、復調に振幅情報が必要とされる直交振幅変調である16QAM及び64QAMが選択されることを禁止する変調方式制限処理(通信制限処理)を実行する(ステップS1−2)。この変調方式制限処理が開始されると、当該処理が終了するまで、16QAM及び64QAMが変調方式として選択されることが禁止され、QPSKでダウンリンクの通信が行われる。なお、基地局装置が選択した変調方式は、制御チャネルによって1msec毎に、端末装置2へ通知される。
【0038】
続いて、処理装置3は、基地局装置1が送信するPDSCHのデータ信号の送信電力を変更すべく、基地局装置1の電力パラメータを変更する電力変更処理を実行する(ステップS1−3)。なお、以下では、電力変更処理前における電力パラメータ(参照信号との電力比)の値をαとし、電力変更処理後における電力パラメータの値をβとする。
基地局装置1では、電力変更処理が実行されることで、電力パラメータの値が、αからβに変更され、PDSCHの送信電力が変更される。ただし、ステップS1−3の時点では、端末装置2の電力パラメータは、αのままである。つまり、基地局装置1におけるPDSCHの送信電力の大きさと、端末装置2が有する電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になっている。
【0039】
しかし、先の変調方式制限処理によって、変調方式が、復調に振幅情報を必要としない変調方式(QPSK)だけに制限されている。したがって、基地局装置1におけるPDSCHの送信電力の大きさと、端末装置2が有する電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になっていても、端末装置2での復調には支障がない。仮に、電力不一致期間において、16QAM又は64QAMで変調が行われると、端末装置2は正確な復調が困難となるが、図9に示すように、電力不一致期間全体が、QPSKによる通信期間に含まれるようにすることで、復調が可能となる。
【0040】
さらに、処理装置3は、PDSCHの送信電力の大きさを示す電力パラメータを、αからβに変更することを端末装置2に対して要求する電力変更要求を生成する。そして、処理装置3は、その電力変更要求を端末装置2に送信する送信処理を実行する(ステップS1−4)。端末装置2が、この電力変更要求を受信すると(ステップS2−1)、端末装置2は、端末装置2の電力パラメータをαからβに変更する(ステップS2−2)。これにより、基地局装置1におけるPDSCHの送信電力の大きさと、端末装置2が有する電力パラメータが示す送信電力の大きさとが一致する。
【0041】
その後、端末装置2は、電力変更要求に対する応答として、電力変更完了通知(変更通知)を、基地局装置1に送信する(ステップS2−3)。この電力変更完了通知を基地局装置1が受信すると(ステップS1−5)、基地局装置1の処理装置3は、端末装置2が電力パラメータを変更したことを把握できる。なお、LTEの規格上、端末装置2は、電力変更要求を受信すると15msec以内に、電力変更完了通知を基地局装置1に送信しなければならい、と規定されているだけであるため、電力変更完了通知を受信するまでには、ある程度の時間を要することになる。
【0042】
処理装置3は、電力変更完了通知を受信したと判断すると、変調方式制限処理を終了させて、16QAM及び64QAMの選択禁止を解除する(ステップS1−6)。
【0043】
図10の電力変更処理シーケンスの第2例では、図9のシーケンスとは異なり、電力変更処理(S1−3)が、電力変更完了通知を受信した(S1−5)後に行われる。図10のシーケンスの場合であっても、電力不一致期間全体が、QPSKによる通信期間となっているため、復調が可能となる。なお、図10のシーケンスにおいて、説明を省略した点については、図9と同様である。
【0044】
図9のシーケンスでは、電力変更判断(S1−1)後の比較的早い段階(電力変更要求送信前)において、基地局装置1における送信電力の変更が行われる。したがって、図9のシーケンスは、図10のシーケンスに比べて、できるだけ早く送信電力を変更したい場合に有利である。例えば、他セルの端末装置に干渉を与えるのを回避するために、送信電力を小さくすべきである場合には、できるだけ早く送信電力を小さく変更すべきであるから、図9のシーケンスが有利となる。
【0045】
一方、図10のシーケンスは、端末装置2の電力パラメータの変更が行われてから、基地局装置1の電力変更が行えるという点で有利である。例えば、基地局装置1が、ある端末装置2に対して、電力変更要求を送信しても、その端末装置2が電力変更要求の受信に失敗するなどして、電力変更完了通知を受信できないこともありえる。図9のシーケンスでは、基地局装置1が、電力変更完了通知を受信できない場合には、S1−3にてβに変更した電力を、αに戻す必要がある。これに対し、図10のシーケンスでは、基地局装置1は、受信変更完了通知を受信したと判断してから、電力を変更するため、電力を元に戻すための処理が発生せず、有利である。
【0046】
図11は、電力変更処理シーケンスの第3例を示している。図11のシーケンスでは、電力変更処理(S1−3)は、基地局装置1が電力変更要求を送信した後の所定のタイミングにおいて、電力変更通知の受信の有無を判断することなく実行される。電力変更処理のタイミングとしては、電力変更要求送信(S1−4)を行ってから、電力変更完了通知の受信の待機期間として設定された時間(電力変更要求送信から15msec)内のタイミング(例えば、電力変更要求送信から5msec経過時点)とすることができる。なお、図11のシーケンスにおいて、説明を省略した点については、図9のシーケンスと同様である。
【0047】
図11のシーケンスでは、基地局装置1及び端末装置2間における電力不一致期間を短くできる可能性があり有利である。
【0048】
なお、図9〜図11では、基地局装置1及び端末装置2間における電力不一致の全期間において、QAMが禁止されているが、電力不一致期間のうちの一部の期間において、QAMを禁止してもよい。例えば、変調方式制限処理の開始(S1−2)を、電力変更要求送信(S1−4)の前ではなく、電力変更要求送信(S1−4)の後に行ってもよい。また、変調方式制限処理の終了(S1−6)を、電力変更通知の受信の有無を判断することなく行ってもよい。
