説明

塗布方法、塗布装置、及び平版印刷版の製造方法

【課題】乾膜である下層上に塗布した上層を乾燥させる場合であっても、意図しない層間混合が生じない塗布方法、塗布装置、及び平版印刷版の製造方法を提供する。
【解決手段】
支持体12の表面に第1塗布液を第1塗布装置14により塗布して下層を形成し、下層をその残留溶媒が100mg/m以下となるまで第1乾燥装置16で乾燥し、乾燥後の下層に第2塗布液を第2塗布装置18により塗布して上層を形成し、上層の水分を第2乾燥装置20により乾燥する。第2乾燥装置20において、乾燥ゾーン20A〜C内で、上層を条件式(1)支持体12の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃を満足させる範囲内で、上層の含水量が塗布時の10%以下になるまで水分を除去し、次いで乾燥ゾーン20D内で支持体12の温度(Tw)を上昇し、上層の残存する水分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布方法、塗布装置、及び平版印刷版の製造方法に関し、特に、支持体上に複数の塗布液を重ねて塗布する塗布方法、塗布装置及び平版印刷版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、連続走行する支持体に複数の塗布液を塗布して多層膜を形成することによって、各種の機能を支持体に付与する技術が幅広く利用されている。多層膜を形成する技術においては、重ねて塗布された塗布液が意図されない層間混合を起こすのを防止する必要がある。
【0003】
従来、この種の技術としては各種の提案がなされている。特許文献1には、同時に塗布される塗布液の一方に、互いに接触又は混合すると塗布液が高粘度化する複数の成分を添加することによって、層間混合が発生するのを防止する方法が記載されている。この方法では、本来必要のない成分を添加し、高粘度化するためのセットゾーン装置が必要となる。
【0004】
また、特許文献2には、熱現像写真感光材料の塗布方法において、重層塗布後は、できるだけ早く乾燥することが好ましく、流動、拡散、密度差等に起因する層間混合を避けるため10秒以内で乾燥工程に至ることが好ましいことが記載されている。また、特許文献3には、支持体の上に少なくとも2層以上の層を積層してなる情報記録材料の製造方法において、該情報記録材料を構成する層の一部または全部を、複数層の塗液膜から成る塗料膜をカーテン塗布し、塗布後2分以内に塗料膜を乾燥させる情報記録材料の製造方法が記載されている。これらの方法では、乾燥工程に至るまでの時間が制限されるため、塗布装置と乾燥装置との距離を近接する必要がある。そのため、製造ラインが各装置の配置の自由度が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−334705号公報
【特許文献2】特開2002−049121号公報
【特許文献2】特開2001−113226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続走行する支持体に2層以上の塗布膜を形成する平版印刷版の塗布において、ある隣接する2層が、既に塗布乾燥されて乾膜となっている下層の上に上層を塗り重ねる逐次重層塗布が適用される場合、上層をあまり高温で乾燥すると、既に乾膜となっている下層を軟膜化させ、下層と上層成分との間で意図しない層間混合を起こしてしまう問題がある。特に、上層の溶媒に対して下層の塗布膜(樹脂等)成分の溶解性が非常に低い場合であっても、乾燥時の塗布膜の温度によっては、上層に含まれる材料が下層に侵入する層間混合が発生し、平版印刷版の印刷性能を劣化させる場合がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、乾膜である下層上に塗布した上層を乾燥させる場合であっても、意図しない層間混合が生じない塗布方法、塗布装置、及び平版印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の塗布方法は、連続走行する帯状の支持体上に複数の層を形成する塗布方法であって、前記支持体の表面に第1塗布液を塗布して下層を形成する工程と、前記下層を、その残留溶媒が100mg/m以下となるまで溶媒を除去する乾燥工程と、乾燥後の前記下層に第2塗布液を塗布して上層を形成する工程と、前記上層の水分を除去する乾燥工程と、を備え、前記上層の乾燥工程が、前記上層を以下の条件式(1)を満足させる範囲内で、該上層の含水量が塗布時の10%以下になるまで水分を除去する第1乾燥工程と、(1)支持体の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃、前記支持体の温度(Tw)を上昇し、前記上層の残存する水分を除去する第2乾燥工程と、備えることを特徴とする。
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の塗布装置は、前記支持体の表面に第1塗布液を塗布して下層を形成する第1塗布装置と、前記第1塗布装置の下流に配置され、前記下層を、その残留溶媒が100mg/m以下となるまで溶媒を除去する第1乾燥装置と、前記第1乾燥装置の下流に配置され前記下層に第2塗布液を塗布して上層を形成する第2塗布装置と、前記第2塗布装置の下流に配置され、前記上層の水分を除去する第2乾燥装置と、を備え、前記上層の第2乾燥装置が、前記上層を以下の条件式(1)を満足させる範囲内で、該上層の含水量が塗布時の10%以下になるまで水分を除去する第1乾燥部と、(1)支持体の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃、前記支持体の温度(Tw)を上昇し、前記上層の残存する水分を除去する第2乾燥部で構成されることを特徴とする。
【0010】
発明者らは、支持体上の隣接する2層が既に塗布乾燥されて乾膜となっている下層上に上層を塗り重ねて形成される塗布方法について注意深く観察した。上層の乾燥だけを考慮して温度を上昇すると、下層の温度が所定以上に上昇し下層が軟膜化する。その結果、上層に含まれる材料の一部が下層に侵入する層間混合が生じることが判明した。
【0011】
そこで、鋭意検討したところ、上層を以下の条件式(1)支持体の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃を満足させる範囲内で、上層の含水量が塗布時の10%以下(乾燥点)になるまで水分を除去し、次いで支持体の温度(Tw)を上昇し、前記上層の残存する水分を除去することで、意図しない層間混合が生じないことを発明者らは見出し、本発明に至った。
