説明

塗膜形成装置及び塗膜形成方法

【課題】安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能な塗膜形成装置及び塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材2に塗布した塗工液を乾燥させる乾燥炉12を備え、搬送されてくる基材2に塗工液からなる塗膜を形成する塗膜形成装置1であって、基材2に対し、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する幅方向張力付与部14を備え、幅方向張力付与部14を、乾燥炉12よりも下流に配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールツーロール方式のウェットコーティング法において、乾燥時の熱負荷により帯状の基材に形成した塗膜に発生する皺を減少させて、品質の良い塗膜を得るための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム基材等、帯状の基材に塗膜を形成する塗膜形成方法としては、例えば、ウェットコーティング法がある。
ウェットコーティング法としては、ロールコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法等があり、建築、自動車、日用品等の分野において、紫外線カット、反射防止、帯電防止、撥水等、多くの機能を付与する目的で用いられている。
【0003】
また、フィルム基材等の長尺である帯状の基材を搬送する手段としては、テンションコントロールにより搬送することで連続塗工を可能にして、生産性優位を持つ方式である、ロールツーロール方式がある。
以上の点から、これらの2つを組み合わせた、ロールツーロール方式のウェットコーティング法は、機能性の塗膜を量産する目的で、一般的に使用されている。
【0004】
しかしながら、ロールツーロール方式のウェットコーティング法では、塗膜を加熱乾燥する工程において、乾燥温度や基材に付与するテンションが、適切な条件から外れることで、基材に皺が発生してしまう。なお、基材に発生する皺は、主に、基材の搬送方向への皺(縦皺)である。
基材に皺が発生すると、積層や両面塗工の場合における均一塗工が阻害されるとともに、製品への加工時に欠陥となる。
【0005】
この問題に対し、従来では、基材の皺を防止する手段として、特許文献1や特許文献2に記載の方法が提案されている。
特許文献1に記載の方法は、塗工ガイドロールに溝状の加工を施して、基材に発生した皺を伸ばす方法である。
また、特許文献2に記載の方法は、塗工ガイドロールの形状を、中央部の外径が大きく、中央部から端へ向かうにつれて、塗工ガイドロールの外径を減少させた形状にする方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−320766号公報
【特許文献2】特開2000−51767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載した方法では、塗工ガイドロールが基材に接することで、基材にダメージを与えてしまうという問題が発生するおそれがある。
本発明は、製品の加工時等に欠陥となる基材の皺を軽減させて、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能な、塗膜形成装置及び塗膜形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材に塗布した塗工液を乾燥させる乾燥炉を備え、搬送されてくる前記基材に前記塗工液からなる塗膜を形成する塗膜形成装置であって、
前記乾燥炉で前記塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度をtとし、前記基材に付与される張力をwとし、前記基材の厚さをdとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0009】
【数1】

【0010】
本発明によると、乾燥炉で塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度t、基材に付与される張力w、基材の厚さdを、それぞれ、上記の式が成立する値とすることにより、基材に発生する皺を軽減することが可能となる。
【0011】
このため、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0012】
【数2】

【0013】
本発明によると、乾燥炉で塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度t、基材に付与される張力w、基材の厚さdを、上記の式が成立する値とすることにより、請求項1に記載した発明と比較して、基材に発生する皺を、更に軽減することが可能となる。
このため、請求項1に記載した発明と比較して、更に、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与する幅方向張力付与部を備え、
前記幅方向張力付与部を、前記乾燥炉よりも下流に配置したことを特徴とするものである。
【0015】
本発明によると、基材の搬送方向へ付与される張力により、乾燥温度や基材に付与するテンションが適切な条件から外れることで基材に発生する、基材の搬送方向への皺を、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することにより、伸長させることが可能となる。
このため、基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0016】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記乾燥炉は、前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷ゾーンを備え、
前記幅方向張力付与部を、前記除冷ゾーンに配置し、
前記除冷ゾーンにおいて前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、前記基材のガラス転移点以下の温度としたことを特徴とするものである。
【0017】
本発明によると、塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、基材のガラス転移点以下の温度とすることにより、基材の皺が伸ばされた状態で、基材形状の固定化をすることが可能となる。
このため、基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0018】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項3または4に記載した発明であって、前記幅方向張力付与部は、前記基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを備えることを特徴とするものである。
本発明によると、幅方向張力付与部が、基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを備えているため、搬送される基材に対して、簡便に、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
このため、搬送される基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0019】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項3から5のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記幅方向張力付与部は、前記基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を備えることを特徴とするものである。
【0020】
本発明によると、幅方向張力付与部が、基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を備えているため、搬送される基材に対して、幅方向張力付与部を平行に移動させることが可能となり、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
このため、搬送される基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0021】
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項3から6のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記基材の搬送方向と直交する方向への張力をWtとし、前記基材の厚さの変化率をd/d0とし、前記基材の搬送方向への張力をWmとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0022】
【数3】

