説明

塗布装置および塗布方法

【課題】、同一仕様のダイヘッドで様々な塗布条件を満足し、非常に高価かつ製作に時間を必要とするダイヘッドの必要とされる数を少なくできる他、既存のダイヘッドでより多くの塗布条件に対応できる塗布装置を提供する。
【解決手段】バックアップロール2の表面に保持されて連続的に走行する支持体1の表面に、該バックアップロール2に対向配置された押し出し型のダイヘッド3から塗料を吐出して塗布する塗布装置であって、前記ダイヘッド3の前記バックアップロール2に対する設置角度を変更制御する移動装置4を備え、所定の速度、厚み等の塗布条件に対する、前記ダイヘッド3の適正塗布が行える塗布可能角度を求め、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を、前記求められた塗布可能角度に変更制御して塗布を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック、紙、金属箔等の走行する支持体に対し塗布液を塗布する装置に係り、機能性光学フィルム・写真感光材料・磁気記録媒体・鋼板表面処理等に利用可能である塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機能性光学フィルム・写真感光材料・磁気記録媒体・鋼板表面処理等の製造工程において支持体上に塗布液を塗布する工程がある。この塗布液は感光材料や磁性粒子等の必須成分を樹脂バインダーに混合させ、さらに必要に応じて種々の添加剤を添加し、有機溶剤等によって粘度調整したものを用いる。
【0003】
上記の塗布液を支持体に塗布する方法としては、例えばロールグラビアロールコーター・ナイフコーター・押出し型コーター・リバースロールコーター等の多種多様な塗布方式が用いられている。中でもダイヘッドを用い支持体上に塗布液を押出し塗布する押出し型コーターは塗布直前まで塗布液が大気に暴露すること無く塗布液の変化が無い事や、様々な組成や濃度を持つ塗布液に対し塗布厚みを任意に設定しやすい事、あるいは塗布膜の膜厚均一性に優れる事、塗布面の平滑性に優れる事等の理由により近年その利用が増加している。
【0004】
尚従来、本発明に関連する塗布装置、光学フィルム及びその製造方法、塗布膜の乾燥方法は、例えば下記特許文献1〜3に記載のものが提案されていた。
【特許文献1】特開2003−10765号公報
【特許文献2】特開2003−39014号公報
【特許文献3】特開2004−290963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
押出し型コーターにおいて支持体上に塗布膜を塗布する場合には適切な塗布条件、即ち塗布速度・塗布厚み・塗布液の粘度・塗布液の濃度が存在するが、これらの条件はコーター以外の視点から決定される事が少なくない。例えば塗布速度では塗布膜の乾燥・硬化条件から条件を決定されることが多く、塗布厚みは塗布膜に要求される機能から決定され、塗布液の粘度や濃度はやはり塗布膜に要求される機能を第一に決定される。
【0006】
これらの塗布条件に対し、押出し型コーターではダイヘッドのマニホールド形状・スリット寸法・リップの形状の合わせこみにより塗布条件を成立させる。しかしながら一つのダイヘッドで、要求される全ての条件に対応する事は難しく、幾つかの仕様の異なるダイヘッドが必要とされている。これらダイヘッドはスリットやリップの加工に高度な精度が要求され、非常に高価かつ製作に時間が必要なため、同一仕様のダイヘッドで様々な塗布条件に対応できる手段が必要とされていた。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものでその目的は、同一仕様のダイヘッドで様々な塗布条件を満足し、非常に高価かつ製作に時間を必要とするダイヘッドの必要とされる数を少なくできる他、既存のダイヘッドでより多くの塗布条件に対応できる塗布装置および塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の塗布装置は、バックアップロールの表面に保持されて連続的に走行する支持体の表面に、該バックアップロールに対向配置された押し出し型のダイヘッドから塗料を吐出して塗布する塗布装置であって、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を変更制御する設置角度変更制御手段を備えたことを特徴としている。
【0009】
また請求項3,4に記載の塗布装置は、前記設置角度変更制御手段が、前記バックアップロールの中心軸を回転軸とした周方向に回転移動させる手段を有していることを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、ダイヘッドの設置角度を変更制御することができるので、同一仕様のダイヘッドで様々な塗布条件を満足する塗布装置が得られる。
