説明

塗料の塗布方法及び塗布装置

【課題】 塗料を塗布する際、被塗物の表面温度が変化した場合でも簡易な構成によりタレや肌不良等を生じさせることなく、安定した塗膜を形成できるようにする。
【解決手段】 回転霧化頭6から吹出される塗料の噴霧パターンをシェーピングエアSで規制するような回転霧化式塗装装置4において、被塗物(車体)の表面温度を非接触式の被塗物温度センサ15で検出し、検出した温度が所定温度より低い場合は、エア供給配管12を通してシェーピングエアSとして供給されるエアをヒータ16で加温し、検出した温度が所定温度より高い場合は、エア供給配管12を通してシェーピングエアSとして供給されるエアに霧化器18で霧化した塗料溶剤を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車車体に塗装する際、タレや肌不良を生じることがなく安定した塗膜を形成できる塗料の塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車車体の中塗塗装や上塗塗装は、通常、塗装ブース内においてスプレーガンやエアレススプレーガンや静電塗装装置等により塗料を吹き付けることにより行われている。この際、噴霧された塗料は、霧化用空気により微粒化され、空気中で揮発成分を蒸発させながら被塗物に塗着し、ウェット塗膜を形成する。そして、ウェット塗膜は、内部の揮発成分が蒸発して乾燥塗膜となるが、ウェット塗膜の粘度は、塗着した塗料中の不揮発成分濃度(塗着NV)(=不揮発成分質量/(揮発成分質量+不揮発成分質量)×100)が高いほど高くなり、またウェット塗膜の塗着NVは、塗装時に塗着するまでに空気中で蒸発する揮発成分の蒸発量に左右される。
ここで、不揮発成分とは、塗膜を形成する成分で、顔料や樹脂などであり、揮発成分とは、有機溶剤型塗料の場合は主にシンナーで、水性塗料の場合は水である。
【0003】
一方、乾燥塗膜の外観品質は、塗装時や、セッティング時(塗装後、乾燥または焼付け工程までの放置時間)のウェット塗膜の流動性(粘度)と、塗料から蒸発する揮発成分の蒸発量に大きく左右され、また、塗装時の揮発成分の蒸発量は、通常、塗装雰囲気に左右されることから、塗装ブース内は温度や湿度を適性に保持する空調がなされて塗装時の揮発成分の蒸発量は適切に制御されている。そして、塗装に用いられる塗料中の不揮発成分と揮発成分の割合は、塗装雰囲気(温度・湿度)条件や要求塗膜厚み等に適したNV値に予め調合されており、この調合は、被塗物の表面温度を25度に想定して行われている。すなわち、被塗物の表面温度が25度で塗装を行うと、最適な流動性(粘度)を得ることができるが、例えばウェット塗膜の粘度が基準より低くて流動性が高まると、乾燥塗膜にタレを生じやすくなり、逆にウェット塗膜の粘度が基準より高くて流動性が悪くなると、乾燥塗膜に隠蔽不足や肌不良が生じやすくなる。
【0004】
この際、塗装ブース内の温度や湿度等に変動があった場合でも、噴霧直後から被塗物に塗着するまでの間に塗料中に含まれる揮発成分の蒸発量を調整するような技術が知られており(例えば、特許文献1参照。)、この技術では、塗装機のパターン形成エアの温度を調整することにより、被塗物に塗着した塗料の不揮発成分の割合を所望の値に調整するようにしている。
また、水性塗料の塗装にあたり、常温より高い被塗物の塗膜のレベリング性を平滑にするため、塗装ブース内の相対湿度を75%以上に設定するような技術も知られている。(例えば、特許文献2参照。)
【特許文献1】特開平9−38528号公報
【特許文献2】特開昭52−87434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被塗物が車両車体のように、中塗塗装を施した後ストレージで待機させられ、その後、上塗塗装を施すような工程が行われる場合、車体の表面温度は、ストレージでの経過時間によって変動する。これは、ストレージ内は、外気温に連動して温度や湿度が精密に制御される空調がなされていないため、季節や塗装時間帯による外気温の影響を受けるからであり、特に休憩時間や休日のライン停止時においては、ストレージ内に車体が長時間待機させられるため、ストレージ内の温度変動に伴い車体の表面温度が大きく変動する。
【0006】
そして、塗装ブース内の塗装雰囲気(温度・湿度)が適性に制御されていても、車体の表面温度に変動があった場合、車体表面に塗着したウェット塗膜中の揮発成分の蒸発量が変動し、塗膜のタレや肌不良が生じる問題がある。すなわち、例えば冬場などにおいて車体の表面温度が低下し、塗装ブース内に搬送された車体の表面温度が25度以下である場合、被塗物に塗着したウェット塗膜中の揮発成分の蒸発が困難となって粘度が低下するとともに流動性が高まり、乾燥塗膜にタレが生じやすくなり、逆に、夏場などにおいて車体の表面温度が25度以上になると、被塗物に塗着したウェット塗膜の蒸発が激しくなって粘度が増加するとともに流動性が悪くなり、乾燥塗膜に肌不良が生じやすくなる。そして、特に、有機剤塗料に較べて水性塗料では溶剤の大半が水であるため、塗着時の揮発成分の蒸発速度が遅く、上記問題が顕著となる。