【0023】
本発明によると、基材の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材の厚さの変化率d/d0、基材の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式が成立する値とすることにより、基材に発生する皺を軽減することが可能となる。
【0024】
このため、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
次に、本発明のうち、請求項8に記載した発明は、張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材に塗布した塗工液を乾燥させて、搬送されてくる前記基材に前記塗工液からなる塗膜を形成する塗膜形成方法であって、
前記塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度をtとし、前記基材に付与される張力をwとし、前記基材の厚さをdとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0025】
【数4】

【0026】
本発明によると、乾燥炉で塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度t、基材に付与される張力w、基材の厚さdを、それぞれ、上記の式が成立する値とすることにより、基材に発生する皺を軽減することが可能となる。
【0027】
このため、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
次に、本発明のうち、請求項9に記載した発明は、請求項8に記載した発明であって、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0028】
【数5】

【0029】
本発明によると、乾燥炉で塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度t、基材に付与される張力w、基材の厚さdを、上記の式が成立する値とすることにより、請求項8に記載した発明と比較して、基材に発生する皺を、更に軽減することが可能となる。
【0030】
このため、請求項8に記載した発明と比較して、更に、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
次に、本発明のうち、請求項10に記載した発明は、請求項8または9に記載した発明であって、前記塗工液を塗布した基材を乾燥させた後に、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とするものである。
【0031】
本発明によると、基材の搬送方向へ付与される張力により、乾燥温度や基材に付与するテンションが適切な条件から外れることで基材に発生する、基材の搬送方向への皺を、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することにより、伸長させることが可能となる。
このため、基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0032】
次に、本発明のうち、請求項11に記載した発明は、請求項10に記載した発明であって、前記塗工液を塗布した基材を乾燥させる工程は、前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷工程を含み、
前記除冷工程において、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与し、
前記除冷工程で前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、前記基材のガラス転位点以下の温度としたことを特徴とするものである。
【0033】
本発明によると、除冷工程において、塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、基材のガラス転移点以下の温度とすることにより、基材の皺が伸ばされた状態で、基材形状の固定化をすることが可能となる。
このため、基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0034】
次に、本発明のうち、請求項12に記載した発明は、請求項10または11に記載した発明であって、前記基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とするものである。
本発明によると、基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、基材に、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与するため、搬送される基材に対して、簡便に、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
【0035】
このため、搬送される基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
次に、本発明のうち、請求項13に記載した発明は、請求項10から12のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とするものである。
【0036】
本発明によると、基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、基材に、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与するため、搬送される基材に対して、幅方向張力付与部を平行に移動させることが可能となり、基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
このため、搬送される基材に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【0037】
次に、本発明のうち、請求項14に記載した発明は、請求項10から13のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記基材の搬送方向と直交する方向への張力をWtとし、前記基材の厚さの変化率をd/d0とし、前記基材の搬送方向への張力をWmとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とするものである。
【0038】
【数6】