【0011】
また請求項2に記載の塗布装置は、所定の速度、厚み等の塗布条件に対する、前記ダイヘッドの適正塗布が行える塗布可能角度を求め、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を、前記求められた塗布可能角度に変更制御して塗布を行うことを特徴としている。
【0012】
また請求項9に記載の塗布方法は、バックアップロールの表面に保持されて連続的に走行する支持体の表面に、該バックアップロールに対向配置された押し出し型のダイヘッドから塗料を吐出して塗布する塗布方法であって、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を変更制御する設置角度変更制御手段を備え、適正塗布が行える塗布可能角度を求める手段が、前記設置角度変更制御手段によって、所定の速度、厚み等の塗布条件に対する、前記ダイヘッドの適正塗布が行える塗布可能角度を求めるステップと、塗布手段が、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を、前記設置角度変更制御手段によって、前記求められた塗布可能角度に変更制御して塗布を行うステップとを備えたことを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、塗布条件に対応して適正な塗布が行える。
【0014】
また請求項5〜8に記載の塗布装置は、前記ダイヘッドのリップ高さは、前記支持体の走行系の上流側と下流側で互いに異なることを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、リップの高さの違い(リップの段差)により塗布時に塗布液の液溜まりが生じて塗布液を安定的に支持体上に塗布することができる。
【発明の効果】
【0016】
(1)請求項1〜9に記載の発明によれば、ダイヘッドの設置角度を変更制御することができるので、同一仕様のダイヘッドで様々な塗布条件を満足する塗布装置が得られる。
【0017】
すなわち、高価で製作に時間を必要とするダイヘッドをいくつも準備すること無く、一つの仕様のダイヘッドで様々な塗布条件に対応することができる。また、既存のダイヘッドでより広い範囲の塗布が可能となる。またダイヘッドの交換よりもダイヘッドの角度変更が容易なため塗布の付帯作業時間が減少する。
(2)請求項2に記載の発明によれば、塗布の速度、厚み等の様々な塗布条件に応じて適正塗布が行える塗布可能角度を求めることができ、塗布条件が変わっても適正な塗布が行える。
(3)請求項5〜8に記載の発明によれば、リップの高さの違い(リップの段差)により塗布時に塗布液の液溜まりが生じて塗布液を安定的に支持体上に塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者はバックアップロールに対してダイヘッドが種々の角度をもって塗布を行う際に塗布可能な条件範囲が変化する事に着目し、バックアップロールの回転軸を中心としてダイヘッドの固定ユニット部を様々な角度に設置できるような回転式の塗布装置を発明した。
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
(回転可能なダイヘッド固定ユニット)
まず図1に示すように、バックアップロール回転軸を中心としてダイヘッドの固定ユニット部を回転できる装置を作成した。図1において、支持体1は塗布部の上流および下流の両方でバックアップロール2に対し水平に走行し、バックkアップロール2に対する抱き込み角度が180°となるように構成している。
【0020】
支持体1はダイヘッド3に対し走行位置(リップ13と支持体1の間隙)を一定にする必要があるため、ダイヘッド3のリップ上流および下流側でバックアップロール2に密着する必要がある。このためダイヘッド3の設置角度は支持体1の抱き込み角度より若干少ない160°の範囲で可変とした。
【0021】
すなわち図2(a)に示すように、ダイヘッド3の設置角度を、水平方向を0°とした場合に、塗布部の上流側に−80°ずれた位置と下流側に+80°ずれた位置との間で、バックアップロール2の回転軸を中心として回転移動できるように構成した。
【0022】
尚図2(b)に示すように支持体1が、前記ダイヘッド3の設置角度を水平方向が0°であるとした場合の略−180°の位置までバックアップロール2に密着できるように、入り口ガイドロール12を配設しても良い。
【0023】
このように構成することにより、ダイヘッド3の設置角度を、塗布部の上流側に−90°ずれた位置と下流側に+80°ずれた位置との間で回転移動させることができる。