【0007】
ここで、前記特許文献1の技術では、被塗物の表面温度が変動した場合に不揮発成分の調整を行うような技術ではないため、被塗物の表面温度が所定値以外の場合、所定の温度になるまで塗装を行うことができない。
また、前記特許文献2の技術の場合、被塗物表面の温度変化に対応して塗装ブース全体の湿度を制御しなければならず、多大な空調エネルギーが必要になるという問題がある。
そこで本発明は、被塗物の表面温度が変化した場合でも簡易な構成によりタレや肌不良等を生じさせることなく、安定した塗膜を形成できる塗料の塗布技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の第1の塗布方法は、塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法において、事前に前記被塗物の表面温度を検出し、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度またはパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整して塗料を噴出させるとともに、このパターン形成エアの温度またはパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整する際は、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアに塗料の溶剤を霧化して加えるようにした。
【0009】
そして、表面温度が所定温度以下の場合、そのままでは揮発成分の蒸発が困難となり、ウェット塗膜の流動性が高まってタレが生じやすくなるため、パターン形成エアを加温することにより、揮発成分の蒸発を促進し、塗料が塗装面に塗着したときの揮発成分の割合を低くして(塗着NVを高くして)塗料のタレを防止する。
また、表面温度が所定温度以上の場合、そのままでは揮発成分の蒸発が激しくて、ウェット塗膜の流動性が低下して肌不良を生じやすくなるため、パターン形成エアに塗料の溶剤を霧化して加えることにより揮発成分の蒸発を抑制し、塗料が塗装面に塗着したときの揮発成分の割合を高くして(塗着NVを低くして)塗膜の肌不良などを防止する。ここで、塗料の溶剤としては、水性塗料の場合は水で、有機溶剤型塗料の場合は、有機溶剤である。
そして、このように被塗物の表面温度によって、パターン形成エアの温度を加温するか、パターン形成エアに対し塗料の溶剤を霧化して加えることにより、安定した塗膜の形成が可能になり、しかも装置構成を簡素化することができる。
【0010】
また、本発明の第2の塗布方法としては、塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法において、事前に前記被塗物の表面温度を検出し、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度を調整して塗料を噴出させるとともに、このパターン形成エアの温度を調整する際は、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアを冷却するようにした。
このように、被塗物の表面温度に基づいてパターン形成エアの温度を加温または冷却しても、前記と同様の効果が得られる。
【0011】
また本発明の第3の塗布方法では、塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法において、事前に前記被塗物の表面温度を検出し、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度、またはパターン形成エアの温度とパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度とを調整して塗料を噴出させるとともに、このパターン形成エアの温度、またはパターン形成エアの温度とパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度とを調整する際には、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアを冷却するとともに塗料の溶剤を霧化して加えるようにした。
このように、被塗物の表面温度が所定温度以上の場合、パターン形成エアの冷却と、塗料霧化溶剤濃度の調整を併用することにより、エアを冷却するだけに較べて熱交換器等の工業用水の使用量が削減され、エネルギー効率を高めることができる。
【0012】