【0012】
ここで、下層の平均軟化温度(T0)は、下層に含まれる組成物から以下の式で算出されるものを意味する。
【0013】
T0=((Bn×Tgn+B(n−1)×Tg(n−1)+B(n−2)×Tg(n−2)…+B1×Tg1)+(Mn×Tmn+ M(n−1)×Tm(n−1)+M(n−2)×Tm(n−2)…+M1×Tm1)/((Bn+B(n−1)+B(n−2)+…B1)+(Mn+M(n−1)+M(n−2)…+M1))
(但し、Bn,B(n−1)…B1:下層に含まれる単位面積当たりのバインダーの重量[g/m]、Tgn,Tg(n−1)…Tg1:下層に含まれる各バインダーのガラス転移点(℃)、Mn,M(n−1)…M1:下層に含まれる単位面積当たりのモノマーの重量[g/m]、Tmn,Tm(n−1)…Tm1:下層に含まれる各モノマーの融点(℃))であり、Tmn ≦ 0℃の場合は、Tmn=0とする。
【0014】
本発明の塗布方法は、前記発明において、前記第2乾燥工程において、前記支持体の表裏両面から加熱し、前記支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上に上昇して前記上層の残存する水分を除去することが好ましい。
【0015】
支持体の表裏両面から加熱し、前記支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上しているので残存する水分を短時間で除去することができる。
【0016】
本発明の塗布方法は、前記発明において、前記第1乾燥工程では、前記支持体温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃になるまでは前記支持体の表裏両面から加熱し、その後表面から加熱すると共に裏面からの加熱を制御することが好ましい。
【0017】
本発明の塗布方法は、前記発明において、前記第1乾燥工程では、前記支持体温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃になるまでは前記支持体の表裏両面から加熱し、その後表面から加熱すると共に裏面からは冷却することが好ましい。
【0018】
支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃に到達した後、裏面からの加熱を制御又は冷却することによって、支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃を超えてしまうのを防止することができる。特に、初期段階で急激に温度を上昇させた場合、所望の温度条件に維持することができず、下層の平均軟化温度(T0)+10℃を超えてしてしまう可能性がある。これを避けるため、温度制御あるいは冷却手段を設けることが好ましい。
【0019】
本発明の塗布装置は、前記発明において、前記第2乾燥装置が、前記第1乾燥部内に、前記支持体の温度を管理する手段と前記支持体の両面を昇温する手段を備える第1乾燥ゾーンと、該第1乾燥ゾーンの下流に配置された、前記支持体の温度を管理する手段と前記支持体の表面を加熱する手段と、その裏面を温度制御又は冷却する手段を有する第2乾燥ゾーンを備え、前記第2乾燥部内に前記支持体の両面を昇温する手段を備える第3乾燥ゾーンとを備えることが好ましい。
【0020】
複数の乾燥ゾーンを備える乾燥装置で乾燥を行なうことによって、上層の乾燥時における温度制御をより精度良く実現できる。特に、第2乾燥装置が、支持体の温度を管理する手段と前記支持体の両面を昇温する手段を備える第1乾燥ゾーンと、支持体の温度を管理する手段と前記支持体の表面を加熱する手段と、その裏面を温度制御又は冷却する手段を有する第2乾燥ゾーンと、支持体の両面を昇温する手段を備える第3乾燥ゾーンを備えることで、温度制御を精度よく行なうことができ、生産性を高くすることができる。
【0021】
前記目的を達成するために、本発明の平版印刷版の製造は、支持体上に感光層及び保護層をこの順で有する平版印刷版の製造方法であって、前記いずれかの塗布方法で下層として感光層を、上層として保護層を塗布することを特徴とする。
【0022】
上述の塗布方法を、平版印刷版の製造方法に適用することで、意図しない層間混合を防止することができ、平版印刷版の印刷性能の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の塗布方法及び塗布装置によれば、乾膜である下層上に塗布した上層を乾燥させる場合であっても、意図しない層間混合を防止することができる。
【0024】
また、本発明の平版印刷版の製造方法によれば、平版印刷版の印刷性能の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】平版印刷版の製造ラインを示す構成図。
【図2】感光層Aを使用した場合の支持体の温度変化と時間の関係を示すグラフ。
【図3】感光層Bを使用した場合の支持体の温度変化と時間の関係を示すグラフ。
【図4】実施例の結果を示す表図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0027】
以下、本発明に係る塗布方法を、平版印刷版の製造に組み込んだ一例で説明する。但し、本発明は平版印刷版の製造に組み込むことに限定されず、各種の製造ラインに組み込むことができる。
【0028】
なお、本発明は、特に、既に乾燥している下層の膜がモノマーやバインダーを含む系であり、水に溶解し難い層であること、さらに上層が分散物を含み、その分散物の比重が1.5より大きく且つその粒径(外径)は10μm以下であるときに大きな効果を奏する。
【0029】
水に溶解し難い層とは、純水を温めた60℃のお湯に対してその膜(下層)の溶出量が30%以下である層のことをいう。
【0030】
例えば、下層が水に溶けやすい層であれば、水と接触していることで混合が起きてしまうため、層間混合防止には、早く水(溶媒)を除去させることが必須となる。一方、水に溶解し難い層の場合、溶媒との接触時間にはほとんど影響されず、層間混合に関し温度のみが支配的となる。このような系に関し、本願発明は大きな効果を奏する。
【0031】
分散物の比重が1.5以下である場合は、上層の分散物は加熱対流により下層側にも近づくものの、その量は小さく、層間混合の発生少ない。一方で、分散物の比重が1.5より大きいと下層側により沈み込むため、層間混合が促進されるからである。