【0039】
本発明によると、基材の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材の厚さの変化率d/d0、基材の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式が成立する値とすることにより、基材に発生する皺を軽減することが可能となる。
【0040】
このため、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、製品の加工時等に欠陥となる基材の皺を軽減させて、塗工液からなる塗膜を形成する基材に対し、安定した品質の塗膜を形成した基材を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の塗膜形成装置の概略構成を示す図である。
【図2】幅方向張力付与部の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態の塗膜形成装置1の構成を説明する。
図1は、塗膜形成装置1の概略構成を示す図である。
塗膜形成装置1は、ロールツーロール方式の塗工装置であり、張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材2に、塗工液からなる塗膜を形成する装置である。なお、本実施形態では、基材2が、帯状のフィルムである場合について説明する。
【0044】
また、塗膜形成装置1は、図1中に示すように、巻き出しロール4と、インフィードロール6と、塗工部8と、サポートロール10と、乾燥炉12と、幅方向張力付与部14と、アウトフィードロール16と、巻き取りロール18を備えている。
【0045】
巻き出しロール4は、コイル状に巻き取った基材2を払い出すロールであり、回転可能に形成されている。なお、図1中には、巻き出しロール4から基材2を払い出す方向を、巻き出しロール4からインフィードロール6へ向かう矢印により示している。
インフィードロール6は、巻き出しロール4に巻き取られている基材2を塗工部8へ誘導して搬送するロールであり、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されている。
【0046】
塗工部8は、インフィードロール6から誘導されて搬送されてくる基材2に対し、塗工液を塗布する装置であり、バックアップロール20と、グラビアロール22と、液受けパン24と、送液タンク26と、送液ポンプ28と、循環路30を備えている。なお、塗工液は、基材2の処理に必要な液体であり、本実施形態では、一例として、塗工液が塗料である場合を説明する。
【0047】
バックアップロール20は、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されており、グラビアロール22と共に、インフィードロール6から誘導されて搬送されてくる基材2を厚さ方向から挟持する。
グラビアロール22は、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されている。
また、グラビアロール22は、液受けパン24内に浸漬する位置に配置されており、バックアップロール20と共に、インフィードロール6から誘導されて搬送されてくる基材2を厚さ方向から挟持する際に、液受けパン24内の塗工液を基材2に塗布する。
【0048】
液受けパン24は、上部が開口した容器であり、送液ポンプ28から供給される塗工液を内部に収容する。
また、液受けパン24は、送液タンク26と連通している。
送液タンク26は、塗工液を貯蔵するタンクであり、貯蔵している塗工液を、送液ポンプ28を介して、液受けパン24へ供給する。
【0049】
また、送液タンク26は、必要に応じて、液受けパン24の内部に収容されている塗工液を収容する。なお、液受けパン24の内部に収容されている塗工液を収容する際には、バルブ等を用いて、循環路30のうち、送液タンク26と液受けパン24とを連通している部分を連通させる。
送液ポンプ28は、吸入及び吐出が可能なポンプであり、送液タンク26が貯蔵している塗工液を吸入して、液受けパン24へ吐出する。
【0050】
循環路30は、パイプやチューブ等を用いて形成されており、液受けパン24と、送液タンク26と、送液ポンプ28とを連通して、塗工液の移動経路を形成している。なお、図1中には、送液タンク26から送液ポンプ28、送液ポンプ28から液受けパン24、液受けパン24から送液タンク26へと塗工液が移動する方向を、それぞれ、矢印により示している。
【0051】
以上により、本実施形態の塗工部8には、帯状の基材2に塗膜を形成するウェットコーティング法のうち、ロールコート法を用いている。
サポートロール10は、塗工部8で塗工液を塗布した基材2を乾燥炉12へ誘導して搬送するロールであり、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されている。
