説明

塗布フィルムの製造方法及び装置

【課題】加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる塗布フィルムの製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布する塗布装置と、該塗布液を前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する搬送ローラ62,62…が備えられた加熱乾燥装置44と、を備えた塗布フィルムの製造装置に、加熱乾燥装置44のフィルム入口64又はフィルム出口66であって、走行するフィルム24cの下方側に、該加熱乾燥装置のグラウンドレベルと略平行方向な板部材68を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布フィルムの製造方法及び装置であって、特に、走行するフィルム上に低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布し、該塗布液を搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥することで、塗布フィルムを製造する塗布フィルムの製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学補償フィルムや反射防止フィルム等の塗布フィルムが利用されている。
【0003】
ところで、塗布フィルムの塗布膜が光学補償膜、反射防止膜などの場合には、塗布液には低分子量化合物(例えば、紫外線重合開始剤)を含んでおり、塗布膜が加熱・乾燥される際に低分子量物質が揮発してしまい、加熱乾燥ゾーンの搬送ローラに付着し結露となりフィルムに付着することがあり、高得率で光学フィルムを製造できないという問題がある。また、加熱乾燥ゾーンの搬送ローラに低分子量物質が付着してしまうことで、搬送ローラの清掃も必要となり、塗布フィルムの製造装置の稼働率が下がってしまうという問題もある。なお、ここで云う低分子量物質とは、分子量が一般的に1000以下であるものを指す。
【0004】
この問題に関して、溶液製膜法において製造されるフィルムを乾燥させるものではあるが、特許文献1には、加熱乾燥ゾーン内で揮発した低分子量物質の凝縮結露によるフィルム汚染を防止するために、乾燥風に接触する部分(床面除く)の温度を低分子量物質の飽和温度よりも5℃以上高くすることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、乾燥ゾーンで塗布層を加熱風で乾燥させた後、硬化ゾーンで該塗布層を硬化させる光学フィルムの製造方法において、乾燥ゾーンと硬化ゾーンとの間に仕切を介して中間ゾーンを設け、中間ゾーンの温度を乾燥ゾーンの温度と硬化ゾーンの温度の何れよりも低くなるように制御することで低分子量化合物の結露を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−198934号公報
【特許文献2】特開2009−205092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで塗布液を乾燥する場合において、引用文献1及び2の方法では、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができないという問題があることが分かった。また、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布が揮発した溶剤ガスの影響により不安定となり、塗布膜の乾燥速度が変化してしまうことで乾燥ムラの原因になるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる塗布フィルムの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の塗布フィルムの製造方法は、走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布し、該塗布液を搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥することで、塗布フィルムを製造する塗布フィルムの製造方法であって、前記加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口では、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略平行方向に板部材を配設することで、前記塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気を前記搬送ローラの位置に滞留させて該搬送ローラに結露が発生しないようにすることを特徴とする。そして、本発明の塗布フィルムの製造装置は、走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布する塗布装置と、該塗布液を前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する搬送ローラが備えられた加熱乾燥装置と、を備えた塗布フィルムの製造装置であって、前記加熱乾燥装置のフィルム入口又はフィルム出口であって、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥装置のグラウンドレベルと略平行方向な板部材を配設することを特徴とする。
【0010】
