説明

塗装ロボットの教示方法および塗装方法

【課題】 塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することができる塗装ロボットの教示方法、および塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することにより、被塗物を効率よく塗装することができる塗装方法を提供すること。
【解決手段】 自動車ボデー2の三次元データを読み込み、自動車ボデー2の塗装範囲を画成するための基準となる複数の塗装ポイントと、複数の塗装ポイントのそれぞれに対応するコンベヤ値Cvとからなる仮教示点をシミュレーションにより設定し、複数の仮教示点を、コンベヤ値Cvの特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分する。そして、各前記塗装範囲群におけるコンベヤ値Cvの特定範囲の中間値を算出し、各中間値を、塗装範囲群における塗装ロボット4の動作開始点となるように設定することによって、塗装ロボット4に教示する。そして、その塗装ロボット4を用いて塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ロボットの教示方法およびその教示方法により教示された塗装ロボットを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボデーや自動車部品などの各種被塗物(ワーク)を塗装するラインでは、塗装ロボットを用いた塗装が実施されている。塗装ロボットとしては、例えば、プレイバック式ロボットが導入されている。
プレイバック式ロボットは、教示(ティーチング)によって記憶された動作プログラムを実行することにより作業を行なう。したがって、塗装ロボットを用いて塗装作業を行なう場合には、ロボットに記憶させる動作プログラムを予め作成し、その動作プログラムをロボットに記憶させる必要がある。
【0003】
塗装ロボットの教示方法としては、ワークを塗装ライン上の任意の移動位置に停止させるごとにロボットの機体を操作し、ワークが当該位置を実際に通過するときに塗装されるワーク上の塗装ポイントに適合した姿勢を、塗装ロボットに記憶させる方法がある。しかし、このような教示方法では、塗装ロボットの機体を使用するため、塗装ラインを止めなければならず、また、1つ1つの教示を手作業で行なわなければならない。
【0004】
そのため、近年では、ロボットの機体を使用せず、ワークやロボットの動作を画面上でシミュレーションしながら動作プログラムを作成し、作成後、その動作プログラムを塗装ロボットに記憶させる、いわゆるオフラインティーチングが注目されている。
例えば、自動車ボデー上における塗装軌跡の教示点をシミュレーションにより設定した後、さらにシミュレーションにより、自動車ボデーを各部位に応じた複数の塗装領域に分割し、塗装領域ごとに、領域内の教示点における教示ワーク位置を一定に設定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この教示方法では、まず、塗装軌跡を形成する塗装ポイントと、各塗装ポイントに対応する、自動車ボデーのコンベヤ上の位置(教示ワーク位置)とからなる教示点が設定される。次いで、教示点の軌跡に基づいて、自動車ボデーが前後方向に4つの塗装領域(フロントフェンダFF領域、フロントドアFD領域、リヤドアRD領域およびリヤフェンダRF領域)に分割され、これら領域の境界上の教示点が、プログラム分割ポイントM1〜M3として設定される。次いで、シミュレーションにより、自動車ボデーが一定速度でコンベヤ上を移動されるとともに、塗装ロボットが塗装軌跡にしたがって操作される。そして、各塗装領域において、その領域よりも前方の塗装領域との境界に設定された各プログラム分割ポイントM1〜M3に塗装ロボットが達するときの自動車ボデーの位置が、各塗装領域内の教示点における一様な教示ワーク位置として記録される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−267991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の教示方法では、各塗装領域内の教示点における教示ワーク位置が一定とされるため、自動車ボデーの各塗装ポイントが実際に塗装されるときのボデー位置と、当該塗装ポイントに対応する教示ワーク位置との間に誤差が生じる。そして、一定の教示ワーク位置が、前方の塗装領域との境界上の教示点における教示ワーク位置に設定されているため、各塗装領域の後方へ向かうにしたがって、その誤差は大きくなり、各塗装領域の後端の教示点において最大となる。
