説明

塗工装置、及び塗工方法

【課題】塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる塗工装置、及び塗工方法を提供すること。
【解決手段】塗工ローラ2とファウンテンノズル3を用いて、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する塗工装置1において、ファウンテンノズル3は、塗工ローラ2の下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路33により分割された2ピースの支持部32A、32Bと、該支持部の上面に形成され、塗工ローラ2にビードを形成する堰部31A、31Bとを有すること、堰部側への塗液供給路出口331に、軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成され塗工ローラ下端に当接する台座部4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工ローラとファウンテンノズルを用いて、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する塗工装置、及び塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン二次電池の製造においては、厚さ10μm程度のウェブ状の金属箔(アルミ箔、銅箔)の表面に塗液材料を塗工することが行われている。このウェブ状の金属箔(アルミ箔、銅箔)の表面に塗液材料を塗工するために、例えば、外周面に螺旋状の塗工溝であるポケットが形成されていたり、またはワイヤが巻回された、直径6mm〜20mmの塗工ローラを用いる試みがなされている。
しかしながら、上記塗工ローラを用いる場合には、塗工溝で掻き揚げた塗液材料を被塗布材の表面にそのまま転写するので、塗布方向に直交する方向(軸方向)での塗布ムラ(塗工膜の厚みムラ、スジなど)や、スケ(塗工膜が薄くて箔が透けて見える状態)が発生する問題があった。ここでは、特にことわらない限り、塗布ムラとスケを含めて、塗布ムラと表現する。
【0003】
そのため、塗工ローラを用いてウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する際に、塗布ムラを抑制する技術として、例えば、特許文献1及び特許文献2の技術が開示されている。
特許文献1には、ワイヤを巻回した塗工ローラを用い、3ピースの支持部の真ん中のピースの上部に塗工ローラを配置し、その両側に設けたファウンテンノズルから塗液材料を塗工ローラに供給する技術が記載されている。つまり、特許文献1の技術は、塗工ローラに対して、左右対称で塗液材料を供給することにより、塗液溜まり内の渦の発生を防止して、塗布ムラを生じにくくする技術である。
また、特許文献2には、塗工ローラを一対の回転型の支持部により支持するとともに、液中に没した堰部材を設けることにより、気泡の混入を防止して、塗布ムラを生じにくくする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-072646号公報
【特許文献2】特開2008-238082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載された技術には、次のような問題があった。
まず、特許文献1、2の技術では、塗液供給時から混入する気泡は、そのままファウンテンノズル内の塗液材料に混入され、塗工ローラによって被塗布材に塗工されてしまうので、かかる気泡による塗布ムラの発生を抑制することはできない。
特に、リチウムイオン二次電池に使用する電極となるウェブ状の金属箔に塗工するバインダー樹脂の水溶液からなる塗液材料の場合、バインダー樹脂を均一化するため、微少量の界面活性剤を加えるケースが多い。界面活性剤には、親水基と疎水基とがあるため、気体側に疎水基、液膜側に親水基を向けて配列して、気泡が発生しやすくなる。
そして、塗工装置においては、タンク等からの一次配管から流入する流入口付近で塗液材料の流速が大きく変化し、渦流が生じやすい。その渦流によって、塗液材料中の微小な気泡が大きく成長することがある。この大きく成長した気泡を除去、若しくは小さく分割しないと、塗工したときに塗布ムラが生じる問題があった。
【0006】
また、特許文献2の技術では、下流側堰部の中の塗液材料に混入した気泡が、塗工ローラ等の回転によって発生する随伴流に乗って上流側堰部の中に移動するのを防止する堰部材を、液中に没した状態で設置している。
