説明

基板保持体、基板保持体の再生方法及び基板保持体の製造方法

【課題】再製作が容易な基板保持体を提供する。
【解決手段】ウェハWを吸着保持するスピンチャック1は、第1の温度以上の耐熱性を有する吸着盤10と、吸着盤10上面の外周縁部に沿って連続して設けられたシール部材11と、吸着盤10の上面であってシール部材11の内側に設けられた支持部材12と、を有している。シール部材11と支持部材12は、第1の温度より低い第2の温度以上で炭化する紫外線硬化樹脂により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を保持する基板保持体、当該基板保持体の再生方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造プロセスにおけるフォトリソグラフィー工程では、例えば半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という。)上にレジスト液を塗布しレジスト膜を形成するレジスト塗布処理、レジスト膜を所定のパターンに露光する露光処理、露光されたレジスト膜を現像する現像処理などが順次行われ、ウェハ上に所定のレジストパターンが形成されている。
【0003】
上述したレジスト塗布処理では、例えばスピンチャックによりウェハを吸着保持した状態で、例えば塗布ノズルからウェハ上にレジスト液を供給し、次いでウェハを回転させて、レジスト液をウェハ表面に拡散させる方法、いわゆるスピンコーティング法が広く用いられている。
【0004】
上述のスピンコーティング法ではウェハを高速回転させるので、ウェハを吸着保持するスピンチャックには、高い負圧吸着力が求められる。そのため、例えば図17に示すように、従来のスピンチャック100では、略円盤状の吸着盤101の上面の外周縁部に、上に向かって凸状のシール部102を円環状に連続して設け、当該シール部102の内周側に、ウェハWを支持する、上に向かって凸状の支持部103を、シール部102に同心円状に設けている。
【0005】
そして、シール部102上面の高さを支持部103上面の高さよりも高く形成することで、ウェハWをシール部102及び支持部103上に載置した状態で吸着盤101の内部に形成された吸気孔(図示せず)から排気してウェハWを吸着保持する際に、ウェハWを吸着する力がシール部102にシール荷重として作用する。その結果、スピンチャック100は、高い負圧吸着力でウェハWを吸着保持できる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−19317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のスピンチャック100は、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)などで一体成形されている。そして、シール部102のシール性能を高めるため、成形後にシール部102の上端面を研磨して鏡面状に仕上げる作業などが行われる。そのため、スピンチャック100の製作に時間がかかると共に、製作コストも高くなってしまう。
【0008】
しかしながら、スピンチャック100のシール部102や支持部103は、使用するにつれて磨耗するため、所定の回数使用した後にスピンチャック100を交換する必要がある。そのため、その都度スピンチャック100を製作する必要があり、スピンチャック100を用いて塗布処理を行う、例えば塗布処理装置においては当該塗布処理装置の維持コストが高くなってしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本発明者らは、使用済みのスピンチャック100を基にして新たなスピンチャック100を容易に再製作できるようにすれば、スピンチャック100の製作コストや製作時間を低減することができる点に着目した。具体的には、シール部102や支持部103を吸着盤101と一体に形成するのではなく、例えば吸着盤101の材質と、シール部102及び支持部103の材質とを異なったものとし、シール部102や支持部103が磨耗した際に、当該シール部102や支持部103のみを容易に除去できるようにするのである。