電力不一致期間のうちの少なくとも一部の期間において、QAMが禁止されることで、QAMが禁止された期間では、復調不能となることを防止できる。
【0049】
図12は、電力変更処理シーケンスの第4例を示している。図12のシーケンスでは、図9のシーケンスにおける変調方式制限処理の開始(S1−2)及び終了(S1−6)に代えて、電力変更要求送信(S1−4)の後にデータ送信信号の休止処理(通信制限処理)の開始(S1−2)が行われ、電力変更完了通知の受信(S1−5)の後に、データ送信信号の休止処理の終了(S1−6)が行われる。図12のシーケンスにおいて、説明を省略した点は、図9のシーケンスと同様である。
休止処理が実行されると、基地局装置1と端末装置2との接続は確立されたままであるが、論理チャネルにおけるユーザ個別のデータ伝送であるDTCH(Dedicated Traffic CHannel)を用いた当該端末装置2への送信が休止される。つまり、休止処理の実行中は、端末装置2は受信すべきデータ信号を有しない。この結果、端末装置2にとっては復調すべきデータ信号が存在せず、復調の失敗によるデータ再送処理の発生を回避できる。
【0050】
図13は、電力変更処理シーケンスの第5例を示している。図13のシーケンスでは、図12のシーケンスのように、通信制限処理として休止処理を実行するが、電力変更処理(S1−3)については、図10と同様に、電力変更完了通知を受信した後に実行される。図13のシーケンスにおいても、復調の失敗によるデータ再送処理の発生を回避できるとともに、図10のシーケンスと同様の効果が得られる。
【0051】
図14は、電力変更処理シーケンスの第6例を示している。図14のシーケンスでは、図12のシーケンスのように、通信制限処理として休止処理を実行するが、電力変更処理(S1−3)については、図11と同様に、基地局装置1が電力変更要求を送信した後の所定のタイミング、又は、休止処理の開始後の所定のタイミングにおいて、電力変更通知の受信の有無を判断することなく実行される。図14のシーケンスにおいても、復調の失敗によるデータ再送処理の発生を回避できるとともに、図11のシーケンスと同様の効果が得られる。
【0052】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、通信規格は、LTEに限られるものではなく、他の通信規格であってもよい。
また、位相偏移変調(PSK)としては、QPSKに限らず、BPSK又は8PSKであってもよい。また、直交振幅変調(QAM)としては、128QAM又は256QAMであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 基地局装置
2a 端末装置
2b 端末装置
3 処理装置
4 送受信回路
5 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相偏移変調及び直交振幅変調を含む複数の変調方式から選択された変調方式による変調をデータ信号に対して行う基地局装置であって、
基地局装置が送信するデータ信号の送信電力を変更する電力変更処理と、
前記送信電力の大きさを示す電力パラメータの変更を端末装置に要求する変更要求を前記端末装置に送信する送信処理と、
前記位相偏移変調による変調が行われるように変調方式として前記直交振幅変調が選択されることを禁止するか、又は、前記端末装置へのデータ送信を休止する、通信制限処理と、
を実行する処理装置を備え、
前記通信制限処理は、前記電力変更処理又は前記送信処理の実行によって前記基地局装置における前記送信電力の大きさと前記端末装置の前記電力パラメータが示す送信電力の大きさとが不一致になり得る期間のうちの少なくとも一部の期間において実行中となる
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記通信制限処理は、基地局装置が前記変更要求を送信してから、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信するまでの期間のうちの少なくとも一部の期間において実行中となる
請求項1記載の基地局装置。
【請求項3】
前記通信制限処理は、基地局装置が前記変更要求を送信する前に開始する
請求項1又は2記載の基地局装置。
【請求項4】
前記通信制限処理は、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信した後に終了する
請求項1〜3のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項5】
前記電力変更処理は、前記通信制限処理が開始されてから、前記通信制限処理が終了するまでの間に実行される
請求項1〜4のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項6】
前記電力変更処理は、基地局装置が前記変更要求を送信する前に実行される
請求項5記載の基地局装置。
【請求項7】
前記電力変更処理は、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知を受信した後に実行される
請求項5記載の基地局装置。
【請求項8】
前記電力変更処理は、基地局装置が前記変更要求を送信した後の所定のタイミングにおいて、前記変更要求に応じて前記端末装置が前記電力パラメータを変更した旨の変更通知の受信の有無を判断することなく実行される
請求項5記載の基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−147380(P2012−147380A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5955(P2011−5955)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】