説明

基板収納ポッドおよびその蓋部材並びに基板の処理装置

【課題】 乱れの無い安定した層流状態の置換ガスの流れを得るには、供給管における置換ガスの圧力変動を断つ必要がある。
【解決手段】 基板を収納するための中空部と開口とを有する本体容器と、該開口に挿嵌され、該開口を密閉可能な蓋部材と、該蓋部材の内部に画定されるバッファ空間と、該バッファ空間に置換ガスを供給するための給気ポートと、前記本体容器の開口に挿嵌された状態において、該本体容器の中空部に対向する該蓋部材の内面と該バッファ空間との間に連通するように配置され、該バッファ空間に供給された置換ガスを該中空部に送出する複数の孔とを備える基板収納ポッドにより解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、半導体ウェハなどの基板を内部空間に収納して搬送する基板収容容器であって、前面側において蓋の開閉を行い、かつその内部空間における清浄ガスの置換機能を有する前面開閉型基板収容容器(Front Opening Unified Pod(FOUP))に関する。そして、それに対する機械的なインターフェース標準規格(Front Opening Mechanical Standard(FIMS))を満たした半導体ウェハ等基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハなどの基板(以下、基板とよぶ)の処理作業は、複数の処理工程からなっている。これらの処理工程は、ある程度の広さを有し、清浄度が保障されるクリーンルーム内で実行される。クリーンルーム内には、それぞれの処理工程を実行するための処理装置が配置される。それぞれの処理装置の内部空間は、処理装置が配置されているクリーンルームよりも高い清浄度に保たれている。基板は、それぞれの処理装置において、各内部空間内で処理される。処理装置間の移動の際には、基板は、FOUP収納容器(以下、「ポッド」とよぶ)に収容されて搬送される。ポッド内を高い清浄度かつ酸化しにくい環境に保つことで、広いクリーンルーム全体の環境を制御する必要がなくなり、基板の周囲の雰囲気(クリーンルーム体積に対して微小な体積)のみを、高清浄度かつ基板表面が酸化しにくい状態に保つ効率的な制御および管理が可能となる。
【0003】
図4に、処理装置20に載置された状態の従来のポッド1を示す。一般に、ポッド1は、蓋部材2と、本体容器3とからなっている。本体容器3は、一端に開口3aを有する。蓋部材2は、その開口3aを塞いで、本体容器3を密閉可能である。本体容器3の内部には、棚5が配置されている。棚5は、垂直方向に並列する複数の段を有している。複数の段のそれぞれは、一般に水平であって、基板を保持可能である。
【0004】
処理装置20の内部空間20aは、基板の処理工程において使用される。処理装置20の内部空間20aは、クリーンルームの周囲雰囲気よりも高い清浄度に保たれる。処理装置20の内部空間20aには、移送ロボットや処理機器などが配置される。処理装置20の壁部には、処理装置20の外部から処理装置20の内部空間20aへのアクセスするためのアクセス開口20bを有している。処理装置20の外部から内部空間20aへアクセスをしないときには、図4に示すように、アクセス開口20bはFIMSドア21(以下、「ドア」とよぶ)により塞がれている。処理装置20は、ポッド1を載置するためのロードポート部22を有している。ロードポート部22は、ポッド1をアクセス開口20bに対向するように設置するために機能する。すなわち、まず、基板の処理工程を実行する際には、ポッド1を処理装置20のロードポート部22に載置する。処理装置20のロードポート部22に、ポッド1の本体容器3の開口3aが、処理装置20のアクセス開口20bと対向するように、ポッド1を正常に載置する。その後、ロードポート部22により、ポッド1に所定の位置決め動作を施す。処理装置20のアクセス開口20bを開閉すると同時に、ポッド1の本体容器3の開口3aを開く。たとえば、一般的には、ドア21によりポッド1の蓋部材2を保持して、処理装置20のアクセス開口20bとポッド1の本体容器3の開口3aとを同時に開放する。この状態で、各段に載置されている基板を水平方向に基板を移動させることにより、開口3aを介してポッド1の内部から取り出して、処理装置20の内部空間20aに移送し、処理工程を実行する。また、処理工程の終了後は、開口3aを介して、処理装置20の内部空間20aからポッド1の内部に移送し、基板をポッド1の本体容器3内の棚5の所定の段に戻す。
