説明

基板の研磨方法

【課題】基板の表面に形成された無機絶縁膜を研磨するCMP技術において、無機絶縁膜に対する研磨速度を維持しつつ、研磨後の表面の平坦性を向上させることが可能な研磨方法を提供する。
【解決手段】酸化セリウムと、−COOM基、−Ph−OM基、−SOM基、−OSOH基、−PO基及び−PO基(式中、MはH、NH、Na及びKから選択されるいずれか一種、Phは置換基を有していても良いフェニル基を示す。)から選択される少なくとも一つの基を有する有機酸と、カルボキシル基を有する高分子化合物及び水を含み、pHが4.5〜7.0であり、高分子化合物の含有量が全質量に対して0.01〜0.30質量%であるCMP研磨液と、複数の溝と複数の穴が形成された研磨パッドを使用して、基板に設けられた被研磨膜の少なくとも一部を研磨で除去する基板の研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の研磨方法に関する。より詳細には、本発明は、半導体素子製造技術である、基板表面の平坦化工程、特に、層間絶縁膜、BPSG膜(ボロン、リンをドープした二酸化珪素膜)の平坦化工程、シャロー・トレンチ分離(以下、「STI」という。)の形成工程等において使用される、基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のULSI半導体素子製造工程では、半導体素子の高密度・微細化のための加工技術が研究開発されている。その加工技術の一つであるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング:化学機械研磨)技術は、半導体素子製造工程において、層間絶縁膜の平坦化、STI形成、プラグ及び埋め込み金属配線形成等を行う際に、必須の技術となってきている。
【0003】
従来、半導体素子製造工程において、酸化珪素膜等の無機絶縁膜はプラズマ−CVD(化学気相成長)、低圧−CVD(化学気相成長)等の方法で形成されている。この無機絶縁膜を平坦化するための化学機械研磨方法として、フュームドシリカ系のCMP研磨液を用いることが一般的に検討されている。フュームドシリカ系のCMP研磨液は、四塩化珪素を熱分解する等の方法で粒成長させて得られた粒子が配合されたスラリのpHを調整することによって製造される。但し、この様なフュームドシリカ系のCMP研磨液は、研磨速度が低いという技術課題がある。
【0004】
また、デザインルール0.25μm以降の世代では、集積回路内の素子分離にSTIが用いられている。STIでは、基板上に成膜した余分な無機絶縁膜を取り除くためにCMP技術が使用される。この場合、任意の深さで研磨を停止させるために、無機絶縁膜の下に、研磨されにくい窒化珪素膜等のストッパ膜が形成される。
【0005】
このような構造において、余分な無機絶縁膜を効率的に取り除くとともに、その後の研磨の進行を充分に抑制するには、無機絶縁膜とストッパ膜との研磨速度比が大きいことが望ましい。しかし、従来のコロイダルシリカ系のCMP研磨液は、無機絶縁膜とストッパ膜との研磨速度比が3程度と小さく、STI用としては実用に耐える特性を有していない。
【0006】
一方、フォトマスクやレンズ等のガラス表面に対するCMP研磨液として、酸化セリウム粒子を含む酸化セリウムCMP研磨液が用いられている。酸化セリウム粒子は、シリカ粒子やアルミナ粒子に比べ硬度が低く、研磨に際し研磨表面に傷が入りにくいことから、仕上げ鏡面研磨に有用である。また、酸化セリウムCMP研磨液は、フュームドシリカ系やコロイダルシリカ系等のシリカCMP研磨液に比べ、研磨速度が速い利点がある。
【0007】
酸化セリウムCMP研磨液として、下記特許文献1には、高純度酸化セリウム砥粒を用いた半導体用CMP研磨液が記載されている。また、下記特許文献2には、酸化セリウムCMP研磨液の研磨速度を制御し、グローバルな平坦性を向上させるために添加剤を加える技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−106994号公報
【特許文献2】特許第3278532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、STIのデザインルールの微細化の進展に伴い、更なる平坦性の向上を達成できる研磨方法が求められている。
【0010】
CMPを用いたSTI形成工程は、一般的に、アクティブ部(凸部)及びトレンチ部(凹部)が形成された基板上に、前記凹凸を埋め込み、かつ前記基板全体を被覆するように無機絶縁膜を成膜し、次いで、CMP研磨液を用いて余分の無機絶縁膜を研磨にて除去する。この時、トレンチ部内の無機絶縁膜が過剰に研磨されて皿状に凹む、ディッシングと呼ばれる現象が生じうる。一方で、CMP研磨液の組成を工夫することによりディッシングを解消して平坦性を改善しようとすると、無機絶縁膜に対する研磨速度が低下し、ストッパ膜が露出するまでの研磨時間が長期化してしまうという課題がある。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、基板の表面に形成された無機絶縁膜を研磨するCMP技術において、無機絶縁膜に対する実用的な研磨速度を維持しつつ、研磨後の表面の平坦性を向上させることが可能な研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、CMP研磨液と研磨パッドを用いた研磨方法において、所定の組成を有するCMP研磨液と所定の表面形状を有する研磨パッドとの組合せが、前記課題の解決に有効であることを見いだしたものである。
【0013】
