説明

塗膜

【課題】一層で、高彩度カラーを現出し、かつ、下地隠蔽性に優れる塗膜及び塗料組成物を提供すること。
【解決手段】塗膜は、疎水基又は疎水基と親水基の双方を有するオリゴマーやオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を含み、上記複数種の顔料のうち1種の顔料が、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が集合したオリゴマー分子集合体に保持されて層状に局在化しており、他の顔料との間で、膜厚方向に顔料粒度分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜に係り、更に詳細には、高彩度カラーが要求される分野で用いられる上塗り塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や家庭用電化製品等の上塗り塗膜には、高彩度カラーを現出し、優れた外観性を有する塗膜が要求されている。塗膜の高彩度カラーを醸し出すためには、被塗物表面の微細な凹凸に対する下地隠蔽性を考慮する必要がある。
この下地隠蔽性を考慮した塗膜構造として、例えば、下地隠蔽用の粒径の大きい顔料を含有させた塗膜の上に、それよりも粒径の小さい顔料を含有させた高彩度用塗膜を積層し、この高彩度用塗膜上に更にクリヤー層を積層した積層塗膜構造が採用されている。
また、高彩度カラーを現出する塗膜構造として、光輝顔料及び/又は着色顔料を含有する高彩度塗膜層を複数積層し、最表層にクリヤー層を積層した積層塗膜構造が採用されている。
その他に、中塗り塗膜の上に、光輝顔料及び赤系着色顔料を含有するベース層を塗布し、該ベース層の表面に透明な第1クリヤー層と、赤系蛍光染料を含む第2クリヤー層と、透明な第3クリヤー層を積層した積層塗膜構造も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−142608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、かかる従来の塗膜構造において、下地隠蔽用塗膜と高彩度用塗膜を積層する場合は、通常の生産ラインで塗装が可能であるものの、各塗膜の膜厚を薄くする必要があり、膜厚のバラツキが起きやすく、安定した品質の塗膜が得られないという問題がある。
また、高彩度塗膜層やクリヤー層を複数積層した積層塗膜構造を形成する場合は、積層数の増大によるタレやワキ等の外観異常の発生、生産性の低下、コストの高騰等の問題がある。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数回の塗装工程を繰り返して複数の塗膜層を積層する必要がなく、1層で、高彩度カラーを現出し、かつ、下地隠蔽性に優れる塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所定のオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を用いることにより、上記顔料のうち1種の顔料と他の顔料との間で、膜厚方向に顔料粒度分布を形成することが可能となり、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の塗膜は、疎水基又は疎水基と親水基の双方を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を含み、上記複数種の顔料のうち1種の顔料が、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合したオリゴマー分子集合体に保持されて層状に局在化しており、他の顔料との間で、膜厚方向に顔料粒度分布を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定のオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を含むことにより、上記複数種の顔料のうち1種の顔料と他の顔料との間で膜厚方向に顔料粒度分布を形成することができ、1層で、高彩度かつ下地隠蔽性に優れる塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の塗膜つき詳細に説明する。なお、本明細書及び請求の範囲において、濃度、含有量及び配合量などのついての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0009】
上述の如く、本発明の塗膜は、疎水基又は疎水基と親水基の双方を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を含み、上記複数種の顔料のうち1種の顔料が、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合したオリゴマー分子集合体に保持されて層状に局在化しており、他の顔料との間で、膜厚方向に顔料粒度分布を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、上述のオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の具体例としては、次の(1)〜(4)式で表される構造を有するものを挙げることができる。
