説明

塗布ポリエステルフィルム

【課題】水に対する接触角が小さく、親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対して傑出した特性を有し、塗布層に窒素含有成分を含まず、製造の際に自己再生ポリエステル原料を使用しているにも係わらず黄変は小さいという特徴を有する塗布フィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも1つのジカルボン酸、少なくとも1つのポリアルキレングリコールおよび少なくとも1つの単官能アルコールから得られる親水性ポリエステルと、水とを含む塗布液の乾燥膜を有することを特徴とする塗布ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのジカルボン酸、ポリアルキレングリコールおよび単官能アルコールから製造される少なくとも1つの親水性ポリエステルを含む水性塗布ポリエステルフィルムに関する。本発明のフィルムは、特有の親水性表面を特徴とするものであり、この表面は、水に対する接触角が小さく、親水性に優れ、さらに親水性は耐水性を有し、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性を有する。さらにこの塗布フィルムは、深刻な品質を低下させることなく、製造過程で自己再生ポリエステル原料を使用できるようになるために、製造コストの点でも優れるという特徴を有する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリエステルフィルムは、カバーフィルムとして温室を覆ったり、温室内の光の方向を調整したりするために、拡散性カバーフィルムとして使用されることがある。温室内の高い湿度と大きい温度差が生じることによって、結露して、フィルムに水滴が容易に形成してしまうこととなる。この水滴は、落下することで敏感な植物に損害を与えかねない。カバーフィルムまたは拡散性カバーフィルムの上への比較的大きい水滴の形成は、親水性塗布層を用いて十分に回避することができる。カバーフィルムまたは拡散性カバーフィルムを頻繁に交換することは、不経済であるので、親水性塗布層を適用する際、親水性が耐水性を有すること、高温耐水性および耐摩耗性に優れ、親水性塗布層の良好な持続的耐性を有することが望まれる。
【0003】
表面の親水化が必要とされる分野として、医療用途がある。ポリエステルフィルム製の診断用ロッドにおいては、血液などの塗布された液体が迅速かつ均一に表面に広がらなければならない。このことは、親水性塗布層を用いて達成することができる。このとき重要な条件は、塗布層内に含まれる成分が、診断検出反応の進行を妨害するような影響を及ぼさないことである。例えば、窒素含有物質(アミン、アミドまたはイミドなど)を使用する場合に、被分析液体のpH値が変化するために、または検出反応に関して重要なイオンの錯形成反応の形でそのような妨害影響が生じる可能性がある。診断適用に対して親水性塗布フィルムをできる限り普遍的に適用できるようにするためには、塗布層は窒素含有成分を含むべきではない。さらに診断用ロッドを扱う際にその表面が頻繁に機械的負荷にさらされるので(診断用ロッドを評価装置に挿入する場合など)、塗布層が摩耗耐性を有することにより、測定結果のばらつきを排除することができる。
【0004】
二軸配向ポリエステルフィルムのその他の重要な適用分野は、透明な食品包装である。水分を含む食品をポリエステルフィルムで包装する場合、特に冷蔵品の場合には、フィルムが水滴で曇ってしまう不都合が起こり得る。包装された食品は、この現象によって目視が著しく困難になる。フィルムの透明性の減少は、防曇層とも呼ばれる親水性塗布層によって回避することができる。食品包装は、しばしば短時間の高温作用によって滅菌されることがあるので、塗布層の親水性が良好な温度耐性を有することが望まれる。
【0005】
プラスチック表面の親水性の性質は、例えば、2種の異なる技術を用いて実現することができる。すなわち、ポリマーに添加剤を添加することと、フィルム表面に防曇層を塗布することである。
【0006】
ポリマーへの添加剤の添加は、ポリオレフィン製品、特にフィルムでは可能である(特許文献1など)。この場合、その作用原理は、大抵は両親媒性分子である添加剤の、表面における移動およびこの分子の極性末端の配向に起因するので、これは固有の親水性表面を形成する。この原理のポリエステルフィルムへの転用は、ポリエステルの極性が高いために不可能である。
【0007】
一方、親水性水溶性ポリマーまたは界面活性剤をベースにした塗布層がよく知られている。この場合、これらはポリエステルに比べて化学的に非常に異なる性質を有する物質であるので、ポリエステルフィルムへの塗布層の吸着作用は小さく、塗布層が容易に洗い流されるか、擦り落とされることにつながる。吸着作用は、塗布層成分および場合によってはポリエステル表面の架橋性を有する添加剤によってしばしば改良されるが、もっともそのような架橋した塗布層はもはや溶融不可能であるので、フィルム製造過程で生じるフィルムの切りくずを再生することはできない。
【0008】
塗布フィルムの使用の可能性を制限し、そのように塗布されたポリエステルフィルムを再生する場合に、黄変の原因となる窒素含有成分も、しばしば親水性塗布層に使用されている。生じるフィルムの切りくずを使用できずに、そのような塗布フィルムをインラインコーティング(フィルム製造工程内での塗布)で製造することは不経済である。
【0009】
したがって、特に二軸配向ポリエステルフィルムのインラインコーティングに適していて、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する良好な特性を有し、塗布フィルムを再生ポリエステル原料として使用する際フィルムの性質を悪化させない親水性塗布層を獲得することが望ましい。しかしながらこれまでのところそのような塗布層はまだ知られていない。
【0010】