【0032】
また、分散物の粒径が10μm以下と小さい場合、その形状に関係なく予期しない混合がより起こりやすいからである。
【0033】
図1は、平版印刷版の製造ライン10の一例を示した構成図である。図1に示すように、平版印刷版の製造ライン10は、連続走行する支持体12に、例えば感光層形成液を塗布し感光層(下層)を形成する第1塗布装置14と、第1塗布装置14の下流に配置され下層を所定の水分量に乾燥する第1乾燥装置16と、第1乾燥装置16の下流に配置され、例えば保護層形成液を塗布し、保護層(上層)を形成する第2塗布装置と、第2塗布装置の下流に配置され上層と乾燥する第2乾燥装置20、第2乾燥装置20の乾燥条件を制御する温度制御器22を備える。
【0034】
本発明に用いられる支持体12として、寸度的に安定なアルミニウム又はその合金(例えば珪素、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、鉛、ビスマス、ニッケルとの合金)を用いることができる。通常は、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会発行)に記載の従来公知の素材、例えば、JIS A l050材、JIS A ll00材、JIS A 3103材、JIS A 3004材、JIS A 3005材または引っ張り強度を増す目的でこれらに0.1wt%以上のマグネシウムを添加した合金が用いられる。
【0035】
支持体12がアルミニウム板の場合、表面処理部において、その表面を目的に応じて各種処理を施すのが通例である。一般的な処理方法としてはアルミニウム板を先ず脱脂または電解研磨処理とデスマット処理によりアルミ表面の清浄化を行う。その後に機械的粗面化処理又は/及び電気化学的粗面化処理を施しアルミニウム板の表面に微細な凹凸を付与する。尚、この時に更に化学的エッチング処理とデスマット処理を加える場合もある。その後、アルミニウム板表面の耐摩耗を高める為に陽極酸化処理が施され、その後アルミニウム表面は必要に応じて親水化処理または/及び封孔処理が行われる。但し、支持体はこれらに限定されず、金属と樹脂の複合素材でもよい。
【0036】
連続走行する支持体12に、第1塗布装置14により第1塗布液として感光層形成液が塗布され下層が形成される。第1塗布装置14として、特に塗布方式が限定されず、コーティングロッドを用いる方法や、エクストルージョン型コータを用いる方法、あるいはスライドビードコーターを用いる方法等を適用した塗工装置が使用できる。
【0037】
平版印刷版の感光層を構成するための感光層形成液としては、以下の(1)〜(11)の態様の感光層を構成するような感光液が挙げられる。
(1)感光層が赤外線吸収剤、熱によって酸を発生する化合物、および酸によって架橋する化合物を含有する態様。
(2)感光層が赤外線吸収剤、および熱によってアルカリ溶解性となる化合物を含有する態様。
(3)感光層が、レーザー光照射によってラジカルを発生する化合物、アルカリに可溶のバインダー、および多官能性のモノマーあるいはプレポリマーを含有する層と、酸素遮断層との2層を含む態様。
(4)感光層が、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層との2層からなる態様。
(5)感光層が、多官能性モノマーおよび多官能性バインダーを含有する重合層と、ハロゲン化銀と還元剤を含有する層と、酸素遮断層との3層を含む態様。
(6)感光層が、ノボラック樹脂およびナフトキノンジアジドを含有する層と、ハロゲン化銀を含有する層との2層を含む態様。
(7)感光層が、有機光導電体を含む態様。
(8)感光層が、レーザー光照射によって除去されるレーザー光吸収層と、親油性層および/または親水性層とからなる2〜3層を含む態様。
(9)感光層が、エネルギーを吸収して酸を発生する化合物、酸によってスルホン酸またはカルボン酸を発生する官能基を側鎖に有する高分子化合物、および可視光を吸収することで酸発生剤にエネルギーを与える化合物を含有する態様。
(10)感光層が、キノンジアジド化合物と、ノボラック樹脂とを含有する態様。
(11)感光層が、光又は紫外線により分解して自己もしくは層内の他の分子との架橋構造を形成する化合物とアルカリに可溶のバインダーとを含有する態様。但し、第1塗布装置及び第1塗布液は、これらに限定されない。
【0038】
第1塗布液として、より具体的には、光重合型感光性組成物を溶解する溶媒としては、特開昭62−251739号、特開昭6−242597号公報に記載されているような有機溶剤が用いられる。光重合型感光性組成物は、2〜50重量%の固形分濃度で溶解、分散され、支持体12上に塗布・乾燥される。支持体12上に塗設される光重合型感光性組成物の層(感光層)の塗布量は用途により異なるが、一般的には、乾燥後の重量にして0.3〜4.0g/mが好ましい。塗布量が小さくなるにつれて画像を得るための露光量は小さくて済むが、膜強度は低下する。塗布量が大きくなるにつれ、露光量を必要とするが感光膜は強くなり、例えば、印刷版として用いた場合、印刷可能枚数の高い(高耐刷の)印刷版が得られる。感光性組成物の中には、塗布面質を向上するための界面活性剤、特に好ましくはフッ素系界面活性剤を添加することができる。
【0039】
平版印刷版に適用される光重合型感光性組成物は、付加重合可能なエチレン性不飽和化合物、光開始剤、高分子結合剤を必須成分とし、必要に応じ、着色剤、可塑剤、熱重合禁止剤等の種々の化合物を併用することができる。エチレン性不飽和化合物とは、光重合型感光性組成物が活性光線の照射を受けた時、光重合開始剤の作用により付加重合し、架橋、硬化するようなエチレン性不飽和結合を有する化合物である。
【0040】
次いで、支持体12に形成された下層が、第1乾燥装置16により、少なくとも指触乾燥状態である残留溶媒が100mg/m以下になるまで溶媒が除去される。
【0041】
第1乾燥装置16として、乾燥方式は限定されず、乾燥装置内にパスローラを配置し、支持体をラップさせて搬送しながら熱風を吹き付けて乾燥する方法、支持体の上下面からノズルによりエアーを供給し支持体を浮上させながら乾燥する方法、帯状物の上下に配設した加熱板からの放射熱により乾燥する方法、あるいはロール内部に熱媒体を導通し加熱しそのロールと支持体の接触による熱伝導により乾燥する方法等を適用した乾燥装置が使用できる。
【0042】
