説明

基板除去方法及び記憶媒体

【課題】基板を静電チャックから容易に除去することができる基板除去方法を提供する。
【解決手段】直流電圧が印加される静電電極板22を内包する静電チャック23及び該静電チャック23を内蔵する接地電位のチャンバ11を備える基板処理装置10において、ウエハW及びチャンバ11の間においてDC放電40が生じた後にウエハWに生じる電位の絶対値が0.5kVである場合、プラズマエッチング処理後、静電チャック23のウエハWの載置面23aの電位の絶対値が0.5kVとなり、変化後の載置面23aの電位の極性とウエハWの電位の極性とが同じになり、且つウエハW及びチャンバ11の間の電位差の絶対値が0.5kV以上となるように、静電電極板22の電位を2.5kVから1.5kVへ変化させてDC放電40を生じさせ、その後、ウエハWを静電チャック23から除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電吸着された基板を静電チャックから除去する基板除去方法及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
基板としての半導体デバイス用ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)は、基板処理装置の減圧された処理室内において所定の処理、例えば、プラズマ処理が施される。ウエハは所定の処理の間、所望の位置からずれることがないように、処理室内に配置された静電チャックによって静電吸着される。
【0003】
静電チャックは、静電電極板を内部に有する高抵抗の誘電体、例えば、セラミックスからなる板状部材であり、ウエハを上面に載置する。静電電極板には直流電源が接続されており、該静電電極板へ正の直流電圧が印加されると、載置されたウエハにおける静電チャック側の面(以下、「裏面」という。)には負電位が発生して静電電極板及びウエハの裏面の間に電位差が生じる。しかしながら、静電電極板及びウエハの間には静電チャックの誘電体が存在するため、静電電極板及びウエハの間では電荷が移動せず、静電電極板及びウエハの裏面の間の電位差が維持される。その結果、該電位差に起因する静電気力によってウエハが静電チャックに静電吸着される。
【0004】
この基板処理装置では、処理室内において静電チャックに対向するように接地電位の上部電極板が配置されている。基板処理装置においてプラズマ処理がウエハに施される場合、図5(A)に示すように、ウエハW及び上部電極板50の間には常時プラズマ51が存在するため、該プラズマ中の電子や陽イオンによってウエハW及び上部電極板50の間における電荷の移動は自在であり、その結果、静電チャック53の内部に存在する静電電極板52の電位(以下、図中において「HV」で示す。)を、例えば、2.5kVに設定していても、ウエハWの電位(以下、図中において「Wafer」で示す。)は、上部電極板50の電位(以下、図中において「UEL」で示す。)と同じ接地電位、すなわち、0Vとなる。
【0005】
一方、静電チャック53の誘電体は高抵抗であるため、理想的には静電チャック53の表面であるウエハ載置面53a及び静電電極板52の間における電荷の移動は発生しないが、高温での連続使用や処理条件等により、僅かな電荷の移動が発生してしまうことがある。しかしながら、静電チャック53の誘電体は高抵抗であることには変わりないため、静電チャック53の表面であるウエハ載置面53a及び静電電極板52の間における電荷の移動が抑制され、僅かな電荷しか移動せず、しかも電荷の移動速度は極めて緩慢であり、僅かな電荷が移動した後は殆ど電荷が移動せず、結果として静電電極板52及びウエハ載置面53aの間の電位差が維持されると見なすことができる。したがって、例えば、ウエハWを静電チャック53に載置したときの静電電極板52の電位及びウエハ載置面53aの電位(以下、図中において「Surface」で示す。)が接地電位(0V)である場合、例えば、静電電極板52へ2.5kVの電位の直流電圧を印加して静電電極板52の電位を2.5kVへ変化させると、ウエハ載置面53aの電位も0Vから、例えば、0.5kVへ変化するが、それ以上は変化せず、静電電極板52及びウエハ載置面53aの間の電位差の絶対値が2.0kVで維持される。
【0006】
ところで、近年、プラズマ処理後にウエハWを静電チャック53から除去しやすくするために、例えば、静電電極板52へプラズマ処理中の印加電圧とは逆の極性の電圧を印加したり(例えば、特許文献1参照。)、若しくは、静電電極板52の電位を0Vへ変化させたりすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−230051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、プラズマ51を維持したまま、静電電極板52の電位を2.5kVから0Vへ変化させる場合、ウエハWの電位は0Vのままであり、静電電極板52の電位も0Vとなるので、ウエハW及び静電電極板52の間の電位差は解消されるが、静電電極板52及びウエハ載置面53aの間の電位差の絶対値(2.0kV)が維持されるため、ウエハ載置面53aの電位は0.5kVから−2.0kVへと変化する。したがって、ウエハW及びウエハ載置面53aの間の電位差は解消せず、該電位差に起因する静電気力によってウエハWが静電チャック53へ静電吸着されるため、ウエハWを静電チャック53から容易に除去することができないという問題がある。