【0005】
ポッド1内の基板のすべての処理工程が終了すると、再度、処理装置20のドア21で処理装置20のアクセス開口20bを閉鎖する。これにより、本体容器3の開口3aは、ドア21に保持されているポッド1の蓋部材2で閉じられて密閉される。この段階では、本体容器3の内部の雰囲気は、塵や酸素を含む内部空間20aの周囲雰囲気である。次の工程まで、基板を清浄に保つには、この雰囲気内の塵を除去し、基板表面と反応しやすい気体成分を除去する必要がある。そこで、一般的に、本体容器3を蓋部材2で閉じて密閉した後に、ポッド1の内部の雰囲気を不活性ガス(以下、置換ガスとよぶ)で置換する。
【0006】
ポッド1の内部の雰囲気を置換ガスで置換するための手段としては、従来、様々なタイプが存在する。たとえば、特許文献1または特許文献2には、底面から給気または排気をするタイプのポッドが開示されている。これらのタイプのポッドでは、図4に示すように、ポッド1の本体容器3の下部に給気ポート12および排気ポート13が配置されることになる。処理装置20側に配置される所定の管を、給気ポート12および排気ポート13に接合させると、図4において矢印で示したように、給気ポート12を介して置換ガスをポッド1の内部に給気し、排気ポート13を介して置換ガスをポッド1の内部から排気することができる。
【0007】
また、特許文献3では、ポッドの蓋部材に給気・排気ポートを配置した例が開示されている。特許文献3では、蓋部材の給気ポートからポッド内部へ送り込まれた置換ガスをポッド内部を還流させて、蓋部材の排気ポートからポッドの外部へと排気される置換ガス流が開示されている。特に、特許文献3には、噴出口を有する鉛直方向に延在するガス導入管を蓋部材に取り付けて、そこからポッド内部へと置換ガスを導入するポッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−17553号公報
【特許文献2】特開2003−60007号公報
【特許文献3】特開2007−273697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
任意の処理装置において、基板の処理工程が終了して、蓋部材2で本体容器3を塞いだ際には、本体容器3内の雰囲気は、塵を含むクリーンルームの周囲雰囲気である。したがって、ポッド1の内部では、塵を巻き上げないように、また基板に附着させないように、ポッド1の内部の雰囲気を置換ガスで置換する必要がある。そのため、ポッド1の内部の雰囲気を置換ガスで置換する際には、ポッド1の内部における置換ガスの流れを、乱れの無い安定した層流状態とすることが求められる。また、ポッド1の内部のガスを完全に全置換するためには、ポッド1の内部における置換ガスの流れに澱みが生じないように、置換ガスが満遍なく行き渡る置換ガスの流れを実現することが必要となる。しかし、特許文献1,特許文献2および特許文献3に開示されるポッドでは、以下の理由から、この要求を満たすことができない。
【0010】
特許文献1および特許文献2に記載されているように、ポッド1の下部に給気ポート・排気ポートを配置するとなると、給気ポート・排気ポートの大きさの制限から、細い給気管路および排気管路しか配置できない。実現すべきガス流の要求に適した給気ポート・排気ポートを配置することは困難である。すなわち、ポッド1をロードポート部9に載置した後に、ポッド1を適正な位置に移動させる機構や、蓋部材2を本体容器3にロックするための機構などは、ポッド1の下部およびポッド1の下部が対向するロードポート部22に配置されることが多い。そのため、その機構以外の給気ポート・排気ポートの大きさや配置を行うには制限が生じ、細い給気管路および排気管路しか配置できない問題がある。
【0011】