具体的には、本発明は、酸化セリウム、有機酸A、高分子化合物B及び水を含むCMP研磨液と、研磨パッドCを使用して、基板に設けられた被研磨膜の少なくとも一部を研磨で除去する研磨方法であって、前記有機酸Aは、−COOM基、−Ph−OM基、−SOM基、−OSOH基、−PO基及び−PO基(式中、MはH、NH、Na及びKから選択されるいずれか一種であり、Phは置換基を有していても良いフェニル基を示す。)からなる群から選択される少なくとも一つの基を有する有機酸であり、前記高分子化合物Bはカルボキシル基を有する高分子化合物であって、前記CMP研磨液は、pHが4.5〜7.0であり、前記高分子化合物Bの含有量は、CMP研磨液全質量に対して0.01〜0.30質量%であり、前記研磨パッドCには、複数の溝と複数の穴が形成されてなる研磨方法である。
【0014】
このような研磨方法によれば、基板の表面に形成された無機絶縁膜を実用的な研磨速度で研磨しつつ、研磨後の表面の平坦性を向上させることができる。
【0015】
本発明の研磨方法は、被研磨膜が形成された基板の該被研磨膜を研磨定盤の研磨パッドに押圧した状態で、前記CMP研磨液を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを相対的に動かして被研磨膜を研磨することが好ましい。
【0016】
前記溝は、前記研磨パッド平面上において互いに平行な複数の溝で構成されるX溝と、前記研磨パッド平面上において前記X溝に対して垂直な複数の溝で構成されるY溝と、から構成されるXY溝を有してなることが好ましい。このような溝と、穴とを有する研磨パッドを用いて研磨することによって、より平坦性を向上させることができる。
【0017】
平坦性と研磨速度の両立の観点で、前記研磨パッドは、前記複数のX溝は、複数の溝が等間隔に設けられてなることが好ましい。また、前記複数のX溝及びY溝は、それぞれ、複数の溝が等間隔に設けられてなることが好ましい。さらに、前記研磨パッドは、前記X溝の間隔と前記Y溝の間隔とが等しく形成された格子状溝を有してなることが好ましい。さらに、前記パッドは円形の穴を有していることが好ましい。
【0018】
有機酸化合物の含有量は、CMP研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%であることが好ましい。これにより研磨後の表面平坦性と研磨速度の維持の両立及び酸化セリウムの凝集の抑制を達成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板の表面に形成された被研磨膜(例えば、STI膜等)を研磨するCMP技術において、被研磨膜の研磨後の表面平坦性を向上させることが可能な基板の研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】研磨特性の評価基板を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係る研磨方法は、酸化セリウム、有機酸A、高分子化合物B及び水を含むCMP研磨液と、研磨パッドCを使用して、基板に設けられた被研磨膜の少なくとも一部を研磨で除去する研磨方法であって、前記有機酸Aは、−COOM基、−Ph−OM基、−SOM基、−OSOH基、−PO基及び−PO基(式中、MはH、NH、Na及びKから選択されるいずれか一種であり、Phは置換基を有していても良いフェニル基を示す。)からなる群から選択される少なくとも一つの基を有する有機酸であり、前記高分子化合物Bはカルボキシル基を有する高分子化合物であって、前記CMP研磨液は、pHが4.5〜7.0であり、前記高分子化合物Bの含有量は、CMP研磨液全質量に対して0.01〜0.30質量%であり、前記研磨パッドCには、複数の溝と複数の穴が形成されてなる研磨方法である。以下、本実施形態に係る研磨方法について詳細に説明する。
【0022】
(1)研磨パッド
本発明の研磨方法は、研磨パッドとして複数の溝(Groove)と複数の穴(Perforation)が形成されてなる研磨パッドを使用する。従来、研磨パッドとしては、種々のものが使用されており、CMP研磨において最も一般的に用いられているのは、パッド全体への研磨液の保持のために、溝が形成されたGrooveパッドといわれるものであるが、本発明の研磨方法では、このような溝だけではなく、溝と穴の両方が形成された研磨パッドを使用する。これにより適量のスラリの保持が可能となるため、平坦性と研磨速度の両立が可能となる。
【0023】
前記研磨パッドにおいて、前記溝としては、互いに平行な複数の直線状の溝、複数の同心円状の溝、放射線状の溝、スパイラルの溝等が挙げられる。中でも、互いに平行な複数の直線状の溝であることが好ましい。また、前記研磨パッド平面上において互いに平行な複数の溝で構成されるX溝と、前記研磨パッド平面上において前記X溝に対して垂直な複数の溝で構成されるY溝と、から構成されるXY溝(XY−Groove)を有してなる研磨パッドを使用することが研磨後の表面平坦性と研磨速度の維持を両立できる点でより好ましい。
【0024】
前記のようなXY−Grooveと、複数の穴とを有する研磨パッドとしては、例えば、Rohm and Haas社製、商品名:IC1000/Suba400の2層構造のパッド等が挙げられるが、これと同等の形状、性能を有するパッドであれば上記のものに限定されない。
【0025】
(2)CMP研磨液
本発明の研磨方法に使用されるCMP研磨液は、酸化セリウム、有機酸A、高分子化合物B及び水を含む。
【0026】
(2.1:酸化セリウム粒子)
酸化セリウム粒子としては、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。一般に酸化セリウムは、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等のセリウム化合物を酸化することによって得られる。酸化セリウム粒子を作製する方法としては、焼成又は過酸化水素等による酸化法が挙げられる。
【0027】
テトラエトキシシラン(以下、「TEOS」という。)をSi源として用いるTEOS−CVD法等で形成される酸化珪素膜の研磨に酸化セリウム粒子を使用する場合、酸化セリウム粒子の結晶子径(結晶子の直径)が大きく、かつ結晶歪みが少ない程、即ち結晶性が良い程、高速研磨が可能であるが、被研磨膜に研磨傷が入りやすい傾向がある。このような観点から、酸化セリウム粒子は、2個以上の結晶子から構成され、結晶粒界を有する粒子が好ましく、結晶子径が5〜300nmである粒子がより好ましい。