特許文献2には、透明な親水性塗布層が記述されている。その組成物は、a)ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミドまたはα−オレフィンとのポリビニルピロリドン−共重合体、b)ポリイソシアナート−前駆重合体、c)界面活性剤およびd)有機溶媒を含む。この発明の不利点は、窒素含有重合体を使用しているので、フィルム製造プロセスにおける自己再生ポリエステル原料の使用が新しいフィルムの黄変を招き、塗布フィルムの医療分野での使用が制限付きでのみ可能になる。
【0011】
特許文献3には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよび架橋剤としてのメラミン並びに鉱酸または強有機酸を含む親水性組成物が記述されている。硬い透明膜への架橋は、少なくとも75℃の温度を必要とし、この実施例では130〜150℃の温度が使用されている。したがってこの塗布層は、その成分がすでにフィルムの乾燥ないし配向の際に架橋していて、したがって塗布層が裂けてフィルムの剥離につながり得るので、ポリエステルフィルムへのインラインコーティングには適していない。架橋層が硬いと記述されていることから、柔軟な基質への使用は不適当である。
【0012】
特許文献4には、親水性側鎖を担持する、二酸化ケイ素または二酸化ジルコニウム−ナノ粒子から構成される持続的耐性を有する親水性塗布層が記述されている。この親水性側鎖は、アミノ、スルホナト、スルファト、スルフィト、スルホンアミド、スルホキシド、カルボキシレート、ポリオール、ポリエーテル、ホスファトまたはホスホナト等の基であり得る。さらにナノ粒子は、グリシジル、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、グリシジルオキシ、アリル、ビニル、カルボキシ、メルカプト、アミド、アミノ、イソシアノ、ヒドロキシまたはシラノールなどの官能基を担持し、これらの官能基を介して乾燥中にナノ粒子の架橋が行われる。実施例には、130〜200℃の温度で、10分から数時間の乾燥時間が記述されている。したがって、この塗布層は、高速に製膜する生産工程でのポリエステルフィルムのインラインコーティングには適さない。乾燥塗布層中のナノ粒子は互いに架橋しているので、そのようにして塗布されたフィルムは溶融せず、再生できない。
【0013】
さらに親水性ポリエステルに由来する塗布層が知られている。
【0014】
特許文献5には、主鎖に40〜90重量%の親水性ポリエーテルを、および少なくとも3当量の不飽和構造単位を含むポリエステルにより構成される耐水性塗布層が記述されていて、この不飽和構造単位を介して親水性分子が互いにラジカル架橋できるようになる。この塗布層も架橋のために溶融不可能であるので、塗布フィルムは再生できない。
【0015】
特許文献6には、繊維または布地用の持続的耐性を有する親水性塗布層が記述されていて、これは、親水性コポリエステルの、ポリプロピレングリコール化合物との混合物から構成される。この親水性ポリエステルは、ポリアルキレンジエステル−と10〜50%のポリオキシエチレンジエステルセグメントを含む。少なくとも4プロピレンオキシド単位から構成されるポリプロピレングリコール化合物は、少なくとも300g/molの分子量を有し、1つまたは両分子末端にアルキルまたはエステル末端基を担持している。代替で1100g/モルを超える分子量Mを有するポリプロピレングリコールを使用することができる。この塗布液は、水溶性であることも、水素架橋を形成できない溶媒を含むことも可能である。この塗布層は、ポリエステル、ポリエチレンおよびポリプロピレン繊維の表面修正に同等に適するはずであるが、実施例ではポリプロピレン布地のみ記述されている。二軸配向ポリエステルフィルムのインライン塗布に関する塗布適性の各開示はない。塗布層の達成可能な接触角や耐摩耗性に関する言及はなされていない。
【0016】
特許文献7には、ポリオキシプロピルアミンまたはカルバメート末端基を有するポリプロピレンオキシド重合体または親水性ポリオキシプロピレングリコールポリエステルを含む、繊維、布地または羊毛品のための安定した親水性塗布層が記載されている。この塗布層はさらに、ポリアルキレンジエステルおよび10〜50%のポリオキシアルキレンジエステルセグメントから構成される親水性コポリエステルを含むことができる。特許文献7によると、この塗布層は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、木綿、ポリアミドまたはポリアラミド繊維、布地または羊毛の親水化に適している。ここでも、二軸配向ポリエステルフィルムのインラインコーティングに関する塗布適性に関する開示はなく、請求塗布層の達成可能な接触角や耐摩耗性に関する言及が欠如している。
【0017】
【特許文献1】国際公開第2002/074535号パンフレット(WO2002/074535)
【特許文献2】特表昭61−502762号公報(米国特許第4467073号)
【特許文献3】特表平7−508059号公報(米国特許第5262475号)
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0237833号明細書
【特許文献5】特開昭51−47070号公報(米国特許第3932256号明細書)
【特許文献6】米国特許第5976995号明細書
【特許文献7】米国特許第6359079号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、親水性を有する透明な塗布ポリエステルフィルムを提供することであり、具体的には、水に対する接触角が小さく、親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対して傑出した特性を有し、塗布層に窒素含有成分を含まず、製造の際に自己再生ポリエステル原料を使用しているにも係わらず黄変は小さいという特徴を有する塗布フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも1つのジカルボン酸、少なくとも1つのポリアルキレングリコールおよび少なくとも1つの単官能アルコールから得られる親水性ポリエステルと、水とを含む塗布液の乾燥膜を有することを特徴とする塗布ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水に対する接触角が小さく、親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対して傑出した特性を有し、塗布層に窒素含有成分を含まず、製造の際に自己再生ポリエステル原料を使用しているにも係わらず黄変は小さいという特徴を有する塗布フィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の塗布ポリエステルフィルムは、水性分散または溶液などの成分が均一に混合している水性塗布液が使用される。