しかし、塗工ローラと堰部材の間には一定の隙間を設けているので、例えば直径0.5〜1mm以下の微小な気泡まで確実に止めることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる塗工装置、及び塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の塗工装置は、次のような構成を有している。
(1)塗工ローラとファウンテンノズルを用いて、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する塗工装置において、
前記ファウンテンノズルは、前記塗工ローラの下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路により分割された2ピースの支持部と、該支持部の上面に形成され、前記塗工ローラにビードを形成する堰部とを有すること、前記堰部側への塗液供給路出口に、前記軸方向に均等間隔で貫通孔が形成され前記塗工ローラ下端に当接する台座部を備えること、を特徴とする。
ここで、前記貫通孔は、任意の断面形状とすることができ、例えば、矩形、多角形、円形、楕円形などがある。
【0009】
(2)(1)に記載する塗工装置において、
前記貫通孔の孔寸法が、300μm以下であること、を特徴とする。
ここで、前記孔寸法とは、貫通孔に内接する最大円の直径をいい、例えば、矩形断面の貫通孔であれば短辺寸法を指す。
(3)(1)又は(2)に記載された塗工装置において、
前記堰部の前記ビードを形成するノズル部の先端角度が、80度以下であること、を特徴とする。
また、本発明の塗工方法は、次のような構成を有している。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する塗工装置を使用して、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
次に、本発明に係る塗工装置、及び塗工方法の作用及び効果について説明する。
(1)塗工ローラとファウンテンノズルを用いて、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する塗工装置において、ファウンテンノズルは、塗工ローラの下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路により分割された2ピースの支持部と、支持部の上面に形成され、塗工ローラにビード(液溜まり)を形成する堰部とを有すること、堰部側への塗液供給路出口に、塗工ローラの軸方向に均等間隔で貫通孔が形成され塗工ローラ下端に当接する台座部を備えること、を特徴とするので、塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる。
【0011】
具体的には、台座部は、堰部の塗液供給路出口に備えられ、軸方向に均等間隔で貫通孔が形成されているので、塗液供給路から塗液材料をファウンテンノズル内に塗工ローラの軸方向に均一に配給しながら、塗液供給路から供給される塗液材料に混入する貫通孔より大きい気泡を、貫通孔によって遮断又は分割することができる。そのため、塗液供給路から供給される塗液材料に混入する気泡を、貫通孔を通過できる程度の大きさに制限できる。
また、台座部は、塗工ローラ下端に当接しているので、ファウンテンノズル内において下流側堰部の中の塗液材料に混入した気泡が、塗工ローラの回転によって発生する随伴流に乗って上流側堰部の中に移動するのを確実に防止することができる。
【0012】
つまり、台座部は、ファウンテンノズル内に塗液材料を均一に配給するとともに、ファウンテンノズル内に新しく供給する塗液材料に混入している気泡と、ファウンテンノズル内で後から塗液材料に混入する気泡とを、塗工する前に同時に遮断又は分割する機能を持っている。
さらに、台座部は、塗工ローラ下端と当接することによって、塗工ローラが高速で回転してもブレを少なくし、ファウンテンノズル内の塗液材料の波打ちを生じにくくすることができる。そのため、塗工ローラの回転に伴う気泡の噛み込みを抑えることができる。
よって、2ピースの支持部と均等間隔に形成された貫通孔を有する台座部という簡便な構造を採りながら、塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる塗工装置を提供することができる。