【0028】
酸化セリウム粒子中のアルカリ金属及びハロゲン類の含有率は、半導体素子の製造に係る研磨に好適に用いられることから、10ppm以下であることが好ましい。
【0029】
酸化セリウム粒子の平均粒径は、10〜500nmであることが好ましく、20〜400nmであることがより好ましく、50〜300nmであることが更に好ましい。酸化セリウム粒子の平均粒径が10nm以上であると、良好な研磨速度が得られる傾向があり、500nm以下であると、被研磨膜に傷がつきにくくなる傾向がある。
【0030】
ここで、酸化セリウム粒子の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布計(例えばMalvern社製、商品名:Master Sizer Microplus、屈折率:1.93、光源:He−Neレーザ、吸収:0)で測定したD50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)を意味する。平均粒径の測定には、適切な濃度(例えば、He−Neレーザに対する測定時透過率(H)が60〜70%となる濃度)にCMP研磨液を希釈したサンプルを用いる。また、酸化セリウムCMP研磨液が、後述するように酸化セリウム粒子を水に分散させた酸化セリウムスラリと、添加剤を水に溶解させた添加液とに分けて保存されている場合は、酸化セリウムスラリを適切な濃度に希釈して測定することができる。
【0031】
酸化セリウム粒子の含有量は、CMP研磨液全質量基準で0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.5〜1.5質量%が更に好ましい。酸化セリウム粒子の含有量が0.1質量%以上であると、良好な研磨速度が得られる傾向があり、20質量%以下であると、粒子の凝集が抑制されて被研磨膜に傷がつきにくくなる傾向がある。
【0032】
(2.2:有機酸A)
[有機酸化合物及び又はその塩]
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、添加剤として有機酸Aを含有する。これにより、研磨終了後の被研磨膜(例えば、酸化珪素膜等)の平坦性を向上させることができる。より詳細には、凹凸を有する被研磨面を研磨した場合に、一部が過剰に研磨されて皿のように凹む現象、いわゆるディッシングが生じることを抑制することができる。この効果は、有機酸化合物及び又はその塩と酸化セリウム粒子とを併用し、かつ、後述する所定の形状の研磨パッドと併用することにより、より効率的に得られる。
【0033】
前記有機酸Aは、−COOM基、−Ph−OM基、−SOM基、−OSOH基、−PO基及び−PO基(式中、MはH、NH、Na及びKから選択されるいずれか一種であり、Phは置換基を有していても良いフェニル基を示す。)からなる群から選択される少なくとも一つの基を有する有機酸である。
【0034】
具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミスチリン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、o−メトキシ安息香酸、m−メトキシ安息香酸、p−メトキシ安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、ケイ皮酸、キナルジン酸、ニコチン酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、ピコリン酸、ビニル酢酸、フェニル酢酸、フェノキシ酢酸、2−フランカルボン酸、メルカプト酢酸、レブリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,15−ペンタデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、キノリン酸、キニン酸、ナフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、キナ酸、キヌレン酸、サリチル酸、酒石酸、アコニット酸、アスコルビン酸、アセチルサリチル酸、アセチルリンゴ酸、アセチレンジカルボン酸、アセトキシコハク酸、アセト酢酸、3−オキソグルタル酸、アトロパ酸、アトロラクチン酸、アントラキノンカルボン酸、アントラセンカルボン酸、イソカプロン酸、イソカンホロン酸、イソクロトン酸、2−エチル−2−ヒドロキシ酪酸、エチルマロン酸、エトキシ酢酸、オキサロ酢酸、オキシ二酢酸、2−オキソ酪酸、カンホロン酸、クエン酸、グリオキシル酸、グリシド酸、グリセリン酸、グルカル酸、グルコン酸、クロコン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニル酢酸、ジ−O−ベンゾイル酒石酸、ジメチルコハク酸、ジメトキシフタル酸、タルトロン酸、タンニン酸、チオフェンカルボン酸、チグリン酸、デソキサル酸、テトラヒドロキシコハク酸、テトラメチルコハク酸、テトロン酸、デヒドロアセト酸、テレビン酸、トロパ酸、バニリン酸、パラコン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシケイ皮酸、ヒドロキシナフトエ酸、o−ヒドロキシフェニル酢酸、m−ヒドロキシフェニル酢酸、p−ヒドロキシフェニル酢酸、3−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸、ピバル酸、ピリジンジカルボン酸、ピリジントリカルボン酸、ピルビン酸、α−フェニルケイ皮酸、フェニルグリシド酸、フェニルコハク酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