説明

塗工方法および塗工装置ならびに硬化層を有する板状重合物の製造方法

【課題】シート状物上に塗工部を得る塗工方法であって、塗工液の供給による光学歪欠陥を製品内に発生させない塗工方法および装置を提供する。
【解決手段】
実質的に水平に走行するシート状物の上面に塗工液を供給し、塗工液が供給される位置よりも下流側に配設されたメインノズルからシート状物上の塗工液へ気体を吹き付けることにより、メインノズルの下流側に塗工液の厚みが均一な塗工部を形成するとともに、メインノズルの上流側に塗工液の溜まりを生ぜしめ、さらに、メインノズルの上流側かつ近接する位置でありシート状物の幅方向における両端部に近接する位置に配設された一対のサイドノズルから塗工液の溜まりへ気体を吹き付けることにより、塗工液の前記幅方向への広がりを制御する塗工方法であって、塗工液の供給位置が前記両端部近傍の一方または両方である塗工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工部の片端または両端からの塗工液供給においても規定の塗工幅を安定して得ることができる塗工方法に関する。
【0002】
本発明はまた、板状重合物に塗工液が硬化した層が設けられた硬化層を有する板状重合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、塗工技術はディスプレイ材料、機能性フィルム等の映像表示分野、磁気テープ類等の情報記録分野、インクジェット用紙等の紙分野、薄膜電池や電子回路基板等の電気・電子関連分野、眼鏡レンズなどの光学関連分野、撥水・防水・消臭といった機能繊維分野など、非常に多くの分野で活用されている。また、様々な被塗工物と塗工液との組み合わせに対応するため、種々の塗工方式が生み出されている。一方、近年のこれらの塗工方式で得られた塗工面及びこれら塗工面を賦与した材料への塗工外観要求は急速に高まっており、塗工外観に影響する被塗工物の表面精度もまた急速に高まっている。そのため被塗工物が高価なものとなり、それらを使用する塗工においては他の設備との接触の危険性を低くする塗工方法が用いられている。その代表的な塗工方法として、スプレーコートやエアナイフコートがある。
【0004】
ところで、上記の塗工方式において塗工外観を低下させるものの一つに塗工液の供給に起因するものがある。これは、塗工液のレベリング不足から生じるもの、被塗工物へ供給された塗工液と膜厚均整化後の塗膜との間に界面が形成されるために生じるもの、または、膜厚均整化の過程の前段に塗工液の溜まり(以下、「液溜り」という。)を形成するような塗工方式において、その液溜りの流れを供給液が局所的に乱すことで生じるものがある。
【0005】
このような現象を解決する方法として、例えば特許文献1に示すようなスプレーコートの後、エアナイフによって表面をかきならすことでスプレーコートによる粒子の大きさに対応した凹凸を解決する方法がある。しかしながら、このような方法で検討を実施したところシート状物上に供給された塗工液の形状に近い光学歪が塗工面に生じ、外観不良が無い均一な塗工面を得ることができなかった。また、このような方法では噴霧された塗工液が飛散することから、周辺設備の汚染の懸念や飛散した塗工液の回収設備が必要により塗工液供給部周囲が複雑となる。
【0006】
さらに、特許文献2に示すようなエアノズルを用いて、シート状物へエアを吹き付けることで該シート状物に液溜りを形成し塗工する方法がある。この方法では塗工液供給方法が塗工幅において一定間隔で多点供給、塗工幅中央に一点供給、もしくはスリットダイなどで全幅に供給する方法が提案されている、しかしながら、このような方法での多点および一点供給では製品内に供給に起因するスジ状の外観不良が発生する場合があり、改良が求められていた。
【0007】
以上のように、高付加価値の被塗工物に塗工する従来の塗工液供給方法では近年の高レベルな塗工面の外観要求を満足するような簡易的な塗工液供給方式が提案されてこなかった。
【特許文献1】特開平2−102764号公報
【特許文献2】特開2006−231284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実質的に水平に走行するシート状物の上面に塗工部の片端または両端から塗工液を供給し、塗工液が供給される位置よりも下流側においてメインノズルからシート状物へ気体を吹き付けることにより、メインノズルの上流側に液溜まりを生ぜしめ、さらに、液溜まりの両側端部に近接して配設されたサイドノズルから気体を吹き付けてシート状物上に塗工部を得る塗工方法であって、本発明の目的は、塗工液の供給による光学歪欠陥を製品内に発生させない塗工方法および装置を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、塗工液の硬化層を有する板状重合物を製造するにあたり、硬化層の外観不良を解決して、硬化層を有する板状重合物の生産性を改善しうる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、実質的に水平に走行するシート状物の上面に塗工液を供給し、塗工液が供給される位置よりも下流側に配設されたメインノズルからシート状物上の塗工液へ気体を吹き付けることにより、
メインノズルの下流側に塗工液の厚みが均一な塗工部を形成するとともに、メインノズルの上流側に塗工液の溜まりを生ぜしめ、
さらに、メインノズルの上流側かつ近接する位置でありシート状物の幅方向における両端部に近接する位置に配設された一対のサイドノズルから塗工液の溜まりへ気体を吹き付けることにより、
塗工液の前記幅方向への広がりを制御する塗工方法であって、
塗工液の供給位置が前記両端部近傍の一方または両方である塗工方法である。
【0011】