【0024】
本発明で言う透明とは、フィルムのヘーズが塗布層によって好ましくは0.8%未満、特に0.5%未満上昇することを表す。フィルムのヘーズが塗布層によって0.8%以上上昇している場合は、塗布層の連続性が損なわれていたりして、塗布外観において優れた状態を得ることが困難になることがある。さらに塗膜親水特性(親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性)の持続的耐性を提供することができなくなるおそれがある。
【0025】
水に対する接触角が小さく親水性に優れるとは、塗布されたポリエステルフィルム表面と載せられた水滴との間に形成される接触角が、好ましくは35度未満、特に25度未満であることを表す。水滴接触角が35度以上だと、温室に使用する場合に表面に水滴ができ植物に損害を与えたり、医療用途で使用する場合に血液などが迅速かつ均一に表面に広がらなかったり、包装用途出使用する場合に冷蔵した時に表面に水滴ができて内容物の目視確認が困難になることがある。
【0026】
親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する塗布層の良好な特性には、塗布ポリエステルフィルムの良好な親水性の性質が、水分および/または高温水(95℃)および/または機械的負荷の影響の後でもできる限り完全に保持されたままであることが挙げられる。水に対する塗布層の接触角は、この負荷要素の影響によって、好ましくは15度未満、特に8度未満変化する。この変化角度が、15度以上あると塗膜親水特性(親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性)の持続的耐性を提供することができなくなることがあり、長期間の使用、あるいは繰り返し使用に支障が出るおそれがある。
【0027】
塗布層が窒素含有成分を含まないとは、塗布液がアミノ、アミドまたはイミド等の官能基を持つ物質を、好ましくは5重量%未満、特に2重量%未満含むことを表す。これら窒素含有成分が塗布層中に含まれると、塗布ポリエステルフィルムを再生原料として使用する場合にフィルムの黄変が大きくなりやすく、フィルム色相やロール外観色相の振れが大きくなることがある。
【0028】
製造の際に自己再生ポリエステル原料を使用したにもかかわらず黄変が小さいとは、ポリエステルフィルムの黄色度が、本発明に記載の塗布フィルムから製造された自己再生ポリエステル原料を50%まで使用した場合に、好ましくは7未満、特に5未満であることを表す。
【0029】
本発明の塗布液組成物中、特に少なくとも、多官能カルボン酸またはその無水物、ポリアルキレングリコールおよび単官能アルコールからなる縮重合化合物が、親水性ポリエステルとして使用される。
【0030】
特に好ましくは2〜12炭素原子をもつ脂肪族または芳香族ジカルボン酸が、カルボン酸として使用される。脂肪族カルボン酸の例は、コハク酸、グルタル酸、コルク酸、アゼライン酸、アジピン酸およびセバシン酸であり、芳香族カルボン酸の例は、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸である。カルボン酸は、単独または少なくとも2つのカルボン酸からなる混合物として使用することができる。カルボン酸の代わりにその無水物またはエステルも使用することができる。
【0031】
特にアルキレンオキシド、好ましくはプロピレンオキシドおよび特に好ましくはエチレンオキシドまたはこれらのアルキレンオキシドの互いの混合物のジオールへの付加生成物が、ポリアルキレングリコールとして使用される。ジオールとしては、好ましくはポリアルキレングリコールの製造に慣例の2〜10、好ましくは2〜6の炭素原子をもつアルカンジオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールおよび/または1,6−ヘキサンジオールが使用される。ポリアルキレングリコールは、好ましくは4〜40、特に好ましくは8〜30の炭素原子を含む。
【0032】
好ましくは1〜20の炭素原子をもつ直鎖、環状または分岐の脂肪族または芳香族アルカノールが、単官能アルコールとして使用される。適当な単官能アルコールは、例えばメタノール、エタノール、n−またはiso−プロパノール、n−またはiso−ブタノール、n−またはiso−ペンタノール、シクロ−、n−またはiso−ヘキサノール、n−またはiso−ヘプタノール、n−またはiso−オクタノール、3−、n−またはiso−ノナノール、n−またはiso−デカノール、n−またはiso−ウンデカノールおよびn−またはiso−ドデカノールである。さらにモノアルコールの、150〜1500g/モルの範囲の分子量Mを有するアルキレンオキシド、特にエチレンオキシドとの置換生成物を使用することができる。残りのアルコール基が置換された2官能または多官能アルコールの使用も可能である。
【0033】
親水性ポリエステルの製造は、周知の方法にしたがって、温度を上げて生じた水を排出しながらエステル化することによって行う。この方法は、プラスチックハンドブック(Kunststoffhandbuch)、7巻、カール・ハンザー出版、ミュンヒェン、第3版、70〜71ページなどに記述されている。
【0034】
ジカルボン酸(HOOC−R−COOH)、ポリアルキレングリコール(HO−R−OH、ただし、Rはポリアルキレングリコールのポリエーテル残基を表す)および単官能アルコール(R−OH)は、その場合に所望の互いの比率で使用されるので、一般構造(I)を有する生成物が生じる。
【0035】
【化1】