【0009】
また、プラズマ51をオフした後に静電電極板52の電位を2.5kVから0Vへ変化させる場合も、ウエハWの電位は0Vのままであり、静電電極板52の電位は0Vとなるが、静電電極板52及びウエハ載置面53aの間の電位差の絶対値(2.0kV)が維持されてしまうことになる。
【0010】
本発明の目的は、基板を静電チャックから容易に除去することができる基板除去方法及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の基板除去方法は、直流電圧が印加される静電電極板を内包する誘電体からなる静電チャック及び該静電チャックを内蔵する接地電位のチャンバを備え、前記静電チャックは基板を載置して静電吸着し、前記静電吸着された基板にプラズマ処理が施される基板処理装置における基板除去方法であって、前記プラズマ処理後の前記静電電極板の電位を、前記プラズマ処理中の前記静電電極板の電位と同じ所定の電位に維持する電位維持ステップと、前記基板及び前記チャンバの間において直流的な放電が生じた後に前記基板に生じる電位の絶対値を|A|とした場合、前記静電チャックにおいて前記基板が載置される載置面の電位の絶対値が|A|となり、変化後の前記載置面の電位の極性と前記基板の電位の極性とが同じになり、且つ前記基板及び前記チャンバの間の電位差の絶対値が|A|以上となるように、前記静電電極板の電位を前記所定の電位から変化させて前記直流的な放電を生じさせる電位変化ステップと、前記基板を前記静電チャックから除去する除去ステップとを有することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の基板除去方法は、請求項1記載の基板除去方法において、前記基板が前記静電チャックから除去された後、前記静電電極板の電位を接地電位へ変化させるとともに、前記チャンバ及び前記静電チャックの間においてプラズマを生成するプラズマ生成ステップをさらに有することを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項3記載の記憶媒体は、直流電圧が印加される静電電極板を内包する誘電体からなる静電チャック及び該静電チャックを内蔵する接地電位のチャンバを備え、前記静電チャックは基板を載置して静電吸着し、前記静電吸着された基板にプラズマ処理が施される基板処理装置における基板除去方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記基板除去方法は、前記プラズマ処理後の前記静電電極板の電位を、前記プラズマ処理中の前記静電電極板の電位と同じ所定の電位に維持する電位維持ステップと、前記基板及び前記チャンバの間において直流的な放電が生じた後に前記基板に生じる電位の絶対値を|A|とした場合、前記静電チャックにおいて前記基板が載置される載置面の電位の絶対値が|A|となり、変化後の前記載置面の電位の極性と前記基板の電位の極性とが同じになり、且つ前記基板及び前記チャンバの間の電位差の絶対値が|A|以上となるように、前記静電電極板の電位を前記所定の電位から変化させて前記直流的な放電を生じさせる電位変化ステップと、前記基板を前記静電チャックから除去する除去ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板及びチャンバの間の電位差の絶対値が、基板及びチャンバの間において直流的な放電が生じた後に基板に生じる電位の絶対値であって、当該直流的な放電が発生可能な電位差の最小値である|A|以上となるので、基板及びチャンバの間において直流的な放電が生じて基板に生じる電位の絶対値が|A|となる。また、静電チャックの載置面の電位の極性と基板の電位の極性とが同じであり、該載置面の電位の絶対値が|A|である。したがって、基板の電位及び静電チャックの載置面の電位を同じ電位とすることができる。その結果、基板が静電チャックに静電吸着されず、基板を静電チャックから容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板除去方法が実行される基板処理装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の基板処理装置におけるプラズマエッチング処理前及びプラズマエッチング処理中におけるウエハの静電吸着処理を説明するための工程図である。
【図3】ウエハ及び上部電極板の間においてDC放電が発生する過程を説明するための工程図である。
【図4】本実施の形態に係る基板除去方法としてのウエハ除去処理を説明するための工程図である。