また本発明は、シート状物としてベルトを用い、相対するベルト面が同方向へ同一速度で走行するように配設された2個のエンドレスベルトの外側の面の少なくとも一方の面に、予め請求項1〜10の何れか一項記載の塗工方法によって塗工部を形成し、塗工部の塗工液を硬化させて硬化層を設け、前記エンドレスベルトの相対するベルト面と、それらの両側辺部にありベルト面で挟まれた状態で走行する連続した2本のガスケットとで囲まれた空間に、該空間の一端から重合性原料を供給し、該空間内でベルトの走行と共に重合性原料を固化させて板状重合物を形成するとともに前記硬化層を板状重合物表面に移行させる、表面に硬化層を有する板状重合物の製造方法である。
【0012】
さらに本発明は、シート状物を実質的に水平に走行させる走行手段;
該シート状物の上面の片端または両端に塗工液を供給する塗工液供給パイプ;
塗工幅全域にわたる塗工液の溜まりを設けるための、該塗工液供給手段より下流に配された、シート状物に気体を吹き付けるメインノズル;
および該塗工部の両端部にそれぞれ気体を吹き付けるサイドノズルを有する塗工装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗工方法によれば、塗工液供給位置を塗工部幅方向の端に設置することによって、製品となる塗工部内側に、供給に起因する外観不良が無い塗工部を形成することができる。
【0014】
また、塗工液が供給されたシート状物にメインノズルとサイドノズルから気体を吹き付けることによって、供給位置が塗工部幅方向の端においてもメインノズルの上流側に液溜まりを所望の幅で生ぜしめ、さらに幅方向の液溜まりの両端部付近にサイドノズルから気体を吹き付けることにより、液溜まりの幅方向の両端を堰き止めることができ、もって塗工幅を調節し、帯状に塗工された塗工部の両端部ラインを、走行するシート状物の両端部ラインと平行にすることができ、幅方向に均一な塗工部を形成することができる。
【0015】
本発明の硬化層を有する板状重合物の製造方法によれば、剥離不良を防止しつつ板状重合物をほぼ最大限製品として利用することが可能となり、硬化層を有する板状重合物の品質及び生産性を向上させることができる。
【0016】
本発明の塗工装置によれば、上記塗工方法を好適に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の塗工方法の一例を説明するための模式図である。この図に示すように、シート状物1(被塗工物)は水平方向に走行し、塗工液供給手段より塗工液がシート状物1の上面に供給される。塗工液が供給される位置よりも下流側に配置されたメインノズル2からシート状物1(被塗工物)上の塗工液に気体を吹き付けることで、メインノズルの下流側に塗工液の厚みが均一な塗工部を形成するとともに、メインノズル2の上流側に塗工液の溜まり(液溜まり5)を形成することができる。さらにシート状物1の幅方向における両端部に近接して配設された一対のサイドノズル3から該シート状物上の液溜まりへ気体を吹き付けることにより、塗工液の前記幅方向への広がりを制御する。塗工液の供給位置は前記両端部近傍の一方または両方とする。これにより、製品となる塗工部内側に、塗工液供給に起因する外観不良を有しない塗工部を連続して形成することができる。本発明により得られる板状重合物を製品として最大限有効に利用する観点から、帯状に塗工された塗工部の両端部ラインが、走行するシート状物1の両端部ラインと平行であることが好ましい。ここで「ライン」とは、走行方向の線形状のことをいう。なお、メインノズルおよびサイドノズルから吹き付ける気体としては、特に限定されないが、例えば、空気、窒素等が挙げられる。
【0018】
シート状物1(被塗工物)の材質には特に制限は無く、例えば、樹脂、金属等を使用できる。金属としては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム、銅などが挙げられる。また、これらの塗工側の表面を研磨処理したものも使用できる。シート状物1が水平状態での走行を維持するためには、高い剛性を有することが好ましい。特に金属製のシート状物1は、一般に、薄くても比較的高い剛性を有するので好ましい。シート状物の反り、撓み等の影響を抑えてフラット性を保つ観点から、シート状物1の厚さは、0.1mm以上であることが好ましい。また、シート状物1の水平方向のフラット性を保つため、シート状物1に、その走行方向に沿って張力をかけることもできる。
【0019】
塗工液供給手段としては、例えば、塗工液供給パイプ4が好適に使用できる。この場合、供給される塗工液幅を細くすることで、塗工液供給に起因する外観不良が塗工部を占める割合を小さくする観点から、供給先端口は10mm以下が好ましく、また塗工液の粘度を勘案すると、供給口の圧力損失を抑制する観点から0.5mm以上が好ましい。
【0020】
メインノズル2とサイドノズル3の気流により塗工液の供給位置がシート状物1上の所望の位置から外れることと、塗工液が飛散することを抑制する観点から、塗工液供給パイプ4先端の、シート状物の上面からの高さは、サイドノズル3の先端の高さより10mm以上高くすることが好ましく、また塗工液がシート状物1上に落下することで液跳ねが生じることを抑制する観点から、シート状物の上面からの高さは、サイドノズル3の先端の高さより50mm以下高くすることが好ましい。さらに、前記パイプ先端の、シート状物の走行方向の設置位置については、上流側のサイドノズル3”の上流側端部と下流側端部との間にあることが好ましい。
【0021】
塗工液供給量において、メインノズル2上流側に所定の塗工幅全域に渡る液溜まり5を形成後の定常供給量は搬送速度×塗工幅×塗工膜厚によって算出される。
【0022】
供給液の供給を開始し、液溜まりが塗工幅全域に広がるまでは単位時間当たりの塗工液の供給量は、からメインノズル2上流側に所定の塗工幅全域に渡る液溜まり5を形成するまでの時間をより短くする観点から、下記式(I)で算出される値の1倍以上とすることが好ましく、サイドノズル3の吹き付け気体によりサイド漏れなく塗工液を抑制する観点から、下記式(I)で算出される値の5倍以下とすることが好ましい。