乾燥炉12は、サポートロール10から張力を付与されながら搬送されてくる基材2に塗布した塗工液を、乾燥させる装置であり、温度測定用の熱電対(図示せず)を備えている。なお、乾燥炉12における、塗工液の乾燥方法としては、例えば、ロール乾燥やフローティング乾燥を用いるが、塗工液の乾燥方法は、特に限定するものではない。
【0052】
また、乾燥炉12における温度制御は、例えば、熱電対で測定した温度を用いたフィードバック制御により行う。本実施形態では、フィードバック制御による温度制御を、図示しない温度制御手段により行う。なお、温度制御手段が行う温度制御については、後述する。
幅方向張力付与部14は、基材2の搬送方向において、乾燥炉12よりも後方、すなわち、乾燥炉12の下流に配置されている。
【0053】
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、幅方向張力付与部14の詳細な構成を説明する。
図2は、幅方向張力付与部14の概略構成を示す図であり、図2(a)は、幅方向張力付与部14の側面図、図2(b)は、図2(a)のB線矢視図である。なお、図2(a)中では、説明のために、基材2、乾燥炉12、幅方向張力付与部14以外の図示を省略している。同様に、図2(b)中では、説明のために、基材2、幅方向張力付与部14以外の図示を省略している。
【0054】
また、幅方向張力付与部14は、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な、一対のクロスガイダを備えており、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向、すなわち、基材2の幅方向への張力を付与する。なお、基材2の搬送方向とは、図1中で明らかなように、基材2の長手方向である。なお、幅方向張力付与部14が基材2に付与する、基材2の搬送方向と直交する方向への張力は、図示しない幅方向張力制御により制御する。幅方向張力制御による基材2の搬送方向と直交する方向への張力の制御については、後述する。
【0055】
ここで、クロスガイダとは、搬送中のフィルム(基材)に対し、片寄りを自動的に修正可能な装置である。
また、幅方向張力付与部14は、基材2の搬送方向と平行に移動可能な、平行駆動部(図示せず)を備えている。
平行駆動部は、モータ等の駆動部品を備えており、クロスガイダを支持している。これにより、平行駆動部は、クロスガイダを、基材2の搬送方向と平行に移動させることが可能に形成されている。
【0056】
したがって、本実施形態の幅方向張力付与部14は、基材2の搬送方向と平行に移動しながら、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向、すなわち、基材2の幅方向への張力を付与することが可能である。
【0057】
以下、図1を用いた説明に復帰する。
アウトフィードロール16は、幅方向張力付与部14で基材2の幅方向への張力を付与した基材2を、巻き取りロール18へ誘導して搬送するロールであり、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されている。
【0058】
巻き取りロール18は、アウトフィードロール16から誘導されて搬送されてくる基材2をコイル状に巻き取るロールであり、巻き出しロール4と同様、回転可能に形成されている。
なお、本実施形態では、搬送されてくる基材2に張力を付与する制御を、巻き出しロール4、インフィードロール6、サポートロール10、アウトフィードロール16及び巻き取りロール18の回転状態を制御する搬送張力制御手段(図示せず)により行う。
【0059】
以下、温度制御手段、搬送張力制御手段及び幅方向張力制御が行う制御について説明する。
温度制御手段、搬送張力制御手段及び幅方向張力制御は、パーソナルコンピュータ等の演算装置を備えて形成されており、基材2に付与する張力を制御する。
温度制御手段は、搬送張力制御手段から、基材2に付与する張力を含む情報信号を取得可能であるとともに、搬送張力制御手段へ、乾燥炉12内の温度を含む情報信号を出力可能に形成されている。
【0060】
搬送張力制御手段は、温度制御手段から、乾燥炉12内の温度を含む情報信号を取得可能であるとともに、温度制御手段へ、基材2に付与する張力を含む情報信号を出力可能に形成されている。
幅方向張力制御は、搬送張力制御手段から、基材2に付与する張力を含む情報信号を取得可能であるとともに、搬送張力制御手段へ、幅方向張力付与部14が基材2に付与する、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を含む情報信号を出力可能に形成されている。
【0061】
そして、温度制御手段及び搬送張力制御手段は、予め、基材2の厚さを設定しておくことにより、以下の式(1)が成立するように、それぞれ、乾燥炉12内の温度、すなわち、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度と、基材2に付与する張力を制御する。なお、基材2の厚さは、例えば、塗膜形成装置1の基材2の搬送経路上に、基材2の厚さを計測可能な装置を配置して計測してもよい。
【0062】
【数7】