なお、(1)式のものは上記オリゴマーの基本的な構造を示しており、(2)式のものは3次元的なシリカネットワーク部位(3D−SN部位)を有するもので、所定の粒径の顔料を包接し、分離する機能が増強されており、また(3)式及び(4)式のものは、3D−SN部位にフルオロ基やシリル基が結合しているもので、表面への局在性が増強されている。
【0011】
【化5】

【0012】
【化6】

【0013】
【化7】

【0014】
【化8】

【0015】
ここで、(1)〜(4)式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよく酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Lは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]−α、(CF)j−α又は(CFO)h−αを示し、この場合、αはXと同一でも異なっていてもよくCOY基(親水基)、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)、R基(アルキル基)、OH基又は水素原子、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す。
【0016】
また、親水基の具体例としては、修飾又は非修飾のカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、アミノ基(一級〜三級)、四級アンモニウム塩基、ヒドロキシルアルキル基、水酸基、アミド基、イソシアネート基、モルフォリン基、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アミノ基、及びジメチルアミノ基を挙げることができる。
【0017】
(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体は、修飾又は非修飾のフルオロアルキル基(R)の有する凝集力によって複数個の分子が会合してオリゴマー分子集合体を形成する。このオリゴマー分子集合体は、その空間内に所定の粒径の顔料を包接又は保持し、この粒径の顔料を層状に局在化させて、他の粒径を有する顔料との間で、塗膜の膜厚方向に顔料粒度分布を形成する。
なお、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が形成するオリゴマー分子集合体は、複数個の上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の疎水基が形成する空間に、所定の粒径の顔料を包接又は保持することが好ましい。
【0018】
図1は、本発明の塗膜1とその塗膜内の模式図であり、(1)式に示すオリゴマーに起因するオリゴマー分子集合体2が、所定の粒径の顔料3を包接又は保持し、この粒径の顔料3を層状に局在化させて、他の粒径の顔料4との間で、塗膜1の膜厚方向に顔料粒度分布を形成した様子を示す。
【0019】
図1に示す例では、4分子のオリゴマーが会合して1つのオリゴマー分子集合体2を形成しており、所定の粒径(図1では、小粒径)の顔料3が、オリゴマー分子集合体2の中央、即ち疎水基(R)が形成する空間に包接されている。このオリゴマー分子集合体2に包接される小粒径の顔料3は、オリゴマー分子集合体2が存在する上の階層(上層)に局在化される。また、オリゴマー分子集合体2に包接されない粒径(図1では、大粒径)の顔料4は、オリゴマー分子集合体2が形成する階層以外の階層(図中では下の階層(下層))に局在化される。なお、図1中、符号5は、本発明の塗膜1に積層されたクリヤー塗膜である。
以上のように、本発明の塗膜1は、所定のオリゴマー2によって、顔料3,4が粒径ごとに分けられて、膜厚方向に顔料粒度分布が形成される。
【0020】
なお、図2は、(2)〜(4)式に示すオリゴマー複合体に起因するオリゴマー分子集合体2が顔料3を包接した状態を示す模式図である。
【0021】
上記のようなオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体において、Rは表面エネルギーが低いので、芳香族系やエステル系化合物などの溶媒と混合した場合、得られる混合物(液)の表面に局在化し易い。
【0022】
更に、(1)式〜(4)式で表したオリゴマーやオリゴマー複合体については、適当な官能基や骨格を選択することにより、サイズや分子量、オリゴマー分子集合体における包接空間の直径などを適宜に変更可能である。このオリゴマー分子集合体の包接空間と、顔料の平均粒径や重量との調整を行えば、顔料の存在比を制御でき、一層の塗膜内で、粒径の異なる顔料を粒径ごとに複数の階層に分けて、塗膜の膜厚方向に顔料粒度分布を形成することができる。よって、例えば、下地隠蔽機能を有する大粒径の顔料を下の階層(下層)に、高彩度カラーを現出する小粒径の顔料をオリゴマー分子集合体が配置している上の階層(上層)に局在化することができる。
【0023】
本発明においては、上述のように、所定のオリゴマー分子集合体に起因する顔料の局在化や存在比制御を行うことが可能なので、上記オリゴマーやオリゴマー複合体とは異なる溶媒や樹脂、特に硬化ないし固化する有機物などと併用すれば、一層の塗膜内に複数の階層を形成し、階層ごとに異なる粒径の顔料を局在化させ、階層ごとの顔料粒度分布を形成して、高彩度かつ優れた下地隠蔽性を現出させることができる。
【0024】
また、本発明においては、(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマーやオリゴマー複合体は、その1種を単独で使用することができるが、複数種を任意に組み合わせて使用することも可能である。
