説明

基板ケース

【課題】フォトマスク基板などの基板を収容して搬送または保管する際に用いられる基板ケースにおいて、ケース本体内に収容された基板の脱ガスによる汚染を低減する。
【解決手段】基板ケース1は、樹脂製の板材51〜55を接着剤で接合した一方のケース片5に対して、樹脂製の板材61〜65を接着剤で接合した他方のケース片6が着脱自在に取り付けられたケース本体2を有している。ケース本体2内には、基板収容空間3が形成されている。ケース本体2には、接着剤から発生する脱ガスをケース本体2の外部へ排出する排気孔7が設けられている。これにより、接着剤から発生する脱ガスを排気孔7からケース本体2の外部へ排出して除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク基板やペリクル、半導体基板など各種の基板を収容して搬送または保管する際に用いられる基板ケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の基板ケースとしては、樹脂製の板材をアセトニトリルなどの接着剤で接合して一対のケース片を箱状に組み立てて、一方のケース片に他方のケース片を着脱自在に取り付けたケース本体を有し、このケース本体内に基板収容空間が形成されたものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−170507号公報(段落〔0016〕の欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これでは、板材同士を接合している接着剤が硬化した後も、この接着剤から少量の脱ガス(水蒸気、低分子の炭化水素、アルコールなど)が発生するため、ケース本体内の基板収容空間に基板を収容して搬送・保管するときに、この基板の表面が脱ガスに汚染される恐れがある。この場合、基板の表面が曇ってしまうため、基板の検査および洗浄をやり直さなければならず、特に大型の基板では面倒で手間がかかるという課題があった。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑み、ケース本体内に収容された基板の脱ガスによる汚染を低減することが可能な基板ケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る第1の基板ケースは、樹脂製の板材(51、52、53、54、55、151、152、153、154、155)を接着剤で接合した一方のケース片(5、15)に対して、樹脂製の板材(61、62、63、64、65、161、162、163、164、165)を接着剤で接合した他方のケース片(6、16)が着脱自在に取り付けられたケース本体(2)を有し、このケース本体内に基板収容空間(3)が形成された基板ケース(1)であって、前記ケース本体には、前記接着剤から発生する脱ガスを当該ケース本体の外部へ排出する排気孔(7)が設けられている基板ケースとしたことを特徴とする。
【0006】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものでないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、板材同士を接合している接着剤から発生する脱ガスを排気孔からケース本体の外部へ排出して除去することができるため、ケース本体内に収容された基板の脱ガスによる汚染を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0009】
図1および図2は、本発明の実施の形態1に係る図である。
【0010】
まず、構成を説明する。
【0011】
この縦型の基板ケース1は、図1に示すように、六面体箱状の樹脂製のケース本体2を有しており、ケース本体2内には基板収容空間3が形成されている。このケース本体2は、互いに着脱自在な一対のケース片、すなわち下ケース片(一方のケース片)5および上ケース片(他方のケース片)6から構成されている。
【0012】
ここで、下ケース片5は、図1および図2に示すように、平板状の底板(板材)51の周囲に4枚の平板状の側板(板材)52、53、54、55がアセトニトリルなどの接着剤で接合されて箱状に組み立てられている。これらの底板51、側板52、53、54、55はいずれも、制電性を備えた透明な樹脂(例えば、株式会社クレハ製の「バイヨン(登録商標)」など)で成型されている。底板51の上面には、図2に示すように、一対の基板支持材56、57が底板51および側板52、54にアセトニトリルなどの接着剤で接合された形で取り付けられている。また、側板52、54の外周面にはそれぞれストッパ58、59が付設されている。さらに、側板53には、図1に示すように、円形の排気孔7がケース本体2の内外を連通するように形成されている。
【0013】