【0023】
液溜まりが塗工液全域に広がった後は単位時間当たりの塗工液供給量を下記式(I)で算出される値とすることが好ましい。
【0024】
単位時間当たりの塗工液供給量=シート状物の走行速度×塗工幅×塗工膜厚 (I)
なお、本明細書において単に幅方向と言った場合、シート状物1(被塗工物)の面上においてシート状物1の走行方向と直交する方向のことを指し、長手方向とはシート状物1の走行方向のことを指す。また、上流、下流とはシート状物1の走行を流れとして見た場合の意味である。
【0025】
ここで、塗工液供給パイプ4から塗工液をシート状物1上に供給した段階で塗工液が存在すべき所定幅内に未塗工部分が存在していても、後に詳述するように、その下流に位置する液溜まり5が未塗工部分を消失せしめることができる。
【0026】
本発明に用いる塗工液は特に制限されず、非水系および水系の何れの塗工液も使用できる。塗工液の粘度は、メインノズル2、サイドノズル3からの気体によるシート状物1上の塗工液の飛散防止の観点から1mPa・s以上が好ましく、塗工液がシート状物1上を幅方向に広がる速度の観点から5000mPa・s以下が好ましい。
【0027】
非水系の塗工液としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン等の重合性モノマーが挙げられる。
【0028】
特に、塗工液の硬化物の耐擦傷性、透明性、耐候性の観点から1モルの多価アルコールと2モル以上のポリ(メタ)アクリル酸またはそれらの誘導体とから得られるエステル化物、多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸またはそれらの誘導体とから得られる1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する線状のエステル化物等を挙げることができる。
【0029】
1モルの多価アルコールと2モル以上のポリ(メタ)アクリル酸またはそれらの誘導体とから得られるエステル化物の例としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸またはそれらの誘導体とから得られる1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する線状のエステル化物において、多価アルコールと多価カルボン酸またはその無水物と(メタ)アクリル酸の好ましい組み合わせとしては、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸等の組み合わせによる縮合物等が挙げられる。
【0031】
その他の例としては、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート類と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類とを、イソシアネート1分子当たり3モル以上の(メタ)アクリレート類を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;およびトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレートもしくはトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレートを挙げることができ、更には従来より知られるエポキシポリアクリレート、ウレタンポリアクリレートなどが挙げられる。これらは、一種を単独であるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0032】
ここで、「(メタ)アクリ」とは、「メタクリ」または「アクリ」を表す。
【0033】
また、さらにアセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の溶剤を粘度調整等の目的で塗工液に適宜加えることも可能である。
【0034】
また、塗工液に重合開始剤を加えることもできる。その具体例としては、tert−ヘキシルパーオキシピバレ−ト、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等のアゾ化合物が挙げられる。
【0035】
さらに、光重合開始剤の具体例として、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;およびテトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物が挙げられる。
【0036】
またさらに、塗工液に2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイドなどの助剤や、無機系フィラーなどを適宜加えることも可能である。
【0037】
メインノズル2としては、例えば、気体吹き出し形状がスリット型のものや、円形型、楕円型のものを幅方向に複数本配列したもの等が挙げられる。スリット型の場合、スリットのクリアランスはメインノズル2への供給される圧縮空気の流量の観点から1mm以下が好ましく、0.8mm以下がさらに好ましい。またスリット部での圧力損失を抑制する観点からクリアランスは0.05mm以上であることが好ましい。
【0038】
メインノズル2の材質には特に制限は無く、例えば、樹脂、金属等を使用できる。樹脂としては、例えば、ABS、PPS、金属としては、例えば、ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム、銅、亜鉛などが挙げられる。
【0039】