また本発明では、前記被塗物の表面温度の検出を、被塗物に対して非接触状態で行うようにした。
このように被塗物に非接触で表面温度を検出すれば、被塗物の表面に傷付けるような不具合を防止できる。
【0013】
そして、装置構成としては、第1、第3の塗布方法においては、被塗物の表面温度を検出することのできる検出手段と、パターン形成エアの温度を調整することのできる温度調整手段と、パターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整することのできる塗料霧化溶剤濃度調整手段と、前記温度調整手段や塗料霧化溶剤濃度調整手段を制御することのできる制御手段を設け、第2の塗布方法においては、被塗物の表面温度を検出することのできる検出手段と、パターン形成エアの温度を調整することのできる温度調整手段と、温度調整手段を制御することのできる制御手段を設ける。
【発明の効果】
【0014】
被塗物の表面温度を検出し、この表面温度に基づいてパターン形成エアの温度やパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整することにより、塗着時の塗料の揮発成分の割合が表面温度に適した値に変更され、塗膜のタレや肌不良を生じるような不具合がなくなって、安定した塗膜の形成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は本発明の第1の塗布方法に係る塗布装置の概要を示す説明図、図2は塗装機のシェーピングエアノズル部の拡大図、図3は本発明の第2の塗布方法に係る塗布装置の説明図、図4は本発明の第3の塗布方法に係る塗布装置の説明図である。
【0016】
本発明に係る塗料の塗布技術は、被塗物の表面温度が変化した場合でも簡易な構成によりタレや肌不良等を生じさせることなく、安定した塗膜を形成できるようにされ、実施例では、車両の上塗塗装において、静電塗装装置を用いた水性塗料の塗布装置に適用されている。
【0017】
自動車製造工場における車体の塗装ラインの一例は、電着塗装などの下塗塗装を終えた車体に中塗塗装を施した後、図1に示す中塗乾燥炉1で乾燥させ、その後、車体を、下流のストレージ2に投入して車体を塗装に適した温度に低下させ、更に下流の上塗塗装ブース3に投入して上塗塗装を施すような構成である。
【0018】
そして、前記ストレージ2において、車体表面温度を下げて25度程度にするようにしているが、ストレージ内は外気温に連動した空調の制御がなされていないため、外気温の変動を受けてストレージ内の温度も変動し、それに伴って車体の表面温度も変化する。
【0019】
一方、上塗塗装ブース3内は、温度、湿度を適切に制御する空調がなされており、また、ブース3内には、車体に塗料を噴霧する回転霧化式塗装装置4が配設されている。
この回転霧化式塗装装置4は、図2にも示すように、塗装機本体5の前面中央部に設けられ且つ不図示の回転軸によって高速回転させられることにより塗料を塗料粒子として噴霧させる回転霧化頭6と、塗装機本体5の前面周縁部に回転霧化頭6を囲繞するように設けられるシェーピングエアノズル7を備えており、このシェーピングエアノズル7は、外側リング7aと、内側リング7bと、両リング7a、7b間のエア供給路7cと、エア供給路7c先端の環状ノズル部7dから構成されている。
【0020】
そして、エア供給路7cを介して供給したエアが環状ノズル部7dからシェーピングエアS(パターン形成エア)として吹出されるようにしており、このシェーピングエアSによって、回転霧化頭6から噴霧される塗料粒子の噴霧パターンを形成するようにされている。
なお、塗装機本体5は−60〜90kvに帯電されている。
【0021】
また、図1に示すように、回転霧化頭6は、塗料供給配管8を介して塗料タンク9に接続されており、塗装機本体5は、高電圧ケーブル10を介して高電圧発生装置11に接続されている。なお、塗料タンク9内の塗料のNV値は、車体の表面温度が25度の場合に最適な値に予め調合されている。
更に、シェーピングエアノズル7のエア供給路7cには、エア供給配管12が接続されており、このエア供給配管12は加圧エア源13に接続されている。
【0022】
このため、図2の白抜き矢印のように塗料を回転霧化頭6に供給すると、塗料は高速回転する回転霧化頭6の表面に沿って外側に広がり、遠心力の作用で塗料粒子となって噴霧されるとともに、環状ノズル部7dから吹出されるシェーピングエアSによって噴霧パターンが規制され、マイナス電荷を帯びた塗料粒子は、プラスに帯電される車体表面に対し静電吸引力の作用で塗着する。
【0023】
ところで、図1に示す本発明の第1の塗布方法に係る装置構成では、シェーピングエアノズル7と加圧エア源13とを結ぶエア供給配管12に、ストレージ2内の車体の表面温度に応じてシェーピングエアSの温度と塗料霧化溶剤濃度を調整する温度・塗料霧化溶剤濃度調整手段14が設けられている。