【0008】
このような誤差は、自動車ボデーおよび塗装ロボットの動作シミュレーションに基づき、塗装ロボットの正常な動作が確認された上で生じるものであるため、実際の塗装工程に差し障るものではないという見解がある。
しかし、ワークをコンベヤ上の正規の搭載位置に正確に載せることが困難であるから、実際の塗装工程では、コンベヤ上のボデーの位置がシミュレーションで想定したボデー位置からずれ、実際のボデー位置と教示ワーク位置との誤差がシミュレーション時よりも大きくなる場合がある。そして、その誤差が予想以上に大きくなり、実際のボデー位置が塗装ロボットの稼動範囲を超えると、塗装ロボットの動作が停止するなどの動作エラーが発生する。その上、上記の教示方法では、教示ワーク位置が一定な塗装領域が、自動車ボデーの各部位に応じて設定される。そのため、面積の大きい部位が一塗装領域として設定されて、塗装領域の面積が大きくなると、シミュレーション時においても誤差が大きくなる。その結果、ワークがコンベヤ上の正規の搭載位置から多少ずれただけでも、塗装ロボットの動作エラーが発生するおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することができる塗装ロボットの教示方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することにより、被塗物を効率よく塗装することができる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の塗装ロボットの教示方法は、塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装するための塗装ロボットの教示方法であって、前記被塗物の三次元データを読み込み、前記被塗物の塗装範囲を画成するための基準となる複数のポイントと、複数の前記ポイントのそれぞれに対応する、前記塗装ラインの搬送方向における前記被塗物の移動位置とからなる複数の教示点をシミュレーションにより設定する工程と、複数の前記教示点を、前記移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分する工程と、各前記塗装範囲群における前記移動位置の特定範囲の中間値を算出し、各前記中間値を、前記塗装範囲群における前記塗装ロボットの動作開始点となるように設定する工程とを備えることを特徴としている。
【0011】
この教示方法によれば、シミュレーションにより、複数のポイントと、それらのそれぞれに対応する移動位置とからなる複数の教示点が設定された後、複数の教示点が、被塗物の部位ごとではなく、移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分される。
そして、塗装範囲群の区分に用いられた移動位置の特定範囲の中間値が、各塗装範囲群における塗装ロボットの動作開始点として設定される。すなわち、各塗装範囲群において、塗装工程の序盤に塗装されるポイントに対応する移動位置が動作開始点として設定されるのではなく、塗装工程の中盤に塗装されるポイントに対応する移動位置(中間値)が動作開始点として設定される。そのため、各塗装範囲群に含まれる教示点を、中間値(動作開始点)を挟んでマイナス側とプラス側とに振り分けることができる。したがって、実際の被塗物の移動位置と動作開始点との最大誤差を、移動位置の特定範囲の1/2以下に抑制することができる。
【0012】
しかも、塗装範囲群が各教示点における移動位置に応じて設定されるため、塗装ロボットの稼動範囲に合わせて塗装範囲群の面積を調節すれば、実際の被塗物の移動位置と動作開始点との最大誤差を一層低減することができる。
これらの結果、実際の塗装時において、被塗物の移動位置と動作開始点との誤差がシミュレーション時よりも大きくなっても、被塗物の移動位置が塗装ロボットの稼動範囲内に収まる確率を向上させることができる。よって、塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の塗装ロボットの教示方法は、塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装するための塗装ロボットの教示方法であって、前記被塗物の三次元データを読み込み、前記被塗物の塗装範囲を画成するための基準となる複数のポイントと、複数の前記ポイントのそれぞれに対応する、前記塗装ラインの搬送方向における前記被塗物の移動位置とからなる複数の教示点をシミュレーションにより設定する工程と、複数の前記教示点における前記移動位置を、前記塗装ラインの原点側から等間隔な特定範囲に区分し、それぞれの特定範囲の中間値を算出する工程と、複数の前記教示点を、前記移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分する工程と、各前記中間値を、前記塗装範囲群における前記塗装ロボットの動作開始点となるように設定する工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