、プロピオル酸、ソルビン酸、2,4−ヘキサジエン二酸、2−ベンジリデンプロピオン酸、3−ベンジリデンプロピオン酸、ベンジリデンマロン酸、ベンジル酸、ベンゼントリカルボン酸、1,2−ベンゼンジ酢酸、ベンゾイルオキシ酢酸、ベンゾイルオキシプロピオン酸、ベンゾイルギ酸、ベンゾイル酢酸、O−ベンゾイル乳酸、3−ベンゾイルプロピオン酸、没食子酸、メソシュウ酸、5−メチルイソフタル酸、2−メチルクロトン酸、α−メチルケイ皮酸、メチルコハク酸、メチルマロン酸、2−メチル酪酸、o−メトキシケイ皮酸、p−メトキシケイ皮酸、メルカプトコハク酸、メルカプト酢酸、o−ラクトイル乳酸、リンゴ酸、ロイコン酸、ロイシン酸、ロジゾン酸、ロゾール酸、α−ケトグルタル酸、L−アルコルビン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、グルクロン酸、ピログルタミン酸、エチレンジアミン四酢酸、シアン化三酢酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、N′−ヒドロキシエチル−N,N,N′−トリ酢酸、ニトリロトリ酢酸等のカルボン酸、又は、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、2,4,6−トリニトロフェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン等のフェノール類、又は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ウンデカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、トリデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ペンタデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ヘプタデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ヒドロキシフェノールスルホン酸、アントラセンスルホン酸等のスルホン酸、又は、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸が好ましい。また上記のカルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸の主鎖のプロトンを1つ又は2つ以上、F、Cl、Br、I、OH、CN、NO等の原子又は原子団で置換した誘導体であってもよい。
【0035】
さらに、N−アシル−N−メチルグリシン、N−アシル−N−メチル−β−アラニン、N−アシルグルタミン酸等のN−アシルアミノ酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、アシル化ペプチド、アルキルベンゼンスルホン酸、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル、スルホコハク酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸、アルキルスルホ酢酸、α−オレフィンスルホン酸、N−アシルメチルタウリン、ジメチル−5−スルホイソフタレート、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル、第2級高級アルコール硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、第2級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアマイド硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、アルキルリン酸等も好ましく使用できる。前記有機酸Aは塩であってもよい。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
中でも、−SOM基を有する有機酸が好ましく、MがHであるスルホン酸であることがより好ましく、芳香族スルホン酸であることが更に好ましく、トルエンスルホン酸であることが特に好ましく、p−トルエンスルホン酸が極めて好ましい。
【0037】
前記有機酸Aの含有量は、CMP研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%が好ましく、0.001〜2質量%がより好ましく、0.01〜0.5質量%が更に好ましい。有機酸の含有量が0.0001質量%以上であると、研磨終了後の被研磨膜(例えば、酸化珪素膜等)の平坦性を向上させることができる傾向があり、5質量%以下であると、被研磨膜の研磨速度を充分に向上する傾向がある。
【0038】
(2.3:高分子化合物B)
[カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子]
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、カルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する高分子化合物Bを含有する。ここで、高分子化合物Bは塩であってもよい。これにより、研磨終了後の被研磨膜(例えば酸化珪素膜)の平坦性を向上させることができる。より詳細には、凹凸を有する被研磨面を研磨した場合に、一部が過剰に研磨されて皿のように凹む現象、いわゆるディッシングが生じることを抑制することができる。この効果は、高分子化合物Bと有機酸Aと酸化セリウム粒子とを併用することにより、より効率的に得られる。
高分子化合物Bの含有量は、CMP研磨液全質量に対して0.01〜0.30質量%である。高分子化合物Bの含有量が0.01質量%以上であると、ディッシングの発生が抑制される傾向があり、0.30質量%以下であると、CMP研磨液に含まれる砥粒の安定性が向上する傾向がある。