【0013】
(2)(1)に記載する塗工装置において、貫通孔の孔寸法が、300μm以下であること、を特徴とするので、塗液供給路から供給される塗液材料に混入する気泡が貫通孔を通過するときに、例えば、直径が1mmの気泡の場合、貫通孔を通過することにより、直径が100μm〜300μm程度の複数個の気泡に分割される。
リチウムイオン二次電池の電極を構成する集電体である金属箔への塗工においては、塗工膜の厚さが数μm〜数十μm程度であるので、気泡の直径が300μm以下であれば、そのまま塗工されて塗工膜に気泡による凹みが生じても、塗液材料を乾燥する間に凹みは均一化され、最終製品である電池の性能に問題がないことを、本出願人らの実験により確認している。
なお、本出願人の実験では、好ましくは、貫通孔の孔寸法を100μmとすれば、貫通孔を通過する気泡の直径が100μm程度となるため、電池性能への影響がほとんどなくなることを確認している。
【0014】
(3)(1)又は(2)に記載された塗工装置において、堰部のビードを形成するノズル部の先端角度が、80度以下であること、を特徴とするので、ノズル部先端と塗工ローラとの間の空間に形成されるビード(液溜まり)に収容される塗液材料の容積が一定に安定するため、塗布ムラの発生を防止することができる。
本出願人の実験によれば、ノズル部の先端角度が80度を越えると、表面張力が作用してノズル部の先端から塗液材料が排出されにくくなる。そのため、ファウンテンノズル内の塗液材料が上方に盛り上がる箇所ができる場合がある。塗液材料が上方に盛り上がる箇所では、ノズル先端と塗工ローラとの間の空間に形成されるビード(液溜まり)の容積が、他の箇所に比べて増加する。したがって、ノズル部の先端角度が80度を越えると、ビード(液溜まり)の容積が軸方向で変動することになり、塗布ムラが発生しやすいことを確認している。
【0015】
また、本発明の塗工方法は、次のような作用、効果を奏する。
(4)(1)乃至(3)に記載する塗工装置を使用して、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工することを特徴とするので、塗布ムラの少ない、直径が300μmを越える大きさの気泡の混入のない塗工膜を形成できるため、電池の性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る塗工装置の模式的横断面図である。
【図2】図1に示す塗工装置の台座部に形成した貫通孔の模式的上面図であり、(a)は連続パターンの場合を示し、(b)は単一パターンの場合を示す。
【図3】図1に示す塗工装置を使用してウェブ状の金属箔に塗工する塗工方法の説明図である。
【図4】ファウンテンノズルの形状的特徴を表す模式的横断面図である。
【図5】図4に示すファウンテンノズルを使用してウェブ状の金属箔に塗工したときの塗布ムラ評価結果のグラフであって、(a)は角度aを変化させた場合を示し、(b)は塗工ローラ上面との相対高さを変化させた場合を示す。
【図6】図4に示すファウンテンノズルを使用してウェブ状の金属箔に塗工したときの塗布ムラ評価結果のグラフであって、(a)は塗工ローラとファウンテン壁面との距離を変化させた場合を示し、(b)はファウンテン部先端の長さを変化させた場合を示す。
【図7】塗工装置の塗布部を示す変形例の模式的上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る塗工装置及び塗工方法の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、はじめに本発明に係る塗工装置の基本構造と、その塗工装置を使用してウェブ状の金属箔に塗工する塗工方法における塗液材料の均一化及び気泡の遮断又は分割のメカニズムを説明した上で、本塗工装置を応用した塗布ムラ低減実施例を実験結果に基づいて説明する。
【0018】
<塗工装置の基本構造>
はじめに、本発明に係る塗工装置の基本構造について説明する。図1に、本発明に係る塗工装置の模式的横断面図を示す。図2に、図1に示す塗工装置の台座部に形成した貫通孔の模式的上面図であり、(a)に連続パターンの場合を示し、(b)に単一パターンの場合を示す。
【0019】
図1に示すように、塗工装置1は、塗工ローラ2と、ファウンテンノズル3と、台座部4と、本体ベース5とを備えている。