本発明では、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口では、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略平行方向に板部材を配設する。この板部材により、塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気が重力に従って加熱乾燥ゾーンの底部に落ちてしまうのを一旦抑制する。そして、本発明では、加熱乾燥ゾーンでは塗布液に含まれる低分子量化合物の融点以上の気流が送り込まれているので、板部材により気流の温度で搬送ローラの温度低下を妨げることができ、揮発した低分子量化合物が搬送ローラに結露するのを防ぐことができる。
【0011】
即ち、板部材を設けることで、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラへの低分子量化合物の結露汚れを防止できるので、塗布膜への汚れ写り故障を撲滅することができ、搬送ローラの清掃が不要になることによって製造装置の稼働率を上げることができる。また、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御が簡便にできることにより、乾燥ムラ対策や乾燥速度制御も容易に行うことができる。
【0012】
発明によれば、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の塗布フィルムの製造方法は、走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布し、該塗布液を搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥することで、塗布フィルムを製造する塗布フィルムの製造方法であって、前記加熱乾燥ゾーンでは、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略垂直方向に板部材を配設することで、前記塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気を前記搬送ローラの位置に滞留させて該搬送ローラに結露が発生しないようにすることを特徴とする。そして、本発明の塗布フィルムの製造装置は、走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布する塗布装置と、該塗布液を前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する搬送ローラが備えられた加熱乾燥装置と、を備えた塗布フィルムの製造装置であって、前記加熱乾燥装置内には、前記走行するフィルムの下方側に、グラウンドレベルに略鉛直方向な板部材を配設することを特徴とする。
【0014】
本発明では、加熱乾燥ゾーンでは、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略垂直方向に板部材を配設する。この板部材により、塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気が重力に従って加熱乾燥ゾーンの底部に落ちてしまう量を抑制する。即ち、略垂直方向に配設された板部材により、溶剤ガスが搬送ローラの位置まで溜まり易くなるので、搬送ローラの温度は搬送ローラ周辺の温度よりも高くなり搬送ローラへの低分子量化合物の結露汚れを防止することができる。
【0015】
したがって、本発明によれば、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる。
【0016】
本発明においては、前記加熱乾燥ゾーンでのフィルムの搬送角度が30°以下であること、又は、前記加熱乾燥装置は30°以下の角度で備えられていることが好ましい。なお、30°以下であることが好ましいが、より好ましくは20°以下、更に好ましくは12°以下である。
【0017】
また、本発明の製造方法又は装置によって製造された機能性フィルムは、低分子量化合物の搬送ローラへの結露汚れが塗布膜へ写り故障となったり乾燥ムラが起きたりすることがないので、光学素子、表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の機能性フィルムとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用される光学フィルムの製造工程を示す概略図である。
【図2】本発明に係る乾燥装置を示す概略図である。
【図3】本発明に係る乾燥装置を示す概略図である。
【図4】本発明に係る乾燥装置を示す概略図である。
【図5】実施例の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面により本発明の塗布フィルムの製造方法及び製造装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0021】
図1は、塗布フィルムの製造工程の一例を示す概略図であり、光学補償フィルムの製造工程10を示している。なお、光学補償フィルムの製造工程10における搬送ローラの配置形態は、図1の態様に限定されないものとする。
【0022】
図1に示すように、光学補償フィルムの製造工程10は、主に、配向膜形成工程12と、該配向膜上にラビング処理を施すラビング処理工程14と、該ラビング処理後に液晶層形成工程16と、を備えている。
【0023】
ポリマーフィルムの長尺ロール(フィルムロール)20から送出機22により送り出された長尺状の透明フィルム24aは、搬送ローラ26により搬送され、表面除塵機28により除塵された後、配向膜形成工程12に送られる。
【0024】
配向膜形成工程12では、塗布機30により配向膜形成用樹脂を含む塗布液が塗布され、乾燥装置32で乾燥され、樹脂層が透明フィルム24a表面上に形成される。そして、該透明フィルム24aは、更にラビング処理工程14へ送られる。なお、ここで得られたフィルムは一旦巻き取ってもよい。
【0025】