メインノズル2は、塗工幅全幅にわたって塗工液を堰き止め、塗工幅全幅にわたる液溜まり5を形成可能な位置に設けられる。例えば気体吹き出し形状がスリット型の場合、シート状物1の幅より長いスリットを有し、シート状物1の幅方向に平行に設けられたメインノズルであり、シート状物1の幅方向に平行な鉛直面と、メインノズル2の気体噴出方向とのなす角度は、シート状物1上の塗工液の飛散防止の観点から、鉛直下向きを0°として−60°以上60°以下が好ましい。
【0040】
メインノズル2の取り付け位置については、液溜まり5がメインノズル2の先端に接触する危険を回避するなどの観点からメインノズル2のノズル先端をシート状物1の表面から1mm以上離すことが好ましく、液溜まり5を安定させて優れた気体の堰き止め効果を得るなどの観点からメインノズル2のノズル先端とシート状物1の表面との距離は20mm以下が好ましい。
【0041】
メインノズル2から吹き出す気体風量は、メインノズル2の取り付け位置、角度、塗工液の粘度、塗工部6の塗工厚みによって適宜調整されるが、メインノズル2先端に塗工液が接触することを防止する観点から塗工幅1mあたり0.1m/min以上が好ましく、シート状物1上の塗工液が飛散することを防止する観点から、塗工幅1mあたり30m/min以下が好ましい。
【0042】
メインノズル2から吹き出す気体温度は塗工液の粘度の観点から10℃以上150℃以下が好ましく、作業環境の観点から、10℃以上40℃以下がより好ましい。
【0043】
サイドノズル3の形状は特に制限は無く、例えば、気体吹き出し口形状がスリット型のものや、円形型、楕円型のものが挙げられる。特に、帯状に塗工された塗工部の両端部ラインを、走行するシート状物の両端部ラインと平行にすることがより容易である観点から、スリット状の噴出口、または直線状に配置された複数の噴出口を有するノズルを用いることが好ましい。
【0044】
図2はサイドノズル3の取り付け状態を示す幅方向から見た模式図である。メインノズル2と、サイドノズル3の噴出口の先端の一部とが接触して配置されることが、幅方向における液溜まり5の両端部(塗工部エッジ8)ラインの形状安定化と平行化の観点から好ましい。
【0045】
シート状物1の幅方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の気体噴出方向とのなす角度θ1は、サイドノズル3の形状等により適宜決めることができる。該角度θ1は、メインノズル2のカーテン状の気体をサイドノズル3によってシート状物1の走行方向に沿って塗工液を堰き止める効果を発現する観点から0°以上が好ましく、サイドノズル3の先端がシート状物1と接触する危険を回避するなどの観点から30°以下であることが好ましい。
【0046】
なお、本明細書においてメインノズル2の長手方向とは、メインノズル2がシート状物1の走行方向と直交する方向(シート状物1の幅方向)のことを指し、メインノズル2の幅方向とはシート状物1の走行方向のことを指す。
【0047】
次に、図3はサイドノズル3の取り付け状態を示す上流側から装置側面を見た模式図であり、サイドノズル3の取り付け方向については、シート状物1上に供給された塗工液及び液溜まり5の塗工部エッジ8を安定させて気体の堰き止め効果を得るなどの観点から、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の気体噴出方向とのなす角度θ2が−70°(シート状物1の内側に向かう方向)以上0°以下であることが好ましい。
【0048】
また、図4はサイドノズル3の取り付け状態を示す上方向からの模式図であり、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3のスリット長方向または直列に配置された複数の噴出口を結ぶ直線方向とのなす角度θ3については、メインノズル2の上流側では、メインノズル2から噴出する気体による影響がメインノズル2からシート状物1の走行方向に沿って遠ざかるに従って少なくなることから、メインノズル2に近いスリット端を基点として60°(サイドノズル3のスリットがシート状物1の上流側よりも下流側の方が内側にある)以下が好ましく、液溜まり5の形状をシート状物1の内側に向かって形成する際、サイドノズル3の気体による液飛びを防止する観点から−60°(サイドノズル3のスリットがシート状物1の上流側よりも下流側の方が外側にある)以上が好ましい。
【0049】
サイドノズル3の噴出口の先端とシート状物1の上面との距離は、シート状物1にサイドノズル3の先端が接触する危険を回避するなどの観点から、10mm以上が好ましく、シート状物の幅方向における液溜まり5の塗工部エッジ8を安定させて気体の堰き止め効果を得るなどの観点から50mm以下が好ましい。
【0050】
サイドノズル3のシート状物の幅方向における設置位置は、液溜まりからの液飛びを抑制する観点から幅方向における塗工部の端から30mm以上が好ましく、安定して液溜まり端を制御する観点から液溜まり端から100mm以下の位置に設けることが好ましい。
【0051】
さらに、サイドノズル3の取り付け位置、角度および/または方向を、塗工液の粘度やシート状物1の材質により適宜調節して連続することにより、シート状物の走行方向に対して平行である塗工部エッジ8を所望の位置に形成することができる。
【0052】
サイドノズル3は上流側及び下流側で気体風量を分けることができるように、シート状物の走行方向に複数組配設されることが好ましい。
【0053】
サイドノズル3の気体風量はサイドノズル3の取り付け位置、角度、塗工液の粘度、シート状物1の材質および搬送速度、メインノズル2の風量により適宜調節しても良い。
【0054】
サイドノズルをシート状物の走行方向に複数組配設する場合、下流側のサイドノズル3’は幅方向における液溜まり端へ気体を直線状に当てて制御する観点から、塗工部の走行方向における幅と同じ範囲内に設置することが好ましく、シート状物へ供給された液への影響を少なくする観点から、液溜まりの走行方向における幅から50mmを超えない幅にすることが好ましい。