塗工ローラ2は、円柱状のロッド体であり、外周部には塗液材料を保持する塗工溝21が形成されている。塗工溝21は、通常、螺旋溝状に形成される。螺旋溝は、ロッド体に切削又は転造等によって直接形成する場合と、細いワイヤを巻回して形成する場合がある。塗工ローラ2の直径は、5〜20mm程度で、溝深さは数μm程度である。なお、塗工ローラ2は、耐食性及び剛性等を考慮してステンレス製である。
塗工ローラ2の両端は、図示しない軸受け部で回転自在に支持されている。軸受け部は、板状の本体ベース5に固着されている。
また、塗工ローラ2の一方の端部は、図示しない駆動部である電動機の回転軸に連結具を介して連結されている。駆動部は、本体ベース5に固着されている。
また、塗工ローラ2の下方を囲うように、ファウンテンノズル3が本体ベース5に固着されている。
【0020】
図1に示すように、ファウンテンノズル3は、塗工ローラ2の下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路33により分割された2ピースの支持部32A、32Bを有し、本体ベース5に固着されている。つまり、2ピースに分割された支持部32A、32Bは、塗工ローラ2の中心線位置の下方で軸方向に沿って一定の隙間を有して離間することによって、塗液供給路33を形成している。塗液供給路33の軸方向長さは、少なくとも塗工ローラ2の塗工溝21の長さ以上である。塗液供給路33の途中には、一次供給路35が連通されている。一次供給路35には、タンク等からの入力プラグ36が接続されている。
また、ファウンテンノズル3は、被塗布材であるウェブ状の金属箔が未塗工である上流側の支持部32Aと塗工済である下流側の支持部32Bとで構成されている。上流側の支持部32Aと下流側の支持部32Bの上面には、塗工ローラ2にビード(液溜まり)を形成する上流側の堰部31Aと下流側の堰部31Bとが形成されている。上流側の堰部31Aと下流側の堰部31Bとの間に塗工ローラ2が配置されている。また、上流側の堰部31Aと下流側の堰部31Bとによって塗液材料を貯留する。堰部31A、31Bの先端は、先端角度を80度以下としてノズル部34を構成する。
【0021】
図1に示すように、台座部4は、矩形断面を有する板状体であって、上流側の支持部32A及び下流側の支持部32Bの上面に載置されている。また、台座部4は、上流側の堰部31Aと下流側の堰部31Bに挟まれて塗液供給路出口331に配設されるとともに、塗工ローラ2の下端に当接している。台座部4の軸方向の長さは、塗工溝21の長さと略等しい。台座部4の塗工ローラ2との当接面42は、軸方向で連続して摺接可能に形成されている。台座部4は、塗工ローラ2と摺接しながら塗工ローラ2の下端を支持するので、耐久性と弾性を兼ね備えた樹脂材料が好ましい。
【0022】
また、図2に示すように、台座部4には、軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成されている。貫通孔41は、任意の断面形状とすることができ、例えば、矩形、多角形、円形、楕円形などがある。貫通孔41が形成されている範囲は、塗工溝21による塗布範囲に対応する。
貫通孔41は、塗工ローラ2との当接面又はその近傍にパターン化して配置されている。そして、貫通孔41をパターン化する方法には、例えば、図2(a)に示すように、矩形断面の貫通孔41Aを直線上に連続して配置することによって連続パターンを形成する方法と、図2(b)に示すように、扇形断面の貫通孔41Bを円形に配置することによって単一パターンを形成し、この単一パターンを軸方向に均等間隔で配置する方法がある。
それぞれの貫通孔41の孔寸法は、300μm以下である。孔寸法は、貫通孔41に内接する最大円の直径をいい、例えば、矩形断面の貫通孔41であれば短辺寸法を指す。そのため、貫通孔41の孔寸法以上の気泡は、貫通孔41を通過することができない。
【0023】
<塗工方法>
次に、上述した塗工装置1を使用してウェブ状の金属箔Kに塗工する塗工方法における、塗液材料の均一化及び気泡の遮断又は分割のメカニズムを説明する。図3に、図1に示す塗工装置を使用してウェブ状の金属箔に塗工する塗工方法の説明図を示す。
1.塗液材料の均一化方法
塗液材料は、タンク等からの配管と一次供給路35とを経由して塗液供給路33へ配給される。
図3に示すように、塗液供給路33は、2ピースに分割された支持部32A、32Bによって塗工ローラ2の下方で軸方向に沿って一定の隙間を有する。そのため、塗液供給路33へ配給された塗液材料は、軸方向に均一化される。