いずれの方法においても、支持体に塗布液が塗布された帯状物を均一に乾燥するために、その加熱制御は、支持体や塗布液の種類、塗布量、溶剤の種類、走行速度等に応じて熱風あるいは熱媒体の流量、温度、流し方を適宜変えることにより行われる。また、2種類以上の乾燥方法を組合せて用いても良い。
【0043】
次いで、所定の溶媒量となるまで乾燥された下層上に第2塗布装置18により、保護層形成液が塗布され、保護層が形成される。第2塗布装置18として、特に塗布方式が限定されず、コーティングロッドを用いる方法や、エクストルージョン型コータを用いる方法、あるいはスライドビードコーターを用いる方法等を適用した塗工装置が使用できる。
【0044】
第2塗布装置18は、配管24及びポンプ26を介してジャケットタンク28に接続される。ジャケットタンク28には温度調整された熱媒体が蓄えられる。この熱媒体がポンプにより第2塗布装置18に供給され、熱媒体により第2塗布装置18の塗布液の温度が下層の平均軟化温度T0±10℃の範囲に調整される。
【0045】
下層に塗布する前に、第2塗布液を下層の平均軟化温度(T0)±10℃の範囲に調整しているので、上層の乾燥工程において、比較的短時間に支持体12の温度を上昇することができる。したがって、より生産性を向上することができる。但し、第2塗布液を下層の平均軟化温度(T0)+10℃を超える温度まで上昇させると、第2塗布液を下層に塗布したときに、下層の軟化が生じる虞がある。そこで、第2塗布液の温度に関し、できるだけ下層の平均軟化温度(T0)+10℃以下の範囲に調整することが好ましい。なお、乾燥装置前半部での迅速な昇温の観点から、第2塗布液の温度は支持体温度以上で塗布されることが望ましく、より望ましくは下層の平均軟化温度(T0)−10℃以上のものが塗布されることが望ましい。
【0046】
平版印刷版の保護層を構成するための保護層形成液としては、以下の形成液を使用することができる。
【0047】
第2塗布装置18により、水素結合性基を含む水溶性高分子、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を主成分とする保護層(PVA塗布膜)が形成される。
【0048】
保護層に含まれる水素結合性基を含む水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、およびその部分エステル、エーテル、およびアセタール、またはそれらに必要な水溶性を有せしめるような実質的量の未置換ビニルアルコール単位を含有するその共重合体があげられる。ポリビニルアルコールとしては、71〜100%加水分解され、重合度が300〜2400の範囲のものがあげられる。具体的には株式会社クラレ製PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等があげられる。上記の共重合体としては、88〜100%加水分解されたポリビニルアセテートクロロアセテートまたはプロピオネート、ポリビニルホルマールおよびポリビニルアセタールおよびそれらの共重合体があげられる。その他有用な重合体としてはポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアラビアゴムがあげられ、これらは単独または、併用して用いても良い。これらの水溶性高分子は、保護層の全固形分に対して、30〜99%の割合、好ましくは50〜99%の割合で含有される。保護層は必要に応じて複数層を形成するよう塗布される場合がある。
【0049】
また、保護層には、無機質の層状化合物を含有しても良い。この無機質の層状化合物とは、薄い平板状の形状を有する粒子であり、例えば、一般式A(B,C)−5D10(OH,F,O)〔ただし、Aは、K,Na,Caの何れか、B及びCは、Fe(II),Fe(III),Mn,Al,Mg,Vの何れかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群、一般式3MgO・4SiO・HOで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、リン酸ジルコニウムなどが挙げられる。
【0050】
この薄い平板状の粒子が互いに重なり合うようにしてバインダー中に分散し、無機化合物からなる薄層が前記PVAを主成分とするバインダー中に形成され、耐水性、酸素遮断性、膜強度が一層向上するものと考えられる。
【0051】
上記雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。また、合成雲母としては、フッ素金雲母KMg(AlSi10)F、カリ四ケイ素雲母KMg2.5(Si10)F等の非膨潤性雲母、及びNaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si10)F、Na又はLiテニオライト(Na,Li)MgLi(Si10)F、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si10)F等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0052】
雲母化合物の保護層を保護層に添加する場合の添加量としては、保護層全固形分の1.0〜30質量%が好ましく、より好ましくは、2.0〜20質量%の範囲である。
【0053】
また、保護層には、有機樹脂微粒子を含有しても良い。保護層のバインダー(例えば、ポリビニルアルコール)と親和性が高く、保護層中に良く混練され、保護層表面から脱離することが無いものが好ましい。
【0054】
上記のような特性を備えた有機樹脂微粒子としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリスチレン及びその誘導体、ポリアミド類、ポリイミド類、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、などのポリオレフィン類、及びそれらとポバールとの共重合体、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル類などの合成樹脂粒子、及びキチン、キトサン、セルロース、架橋澱粉、架橋セルロース等の天然高分子微粒子が挙げられる。中でも、合成樹脂微粒子は、粒子サイズ制御の容易さや、表面改質により所望の表面特性を制御し易いなどの利点がある。
【0055】
有機樹脂微粒子としては、シリカ成分を含有するものであることが好ましく、中でも、有機樹脂微粒子の表面の一部がシリカ層で被覆されたシリカ被覆微粒子であることが特に好ましい。有機樹脂微粒子の表面の少なくとも一部にシリカが存在することで、有機樹脂微粒子とバインダー(ポリビニルアルコール)との親和性向上が達成され、保護層に対して外部応力を受けた場合でも有機樹脂微粒子の脱落が抑制され、優れた耐傷性、耐接着性を維持することができる。