他方、上ケース片6は、図1および図2に示すように、平板状の天板(板材)61の周囲に4枚の平板状の側板(板材)62、63、64、65がアセトニトリルなどの接着剤で接合されて箱状に組み立てられている。これらの天板61、側板62、63、64、65はいずれも、制電性を備えた透明な樹脂(例えば、株式会社クレハ製の「バイヨン(登録商標)」など)で成型されている。天板61の下面には、図2に示すように、一対の基板支持材66、67がアセトニトリルなどの接着剤で接合された形で取り付けられている。また、側板65には、図1に示すように、ケース本体2の中心点について排気孔7とほぼ点対称となる位置に、円形の吸気孔9がケース本体2の内外を連通するように形成されている。
【0014】
次に、作用について説明する。
【0015】
基板ケース1は以上のような構成を有するので、この基板ケース1を用いて基板を搬送または保管する際には次の手順による。
【0016】
まず、下ケース片5に上ケース片6が嵌着されていない状態で、図2に二点鎖線で示すように、基板収容空間3に基板10を収容する。このとき、下ケース片5の一対の基板支持材56、57で基板10の下端部を挟み込むようにする。
【0017】
次に、下ケース片5に上ケース片6を落とし込んで嵌着する。すると、上ケース片6は、図2に一点鎖線で示すように、その下端部がストッパ58、59に当接したところで停止し、基板10は、その上端部が上ケース片6の一対の基板支持材66、67で挟み込まれた状態となる。
【0018】
この状態で、基板10を基板ケース1ごと搬送または保管する。このとき、基板10は、上下両端部が基板支持材66、67、56、57で挟み込まれた形で確実に保持されているので、基板10が基板ケース1と干渉して損傷を受ける恐れはない。
【0019】
ところで、こうして基板ケース1を用いて基板10を搬送または保管すると、下ケース片5、上ケース片6の組立や基板支持材56、57、66、67の取付に使用された接着剤から少量の脱ガス(水蒸気、低分子の炭化水素、アルコールなど)が発生する場合がある。また、ケース本体2に使用される樹脂からも微量の脱ガスが発生する場合がある。しかし、ケース本体2には排気孔7が設けられているので、ケース本体2の内外における脱ガスの濃度差に基づく拡散により、ケース本体2内の脱ガス(接着剤に起因する脱ガスとケース本体2に起因する脱ガスの両方を含む。)は、排気孔7からケース本体2の外部へ自然排気されて除去される。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生を低減することができる。
【0020】
また、ケース本体2には吸気孔9が設けられており、脱ガスの排気時に外気が吸気孔9からケース本体2内に取り込まれるため、脱ガスの排気が迅速に行われる。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生を一層低減することができる。
【0021】
しかも、排気孔7と吸気孔9とは、上述したとおり、互いにケース本体2の中心点についてほぼ点対称となる位置に設けられているため、脱ガスの排気時の気体の流れを円滑にすることができる。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生をますます低減することができる。
【0022】
また、この基板ケース1では、ケース本体2が透明であるため、ケース本体2を閉じたままでケース本体2の内部の様子を外部から視認することができ、利便性に優れる。
【0023】
さらに、この基板ケース1では、ケース本体2が制電性を備えているため、静電気によるパーティクルの付着を防止することができる。
[発明の実施の形態2]
【0024】
図3および図4は、本発明の実施の形態2に係る図である。
【0025】
この横型の基板ケース1は、図3に示すように、六面体箱状の樹脂製のケース本体2を有しており、ケース本体2内には基板収容空間3が形成されている。このケース本体2は、互いに着脱自在な一対のケース片、すなわち前ケース片(一方のケース片)15および後ケース片(他方のケース片)16から構成されている。
【0026】
ここで、前ケース片15は、図3および図4に示すように、平板状の前方板(板材)151の周囲に平板状の天板(板材)152、側板(板材)153、155、底板(板材)154がアセトニトリルなどの接着剤で接合されて箱状に組み立てられている。これらの前方板151、天板152、側板153、155、底板154はいずれも、制電性を備えた透明な樹脂(例えば、株式会社クレハ製の「バイヨン(登録商標)」など)で成型されている。前方板151の内面には、図4に示すように、一対の基板支持材156、157がアセトニトリルなどの接着剤で接合された形で取り付けられている。また、前方板151には、図3に示すように、円形の排気孔7がケース本体2の内外を連通するように形成されている。
【0027】
他方、後ケース片16は、図3および図4に示すように、平板状の後方板(板材)161の周囲に平板状の天板(板材)162、側板(板材)163、165、底板(板材)164がアセトニトリルなどの接着剤で接合されて箱状に組み立てられている。これらの後方板161、天板162、側板163、165、底板164はいずれも、制電性を備えた透明な樹脂(例えば、株式会社クレハ製の「バイヨン(登録商標)」など)で成型されている。後方板161には、図3に示すように、ケース本体2の中心点について排気孔7とほぼ点対称となる位置に、円形の吸気孔9がケース本体2の内外を連通するように形成されている。