また、塗液供給路33の出口331には、軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成された台座部4が配置されている。そのため、塗液供給路33からの塗液材料は、貫通孔41を通過してファウンテンノズル3内に均一に貯留される。
ウェブ状の金属箔Kは、上流側から下流側に向って矢印T方向に所定の速度で搬送されている。塗工ローラ2は、金属箔Kの下面に摺接して、時計回り(矢印Rの方向)に回転する。ファウンテンノズル3内に均一に貯留された塗液材料は、塗工ローラ2の回転に伴い塗工溝21によって掻き揚げられ、塗工ローラ2に均一なビード(液溜まり)CBを形成する。そして、塗工ローラ2に形成された均一なビード(液溜まり)CBは、搬送されてくるウェブ状の金属箔Kに均一に転写され、塗工膜Wが均一に形成されていく。
【0024】
2.気泡の遮断又は分割のメカニズム
図2、図3に示すように、台座部4には、軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成されているので、塗液供給路33から供給される塗液材料に混入する貫通孔41の孔寸法より大きい気泡を、貫通孔41によって遮断又は分割することができる。そのため、塗液供給路33から供給される塗液材料に混入する気泡を、貫通孔41を通過できる程度の大きさに制限できる。
例えば、塗液供給路33から供給される塗液材料CL0の中に直径が300μm以上の気泡P0が混入していても、ファウンテンノズル内の上流側の堰部31Aの中に貯留された塗液材料CL1に混入している気泡P1は、直径が100μm〜300μm程度の気泡に分割されることになる。
貫通孔41は、幅方向に均等間隔で形成されているので、塗液供給路33から供給される塗液材料CL0の中のどこにある気泡P0であっても、直径が300μm以下の気泡に遮断又は分割される。
【0025】
また、図3に示すように、台座部4は、塗工ローラ下端に当接しているので、ファウンテンノズル内において下流側堰部31Bの中の塗液材料CL2に混入した気泡P2が、塗工ローラ2の回転によって発生する随伴流に乗って上流側堰部31Aの中に移動するのを確実に防止することができる。
具体的には、塗工ローラ2が塗工溝21に保持する塗液材料(この場合、主に上流側堰部31Aの中にある塗液材料CL1)をウェブ状の金属箔Kに転写するので、ファウンテンノズル内において下流側堰部31Bの中では、塗液材料を保持しない塗工溝21が塗液材料の中に入り込む。塗液材料を保持しない塗工溝21はエアポケットを有するので、塗工溝21が塗液材料の中に入り込むとき、気泡P2を噛み込みやすい。また、塗工ローラ2の回転によって、下流側堰部31Bの中の塗液材料CL2には、随伴流が発生しやすい。この随伴流に乗って気泡P2は、下流側堰部31Bの中の塗液材料CL2から上流側堰部31Aの中に移動しようとする。
しかし、台座部4は、塗工ローラ下端に当接しているので、随伴流を遮断するとともに、気泡P2の移動を防止する。
【0026】
例えば、下流側堰部31Bの中の塗液材料CL2の中に直径が300μm以上の気泡P2が混入していても、その気泡P2は、ファウンテンノズル内の上流側の堰部31Aの中に貯留された塗液材料CL1に移動することはできない。仮に、気泡P2が塗工溝21の隙間に入って移動しようとしても、塗工溝の溝深さは数μm程度であるため、直径が300μm以上の気泡P2は確実に遮断される。
以上のように、ファウンテンノズル内に新しく供給する塗液材料CL0に混入している気泡P0と、ファウンテンノズル内で後から塗液材料に混入する気泡P2とを、塗工する前に直径が300μm以下の気泡P1となるよう、台座部4によって同時に遮断又は分割することができる。
さらに、台座部4は、塗工ローラ下端と当接することによって、塗工ローラ2が高速で回転してもブレを少なくし、ファウンテンノズル内の塗液材料の波打ちを生じにくくすることができる。そのため、塗工ローラ2の回転に伴う気泡のかみ込みを抑えることができる。
以上、詳細に説明したように、本実施形態の塗工装置1を使用してウェブ状の金属箔Kに塗工する際、塗液材料を均一化でき、有害な気泡を遮断又は分割することができる。
【0027】
<塗布ムラ低減事例>
次に、上述した本塗工装置1を応用した塗布ムラ低減実施例を実験結果に基づいて説明する。図4に、ファウンテンノズルの形状的特徴を表す模式的横断面図である。図5に、図4に示すファウンテンノズルを使用してウェブ状の金属箔に塗工したときの塗布ムラ評価結果のグラフであって、(a)はノズル先端角度aを変化させた場合を示し、(b)は塗工ローラ上面との相対高さを変化させた場合を示す。図6に、図4に示すファウンテンノズルを使用してウェブ状の金属箔に塗工したときの塗布ムラ評価結果のグラフであって、(a)は塗工ローラとノズル壁面との距離を変化させた場合を示し、(b)はノズル部先端の長さを変化させた場合を示す。