【0056】
保護層に有機樹脂微粒子(シリカ被覆微粒子)を含有させる場合の添加量は、5〜1000mg/mとすることができる。
【0057】
なお、上層としては上述の保護層に限定されず、支持体12に形成された下層上に塗布できるものであれば良い。また、上層は単層であっても、重層であっても良い。
【0058】
次に、下層上に上層が形成された支持体12が第2乾燥装置20に搬送される。第2乾燥装置20により所望の水分量となるまで乾燥され、第2乾燥装置20から搬出される。支持体12が第2乾燥装置20に搬送されてから搬出されまでの時間が、上層の乾燥の合計時間(t)となる。
【0059】
第2乾燥装置20は、複数の乾燥ゾーン20A〜20Dに分割される。乾燥ゾーン20Aには、加熱ローラ30と、加熱ローラ30の両側に配置された加熱板32が、支持体12の裏面側に設けられる。また、乾燥ゾーン20Aには、支持体12の表面に乾燥風を供給する複数のノズル34が設けられ、複数のノズル34は送風機36に接続される。さらに、乾燥ゾーン20Aには、支持体12の温度を測定するための温度センサ38が設けられる。
【0060】
乾燥ゾーン20Bには、乾燥ゾーン20Aと同様に、支持体12の表面側に乾燥風を供給するノズル34及び送風機36が設けられる。一方、支持体12の裏面側には、加熱ローラ30及び加熱板32に代えて、冷却ローラ40と冷却板42が設けられる。乾燥ゾーン20Bには、支持体12の温度を測定するための温度センサ38が設けられる。乾燥ゾーン20Cは乾燥ゾーン20Bと同じ構成を備える。乾燥ゾーン20Dは、温度センサ38を備えていなことを除き、乾燥ゾーン20Aと同じ構成を備える。
【0061】
上述の方法とは別に裏面に、フローティング乾燥、蒸発潜熱で冷却しながら塗布面を乾かすことで支持体12の温度を制御することができる。
【0062】
乾燥ゾーン20A〜20Cに配置された複数の温度センサ38は、温度制御器22に電気的に接続され、乾燥ゾーン20A〜20Cの温度情報が温度制御器22に送信される。乾燥ゾーン20A〜20Dに設置された複数の送風機36は温度制御器22に接続される。温度センサ38からの温度情報に基づいて、複数の送風機36は温度制御器22により温度及び風量が制御される。乾燥ゾーン20A,20Dに設置された複数の加熱板32、及び乾燥ゾーン20B,Cに設置された複数の冷却板42が温度制御器22に接続され、加熱板32の加熱量及び冷却板42の冷却量が、温度センサ38からの温度情報に基づいて、温度制御器22により制御される。
【0063】
本発明に係る塗布方法では、少なくとも指触乾燥状態である残留溶媒が100mg/m以下となるまで溶媒が除去された下層に上層が塗布され、乾燥される。通常、指触乾燥状態である下層上に、塗布液を塗布して上層を塗布/乾燥しても、層間混合が生じないものと認識されている。
【0064】
しかしながら、上層の乾燥工程で、下層が以下の式で求められる平均軟化温度(T0)を大きく超えた場合、上層の材料の一部が侵入するという、予期しない層間混合が生じる。
【0065】
T0=((Bn×Tgn+B(n−1)×Tg(n−1)+B(n−2)×Tg(n−2)…+B1×Tg1)+(Mn×Tmn+ M(n−1)×Tm(n−1)+M(n−2)×Tm(n−2)…+M1×Tm1)/((Bn+B(n−1)+B(n−2)+…B1)+(Mn+M(n−1)+M(n−2)…+M1))
(但し、Bn,B(n−1)…B1:下層に含まれる単位面積当たりのバインダーの重量[g/m]、Tgn,Tg(n−1)…Tg1:下層に含まれる各バインダーのガラス転移点(℃)、Mn,M(n−1)…M1:下層に含まれる単位面積当たりのモノマーの重量[g/m]、Tmn,Tm(n−1)…Tm1:下層に含まれる各モノマーの融点(℃))であり、Tmn ≦ 0℃の場合は、Tmn=0。
【0066】
そこで、本発明においては上層の乾燥工程において、以下の温度制御が適用される。
【0067】
つまり、第2乾燥装置20による上層の乾燥において、上層を条件式(1)支持体12の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃を満足させる範囲内で、上層の含水量が塗布時の10%以下(乾燥点)になるまで水分を除去する第1乾燥工程と、支持体12の温度(Tw)を上昇し、上層の残存する水分を除去する第2乾燥工程と備えることを特徴とする。
【0068】
本実施の形態では、乾燥ゾーン20A〜20Cにより第1乾燥工程が構成され、乾燥ゾーン20Dにより第2乾燥工程が構成される。
【0069】
最初に、上層が形成された支持体12が乾燥ゾーン20Aに搬送される。乾燥ゾーン20Aは、第2乾燥装置20の約1/4の長さである。したがって、支持体12は、乾燥ゾーン20Aを合計時間(t)の約1/4の時間で通過する。この乾燥ゾーン20A内で、支持体12の温度(Tw)が,下層の平均軟化温度(T0)±10℃となるよう急速加熱される。そのため、乾燥ゾーン20A内で、支持体12の表面にノズル34から熱風が供給され、支持体12の裏面は加熱ローラ30及び加熱板32により加熱される。
【0070】
第2乾燥装置20の約1/4の長さの乾燥ゾーン20Aで支持体12を急速加熱することで、上層の乾燥工程を短時間に終了でき、高い生産性を維持することができる。ここで重要なことは下層の平均軟化温度(T0)+10℃を超えないようにすることである。
【0071】
次いで、支持体12は、乾燥ゾーン20B,20Cに搬送される。乾燥ゾーン20B,20Cでは、冷却ローラ40及び冷却板42により支持体12を冷却することにより、支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃を超えないよう制御される。本実施の形態では、支持体12の裏面から冷却することで、温度制御をより精度よく行なうことができる。但し、これに限定されず、裏面に加熱板を設置し、加熱板からの熱量を制御することによって支持体12の温度(Tw)を制御しても良い。
【0072】
支持体12の上層は、乾燥ゾーン20Cを搬出される時点で上層は、その水分量が上層の含水量が塗布時の10%以下(乾燥点)になるまで水分が除去される。上層の水分量が10%以下(乾燥点)となるまでは上層に含まれる材料が下層に移動しても、下層が軟膜化していないので、上層の材料が下層に侵入する意図しない層間混合が防止される。