【0063】
ここで、上記の式(1)では、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度をtとし、基材2に付与される張力をwとし、基材2の厚さをdとする。また、式(1)中の「ln」は、「loge」を示している。
【0064】
なお、上記の式(1)を成立させる制御は、温度制御手段及び搬送張力制御手段による制御に限定するものではなく、温度制御手段または搬送張力制御手段の一方のみが行う制御であってもよい。
温度制御手段のみが行う制御により、上記の式(1)を成立させる場合には、基材2の厚さと基材2に付与する張力に応じて、乾燥炉12内の温度を制御し、上記の式(1)を成立させる。
【0065】
一方、搬送張力制御手段のみが行う制御により、上記の式(1)を成立させる場合には、基材2の厚さと乾燥炉12内の温度に応じて、基材2に付与する張力を制御し、上記の式(1)を成立させる。
また、幅方向張力制御及び搬送張力制御手段は、例えば、塗膜形成装置1の基材2の搬送経路上に、基材2の厚さを連続的に計測可能な装置を配置し、この装置により、基材2の厚さの変化率を取得する。そして、以下の式(2)が成立するように、それぞれ、基材2に付与する、基材2の搬送方向と直交する方向への張力、すなわち、基材2の幅方向への張力と、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力を制御する。なお、基材2の厚さは、例えば、予め設定した基材2の厚さと、この厚さに対応する、蓄積したデータに基づいて取得してもよい。
【0066】
【数8】