【0024】
尚、前記入り口ガイドロール12は支持体1を介してバックアップロール2に接して配置され、バックアップロール2の回転に合わせて回転することが可能である。
【0025】
前記ダイヘッド3は、塗料が外部から導入される供給口31、塗料を内部に溜めるためのマニホールド32、バックアップロール2に対向して塗料を押し付けるリップ33、塗料を支持体幅方向に均一に広げるためのスリット34等を有している。
【0026】
リップ33は図1に示すように、スリット34を挟んで上流側リップ33aと下流側リップ33bに分かれているが、その高さは上流側リップ33aの方を高く形成し、例えばそれらのリップ段差を100μmとしている。
【0027】
このようにリップ33に段差を設けることによって、塗布時に、塗布液の液溜まり(ビード)が発生し、塗布液が安定的に支持体1上に塗布されるものである。もしこの塗布液の液溜まり(ビード)がない場合は、スジなどが発生しやすくなり、安定した塗布を行うことができない。
【0028】
また前記バックアップロール2の材料は例えば金属であり、表面にメッキ処理を施している。そしてバックアップロール2の表面性は例えば0.2S〜0.4Sとしている。
【0029】
4は移動装置(本発明のダイヘッドのバックアップロールに対する設置角度を変更制御する設置角度変更制御手段;バックアップロールの中心軸を回転軸とした周方向に回転移動させる手段)であり、ダイヘッド3を固定したダイヘッド固定ユニット(図示省略)を、バックアップロール2の回転軸を中心として回転移動させ、ダイヘッド3の設置角度を前記−80°〜80°(図2(a)の場合)又は−90°〜80°(図2(b)の場合)の範囲で変更する。
【0030】
尚この移動装置4は、ダイヘッド3のリップ33とバックアップロール2の表面との距離も調整することができるようになっている。
【0031】
尚図1、図2において、支持体1およびバックアップロール2は、本実施形態例では例えば図示矢印方向に走行、回転するものであり、それらの駆動系や関連装置は図示省略している。
【0032】
(ダイヘッドの設置角度による塗布可能な条件範囲の変化)
次にダイヘッド3の設置角度による塗布可能な条件範囲の変化については、下記に示す支持体1に対して塗布液を、下記の実験条件に示す塗布厚みおよび塗布速度で塗布する事により確認した。
【0033】
支持体1:PETフィルム(厚み125μm)幅127μm
塗布液:紫外線硬化型の液晶モノマーを有機溶剤(トルエン)にて固形分40%に希釈した。粘度は6mPa・sである(測定装置ThermoHaake社 粘度計VT6)。
【0034】
ダイヘッド3:マニホールド32はリップ33に平行な円筒状、内径20mm、スリット34の間隙は200μm。リップ形状は曲面を持たないフラット型、厚み3mm。上流側リップ33aは下流側リップ33bよりも支持体1側に100μm突出した状態で組立てられている
実験条件:
[塗布速度]
1・3・5・10m/min
[塗布厚み]
0.1/0.5/1.0/2.0μm(乾燥時)
[ダイヘッド角度]
−80°(リップ上向き)/0°(リップ水平)/80°(リップ下向き)
(実験結果)
上記実験結果を次の表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1では塗布可能であった条件を○と表記し、塗布不可能であった条件については「液ダレ」および「塗布幅減少」の表記を行っている。「液ダレ」は塗布液がダイヘッドのリップから支持体へ塗布されずにダイリップに沿って重力方向に流失する現象、「塗布幅減少」は塗布液の塗布幅がダイヘッドのスリット幅より狭くなり所定の塗布幅を得られない現象であり、共に塗布不可能と判定される。
【0037】
表1の結果を塗布可能な条件範囲として表したのが図3である。表1および図3から、ダイヘッド3のリップ33が下を向く80°では塗布厚みが厚く塗布速度の低い領域での塗布が可能であり、リップ33が上を向く−80°では塗布厚みが薄く塗布速度の高い領域での塗布が可能であることがわかる。さらに80°と−80°の中間の0°では塗布可能な範囲も80°と−80°の中間の領域となった。即ち、ダイヘッド3の設置角度を変更することにより一つのダイヘッドでより広い範囲での塗布が可能となっている。
【0038】
したがって本発明では、図1、図2の装置によって前記速度、厚み等の塗布条件で支持体1に塗布を行い、予め表1にしめすような評価を行って、所定条件に対する適正塗布が可能な塗布可能角度(ダイヘッド3の設置角度)を求め、それら表1の結果を例えば図示省略のメモリ等へ格納しておき、その後各条件に応じて、前記求めておいた塗布可能角度となるように移動装置4によってダイヘッド3を回転移動させて塗布を行うものである。