【0036】
まず初めにジカルボン酸(HOOC−R−COOH)とポリアルキレングリコール(HO−R−OH)から置換生成物を生成し、これを次に別の工程で、単官能アルコール(R−OH)で置換して構造(I)の最終生成物にすることが同様に考えられる。
【0037】
本発明で使用される親水性ポリエステルは、xは好ましくは1〜10、特に好ましくは2〜5で、数平均分子量Mは好ましくは500〜5000g/モル、特に好ましくは1000〜3000g/モルとなる。xが10以上の多分子化合物あるいは数平均分子量Mが5000g/モルより大きいの場合は、その粘性のために加工し難い。数平均分子量Mが500g/モル未満の場合は、塗布フィルムにした場合に親水性の持続的耐性が損なわれることがあり好ましくない。本発明で用いる親水性ポリエステルは、一般構造(I)を主成分とすることが好ましく、少量の副生物を含んでいてもよい。副生物としては、末端がジカルボン酸(HOOC−R−COOH)の場合や、ポリアルキレングルコール(HO−R−OH)が考えられる。これら副生物は、多くなりすぎると塗布フィルムの親水性の持続的耐性が損なわれるおそれがある。本発明の親水性ポリエステルの酸価は、好ましくは10mgKOH/g未満であり、特に好ましくは5mgKOH/g未満である。本発明の親水性ポリエステルの水酸基価は、好ましくは10mgKOH/g未満であり、特に好ましくは5mgKOH/g未満である。酸価が10mgKOH/g以上、水酸基価が10mgKOH/g以上の場合は、塗布フィルムにした場合に親水性の持続的耐性が損なわれることがある。
【0038】
特別に好ましい実施形態では、親水性ポリエステルとして、約1500g/モルのMと、<1mgKOH/gの水酸基価を有する、フタル酸、ポリエチレングリコールおよびiso−ノナノールからの製品が使用される。そのような製品は、「S100」という名称で川崎化成工業社から入手できる。
【0039】
なお、全ての重量%での記述は、特に記載のない限り、それぞれ完成製品ないし完成した塗布層組成物ないし塗布液組成物に対するものである。
【0040】
上述の塗布液組成物内で挙げられた界面活性剤または界面活性剤混合物は、好ましくは10重量%未満、特に7重量%未満の濃度で使用され、好ましくはイオン性の、特に好ましくはアニオン界面活性剤であり、特に好ましくはアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、硫酸アルキル、硫酸アルキルベンゼン、硫酸アルキルエーテルまたはスルホコハク酸エステルのグループから選択される。
【0041】
本発明の塗布液組成物は、選択で有機溶媒または有機溶媒混合物を、好ましくは70重量%未満、特に60重量%未満の濃度で含むことができる。その場合に水と混合可能な有機溶媒が好ましく、アルコールが特に好ましい。適当な溶媒は、例えばメタノール、エタノール、n−またはiso−プロパノールまたはn−またはiso−ブタノールである。
【0042】
塗布液組成物は、その性質をさらに改良するために、好ましくは水溶液または分散液の形で添加される追加のポリマーを含むことができる。このポリマーの、完成塗布層組成物中の濃度は、好ましくは10重量%未満、特に5重量%未満である。適当なポリマーは、例えばアクリレート、メタクリレート、ポリエステルまたはポリウレタンである。
【0043】
選択でこの塗布液はブロッキング防止剤を含むことができる。慣例のブロッキング防止剤は、無機および/または有機粒子、例えば二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、カオリンまたは架橋ポリスチレンまたはアクリレート粒子である。フィルム表面での水の分散が促進されるので、無定形ケイ酸などの多孔性二酸化ケイ素が好ましい。
【0044】
塗布液は、さらに帯電防止剤、酸化防止剤および/または泡立て調整剤などその他の添加物を含むことができる。
【0045】
塗布液組成物は、水および少なくとも1つのジカルボン酸、少なくとも1つのポリアルキレングリコールおよび少なくとも1つの単官能アルコールから得られる親水性ポリエステルから構成される。「構成」とは、ここでは組成物が少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも65重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、特別に100重量%までが前述の物質から成ることを表す。100重量%までの残りは、前述の別の物質から構成される。
【0046】
インラインコーティング後に、この塗布層は、塗布液組成物の乾燥膜(乾燥製品)から構成される。
【0047】
塗布層は、ポリエステルフィルムの片面または両面に塗布することができる。しかしながらフィルムの一面にのみ本発明の塗布層を設け、反対側の面には別の表面層を塗布することも可能である。
【0048】
本発明の塗布液組成物は、好ましくは配向ポリエステルフィルムをインラインで塗布するために使用される。インラインとは、塗布層がフィルム製造過程において、縦および/または横延伸前に塗布されることを表す。
【0049】
水性塗布液を用いてフィルムのぬれを改良するために、フィルムを塗布前にコロナ処理することができる。
【0050】
この塗布層は、ダイコーターまたはスプレーコーターなど慣例の適切な方法で塗布することができる。塗布層が均一に塗布される(リバース)グラビアコーターを用いた塗布が特に好ましい。また、容易に比較的厚い塗布層が形成されるマイヤー・ロッドを用いたバーコーターによる塗布も、同じく好ましい。