【0028】
次に、作用について説明する。
【0029】
基板ケース1は以上のような構成を有するので、この基板ケース1を用いて基板を搬送または保管する際には次の手順による。
【0030】
まず、前ケース片15に後ケース片16が嵌着されていない状態で、図4に二点鎖線で示すように、基板収容空間3に基板10を収容する。それには、基板10の下端部を基板支持材156に係合させた後、基板10の上端部を基板支持材157に係合させる。すると、基板10は、上下両端部を基板支持材157、156で挟み込まれ、基板収容空間3に収容された状態となる。
【0031】
次に、図4に一点鎖線で示すように、前ケース片15に後ケース片16を嵌着する。
【0032】
この状態で、基板10を基板ケース1ごと搬送または保管する。このとき、基板10は、上下両端部が基板支持材157、156で挟み込まれた形で確実に保持されているので、基板10が基板ケース1と干渉して損傷を受ける恐れはない。
【0033】
ところで、こうして基板ケース1を用いて基板10を搬送または保管すると、前ケース片15、後ケース片16の組立や基板支持材の取付に使用された接着剤から少量の脱ガス(水蒸気、低分子の炭化水素、アルコールなど)が発生する場合がある。また、ケース本体2に使用される樹脂からも微量の脱ガスが発生する場合がある。しかし、ケース本体2には排気孔7が設けられているので、ケース本体2の内外における脱ガスの濃度差に基づく拡散により、ケース本体2内の脱ガス(接着剤に起因する脱ガスとケース本体2に起因する脱ガスの両方を含む。)は、排気孔7からケース本体2の外部へ自然排気されて除去される。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生を低減することができる。
【0034】
また、ケース本体2には吸気孔9が設けられており、脱ガスの排気時に外気が吸気孔9からケース本体2内に取り込まれるため、脱ガスの排気が迅速に行われる。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生を一層低減することができる。
【0035】
しかも、排気孔7と吸気孔9とは、上述したとおり、互いにケース本体2の中心点についてほぼ点対称となる位置に設けられているため、脱ガスの排気時の気体の流れを円滑にすることができる。その結果、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生をますます低減することができる。
【0036】
また、この基板ケース1では、ケース本体2が透明であるため、ケース本体2を閉じたままでケース本体2の内部の様子を外部から視認することができ、利便性に優れる。
【0037】
さらに、この基板ケース1では、ケース本体2が制電性を備えているため、静電気によるパーティクルの付着を防止することができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0038】
なお、上述した実施の形態1、2では、ケース本体2内の脱ガスを排気孔7から自然排気する場合について説明した。しかし、排気孔7に真空ポンプなどの減圧手段(図示せず)を接続し、この減圧手段を用いて、ケース本体2内の気体を吸引してケース本体2内を減圧することにより、脱ガスをケース本体2の外部へ強制的に排出することもできる。この場合、脱ガスの排気を迅速に行うことができるので、ケース本体2内に収容された基板10の表面が脱ガスに汚染される事態の発生を一層低減することができる。
【0039】
また、上述した実施の形態1、2では、脱ガスの排気時に外気を吸気孔9からケース本体2内に取り込む場合について説明したが、ケース本体2内の雰囲気を乾燥ガスで置換するようにしても構わない。それには、ケース本体2内のガスを排気孔7から吸引して排出した後、吸気孔9からケース本体2内に乾燥ガスを導入する。或いは、ケース本体2内のガスを排気孔7から吸引して排出しながら、吸気孔9からケース本体2内に乾燥ガスを導入する。すると、ケース本体2内の雰囲気が乾燥ガスで置換された状態となる。この乾燥ガスとしては、コスト面からドライ窒素を用いることが望ましいが、ドライ窒素以外の乾燥ガス(例えば、不活性ガス、ドライアルゴンなど)を代用または併用することも可能である。
【0040】
さらに、上述した実施の形態1では、底板51、側板52、53、54、55、天板61、側板62、63、64、65のみを構造躯体とするケース本体2について説明し、上述した実施の形態2では、前方板151、天板152、側板153、155、底板154、後方板161、天板162、側板163、165、底板164のみを構造躯体とするケース本体2について説明した。しかし、アルミニウム製のアングルなどの金属フレーム(図示せず)を補強部材としてケース本体2に適宜配置して併用することにより、ケース本体2の強度を高めることもできる。この場合、ケース本体2の強度向上に伴い、ケース本体2内に収容する基板10の許容重量を増大させることが可能となり、特に横型の基板ケース1において、その汎用性が向上する。