よって、このような所定のオリゴマー等の併用に応じて、粒径の異なる複数種の顔料を、粒径ごとに層状に局在化させ、1層の塗膜内で複数の階層からなる顔料粒度分布を形成させ、高彩度カラーを現出させることができる。
【0025】
なお、(1)式〜(4)式に示す構造を有するオリゴマーやオリゴマー複合体においては、その鎖状オリゴマー部位、即ち親水基(X)と両末端の修飾又は非修飾フルオロアルキル基(R)を有する部位であって、典型的には、上記の(1)式で表される構造を有する部位、但し、(2)式〜(4)式で表される構造では図中の「B」を「X」と置換した構造を有する部位、の分子量が252〜100,000であることが好ましい。
この鎖状オリゴマー部位の分子量が252未満では、所定の粒径の顔料を十分包摂できないことがあり、100,000を超えると、樹脂への分散性が悪く、塗膜が凝集破壊することがある。
【0026】
上記の塗膜において、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体の配合量は、塗膜中に含まれる全樹脂固形分に対して0.05〜50%とすることが好ましく、1〜15%とすることが更に好ましく、3〜5%とすることが特に好ましい。
配合量が0.05%未満では、顔料の十分な局在化が得られず、膜厚方向に顔料粒度分布を形成することができないので、高彩度カラーを現出できないことがある。また、該配合量が50%を超えると、上記オリゴマーやオリゴマー複合体が凝集することがあり、塗膜の密着性が損なわれることがある。
【0027】
次に、顔料について説明する。
本発明に使用可能な顔料としては、特に限定されるものでなく、例えば、下地隠蔽機能を有する大粒径の顔料や、光輝性や着色機能を有する小粒径の顔料などが挙げられる。その他に、着色機能と導電性を併有する導電性顔料、発光ないし蛍光性を有する発光顔料などを挙げることができる。
これらの顔料の材質は、特に限定されるものではなく、顔料として、有機系顔料、無機系顔料及び光輝顔料から成る群より選ばれた少なくとも1種のものを使用することができる。
【0028】
本発明の塗膜は、少なくとも2種の顔料を含み、このうち1種の顔料は、その平均粒径が30〜500nmの小粒径の顔料であり、他の顔料は、その平均粒径が500nmを超える大粒径の顔料であることが好ましい。
小粒径の顔料は、その平均粒径が30〜200nmのものであり、大粒径の顔料は、その平均粒径が800以上のものであることがより好ましい。更に、大粒径の顔料は、その平均粒径が1.0μm以上のものであることが特に好ましい。
【0029】
上記2種の顔料の各々の平均粒径が上記範囲内であると、小粒径の顔料が上記オリゴマー分子集合体に包接又は保持されやすく、小粒径の顔料が層状に局在化されて、他の大粒径の顔料との間で、膜厚方向に明確な顔料粒度分布が形成されるため好ましい。
小粒径の顔料の平均粒径が30nm未満のものであると、顔料の種類及びグレードによっては、耐候性に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。また、小粒径の顔料の平均粒径が500nmを超えるものであると、顔料自体の彩度が低下するため好ましくない。
一方、大粒径の顔料の平均粒径が500nm未満のものであると、下地隠蔽性が低下するため好ましくない。
なお、本明細書において、平均粒径とは、50%積算値(d50)をいう。
【0030】
本発明の塗膜に含有される顔料は、上記範囲の平均粒径を有するものに限らず、例えば、平均粒径の異なる3種以上の顔料を使用してもよい。平均粒径が異なる3種以上の顔料を使用する場合は、上記オリゴマーやオリゴマー複合体の官能基や骨格、サイズや分子量、オリゴマー分子集合体における包接空間、上記オリゴマーやオリゴマー複合体と共に用いる溶媒などを適宜選択することにより、膜厚方向に3階層以上の顔料粒度分布を有する塗膜を得ることができる。
【0031】
本発明の塗膜は、上記の顔料以外に、添加剤を含有させることができる。
添加剤としては、例えば、導電性を有するものや、絶縁性を有するもの、触媒などが挙げられる。
これらの添加剤も、その添加剤を構成する粒子の粒径に応じて、上記オリゴマー分子集合体に包接又は保持されて小粒径の顔料又は大粒径の顔料と共に局在化させることができる。
例えば、導電性を有する小粒径の添加剤を小粒径の顔料と共に局在化させることができるので、静電塗装を効果的に行うことができる。
【0032】
本発明の塗膜を適用する場合、例えば、平均粒径が30〜500nmの着色用顔料と、平均粒径が500nmを超える下地隠蔽用顔料とを、上記オリゴマーやオリゴマー複合体と、アクリルメラミンなどの硬化性樹脂を含む溶媒との混合溶媒に分散させ、硬化させることにより、上記オリゴマーやオリゴマー複合体に保持されて層状に局在化された着色用顔料と、下地隠蔽用顔料との間で、膜厚方向に2階層の顔料粒度分布が形成された塗膜を得ることができる。
この塗膜は、上の階層(上層)に平均粒径が30〜500nmの着色用顔料と上記オリゴマーやオリゴマー複合体が含まれ、下の階層(下層)に平均粒径が500nmを超える隠蔽用顔料と硬化樹脂とが含まれる。
【0033】
本発明では、塗工作業を階層別に行う必要はなく、少なくとも一回の塗工作業により、小粒径の着色用顔料を含有する階層と、大粒径の隠蔽用顔料を含有する階層とが積層された積層構造を得ることができ、作業効率を向上させることができる。