【0051】
完成したフィルム上の乾燥塗布厚は、好ましくは5〜1000nm、特に50〜750nmの厚みを有する。乾燥塗布厚が1000nm以上の場合、塗布層がブロッキングしやすくなり好ましくない。また、乾燥塗布厚が5nm以下の場合、塗布層の機能:親水性及びその持続的耐性が不十分となり好ましくない。
【0052】
塗布層成分は、ポリエステルフィルムの乾燥中および延伸中および特に250℃にまで達し得る、続く熱処理の際に、互いに、および/またはフィルム表面のポリエステルと反応および/またはポリエステルフィルム表面構造内に浸透可能である。
【0053】
この塗布層は、特に二軸配向ポリエステルフィルム上に、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性による良好な持続的耐性を有する親水性を提供する。
【0054】
さらに驚くべきことに、ここでは、追加の架橋剤(メラミン、ラジカル開始剤など)を投入することなく塗布層のこの良好な持続的耐性が達せられる。
【0055】
表面に塗布層が形成されるポリエステルフィルムは、例えば単層でも、1つの基本層(B)と1つのカバー層(A)から成る2層でも、1つの基本層(B)と2つまたはそれ以上のカバー層(A’ないしC)から成る3層または多層でも構成することができる。
【0056】
ポリエステルフィルムが多層構造の場合には、カバー層(A、A’ないしC)の厚みは、好ましくは0.1〜10μm、特に0.2〜5μmの範囲にある。対応して、基本層の厚みは、フィルムの総厚と塗布されたカバー層の厚みの差から判明する。
【0057】
ポリエステルフィルムの総厚は、通常5〜750μm、好ましくは10〜500μmの範囲にある。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムは、主成分として熱可塑性ポリエステルを含む。その種のポリエステルは、「熱可塑性ポリエステルのハンドブック(Handbook of Thermoplastic Polyesters)、編集者S.Fakirov、ウィレーVCH、2002年」に挙げられている。例は、エチレングリコールとテレフタル酸からのポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、PET)、エチレングリコールとナフタレン−2,6−ジカルボン酸からのポリエステル(ポリエチレン−2,6−ナフタレート、PEN)、並びに1,4−ビス−ヒドロキシメチルシクロヘキサンとテレフタル酸からのポリエステル(ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、PCDT)である。本発明によるとポリエステルは、ホモポリエステル、コポリエステル、異なるポリエステルのブレンド、再生ポリエステル原料およびその他のポリエステルの混合体と理解される。主成分がポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムが特に好ましい。
【0059】
本発明のポリエステルフィルムは、1つまたは多層内にブロッキング防止剤などの添加剤を含むことができる。典型的なブロッキング防止剤は、無機および/または有機粒子、例えば二酸化ケイ素(沈殿または発熱性)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、二酸化チタン(金紅石または鋭錐鉱)、カオリン(水和またはか焼)、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、フッ化リチウム、使用したジカルボン酸のカルシウム、バリウム、亜鉛またはマンガン塩またはポリスチレンまたはポリメチルメタクリレートを主成分とする粒子などの架橋ポリマー粒子である。
【0060】
それに加えて、2またはそれ以上の粒子系の混合物または等しい化学組成で異なる粒径の粒子系の混合物も選択することができる。この粒子は、すでに溶融前に合目的にポリエステルに添加される。
【0061】
ポリエステルフィルムの1層内にブロッキング防止剤が含まれる限りにおいては、これらの粒子の全濃度は、仕上げられた層の総重量に対して20重量%未満、好ましくは15重量%未満、特に好ましくは5重量%未満となる。この粒子は、好ましくは0.01〜15μm、特に0.03〜10μm、特に好ましくは0.05〜5μmの平均粒径(d50値)を有する。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムは、UV安定剤、防炎剤、加水分解安定剤および酸化防止剤などのその他の添加剤を含むことができる。
【0063】
UV安定剤、すなわち遮光剤としてのUV吸収剤は、光誘導ポリマー分解の物理過程および化学過程に介入し得る化学化合物である。適切なUV安定剤は、例えば2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシベンゾトリアゾール、ニッケル有機化合物、サリチル酸エステル、ケイ皮酸エステル誘導体、モノ安息香酸レゾルシン、オキサル酸アニリド、ヒドロキシ安息香酸エステル、ベンゾオキサジノン、立体障害アミンおよびトリアジンであり、2−ヒドロキシベンゾトリアゾール、ベンゾオキサジノンおよびトリアジンが好ましい。特別に好ましい実施形態では、本発明のポリエステルフィルムはUV安定剤として下記式:
【0064】
【化2】