この場合、シール部102と支持部103を除去した吸着盤101に、再度シール部102と支持部103を形成すれば、当該吸着盤101を基にして新たなスピンチャック100を容易に製作することができる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、再製作が容易な基板保持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明は、基板を吸着保持する基板保持体であって、第1の温度以上の耐熱性を有する吸着盤と、前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して設けられたシール部材と、前記吸着盤上面であって前記シール部材の内側に設けられた支持部材と、を有し、前記シール部材と前記支持部材は、前記第1の温度より低い第2の温度で炭化する材料により構成されていることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、シール部材と支持部材が、吸着盤の耐熱温度である前記第1の温度よりも低い第2の温度で炭化する材料で形成されているので、例えば繰り返し使用することによりシール部材と支持部材が磨耗した場合に、シール部材と支持部材を第1の温度より低く且つ第2の温度以上で加熱することで、シール部材と支持部材を炭化して容易に除去することができる。そして、シール部材と支持部材を除去した吸着盤に、再度シール部材と支持部材を形成すれば、この吸着盤を基にして新たな基板保持体を容易に製作することができる。その結果、基板保持体の製作コストや製作時間を低減することができる。
【0013】
前記シール部材及び前記支持部材は、紫外線硬化樹脂により形成されていてもよい。
【0014】
前記紫外線硬化樹脂には、ポリエチレンジオシチオフェンを含有させることで導電性が付与されていてもよい。
【0015】
前記吸着盤はセラミックスにより形成されていてもよい。
【0016】
前記吸着盤は、導電性部材を含有させることで導電性が付与されたアルミナ、炭化シリコン又は窒化シリコンのいずれかであってもよい。
【0017】
前記第1の温度は1000℃であってもよく、前記第2の温度は400℃〜600℃であってもよい。
【0018】
前記吸着盤には、当該吸着盤を回転させる回転軸が設けられ、前記吸着盤と前記回転軸とは、前記第1の温度より低い第3の温度以上で溶融する接着剤により接合されていてもよい。
【0019】
前記第3の温度は、150℃〜200℃であってもよい。
【0020】
前記シール部材及び前記支持部材の上端部は、その断面形状が球面状であってもよい。
【0021】
前記シール部材と前記支持部材は、硫酸と過酸化水素水の混合液により除去可能な紫外線硬化樹脂により形成され、前記吸着盤は、第1の温度以上の耐熱性に代えて、前記硫酸と過酸化水素水の混合液への耐性を有していてもよい。
【0022】
前記硫酸と過酸化水素水の混合液は、硫酸と過酸化水素水の配合率が6:1であってもよい。
【0023】
別な観点による本発明によれば、基板を吸着保持する前記基板保持体の再生方法であって、前記基板保持体は、第1の温度以上の耐熱性を有する吸着盤と、前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して設けられたシール部材と、前記吸着盤の上面であって前記シール部材の内側に設けられた支持部材と、を有し、且つ前記シール部材と前記支持部材は、前記第1の温度より低い第2の温度以上で炭化する材料により形成され、前記シール部材及び前記支持部材を、前記第1の温度より低く且つ前記第2の温度以上で加熱することで、前記シール部材と前記支持部材を炭化して除去し、その後、前記シール部材と前記支持部材が除去された吸着盤の上面の外周縁部に沿って連続して液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に前記液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、その後、前記吸着盤上面に塗布された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射して当該紫外線硬化樹脂を硬化させることを特徴としている。
【0024】
前記シール部材と前記支持部材は、硫酸と過酸化水素水の混合液により除去可能な紫外線硬化樹脂により形成され、前記吸着盤は、第1の温度以上の耐熱性に代えて、前記硫酸と過酸化水素水の混合液への耐性を有し、前記シール部材及び前記支持部材の前記吸着盤からの除去は、前記第1の温度より低く且つ前記第2の温度以上での加熱に代えて、硫酸と過酸化水素水の混合液に浸漬させることにより行われてもよい。
【0025】
前記硫酸と過酸化水素水の混合液は、硫酸と過酸化水素水の配合率が6:1であってもよい。
【0026】