本実施例の実験条件は、金属箔の搬送速度を30m/分、塗工ローラの直径を10mm、塗工ローラの回転数を300rpm、塗液材料をSBR(スチレン・ブタジエンゴム)バインダー水溶液(13wt%)、粘度を30cpsとしている。また、塗布ムラは、塗布幅中心から左右に領域を分け、それぞれ100cmの領域に対する目付量mg/cmを測定し、両者の差を塗布ムラmg/cmとした。
図4に示すように、本塗工装置1においてファウンテンノズル3の形状的特徴であるノズル先端角度a、塗工ローラ上面とノズルとの相対高さb、塗工ローラ2とノズル壁面との距離c、ノズル先端部の長さdを変化させて塗布ムラを比較した。
【0028】
1.実施例A
図5(a)に示すように、ノズル先端角度aが10〜80度の範囲では塗布ムラが少ないことが解る。ノズル部34の先端角度aが80度を越えると、表面張力が作用してノズル部34の先端から塗液材料が排出されにくくなる。そのため、ファウンテンノズル内の塗液材料が上方に盛り上がる箇所ができる場合がある。塗液材料が盛り上がる箇所では、ノズル先端と塗工ローラ2との間の空間に形成されるビード(液溜まり)CBの容積が、他の箇所に比べて増加する。したがって、ノズル部34の先端角度が80度を越えると、ビード(液溜まり)の容積が軸方向で変動することになり、塗布ムラが発生しやすいことを確認できた。
よって、ノズル先端角度aは80度以下が好ましい。その中でも、40〜50度がさらに好ましい。
【0029】
2.実施例B
図5(b)に示すように、塗工ローラ上面とノズルとの相対高さbが0〜5mmの範囲では塗布ムラが少ないことが解る。塗工ローラ2が半分以上ファウンテンノズル内で露出した状態では、塗液材料を塗工溝21で均一に掻き揚げることが難しくなるからと考えられる。
よって、塗工ローラ上面とノズルとの相対高さbは、塗工ローラ2の半径以下であることが好ましい。
【0030】
3.実施例C
図6(a)に示すように、塗工ローラ2とノズル壁面との距離cが0〜5mmの範囲では塗布ムラが少ないことが解る。塗工ローラ2とノズル壁面との距離cが広いと、塗工ローラ2の回転に伴う随伴流が循環して塗液材料の表面に波が生じやすくなる。塗液材料の表面に波が生じると、塗工ローラ2が掻き揚げる塗液材料のビード(液溜まり)CBの容積に変動が起こり、塗布ムラを誘発することが考えられる。また、塗工ローラ2とノズル壁面との距離cが広すぎると、塗液材料の液面にごみ等の異物が入ったり、液面からの揮発も多くなる。
よって、塗工ローラ2とノズル壁面との距離cは、5mm以下が好ましい。
【0031】
4.実施例D
図6(b)に示すように、ノズル部先端の長さdが0〜4mmの範囲では塗布ムラが少ないことが解る。ファウンテンノズル内の塗液材料がオーバーフローするときは、ノズル部先端から溢れる。塗液材料が溢れる瞬間は、ノズル部先端との間で塗液材料の表面張力を超える量の塗液材料が貯留されて、バランスが崩れたときである。ノズル部先端が長いと、バランスが崩れにくく、塗液材料がノズル部34の先端位置を越えて貯留されるので、塗工ローラ2が掻き揚げる塗液材料によって形成するビード(液溜まり)CBの容積に変動が起こり、塗布ムラを誘発することが考えられる。
よって、ノズル部先端の長さdは、4mm以下が好ましい。
【0032】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態の塗工装置によれば、塗工ローラ2とファウンテンノズル3を用いて、ウェブ状の金属箔Kに塗液材料を塗工する塗工装置1において、ファウンテンノズル3は、塗工ローラ2の下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路33により分割された2ピースの支持部32A、32Bと、支持部の上面に形成され、塗工ローラ2にビード(液溜まり)CBを形成する堰部31A、31Bとを有すること、堰部側への塗液供給路出口331に、塗工ローラ2の軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成され塗工ローラ下端に当接する台座部4を備えること、を特徴とするので、塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる。