【0055】
上流側のサイドノズル3”から吹き出す気体風量は、シート状物1上に供給された塗工液の自由界面(流動先端)の外側への広がりに打ち勝って塗工液を堰き止める程度の風量以上が好ましく、シート状物1の上部から供給される塗工液を内側に飛ばさない程度の風量以下が好ましい。
【0056】
下流側のサイドノズル3’から吹き出す気体風量は、下流側のサイドノズル3’では吹き付け気体風量がメインノズル2の吹き付け気体風量に打ち勝って液溜まり5を堰き止める程度の風量以上が好ましく、液溜まり5の端から液飛びをしない程度の風量以下が好ましい。
【0057】
下流側のサイドノズルの気体風量を上流側のサイドノズルのそれより多く供給することが好ましい。
【0058】
サイドノズル3から吹き出す気体温度は塗工液の粘度の観点から10℃以上150℃以下が好ましく、作業環境の観点から、10℃以上40℃以下がより好ましい。
【0059】
サイドノズル3の材質には特に制限は無く、例えば、樹脂、金属等を使用できる。樹脂としては、例えば、ABS,PPS、金属としては、例えば、ステンレス鋼、鉄鋼、アルミニウム、銅、亜鉛などが挙げられる。使用する塗工液にもよるが、溶剤洗浄に適したステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0060】
図1に示すように、水平方向に走行するシート状物1の上に供給された塗工液は、メインノズル2とサイドノズル3との堰き止め効果により所定の塗工幅全域に形成されている液溜まり5に供給される。この液溜まり5の量は塗工液の供給量によって調整することが可能で、帯状に塗工された塗工部エッジ8ラインが、走行するシート状物の両端部ラインと平行となるように適宜調整できる。
【0061】
本発明において、液溜まり5は幅方向に広がることで所定範囲に未塗工部分の無い平滑な塗工部を得るために有効であるが、さらに液溜まり5のシート状物1の走行方向である長手方向における長さや液位も意味を持つ。例えば、この液溜まり5への塗工液が一時的に過剰になった場合、液溜まり5の量は変化するが、液溜まり5の幅方向の両端をサイドノズル3で堰き止めているため、液溜まり5の長手方向が長く、液位が高くなる。その結果、液溜まり5の両端を堰き止めない方法と比べて、液溜まり5の量を所定の塗工幅全域に渡ってほぼ均一に増やすことができるという効果がある。すなわち、液溜まり5を、塗工液供給の増減ムラに対する緩衝機構として機能させることが可能である。
【0062】
なお、本発明の塗工方法では、液溜まり5の形状、量を安定させる観点から、被塗工物であるシート状物1が走行方向において長い方が効率よく塗工できる。さらに、シート状物1が走行方向における端部を有しないエンドレスシート状であって、連続的に走行するものであれば最も効率よく塗工できる。
【0063】
また、シート状物1上の液溜まり5の形状をシート状物1の幅方向、走行方向に対して安定させる観点から、シート状物1は水平方向に走行させることが好ましいが、僅かに傾いた方向で走行する場合であっても、液溜まり5の両端をサイドノズル3で堰き止めているため、液溜まり5の両端の液位に差がでる程度で水平方向の場合と同様に本発明の効果(塗工部エッジ8ラインとシート状物の両端部ラインとが平行)が得られる。つまり、本発明の効果が得られる程度の傾きは許容され、シート状物1は実質的に水平方向に走行すればよい。
【0064】
以上説明した本発明の塗工方法によれば、均一な塗工部6を有するシート状物1を安定して得ることができる。このシート状物1の面積1mあたりの塗工量は適宜設定できるが、例えば1g/m以上100g/m以下である。
【0065】
また、塗工液に熱もしくは紫外線で硬化する材料を用い、この塗工部6を更に加熱したり、紫外線を照射したりすることによって硬化させ、硬化層を有するシート状物1を得ることもできる。
【0066】
塗工部6またはその硬化層を有するシート状物1は、塗工部端に発生する供給に起因する外観不良の部分を除去後、所望のサイズに適宜切断して、種々の用途に使用できる。
【0067】
また例えば、塗工部6の硬化層付きの金属製のシート状物1の硬化層側に、別の樹脂層や樹脂成形体を付着させ、金属製のシート状物1から硬化層を剥離移行させることにより、硬化層を有する樹脂積層体を得ることもできる。この方法は、特に連続製板装置を用いた板状重合物の製造方法において非常に有用である。例えば、シート状物としてベルトを用い、相対するベルト面が同方向へ同一速度で走行するように配設された2個のエンドレスベルトの相対するベルト面と、それらの両側辺部にありベルト面で挟まれた状態で走行する連続した2本のガスケットとで囲まれた空間に、その空間の一端から重合性原料(例えばメタクリル酸メチルを含む重合性原料)を供給し、その空間内でベルトの走行と共に、例えばこの空間に近接された加熱ゾーン内にて重合性原料を固化させ、その空間の他端から板状重合物を取り出す板状重合物の製造方法において、上記2個のエンドレスベルト(例えば厚み1.0mm以上のステンレス鋼板からなる鏡面研磨されたエンドレスベルト)の外側の面の少なくとも一方の面に、予め本発明の塗工方法によって塗工部を形成し、塗工部の塗工液を硬化させて硬化層を設けておき、その硬化層を板状重合物の表面に移行させることによって、表面に硬化層を有する板状重合物を安定して且つ効率良く製造できる。つまり、エンドレスベルトのベルト面に本発明の塗工方法によって硬化可能な塗工液の塗工部6を形成し、次いでその塗工部6を硬化させ、エンドレスベルト上に硬化層を形成する。このように少なくとも一方に硬化層が形成された一組の相対するエンドレスベルトと、側部をシールするためのガスケットとで囲まれる空間に、重合性原料を供給し、硬化層に接触している重合性原料を連続的に重合させ、重合性原料が重合して得られる板状重合物に硬化層をエンドレスベルトから移行させることにより、硬化層を少なくとも一方の面に有する板状重合物を得ることができる。