また、一回の塗工作業で積層構造を得ることができるので、複数回の塗装によるタレやワキ等の外観異常の発生がなく、優れた見栄えの塗膜を得ることができる。
【0034】
塗膜の積層構造は、「上の階層(上層)」及び「下の階層(下層)」の2階層の構造に限らず、膜厚方向に3階層以上の積層構造を形成してもよい。
なお、本発明の塗膜は、慣習上、「上塗り塗膜」と称する場合もあり、その膜厚は特に限定されるものではないが、10〜30μmが好ましい。
【0035】
更に、本発明の塗膜は、積層構造の最表層に、クリヤー塗膜、濁りクリヤー塗膜、艶消しクリヤー塗膜及びエナメル塗膜から成る群より選ばれた少なくとも1種の機能を有する塗膜を備えることが好ましい。
【0036】
次に、上記塗膜を構成する塗料組成物について説明する。
塗料組成物は、上述の本発明の塗膜を形成するものであり、上記粒径の異なる複数種の顔料と、上記オリゴマーやオリゴマー複合体を含み、必要に応じてフッ素系溶剤を含むものである。
塗料組成物は、上記オリゴマーやオリゴマー複合体を予めフッ素系溶剤に溶解させ、このオリゴマーやオリゴマー複合体の溶解液と複数種の顔料とを、一般的な溶剤系塗料、水系塗料と混合することによって、上記オリゴマーやオリゴマー複合体と複数種の顔料とが、塗料中に高度に分散した塗料組成物(カラーベース塗料)を得ることができる。この塗料組成物は、平滑な上塗り塗膜等を形成する塗料として、好適に使用することができる。
【0037】
また、上記オリゴマーやオリゴマー複合体をフッ素系溶剤に溶解させた後、この溶解液と顔料とを、一般的な粉体塗料に用いられる分散媒に分散させて、粉体状の塗料組成物としてもよい。この塗料組成物は、粉体塗料として使用することができる。
なお、塗料組成物には、従来公知の塗料中に含まれる顔料、樹脂、添加剤、有機系溶剤、水系溶剤などを含有することができる。
【0038】
この塗料組成物による塗膜の形成方法は、特に限定されず、従来公知の手法でよく、スプレー塗装法、ディッピングコート法、スピンコート法、フローコート法及びロールコート法のいずれの方法であってもよい。
また、塗膜乾燥方法も、特に限定されず、一般的な常温硬化乾燥、焼き付け硬化乾燥などにより成膜でき、紫外線硬化乾燥や電子線硬化乾燥なども適用できる。
【0039】
本発明の塗膜は、上述のように高彩度カラーを現出することができるので、自動車用塗膜、家庭電化製品用塗膜などの塗装物品に好適に用いることができる。その他、各種材料、例えば、プラスチック、金属、ガラス、木材、発泡体などから成る成型品に広く適用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1〜11)
[赤色ナノ顔料の調製]
水溶性アクリル樹脂(商品名:ウォーターゾル、大日本インキ製)100gに、赤色ナノ顔料「キナクリドン」(商品名:シンカシャ Red Y RT−759−D、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)50gを加え、分散剤(商品名:エフカ4550、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)5g及びイオン交換水620gを添加し、アルミナビーズ(粒径1mm)を加えて、TKオートホモミキサー(特殊機化工業製)で30分〜3時間分散を行い、平均粒径20nm、30nm、200nm、500nm、600nm、2000nmの顔料を得た。
【0042】
[カラーベース塗料の調製]
上記の平均粒径を調整した赤色ナノ顔料(20nm、30nm、200nm、500nm、600nm:固形分比率20%)1.3gを、次の(5)式に示す撥水親水両性オリゴマー10wt%溶液(フッ素アルコール(TFP):IPA=0.75:0.25)2.6gに加え、撹拌しながら混合して、混合物を得た。
その後、上記混合物に水系シルバーメタリック塗料(商品名:アクアBC−3、塗色BK23、BASF社製、塗料中に含まれるアルミ光輝材の平均粒径13μm、固形分比率26%)20.0gを加え、撹拌しながら混合して、塗料組成物(カラーベース塗料A)を調製した。
この塗料組成物(カラーベース塗料A)は、ナノ顔料:オリゴマー=1:1(重量比)であり、塗料組成物中の全樹脂固形分に対するオリゴマーの含有割合が5%になるように調製した(実施例1)。また、上記オリゴマーの含有割合が0.03〜55%になるように調製した(実施例2〜11)。
【0043】
【化9】

【0044】
(実施例12〜22)
[カラーベース塗料の調製]
上記の平均粒径を調整した赤色ナノ顔料(20nm、30nm、200nm、500nm、600nm:固形分比率20%)1.3gに、上記(5)式に示す撥水親水両性オリゴマー10%溶液(フッ素アルコール(TFP):IPA=0.75:0.25)2.6gを撹拌しながら混合して、混合物を得た。この混合物にコロイダルシリカメタノール70%溶液(日産化学社製)3.2gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(関東化学社製)0.65gを加え撹拌し、更に0.2Nのアンモニア水0.43gを添加して、(2)式に示すようなオリゴマー複合体の含有溶液を得た。
この溶液に白色水系ベース塗料(BASF社製、固形分比率48%)20.0gを加え、撹拌しながら混合して、塗料組成物(カラーベース塗料A)を調製した。
この塗料組成物(カラーベース塗料A)は、ナノ顔料:オリゴマー=1:1(重量比)であり、塗料組成物中の全固形分に対するオリゴマー複合体の含有割合が5%になるように調製した(実施例12)。また、上記オリゴマー複合体の含有割合が0.03〜55%になるように調製した(実施例13〜22)。