【0039】
このような高分子化合物Bの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基を有するモノマの単独重合体や、当該重合体のカルボン酸基の部分がアンモニウム塩等の単独重合体が挙げられる。また、カルボン酸基を有するモノマと、カルボン酸塩基を有するモノマとカルボン酸のアルキルエステル等の誘導体との共重合体も好ましい。さらに具体的には、ポリアクリル酸、又はポリアクリル酸のカルボン酸基の一部が、カルボン酸アンモニウム塩基に置換されたポリマ(以下、「ポリアクリル酸アンモニウム」と称する。)等が挙げられる。
【0040】
(その他の添加剤)
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、有機酸化合物及び又はその塩、及びカルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子とは別の添加剤として水溶性高分子を使用することができる。このような水溶性高分子としては、例えば、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン及びプルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン等のビニル系ポリマ等が挙げられる。
【0041】
これら水溶性高分子の重量平均分子量は、500以上が好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定し、標準ポリオキシエチレン換算した値である。また、これら水溶性高分子の含有量は、CMP研磨液全質量基準で0.03〜0.08質量%が好ましい。
【0042】
(水)
水としては、特に制限されないが、脱イオン水、イオン交換水、超純水等が好ましい。水の含有量は、上記各含有成分の含有量の残部でよく、CMP研磨液中に含有されていれば特に限定されない。なお、CMP研磨液は、必要に応じて水以外の溶媒、例えばエタノール、アセトン等の極性溶媒等を更に含有してもよい。
【0043】
(分散剤)
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液には、酸化セリウム粒子を分散させるための分散剤を用いることができる。分散剤としては、例えば、水溶性陰イオン性分散剤、水溶性非イオン性分散剤、水溶性陽イオン性分散剤、水溶性両性分散剤等が挙げられ、中でも、水溶性陰イオン性分散剤が好ましい。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
水溶性陰イオン性分散剤としては、共重合成分としてアクリル酸を含む高分子及びその塩が好ましく、当該高分子の塩がより好ましい。共重合成分としてアクリル酸を含む高分子及びその塩としては、例えば、ポリアクリル酸及びそのアンモニウム塩、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体及びそのアンモニウム塩、並びに、アクリル酸アミドとアクリル酸との共重合体及びそのアンモニウム塩等が挙げられる。
【0045】
その他の水溶性陰イオン性分散剤としては、例えば、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、特殊ポリカルボン酸型高分子分散剤等が挙げられる。
【0046】
また、水溶性非イオン性分散剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0047】
水溶性陽イオン性分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられる。
【0048】
水溶性両性分散剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0049】
分散剤の含有量は、酸化セリウム粒子の分散性を向上させて沈降を抑制し、被研磨膜の研磨傷を更に減らす観点から、CMP研磨液全質量基準で0.01〜10質量%の範囲が好ましい。
【0050】
分散剤の重量平均分子量は、特に制限はないが、100〜150000が好ましく、1000〜20000がより好ましい。分散剤の分子量が100以上であると、酸化珪素膜又は窒化珪素膜等の被研磨膜を研磨するときに、良好な研磨速度が得られやすい傾向がある。分散剤の分子量が150000以下であると、CMP研磨液の保存安定性が低下しにくい傾向がある。なお、重量平均分子量は、GPCで測定し、標準ポリオキシエチレン換算した値である。
【0051】
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液を半導体素子の製造における研磨に使用する場合には、分散剤中のナトリウムイオン等のアルカリ金属、及びハロゲン、イオウの含有率は、10ppm以下であることが好ましい。
【0052】
(CMP研磨液の調製・保存・研磨方法)
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、例えば、酸化セリウム粒子と水とを配合して粒子を分散させ、さらに有機酸化合物及び又はその塩、及びカルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子を添加することによって得られる。本実施形態に係るCMP研磨液は、酸化セリウム粒子、有機酸化合物及び又はその塩、及びカルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子、水、及び、任意に水溶性高分子を含む一液式CMP研磨液として保存してもよく、酸化セリウム粒子及び水を含む酸化セリウムスラリ(第1の液)と、有機酸化合物及び又はその塩、及びカルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子及び水を含む添加液(第2の液)とに構成成分を分けた二液式CMP研磨液として保存してもよい。