ラビング処理工程14では、ラビングローラ34、スプリングでローラステージに固定されたガイドローラ36及びラビングローラに備え付けられた除塵機37よりなるラビング装置により、配向膜形成用樹脂層を有する透明フィルム24bにラビング処理が施される。これにより、形成された配向膜の表面は、ラビング装置に隣接して設けられた表面除塵機38により除塵される。ラビング装置は、上記以外の公知の装置を使用してもよい。除塵された後、配向膜が形成された透明フィルム24cは、搬送ローラ40により搬送され、更に液晶層形成工程16へ送られる。
【0026】
液晶層形成工程16では、透明フィルム24cの配向膜上に、液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液が塗布機42により塗布され、次いで、溶剤を蒸発させた後、乾燥装置44において、塗布層をディスコティックネマティック相形成温度に加熱される(ここで塗布層の残留溶剤も蒸発する)。これにより、ディスコティックネマティック相の液晶層が形成される。
【0027】
上記液晶層は、次いで、紫外線(UV)ランプ46により紫外線が照射され、液晶層は架橋する。液晶層を架橋させるためには、液晶性ディスコティック化合物として架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物を使用する必要がある。
【0028】
塗布機42と加熱乾燥装置44は、精密な塗布及び乾燥を行うために、一般的にクリーンルーム内に設置されている。クリーンルームは、例えば天井面から清浄な空調エアをダウンフローすることによって、常に加圧された清浄な状態を維持している。
【0029】
塗布機42は、エクストルージョン型、ロールコータ型、グラビアコータ型、スライドコート型、或いはそれ以外の塗布方式であってもよい。また、本発明の乾燥装置は有機溶剤系の塗布液に限らず水系に適用することもできるが、乾燥ムラが発生し易い有機溶剤系の塗布液において効果を発揮する。
【0030】
塗布液に含まれる溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、水エタノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート(MMPG−AC)、N−メチルピロリドン(NMP)、ノルマルプロピルアルコール(n−PrOH)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アノンから成る組成のものが使用される。
【0031】
塗布液に含まれる低分子化合物としては、硬膜剤として重合開始剤が使用される。重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001−139663号公報等に記載)、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、オニウム塩類、ボレート塩、活性ハロゲン化合物などが挙げられる。
【0032】
「最新UV硬化技術」{発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行}、p.159、及び「紫外線硬化システム」(加藤清視著、平成元年、総合技術センター発行)、p.65〜148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
【0033】
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・ジャパン(株)製の商品名「イルガキュア(184,651,907)」等が好ましい例として挙げられる。
【0034】
フィルム24cに塗布液を塗布する塗布条件としては、例えば、ウェット塗布量が5〜15μm程度になるようにする。こうして塗布液が塗布されたフィルムは、乾燥装置44へ走行されて、最終的に塗布膜面の膜厚が乾膜状態で1〜5μm程度になる。
【0035】
乾燥装置44は、ポリマーフィルム24cの走行方向に対して塗布機42の下流側に配設され、ポリマーフィルム24cに気流を送り込んで塗布膜面を乾燥させる。乾燥装置44と塗布機42は、乾燥時の熱が塗布機42に悪影響を及ぼすことを防止するため、及び、ポリマーフィルム24cの塗布膜面に熱風の乾燥エアをすぐに当てないため、1000mm程度の間隔をあけて設置することが好ましい。
【0036】
図2に加熱乾燥装置44を示す。
【0037】
図2(A)は、従来の加熱乾燥装置44を示している。加熱乾燥装置44は、主に、乾燥ボックス44aと、熱風の乾燥エアを供給する二次元ノズル60と、加熱可能な複数の搬送ローラ62,62…とからなる。乾燥ボックス44aには、ポリマーフィルム24cが走行するためのフィルム入口64とフィルム出口66とが設けられている。
【0038】
図2(A)の加熱乾燥装置44では、フィルム入口64又はフィルム出口66の搬送ローラ62に塗布膜中から気化した低分子量化合物が結露してしまうという問題があった。また、加熱乾燥装置内の雰囲気温度分布が揮発した溶剤ガスの影響により不安定となり、塗布膜の乾燥速度が変化してしまうことで乾燥ムラの原因になるという問題があった。
【0039】
そこで、図2(B)又は(C)の少なくとも何れかのように加熱乾燥装置を構成することで、低分子量化合物が搬送ローラに結露する問題と、塗布膜の乾燥ムラの問題とを解決することができることを見出した。
【0040】
図2(B)に示す加熱乾燥装置44は、二次元ノズル60からポリマーフィルム24cの塗布液を低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する。そして、フィルム入口64の走行するポリマーフィルム24cの下方側に加熱乾燥装置のグラウンドレベルと略平行方向な板部材68を配設している。
【0041】