【0068】
本発明の塗工装置において、走行手段は、例えば水平方向に同一速度で走行する上下に位置した2個のエンドレスベルトを具備するベルト式連続製板装置等、シート状物1を実質的に水平に走行させることができる公知の機構を適宜利用できる。
【実施例1】
【0069】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。以下の記載において「部」は質量部を示す。
【0070】
(実施例1)
水平方向に同一速度で走行する上下に位置した2個のエンドレスベルトを具備するベルト式連続製板装置を用いて、以下の通り連続塗工を行った。
【0071】
トリメチロールエタン・アクリル酸・無水コハク酸縮合エステル(大阪有機化学(株)製、商品名:TAS)50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学(株)製、商品名:ビスコート#230)50部を混合したものを塗工液として用いた。
【0072】
上記2個のエンドレスベルトは、いずれも鏡面研磨されたベルト幅500mmオーステナイト系ステンレス鋼板(厚さ1.5mm)であり、上下に位置した2個のベルトのうち下側の方をシート状物1として、塗工速度(シート状物1の走行速度)は2m/min、シート状物1の両側端から50mm内側を塗工部エッジとし、塗工幅400mm、膜厚20μmの連続塗工を図1に示した方法に従い10時間行った。尚、塗工液はベルト下流端で拭き取りながら装置を稼動した。
【0073】
ここで、塗工液、メインノズル2、サイドノズル3の空気温度、シート状物1の温度を25℃となるように調整した。塗工液の25℃における粘度は45mPa・sであった。
【0074】
また、塗工液供給パイプ4として、先端内径φ2mmのステンレス製の中空パイプを塗工部下流から見て左側の塗工部エッジ配し、かつサイドノズル3先端のシート状物1からの設置高さより20mm高くし、シート状物1走行方向においては以下記載の3個目のサイドノズル3の中央付近に配した。
【0075】
塗工液の供給量は、液溜まり5がメインノズル上流側に400mm幅で形成されるまでは定常の供給量の1.5倍の供給量で供給を開始した。
【0076】
メインノズル2としては、幅方向に700mmのスリット型ノズルであってスリットクリアランス0.1mm、空気風量1m3/minのものを用い、メインノズル2取り付け位置は、ノズル先端がシート状物1の表面から5mm離れた位置で、メインノズル2角度がシート状物1の幅方向に平行な鉛直面と、メインノズル2の空気噴出方向とのなす角度が5度上流側に傾けて配した。
【0077】
また、サイドノズル3はオリフィス呼び径0.86mmの噴出口が直列に複数個配置されたステンレス316製フラットノズル(スプレーイングシステムジャパン(株)製、商品名:ウィンドジェットAAB727−SS)を3個直列に並べたものであって、その先端はシート状物1の表面から40mm離れ、塗工部6の両側端から70mm離れ、シート状物1の幅方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の空気噴出方向とのなす角度θ1は0°(垂直)、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の空気噴出方向とのなす角度θ2は−45°、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3のスリットとのなす角度θ3は−30°とした。
【0078】
シート状物1の両端から50mm内側に塗工面エッジが形成されるように上流1個及び下流2個のサイドノズル3の吹きつけ空気風量を調整した結果、上流1個のサイドノズル3”の空気風量は0.005m/min、下流2個のサイドノズル3’の空気風量は0.015m/minであった。
【0079】
上記の1.5倍の塗工液供給量で、幅400mmで上流側に向かって長さ70mm程度の液溜まり5を5分ほどで形成でき、その後定常の供給量に減らしてもほぼそのサイズを維持でき、塗工部の目視評価では未塗工部分や極端な薄膜部分は皆無であった。
【0080】
10時間の塗工中、塗工部エッジ8ラインはシート状物1の両端部ライン平行となり、塗工幅の蛇行は左右に5mm以内であった。また、塗工面の膜厚は20±5μmであった。
【0081】
さらに、塗工部下流から見て左側の塗工部エッジ8から内側に約10mm程度の幅の、供給に起因するスジ7が連続して生じたが、残りの塗工幅390mmには外観不良は皆無であった。
【0082】
(実施例2)
本実施例では、実施例1よりもさらに大型の連続製板装置を用いて、以下に示す以外は実施例1と同様な連続塗工を行った。
【0083】
実施例1で用いたトリメチロールエタン・アクリル酸・無水コハク酸縮合エステル50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート50部を混合したものを塗工液として用い、鏡面研磨されたベルト幅3000mmオーステナイト系ステンレス鋼板(厚さ1.5mm)をシート状物1として、塗工速度(シート状物1の走行速度)は4m/min、シート状物1の両側端から150mm内側を塗工端とし、塗工幅2700mmの連続塗工を図1に示した方法に従い20時間行った。
【0084】
ここで、塗工液、メインノズル2、サイドノズル3の空気温度、シート状物1の温度を17℃となるように調整した。塗工液の17℃における粘度は70mPa・sであった。
【0085】
また、塗工液供給パイプ4として、内径6mm、外径8mmのステンレス製中空パイプを塗工部下流から見て塗工部両エッジに1本づつ配し、かつサイドノズル3先端のシート状物1からの設置高さより40mm高くし、シート状物1走行方向においては以下記載の4個目のサイドノズル3の中央付近に配した。