【図5】従来の基板除去方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る基板除去方法が実行される基板処理装置の構成を概略的に示す図である。本基板処理装置は、基板としての半導体デバイス用のウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)にプラズマエッチング処理を施す。
【0018】
図1において、基板処理装置10は、例えば、直径が300mmのウエハWを収容し且つ接地電位であるチャンバ11を有し、該チャンバ11内にはウエハWを上面に載置する円柱状のサセプタ12が配置されている。基板処理装置10では、チャンバ11の内側壁とサセプタ12の側面とによって側方排気路13が形成される。この側方排気路13の途中には排気プレート14が配置される。
【0019】
排気プレート14は多数の貫通孔を有する板状部材であり、チャンバ11内部を上部と下部に仕切る仕切り板として機能する。排気プレート14によって仕切られたチャンバ11内部の上部(以下、「処理室」という。)15の内部空間には後述するようにプラズマが発生する。また、チャンバ11内部の下部(以下、「排気室(マニホールド)」という。)16にはチャンバ11内のガスを排出する排気管17が接続される。排気プレート14は処理室15に発生するプラズマを捕捉又は反射してマニホールド16への漏洩を防止する。
【0020】
排気管17にはTMP(Turbo Molecular Pump)及びDP(Dry Pump)(ともに図示しない)が接続され、これらのポンプはチャンバ11内を真空引きして減圧する。具体的には、DPはチャンバ11内を大気圧から中真空状態まで減圧し、TMPはDPと協働してチャンバ11内を中真空状態より低い圧力である高真空状態まで減圧する。なお、チャンバ11内の圧力はAPCバルブ(図示しない)によって制御される。
【0021】
チャンバ11内のサセプタ12には第1の高周波電源18が第1の整合器19を介して接続され、第1の高周波電源18は比較的低い周波数、例えば、2MHzのイオン引き込み用の高周波電力をサセプタ12に供給する。また、サセプタ12には第2の高周波電源20が第2の整合器21を介して接続され、第2の高周波電源20は比較的高い周波数、例えば、40MHzのプラズマ生成用の高周波電力をサセプタ12に供給する。2種類の高周波電力が供給されたサセプタ12は下部電極として機能する。
【0022】
サセプタ12の上部周縁部には、該サセプタ12の中央部分が図中上方へ向けて突出するように段差が形成される。該サセプタ12の中央部分の先端には静電電極板22を内部に有する誘電体、例えば、セラミックスからなる円板状の静電チャック23が配置されている。静電電極板22には直流電源24が接続されており、静電電極板22に正の直流電圧が印加されると、ウエハWにおける静電チャック23側の面(以下、「裏面」という。)には負電位が発生して静電電極板22及びウエハWの裏面の間に電位差が生じる。このとき、後述するように、ウエハW及び静電チャック23の載置面23aの間にも電位差が生じる。ウエハW及び載置面23aの間の電位差は静電気力であるクーロン力を生じさせ、該クーロン力によってウエハWは静電チャック23に吸着保持される。
【0023】
また、サセプタ12は内部に冷媒流路からなる冷却機構(図示しない)を有し、該冷却機構はプラズマと接触して温度が上昇するウエハWの熱を吸収することによってウエハWの温度が所望の温度以上になるのを防止する。
【0024】
サセプタ12は伝熱効率や電極機能を考慮して導電体、例えば、アルミニウムから構成されるが、導電体をプラズマが発生する処理室15へ晒すのを防止するために、該サセプタ12は側面を誘電体、例えば、石英(SiO)からなる側面保護部材25によって覆われる。
【0025】
さらに、サセプタ12の上部には、静電チャック23に吸着保持されたウエハWを囲むように環状のフォーカスリング26がサセプタ12の段差や側面保護部材25へ載置され、さらに、フォーカスリング26を囲むようにシールドリング27が側面保護部材25へ載置されている。フォーカスリング26はシリコン(Si)又は炭化珪素(SiC)からなり、プラズマの分布域をウエハW上だけでなく該フォーカスリング26上まで拡大する。
【0026】
チャンバ11の天井部には、サセプタ12と対向するようにシャワーヘッド28が配置される。シャワーヘッド28は、表面が絶縁膜で覆われた導電体、又は単体の半導体、例えば、シリコンからなる円板状の上部電極板29と、該上部電極板29を着脱可能に釣支するクーリングプレート30と、該クーリングプレート30を覆う蓋体31とを有する。上部電極板29は厚み方向に貫通する多数のガス孔32を有する円板状部材からなり、電気的に接地されているため、上部電極板29の電位は接地電位である。クーリングプレート30の内部にはバッファ室33が設けられ、このバッファ室33には処理ガス導入管34が接続されている。
【0027】