また、別な観点による本発明によれば、前記基板保持体の製造方法であって、前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に前記液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、その後、前記吸着盤上面に塗布された紫外線硬化樹脂に紫外線を照射して当該紫外線硬化樹脂を硬化させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、再製作が容易な基板保持体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態にかかるスピンチャックの構成の概略を示す、縦断面図である。
【図2】本実施の形態にかかるスピンチャックの構成の概略を示す、平面図である。
【図3】吸着盤から回転軸を取り外す様子を示す説明図である。
【図4】シール部材及び支持部材を加熱して炭化し、吸着盤から除去した状態を示す説明図である。
【図5】吸着盤にレジストパターンを形成した状態を示す説明図である。
【図6】吸着盤に離型剤を塗布した状態を示す説明図である。
【図7】吸着盤からレジストパターンを除去した状態を示す説明図である。
【図8】吸着盤に紫外線硬化樹脂を塗布する様子を示す説明図である。
【図9】紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化させる様子を示す説明図である。
【図10】吸着盤に回転軸を接続した状態を示す説明図である。
【図11】テンプレートに離型剤と紫外線硬化樹脂を塗布した状態を示す説明図である。
【図12】離型剤と紫外線硬化樹脂を塗布したテンプレートを吸着盤10に押し付けた状態を示す説明図である。
【図13】テンプレートを上昇させ、吸着盤に紫外線硬化樹脂を転写した状態を示す説明図である。
【図14】従来のスピンチャックを用いて吸着保持したウェハの裏面におけるパーティクルの分布図、及びパーティクルの粒径毎の個数を示すグラフである。
【図15】本実施の形態にかかるスピンチャックを用いて吸着保持したウェハの裏面におけるパーティクルの分布図、及びパーティクルの粒径毎の個数を示すグラフである。
【図16】他の実施の形態にかかるスピンチャックの構成の概略を示す、平面図である。
【図17】従来のスピンチャックの構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる基板保持体としてのスピンチャック1の構成の概略を示す平面図である。図2は、スピンチャック1の構成の概略を示す縦断面図である。
【0030】
スピンチャック1は、図1、図2に示すように、所定の厚みを持った略円盤状の吸着盤10を有している。
【0031】
吸着盤10の材料としては、例えば1000℃以上の耐熱性を有する、例えばアルミナ、炭化シリコン、窒化シリコン等のセラミックスを用いることができる。なお、本実施の形態においては、例えばセラミックスに導電性の添加剤を付与することで、吸着盤10に導電性を付与している。
【0032】
吸着盤10の外周縁部の上面には、当該外周縁部に沿って連続した、円環状のシール部材11が設けられている。
【0033】
吸着盤10の上面であって、シール部材11の内側、即ち吸着盤10上面におけるシール部材に囲まれた領域には、シール部材11に同心円状に、略円環状の支持部材12が複数設けられている。図2に示すように、支持部材12は、例えば平面視において半円環状の部材を所定の間隔あけて配置して構成されている。これにより、後述する排気孔21を介して吸着盤10上面の雰囲気を排気した際に、支持部材12の間を、吸着盤10の直径方向に沿って排気できるようになっている。
【0034】
シール部材11及び支持部材12は、例えば図1に示すように、断面形状が上に凸状の略半円形状に構成されている。そのため、シール部材11及び支持部材12の上端部は、その断面形状が球面状になっている。したがって、スピンチャック1により吸着保持されるウェハWと、シール部材11及び支持部材12とは、平面と球面で接する。そのため、例えばウェハWがシール部材11及び支持部材12と接触した際に、当該ウェハWの裏面が削られにくくなる。
【0035】
シール部材11の内側に隣接して設けられた支持部材12は、その上端部の高さがシール部材11の上端部の高さより低く形成されている。また、各支持部材12は、上端部の高さが、吸着盤10の外周方向から中心方向に向かって順に低くなるように形成されている。なお、シール部材11及び支持部材12の高さHは、例えば0.2mm〜0.5mmである。
【0036】
シール部材11及び支持部材12は、例えば紫外線を照射することにより懸架反応が生じて硬化する、紫外線硬化樹脂により形成されている。紫外線硬化樹脂としては、吸着盤10の耐熱温度よりも低い、例えば400℃〜600℃以上で炭化するものが用いられる。また、本実施の形態においては、シール部材11及び支持部材12を形成する紫外線硬化樹脂に、PEDOT(ポリエチレンジオシチオフェン)を含有させることで、シール部材11及び支持部材12に導電性を付与している。