【0073】
なお、乾燥点は、水分量センサーで検知可能であり、目視でも塗布物の入りの変化で把握することができる。
【0074】
次いで、支持体12は乾燥ゾーン20Dに搬入される。乾燥ゾーン20Dでは、支持体12の表面はノズル34からの熱風で加熱され、支持体12の裏面は加熱ローラ30と加熱板32より加熱される。これにより支持体12の温度(Tw)が上昇する。これにより、上層に含まれる残りの水分が除去される。乾燥ゾーン20Dでは、支持体12の温度(Tw)は、下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上に加熱される。このとき下層は軟膜化する。しかし、乾燥ゾーン20Dに至るまでに上層の水分量が既に10%以下となるまで水分が除去され、上層は硬膜化される。したがって、上層に含まれる材料の下層への移動が制限され、たとえ下層が軟膜化しても意図しない層間混合は生じないものと考えられる。
【0075】
支持体12は乾燥ゾーン20D内で残りの水分が除去され、乾燥ゾーン20Dの外部に搬出される。
【0076】
以上、本発明の塗布方法、塗布装置、及び平版印刷版の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。図1に示す製造ライン10を使用して平版印刷版を作製した。
【0078】
[支持体の作製]
本実施例では、幅1000mm、厚さ0.3mmのアルミニウム製の支持体を使用した。
【0079】
[下塗り層]
次に、このアルミニウム支持体表面に下記下塗り層用塗布液をワイヤーバーにて塗布し、100℃10秒間乾燥した。塗布量は10mg/mであった。
【0080】
(下塗り層用塗布液)
・下記構造の高分子化合物A(重量平均分子量:10,000) 0.05g
・メタノール 27g
【0081】
【化1】

【0082】
・イオン交換水 3g
[感光層形成液]
下記の感光層形成液組成にしたがい、2種類の感光層形成液A及びBを調製した。
【0083】
(感光層形成液組成)
溶媒:メチルエチルケトン、1‐メトキシ2‐プロパノ−ル
バインダー1(B−1):Tg=100℃
バインダー2(B−2):Tg=80℃
モノマー1(M−1):融点=−30℃
感光層A 含有比率 B1:B2:M1=1:2:2
感光層B 含有比率 B1:B2:M1=1:1:2
他 界面活性剤 染料等
【0084】
【化2】

【0085】
[保護層形成液]
下記の保護層形成液組成にしたがい、保護層形成液を調製した。
【0086】
(保護層形成液組成)
溶媒:水
溶質:ポリビニルアルコール(PVA)、合成雲母、界面活性剤A(日本エマルジョン社製、エマレックス710)及び界面活性剤B(アデカプルロニックP-84:旭電化工業株式会社製)、有機フィラー(アートパールJ−7P、根上工業(株)製)、増粘剤(セロゲンFS−B、第一工業製薬(株)製)、高分子化合物A
[下層と上層の形成]
支持体上に下塗層を形成し、感光層Aを残留溶媒が100mg/m以下100mg/m近傍となるよう塗布乾燥させた後、保護層を上層として塗布した。また、支持体上に下塗層を形成し、感光層Bを残留溶媒が100mg/m以下100mg/m近傍となるよう塗布乾燥させた後、保護層を上層として塗布した。保護層の塗布温度を下層の平均軟化温度(T0)±10℃に範囲となるよう調整した。
【0087】
図4の表図は、上層の乾燥条件とその評価結果をまとめたものである。実施例1−4、及び比較例1−2は下層として感光層Aを形成したものであり、実施例5−7、及び比較例3−4は、下層として感光層Bを形成したものである。
【0088】
実施例1においては、乾燥点に達するまで、支持体の表面に比較的低温の乾燥風のみをあて、長い時間を掛けて上層の乾燥を行った。実施例2において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から中温の乾燥風のみで、比較的短時で上層の乾燥を行った。実施例3において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風をあて、裏面から冷却し、短時間で上層の乾燥を行なった。実施例4において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風をあて、裏面から温度制御し、短時間で上層の乾燥を行なった。比較例1では、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風のみをあて、短時間で上層の乾燥を行なった。比較例2では、乾燥点に達するまで、支持体の上面から中温の乾燥風のみをあて、短時間で上層の乾燥を行なった。
【0089】
図2は、感光層Aを使用した場合の第2乾燥装置内での支持体の温度(Tw)変化と時間の関係を示している。このグラフでは、第2塗布装置の塗布液の温度を上昇させないで、塗布液を下層に塗布して上層を形成したものである。縦軸は支持体の温度を、横軸は時間を示している。ウェブの速度や、塗布〜乾燥点に到るまでの、乾燥熱風の温度、風速を変え、さらに、裏面からの温度制御の有無、冷却の有無、を変えて実験したものである。
【0090】
パターンAでは、乾燥点に至るまで、高温の乾燥風のみを用い乾燥し、乾燥点では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10度以上に上昇した。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0091】
パターンBでは、最初の乾燥ゾーンで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)付近迄まで上昇し、乾燥点まで上方から高温の乾燥風を当てながら裏面から冷却して温度を維持した。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は、ほぼ下層の平均軟化温度(T0)であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0092】
パターンCでは、中温の乾燥風のみで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)間まで上昇し、乾燥点まで維持した。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は、ほぼ下層の平均軟化温度(T0)−10〜(T0)であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0093】