この教示方法によれば、シミュレーションにより、複数のポイントと、それらのそれぞれに対応する移動位置とからなる複数の教示点が設定され、複数の教示点における移動位置が、塗装ラインの原点側から等間隔な特定範囲に区分された後、それぞれの特定範囲の中間値が算出される。
そして、複数の教示点が、被塗物の部位ごとではなく、移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分された後、移動位置の特定範囲の中間値が、各塗装範囲群における塗装ロボットの動作開始点として設定される。すなわち、各塗装範囲群において、塗装工程の序盤に塗装されるポイントに対応する移動位置が動作開始点として設定されるのではなく、塗装工程の中盤に塗装されるポイントに対応する移動位置(中間値)が動作開始点として設定される。そのため、各塗装範囲群に含まれる教示点を、中間値(動作開始点)を挟んでマイナス側とプラス側とに振り分けることができる。したがって、実際の被塗物の移動位置と動作開始点との最大誤差を、移動位置の特定範囲の1/2以下に抑制することができる。
【0015】
しかも、塗装範囲群が各教示点における移動位置に応じて設定されるため、塗装ロボットの稼動範囲に合わせて塗装範囲群の面積を調節すれば、実際の被塗物の移動位置と動作開始点との最大誤差を一層低減することができる。
これらの結果、実際の塗装時において、被塗物の移動位置と動作開始点との誤差がシミュレーション時よりも大きくなっても、被塗物の移動位置が塗装ロボットの稼動範囲内に収まる確率を向上させることができる。よって、塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することができる。
【0016】
また、移動位置の特定範囲が塗装ラインの原点側から等間隔であるため、特定範囲の中間値が、原点側から同じ間隔で一定に増加する。そのため、被塗物が一定速度で搬送され、被塗物の実際の移動位置が一定割合で増加する塗装を行なう場合に好適に利用することができる。
さらに、本発明の塗装方法は、上記した塗装ロボットの教示方法により、塗装ロボットに教示する工程と、教示された前記塗装ロボットを用いて、塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装する工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
この塗装方法によれば、上記した塗装ロボットの教示方法により教示された塗装ロボットを用いて被塗物を塗装するので、被塗物の塗装にあたって、塗装ロボットの動作エラーの発生を抑制することができる。そのため、被塗物を効率よく塗装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗装方法が実行される塗装ラインのレイアウト図である。
【図2】(a)が、本発明の一実施形態に係る塗装ロボットの教示方法に用いられる装置のシステム図であり、(b)が、塗装ロボットの教示方法のフロー図である。
【図3】塗装ロボットの塗装軌跡の一例を示す自動車ボデーの概略側面図である。
【図4】仮教示点におけるコンベヤ値Cvの一覧表である。
【図5】塗装ロボットの塗装軌跡の一例を示す自動車ボデーの概略側面図であって、塗装範囲群ごとのグループ化後の仮教示点を示す図である。
【図6】本教示点におけるコンベヤ値Cvの一覧表である。
【図7】仮教示点におけるコンベヤ値Cvと、本教示点におけるコンベヤ値Cvとの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態の変形例における、仮教示点におけるコンベヤ値Cvと、本教示点におけるコンベヤ値Cvとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗装方法が実行される塗装ラインのレイアウト図である。