【0024】
この温度・塗料霧化溶剤濃度調整手段14は、ストレージ2内の車体の温度を非接触で検出する被塗物温度センサ15と、検出した車体の表面温度が所定温度(25度)以下であった場合にシェーピングエアSを加温するヒータ16と、該ヒータ16で加温したシェーピングエアSの温度を検出する温度センサ17と、車体の表面温度が所定温度(25度)以上であった場合にパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整するための霧化器18と、該霧化器18で濃度調整されたシェーピングエアS中の霧化溶剤濃度を測定する濃度測定センサ19と、これらを制御するコントロールユニット20から構成されている。
【0025】
そしてコントロールユニット20は、被塗物温度センサ15から入力される温度に基づいて、ヒータ16及び霧化器18をオン、オフ制御するとともに、温度センサ17や濃度測定センサ19から入力されるシェーピングエアSの温度、霧化溶剤濃度に基づいて、ヒータ16や霧化器18の制御部に制御信号を出力し、フィードバック制御することによりシェービングエアSの温度や霧化溶剤濃度を適切に制御するものである。
【0026】
次に、以上のような回転霧化式塗装装置4を使用した塗料の第1の塗布方法について説明する。
ストレージ2から塗装ブース3に搬送される直前の車体の表面温度を被塗物温度センサ15が検出し、その検出結果が温度・塗料霧化溶剤濃度調整手段14のコントローラ20に入力される。
【0027】
コントローラ20は、前記検出結果に基づき、例えば、検出温度が所定温度(25度)以下であった場合、ヒータ16をオンに、霧化器18をオフに作動させる。
そして、車体が塗装ブース3内に搬送されると、塗装が行われる。
すなわち、塗料タンク9内の塗料を回転霧化頭6に供給するとともに、加圧エア源13から供給される圧縮空気をヒータ16で加温し、加温した圧縮空気を環状ノズル部7dからシェーピングエアSとして吹出させて塗料粒子の周囲を規制し塗料噴霧パターンを形成する。
【0028】
この際、シェーピングエアSはヒータ16で加温されているため、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が促進され、塗料が車体表面に塗着したときの揮発成分の割合が低くなり(塗着NVが高くなる)、車体表面温度が低温であることに起因する塗料のタレが防止される。
【0029】
一方、被塗物温度センサ15からコントローラ20に入力された検出温度が所定温度(25度)以上であった場合、ヒータ16がオフに、霧化器18がオンにされた後、車体が塗装ブース3内に搬送されて塗装が行われる。
すなわち、塗料タンク9内の塗料を回転霧化頭6に供給するとともに、加圧エア源13から供給される圧縮空気に霧化器18で塗料溶剤を霧化して加え、霧化濃度を調整した圧縮空気を環状ノズル部7dからシェーピングエアSとして吹出させて塗料粒子の周囲を規制し塗料噴霧パターンを形成する。
【0030】
この際、シェピングエアS中には霧化器18によって霧化溶剤が加えられているため、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が抑制され、塗料が車体表面に塗着したときの揮発成分の割合が高くなり(塗着NVが低くなる)、車体から揮発成分が多く蒸発しても、ウェット塗膜の流動性は適性となり、塗膜の肌不良が防止される。すなわち、車体表面温度が高温である場合、塗着時のウェット塗膜からの揮発成分の蒸発が激しくなるため、予め塗装時に塗着NVを低く調整して、ウェット塗膜の流動性を確保している。
【0031】
そして、被塗物温度センサ15からコントローラ20に入力された検出温度が所定温度(25度)である場合、ヒータ16や霧化器18共にオフとなり、通常のシェーピングエアSが環状ノズル部7dから吹出されて塗装が行われる。
以上のような要領により、被塗物の表面温度が変動しても、それを検出してシェーピングエアSの温度や霧化溶剤濃度を調整して塗料を塗布するため、塗膜のタレや肌不良を生じることなく、安定した塗膜を形成することができる。
この際、使用される塗料は、溶剤型塗料や水性塗料などに特に限定されない。
【0032】
次に、本発明の塗布方法の第2の方法について図3に基づき説明する。
この装置では、図3に示すように、シェーピングエアノズル7と加圧エア源13とを結ぶエア供給配管12に、エアの温度を加温または冷却することのできる熱交換器21を配設しており、この熱交換器21のヒータ21aを作動させるとエアの温度を上昇させることができ、冷却部21bを作動させるとエアの温度を下げることができるようにされている。
【0033】