また、特許文献1または特許文献3に記載されているように、ポッドの蓋に、給気ポート・排気ポートを配置したとしても、給気ポート・排気ポートの大きさの制限から、やはり細い給気管路および排気管路しか配置できない問題がある。すなわち、蓋部材2には、蓋の開閉用ロック機構を有していることが多く、ポッドの下部に弁部材を配置する場合と同様に、開閉用ロック機構の配置上の制約から、弁部材の機能に最も適した位置に弁部材を配置することが困難となる。そのため、配置できる給気ポート・排気ポートの大きさに制限があり、ポッドの蓋に、給気ポート・排気ポートを配置したとしても、特許文献3のように、細い給気管路および排気管路しか配置できない。特許文献3に示されるように、噴出口を有する鉛直方向に延在する細長いガス導入管を蓋部材に取り付けて、そこからポッド内部へと置換ガスを導入するような場合には、ガス導入管内の置換ガスの流れ方向の流路抵抗から圧力勾配が生じて、均一な置換ガスのガス流を実現できず、またガス導入管内の圧力変動がそのままポッド内部に伝わる可能性がある。
【0012】
すなわち、ポッド1への置換ガスの給気・排気において、細い給気管路および排気管路しか接続できない給気ポート・排気ポートを配置すると、供給管における置換ガスの圧力変動(脈動)が、給気ポート・排気ポートを通じての置換ガスの流速変動に直接つながる。乱れの無い安定した層流状態の置換ガスの流れを得るには、供給管における置換ガスの圧力変動(脈動)を断つ必要がある。
【0013】
また、置換ガスの供給口の圧力勾配が生じないように、置換ガスの噴出口を配置する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
基板を収納するための中空部と開口とを有する本体容器と、該開口に挿嵌され、該開口を密閉可能な蓋部材とを具備する基板収納ポッドであって、該蓋部材は、その内部にバッファ空間が画定され、バッファ空間に供給された置換ガスを本体容器の中空部に送出する複数の孔とを備える基板収納ポッドにより解決する。
【0015】
また、その基板収納ポッドに収納された基板の処理装置であって、処理装置は基板の処理を実行する内部空間と、内部空間と外部空間との間を連通するアクセス開口と、蓋部材を保持して該アクセス開口を開放するとともに該本体容器の開口を開放し、または該蓋部材を保持して該アクセス開口を閉鎖するとともに該本体容器の開口に蓋部材を挿嵌して閉鎖するドアとを備え、該処理装置は、該給気ポートに接続されて置換ガスを該バッファ空間に供給可能な給気配管を備えることを特徴とする基板の処理装置により解決する。
【発明の効果】
【0016】
置換ガスの流速変動を抑制し、乱れの無い安定した層流状態の置換ガスの流れを得ることが可能となる。そして、収納容器内に収容された基板の全域が一様な置換ガスに曝されて、基板への塵埃の附着や、基板の酸化を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】処理装置に載置された状態の本発明のポッドの構成を示した図である。
【図2A】蓋部材の外面を示した図である。
【図2B】蓋部材の内面を示した図である。
【図2C】図2Bの断面2C−2Cを示した図である。
【図2D】閉鎖した状態の給気弁部材11を示した図である。
【図2E】開放された状態の給気弁部材11を示した図である。
【図3A】スライドラッチ機構を有するポッドを示した図である。
【図3B】従来のラッチ機構を有するポッドを示した図である。
【図4】処理装置に載置された従来のポッドを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポッドについて、図1、図2Aから図2Eを参照して、以下、説明する。図1は、本発明のポッド1を示した図であって、ポッド1が処理装置20に載置された状態を示している。図2Aは、ポッド1の蓋部材2の外面の正面を示した図である。図2Bは、ポッド1の蓋部材2の内板2bを示した図である。図2Cは、蓋部材2の断面2C−2Cを示した図である。なお、処理装置20は前述の従来技術の基板処理装置と同様である。以下、まず処理装置20については概要のみを説明し、その上で、本発明のポッド、およびそれに利用するための処理装置20において従来と異なる点を詳説する。
【0019】
処理装置20は、処理装置基板の処理を行うために、高い清浄度が保たれた内部空間20aを有している。処理装置20の壁部にはアクセス開口20bを有し、処理を行わないときには、通常、ドア21により塞がれている。処理装置20は、ポッド1がアクセス開口20bに適正に対向するように所定の位置に設置するためのロードポート部22を有している。