塗装ライン1は、被塗物としての自動車ボデー2を搬送するためのコンベヤ3と、コンベヤ3上の自動車ボデー2を塗装するための塗装ロボット4とを備えており、コンベヤ3の長手方向(搬送方向)に沿って上流側から下流側へ順に、複数の塗装ゾーン5に区画されている。塗装ライン1では、各塗装ゾーン5において自動車ボデー2の全体が塗装されることにより、自動車ボデー2上に塗料が塗り重ねられる。
【0020】
各塗装ゾーン5のコンベヤ3の長手方向に沿う長さは、例えば、70000〜90000mm(7〜9m)程度である。
各塗装ゾーン5の入口には、自動車ボデー2のコンベヤ3上における移動位置を特定するためのセンサ6が設けられている。自動車ボデー2の移動位置は、例えば、コンベヤ3の長手方向に沿う方向の座標系で表される。具体的には、コンベヤ3上における特定位置から、コンベヤ3の長手方向に沿う方向への移動距離(以下、コンベヤ値Cv)に基づいて定められる。
【0021】
センサ6としては、例えば、光電管センサなどが用いられ、各塗装ゾーン5への自動車ボデー2の到達を感知する。そして、自動車ボデー2が塗装ゾーン5の入口に到達した時点をセンサ6で感知することにより、その時点からの経過時間およびコンベヤ3の搬送速度などに基づいて、搬送方向に沿う方向の1次元の数値として、自動車ボデー2のコンベヤ値Cvが特定される。
【0022】
なお、以下の説明では、特に断りのない限り、各塗装ゾーン5の入口(つまり、センサ6が自動車ボデー2を感知するライン)をコンベヤ3の原点(コンベヤ値Cv=0mm)とする。
塗装ロボット4は、塗装ゾーン5ごとに複数台設置されている。各塗装ゾーン5では、複数の塗装ロボット4は、例えば、コンベヤ3を挟む両側に対をなして固定され、コンベヤ3の長手方向に沿って適当な間隔を隔てて合計2対設けられている。例えば、上流側の1対の塗装ロボット4は、自動車ボデー2の左右パネル(例えば、フロントフェンダパネル、フロントドアパネル、リヤドアパネルなど)の塗装を受け持ち、下流側の1対の塗装ロボット4は、自動車ボデー2の上下パネル(例えば、フードパネル、ルーフパネル、フロアパネルなど)を受け持つ。各塗装ゾーン5では、上記複数台の塗装ロボット4が、各受け持ち部位を塗装することにより、自動車ボデー2全体が塗装される。
【0023】
塗装ロボット4としては、例えば、複数の自由度を有する垂直多間接型ロボットなどを利用することができ、通常、4軸、5軸または6軸ロボット、好ましくは、6軸ロボットが利用される。
塗装ロボット4は、複数のリンク7と、リンク7同士を回動自在に連結するジョイント8とを有するアーム9を備えている。アーム9の先端には、エンドエフェクタとして、塗料を噴射するための塗装ガン10が取り付けられている。
【0024】
塗装ロボット4の座標系は、6軸ロボットの場合、例えば、各ジョイント8の回転座標系(x,y,z,α,β,γ)で表わされる。これら回転座標系のうち、塗装ロボット4のベース座標系(本実施形態では、例えば、x座標系とする。)は、コンベヤ3の長手方向に沿って回転する座標系として設定されている。したがって、自動車ボデー2のコンベヤ値Cvの変化に合わせて塗装ロボット4のx座標系を変化させることにより、コンベヤ3上を移動する自動車ボデー2に塗装ロボット4を追従させることができる。
【0025】
塗装ロボット4の稼動範囲Rは、回転座標系の上下限値に基づいて定められている。塗装ロボット4は、各回転座標系の上限値と下限値との間で特定される座標の範囲内で稼動することができる。例えば、塗装ロボット4のベース座標系(x座標系)では、塗装ロボット4の設置位置を原点として、上限値がコンベヤ3の下流側に、下限値がコンベヤ3の上流側に、互いに等しい大きさに設定されている。これにより、ベース座標系における塗装ロボット4の稼動範囲Rは、塗装ロボット4の原点を基準に、上流側および下流側のそれぞれに均等に振り分けられている。
【0026】
そして、この塗装ライン1では、塗装ロボット4は、コンベヤ3上を搬送される自動車ボデー2のコンベヤ値Cvを、例えば、コンベヤパルス信号などを取得することによって認識しながら、予め教示された動作プログラムに従って、稼動範囲Rを通過中の自動車ボデー2を塗装する。
図2の(a)は、本発明の一実施形態に係る塗装ロボットの教示方法に用いられる装置のシステム図であり、(b)は、塗装ロボットの教示方法のフロー図である。
【0027】
この塗装ロボット4の教示方法では、シミュレーションにより塗装ロボット4に教示する、いわゆるオフラインティーチングを実行する。
