説明

塗布装置及び塗工用樹脂液の塗布方法

【課題】塗布時における膜厚を均一にすることができる樹脂液の塗布技術を提供する。
【解決手段】本発明の塗布装置1は、塗工用樹脂液が塗布されるシート基材2を支持して搬送する搬送ローラ3と、搬送ローラ3に近接配置される金属製のドクターナイフ4と、搬送ローラ4とドクターナイフ4の刃部4aとの隙間に塗工用樹脂液7を供給する樹脂液供給手段5と、ドクターナイフの刃部4aを加熱するヒータ8と、ドクターナイフ4の刃部4aの温度を検出する温度センサ10と、温度センサ10によって得られた結果に基づいてヒータ8の動作を制御する温度制御手段9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺のシート基材上に粘性の樹脂液を塗布する技術に関し、特に高粘性の樹脂液を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺のシート基材上に粘性樹脂を塗布して樹脂フィルムを作成する場合には、ロール状の搬送手段によって搬送されるシート基材上に樹脂を塗布して、コーターロールやドクターナイフによって樹脂の厚さを調整するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような従来技術では、特に高粘度の樹脂を用いた場合に、塗布時において膜厚にばらつきが生ずることがあり、その改善が要望されている。
【特許文献1】特開2005−336447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、塗布時における膜厚を均一にすることができる樹脂液の塗布技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するためになされた本発明は、塗工用樹脂液が塗布されるシート基材を支持して搬送する搬送ローラと、前記搬送ローラに近接配置される金属製のドクターナイフの刃部と、前記搬送ローラと前記ドクターナイフの刃部との隙間に前記塗工用樹脂液を供給する樹脂液供給手段と、前記ドクターナイフの刃部を加熱するヒータと、前記ドクターナイフの刃部の温度を検出する温度センサと、前記温度センサによって得られた結果に基づいて前記ヒータの動作を制御する温度制御手段とを有する塗布装置である。
本発明では、前記ドクターナイフが、当該ドクターナイフの刃部と一体的に形成された本体部を有し、当該本体部内に前記ヒータが設けられている場合にも効果がある。
本発明は、前記塗布装置を用いた塗工用樹脂液の塗布方法であって、前記搬送ローラと前記ドクターナイフの刃部との隙間に前記塗工用樹脂液を供給しつつ、前記ドクターナイフの刃部を加熱させながら前記搬送ローラを動作させ、当該塗工用樹脂液を前記ドクターナイフの刃部に接触させて前記シート基材を搬送する工程を有するものである。
本発明では、前記ドクターナイフの刃部を35℃以上50℃以下に加熱することもできる。
本発明では、前記塗工用樹脂液が、バインダー中に導電性粒子を含有している場合にも効果がある。
本発明では、前記塗工用樹脂液が、バインダーとしてエポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含有する場合にも効果がある。
本発明は、前記塗布方法によって塗工膜が形成形成された異方導電性接着フィルムである。
本発明では、前記塗工膜の表面粗度が60μm以上130μm以下である場合にも効果がある。
【0006】
本発明の場合、金属製のドクターナイフの刃部を加熱させながら搬送ローラを動作させ、塗工用樹脂液をドクターナイフの刃部に接触させてシート基材を搬送することによって、塗布時に塗工用樹脂液の粘度が急速に低下して短時間で塗工に適した粘度になるとともに、塗工用樹脂液の流動性が向上し、その結果、塗布時における膜厚のむらを防止して膜厚の均一性を向上させることができる。
【0007】
さらに、本発明では、ドクターナイフの刃部の温度を検出し、その結果に基づいてヒータの動作を制御することにより、塗布時において塗工用樹脂液の温度を一定に保つことができるので、塗布膜の表面粗度を小さくすることができる。
特に本発明では、ドクターナイフの刃部に直接塗工用樹脂液が接触するため、塗工用樹脂液の温度を精度良く一定に保つことができ、これにより塗布膜の表面粗度を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜厚が均一で、かつ、表面粗度の小さい樹脂液の塗布を行うことができる。その結果、本発明によれば、膜厚の均一な高品質の接着フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