基板の処理工程を実行する際には、ポッド1を処理装置20のロードポート部22に載置して、処理装置20のアクセス開口20bを塞ぐドア21により、アクセス開口20bとポッド1を開放する。一方、ポッド1内の基板のすべての処理工程が終了すると、再度、処理装置20のドア21により、アクセス開口20bとポッド1を閉鎖してポッド1を密閉する。そして、ポッド1の内部の雰囲気を、置換ガスによって置換する。
【0020】
(ポッド)
ポッド1は、蓋部材2と、一面に開口3aを有し、内部に基板を収納するための中空部3bとを具備する本体容器3と、からなっている。蓋部材2は、本体容器3の開口3aの形状に対応する多角形状(代表的には四角形)を有し、蓋部材2が開口3aに完全に挿嵌された状態で開口3aを塞いで密閉する部材である。本発明において、蓋部材2が所定の状態で本体容器3の開口3aに完全に挿嵌されたときに、ポッド1の内部空間に対向する側の蓋部材2の面を内面(内側)と定義し、内面と反対側の蓋部材2の面を外面(外側)と定義する。
【0021】
蓋部材2は、蓋部材2の内面側に位置する蓋部材2の内板2bと、蓋部材2の外面側に位置する外板2aと、蓋部材2の側板と、により構成される。蓋部材2の内部は中空である。中空である蓋部材2の内部には、バッファ空間8が画定されている。バッファ空間8は、蓋部材2の内部に配置されるタンクとしてもよい。しかし、バッファ空間8は、蓋部材2の内部の中空な空間、すなわち、蓋部材2の内板2bおよび蓋部材2の外板2aと、蓋部材2の側板とにより画定される内部空間とすることが、最も好ましい。特に、蓋部材2が所定のとおり本体容器3の開口3aに挿嵌された状態において、蓋部材2の内板2bがバッファ空間8の壁部の一部をなすようにするのが好ましい。蓋部材2の内板2bには、複数個の孔10が配置されている。複数個の孔10は、所定のとおり蓋部材2が本体容器3の開口3aに挿嵌された状態において、蓋部材2の内板2bとバッファ空間8との間に連通するように、蓋部材2の内板2bに穿設される。複数個の孔10を通じて、本体容器3の中空部3bとバッファ空間8とが流体的に連通する。バッファ空間8に供給された置換ガスは、複数の孔10を介して、バッファ空間8から本体容器3の中空部3bに送出される。蓋部材2は、バッファ空間8と流体的に連通する給気ポート6を備えている。給気ポート6は、たとえば蓋部材2の外板2aに配置され、置換ガス源に接続されている供給配管(不図示)と流体的に接続可能である。給気ポート6は、バッファ空間8に置換ガスを供給する。
【0022】
複数の孔10のそれぞれは、バッファ空間8に供給された置換ガスを本体容器3の中空部3aに送出する。バッファ空間8の容量は、複数個の孔10の全てから本体容器3の中空部3aに流出する流量よりも、十分に大きく設定することが好ましい。これにより、置換ガスがバッファ空間8へ導入される際に、給気配管の圧力の脈動などの置換ガスの圧力変動の影響を除去できる。置換ガスは、複数個の孔10を介してバッファ空間8から中空部3b内に導入されるので、安定した置換ガス流を得ることができる。
すなわち、今、置換ガスの質量流量をG(t),バッファ空間8内の圧力をP(t)、バッファ空間8の容積をV,バッファ空間8およびその内部の置換ガス温度をT,気体定数をRとすると、気体の状態方程式から数式1の関係が成り立つ。
[数式1]
P(t)・V=G(t)RT
数式1の両辺を時間Tで全微分して整理すると、バッファ空間8の温度Tおよびバッファ空間8の容積Vは一定であるので数式2が成り立つ。
[数式2]
dP(t)/dt=(RT/V)×(dG(t)/dt)
ここから、給気配管やポンプなどにより流入する置換ガスの質量流量Gに変動(dG(t)/dt)が生じたとしても、バッファ空間8の容積Vを大きくすることにより、置換ガスの圧力変動(dP(t)/dt)の影響を小さくして、孔10から本体容器3の内部への安定した置換ガス流の供給を行うことができる。
【0023】
また、孔10は、蓋部材2が本体容器3の開口3aに挿嵌された状態において、蓋部材2の内板2b上に、互いに直交する二方向に整列するように穿設されることが好ましい。互いに直交する二方向とは、代表的には、本体容器3の開口3aに挿嵌された状態の蓋部材2において、鉛直方向と水平方向である。
【0024】