【0033】
具体的には、台座部4は、堰部の塗液供給路出口331に備えられ、軸方向に均等間隔で貫通孔41が形成されているので、塗液供給路33から塗液材料をファウンテンノズル内に塗工ローラ2の軸方向に均一に配給しながら、塗液供給路33から供給される塗液材料に混入する貫通孔41より大きい気泡を、貫通孔41によって遮断又は分割することができる。そのため、塗液供給路33から供給される塗液材料に混入する気泡を、貫通孔41を通過できる程度の大きさに制限できる。
また、台座部4は、塗工ローラ下端に当接しているので、ファウンテンノズル内において下流側堰部31Bの中の塗液材料に混入した気泡が、塗工ローラ2の回転によって発生する随伴流に乗って上流側堰部31Aの中に移動するのを確実に防止することができる。
【0034】
つまり、台座部4は、ファウンテンノズル内に塗液材料を均一に配給するとともに、ファウンテンノズル内に新しく供給する塗液材料に混入している気泡と、ファウンテンノズル内で後から塗液材料に混入する気泡とを、塗工する前に同時に遮断又は分割する機能を持っている。
さらに、台座部4は、塗工ローラ下端と当接することによって、塗工ローラ2が高速で回転してもブレを少なくし、ファウンテンノズル内の塗液材料の波打ちを生じにくくすることができる。そのため、塗工ローラ2の回転に伴う気泡の噛み込みを抑えることができる。
よって、2ピースの支持部32A、32Bと均等間隔に形成された貫通孔41を有する台座部4という簡便な構造を採りながら、塗液材料を均一に配給しつつ、塗液材料に混入する気泡を遮断又は分割して、塗布ムラを低減することができる塗工装置1を提供することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、貫通孔41の孔寸法が、300μm以下であること、を特徴とするので、塗液供給路33から供給される塗液材料に混入する気泡が貫通孔41を通過するときに、例えば、直径が1mmの気泡の場合、貫通孔41を通過することにより、直径が100μm〜300μm程度の複数個の気泡に分割される。
リチウムイオン二次電池の電極を構成する集電体である金属箔への塗工においては、塗工膜の厚さが数μm〜数十μm程度であるので、気泡の直径が300μm以下であれば、そのまま塗工されて塗工膜に気泡による凹みが生じても、塗液材料を乾燥する間に凹みは均一化され、最終製品である電池の性能に問題がないことを、本出願人らの実験により確認している。
なお、本出願人の実験では、好ましくは、貫通孔41の孔寸法を100μmとすれば、貫通孔41を通過する気泡の直径が100μm程度となるため、電池性能への影響がほとんどなくなることを確認している。
【0036】
また、本実施形態によれば、堰部31A、31Bのビード(液溜まり)CBを形成するノズル部34の先端角度が、80度以下であること、を特徴とするので、ノズル部先端と塗工ローラ2との間の空間に形成されるビード(液溜まり)CBに収容される塗液材料の容積が一定に安定するため、塗布ムラの発生を防止することができる。
本出願人の実験によれば、ノズル部34の先端角度が80度を越えると、表面張力が作用してノズル部34の先端から塗液材料が排出されにくくなる。そのため、ファウンテンノズル内の塗液材料が上方に盛り上がる箇所ができる場合がある。塗液材料が盛り上がる箇所では、ノズル先端と塗工ローラ2との間の空間に形成されるビード(液溜まり)CBの容積が、他の箇所に比べて増加する。したがって、ノズル部34の先端角度が80度を越えると、ビード(液溜まり)CBの容積が軸方向で変動することになり、塗布ムラが発生しやすいことを確認している。
【0037】
また、本実施形態の塗工装置を使用した塗工方法によれば、ウェブ状の金属箔Kに塗液材料を塗工することを特徴とするので、塗布ムラの少ない、直径が300μmを越える大きさの気泡の混入のない塗工膜を形成できるため、電池の性能を向上させることができる。
【0038】
なお、ウェブ状の箔に塗液材料を塗布する場合に、直径20mm〜60mmのグラビアローラ(ウェブ搬送の逆回転)と、掻き落しブレードを用いて塗工を行うと、必要な箇所に必要とされる塗液材料を正確に塗工できることが知られている。しかし、グラビアローラは、装置の製造コストが高いため、電池の製造コストが高くなる問題があった。
本実施形態の塗工装置を使用すれば、2ピースの支持部32A、32Bと均等間隔に形成された貫通孔41を有する台座部4という簡便な構造の装置であるので、電池の製造コストを低減することもできる。