基板処理装置10はさらに制御部35を備え、該制御部35は内蔵するメモリ等に記憶されたプログラムに従って各構成要素の動作を制御し、プラズマエッチング処理を実行する。具体的に、制御部35は、各構成要素の動作を制御して処理ガス導入管34からバッファ室33へ供給された処理ガスを処理室15の内部空間へ導入し、該導入した処理ガスを、第2の高周波電源20からサセプタ12を介して処理室15の内部空間へ印加されたプラズマ生成用の高周波電力により、励起してプラズマを生成し、プラズマ中の陽イオンを第1の高周波電源18がサセプタ12に印加するイオン引き込み用の高周波電力によってウエハWに向けて引き込み、又はプラズマ中のラジカルをウエハWに到達させて該ウエハWにプラズマエッチング処理を施す。
【0028】
図2は、図1の基板処理装置におけるプラズマエッチング処理前及びプラズマエッチング処理中におけるウエハの静電吸着処理を説明するための工程図である。なお、本実施の形態ではチャンバ11と上部電極板29が共に接地電位であり、上部電極板29がチャンバ11の一部を構成すると見なすことができ、さらに、上部電極板29はウエハWに近接するため、以下、ウエハW及びチャンバ11の間の電位差はウエハW及び上部電極板29の間の電位差によって代表されるものとして説明する。
【0029】
まず、サセプタ12の静電チャック23における静電電極板22へ直流電源24から直流電圧を印加せず、静電電極板22の電位(以下、図中において「HV」で示す。)を接地電位、すなわち、0Vに維持したまま、静電チャック23上にウエハWを載置する。ここで、載置されたウエハWの電位(以下、図中において「Wafer」で示す。)は接地電位、すなわち、0Vである。また、静電電極板22へ直流電圧が印加されず、ウエハWの電位も接地電位であるため、静電チャック23の載置面23aの電位(以下、図中において「Surface」で示す。)も接地電位、すなわち、0Vである(図2(A))。
【0030】
次いで、チャンバ11内を圧力が数百mTorrのガス雰囲気とし、静電電極板22へ直流電源24から正の直流電圧、例えば、2.5kVの直流電圧を印加する(図2(B))。
【0031】
次いで、処理ガスを処理室15の内部空間へ導入し、該導入した処理ガスをプラズマ生成用の高周波電力により、励起させてプラズマ36を生成し、該プラズマ36によってウエハWにプラズマエッチング処理を施す。このとき、プラズマ36中の電子や陽イオンによってウエハW及び上部電極板29の間における電荷の移動は自在であり、その結果、ウエハWの電位は、上部電極板29の電位(以下、図中において「UEL」で示す。)と同じ接地電位(0V)を維持する。また、プラズマエッチング処理中、静電電極板22へは2.5kVの直流電圧が印加されているため、静電電極板22の電位として2.5kVが維持される。
【0032】
ここで、静電チャック23の誘電体は高抵抗であるため、理想的には静電チャック23の載置面23a及び静電電極板22の間における電荷の移動は発生しないが、高温での連続使用や処理条件等により、僅かな電荷の移動が発生してしまうことがある。その結果、静電電極板22及び載置面23aの間には、例えば、2.0kVの電位差が発生し、載置面23aの電位は0.5kVとなる。また、当該電位差の発生に伴って載置面23a及びウエハWの間には、例えば、0.5kVの電位差が発生する。(図2(C))。
【0033】
その後、ウエハW及び載置面23aの接触状態や静電チャック23における高抵抗の誘電体の存在により、載置面23a及びウエハWの間、並びに静電電極板22及び載置面23aの間の電荷の移動は発生しないため、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差、並びに、載置面23a及びウエハWの間の電位差が維持される。
【0034】
さらに、プラズマエッチング処理が終了してプラズマ36が消滅した後も、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差、並びに、載置面23a及びウエハWの間の電位差が維持されるため、ウエハWの電位は0Vのままであり、静電電極板22の電位は2.5kVのままであり、且つ載置面23aの電位は0.5kVのままである。その結果、ウエハW及び載置面23aの間の電位差は0.5kVとなり、該電位差に起因するクーロン力によってウエハWが載置面23aに静電吸着するため、プラズマエッチング処理後、ウエハWを静電チャック23から容易に除去することができない。
【0035】
本実施の形態では、プラズマエッチング処理後においてウエハW及び載置面23aの電位差を解消すべく、以下に述べるウエハW及び上部電極板29を含むチャンバ11の間で発生する直流的な放電(以下、「DC放電」という。)を利用する。
【0036】
図3は、ウエハ及び上部電極板の間においてDC放電が発生する過程を説明するための工程図である。
【0037】