【0065】
の2−(4,6−ジフェニル−[1,3,5]トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノールを0.1〜5.0重量%、若しくは下記式
【0066】
【化3】

【0067】
の2,2’−メチレン−ビス−[6−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−(1,1,2,2−テトラメチルプロピル)−フェノールを0.1〜5.0重量%、もしくは下記式:
【0068】
【化4】

【0069】
の2,2’−(1,4−フェニレン)−ビス−([3,1]ベンゾオキサジン−4−オン)を0.1〜5.0重量%を含む。
【0070】
その他の実施形態では、これらのUV安定剤の混合物またはこれらのUV安定剤の少なくとも1つの、別のUV安定剤との混合物も使用されていて、その場合に遮光剤の全濃度は、フィルムの重量に対して好ましくは0.1〜5.0重量%、特に好ましくは0.5〜3.0重量%の範囲にある。
【0071】
その他の実施形態では、本発明のポリエステルフィルムは防炎に仕上げ加工される。防炎とは、フィルムが、UL94VTMによる所謂防火試験において、少なくともVTM−2等級に達することを意味する。
【0072】
ポリエステルフィルムは、それに応じて1つまたは複数の層内に1つの防炎剤を、仕上げられた層の総重量に対して0.2〜30重量%、好ましくは1.0〜20重量%の範囲の濃度で含む。適切な防炎剤は、例えばカルボキシホスフィン酸、その無水物およびメタンホスホン酸ジメチルエステルなどの有機リン化合物である。その場合に、リン化合物がポリエステルに化学結合している、例えば式:
【0073】
【化5】

【0074】
の[(6−オキシド−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスホリン−6−イル)メチル]ブタンジカルボン酸−ビス−(2−ヒドロキシエチル)エステルなどの防炎剤が非常に適している。
【0075】
防炎剤は一般にはある程度の加水分解に敏感なことから、加水分解安定剤の追加投入が重要である。その場合に適切な加水分解安定剤は、例えばラインヒェミー社(独)のStabaxol P(登録商標)などの重合カルボジイミドである。
【0076】
さらにポリエステルフィルムは、多層構造の場合には密封性または剥離性となり得る。これは通常カバー層の少なくとも1層中に、低いガラス転移温度のポリエステルまたはその他の密封性重合体を使用することによって達成される。
【0077】
ポリエステルフィルムの製造方法は、「熱可塑性ポリエステルのハンドブック(Handbook of Thermoplastic Polyesters)、編集者S.Fakirov、ウィレーVCH、2002年」または「ポリマー科学と工学百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)、12巻、John Wiley & Sons、1988年」の「ポリエステル、フィルム(Polyesters, Films)」章などに記述されている。フィルム製造のための好ましい押出成形法では、場合によっては添加剤を含む、溶融した重合体材料を、スロットダイを通して押し出し、広範な無定形予備フィルムとして冷却ローラ上で急冷する。このフィルムを、続いて再び加熱し、装置方向(MD)または横方向(TD)の少なくとも1方向、好ましくは縦および横方向に延伸する(「配向」)。延伸過程のフィルム温度は、一般に使用したポリエステルのガラス転移温度Tgより10〜60℃高く、縦延伸の延伸倍率は通常2〜6、特に3〜4.5、横延伸の延伸倍率は2〜5、特に3〜4.5で、場合によって行われる第2縦延伸の延伸倍率は1.1〜5である。
【0078】
縦延伸は、横延伸と同時に行うか(同時二軸延伸)、またはそれぞれ考えられる順に延伸を行う(逐次二軸延伸)ことができる。延伸の後で、好ましくは180〜260℃、特に220〜250℃の温度でフィルムの熱硬化を行う。続いてフィルムを冷却して巻き上げる。
【0079】
下記表1に、塗布層の最も重要な好ましい性質を再度まとめる。
【0080】
【表1】