【0086】
メインノズル2としては、幅方向に3000mmのスリット型ノズルであって、スリットクリアランス0.1mm、空気風量2.5m3/minのものを用い、メインノズル2取り付け位置は、ノズル先端がシート状物1の表面から5mm離れた位置で、メインノズル2角度がシート状物1の幅方向に平行な鉛直面と、メインノズル2の空気噴出方向とのなす角度が5度上流側に傾けて配した。
【0087】
また、サイドノズル3は実施例1で用いたオリフィス呼び径0.86mmの噴出口が直列に複数個配置されたステンレス316製フラットノズルを4個直列に並べたものであって、その先端はシート状物1の表面から30mm離れ、塗工部6の両側端から60mm離れ、シート状物1の幅方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の空気噴出方向とのなす角度θ1は0°(垂直)、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3の空気噴出方向とのなす角度θ2は−55°、シート状物1の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズル3のスリットとのなす角度θ3は0°とした。
【0088】
シート状物1の両端から150mm内側に塗工面エッジが形成されるように上流2個及び下流2個のサイドノズル3の吹きつけ空気風量を調整した結果、上流2個のサイドノズル3”の空気風量は0.015m/min、下流2個のサイドノズル3’の空気風量は0.04m/minであった。
【0089】
上記の1.5倍の塗工液供給量で、幅2700mmで上流側に向かって長さ100mm程度の液溜まり5を15分ほどで形成でき、その後定常の供給量に減らしてもほぼそのサイズを維持でき、塗工部の目視評価では未塗工部分や極端な薄膜部分は皆無であった。
【0090】
20時間の塗工中、塗工部エッジ8ラインはシート状物1の両端部ラインと平行になり、塗工幅の蛇行は左右に10mm以内であった。また、塗工面の膜厚は20±5μmであった。
【0091】
さらに、塗工部下流から見て左右の塗工部エッジ8から内側に約20mm程度の幅の供給に起因するスジ7が連続して生じたが、残りの塗工幅2660mmには外観不良は皆無であった。
【0092】
(実施例3)
以下の通り、実施例1と同様にして10時間の連続塗工を行いながら、製板を実施した。なお、本実施例では塗工部を硬化させるため、実施例1の塗工液100部に対してビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製、商品名:BAPO)0.2部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製、商品名:IRGACURE 184)3部を光開始剤として混合し、紫外線硬化用光源装置(アイグラフィクス(株)製)を用いて硬化させた。
【0093】
10時間の塗工中、エンドレスベルトのベルト面に形成された塗工液を前記方法により硬化させ、エンドレスベルト上に硬化層を形成した。一方のエンドレスベルト面に硬化層が形成された一組の相対するエンドレスベルトと、未塗工部である側部(シート状物1両側端よりそれぞれ内側に25mmまでの位置)にシールするためのガスケットとを配し、ガスケットで囲まれる空間に、重合率20質量%のメタクリル酸メチルシラップ(粘度1Pa・s、20°)100部に、重合開始剤としてtert−ヘキシルパーオキシピバレート(日本油脂(株)製、商品名:パーヘキシルPV)0.35部、離型剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.005部を加えて均一に混合した液状の重合性原料を真空容器内で脱泡したうえで供給し、硬化層に接触している重合性原料を連続的に重合させ、重合性原料が重合して得られる板状重合物に硬化層をエンドレスベルトから移行させることにより、420mm±5mm以内の幅の硬化層を一方の面に有する板状重合物を得た。
【0094】
得られた板状重合物の両側端部を切断する際、板状重合物のエッジから20mmを切断することで、光学歪が無い板状重合物を無駄無く得ることができた。
【0095】
(比較例1)
図5に示すように、供給液供給パイプを塗工部中央に設置する以外は、実施例1と同様にして10時間の連続塗工を行った。
【0096】
10時間の塗工中、メインノズル2から上流側のシート状物1上に実施例1と類似の液溜まり5が形成され、所望の塗工幅で未塗工部分や極端な薄膜部分は皆無であったが、塗工部中央付近に供給に起因する幅10mm程度のスジが連続的に生じた。
【0097】
(比較例2)
図6に示すように、供給パイプを噴霧ノズルに変更する以外は、実施例1と同様にして10時間の連続塗工を行った。
【0098】
塗工液供給手段4として、平均液滴径1mmになるよう調整した円形噴霧ノズルパイプを4本幅方向に100mm間隔で1列になるよう、シート状物1の表面より150mm離して配した。
【0099】
10時間の塗工中、メインノズル2から上流側のシート状物1上に実施例1と類似の液溜まり5が形成され、所望の塗工幅で未塗工部分や極端な薄膜部分は皆無であったが、塗工部6のほぼ全面にシート状物1に落下後の供給液滴サイズに近い円形状の光学歪が生じた。
【0100】
(比較例3)
比較例1と同様にして10時間の連続塗工を行いながら、実施例3に示したのと同様にして製板を実施したところ、420mm±5mm以内の幅の硬化層を一方の面に有する板状重合物を得た。
【0101】