そして、コントローラ20で検出した温度(被塗物の表面温度)が所定温度(25度)以下であった場合、熱交換器21のヒータ21aをオンに、冷却部21bをオフに作動させる。すると、シェーピングエアSはヒータ21aで加温され、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が促進されて塗着NVが高くなり、車体表面温度が低温であることに起因する塗料のタレが防止される。
また、コントローラ20の検出温度(被塗物の表面温度)が所定温度(25度)以上であった場合、熱交換器21のヒータ21aをオフに、冷却部21bをオンに作動させる。すると、シェーピングエアSは冷却部21bによって冷却され、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が抑制されて塗着NVが低くなり、車体表面温度が高温であることに起因する肌不良の不具合が防止される。
【0034】
次に、本発明の塗布方法の第3の方法について図4に基づき説明する。
この装置では、図4に示すように、シェーピングエアノズル7と加圧エア源13とを結ぶエア供給配管12に、ストレージ2内の車体の表面温度に応じてシェーピングエアSの温度と塗料霧化溶剤濃度を調整する温度・塗料霧化溶剤濃度調整手段14が設けられており、この温度・塗料霧化溶剤濃度調整手段14は、第1の塗布方法に係る図1のヒータ16の代わりに、エアの加温、冷却が可能な熱交換器21を備えている点を除いて、その他の構成は図1と同じである。そして、この熱交換器21には、エアを加温することができるヒータ21aと、エアを冷却することのできる冷却部21bが設けられている。
【0035】
そして、コントローラ20で検出した温度(被塗物の表面温度)が所定温度(25度)以下であった場合、熱交換器21のヒータ21aをオンに、冷却部21bをオフに作動させると、シェーピングエアSはヒータ21aで加温され、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が促進されて塗着NVが高くなり、車体表面温度が低温であることに起因する塗料のタレが防止される。
また、コントローラ20の検出温度(被塗物の表面温度)が所定温度(25度)以上であった場合、熱交換器21のヒータ21aをオフに、冷却部21bをオンに作動させるとともに、噴霧器18をオンに作動させる。すると、シェーピングエアSは冷却部21bによって冷却されると同時に、エア中に霧化器18によって霧化された溶剤が加えられ、噴霧直後から車体に塗着するまでの塗料粒子の飛来中に揮発成分の蒸発が抑制されて塗着NVが低くなり、車体表面温度が高温であることに起因する肌不良の不具合が防止される。この際、熱交換器21と噴霧器18を併用することにより、熱交換器21に用いられる冷却用工業用水に使用量が削減され、エネルギー効率が向上する。
【0036】
以上のような各種方法によって、車体に塗装する際、車体の表面温度が多少変化してもタレや肌不良等の不具合が生じるのを効果的に防止できる。
【0037】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば塗装機は、スプレーガン、エアレススプレーガン、静電塗装装置などに限定されず、また、上塗塗装以外に中塗塗装にも適用できる。
更に、被塗物の種類等も任意であり、有機溶剤型塗料を塗布する場合は、シンナーを霧化して加えることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
被塗物に塗料を塗布する際、被塗物の表面温度を検出してパターン形成エアの温度や、パターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整することにより、塗膜のタレや肌不良などの不具合を防止して安定した塗膜を形成することができる。この際、パターン形成エアの温度や塗料霧化溶剤濃度の調整だけで済むため、設備構成は簡素である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の塗布方法に係る塗布装置の概要を示す説明図
【図2】塗装機のシェーピングエアノズル部の拡大図
【図3】本発明の第2の塗布方法に係る塗布装置の概要を示す説明図
【図4】本発明の第3の塗布方法に係る塗布装置の概要を示す説明図
【符号の説明】
【0040】
4…回転霧化式塗装装置、5…塗装機本体、7…シェーピングエアノズル、13…エア源、15…被塗物温度センサ、16…ヒータ、18…霧化器、21…熱交換器、21a…ヒータ、21b…冷却部、20…コントローラ、S…シェーピングエア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法であって、事前に前記被塗物の表面温度を検出する工程と、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度またはパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整して塗料を噴出させる工程を備え、このパターン形成エアの温度またはパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整する工程では、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアに塗料の溶剤を霧化して加えることを特徴とする塗料の塗布方法。