【0053】
なお、二液式CMP研磨液の場合は、分散剤は酸化セリウムスラリに含まれることが好ましい。有機酸化合物及び又はその塩、及びカルボン酸基又はカルボン酸塩基を有する水溶性有機高分子以外の添加剤は、酸化セリウムスラリと添加液のいずれに含まれてもよいが、酸化セリウム粒子の分散安定性に影響がない点で、添加液に含まれることが好ましい。
【0054】
酸化セリウムスラリと添加液とを分けた二液式CMP研磨液として保存する場合、これら二液の配合を任意に変えることにより平坦化特性と研磨速度の調整が可能となる。二液式CMP研磨液を用いて研磨する場合、酸化セリウムスラリ及び添加液をそれぞれ別の配管で送液し、これらの配管を供給配管出口の直前で合流させて両液を混合して研磨定盤上に供給する方法や、研磨直前に酸化セリウムスラリと添加液とを混合する方法を用いることができる。
【0055】
本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、所望のpHに調整して研磨に供することができる。pH調整剤としては特に制限はないが、アルカリ金属類、アンモニア水、酸成分が挙げられる。CMP研磨液が半導体研磨に使用される場合には、アルカリ金属類よりも、アンモニア水、酸成分が好適に使用される。pH調整剤としては、予めアンモニアで部分的に中和された水溶性高分子のアンモニウム塩を使用することができる。
【0056】
CMP研磨液のpHは4.5〜7.0であり、4.5〜6.0が好ましく、4.9〜5.5がより好ましい。pHが4.5以上であると、CMP研磨液の保存安定性が向上する傾向があり、7.0以下であると、被研磨膜の傷の発生数が減少する傾向がある。CMP研磨液のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製の商品名:Model PH81)で測定することができる。例えば、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.21(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極をCMP研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。
【0057】
本発明に係る基板の研磨方法は、被研磨膜が形成された基板の被研磨膜を研磨定盤の研磨パッドに押圧した状態で、上記CMP研磨液を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨膜を研磨する。
【0058】
基板としては、半導体素子製造に係る基板、例えば回路素子と配線パターンが形成された段階の半導体基板、回路素子が形成された段階の半導体基板等の半導体基板上に無機絶縁膜が形成された基板が挙げられる。そして、被研磨膜としては、例えば酸化珪素膜、あるいは窒化珪素膜及び酸化珪素膜の複合膜等の無機絶縁膜が挙げられる。このような半導体基板上に形成された無機絶縁膜を、本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液で研磨することによって、無機絶縁膜表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面とすることができる。また、本発明に係る研磨方法に使用されるCMP研磨液は、シャロー・トレンチ分離にも使用できる。
【0059】
以下、無機絶縁膜が形成された半導体基板の場合を例に挙げて、基板の研磨方法を更に詳細に説明する。
【0060】
研磨装置としては、半導体基板等の被研磨膜を有する基板を保持するホルダーと、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてあり、研磨パッドを貼り付け可能な研磨定盤と、を有する一般的な研磨装置が使用できる。研磨装置としては、例えば、株式会社荏原製作所製の研磨装置、型番:EPO−111等を使用できる。
【0061】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用できる。また、研磨パッドには、CMP研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0062】
研磨条件に制限はないが、定盤の回転速度は、半導体基板が飛び出さないように200回転/分以下の低回転が好ましく、半導体基板にかける圧力(加工荷重)は、研磨後に傷が発生しないように100kPa以下が好ましい。研磨している間は、研磨パッド上にCMP研磨液をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常にCMP研磨液で覆われていることが好ましい。
【0063】
研磨終了後の半導体基板は、流水中で良く洗浄後、スピンドライヤ等を用いて半導体基板上に付着した水滴を払い落として、乾燥させることが好ましい。
【0064】
このように被研磨膜である無機絶縁膜をCMP研磨液で研磨することによって、表面の凹凸を解消し、半導体基板全面にわたって平滑な面が得られる。平坦化されたシャロー・トレンチを形成した後は、無機絶縁膜の上にアルミニウム配線を形成し、その配線間及び配線上に再度無機絶縁膜を形成後、CMP研磨液を用いて当該無機絶縁膜を研磨して平滑な面を得る。この工程を所定数繰り返すことにより、所望の層数を有する半導体基板を製造することができる。
【0065】
本実施形態に係るCMP研磨液により研磨される無機絶縁膜としては、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜が挙げられる。酸化珪素膜は、リン、ホウ素等の元素がドープされていても良い。無機絶縁膜の作製方法としては、低圧CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0066】