【0067】
ここで、上記の式(2)では、基材2に付与する、基材2の搬送方向と直交する方向への張力をWtとし、基材2の厚さの変化率をd/d0とし、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力をWmとする。
【0068】
なお、上記の式(2)を成立させる制御は、幅方向張力制御及び搬送張力制御手段による制御に限定するものではなく、幅方向張力制御または搬送張力制御手段の一方のみが行う制御であってもよい。
幅方向張力制御のみが行う制御により、上記の式(2)を成立させる場合には、基材2の厚さの変化率と、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力に応じて、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を制御し、上記の式(2)を成立させる。
【0069】
一方、搬送張力制御手段のみが行う制御により、上記の式(2)を成立させる場合には、基材2の厚さの変化率と、基材2の搬送方向と直交する方向への張力に応じて、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力を制御し、上記の式(2)を成立させる。
【0070】
(塗膜形成方法)
以下、図1及び図2を参照して、本実施形態の塗膜形成方法を説明する。
本実施形態の塗膜形成方法は、張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材2に塗布した塗工液を乾燥させて、搬送されてくる基材2に塗工液からなる塗膜を形成する方法である。
具体的には、本実施形態の塗膜形成方法では、塗工液を塗布した基材2を乾燥させた後に、この基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力、すなわち、基材2の幅方向への張力を付与する。
【0071】
ここで、本実施形態の塗膜形成方法では、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力、すなわち、基材2の幅方向への張力を付与する。
また、本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力、すなわち、基材2の幅方向への張力を付与する。
【0072】
また、本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の厚さに応じて、上記の式(1)が成立するように、乾燥炉12内の温度、すなわち、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度と、基材2に付与する張力を制御する。
なお、上記の式(1)を成立させる制御は、乾燥炉12内の温度及び基材2に付与する張力による制御に限定するものではなく、乾燥炉12内の温度または基材2に付与する張力の一方のみによる制御であってもよい。
【0073】
乾燥炉12内の温度のみの制御により、上記の式(1)を成立させる場合には、基材2の厚さと基材2に付与する張力に応じて、乾燥炉12内の温度を制御し、上記の式(1)を成立させる。
一方、基材2に付与する張力のみの制御により、上記の式(1)を成立させる場合には、基材2の厚さと乾燥炉12内の温度に応じて、基材2に付与する張力を制御し、上記の式(1)を成立させる。
【0074】
さらに、本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の厚さの変化率に応じて、上記の式(2)が成立するように、基材2に付与する、基材2の搬送方向と直交する方向への張力、すなわち、基材2の幅方向への張力と、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力を制御する。
なお、上記の式(2)を成立させる制御は、基材2に付与する、基材2の幅方向への張力と基材2の搬送方向への張力による制御に限定するものではなく、基材2に付与する、基材2の幅方向への張力または基材2の搬送方向への張力による制御であってもよい。
【0075】
基材2に付与する、基材2の幅方向への張力のみの制御により、上記の式(2)を成立させる場合には、基材2の厚さの変化率と、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力に応じて、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を制御し、上記の式(2)を成立させる。
一方、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力のみの制御により、上記の式(2)を成立させる場合には、基材2の厚さの変化率と、基材2の搬送方向と直交する方向への張力に応じて、基材2に付与する、基材2の搬送方向への張力を制御し、上記の式(2)を成立させる。
【0076】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の塗膜形成装置1では、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値とする。
【0077】
このため、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立しない値とした場合と比較して、基材2に発生する皺を軽減することが可能となる。
その結果、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立しない値とした場合と比較して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0078】
(2)本実施形態の塗膜形成装置1では、基材2に対し、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する幅方向張力付与部14を備え、この幅方向張力付与部14を、乾燥炉12よりも下流に配置する。
このため、基材2の搬送方向へ付与される張力により、乾燥温度や基材2に付与するテンションが適切な条件から外れることで基材2に発生する、基材2の搬送方向への皺を、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することにより、伸長させることが可能となる。
その結果、基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0079】
(3)本実施形態の塗膜形成装置1では、幅方向張力付与部14が、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを備える。
このため、搬送される基材2に対して、簡便に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
その結果、搬送される基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0080】
(4)本実施形態の塗膜形成装置1では、幅方向張力付与部14が、基材2の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を備えている。
このため、搬送される基材2に対して、幅方向張力付与部14を平行に移動させることが可能となり、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
その結果、搬送される基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0081】
(5)本実施形態の塗膜形成装置1では、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立する値とする。
このため、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値とした場合と比較して、基材2に発生する皺を軽減することが可能となる。
その結果、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値とした場合と比較して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0082】
(6)本実施形態の塗膜形成方法では、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値とする。
このため、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立しない値とした場合と比較して、基材2に発生する皺を軽減することが可能となる。
その結果、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立しない値とした場合と比較して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0083】
(7)本実施形態の塗膜形成方法では、塗工液を塗布した基材2を乾燥させた後に、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する。
このため、基材2の搬送方向へ付与される張力により、乾燥温度や基材2に付与するテンションが適切な条件から外れることで基材2に発生する、基材2の搬送方向への皺を、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することにより、伸長させることが可能となる。
その結果、基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0084】
(8)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する。
【0085】
このため、搬送される基材2に対して、簡便に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
その結果、搬送される基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0086】
(9)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する。
【0087】
このため、搬送される基材2に対して、幅方向張力付与部14を平行に移動させることが可能となり、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与することが可能となる。
その結果、搬送される基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0088】
(10)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立する値とする。
このため、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値とした場合と比較して、基材2に発生する皺を軽減することが可能となる。
その結果、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値とした場合と比較して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0089】
(応用例)
以下、本実施形態の応用例を列挙する。
(1)本実施形態の塗膜形成装置1では、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値としたが、これに限定するものではない。すなわち、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、以下の式(3)が成立する値としてもよい。
【0090】
【数9】