【0037】
図2に示すように、吸着盤10の中心には、当該吸着盤10を厚み方向に貫通する回転軸20が設けられている。回転軸20は、その上端部の高さが、例えば吸着盤10の上面と同じかそれより低くなるように吸着盤10に接続されている。また、回転軸20は、例えば図示しない回転機構に接続されており、当該回転機構により回転軸20を回転させることで、吸着盤10を回転させることができる。
【0038】
回転軸20は、吸着盤10と熱膨張率が同程度で且つ導電性を有する、例えばチタンにより形成されている。また、回転軸20と吸着盤10とは、導電性の接着剤Gにより固定されている。なお、接着剤Gには、例えば上述の紫外線硬化樹脂が炭化する温度よりも低い、例えば150℃〜200℃以上の温度で溶融するものが用いられる。
【0039】
回転軸20の内部には、図示しない排気機構に接続された排気孔21が形成されている。そのため、スピンチャック1の上面、即ちシール部材11及び支持部材12の上面にウェハWを載置した状態で、排気孔21から排気することで、シール部材11、ウェハW及び吸着盤10に囲まれた空間を負圧にし、当該スピンチャック1によりウェハWを吸着保持することができる。
【0040】
そして、例えばレジスト塗布処理などを行う際には、スピンチャック1にウェハWを吸着保持した状態で当該ウェハWの表面にレジスト液を供給する。そして、スピンチャック1を回転させることでレジスト液がウェハWの表面に塗り広げられる。
【0041】
ところで、ウェハWへの塗布処理などにスピンチャック1を繰り返し用いると、上述のように、スピンチャック1と当該スピンチャック1に吸着保持されるウェハWとの接触により、シール部材11や支持部材12が磨耗してしまう。そうすると、ウェハWとシール部材11の間の気密性が維持できなくなったり、支持部材12によりウェハWを均等に保持できなくなったりするため、スピンチャック1を交換する必要がある。
【0042】
この点について、本実施の形態にかかるスピンチャック1は、紫外線硬化樹脂の炭化温度及び接着剤の溶融温度を、吸着盤10の耐熱温度より低くしているので、シール部材11や支持部材12が磨耗してしまった場合でも、当該シール部材11や支持部材12が磨耗したスピンチャック1を基に、新たなスピンチャック1を容易に再製作することができる。以下、具体的にスピンチャック1の再製作の工程について説明する。図3〜図10は、スピンチャック1の再生工程の概略を示す説明図である。
【0043】
スピンチャック1の再製作にあたっては、先ず吸着盤10と回転軸20とを接合する接着剤Gの溶融温度以上の温度、例えば150℃で、スピンチャック1を加熱する。これにより、接着剤Gを溶融させ、図3に示すように、吸着盤10から回転軸20が取りはずされる。
【0044】
次に、シール部材11と支持部材12を例えば吸着盤10ごと、吸着盤10の耐熱温度より低く且つシール部材11と支持部材12を構成する紫外線硬化樹脂Rの炭化温度以上の温度、例えば550℃で加熱する。これにより、シール部材11及び支持部材12が炭化され、図4に示すように、当該シール部材11と支持部材12とが吸着盤10から除去され、吸着盤10のみが残される。
【0045】
次に、図5に示すように、シール部材11と支持部材12が除去された吸着盤10の上面であって、シール部材11及び支持部材12が設けられていた箇所に、例えばフォトリソグラフィーによりレジストパターンPを形成する。
【0046】
次いで、図6に示すように、レジストパターンPが形成された吸着盤10に離型剤Sを塗布する。この際、吸着盤10におけるレジストパターンPが形成されている箇所は、当該レジストパターンPによりマスキングされ、離型剤Sは塗布されない。なお、離型剤Sの材料には、上述の紫外線硬化樹脂に対して撥液性を有する材料、例えばフッ素樹脂等が用いられる。
【0047】
その後、図7に示すように、レジストパターンPを例えばエッチング等により除去する。これにより、吸着盤10の上面に、離型剤Sによってシール部材11及び支持部材12に対応するネガパターンが形成される。その後、離型剤Sによるネガパターンが形成された吸着盤10を、例えば200℃に加熱して、離型剤Sを焼成して固化させる。なお、離型剤Sを固化させるにあたっては必ずしも焼成する必要はなく、例えば所定の時間常温環境下に置いておくことで固化させてもよい。
【0048】