装置としては、自動車ボデー2の三次元データを蓄積するためのCADシステム11と、CADシステム11からデータを読み込み、自動車ボデー2および塗装ロボット4の動作をシミュレーションするためのシミュレーションシステム12とが用いられる。これらのシステムは、例えば、トランスレータなどを介して相互にデータ交換可能に接続されている。
【0028】
シミュレーションシステム12には、オフラインティーチング用のソフトウェアがインストールされている。ソフトウェアとしては、例えば、公知の教示ソフトウェアを用いることができ、具体的な市販品としては、Siemens社製「ROBCAD」などが挙げられる。
そして、この教示方法では、シミュレーションシステム12を用いて、仮教示点設定工程、コンベヤ値区分工程、塗装範囲群区分工程、中間値算出工程および本教示点設定工程をこの順に実行する。
1.仮教示点設定工程
図3は、塗装ロボットの塗装軌跡の一例を示す自動車ボデーの概略側面図である。
【0029】
仮教示点設定工程では、まず、CADシステム11に蓄積されている自動車ボデー2の三次元データを、シミュレーションシステム12に読み込ませる。データの読込み後、シミュレーションシステム12を用いて、塗装ロボット4の塗装軌跡Tを作成するための複数の仮教示点を設定する。
各仮教示点は、塗装ロボット4の座標系と、自動車ボデー2のコンベヤ値Cvとからなる。例えば、6軸塗装ロボットを利用する場合には、6軸ロボットの座標系(x,y,z,α,β,γ)と、自動車ボデー2のコンベヤ値Cvとの組み合わせからなる。
【0030】
シミュレーションシステム12では、例えば、画面上において、自動車ボデー2に対する塗装ガン10の相対的な位置(塗装ポイント●)を決定し、そのポイントに対応するコンベヤ値Cvを入力することによって、仮教示点を設定することができる。
上記のような設定操作により、例えば、自動車ボデー2の前側から後側に至るまで複数の塗装ポイントを決定し、さらに、各塗装ポイントの塗装順序に合わせて、塗装ポイントのそれぞれに対応するコンベヤ値Cvを決定することにより、仮教示点を設定する。
【0031】
これにより、フロントフェンダパネルFFから、フロントピラーFP、フロントドアパネルFD、センターピラーCPおよびリヤドアパネルRDをこの順に経由してリヤピラーRPへ至るように、コンベヤ値Cvが最小の仮教示点から最大の仮教示点に至るまで繋がる一筆書きの塗装軌跡Tが作成される。
このような塗装軌跡Tの長さ(塗装軌跡長)は、自動車ボデー2の形状や大きさなどに合わせて、適切に設定される。こうして、塗装工程における自動車ボデー2の塗装範囲が画成される。
【0032】
なお、本実施形態では、特に言及しないが、仮教示点は、塗装ロボット4の性能(例えば、塗装ガン10のパターン幅、塗料吐出量、塗装ガン10の動作速度など)に基づいて適切に設定される。また、本実施形態では、No.1〜No.43の合計43個の仮教示点を設定しているが、仮教示点の数は、自動車ボデー2の形状や大きさなどに合わせて、適宜変更することができる。
【0033】
塗装軌跡Tの作成後、シミュレーションシステム12により、自動車ボデー2に対する塗装ロボット4の塗装をシミュレーションする。これにより、自動車ボデー2の前側から後側に至るまでの一連の塗装において、塗装ロボット4の動作不良、塗装ムラなどの不具合が発生するか否かを確認する。不具合がある場合、仮教示点における、塗装ロボット4の座標系および/または自動車ボデー2のコンベヤ値Cvを適宜修正する。
【0034】
その後は、不具合の発生が確認されなくなるまで、上記した塗装シミュレーションおよび修正作業を続けることにより、仮教示点における塗装ロボット4の座標系および自動車ボデー2のコンベヤ値Cvを決定する。これにより、シミュレーション上において、塗装ロボット4の動作エラーが生じない、正常な塗装工程が確認することができる。
2.コンベヤ値区分工程および塗装範囲群区分工程
図4は、仮教示点におけるコンベヤ値Cvの一覧表である。図5は、塗装ロボットの塗装軌跡の一例を示す自動車ボデーの概略側面図であって、塗装範囲群ごとのグループ化後の仮教示点を示す図である。
【0035】
仮教示点の設定後、例えば、仮教示点におけるコンベヤ値Cvの一覧表を作成し、各コンベヤ値Cvを確認する。一覧表は、例えば、シミュレーションシステム12に表示される各仮教示点No.および各仮教示点におけるコンベヤ値Cvを、表計算ソフトに取り込んで作成することができる。
次いで、一覧表に基づいて、仮教示点におけるコンベヤ値Cvを、仮教示点No.の小さい側から順に、等間隔な特定範囲ごと(例えば、0mm(原点)から500mmごと)に区分することによって、同じ区分内に属する塗装範囲群ごとにグループ化する。これにより、例えば、仮教示点No.が最大のNo.43のコンベヤ値Cvが3500mm以上4000mm未満の場合には、各仮教示点が、下記第1〜第8塗装範囲群にグループ化される(図4では、第1〜第3塗装範囲群のみ表示)。