【請求項2】
塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法であって、事前に前記被塗物の表面温度を検出する工程と、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度を調整して塗料を噴出させる工程を備え、このパターン形成エアの温度を調整する工程では、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアを冷却することを特徴とする塗料の塗布方法。
【請求項3】
塗装機から被塗物に向けて塗料を噴出させる際、パターン形成エアで所定の塗料噴霧パターンに規制しつつ塗布する方法であって、事前に前記被塗物の表面温度を検出する工程と、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアの温度、またはパターン形成エアの温度とパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度とを調整して塗料を噴出させる工程を備え、このパターン形成エアの温度、またはパターン形成エアの温度とパターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整する工程では、検出した表面温度が所定温度以下であった場合、パターン形成エアを加温し、検出した表面温度が所定温度以上であった場合、パターン形成エアを冷却するとともに塗料の溶剤を霧化して加えることを特徴とする塗料の塗布方法。
【請求項4】
前記被塗物の表面温度の検出は、被塗物に対して非接触状態で行われることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の塗料の塗布方法。
【請求項5】
パターン形成エアにより所定の噴霧パターンで被塗物に向けて塗料を吹付け塗布することのできる塗装機を備えた塗装装置であって、前記被塗物の表面温度を検出することのできる検出手段と、パターン形成エアの温度を調整することのできる温度調整手段と、パターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整することのできる塗料霧化溶剤濃度調整手段と、前記温度調整手段と塗料霧化溶剤濃度調整手段とを制御することの出来る制御手段を備え、この制御手段は、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアを加温するか、または塗料の溶剤を霧化して加えるようにされることを特徴とする塗料の塗布装置。
【請求項6】
パターン形成エアにより所定の噴霧パターンで被塗物に向けて塗料を吹付け塗布することのできる塗装機を備えた塗装装置であって、前記被塗物の表面温度を検出することのできる検出手段と、パターン形成エアの温度を調整することのできる温度調整手段と、パターン形成エアの温度を制御することのできる制御手段を備え、この制御手段は、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアを加温または冷却することを特徴とする塗料の塗布装置。
【請求項7】
パターン形成エアにより所定の噴霧パターンで被塗物に向けて塗料を吹付け塗布することのできる塗装機を備えた塗装装置であって、前記被塗物の表面温度を検出することのできる検出手段と、パターン形成エアの温度を調整することのできる温度調整手段と、パターン形成エア中の塗料霧化溶剤濃度を調整することのできる塗料霧化溶剤濃度調整手段と、前記温度調整手段と塗料霧化溶剤濃度調整手段とを制御することの出来る制御手段を備え、この制御手段は、検出した表面温度に基づいて前記パターン形成エアを加温するか、またはパターン形成エアを冷却するとともに塗料の溶剤を霧化して加えるようにされることを特徴とする塗料の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−326460(P2006−326460A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152441(P2005−152441)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】