この板部材68により、塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気が重力に従って加熱乾燥装置の底部に落ちてしまうのを一旦抑制する。また、加熱乾燥装置では塗布液に含まれる低分子量化合物の融点以上の気流が送り込まれているので、板部材68により気流の温度でフィルム入口64の搬送ローラ62の温度低下を妨げることができる。したがって、揮発した低分子量化合物がフィルム入口64の搬送ローラ62に結露するのを防ぐことができる。即ち、板部材を設けることで、加熱乾燥装置のフィルム入口の搬送ローラへの低分子量化合物の結露汚れを防止できるので、塗布膜への汚れ写り故障を撲滅することができ、搬送ローラの清掃が不要になることによって製造装置の稼働率を上げることができる。
【0042】
また、図2(B)の加熱乾燥装置により、加熱乾燥装置内の雰囲気温度分布の制御が簡便にできる。なぜならば、フィルム入口64から流入する空気により搬送ローラ62近傍の雰囲気温度を決定することができるからである。よって、乾燥ムラ対策や乾燥速度制御も容易に行うことができる。
【0043】
なお、この板部材68は、フィルム入口64の搬送ローラ62の下部側にかかる長さであることが好ましい。
【0044】
図2(C)に示す加熱乾燥装置44は、図2(B)に示した加熱乾燥装置と同様に、二次元ノズル60からポリマーフィルム24cの塗布液を低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する。そして、走行するポリマーフィルム24cの下方側に、グラウンドレベルに略鉛直方向な板部材70を配設している。
【0045】
この板部材70により、塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気が重力に従って加熱乾燥装置の底部に落ちてしまう量を抑制する。即ち、略垂直方向に配設された板部材70により、溶剤ガスがフィルム入口64の搬送ローラ62の位置まで溜まり易くなるので、搬送ローラ62の温度は搬送ローラ周辺の温度よりも高くなり、搬送ローラへの低分子量化合物の結露汚れを防止することができる。
【0046】
また、図2(C)の加熱乾燥装置により、加熱乾燥装置内の雰囲気温度分布の制御が簡便にできる。なぜならば、フィルム入口64から流入する空気を板部材70によりフィルム下にバッファすることができるため、フィルム下雰囲気温度を決定することができるからである。よって、乾燥ムラ対策や乾燥速度制御も容易に行うことができる。
【0047】
なお、この板部材70は、フィルム入口64の搬送ローラ62よりも下流側に設けることが好ましい。
【0048】
図2(B)、(C)において、フィルム入口64の搬送ローラ62について説明したが、フィルム出口66の搬送ローラ62においても、同様の効果がある。したがって、本発明によれば、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができる。
【0049】
そして、図3に示すように、加熱乾燥装置44はグランドレベルGLに対して30°以下の角度θで備えられていることが好ましい。なお、30°以下であることが好ましいが、より好ましくは20°以下、更に好ましくは15°以下、より更に好ましくは12°以下である。
【0050】
上記実施形態では、光学補償フィルムの製造工程10を例に説明したが、これに限定されず、その他の機能性フィルム、例えば、反射防止フィルム、各種画像表示装置に使用される光学用途の薄膜状フィルムの製造、搬送工程に適用できる。
【0051】
また、図2(B)、(C)は、本発明の少なくとも何れかの場合についてそれぞれ説明したが、例えば、図4のように、図2(B)の板部材68と図2(C)の板部材70とを一緒に配設ことも有効である。
【0052】
[フィルム]
本発明で使用されるフィルムとしては、一般に幅0.3〜5m、長さ45〜10000m、厚さ5〜200μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフィルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートした紙、アルミニウム、銅、錫等の金属箔等、或いは帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたものが含まれる。
【0053】
[塗布液]
本発明において、塗布フィルムには、溶剤と可塑剤や硬膜剤等の低分子量化合物とが含まれる塗布液がその表面に塗布され、乾燥された後、所望する長さ及び幅に裁断されるものも含まれ、これらの代表例としては、光学補償フィルム、反射防止フィルムが挙げられる。
【実施例】
【0054】
図1に示した塗布フィルムの製造工程10で実験を行った。
【0055】
フィルム24aとしては、厚さ80μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士フイルム(株)製)を使用した。そして、フィルムの表面に、長鎖アルキル変性ポバール(MP−203、クラレ(株)製)の2重量パーセント溶液をフィルム1m当り25ml塗布後、60°Cで1分間乾燥させて形成した配向膜用樹脂層を形成したフィルム24bを、30m/分で搬送させながら、配向膜用樹脂層表面にラビング処理を行って配向膜を形成した。
【0056】