【0045】
(比較例1)
水系シルバーメタリック塗料(商品名:アクア BC−3、塗色BK23、BASF社製、塗料中に含まれるアルミ光輝材の平均粒径13μm、固形分比率26%)を用いた。
(比較例2)
上記の平均粒径を調整した赤色ナノ顔料(2000nm:固形分比率20%)1.3gを撥水親水両性オリゴマー10%溶液(フッ素アルコール(TFP):IPA=0.75:0.25)2.6gに加え、撹拌しながら混合して、混合物を得た。
その後、上記混合物に水系シルバーメタリック塗料(商品名:アクアBC−3、塗色BK23、BASF社製、塗料中に含まれるアルミ光輝材の平均粒径13μm、固形分比率26%)20.0gを加え、撹拌しながら混合して、塗料組成物(カラーベース塗料A)を調製した。
この塗料組成物(カラーベース塗料A)は、ナノ顔料:オリゴマー=1:1(重量比)であり、塗料組成物中の全固形分に対するオリゴマー複合体の含有割合が5%になるように調製した。
【0046】
[積層塗膜構造の形成]
リン酸亜鉛処理した幅70mm×長さ150mm×厚さ80mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名:パワートップU600M、日本ペイント社製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。
次に、水系白色中塗り塗料(商品名:アクアBC−3 N8.2、BASF社製)を、乾燥塗膜が20μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
次に、上記実施例1〜22及び比較例1〜2の塗料(カラーベース塗料)を、乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。
その後、ウェットオンウェット方法で、クリヤー塗料(商品名:ベルコート No.6200、BASF社製)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて、積層塗膜構造を形成した。
【0047】
[塗膜の評価方法]
上記の方法によって得られた塗膜について、その密着性、耐候性、彩度、隠蔽性を次の方法で評価した。その結果を、表1及び表2に示す。
【0048】
(1)密着性
カッタナイフを用いて、試験片の表面に形成された塗膜に、素地に達し、縦横11本ずつの直交する平行線を2mmの間隔で引き、合計100個の正方形の碁盤目を形成した。この上にセロハンテープを密着させ、上方に一気に引き剥がす作業を3回繰り返し、碁盤目に分割された塗膜の欠損率を求め、以下のように評価した。
○:0%
△:0%を超え15%未満
×:15%以上
【0049】
(2)耐候性
JIS K5600−7−7に準拠して、耐候性促進試験を行い、試験前の初期状態の塗膜と試験後の塗膜の色を目視で比較し、以下のように評価した。なお、通常塗色とは、塗膜の膜厚方向に顔料粒度分布を形成しないカラーベース塗料をいう。
○:通常塗色と同等レベル
△:通常塗色よりも色変化が大きい
【0050】
(3)彩度
本例の塗膜の外観を目視で観察し、以下のように評価した。
◎:非常に彩度が高い。
○:彩度が高い。
△:若干彩度が高い。
×:通常塗色と同等レベル。
【0051】
(4)隠蔽性
本例の塗膜の外観を目視で観察し、以下のように評価した。
○:隠蔽性が高い。
△:通常塗色と同等レベル。
×:通常塗色以下。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1及び表2に示すように、本発明に属する実施例1〜22の塗膜は、所定のオリゴマーと、粒径の異なる2種の顔料を用いることにより、膜厚方向に顔料粒度分布を有しており、優れた下地隠蔽性を確保しつつ、彩度の向上が認められた。
【0055】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、本発明によれば、塗装条件を限定されることなく、例えば、通常2回のベースコート塗装が必要なところを、1回の塗装で通常の塗装と同程度又はそれ以上の高彩度及び下地隠蔽性を有する塗膜を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の塗膜と、該塗膜内の様子を示す模式図である。
【図2】(2)〜(4)式に示すオリゴマー複合体に起因するオリゴマー分子集合体が顔料を包接した状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
1 塗膜
2 オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体(オリゴマー分子集合体)
3 小粒径の顔料
4 大粒径の顔料
5 クリヤー塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水基又は疎水基と親水基の双方を有するオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、粒径の異なる複数種の顔料を含み、
上記複数種の顔料のうち1種の顔料が、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体が会合したオリゴマー分子集合体に保持されて層状に局在化しており、
他の顔料との間で、膜厚方向に顔料粒度分布を有することを特徴とする塗膜。
【請求項2】