まず、静電電極板22へ直流電圧を印加せずに静電電極板22の電位を0Vに維持したまま、静電チャック23上に電位が0のウエハWを載置する。このとき、図2(A)の工程と同じように、静電電極板22の電位、載置面23aの電位及びウエハWの電位は0Vである(図3(A))。
【0038】
次いで、チャンバ11内を減圧し、チャンバ11の処理室15内へ処理ガスを導入し、静電電極板22へ直流電源24から正の直流電圧、例えば、3.0kVの直流電圧を印加する。ここで、上述したように、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値は2.0kVで維持されるため、静電電極板22の電位が0Vから3.0kVへ変化すると、載置面23aの電位も0Vから1.0kVに変化する。また、載置面23a及びウエハWの間の電位差が維持されるため、ウエハWの電位も接地電位から1.0kVに変化する(図3(B))。その結果、ウエハW及び接地電位の上部電極板29の間の電位差の絶対値が大きくなって1.0kVとなる。
【0039】
ここで、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差の絶対値が大きくなると、ウエハW及び上部電極板29の間でDC放電38が発生する(図3(C))。DC放電38が発生すると、ウエハW及び上部電極板29が互いに導通し、ウエハW及び上部電極板29の間で電荷の移動が発生するため、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差は小さくなる。このとき、DC放電38が発生するとウエハW及び上部電極板29の間の電位差は直ちに小さくなるため、当該電位差は放電を維持できない電位差にまで低下して電荷の移動が直ちに停止する。その結果、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差は完全に解消せず、ウエハWには所定の電位、例えば、0.5kVの電位(以下、「DC放電後の残存電位」という。)が残存する。
【0040】
また、DC放電後の残存電位に関し、ウエハWの電位が1.0kVからDC放電後の残存電位(0.5kV)に至るまでの間、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差はDC放電が発生可能な電位差よりも大きいため、DC放電が維持できると考えられる。一方、この間の上部電極板29の電位は接地電位であることから、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差がDC放電後の残存電位の絶対値よりも大きければDC放電が発生可能と考えられる。すなわち、DC放電後の残存電位の絶対値(|A|)はDC放電が発生可能な電位差の最小値となる。なお、本実施の形態ではDC放電後の残存電位の絶対値を0.5kVとして以下の説明を行う。
【0041】
図4は、本実施の形態に係る基板除去方法としてのウエハ除去処理を説明するための工程図である。
【0042】
まず、図2のウエハの静電吸着処理に続いて、図1の基板処理装置10において、サセプタ12へのプラズマ生成用の高周波電力の供給等を停止してプラズマエッチング処理を終了する。このとき、静電電極板22への2.5kV(所定の電位)の電圧の印加が維持されているため、静電電極板22の電位として2.5kVが維持され(電位維持ステップ)、載置面23aの電位として0.5kVが維持される。一方、ウエハWの電位は、プラズマエッチング処理中に生成されていたプラズマ39によって上部電極板29の電位と同じ接地電位(0V)が維持される(図4(A))。
【0043】
次いで、チャンバ11の処理室15内に処理ガスが存在した状態で、静電電極板22へ印加される直流電圧の電位を変化させて、載置面23aの電位の絶対値がDC放電後の残存電位の絶対値である0.5kVとなり、変化後の載置面23aの電位の極性とウエハWの電位の極性とが同じ、例えば、負となり、且つウエハW及び上部電極板29の間の電位差の絶対値がDC放電後の残存電位の絶対値である0.5kV以上となるように、静電電極板22の電位を2.5kVから変化させる。具体的には静電電極板22の電位を2.5kVから1.5kVへ変化させる(電位変化ステップ)。
【0044】
このときも、上述したように、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値は2.0kVで維持されるため、静電電極板22の電位が2.5Vから1.5kVへ変化すると、載置面23aの電位も0.5Vから−0.5kVに変化する。また、載置面23a及びウエハWの間の電位差が維持されるため、ウエハWの電位も0Vから−1.0kVに変化する(図4(B))。その結果、ウエハW及び接地電位の上部電極板29の間の電位差の絶対値が大きくなって1.0kVとなり、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差の絶対値は、DC放電が発生可能な電位差の最小値であるDC放電後の残存電位の絶対値(0.5kV)を超えるため、ウエハW及び上部電極板29の間においてDC放電40が発生する(図4(C))。