得られた板状重合物のエッジから20mmを切断し、一方の全面に硬化層を有する板状重合物が得たが、中央部に連続的にスジ状の光学歪が生じ幅方向に外観不良が無い板状重合物を得ることが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本塗工方法は、後工程に応じて、金属製や樹脂製のシート状物の表面にシート状物の幅より狭い所定の塗工幅の塗工部を形成する必要がある種々の用途において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の塗工方法を実施しうる装置の一例を示す模式的斜視図である。
【図2】サイドノズルの取り付け状態を説明するための、本発明の塗工方法を実施しうる装置の模式的側面図である。
【図3】サイドノズルの取り付け状態を説明するための、本発明の塗工方法を実施しうる装置の上流側から見た模式的側面図である。
【図4】サイドノズルの取り付け状態を説明するための模式的上面図である。
【図5】従来の中央からの塗工液供給での塗工方法の一例を説明するための、模式的上面図である。
【図6】従来のスプレーノズルによる塗工液供給方式での塗工方法の一例を説明するための模式的上面図である。
【符号の説明】
【0104】
1 シート状物(被塗工物)
2 メインノズル
3 サイドノズル
3’ 下流側サイドノズル
3” 上流側サイドノズル
4 塗工液供給パイプ
4’ 噴霧ノズル
5 液溜まり
6 塗工部
7 供給スジ
8 塗工部エッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に水平に走行するシート状物の上面に塗工液を供給し、塗工液が供給される位置よりも下流側に配設されたメインノズルからシート状物上の塗工液へ気体を吹き付けることにより、
メインノズルの下流側に塗工液の厚みが均一な塗工部を形成するとともに、メインノズルの上流側に塗工液の溜まりを生ぜしめ、
さらに、メインノズルの上流側かつ近接する位置でありシート状物の幅方向における両端部に近接する位置に配設された一対のサイドノズルから塗工液の溜まりへ気体を吹き付けることにより、
塗工液の前記幅方向への広がりを制御する塗工方法であって、
塗工液の供給位置が前記両端部近傍の一方または両方である塗工方法。
【請求項2】
帯状に塗工された塗工部の両端部ラインが、走行するシート状物の両端部ラインと平行である請求項1の塗工方法。
【請求項3】
サイドノズルがシート状物の走行方向に複数個配設され、各サイドノズルが、スリット状の噴出口または直線状に配列された複数の噴出口を有するノズルである請求項1または2記載の塗工方法。
【請求項4】
下流側のサイドノズルの気体風量を上流側のサイドノズルのそれより多く供給する請求項3記載の塗工方法。
【請求項5】
塗工液を供給するパイプ先端の、シート状物の上面からの高さが、サイドノズルの先端の高さより10mm〜50mm高く、さらに、前記パイプ先端の、シート状物の走行方向の設置位置が、上流側のサイドノズルの上流側端部と下流側端部との間にある請求項4記載の塗工方法。
【請求項6】
塗工液の供給を開始し、塗工液の溜まりが塗工幅全域に広がるまでは単位時間当たりの塗工液供給量を下記式(I)で算出される値の1倍以上5倍以下とし、塗工液の溜まりが塗工幅全域に広がった後は単位時間当たりの塗工液供給量を下記式(I)で算出される値とする請求項1〜5の何れか一項記載の塗工方法。
単位時間当たりの塗工液供給量=シート状物の走行速度×塗工幅×塗工膜厚 (I)
【請求項7】
メインノズルとサイドノズルのそれぞれの噴出口の先端の一部が接触し、かつ、シート状物の幅方向に平行な鉛直面とサイドノズルの気体噴出方向とのなす角度が0°以上30°以下である請求項1〜6の何れか一項記載の塗工方法。
【請求項8】
シート状物の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズルの気体噴出方向とのなす角度が−70°以上0°以下である請求項1〜7の何れか一項記載の塗工方法。
【請求項9】
シート状物の走行方向に平行な鉛直面とサイドノズルのスリット長方向または複数の噴出口を結ぶ直線方向とのなす角度が−60°以上60°以下である請求項1〜8の何れか一項記載の塗工方法。
【請求項10】
サイドノズルの噴出口の先端とシート状物の上面との距離が10mm以上50mm以下であり、サイドノズルのシート状物幅方向の設置位置が、シート状物の幅方向における塗工部の両端部から外側へ30mm以上100mm以下にある請求項1〜9の何れか一項記載の塗工方法。
【請求項11】
シート状物としてベルトを用い、相対するベルト面が同方向へ同一速度で走行するように配設された2個のエンドレスベルトの外側の面の少なくとも一方の面に、予め請求項1〜10の何れか一項記載の塗工方法によって塗工部を形成し、塗工部の塗工液を硬化させて硬化層を設け、
前記エンドレスベルトの相対するベルト面と、それらの両側辺部にありベルト面で挟まれた状態で走行する連続した2本のガスケットとで囲まれた空間に、該空間の一端から重合性原料を供給し、該空間内でベルトの走行と共に重合性原料を固化させて板状重合物を形成するとともに前記硬化層を板状重合物表面に移行させる、表面に硬化層を有する板状重合物の製造方法。
【請求項12】
シート状物を実質的に水平に走行させる走行手段;
該シート状物の上面の片端または両端に塗工液を供給する塗工液供給パイプ;
塗工幅全域にわたる塗工液の溜まりを設けるための、該塗工液供給手段より下流に配された、シート状物に気体を吹き付けるメインノズル;
および該塗工部の両端部にそれぞれ気体を吹き付けるサイドノズルを有する塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−136755(P2009−136755A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315104(P2007−315104)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】