その後、図8に示すように、吸着盤10上面の離型剤Sが塗布されていない箇所に、例えば塗布ノズル30を用いて紫外線硬化樹脂Rを塗布する。この際、吸着盤10上面に塗布された紫外線硬化樹脂Rの周囲には、紫外線硬化樹脂Rに対して撥液性を有する離型剤Sが塗布されているので、吸着盤10に塗布された紫外線硬化樹脂Rは、表面張力により上に凸状となる。
【0049】
その後、図9に示すように、紫外線硬化樹脂Rが塗布された吸着盤10に紫外線Uを照射して紫外線硬化樹脂Rを硬化させ、シール部材11と支持部材12を形成する。具体的には、吸着盤10の上面の外周縁部に沿って塗布された紫外線硬化樹脂Rを硬化させることでシール部材11が形成され、吸着盤10の上面であってシール部材11の内側に塗布された紫外線硬化樹脂Rを硬化させることで複数の支持部材12がそれぞれ形成される。
【0050】
その後、離型剤Sを除去し、図10に示すように、シール部材11と支持部材12が形成された吸着盤10に回転軸20を接着剤Gを介して接続する。これにより、使用済みのスピンチャック1を再生して、新たなスピンチャックを製作することができる。
【0051】
以上の実施の形態によれば、スピンチャック1のシール部材11と支持部材12が、吸着盤10の耐熱温度よりも低い温度で炭化する材料で形成されているので、例えばスピンチャック1を繰り返し使用することによりシール部材11と支持部材12が磨耗した場合に、シール部材11と支持部材12を吸着盤10の耐熱温度より低く且つシール部材11と支持部材12の炭化温度以上の温度で加熱することで、シール部材11と支持部材12を炭化し、吸着盤10から容易に除去することができる。そして、シール部材11と支持部材12を除去した後の吸着盤10に、再度シール部材11と支持部材12を形成すれば、この吸着盤10を基にして新たなスピンチャック1を容易に製作することができる。その結果、スピンチャック1の製作コストや製作時間を低減することができる。
【0052】
なお、以上の実施の形態では、吸着盤10の耐熱温度、紫外線硬化樹脂Rの炭化温度、接着剤Gの溶融温度を、この順で低くなるようにしていたが、紫外線硬化樹脂Rの炭化温度及び接着剤Gの溶融温度については、吸着盤10の耐熱温度よりも低ければ、接着剤Gの溶融温度が紫外線硬化樹脂Rの炭化温度を上回っていてもよい。いずれの場合においても、吸着盤10の耐熱温度が、紫外線硬化樹脂Rの炭化温度及び接着剤Gの溶融温度を上回っていれば、吸着盤10の耐熱温度より低く且つ接着剤Gの溶融温度及び紫外線硬化樹脂Rの炭化温度以上の温度で加熱することで、吸着盤10を損傷させることなくシール部材11、支持部材12及び接着剤Gを吸着盤10から除去することができる。
【0053】
なお、吸着盤10から紫外線硬化樹脂R、即ちシール部材11及び支持部材12を除去する方法として、加熱してシール部材11及び支持部材12を炭化させる以外に、例えば吸着盤10ごとシール部材11及び支持部材12を薬液に浸漬させて除去する方法を用いてもよい。
【0054】
具体的には、例えば濃度98wt%の硫酸(HSO)と濃度30wt%の過酸化水素水(H)を、6:1の配合率で混合した混合液を130℃に加熱し、当該加熱した混合液中に吸着盤10ごとシール部材11及び支持部材12を30秒間浸漬させる。これにより、シール部材11及び支持部材12を溶解させ、吸着盤10から除去することができる。この際、セラミックスである吸着盤10は、混合液に溶解することがない。その後、吸着盤10を混合液から引き上げ、約5分間、例えば純水にて流水洗浄を行い、次いで自然乾燥させることで、吸着盤10をシール部材11と支持部材12が形成される前の状態に戻すことができる。かかる場合、吸着盤10の材質に求められる特性は、上述の加熱した混合液への耐性であり、セラミックスのような1000℃以上の耐熱性については不要である。したがって、硫酸と過酸化水素水の混合液によりシール部材11及び支持部材12を除去する場合においては、吸着盤10の材料として、セラミックス以外にも、例えば耐薬品性の樹脂などを用いることができる。
【0055】
以上の実施の形態においては、使用済みのスピンチャック1を再生して新たなスピンチャック1を製作する場合について説明したが、例えば、新規な吸着盤10からスピンチャック1を新たに製作する場合は、シール部材11と支持部材12の炭化除去は不要であるので、上述の図5〜図10に示される工程のみを行えばよい。
【0056】
以上の実施の形態では、例えば塗布ノズル30により紫外線硬化樹脂Rを吸着盤10に塗布したが、紫外線硬化樹脂Rの塗布方法については本実施の形態に限定されるものではなく、例えばスクリーン印刷などにより塗布してもよいし、いわゆるインプリント法により塗布してもよい。
【0057】