なお、本発明は、例えば、シート基材上に接着剤層が形成された絶縁性接着剤フィルムや、この絶縁性接着剤中に導電性粒子が分散された異方導電性接着フィルム等の粘着性フィルムに好適となるものである。
【0010】
図1は、本発明に係る塗布装置の実施の形態の外観構成を示す正面図、図2及び図3は、本発明による作用を説明するための図である。
図1に示すように、本実施の形態の塗布装置1は、後述するシート基材2を支持して搬送する搬送ローラ3を有している。
【0011】
この搬送ローラ3は、例えばステンレス等の金属からなり、図示しない駆動モータによって所定の方向(ここでは時計回り方向)に回転するように構成されている。
【0012】
この搬送ローラ3には、例えばPETからなる一連の長尺なシート基材2が架け渡され、さらにこのシート基材2は、図示しない巻取ローラに架け渡されてる。そして、シート基材2の上側部分2aが搬送ローラ3から離れる方向(以下「シート搬送方向」という。)に水平に搬送されるようになっている。
【0013】
搬送ローラ3の上方には、ドクターナイフ4が設けられている。
このドクターナイフ4は、例えばステンレス等の金属を用いて一体成型によって形成されており、その刃部4aが、搬送ローラ3上のシート基材2に対して近接配置されている。
【0014】
本発明の場合、特に限定されることはないが、薄膜コーティング技術の観点からは、搬送ローラ3上のシート基材2とドクターナイフ4の刃部4aとの隙間の間隔を、10〜20μmに設定することが好ましい。
搬送ローラ3及びドクターナイフ4のシート搬送方向上流側には、樹脂液供給手段5が設けられている。
【0015】
この樹脂液供給手段5は、図示しない樹脂液源に接続され、ホース状の供給部6の先端部が、搬送ローラ3上のシート基材2とドクターナイフ4の刃部4aとの隙間の近傍に配置されている。そして、供給部6の先端部から塗工用樹脂液7を排出するようになっている。
【0016】
本発明の場合、特に限定されることはないが、高粘度の塗工用樹脂液7、特に50〜120Pa・sの塗工用樹脂液7に対し、膜厚が均一で、かつ、表面粗度の小さい樹脂液の塗布を行うことができるものである。
このような塗工用樹脂液7としては、例えば、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含有するバインダーを用いるものがあげられる。
【0017】
本実施の形態においては、例えばドクターナイフ4の内部に配置空間4bが形成され、この配置空間4b内に、例えば抵抗加熱方式のヒータ8が設けられている。このヒータ8は、例えばコンピュータ等を有する温度制御手段9に接続されている。
【0018】
一方、ドクターナイフ4の刃部4aの部位には、この刃部4aの温度を検出する温度センサ10が設けられている。この温度センサ10は、上述した温度制御手段9に接続されている。
このような構成を有する本実施の形態においては、例えば、まずヒータ8を動作させてドクターナイフ4の刃部4aを所定の温度まで加熱させておく。
【0019】
そして、図1に示すように、供給部6の先端部から塗工用樹脂液7を排出するとともに、搬送ローラ3を時計回り方向へ回転させることにより、シート基材2の上側部分2aをシート搬送方向へ搬送させる。
【0020】
これにより、図2及び図3に示すように、搬送ローラ3及びドクターナイフ4のシート搬送方向上流側の表面部分に液溜り7aが形成され、さらに搬送ローラ3を同方向へ回転させることにより、塗工用樹脂液7がドクターナイフ4の刃部4aに接触して所定の厚さに規制され塗布膜20が形成される。
【0021】
この塗布工程の際には、温度センサ10によってドクターナイフ4の刃部4aの温度を検出し、温度センサ10によって得られた結果に基づき温度制御手段9によってヒータ8の動作を制御する。
【0022】
本発明の場合、特に限定されることはないが、塗布むらの発生を確実に防止し、かつ、塗布膜20の表面粗度を小さくする観点からは、ドクターナイフ4の刃部4aの温度を一定に保つことが好ましい。
具体的には、ドクターナイフ4の刃部4aの温度を35℃以上50℃以下、より好ましくは40℃以上50℃以下の範囲で一定に保つように制御することが好ましい。
【0023】
以上述べたように本実施の形態によれば、ドクターナイフ4の刃部4aを加熱させながら搬送ローラ3を回転動作させ、塗工用樹脂液7をドクターナイフ4の刃部4aに接触させてシート基材2を搬送することによって、塗布時に塗工用樹脂液7の粘度が急速に低下して短時間で塗工に適した粘度になるとともに、塗工用樹脂液7の流動性が向上し、その結果、塗布時における膜厚のむらを防止して膜厚の均一性を向上させることができる。
【0024】