【0091】
乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(3)が成立する値とした場合であっても、基材2に発生する皺を軽減して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0092】
(2)本実施形態の塗膜形成装置1では、基材2に対し、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与する幅方向張力付与部14を備える構成としたが、これに限定するものではなく、幅方向張力付与部14を備える構成としてもよい。
【0093】
(3)本実施形態の塗膜形成装置1では、乾燥炉12の構成を、塗工液が塗布された基材2を除冷する除冷ゾーンを備えていない構成としたが、これに限定するものではなく、乾燥炉12の構成を、塗工液が塗布された基材2を除冷する除冷ゾーンを備えた構成としてもよい。この場合、幅方向張力付与部14を除冷ゾーンに配置し、除冷ゾーンにおいて塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、基材2のガラス転移点以下の温度とする。
これにより、基材2に発生する皺が伸ばされた状態で、基材形状の固定化をすることが可能となるため、基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0094】
(4)本実施形態の塗膜形成装置1では、幅方向張力付与部14が、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを備える構成としたが、これに限定するものではなく、幅方向張力付与部14が、一対のクロスガイダを備えていない構成としてもよい。
【0095】
(5)本実施形態の塗膜形成装置1では、幅方向張力付与部14が、基材2の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を備えている構成としたが、これに限定するものではなく、幅方向張力付与部14が、平行駆動部を備えていない構成としてもよい。
【0096】
(6)本実施形態の塗膜形成装置1では、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立する値としたが、これに限定するものではない。すなわち、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値としてもよい。
【0097】
(7)本実施形態の塗膜形成装置1では、塗工液を塗料としたが、これに限定するものではなく、塗工液を、防錆剤等、塗料以外の液体としてもよい。
【0098】
(8)本実施形態の塗膜形成装置1では、塗工部8に、帯状の基材2に塗膜を形成するウェットコーティング法のうち、ロールコート法を用いたが、これに限定するものではなく、塗工部8に、帯状の基材2に塗膜を形成するウェットコーティング法のうち、例えば、ダイコート法等、ロールコート法以外を用いてもよい。
【0099】
(9)本実施形態の塗膜形成方法では、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値としたが、これに限定するものではない。すなわち、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(3)が成立する値としてもよい。
【0100】
乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(3)が成立する値とした場合であっても、基材2に発生する皺を軽減して、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0101】
(10)本実施形態の塗膜形成方法では、塗工液を塗布した基材2を乾燥させた後に、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与したが、これに限定するものではなく、塗工液を塗布した基材2を乾燥させた後に、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与しなくともよい。
【0102】
(11)本実施形態の塗膜形成方法では、塗工液を塗布した基材2を乾燥させる工程が、塗工液が塗布された基材2を除冷する除冷工程を含まないが、これに限定するものではなく、塗工液を塗布した基材2を乾燥させる工程が、塗工液が塗布された基材2を除冷する除冷工程を含む方法としてもよい。この場合、除冷工程において、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与し、除冷工程で塗工液が塗布された基材2を除冷する除冷設定温度を、基材2のガラス転位点以下の温度とする。
これにより、基材2の皺が伸ばされた状態で、基材形状の固定化をすることが可能となるため、基材2に発生する皺を軽減することが可能となり、安定した品質の塗膜を形成した基材2を供給することが可能となる。
【0103】
(12)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与したが、これに限定するものではない。すなわち、一対のクロスガイダを用いずに、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与してもよい。
【0104】
(13)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与したが、これに限定するものではない。すなわち、平行駆動部を用いずに、基材2に、基材2の搬送方向と直交する方向への張力を付与してもよい。
【0105】
(14)本実施形態の塗膜形成方法では、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立する値としたが、これに限定するものではない。すなわち、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立しない値としてもよい。
【0106】
(実施例)
以下、図1及び図2を参照して、張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材2に塗工液からなる塗膜を形成する際に、基材2に発生する皺について調査を行った結果を比較する。
【0107】
なお、比較対象としては、以下に示す三種類の装置を用いる。
I.図1中に示す塗膜形成装置1から、幅方向張力付与部14を除いた構成の装置において、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)及び(3)が成立しない値とした装置(以下、「従来明例」と記載する)
【0108】
II.図1中に示す塗膜形成装置1から、幅方向張力付与部14を除いた構成の装置において、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値とした装置(以下、「第一発明例」と記載する)
【0109】
III.図1中に示す塗膜形成装置1と同様の構成の装置において、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値とし、さらに、基材2の搬送方向と直交する方向への張力Wt、基材2の厚さの変化率d/d0、基材2の搬送方向への張力Wmを、それぞれ、上記の式(2)が成立する値とした装置(以下、「第二発明例」と記載する)
【0110】
上述した三種類の装置を用いて、基材2に発生する皺について調査を行った結果、従来例では、基材2に皺が発生し、安定した品質の塗膜が得られなかったが、第一発明例及び第二発明例では、基材2に皺が抑制され、外観上、特に問題が無く、安定した品質の塗膜を得ることが可能であった。
【0111】
以上の結果から、第一発明例及び第二発明例のように、乾燥炉12で塗工液が塗布された基材2を乾燥させる温度t、基材2に付与される張力w、基材2の厚さdを、上記の式(1)が成立する値とすることにより、従来例と比較して、安定した品質の塗膜を得ることが可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
帯状の基材に対して塗膜を形成する方法として、幅広い分野で利用されているロールツーロール方式のウェットコーティング法に関するものであって、皺の少ない塗膜を得ることが可能となるため、有効である。
【符号の説明】
【0113】
1 塗膜形成装置
2 基材
4 巻き出しロール
6 インフィードロール
8 塗工部
10 サポートロール
12 乾燥炉
14 幅方向張力付与部
16 アウトフィードロール
18 巻き取りロール
20 バックアップロール
22 グラビアロール
24 液受けパン
26 送液タンク
28 送液ポンプ
30 循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材に塗布した塗工液を乾燥させる乾燥炉を備え、搬送されてくる前記基材に前記塗工液からなる塗膜を形成する塗膜形成装置であって、
前記乾燥炉で前記塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度をtとし、前記基材に付与される張力をwとし、前記基材の厚さをdとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とする塗膜形成装置。
【数1】