パターンDでは、乾燥点に至るまで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)となるように低い熱風で乾燥し、ウェブを低速で走行させた。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は下層の平均軟化温度(T0)−10℃未満であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0094】
パターンEでは、最初の乾燥ゾーンで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃まで上昇し、乾燥点まで上方から高温の乾燥風を当てながら裏面から温度制御して温度を維持した。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は下層の平均軟化温度(T0)〜(T0)+10℃未満であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0095】
パターンFでは、支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃よりはるかに低い温度となるように乾燥した後、乾燥点に至る前に昇温した。乾燥点では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上に上昇した。
【0096】
実施例5においては、乾燥点に達するまで、支持体の表面に比較的低温の乾燥風のみをあて、長い時間を掛けて上層の乾燥を行った。実施例6において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から中温の乾燥風のみで、比較的短時で上層の乾燥を行った。実施例7において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風をあて、裏面から冷却し、短時間で上層の乾燥を行なった。比較例3において、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風をあて、裏面から温度制御し、短時間で上層の乾燥を行なった。比較例3では、乾燥点に達するまで、支持体の上面から高温の乾燥風のみをあて、短時間で上層の乾燥を行なった。比較例4では、乾燥点に達するまで、支持体の上面から中温の乾燥風のみをあて、短時間で上層の乾燥を行なった。
【0097】
図3は、感光層Bを使用した場合の第2乾燥装置内での支持体の温度(Tw)変化と時間の関係を示している。このグラフでは、第2塗布装置の塗布液の温度を上昇させないで、塗布液を下層に塗布して上層を形成したものである。縦軸は支持体の温度を、横軸は時間を示している。ウェブの速度や、塗布〜乾燥点に到るまでの、乾燥熱風の温度、風速を変え、さらに、裏面からの温度制御の有無、冷却の有無、を変えて実験したものである。
【0098】
パターンAでは、乾燥点に至るまで、高温の乾燥風のみを用い乾燥し、乾燥点では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10度以上に上昇した。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0099】
パターンBでは、最初の乾燥ゾーンで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)付近迄まで上昇し、乾燥点まで上方から高温の乾燥風を当てながら裏面から冷却して温度を維持した。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は、ほぼ下層の平均軟化温度(T0)であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0100】
パターンCでは、中温の乾燥風のみで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)間まで上昇し、乾燥点まで維持した。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は、ほぼ下層の平均軟化温度(T0)−10〜(T0)であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0101】
パターンDでは、乾燥点に至るまで、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)となるように低い熱風で乾燥し、ウェブを低速で走行させた。その結果、乾燥点までの支持体の温度(Tw)の最高到達温度は下層の平均軟化温度(T0)−10℃未満であった。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0102】
パターンEでは、乾燥点に至るまで、高温の乾燥風のみを用い乾燥し、乾燥点では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10度以上に上昇した。その後、支持体の温度(Tw)を上昇し、残りの水分を除去した。
【0103】
パターンEでは、支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃よりはるかに低い温度となるように乾燥した後、乾燥点に至る前に昇温した。乾燥点では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上に上昇した。
【0104】
[印刷評価条件]
インキ濃度が基準の100−90%であるものを○、インキ濃度が90%‐75%であるものを△、インキ濃度が75%以下であるものを×と評価した。
1.印刷速度:200rpm
2.印刷枚数:〜2000枚
3.インキ:東洋バンテアンエコー 紅
4.湿し水:東洋アルキー 1%
[印刷評価結果]
実施例1−4において、乾燥点までの支持体温度の最大到達温度℃(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃以下としたので、印刷性能評価は全て△以上の評価を得た。実施例3に関して、表面からの高温の乾燥風をあて、裏面側から冷却することで、乾燥点に達するまでの時間が短く生産性に優れていた。一方、比較例1−2では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃を越えていたので印刷性能は全て×であった。