さらに、ドクターナイフ4の刃部4aの温度を検出し、その結果に基づいてヒータ8の動作を制御することにより、塗布時において塗工用樹脂液7の温度を一定に保つことができるので、塗布膜20の表面粗度を小さくすることができる。
【0025】
特に本実施の形態では、ドクターナイフ4の刃部4aに直接塗工用樹脂液7が接触するため、塗工用樹脂液7の温度を精度良く一定に保つことができ、これにより塗布膜20の表面粗度を小さくすることができる。
【0026】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、搬送ローラ3の上方にドクターナイフ4を配置するようにしたが、本発明はこれに限られず、搬送ローラ3とドクターナイフ4の上下関係を逆にすることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を比較例とともに詳細に説明する。
【0028】
[塗工用樹脂液の調製]
バインダーとしてエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製 EP828)30重量部、アクリル樹脂(東亜合成社製 TO−1463)30重量部、エポキシ硬化剤(旭化成社製 HX3941HP)25重量部、導電性粒子(積水化学社製 AUL:平均粒径5μm)10重量部を、溶剤としてトルエンを用いてミキサーで溶解混合させ、ペースト状の塗工用樹脂液を調製した。
この塗工用樹脂液の粘度は、60Pa・sであった。
【0029】
<実施例1、比較例1〜3:ドクターナイフ加熱>
図1に示す塗布装置を用い、ドクターナイフの刃部の温度を30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃に保持した状態で、厚さ50μmのPETフィルム上に、上記塗工用樹脂液を塗布して異方導電性接着フィルムを形成した。
この場合、PETフィルム表面とドクターナイフの刃部との間の間隔は、30μmとなるように設定した。
【0030】
[塗布外観観察]
各異方導電性接着フィルムの外観を、塗工膜上方の照明装置の映り込み状態を目視で観察することによって膜厚のむらを評価した。その結果を表1に示す。
【0031】
ここでは、映り込みによって照明装置がはっきり認識できたものを「◎」、映り込みによって照明装置が認識できたものを「○」、映り込みによって照明装置が認識できなかったものを「△」、膜厚にむらが発生したと確認されたものを「×」とした。
【0032】
[表面粗度測定]
距離測定機能を有する顕微鏡(キーエンス社 VHX−200)を用い、倍率300倍に設定し、例えば図4に示すように、各異方導電性接着フィルムの凸部頂部間の粗度ピッチを測定しこれを表面粗度とした。その結果を表1に示す。
なお、図4に示す粗度ピッチPと塗布厚さTとの間には、正の相関関係があることが広く知られている。
【0033】
【表1】

【0034】
<比較例4〜10:搬送ローラ加熱>
図1に示す塗布装置を用い、搬送ローラの温度を30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃に保持した状態で、PETフィルム上に、上記塗工用樹脂液を塗布して異方導電性接着フィルムを形成した。
【0035】
この場合、PETフィルム表面とドクターナイフの刃部との間の間隔は、ドクターナイフ加熱の場合と同様に設定した。
【0036】
[塗布外観観察]
各異方導電性接着フィルムの外観を、ドクターナイフ加熱の場合と同様の手法により観察して評価した。その結果を表2に示す。
【0037】
[表面粗度測定]
ドクターナイフ加熱の場合と同様の手法により、各異方導電性接着フィルムの凸部間の粗度ピッチを測定しこれを表面粗度とした。その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
<比較例11〜17:塗工用樹脂液加熱>
図1に示す塗布装置を用い、上記塗工用樹脂液の温度をヒータで30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃に直接加熱して供給し、PETフィルム上に異方導電性接着フィルムを形成した。
この場合、PETフィルム表面とドクターナイフの刃部との間の間隔は、ドクターナイフ加熱の場合と同様に設定した。
【0040】
[塗布外観観察]
各異方導電性接着フィルムの外観を、ドクターナイフ加熱の場合と同様の手法により観察して評価した。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
[評価結果]
<ドクターナイフ加熱>