【請求項2】
以下の式が成立していることを特徴とする請求項1に記載した塗膜形成装置。
【数2】

【請求項3】
前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与する幅方向張力付与部を備え、
前記幅方向張力付与部を、前記乾燥炉よりも下流に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載した塗膜形成装置。
【請求項4】
前記乾燥炉は、前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷ゾーンを備え、
前記幅方向張力付与部を、前記除冷ゾーンに配置し、
前記除冷ゾーンにおいて前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、前記基材のガラス転移点以下の温度としたことを特徴とする請求項3に記載した塗膜形成装置。
【請求項5】
前記幅方向張力付与部は、前記基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを備えることを特徴とする請求項3または4に記載した塗膜形成装置。
【請求項6】
前記幅方向張力付与部は、前記基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を備えることを特徴とする請求項3から5のうちいずれか1項に記載した塗膜形成装置。
【請求項7】
前記基材の搬送方向と直交する方向への張力をWtとし、前記基材の厚さの変化率をd/d0とし、前記基材の搬送方向への張力をWmとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とする請求項3から6のうちいずれか1項に記載した塗膜形成装置。
【数3】

【請求項8】
張力を付与されながら搬送されてくる帯状の基材に塗布した塗工液を乾燥させて、搬送されてくる前記基材に前記塗工液からなる塗膜を形成する塗膜形成方法であって、
前記塗工液が塗布された基材を乾燥させる温度をtとし、前記基材に付与される張力をwとし、前記基材の厚さをdとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とする塗膜形成方法。
【数4】

【請求項9】
以下の式が成立していることを特徴とする請求項8に記載した塗膜形成方法。
【数5】

【請求項10】
前記塗工液を塗布した基材を乾燥させた後に、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とする請求項8または9に記載した塗膜形成方法。
【請求項11】
前記塗工液を塗布した基材を乾燥させる工程は、前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷工程を含み、
前記除冷工程において、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与し、
前記除冷工程で前記塗工液が塗布された基材を除冷する除冷設定温度を、前記基材のガラス転移点以下の温度としたことを特徴とする請求項10に記載した塗膜形成方法。
【請求項12】
前記基材に厚さ方向の挾持圧を付与可能な一対のクロスガイダを用いて、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とする請求項10または11に記載した塗膜形成方法。
【請求項13】
前記基材の搬送方向と平行に移動可能な平行駆動部を用いて、前記基材に対し、当該基材の搬送方向と直交する方向への張力を付与することを特徴とする請求項10から12のうちいずれか1項に記載した塗膜形成方法。
【請求項14】
前記基材の搬送方向と直交する方向への張力をWtとし、前記基材の厚さの変化率をd/d0とし、前記基材の搬送方向への張力をWmとした場合に、以下の式が成立していることを特徴とする請求項10から13のうちいずれか1項に記載した塗膜形成方法。
【数6】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−75182(P2011−75182A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226093(P2009−226093)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】