【0041】
さらにまた、上述した実施の形態1では、底板51、側板52、53、54、55、天板61、側板62、63、64、65の材料が、制電性を備えた透明な樹脂である場合について説明し、上述した実施の形態2では、前方板151、天板152、側板153、155、底板154、後方板161、天板162、側板163、165、底板164の材料が、制電性を備えた透明な樹脂である場合について説明した。しかし、制電性のない樹脂の表面に制電コートを設けた材料を代用することも可能である。この場合、制電コートから発生する脱ガスをケース本体2の内部から排気孔7を介してケース本体2の外部へ排出して効率よく除去することができるので、ケース本体2中の基板10の汚染を低減することが可能となる。なお、ケース本体2が制電性を備えている必要がない場合には、十分な強度および耐久性を備えている限り、発泡樹脂、ABS樹脂、PAN樹脂(例えば、三井化学株式会社製の「バレックス」(登録商標))などを代用することもできる。
【0042】
また、上述した実施の形態2では、前ケース片15および後ケース片16が完全に2つに分離するタイプの基板ケース1について説明したが、前ケース片15および後ケース片16がヒンジ(図示せず)を介して開閉自在に連結された基板ケース1に本発明を同様に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、フォトマスクケースのインナーケースやアウターケースをはじめとする各種の基板ケースに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1に係る縦型の基板ケースの斜視図である。
【図2】同実施の形態1に係る基板ケースの垂直断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る横型の基板ケースの斜視図である。
【図4】同実施の形態2に係る基板ケースの垂直断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1……基板ケース
2……ケース本体
3……基板収容空間
5……下ケース片(一方のケース片)
6……上ケース片(他方のケース片)
7……排気孔
9……吸気孔
10……基板
15……前ケース片(一方のケース片)
16……後ケース片(他方のケース片)
51……底板(板材)
52、53、54、55……側板(板材)
56、57……基板支持材
58、59……ストッパ
61……天板(板材)
62、63、64、65……側板(板材)
66、67……基板支持材
151……前方板(板材)
152……天板(板材)
153、155……側板(板材)
154……底板(板材)
161……後方板(板材)
162……天板(板材)
163、165……側板(板材)
164……底板(板材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の板材を接着剤で接合した一方のケース片に対して、樹脂製の板材を接着剤で接合した他方のケース片が着脱自在に取り付けられたケース本体を有し、このケース本体内に基板収容空間が形成された基板ケースであって、
前記ケース本体には、前記接着剤から発生する脱ガスを当該ケース本体の外部へ排出する排気孔が設けられていることを特徴とする基板ケース。
【請求項2】
前記ケース本体は、前記排気孔を介して前記ケース本体内の気体を吸引して当該ケース本体内を減圧することにより、前記脱ガスを当該ケース本体の外部へ排出しうるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の基板ケース。
【請求項3】
前記ケース本体には、当該ケース本体の内部へ気体を導入する吸気孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の基板ケース。
【請求項4】
前記ケース本体は、前記排気孔を介して当該ケース本体内の気体を排出するとともに、前記吸気孔を介して当該ケース本体内に乾燥ガスを導入することにより、当該ケース本体内の気体を前記乾燥ガスで置換しうるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の基板ケース。
【請求項5】
前記乾燥ガスは、ドライ窒素を含むことを特徴とする請求項4に記載の基板ケース。
【請求項6】
前記ケース本体は、透明であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の基板ケース。
【請求項7】
前記ケース本体は、制電性を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の基板ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−113308(P2010−113308A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288153(P2008−288153)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】