表1から明らかなように、ドクターナイフの刃部の温度を35〜50℃に設定した実施例1〜実施例4については、塗布外観が良好で塗布むらのない塗布を行うことができた。
これに対し、ドクターナイフの刃部の温度が低い(30℃)比較例1の場合は塗布外観に向上は見られなかった。
【0043】
また、ドクターナイフの刃部の温度が高い(55℃、60℃)比較例2、3については、周期的な膜厚のむら(横スジ)が発生した。
一方、表面粗度については、実施例1〜実施例4の場合は60〜130μmであり、比較例1〜3の場合に比べて50μm以上小さい結果が得られた。
【0044】
<搬送ローラ加熱>
表2から明らかなように、搬送ローラの温度を30〜60℃の間で変化させた場合であっても、塗布外観に向上は見られなかった。特に搬送ローラの温度を40℃以上にした比較例6については、膜厚に周期的なむら(横スジ)が発生した。
この原因は、搬送ローラの回転軸部分及び外周部分が熱によって膨張することにあると推測される。
【0045】
また、表面粗度については、実施例1〜4に比べて最低70μm以上大きく、実施例1〜4に対応する35℃〜50の範囲では、実施例1〜4に対して100μmを超える結果となった。
【0046】
<塗工用樹脂液加熱>
表2から明らかなように、塗工用樹脂液の温度を30〜60℃の間で変化させた場合であっても、塗布外観に向上は見られなかった。
さらに、塗工用樹脂液の加熱部分に結露が発生して塗工用樹脂液に水分が混入する場合が生じ、実用上問題が生じた。
以上の結果より、本発明の効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る塗布装置の実施の形態の外観構成を示す正面図である。
【図2】本発明による作用を説明するための図である(その1)。
【図3】本発明による作用を説明するための図である(その2)。
【図4】表面粗度の測定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0048】
1…塗布装置
2…シート基材
3…搬送ローラ
4…ドクターナイフ
4a…刃部
5…樹脂液供給手段
6…供給部
7…塗工用樹脂液
8…ヒータ
9…温度制御手段
10…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工用樹脂液が塗布されるシート基材を支持して搬送する搬送ローラと、
前記搬送ローラに近接配置される金属製のドクターナイフと、
前記搬送ローラと前記ドクターナイフの刃部との隙間に前記塗工用樹脂液を供給する樹脂液供給手段と、
前記ドクターナイフの刃部を加熱するヒータと、
前記ドクターナイフの刃部の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによって得られた結果に基づいて前記ヒータの動作を制御する温度制御手段とを有する塗布装置。
【請求項2】
前記ドクターナイフは、当該ドクターナイフの刃部と一体的に形成された本体部を有し、当該本体部内に前記ヒータが設けられている請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の塗布装置を用いた塗工用樹脂液の塗布方法であって、
前記搬送ローラと前記ドクターナイフの刃部との隙間に前記塗工用樹脂液を供給しつつ、前記ドクターナイフの刃部を加熱させながら前記搬送ローラを動作させ、当該塗工用樹脂液を前記ドクターナイフの刃部に接触させて前記シート基材を搬送する工程を有する塗工用樹脂液の塗布方法。
【請求項4】
前記ドクターナイフの刃部を35℃以上50℃以下に加熱する請求項3記載の塗工用樹脂液の塗布方法。
【請求項5】
前記塗工用樹脂液が、バインダー中に導電性粒子を含有している請求項3又は4のいずれか1項記載の塗工用樹脂液の塗布方法。
【請求項6】
前記塗工用樹脂液が、バインダーとしてエポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含有する請求項5記載の塗工用樹脂液の塗布方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6記載の方法によって塗工膜が形成された異方導電性接着フィルム。
【請求項8】
表面粗度が60μm以上130μm以下である請求項7記載の異方導電性接着フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−29773(P2010−29773A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193813(P2008−193813)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】