孔10はそれぞれある程度大き目の断面積を有するように設定すれば、流路抵抗が減少する。流路抵抗の減少と共に、孔10を介してバッファ空間8から流出する置換ガスの流速が増加し、孔10の存否により、蓋部材2の内板2b側から流出する置換ガスの速度プロファイルが不均一になる。そこで、複数個の孔10を覆うように、メッシュ状のフィルタ12を取り付けて、置換ガスを整流することが好ましい。フィルタ12は、たとえば、孔10が穿設される蓋部材2の内板2bのバッファ空間8の内部側に配置する。フィルタ12を配置することにより、孔10からのガス噴出速度が平準化され、一様な置換ガス流を得ることができる。なお、フィルタ12は、孔10が穿設される蓋部材2の内板2bのバッファ空間8の外側に配置してもよい。
【0025】
給気ポート6には、給気弁部材11が嵌入されている。図2Dおよび図2Eは、給気弁部材11を示した図である。図2Dは給気弁部材が閉鎖した状態を示し、図2Eは給気弁部材が開放した状態を示している。
給気弁部材11は、導入口11aと給気口11bとを有している。導入口11aは蓋部材2の外板2aに配置される給気弁部材11の入口開口部であって、給気配管から置換ガスを導入する。給気口11bはバッファ空間8の内部側に配置される給気弁部材11の出口開口部である。給気口11bは、蓋部材2の内板2bに配置される孔10の穿設方向と角度をもって配置される。これにより、導入口11aから導入された置換ガスが給気口11bを通って孔10に直接流れることなく、給気口11bにおいて、孔10と異なる向きで置換ガスをバッファ空間8内に導入可能である。たとえば、本実施例のように、導入口11aに対して直角に給気口11bを配置し、孔10に対しても給気口11bが直角となるように配置するのが最も好ましい。弁部材11内には、ピストン部11cが配置され、常態においては給気弁部材11が閉鎖している。この状態では、バネ11dによりピストン部11cが付勢され、ピストン部11cのヘッドが導入口11aを塞いで密閉している。給気ポート6に、給気配管が接続され、置換ガスが導入口11aから導入されると、置換ガスの圧力によりバネ11dが縮んで、ピストン部11cのヘッドが退行して給気弁部材11が開放する。ピストン部11cのヘッドにより塞がれていた導入口11aの隙間から置換ガスが、給気弁部材11の内部に流れ込み、給気口11bを介してバッファ空間8内に導入される。
これにより、全ての孔10付近のみ強い置換ガス流れが生じることなく、均一なガス流れを作ることができる。
【0026】
蓋部材2の内板2b側には窪み部2cを有している。窪み部2cには、ウェハリテーナ14が配置されている。蓋部材2の内板2b側の周部には、パッキン16が配置されている。パッキン16は、その断面形状において、内向きに突出するように取り付けられている。この配置により、蓋部材2を開口3aに挿嵌して、蓋部材2で開口3aを密閉する際に、パッキン16が本体容器3の内側から本体容器3の壁部を押し付ける。本体容器3の内部側が周囲雰囲気よりも加圧されると、高い内圧によりパッキン16は本体容器3の壁部に強く押し付けられて、高い密閉性が得られ、ポッド1全体としての機密性が向上する。
【0027】
ウェハリテーナ14が配置される窪み部2cにより、蓋部材2の内部空間が、実効的に分割されても、分割された空間がバッファ空間8を構成すれば、本発明の効果を奏する。すなわち、図2Bのように、窪み部2cにより分割された蓋部材2の内板2bのそれぞれに複数個の孔10を配置し、それぞれのバッファ空間8の容量を十分に大きく設定すればよい。
【0028】
本体容器3は、代表的には、ほぼ六面体であって、開口3aはその一面に配置される。本体容器3は、その内部に中空部3bを有している。中空部3bには棚5が配置され、基板を収納可能である。棚5は、たとえば、本体容器3の開口3aに隣接し、互いに対向する鉛直な二つの側面の内部に配置される。棚5は、ポッド1の常態において、鉛直方向に並列する複数の段5aからなっている。複数の段5aのそれぞれは水平に配置され、本体容器3の側面のそれぞれにおける対応する段5aにより、基板の両端を保持可能である。蓋部材2が本体容器3の開口3aを塞いだ際に、蓋部材2の内板2b側には窪み部2cを有している。窪み部2cには、ウェハリテーナ14が配置されている。