【0045】
DC放電40が発生すると、ウエハW及び上部電極板29の間の電位差の絶対値はDC放電が発生可能な電位差の最小値である0.5kVとなるが、上部電極板29の電位は0Vであり且つDC放電40の発生前のウエハWの電位は−1.0kVであるため、DC放電40の発生後のウエハWの電位は−0.5kVとなる。その結果、ウエハWの電位及び載置面23aの電位が同じ電位(−0.5kV)となる。
【0046】
次いで、静電電極板22への印加される直流電圧の電位を変化させて、静電電極板22の電位を1.5kVから2.0kVへ変化させる。このときも、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値は2.0kVで維持されるため、載置面23aの電位は−0.5kVから0Vに変化する。また、載置面23a及びウエハWの間の電位差が維持されるため、ウエハWの電位も−0.5kVから0Vに変化する。その後、ウエハWを静電チャック23から突出するピン(図示しない)等によって持ち上げ、処理室15内へ進入するアーム(図示しない)等によって処理室15から搬出することによってウエハWを除去する(図4(D))(除去ステップ)。ウエハWのピンによる持ち上げの際、載置面23aの電位及びウエハWの電位はいずれも0Vであり、載置面23a及びウエハWの間の電位差は0Vであるため、ウエハW及び載置面23aの間にクーロン力が生じることがなく、ウエハWをピンによって容易に載置面23aから持ち上げることができる。
【0047】
次いで、静電電極板22へ印加される直流電圧の電位を変化させて、静電電極板22の電位を2.0kVから0Vへ変化させるとともに、処理ガスを処理室15の内部空間へ導入し、該導入した処理ガスをプラズマ生成用の高周波電力により、励起させてプラズマ41を生成させる。このときも、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値は2.0kVで維持されるため、載置面23aの電位は0Vから−2.0kVに変化するが、載置面23aからウエハWが除去されているため、該載置面23aは処理室15内へ暴露されてプラズマ41と直接接触する。その結果、プラズマ41中の電子や陽イオンによって載置面23a及び接地電位の上部電極板29の間における電荷の移動は自在となり、載置面23aから電荷が除去されて該載置面23aの電位は上部電極板29の電位と同じ接地電位となる(図4(E))。その後、本処理を終了する。
【0048】
図4のウエハ除去処理によれば、プラズマエッチング処理後、静電電極板22の電位が2.5kVから1.5kVへ変化されてウエハW及び上部電極板29の間の電位差の絶対値が、DC放電後の残存電位であってDC放電が発生可能な電位差の最小値である0.5kVを上回る1.0kVとなるので、ウエハW及び上部電極板29の間においてDC放電40が発生してウエハWの電位の絶対値が0.5kVとなる。また、変化後の載置面23aの電位の極性とウエハWの電位の極性とが同じ負であり、該載置面23aの電位の絶対値もDC放電後の残存電位である0.5kVに設定されている。したがって、ウエハWの電位及び載置面23aの電位を同じ電位(−0.5kV)とすることができる。その結果、ウエハWが静電チャック23に静電吸着されず、ウエハWを静電チャック23から容易に除去することができる。
【0049】
また、上述した図4のウエハ除去処理では、ウエハWが静電チャック23の載置面23aから除去された後、上部電極板29及び載置面23aの間においてプラズマ41が生成されるので、該プラズマ41中の電子や陽イオンによって上部電極板29及び載置面23aの間の電位差を解消することができ、もって、載置面23aの電位を接地電位とすることができる。その結果、載置面23aからの異常放電の発生を防止することができる。
【0050】
上述した図4のウエハ除去処理では、DC放電後の残存電位の絶対値が0.5kVであったが、DC放電後の残存電位の絶対値は0.5kVに限られず、チャンバ11内の圧力又は処理ガスに含まれるガスの種類に応じて変化する。また、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値が2.0kVで維持されるとしたが、静電電極板22及び載置面23aの間の電位差の絶対値は2.0kVに限られず、静電チャック23を構成する誘電体の材料や厚さによって変化する。
【0051】
以上、本発明について、上記実施の形態を用いて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0052】
本発明の目的は、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムを記録した記憶媒体を、コンピュータ等に供給し、コンピュータのCPUが記憶媒体に格納されたプログラムを読み出して実行することによっても達成される。