インプリント法を用いる場合は、例えば図11に示すように、シール部材11と支持部材12の凹凸パターンが形成されたテンプレート40に離型剤Sを塗布し、離型剤Sの上から紫外線硬化樹脂Rをテンプレート40に塗布する。次いで、図12に示すように、当該テンプレート40を吸着盤10に押し付けることにより、図13に示すようにシール部材11と支持部材12に対応する紫外線硬化樹脂Rが吸着盤10の表面に転写される。このように、インプリント法を用いた場合、吸着盤10にレジストパターンPによるマスキングを行う工程等が不要となるので、スピンチャック1の製作に要する時間を更に短縮することができる。
【0058】
以上の実施の形態においては、シール部材11及び支持部材12の上端部は、その断面形状が球面状に形成されている。この場合、スピンチャック1により吸着保持されるウェハWと、シール部材11及び支持部材12とは、平面と球面で接触するため、例えばウェハWがシール部材11及び支持部材12と接触した際に、当該ウェハWの裏面が削られにくくなり、また、シール部材11及び支持部材12の磨耗も低減できる。これにより、スピンチャック1の長寿命化を図ることができる。
【0059】
なお、従来のスピンチャック100を用いて、例えばウェハWにレジスト塗布処理を施す際に当該ウェハWを吸着保持すると、スピンチャック100に付着していた微小なパーティクルなどの異物がウェハWの裏面に転写されてしまうという問題があった。これは、スピンチャック100を例えばPEEKにより一体成形した後、シール部102の上端面を研磨により鏡面状に仕上げる際に発生し、研磨の際に生じた微小な溝に堆積したパーティクルや、シール部102や支持部103とウェハWとが接触する際に、シール部102や支持部103が磨耗することで発生するパーティクルに起因している。
【0060】
そのため、従来のスピンチャック100では、例えば流水で洗浄したのち、当該スピンチャック100の上面に例えば清掃用のウェハを複数回押し当て、当該清掃用のウェハの裏面にパーティクルを転写させることで、スピンチャックのパーティクルを除去する、いわゆるエージングという作業が行われる。そして、このエージング作業においては、清掃用のウェハの裏面に転写されるパーティクルを所望の数まで低減するまでに、100枚以上のウェハが消費されていた。
【0061】
これに対して、本実施の形態にかかるスピンチャック1においては、シール部材11及び支持部材12の状端部の断面形状が球面状となっており、ウェハWとシール部材11及び支持部材12とは平面と球面で接触するので、シール部材11や支持部材12が磨耗することを抑制できる。その結果、シール部材11や支持部材12の磨耗に起因するパーティクルを低減でき、ウェハW裏面へのパーティクルの付着を抑制することができる。
【0062】
また、シール部材11の上端面の断面形状が球面状であることにより、シール部材11とその上部に位置するウェハWとは常に密着した状態が維持されるので、従来のスピンチャック100のシール部102のように研磨作業を行わずとも、高いシール性を維持することができる。したがって、シール部102の研磨によるパーティクルも生じないため、エージング作業を行わずとも、ウェハWの裏面に転写されるパーティクルを低減することができる。
【0063】
なお、本発明者らが、本実施の形態にかかるスピンチャック1と、PEEKにより成形された従来のスピンチャック100とにおいて、ウェハWの裏面に転写されるパーティクルについて調査したところ、スピンチャック1では、従来のスピンチャック100と比較して、裏面に付着するパーティクルを大幅に低減できることが確認できた。その結果を図14、図15に示す。
【0064】
図14は、従来のスピンチャック100を流水洗浄した後、図15は、本実施の形態にかかるスピンチャック1を同じく流水洗浄した後、当該スピンチャック100、1によりウェハWを吸着保持した結果、ウェハWの裏面に転写されたパーティクルの分布と、パーティクルの粒径毎の個数を計数したグラフを示している。
【0065】
図14に示すように、従来のスピンチャック100においは、ウェハW裏面におけるスピンチャック100と接触する部分の全面にわたって、パーティクルが付着している。また、ウェハWの裏面に付着した粒径が0.13μm以上のパーティクルの数も約44,000個と、非常に膨大なものとなっていた。
【0066】
これに対して、図15に示すように、本実施の形態にかかるスピンチャック1においは、ウェハW裏面に付着したパーティクルの数が約750個と、大幅に低減されていることが確認できた。また、ウェハWへのパーティクルの付着も、局所的に見られるのみである。
【0067】
したがって、本実施の形態のスピンチャック1によれば、ウェハW裏面へのパーティクルの転写も大幅に低減することができることができる。