それぞれの段5aに載置される基板は、ポッド1の蓋部材2を開いた際に、水平方向に移動させることにより、開口3aを介して、取り出しまたは挿入可能である。
本体容器3において、開口3aと反対側にあたる本体容器3の奥側の下部(ロードポート部22側)には、排気ポート7が配置される。
【0029】
複数の孔10は、蓋部材2が本体容器3の開口3aに挿嵌された状態において、棚5のそれぞれの段5aと段5aとの間に、複数の孔10のそれぞれが位置するように配置する。すなわち、複数の孔10は、棚5のそれぞれの段5aの間に対応するように位置関係が決定され、蓋部材2の内板2bに穿設することが好ましい。これにより、複数の孔10から本体容器3の中空部3b内に導入された置換ガスは、それぞれの段5aに保持される基板に沿って、本体容器3の開口3aから本体容器3の奥側に位置する排気ポート7に向かって流れる。これにより、給気ポート6からポッド1内に導入された置換ガスは、排気ポート7に至るまで、単純な置換ガス流経路を形成して、到達する。これにより、澱み部のない流れを実現することができる。
【0030】
(処理装置)
続いて、以下、本発明のポッド1が使用される処理装置20について、図1を参照して、従来の処理装置と異なる点について説明する。
処理装置20は、置換ガスが充填されている置換ガス源に流体的に接続されている給気配管を備えている。給気配管は、給気ポート6に流体的に接続可能に配置されて、給気ポート6を介して置換ガスをポッド1の蓋部材2のバッファ空間8内に供給する。一方、処理装置20は、排気ポンプ(不図示)に接続される排気配管(不図示)をポッド1の下部にあたるロードポート側に有している。排気配管は、ポッド1の排気ポート7に流体的に接続可能であって、排気ポート7を介して置換ガスをポッド1の内空部3bから排気できる。排気配管の径は大きめにして、置換ガスの管路の流路抵抗を小さく抑える。抵抗ポッド1の排気ポート7側の背圧を低くすることにより、ポッド1内には、蓋部材2の内面側から、棚5の各段に載置されているウェハに沿って、ポッド1の本体容器3の奥側に向かって流れる。ポッド1の本体容器3の奥側に到達した置換ガスはポッド1内を下降して、排気ポート7から排出される流れを、ポッド1の内部に作る。これにより、ポッド1の内部には、高い清浄度のガスが澱みなく、万遍に行きわたる効果を奏する。
【0031】
なお、本願発明のポッド1は、ロック機構が蓋部材2の内部に配置されないスライドラッチ機構を使用したポッド1においては、特に、適用しやすい。ロック機構が蓋部材2の内部に配置されないスライドラッチ機構を使用したポッド1としては、たとえば、図3Aに示すものである。すなわち、図3Aに示すようなポッド1においては、ポッド1の本体容器3の開口3aの周りに所定の厚さのフランジ3cが配置される。蓋部材2の側面には、複数個のラッチ用係合凹部2dが穿設される。ラッチ用係合凹部2dは、蓋部材2の側面の周に沿った細長溝と、およびその細長溝から蓋部材2の内面側にむけて延在する溝とを具備し、側面側から見たときにL字形状となる係合凹部として構成される。ポッド1の本体容器3の開口3aの周りフランジ3cには、複数の貫通細長穴3dが配置される。蓋部材2が本体容器3の開口3aに所定のとおり嵌入された状態において、ラッチ用係合凹部2dのそれぞれの位置が貫通細長穴3dのそれぞれの位置と合致する。ポッド1の本体容器3には、その開口3aの周りのフランジ3cに沿って摺動する棒状のラッチ機構4が配置されている。ラッチ機構4には、先端にローラを有する連結アーム4aがラッチ機構4の延在方向と垂直に突出するように配置されている。連結アーム4aの先端のローラ部は貫通細長穴3dを介して、本体容器3の内側に露出している。蓋部材2をポッド1の本体容器3の開口3aに嵌入すると、連結アーム4aのローラが蓋部材2の側面のラッチ用係合凹部2dと係合する。ラッチ機構4がフランジ3cの縁に沿って鉛直方向に摺動することにより、連結アーム4aも摺動する。それにしたがって、連結アーム4aの先端のローラ部は貫通細長穴3dに沿って移動する。連結アーム4aの先端のローラ部が、ラッチ用係合凹部2dの細長溝の先端まで移動することで蓋部材2が本体容器3に固定される。このように、スライドラッチ機構を採用したポッド1では、蓋部材2の内部にロック機構を有しないため、蓋部材2の内部にはバッファ空間8の配置を阻害するものがない。また、蓋部材2の表面には、バッファ空間8への給気ポート6の配置を阻害するものがない。位置および大きさの制限が無く、バッファ空間8を蓋部材2の内部に自由に配置することができるので、このタイプのポッドでは、特に効果を奏する。