そして、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、塗布液としては、ディスコティック化合物TE−8の(3)とTE−8の(5)の重量比で4:1の混合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製造)を前記混合物に対して1重量パーセント添加した混合物の40重量%メチルエチルケトン溶液とする液晶性化合物を含む塗布液を使用した。フィルム24cを、30m/分で走行させながら、この塗布液を配向膜上に塗布液量が帯状ベースフィルム1m当り5mL〜7mLになるようにグラビア塗布装置で塗布した。そして、塗布後に、135°Cに調整された加熱乾燥装置44で乾燥させた。加熱乾燥装置44には、搬送ローラ62,62…が6個設けられており、フィルム入口から順に搬送ローラの温度を25.4℃、26.5℃、38.6℃、46.9℃、53.3℃、63.6℃と設定した。
【0057】
ここで、図2(A)の従来の加熱乾燥装置と図4の板部材68,70が配設された加熱乾燥装置とを用い、加熱乾燥装置内の雰囲気温度分布を調べた。温度は、底面(床)付近とフィルム(ベース)付近とを計測した。
【0058】
なお、その後、フィルム24cを紫外線ランプにより紫外線を照射した。
【0059】
図5はその測定結果を示したグラフであり、図5(A)が従来の加熱乾燥装置、図5(B)が本発明に係る板部材68,70が配設された加熱乾燥装置である。
【0060】
図5から分かるように、本発明によれば、雰囲気温度分布制御が簡便にできていることが分かる。そして、製造された塗布フィルムにおいては、図5(A)の従来の加熱乾燥装置では乾燥ムラが見受けられるが、図5(B)の本発明に係る板部材68,70が配設された加熱乾燥装置では乾燥ムラは見られなかった。更に、フィルム入口の搬送ローラへの低分子量化合物の結露汚れも、図5(A)の従来の加熱乾燥装置では見受けられるが、図5(B)の本発明に係る板部材68,70が配設された加熱乾燥装置では見られなかった。
【0061】
したがって、本発明によれば、加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口の搬送ローラに低分子量化合物が結露するのを防止することができ、加熱乾燥ゾーン内の雰囲気温度分布の制御を簡便に行うことができることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
10…光学補償フィルムの製造工程、24a,24b,24c…(ポリマー)フィルム、30…塗布機、32…乾燥装置、42…塗布機、44…乾燥装置、44a…乾燥ボックス、62…搬送ローラ、64…フィルム入口、66…フィルム出口、68,70…板部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布し、該塗布液を搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥することで、塗布フィルムを製造する塗布フィルムの製造方法であって、
前記加熱乾燥ゾーンのフィルム入口又はフィルム出口では、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略平行方向に板部材を配設することで、前記塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気を前記搬送ローラの位置に滞留させて該搬送ローラに結露が発生しないようにすることを特徴とする塗布フィルムの製造方法。
【請求項2】
走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布し、該塗布液を搬送ローラが備えられた加熱乾燥ゾーンで前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥することで、塗布フィルムを製造する塗布フィルムの製造方法であって、
前記加熱乾燥ゾーンでは、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥ゾーンのグラウンドレベルと略垂直方向に板部材を配設することで、前記塗布膜から揮発して冷えた溶剤ガス雰囲気を前記搬送ローラの位置に滞留させて該搬送ローラに結露が発生しないようにすることを特徴とする塗布フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗布フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする機能性フィルム。
【請求項4】
走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布する塗布装置と、該塗布液を前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する搬送ローラが備えられた加熱乾燥装置と、を備えた塗布フィルムの製造装置であって、
前記加熱乾燥装置のフィルム入口又はフィルム出口であって、走行するフィルムの下方側に、該加熱乾燥装置のグラウンドレベルと略平行方向な板部材を配設することを特徴とする塗布フィルムの製造装置。
【請求項5】
走行するフィルム上に溶剤と低分子量化合物が含まれる塗布液を塗布する塗布装置と、該塗布液を前記低分子量化合物の融点以上の気流を送り込み加熱乾燥する搬送ローラが備えられた加熱乾燥装置と、を備えた塗布フィルムの製造装置であって、
前記加熱乾燥装置内には、前記走行するフィルムの下方側に、グラウンドレベルに略鉛直方向な板部材を配設することを特徴とする塗布フィルムの製造装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の塗布フィルムの製造装置によって製造されたことを特徴とする機能性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−99653(P2011−99653A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256045(P2009−256045)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】