【0081】
塗布層の効果を試験するために、塗布ポリエステルフィルムを用いて、下記の測定方法でこの特性を調べる。
【0082】
・接触角の測定:
接触角を測定するために、Data Physics GmbH社(独)の測定装置「OCA20」型を脱イオン水(電気伝導率<0.1μS/cm)を用いて使用する。2マイクロリットルの大きさの水滴を、被測定表面に置く。10秒後に装置のビデオカメラでこの液滴を撮影する。続いてData Physicsのソフトウエア「SCA20」を用いて接触角を算出する。その際液滴形を、30度未満の接触角では「円形適合」調整を用いて、30度を超える接触角では「楕円形適合」調整を用いて近似する。
【0083】
・塗膜ヘーズの測定:
塗布ポリエステルフィルムのヘーズの測定は、ASTM−D 1003−61に準拠して、BYK Gardner GmbH社(独)の「Hazegard Hazemeter XL−211」を用いて行う。塗膜ヘーズ(Hzと呼ぶ)は、塗布フィルムと参照フィルムとする未塗布フィルム(ヘーズ=0.6%、表2参照)とのヘーズの差として測定する。
【0084】
Hz=塗布フィルムの全ヘーズ−参照フィルムのヘーズ(=0.6%)
【0085】
・黄色度の測定:
塗布フィルムの黄色度は、ASTM−D 1925−70にしたがって、Perkin Elmer社(米)の分光光度計「Lamda12」型を用いて、標準光種D65、10度標準観察器で確定する。測定された標準色値X、Y、Zから方程式:
【0086】
YID=[100・(1.28・X−1.06・Z)]/Y
にしたがって黄色度の計算を行う。
【0087】
・塗布外観の評価:
塗布外観の評価は、目視により「秀」「優」「良」の3段階で行う。
【0088】
・分子量Mの確定:
数平均分子量Mの確定は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて行う。Latek社(独)のカラム(PLゲル、5および10マイクロメートル)上で0.1%のテトラヒドロフラン溶液で試験を行う。Waters GmbH社(独)の示差屈折計R401並びにKnauer GmbH社(独)のUV検出器2500型を検出器として使用する。PSS GmbH社(独)のポリスチレン標準を用いて校正を行う。
【0089】
・水酸基価(OH価)の確定:
水酸基価に関しては、1gの物質のアセチル化に関連する量の酢酸と等価の、mgでのKOH量と理解される。DIN 53240−2にしたがって算出する。周知の正確な酢酸無水物量をテトラヒドロフランに溶解させた試料に添加する。1時間後にアセチル化反応は完全に終了し、水を加えて未置換酢酸無水物を加水分解する。それから両反応で生成した酢酸の総量を、0.5mol/lのエタノールKOH溶液で滴定する。ブランクサンプルとして同量の酢酸無水物を水で加水分解して、生成した酢酸をKOHで滴定する。ブランクサンプルと分析試料の滴定結果の差から水酸基価を算出する。
【0090】
・耐水性の評価:
塗布層の耐水性を評価するために、5cm×10cmの大きさの塗布ポリエステルフィルムのサンプルを、1000mlの脱イオン水(温度:25℃)で満たしたビーカー内に入れる。10分後にこのサンプルをビーカーから取り出し、25℃/50%相対湿度で12時間乾燥する。続いて上述の方法に応じて接触角を測定する。サンプル上の異なる5位置で測定する。2つの測定点間の間隔はそれぞれ2cmで、この測定点は、サンプルの外縁から少なくとも1cm離れるようにする。その際測定した最大接触角(CAmax)を評価する。塗布層の耐水性は、水中に保存の前後での接触角の差から生じる。接触角差dCA耐水が小さければ小さいほど良い。
【0091】
dCA耐水=CAmax(保存後)−CA(保存前)
【0092】
・高温耐水性の評価:
高温耐水性の評価は、脱イオン水を95℃に温めた以外は、「耐水性の評価」に類似で行う。上昇した温度に対するサンプルの耐性は、これらの条件下で接触角差dCA高温が小さければ小さいほど良い。
【0093】
dCA高温=CAmax(保存後)−CA(保存前)
【0094】
・耐摩耗性の評価:
摩耗に対する塗布層の耐性を試験するために、5×10cmの大きさの塗布フィルムのサンプルを、両面接着テープを用いて試験台上に固定する。塗布層フィルム表面上に5mlの脱イオン水で湿らせた5×5cmの大きさのスポンジクロス(Kalle社、独)を載せ、200gの重量で荷重する。続いてこのスポンジクロスをそれぞれ5cmずつ前後に50回移動させる。その場合の速度は1cm/sである。続いてこのサンプルを25℃/50%相対湿度で12時間乾燥する。それから塗布層の接触角を、「耐水性の評価」に記述されるように、サンプル上の異なる5位置で測定する。その場合にサンプルの耐摩耗性は、接触角差dCA耐摩が小さければ小さいほど良い。
【0095】
dCA耐摩=CAmax(摩耗後)−CA(摩耗前)
【実施例】
【0096】
以下では、本発明を実施例に基づいて詳しく説明するが、本発明はそれによって制限されるものではない。塗布フィルムサンプルの特徴付け結果を下記表2にまとめる。
【0097】
実施例ではとりわけフタル酸、ポリエチレングリコールおよびiso−ノナノールから製造された川崎化成工業社の「S100」型を、親水性ポリエステルとして使用した。分子量Mは約1500g/molであり、水酸基価は<1mgKOH/gである。
【0098】
その他の親水性ポリエステルは、以下の指示にしたがって製造した。
【0099】
フタル酸ジメチル(「DMP」、Sigma−Aldrich社、独)、ポリエチレングリコール(「PEG」、Sigma−Aldrich社、独)および7mmolのテトライソプロピル酸チタン(Sigma−Aldrich社、独)を、撹拌機、温度計、蒸留ヘッドおよび還流バルブ弁を備えた1リットルの三ツ口フラスコに仕込んだ。装置を入念に窒素洗浄した。続いて撹拌下で温度を180℃に上昇させて4時間保持した。その際冷却した受け器内でメタノールが液化した。続いて温度を140℃に下げた。単官能アルコール(「MA」、Sigma−Aldrich社、独)0.3molとその他に1.5mmolのテトライソプロピル酸チタンを撹拌下で滴下した。2時間後に沈積物を冷却した。反応生成物を500mlのクロロホルムで受け、それぞれ50mlの脱イオン水と共に分液漏斗内で3回洗浄した。有機相を分離して、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過した。最後にロータリーエバポレータで溶媒を除去した。得られる親水性ポリエステルを、下記に記述されるように、ポリエチレンテレフタレートフィルムを塗布するために使用した。
【0100】
【表2】