上記オリゴマーが、次式(1)
【化1】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフルオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、Xはそれぞれ独立してOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY基(Y:親水基)から成る親水基、nは1〜10の整数、mはn以下の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の塗膜。
【請求項3】
上記オリゴマー複合体が、次式(2)
【化2】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O基、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O基又はR−C=O基(R:アルキル基)、nは1〜10の整数、mはn以下の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜。
【請求項4】
上記オリゴマー複合体が、次式(3)
【化3】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O基、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O基又はNR−C=O基(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよくそれぞれ独立して酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Gは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]、(CF)j又は(CFO)h、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項5】
上記オリゴマー複合体が、次式(4)
【化4】

(式中のRは炭素数2〜10個で分子量119〜1000の修飾又は非修飾のフロオロアルキル基から成る疎水基、R’はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基、XはOH基、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)COY基(Y:親水基)又はO=C−OY(Y:親水基)から成る親水基、Bは酸素原子、O=C−O、O=C−OY(Y:親水基)、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、EはBと同一でも異なっていてもよく酸素原子、O=C−O、NH−C=O又はNR−C=O(R:アルキル基)、Lは[(CHO)l−[Si(CHO]k−(CHO)l]−α、(CF)j−α又は(CFO)h−αを示し、この場合、αはXと同一でも異なっていてもよくCOY基(親水基)、NCO基、NH基、NHR基(R:アルキル基)、R基(アルキル基)、OH基又は水素原子、nは1〜10の整数、mはn以下の整数、kは1〜500の整数、lは0〜10の整数、jは0〜20の整数、hは1〜20の整数を示す)で表される構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項6】
上記(1)〜(4)のいずれか1つの式で表されるオリゴマー又はオリゴマー複合体において、鎖状オリゴマー部位の分子量が252〜100,000であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項7】
上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体を、樹脂固形分に対して0.05〜50質量%の割合で含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項8】
2種の顔料を含み、上記1種の顔料が平均粒径30〜500nmの小粒径の顔料であり、他の顔料が平均粒径が500nmを超える大粒径の顔料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項9】
上記顔料が、有機系顔料、無機系顔料及び光輝顔料から成る群より選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項10】
積層構造を有し、そのいずれか1つの階層に、上記オリゴマー及び/又はオリゴマー複合体と、このオリゴマー及び/又はオリゴマー複合体に保持された上記1種の顔料とを含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の塗膜。
【請求項11】
上記積層構造が、クリヤー塗膜、濁りクリヤー塗膜、艶消しクリヤー塗膜及びエナメル塗膜から成る群より選ばれた少なくとも1種の機能を有する塗膜を備えたことを特徴とする請求項10に記載の塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280698(P2009−280698A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134028(P2008−134028)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】