【0068】
また、以上の実施の形態では、シール部材11並びに支持部材12、吸着盤10、及び回転軸20がそれぞれ導電性を備え、さらに、吸着盤10と回転軸20とは導電性を有する接着剤Gで接続されているので、当該シール部材11並びに支持部材12、吸着盤10、及び回転軸20は電気的に等電位な状態になっている。したがって、例えば回転軸20を、アース電位に接地された回転機構に接続するとこで、スピンチャック1のアースをとることができ、スピンチャック1が帯電することを防止できる。これにより、スピンチャック1にパーティクル等の異物が付着しにくくなり、ウェハW裏面に転写されるパーティクルを更に低減することができる。
【0069】
以上の実施の形態では、支持部材12の上端部の高さをシール部材11の上端部の高さより低くし、さらに、各支持部材12は、上端部の高さが、吸着盤10の外周方向から中心方向に向かって順に低くなるようにしていたが、支持部材12の上端部の高さ及びシール部材11の上端部の高さは本実施の形態に限定されるものではなく、スピンチャック1によりウェハWを適切に吸着保持できれば、任意に設定が可能である。
【0070】
特に、従来のスピンチャック100のように、シール部102の上端面を鏡面仕上げしている場合は、ウェハWと上端面との間のシール性を維持するためには、ウェハWと上端面とを平行に接触させる必要があった。そのため、シール部102や支持部103の製作にあたっては、その高さを厳密に管理する必要があった。これに対して、本実施の形態では、シール部材11及び支持部材12の上端部を球面状に形成しているので、ウェハをシール部材11及び支持部材12が接触する角度によらず、常にシール性を維持した状態で接触させることができる。このため、シール部材11及び支持部材12の高さを厳密に管理する必要がなく、スピンチャック1の製作が容易となる。
【0071】
なお、以上の実施の形態においては、各支持部材12は半円環状に形成されていたが、支持部材12の形状は本実施の形態に限定されるものではなく、例えばスピンチャック1が用いられる機器において必要とされる吸着力や被吸着物との間の摩擦抵抗に応じて任意に変更が可能である。例えば、高い吸着力が必要とされない機器においては、例えば図16に示すように、ドット状の支持部材50を複数形成してもよい。なお、支持部材50も、支持部材12と同様に、その断面形状が上に凸状の略半円形状となるように構成されている。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。本発明はこの例に限らず種々の態様を採りうるものである。本発明は、基板がウェハ以外のFPD(フラットパネルディスプレイ)、フォトマスク用のマスクレチクルなどの他の基板である場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 スピンチャック
10 吸着盤
11 シール部材
12 支持部材
20 回転軸
30 塗布ノズル
40 テンプレート
50 支持部材
P レジストパターン
R 紫外線硬化樹脂
S 離型剤
W ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を吸着保持する基板保持体であって、
第1の温度以上の耐熱性を有する吸着盤と、
前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して設けられたシール部材と、
前記吸着盤の上面であって前記シール部材の内側に設けられた支持部材と、を有し、
前記シール部材と前記支持部材は、前記第1の温度より低い第2の温度以上で炭化する材料により形成されていることを特徴とする、基板保持体。
【請求項2】
前記シール部材及び前記支持部材は、紫外線硬化樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の基板保持体。
【請求項3】
前記紫外線硬化樹脂には、ポリエチレンジオシチオフェンを含有させることで導電性が付与されていることを特徴とする、請求項2に記載の基板保持体
【請求項4】
前記吸着盤はセラミックスにより形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項5】
前記吸着盤は、導電性部材を含有させることで導電性が付与されたアルミナ、炭化シリコン又は窒化シリコンのいずれかであることを特徴とする、請求項4に記載の基板保持体。
【請求項6】
前記第1の温度は1000℃であり、前記第2の温度は400℃〜600℃であることを特徴とする、請求項1〜5に記載の基板保持体。
【請求項7】