【0039】
<変形例>
次に、上述した本実施形態に対する変形例を説明する。図7に、塗工装置1の塗布部を示す変形例の模式的上面図を示す。
上述した本実施形態では、ノズル部34の先端は、塗工ローラ2の塗布部Aと未塗布部Bとを区別せず、一定の高さで形成されている。そのため、オーバーフローする塗液材料は、ノズル部34の先端の内、何処からでも排出されうる。しかし、これに限定されることはない。
本変形例では、ノズル部34の先端は、塗工ローラ2の塗布部Aの範囲を未塗布部Bの範囲に比べて高くしている。図7に示すように、塗液材料は、主に低い方の未塗布部Bのノズル部34の先端から回収溝37に排出される。そのため、塗工ローラ2の塗布部Aの範囲では、塗液材料がノズル部34の先端を越えることがないので、表面張力による液面の部分的な盛り上がりを生じることもない。
よって、塗布部Aの範囲では、ファウンテンノズル内の塗液材料の容積に変動が生じにくい。結果として、塗工ローラ2に形成されるビード(液溜まり)CBが安定して、塗布ムラを低減できる。
【0040】
また、本実施形態によれば、塗液供給路33の途中には、一次供給路35が連通されている。しかし、これに限定されることはない。
塗液供給路33と一次供給路35との間に、軸方向に一定断面で形成された中間貯留槽を配設することができる。中間貯留槽を配設すると、塗液材料の流速が中間貯留槽を通過するときに軸方向で均一化される。そのため、台座部4に供給される塗液材料の流速も軸方向で均一化され、塗工ローラ2において塗工幅の全長でビード(液溜まり)CBがより均一に形成できる。
その結果、より一層塗布ムラを低減できる。
なお、この場合、中間貯留槽の中で発生する気泡は、台座部4の貫通孔41を通過するときに小さく分割できるので、問題は生じない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えばハイブリッド車や電気自動車等に用いるリチウムイオン二次電池に好適な電極の集電体であるウェブ状の金属箔に、塗液材料を塗工する塗工装置及び塗工方法として利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 塗工装置
2 塗工ローラ
3 ファウンテンノズル
4 台座部
5 本体ベース
21 塗工溝
31 堰部
31A 上流側の堰部
31B 下流側の堰部
32 支持部
32A 上流側の支持部
32B 下流側の支持部
33 塗液供給路
34 ノズル部
35 一次供給路
36 入力プラグ
37 回収溝
41 貫通孔
42 当接面
331 塗液供給路出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工ローラとファウンテンノズルを用いて、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工する塗工装置において、
前記ファウンテンノズルは、前記塗工ローラの下方で軸方向に沿って形成された塗液供給路により分割された2ピースの支持部と、該支持部の上面に形成され、前記塗工ローラにビードを形成する堰部とを有すること、
前記堰部側への塗液供給路出口に、前記塗工ローラの軸方向に均等間隔で貫通孔が形成され前記塗工ローラ下端に当接する台座部を備えること、を特徴とする塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載する塗工装置において、
前記貫通孔の孔寸法が、300μm以下であること、を特徴とする塗工装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する塗工装置において、
前記堰部の前記ビードを形成するノズル部の先端角度が、80度以下であること、を特徴とする塗工装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する塗工装置を使用して、ウェブ状の金属箔に塗液材料を塗工すること、を特徴とする塗工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−695(P2013−695A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136138(P2011−136138)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】