【0039】
尚本実施形態例では、塗布速度については1m/min〜10m/minの範囲で実験しているが、これは乾燥装置との兼ね合いでの速度であり、乾燥能力が向上すればさらにスピードアップが可能である。
【0040】
以上のように塗布厚みが0.1μm〜5μm位の範囲で塗布する場合、従来塗料によっては1種類のダイヘッドでは対応出来ないことがあったが、本発明では1種類のダイヘッドで角度を調整することにより対応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態例の構成図。
【図2】本発明の一実施形態例におけるダイヘッドの設置角度の例を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態例における、ダイヘッド設置角度による塗布条件範囲を表す特性図。
【符号の説明】
【0042】
1…支持体、2…バックアップロール、3…ダイヘッド、4…移動装置、12…入り口ガイドロール、31…供給口、32…マニホールド、33…リップ、33a…上流側リップ、33b…下流側リップ、34…スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックアップロールの表面に保持されて連続的に走行する支持体の表面に、該バックアップロールに対向配置された押し出し型のダイヘッドから塗料を吐出して塗布する塗布装置であって、
前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を変更制御する設置角度変更制御手段を備えたことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
所定の速度、厚み等の塗布条件に対する、前記ダイヘッドの適正塗布が行える塗布可能角度を求め、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を、前記求められた塗布可能角度に変更制御して塗布を行うことを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記設置角度変更制御手段は、前記バックアップロールの中心軸を回転軸とした周方向に回転移動させる手段を有していることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記設置角度変更制御手段は、前記バックアップロールの中心軸を回転軸とした周方向に回転移動させる手段を有していることを特徴とする請求項2に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記ダイヘッドのリップ高さは、前記支持体の走行系の上流側と下流側で互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記ダイヘッドのリップ高さは、前記支持体の走行系の上流側と下流側で互いに異なることを特徴とする請求項2に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記ダイヘッドのリップ高さは、前記支持体の走行系の上流側と下流側で互いに異なることを特徴とする請求項3に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記ダイヘッドのリップ高さは、前記支持体の走行系の上流側と下流側で互いに異なることを特徴とする請求項4に記載の塗布装置。
【請求項9】
バックアップロールの表面に保持されて連続的に走行する支持体の表面に、該バックアップロールに対向配置された押し出し型のダイヘッドから塗料を吐出して塗布する塗布方法であって、
前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を変更制御する設置角度変更制御手段を備え、
適正塗布が行える塗布可能角度を求める手段が、前記設置角度変更制御手段によって、所定の速度、厚み等の塗布条件に対する、前記ダイヘッドの適正塗布が行える塗布可能角度を求めるステップと、
塗布手段が、前記ダイヘッドの前記バックアップロールに対する設置角度を、前記設置角度変更制御手段によって、前記求められた塗布可能角度に変更制御して塗布を行うステップと
を備えたことを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−330873(P2007−330873A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164754(P2006−164754)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】