前記吸着盤には、当該吸着盤を回転させる回転軸が設けられ、前記吸着盤と前記回転軸とは、前記第1の温度より低い第3の温度以上で溶融する接着剤により接合されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項8】
前記第3の温度は、150℃〜200℃であることを特徴とする、請求項7に記載の基板保持体。
【請求項9】
前記シール部材及び前記支持部材の上端部は、その断面形状が球面状であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項10】
前記シール部材と前記支持部材は、硫酸と過酸化水素水の混合液により除去可能な紫外線硬化樹脂により形成され、
前記吸着盤は、第1の温度以上の耐熱性に代えて、前記硫酸と過酸化水素水の混合液への耐性を有していることを特徴とする、請求項1に記載の基板保持体。
【請求項11】
前記硫酸と過酸化水素水の混合液は、硫酸と過酸化水素水の配合率が6:1でることを特徴とする、請求項10に記載の基板保持体。
【請求項12】
基板を吸着保持する基板保持体の再生方法であって、
前記基板保持体は、第1の温度以上の耐熱性を有する吸着盤と、前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して設けられたシール部材と、前記吸着盤の上面であって前記シール部材の内側に設けられた支持部材と、を有し、且つ前記シール部材と前記支持部材は、前記第1の温度より低い第2の温度以上で炭化する材料により形成され、
前記シール部材及び前記支持部材を、前記第1の温度より低く且つ前記第2の温度以上で加熱することで、前記シール部材と前記支持部材を炭化して除去し、
その後、前記シール部材と前記支持部材が除去された吸着盤の上面の外周縁部に沿って連続して液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、
前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に前記液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、
その後、前記吸着盤上面に塗布された各紫外線硬化樹脂に紫外線を照射して、前記吸着盤の上面の外周縁部に沿って塗布された紫外線硬化樹脂を硬化させることで前記シール部材を形成し、前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に塗布された紫外線硬化樹脂を硬化させることで支持部材を形成することを特徴とする、基板保持体の再生方法。
【請求項13】
前記シール部材と前記支持部材は、硫酸と過酸化水素水の混合液により除去可能な紫外線硬化樹脂により形成され、
前記吸着盤は、第1の温度以上の耐熱性に代えて、前記硫酸と過酸化水素水の混合液への耐性を有し、
前記シール部材及び前記支持部材の前記吸着盤からの除去は、前記第1の温度より低く且つ前記第2の温度以上での加熱に代えて、硫酸と過酸化水素水の混合液に浸漬させることにより行われることを特徴とする、請求項12に記載の基板保持体の再生方法。
【請求項14】
前記硫酸と過酸化水素水の混合液は、硫酸と過酸化水素水の配合率が6:1であることを特徴とする、請求項13に記載の基板保持体の再生方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれかに記載の基板保持体の製造方法であって、
前記吸着盤上面の外周縁部に沿って連続して液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、
前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に前記液体状の紫外線硬化樹脂を塗布し、
その後、前記吸着盤上面に塗布された各紫外線硬化樹脂に紫外線を照射して、前記吸着盤の上面の外周縁部に沿って塗布された紫外線硬化樹脂を硬化させることで前記シール部材を形成し、前記吸着盤の上面であって前記外周縁部に塗布された紫外線硬化樹脂の内側に塗布された紫外線硬化樹脂を硬化させることで支持部材を形成することを特徴とする、基板保持体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2013−105867(P2013−105867A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248267(P2011−248267)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】