【0101】
界面活性剤としては、花王株式会社の「ラテムル PS」型のアルキルスルホン酸ナトリウムを使用した。
【0102】
実施例1:
塗布液は、以下の成分から製造した。この塗布液組成物を、以下の方法にしたがってポリエステルフィルム上に塗布した。
【0103】
【表3】

【0104】
0.5重量%の二酸化ケイ素粒子(SL320型、富士フイルム社)をブロッキング防止剤として含むポリエチレンテレフタレートから溶融物を作り、これをスロットダイを通して約20℃に保持した冷却ロール上に押し出し、無定形予備フィルムへと凝固させた。この予備フィルムを、95℃の温度に保持しながら3.6倍の延伸倍率で縦延伸した。続いてこの縦延伸フィルムに、マイヤーバーを用いて、上述の塗布液を4.7μmの厚さに塗布した。縦延伸および塗布したフィルムを100℃の温度で乾燥し、それから4.2倍に横延伸し、それにより二軸配向フィルムが得られた。この二軸延伸フィルムを、230℃で熱硬化した。最終フィルム厚は38μmとなった。乾燥塗布厚みは、塗布液の固体比率、塗布厚(wet)および168nmに対する横延伸倍率から計算により求めた。
【0105】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。このフィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性を特徴とする。
【0106】
実施例2:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0107】
【表4】

【0108】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。この塗布フィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性をもつ。
【0109】
実施例3:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0110】
【表5】

【0111】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。この塗布フィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性をもつ。
【0112】
実施例4:
実施例3で作られたフィルムを280℃で溶融した。この溶融物をストランド状に成形し、水中で急冷して粒状体に加工した。この粒状体を、基本フィルム製造に使用したポリエステルに50重量%まで混ぜ合わせた。フィルムを実施例3に類似に塗布し、続いて特徴付けた。この塗布フィルムは、実施例3のものと類似の性質を有していた。フィルムの黄色度は、再生ポリエステル原料の使用にもかかわらず、実施例3と比較して有意な上昇はしていなかった。
【0113】
実施例5:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0114】
【表6】

【0115】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。この塗布フィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性をもつ。
【0116】
実施例6:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0117】
【表7】

【0118】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。この塗布フィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性をもつ。
【0119】
実施例7:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0120】
【表8】

【0121】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。この塗布フィルムは、小さい塗膜ヘーズ、水に対する接触角が小さく親水性に優れ、親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性に対する傑出した特性をもつ。
【0122】
比較例1:
実施例1に類似で、ここでは以下の塗布液を使用した。
【0123】
【表9】

【0124】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性は、塗布層の性質に明らかな変化がみられた。
【0125】
比較例2:
比較例1で作られたフィルムを280℃で溶融した。この溶融物をストランド状に成形し、水中で急冷して粒状体に加工した。この粒状体を、基本フィルム製造に使用したポリエステルに50重量%まで混ぜ合わせた。フィルムを比較例1に類似に塗布し、続いて特徴付けた。フィルムの黄色度は、ポリビニルピロリドン含有再生ポリエステル原料を使用したことによって明らかに上昇した。
【0126】
比較例3:
実施例1に類似で、ここでは以下の塗布液を使用した。
【0127】
【表10】

【0128】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性は、塗布層の性質に明らかな変化がみられた。
【0129】
比較例4:
比較例3で作られたフィルムを280℃で溶融した。この溶融物をストランド状に成形し、水中で急冷して粒状体に加工した。この粒状体を、基本フィルム製造に使用したポリエステルに50重量%まで混ぜ合わせた。フィルムを比較例3に類似に塗布し、続いて特徴付けた。フィルムの黄色度は、アルキロールメラミン含有再生ポリエステル原料を使用したことによって明らかに上昇した。
【0130】
比較例5:
実施例1に類似で、以下の塗布液を使用した。
【0131】
【表11】

【0132】
塗布フィルムを、先に記述された方法を用いて特徴付けた。親水性の耐水性、高温耐水性および耐摩耗性は、塗布の性質に明らかな変化がみられた。
【0133】
実施例および比較例の結果を以下の表にまとめて示す。
【0134】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明のフィルムは、例えば、調光フィルム、医療用フィルム、食品包装用フィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのジカルボン酸、少なくとも1つのポリアルキレングリコールおよび少なくとも1つの単官能アルコールから得られる親水性ポリエステルと、水とを含む塗布液の乾燥膜を有することを特徴とする塗布ポリエステルフィルム。
【請求項2】
親水性ポリエステルが、下記式(I)の構造を有する請求項1記載の塗布ポリエステルフィルム。
【化1】

(式I中、Rは単官能アルコールR−OHの残基を、Rはジカルボン酸HOOC−R−COOHの残基を、RはポリアルキレングリコールHO−R−OHの残基を、およびxは1〜10をそれぞれ表す)
【請求項3】
がフタル酸の残基である請求項2記載の塗布ポリエステルフィルム。
【請求項4】
がポリエチレングリコールの残基である請求項2または3に記載の塗布ポリエステルフィルム。
【請求項5】
がiso−ノナノールの残基である請求項2〜4の何れかに記載の塗布ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2009−52047(P2009−52047A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214224(P2008−214224)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】