【0105】
同様に、実施例5−7において、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃以下としたので、印刷性能評価は全て△以上の評価を得た。なかでも、実施例7に関して、実施例3と同様に、表面からの高温の乾燥風をあて、裏面側から冷却することで、乾燥点に達するまでの時間が短く生産性に優れていた。一方、比較例3−4では支持体の温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)+10℃を越えていたので印刷性能は全て×であった。
【0106】
表から明らかなように、実施例1−7において、支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃を越えない範囲で、下層の平均軟化温度(T0)より上昇する方が、塗布から乾燥点までの時間が短いことが理解できる。
【0107】
図2及び図3において、ウェブを高速で塗布乾燥処理する場合にはパターンB,Cに対応する実施例の前提で行うのが好ましい。
【0108】
パターンB,Cでは、支持体の表裏両面から加熱するゾーンで支持体の温度(Tw)を
T0−10℃よりも上昇させることにより、短時間で乾燥での乾燥が可能で乾燥装置を小さく構成できる。さらに、パターンBでは、支持体の表裏両面から加熱するゾーンで支持体の温度(Tw)をT0℃とT0+10℃の間まで上昇させることにより、最も短い乾燥時間で乾燥点まで達しており、かつ、印刷性能評価も保たれている。さらに、いずれのパターンでも、裏面の温度制御や冷却を行いながら支持体の温度(Tw)をT0+10℃以下に保ちつつ上層が乾燥点に到達した後は、支持体の表裏両面から加熱し、T0+10℃を上回る温度まで昇温することで、短時間で乾燥を完了し、かつ、印刷性能評価が保たれる。
【0109】
なお、図4の表の支持体温度と時間との関係の項目には、図2のグラフに示すパターンA〜F及び図3のグラフに示すパターンA〜Eの中でも最も近いパターン名を記入した。実施例1〜4では、図2のパターンB〜Eが層間混合を防止できることが容易に理解できる。また、実施例5〜7では、図3のパターンB〜Dが層間混合を防止できることが容易に理解できる。
【符号の説明】
【0110】
10…製造ライン、12…支持体、14…第1塗布装置、16…第1乾燥装置、18…第2塗布装置、20…第2乾燥装置、22…温度制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行する帯状の支持体上に複数の層を形成する塗布方法であって、
前記支持体の表面に第1塗布液を塗布して下層を形成する工程と、
前記下層を、その残留溶媒が100mg/m以下となるまで溶媒を除去する乾燥工程と、
乾燥後の前記下層に第2塗布液を塗布して上層を形成する工程と、
前記上層の水分を除去する乾燥工程と、を備え、
前記上層の乾燥工程が、
前記上層を以下の条件式(1)を満足させる範囲内で、該上層の含水量が塗布時の10%以下になるまで水分を除去する第1乾燥工程と、
(1)支持体の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃
前記支持体の温度(Tw)を上昇し、前記上層の残存する水分を除去する第2乾燥工程と、を備える塗布方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗布方法であって、前記第2乾燥工程において、前記支持体の表裏両面から加熱し、前記支持体の温度(Tw)を下層の平均軟化温度(T0)+10℃以上に上昇して前記上層の残存する水分を除去する塗布方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の塗布方法であって、前記第1乾燥工程において、前記支持体温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃になるまでは前記支持体の表裏両面から加熱し、その後表面から加熱すると共に裏面からの加熱を制御する塗布方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の塗布方法であって、前記第1乾燥工程において、前記支持体温度(Tw)が下層の平均軟化温度(T0)−10℃〜(T0)+10℃になるまでは前記支持体の表裏両面から加熱し、その後表面から加熱すると共に裏面から冷却する塗布方法。
【請求項5】
支持体上に感光層及び保護層をこの順で有する平版印刷版の製造方法であって、請求項1〜4のいずれか1項記載の塗布方法で下層として感光層を、上層として保護層を塗布する平版印刷版の製造方法。
【請求項6】
連続走行する帯状の支持体上に複数の層を形成する塗布装置であって、
前記支持体の表面に第1塗布液を塗布して下層を形成する第1塗布装置と、
前記第1塗布装置の下流に配置され、前記下層を、その残留溶媒が100mg/m以下となるまで溶媒を除去する第1乾燥装置と、
前記第1乾燥装置の下流に配置され前記下層に第2塗布液を塗布して上層を形成する第2塗布装置と、
前記第2塗布装置の下流に配置され、前記上層の水分を除去する第2乾燥装置と、を備え、
前記上層の第2乾燥装置が、
前記上層を以下の条件式(1)を満足させる範囲内で、該上層の含水量が塗布時の10%以下になるまで水分を除去する第1乾燥部と、
(1)支持体の温度(Tw)≦下層の平均軟化温度(T0)+10℃
前記支持体の温度(Tw)を上昇し、前記上層の残存する水分を除去する第2乾燥部で構成される塗布装置。
【請求項7】
請求項6記載の塗布装置において、前記第2乾燥装置が、前記第1乾燥部内に、前記支持体の温度を管理する手段と前記支持体の両面を昇温する手段を備える第1乾燥ゾーンと、該第1乾燥ゾーンの下流に配置された、前記支持体の温度を管理する手段と、前記支持体の表面を加熱する手段と、その裏面を温度制御又は冷却する手段を有する第2乾燥ゾーンを備え、前記第2乾燥部内に前記支持体の両面を昇温する手段を備える第3乾燥ゾーンとを備える塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−234254(P2010−234254A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84734(P2009−84734)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】