【0032】
しかし、蓋部材2の内部にロック機構を備えた従来のタイプのポッド1であっても、バッファ空間8が配置できる限り、本発明の適用が可能である。蓋部材2の内部にロック機構を備えた従来のタイプのポッド1は、たとえば、図3Bに示すようなタイプのポッド1である。すなわち、図3Bに示すようなポッド1では、蓋部材2の内部に、ロック機構として、回転板とロック用アーム2eとが配置される。回転板には、ロック用アーム2eの一端が取り付けられていて、回転板の回転に応じて、ロック用アーム2eの他端2fが蓋部材2の側面から突出し、または収納されるものである。蓋部材2が本体容器3の開口3aに所定のとおり嵌入された状態において、ロック用アーム2eの他端2fが蓋部材2の側面から突出させると、ロック用アーム2eの他端2fが本体容器3の内側の係合穴3eに挿嵌されて蓋部材2が固定される。一方、本体容器3の内側の係合穴3eに挿入されていたロック用アーム2eの他端2fが蓋部材2内に収納されると、蓋部材2と本体容器3との固定が解かれるものである。このタイプのポッド1では、蓋部材2の内部にロック機構の容積を確保しなければならないが、適切なバッファ空間8を配置する容積を確保できる限り、本発明が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
半導体ウェハなどの基板の収納を行うポッドにおいて、特に高い清浄度が要求されるポッドに利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ポッド
2 蓋部材
3 本体容器
4 ラッチ機構
5 棚
6 給気弁部材
7 排気弁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収納するための中空部と開口とを有する本体容器と、
該開口に挿嵌され、該開口を密閉可能な蓋部材と、
該蓋部材の内部に画定されるバッファ空間と、
該バッファ空間に置換ガスを供給するための給気ポートと、
該蓋部材が前記本体容器の開口に挿嵌された状態において、該本体容器の中空部に対向する該蓋部材の内板に、該蓋部材の内板と該バッファ空間との間に連通するように穿設される複数の孔であって、該バッファ空間に供給された置換ガスを該中空部に送出す複数の孔とを備えることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項2】
請求項1に記載の基板収納ポッドであって、
該蓋部材の内板が該バッファ空間の壁部の一部を構成することを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板収納ポッドであって、
該複数の孔は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態の該蓋部材において、該蓋部材の内面上に、互いに直交する二方向に、列をなして穿設されていることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項4】
請求項3に記載の基板収納ポッドであって、
該互いに直交する二方向は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態の該蓋部材において、鉛直方向と水平方向とであることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の基板収納ポッドであって、
前記本体容器の中空部には、複数の段を有する棚であって、該複数の段のそれぞれが基板を保持可能である棚を備え、
該複数の孔のそれぞれは、該複数の段のそれぞれの間に対応する位置に穿設されていることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の基板収納ポッドであって、
該給気ポートは、該孔のそれぞれにおける穿設方向と角度をもって該バッファ空間に該置換ガスが導入可能な給気弁部材を備えることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の基板収納ポッドであって、