【0053】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラム自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、プログラム及びそのプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0054】
また、プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、RAM、NV−RAM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW)等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、他のROM等の上記プログラムを記憶できるものであればよい。或いは、上記プログラムは、インターネット、商用ネットワーク、若しくはローカルエリアネットワーク等に接続される不図示の他のコンピュータやデータベース等からダウンロードすることによりコンピュータに供給されてもよい。
【0055】
また、コンピュータのCPUが読み出したプログラムを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、CPU上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0056】
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0057】
上記プログラムの形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給されるスクリプトデータ等の形態から成ってもよい。
【符号の説明】
【0058】
W ウエハ
10 基板処理装置
11 チャンバ
22 静電電極板
23 静電チャック
23a 載置面
24 直流電源
29 上部電極板
40 DC放電

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧が印加される静電電極板を内包する誘電体からなる静電チャック及び該静電チャックを内蔵する接地電位のチャンバを備え、前記静電チャックは基板を載置して静電吸着し、前記静電吸着された基板にプラズマ処理が施される基板処理装置における基板除去方法であって、
前記プラズマ処理後の前記静電電極板の電位を、前記プラズマ処理中の前記静電電極板の電位と同じ所定の電位に維持する電位維持ステップと、
前記基板及び前記チャンバの間において直流的な放電が生じた後に前記基板に生じる電位の絶対値を|A|とした場合、前記静電チャックにおいて前記基板が載置される載置面の電位の絶対値が|A|となり、変化後の前記載置面の電位の極性と前記基板の電位の極性とが同じになり、且つ前記基板及び前記チャンバの間の電位差の絶対値が|A|以上となるように、前記静電電極板の電位を前記所定の電位から変化させて前記直流的な放電を生じさせる電位変化ステップと、
前記基板を前記静電チャックから除去する除去ステップとを有することを特徴とする基板除去方法。
【請求項2】
前記基板が前記静電チャックから除去された後、前記静電電極板の電位を接地電位へ変化させるとともに、前記チャンバ及び前記静電チャックの間においてプラズマを生成するプラズマ生成ステップをさらに有することを特徴とする請求項1記載の基板除去方法。
【請求項3】
直流電圧が印加される静電電極板を内包する誘電体からなる静電チャック及び該静電チャックを内蔵する接地電位のチャンバを備え、前記静電チャックは基板を載置して静電吸着し、前記静電吸着された基板にプラズマ処理が施される基板処理装置における基板除去方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納するコンピュータで読み取り可能な記憶媒体であって、前記基板除去方法は、
前記プラズマ処理後の前記静電電極板の電位を、前記プラズマ処理中の前記静電電極板の電位と同じ所定の電位に維持する電位維持ステップと、
前記基板及び前記チャンバの間において直流的な放電が生じた後に前記基板に生じる電位の絶対値を|A|とした場合、前記静電チャックにおいて前記基板が載置される載置面の電位の絶対値が|A|となり、変化後の前記載置面の電位の極性と前記基板の電位の極性とが同じになり、且つ前記基板及び前記チャンバの間の電位差の絶対値が|A|以上となるように、前記静電電極板の電位を前記所定の電位から変化させて前記直流的な放電を生じさせる電位変化ステップと、
前記基板を前記静電チャックから除去する除去ステップとを有することを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−212709(P2012−212709A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76319(P2011−76319)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】