低圧CVD法による酸化珪素膜形成は、Si源としてモノシラン:SiH、酸素源として酸素:Oを用いる。このSiH−O系酸化反応を、400℃以下の低温で行うことにより酸化珪素膜が得られる。場合によっては、CVDにより得られた酸化珪素膜は、1000℃又はそれ以下の温度で熱処理される。高温リフローによる表面平坦化を図るために、酸化珪素膜にリン:Pをドープするときには、SiH−O−PH系反応ガスを用いることが好ましい。
【0067】
プラズマCVD法は、通常の熱平衡下では高温を必要とする化学反応が低温でできる利点を有する。プラズマ発生法には、容量結合型と誘導結合型の2つが挙げられる。反応ガスとしては、Si源としてSiH、酸素源としてNOを用いたSiH−NO系ガスとテトラエトキシシラン(TEOS)をSi源に用いたTEOS−O系ガス(TEOS−プラズマCVD法)が挙げられる。基板温度は、250〜400℃、反応圧力は、67〜400Paが好ましい。
【0068】
低圧CVD法による窒化珪素膜形成は、Si源としてジクロルシラン:SiHCl、窒素源としてアンモニア:NHを用いる。このSiHCl−NH系酸化反応を、900℃の高温で行わせることにより得られる。プラズマCVD法による窒化珪素膜形成は、反応ガスとしては、Si源としてSiH、窒素源としてNHを用いたSiH−NH系ガスが挙げられる。基板温度は、300〜400℃が好ましい。
【0069】
本実施形態に係るCMP研磨液及び基板の研磨方法は、半導体基板に形成された無機絶縁膜だけでなく、各種半導体装置の製造プロセス等にも適用することができる。本実施形態に係るCMP研磨液及び基板の研磨方法は、例えば、所定の配線を有する配線板に形成された酸化珪素膜、ガラス、窒化珪素等の無機絶縁膜、ポリシリコン、Al、Cu、Ti、TiN、W、Ta、TaN等を主として含有する膜、フォトマスク・レンズ・プリズム等の光学ガラス、ITO(酸化インジウムスズ)等の無機導電膜、ガラス及び結晶質材料で構成される光集積回路、光スイッチング素子、光導波路、光ファイバーの端面、シンチレータ等の光学用単結晶、固体レーザ単結晶、青色レーザLED用サファイヤ基板、SiC、GaP、GaAs等の半導体単結晶、磁気ディスク用ガラス基板、磁気ヘッド等を研磨することにも適用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0071】
(酸化セリウム粉末の作製)
市販の炭酸セリウム水和物:40kgをアルミナ製容器に入れ、830℃、空気中で2時間焼成することにより黄白色の粉末を20kg得た。この粉末の相同定をX線回折法で行ったところ酸化セリウムであることを確認した。得られた酸化セリウム粉末:20kgを、ジェットミルを用いて乾式粉砕し、粉末状の酸化セリウムを得た。
【0072】
(実施例1)
前記で作製した酸化セリウム:200.0gと、脱イオン水:795.0gとを混合し、ポリアクリル酸アンモニウム水溶液(重量平均分子量:8000、40質量%):5gを添加して、攪拌しながら超音波分散を行い、酸化セリウム分散液を得た。超音波分散は、超音波周波数:400kHz、分散時間:20分で行った。
【0073】
その後、1リットル容器(高さ:170mm)に1kgの酸化セリウム分散液を入れて静置し、沈降分級を行なった。分級時間:15時間後、水面からの深さ130mmより上の上澄みをポンプでくみ上げた。得られた上澄みの酸化セリウム分散液を、次いで固形分濃度が5質量%になるように、脱イオン水で希釈して酸化セリウムスラリを得た。
【0074】
酸化セリウムスラリ中における酸化セリウムの平均粒径(D50)を測定するため、He−Neレーザに対する測定時透過率(H)が60〜70%になるように前記スラリを希釈して、測定サンプルとした。この測定サンプルをMalvern社製のレーザ回折式粒度分布計、商品名:Master Sizer Microplusを用い、屈折率:1.93、吸収:0として測定したところ、D50の値は200nmであった。
【0075】
有機酸としてp−トルエンスルホン酸:0.83gと、高分子化合物としてポリアクリル酸(重量平均分子量:4000、固形分:40質量%):10gと脱イオン水:9000gとを混合し、25質量%アンモニア水溶液を加えてpHを4.5に調整した。なお、pHは、pHメータ(横河電機株式会社製の商品名:Model PH81)を用いて、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.21(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極を測定対象に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定した。ここに、前記の酸化セリウムスラリ:660gを添加した後、再度アンモニア水溶液を加えて、pHを5.0に調整した。最後に濃度調整のため、全量が10000gとなるように脱イオン水を加えCMP研磨液とした。
【0076】
また、前記と同様に測定サンプルを調製して、CMP研磨液中の粒子の平均粒径をレーザ回折式粒度分布計で測定した結果、D50の値は200nmであった。
【0077】
(絶縁膜の研磨)
研磨試験ウエハとして、SEMATECH社製の商品名:パタンウエハ864(直径:200mm)とアドバンテック社製のTEOSブランケットウエハ(直径:200mm、初期膜厚:1000nm)用いた。パタンウエハ864とこれを用いた研磨特性の評価方法を、図1を用いて説明する。
【0078】
図1(a)は、ウエハ2の一部分を拡大した模式断面図である。ウエハ2の表面には複数の溝が形成されていて、ウエハ2の凸部表面には厚さ150nmの窒化珪素膜1が形成されている。溝の深さ(凸部の表面から凹部の底面までの深さ)は500nmである。以下、凸部をアクティブ部、凹部をトレンチ部という。なお、ウエハ2には、100μm/100μmのトレンチ部/アクティブ部と、20μm/80μm、80μm/20μmのトレンチ部/アクティブ部とが形成されている。