該蓋部材の内板には、該複数の孔を覆うように、フィルタが配置されていることを特徴とする基板収納ポッド。
【請求項8】
基板を収納するための中空部と開口とを有する本体容器を有する基板収納ポッドにおいて、該開口に挿嵌され該開口を密閉可能な該蓋部材であって、
該蓋部材の内部に画定されるバッファ空間と、
該バッファ空間に置換ガスを供給するための給気ポートと、
該蓋部材は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態において、該本体容器の中空部に対向する該蓋部材の内面と該バッファ空間との間に連通するように配置され、該バッファ空間に供給された置換ガスを該中空部に送出する複数の孔とを備える基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項9】
請求項8に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
該バッファ空間の壁部の一部は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態の該蓋部材において、該蓋部材の内面壁であることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項10】
請求項8または9に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
該複数の孔は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態の該蓋部材において、該蓋部材の内面上に、互いに直交する二方向に列をなして、穿設されていることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項11】
請求項9に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
該互いに直交する二方向は、前記本体容器の開口に挿嵌された状態の該蓋部材において、鉛直方向と水平方向とであることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
該給気ポートは、該孔のそれぞれにおける穿設方向と角度をもって該バッファ空間に該置換ガスが導入可能な給気弁部材を備えることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか一項に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
前記本体容器の中空部には、複数の段を有する棚であって、該複数の段のそれぞれが基板を保持可能である棚を備え、
該複数の孔のそれぞれは、該複数の段のそれぞれの間に対応する位置に穿設されていることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項14】
請求項8から13のいずれか一項に記載の基板収納ポッド用蓋部材であって、
該蓋部材の内板には、該複数の孔を覆うように、フィルタが配置されていることを特徴とする基板収納ポッド用蓋部材。
【請求項15】
基板収納ポッドに収納された基板の処理装置であって、
該基板収納ポッドは、請求項1から7のいずれか一項に記載の基板収納ポッドであって、
該処理装置は、
該基板の処理を実行する内部空間と、
該内部空間と外部空間との間を連通するアクセス開口と、
該蓋部材を保持して該アクセス開口を開放するとともに該本体容器の開口を開放し、または該蓋部材を保持して該アクセス開口を閉鎖するとともに該本体容器の開口に蓋部材を挿嵌して閉鎖するドアと、
該給気ポートに接続されて置換ガスを該バッファ空間に供給可能な給気配管と、
を備えることを特徴とする基板の処理装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181561(P2011−181561A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41768(P2010−41768)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】