【0079】
図1(b)は、研磨試験ウエハの一部分を拡大した模式断面図である。研磨試験ウエハは、アクティブ領域表面からの酸化珪素膜3の厚さが600nmとなるように、プラズマTEOS法によってアクティブ領域及びトレンチ部に酸化珪素膜3が形成されている。研磨試験では、研磨試験ウエハの酸化珪素膜3を研磨して平坦化を行う。
【0080】
図1(c)は、酸化珪素膜3を研磨した後の研磨試験ウエハの一部分を拡大した模式断面図である。アクティブ領域の窒化珪素膜1表面で研磨を終了し、このときのトレンチ部の深さ4からトレンチ部内の酸化珪素膜3の厚さ5を引いた値をディッシング量6とする。なお、ディッシング量6は小さい方が良い。
【0081】
このような研磨試験ウエハの研磨には研磨装置(株式会社荏原製作所製、型番:EPO−111)を用いた。基板取り付け用の吸着パッドを貼り付けたホルダーに研磨試験ウエハをセットした。研磨装置の直径:600mmの研磨定盤に、研磨パッド(溝形状=XY−Perforation、Rohm and Haas社製、型番:IC1000/Suba400)を貼り付けた。更に、被研磨膜である絶縁膜(酸化珪素被膜)面を下にして前記ホルダーを研磨定盤上に載せ、加工荷重を350gf/cm(34.3kPa)に設定した。
【0082】
前記研磨定盤上に前記酸化セリウムCMP研磨液を300ミリリットル/分の速度で滴下しながら、研磨定盤と研磨試験ウエハとをそれぞれ60回転/分で作動させて、ウエハの中心に最も近い場所に存在する100μm/100μmのアクティブ部/トレンチ部にあるアクティブ部の膜厚が600nmから0nmになるまで研磨した。研磨後の研磨試験ウエハは、アンモニア水と純水で良く洗浄後、乾燥した。
【0083】
研磨後の研磨試験ウエハについて、100μm/100μmのアクティブ部/トレンチ部にあるトレンチ部の残膜厚をナノメトリクス社製の干渉式膜厚測定装置、商品名:ナノスペック/AFT5100を用いて測定し、ディッシング量を評価した。
【0084】
TEOSブランケットウエハに関しては、研磨時間を60秒とした以外はパタンウエハ864と同条件で研磨し、膜厚の減少量から研磨速度を算出した。
【0085】
実施例2〜11及び比較例1〜5は、実施例1と同様の操作により、表1の濃度になるように、ポリアクリル酸量とpHを調整したCMP研磨液を作成した。酸化セリウムスラリの量及びp−トルエンスルホン酸の量はすべて一定である。これらのCMP研磨液を実施例1のCMP研磨液と同様に研磨試験を行い、ディッシング量と研磨速度を測定した。
【0086】
表1に示すとおり、実施例1〜11では、研磨速度が180nm/min以上と充分な研磨速度を保持したまま、比較例1、2及び4よりもディッシング量が小さいことが明らかであり、本発明の研磨方法により、研磨後の表面の平坦性を向上できることが確認された。
【0087】
【表1】

【符号の説明】
【0088】
1 窒化珪素膜
2 ウエハ
3 酸化珪素膜
4 トレンチ部の深さ
5 研磨後のトレンチ部酸化珪素膜厚
6 ディッシング量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム、有機酸A、高分子化合物B及び水を含むCMP研磨液と、研磨パッドCを使用して、基板に設けられた被研磨膜の少なくとも一部を研磨で除去する研磨方法であって、
前記有機酸Aは、−COOM基、−Ph−OM基、−SOM基、−OSOH基、−PO基及び−PO基(式中、MはH、NH、Na及びKから選択されるいずれか一種であり、Phは置換基を有していても良いフェニル基を示す。)からなる群から選択される少なくとも一つの基を有する有機酸であり、
前記高分子化合物Bはカルボキシル基を有する高分子化合物であって、
前記CMP研磨液のpHは4.5〜7.0であって、
前記高分子化合物Bの含有量が、研磨液全質量に対して0.01〜0.30質量%であって、
前記研磨パッドCには、複数の溝と複数の穴が形成されてなる、
研磨方法。
【請求項2】
被研磨膜が形成された基板の該被研磨膜を研磨パッドに押圧した状態で、CMP研磨液を被研磨膜と研磨パッドとの間に供給しながら、基板と研磨パッドとを相対的に動かして被研磨膜を研磨する、請求項1記載の研磨方法。
【請求項3】
溝は、研磨パッド平面上において互いに平行な複数の溝で構成されるX溝と、前記研磨パッド平面上において前記X溝に対して垂直な複数の溝で構成されるY溝と、から構成されるXY溝を有してなる請求項1又は2記載の研磨方法。
【請求項4】
研磨パッド上の複数のX溝は、複数の溝が等間隔に設けられてなる請求項3記載の研磨方法。
【請求項5】
研磨パッド上の複数のX溝及びY溝は、それぞれ、複数の溝が等間隔に設けられてなる請求項3又は4記載の研磨方法。
【請求項6】
研磨パッドは、X溝の間隔とY溝の間隔とが等しく形成された格子状溝を有してなる請求項5記載の研磨方法。
【請求項7】
被研磨膜は、酸化珪素を含む膜である請求項1〜6のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項8】
被研磨膜は、基板上の回路素子及び/若しくは配線パターン上に形成された、又はシャロー・トレンチ分離層に形成された酸化珪素を含む膜である請求項1〜7のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項9】
有機酸Aの含有量は、研磨液全質量基準で0.0001〜5質量%である請求項1〜8のいずれかに記載の研磨方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−45944(P2013−45944A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183627(P2011−183627)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】