【0036】
第1塗装範囲群(図5の●):コンベヤ値Cv=0mm以上500mm未満
第2塗装範囲群(図5の■):コンベヤ値Cv=500mm以上1000mm未満
第3塗装範囲群(図5の◆):コンベヤ値Cv=1000mm以上1500mm未満
第4塗装範囲群(図5の△):コンベヤ値Cv=1500mm以上2000mm未満
第5塗装範囲群(図5の×):コンベヤ値Cv=2000mm以上2500mm未満
第6塗装範囲群(図5の○):コンベヤ値Cv=2500mm以上3000mm未満
第7塗装範囲群(図5の★):コンベヤ値Cv=3000mm以上3500mm未満
第8塗装範囲群(図5の▽):コンベヤ値Cv=3500mm以上4000mm未満
すなわち、各仮教示点は、図5に示すように、その塗装ポイントの自動車ボデー2に対する相対的な位置ではなく、コンベヤ値Cvの大きさに基づいてグループ化される。したがって、複数の塗装範囲群は、自動車ボデー2に対する相対的な位置に関して、自動車ボデー2の各パネルにそれらの一つが割り当てられるのではなく、各パネルに複数混在することとなる。例えば、フロントフェンダパネルFFにおいては、●の塗装ポイントで画成される第1塗装範囲群、■の塗装ポイントで画成される第2塗装範囲群、および◆の塗装ポイントで画成される第3塗装範囲群が混在することとなる。
3.中間値算出工程および本教示点設定工程
図6は、本教示点におけるコンベヤ値Cvの一覧表である。
【0037】
複数の仮教示点のグループ化後、第1〜第8塗装範囲群に区分するための基準としたコンベヤ値Cvの特定範囲の中間値を、それぞれの塗装範囲群について算出する。具体的には、各塗装範囲群のコンベヤ値Cvの特定範囲を定めるための下限値と上限値との平均値を算出し、その値を当該塗装範囲群における中間値とする。
例えば、第1塗装範囲群では、そのコンベヤ値Cvの特定範囲が0mm以上500mm未満であるから、当該範囲を定めるための下限値0mmと上限値500mmとの平均値250mmを算出し、これを第1塗装範囲群における中間値とする。そして、残りの第2〜第8の塗装範囲群についても、同様の方法により算出する。各塗装範囲群のコンベヤ値Cvの特定範囲を定めるための下限値および上限値、ならびにそれらの平均値(中間値)は、以下のとおりである。
【0038】
第2塗装範囲群:下限値500mm、上限値1000mm、平均値(中間値)750mm
第3塗装範囲群:下限値1000mm、上限値1500mm、平均値(中間値)1250mm
第4塗装範囲群:下限値1500mm、上限値2000mm、平均値(中間値)1750mm
第5塗装範囲群:下限値2000mm、上限値2500mm、平均値(中間値)2250mm
第6塗装範囲群:下限値2500mm、上限値3000mm、平均値(中間値)2750mm
第7塗装範囲群:下限値3000mm、上限値3500mm、平均値(中間値)3250mm
第8塗装範囲群:下限値3500mm、上限値4000mm、平均値(中間値)3750mm
次いで、各塗装範囲群において、その群に属する仮教示点におけるコンベヤ値Cvをすべて、上記で算出した中間値に設定する。これにより、仮教示点における塗装ロボット4の座標系が維持されたまま、コンベヤ値Cvのみが修正された本教示点を設定する。具体的には、第1塗装範囲群に属するNo.1〜No.5の仮教示点のコンベヤ値Cvをすべて、その群の中間値である250mmに設定する。また、第2塗装範囲群に属するNo.6〜No.10の仮教示点のコンベヤ値Cvについては、その群の中間値である750mmに設定する。さらに、第3〜第8塗装範囲群のそれぞれに属する仮教示点についても、上記と同様に、そのコンベヤ値Cvを中間値に設定する。
【0039】
本教示点が設定されることにより、各塗装範囲群では、その群に属する本教示点のコンベヤ値Cv(各塗装範囲群の中間値)が一定の値として、当該群における塗装ロボット4の動作開始点とされる。
塗装ロボット4の動作開始点は、塗装ロボット4が、自動車ボデー2の実際のコンベヤ値Cvに合わせて本教示点における座標系を修正する際に基準とするコンベヤ値Cvである。
【0040】
具体的には、塗装ロボット4は、その稼動範囲Rを通過する自動車ボデー2を、仮教示点の設定時に定められた塗装ポイントの塗装順序に従い、塗装軌跡Tをなぞるように塗装する。その際、自動車ボデー2の実際のコンベヤ値Cvの情報(例えば、コンベヤパルス信号)を取得し、取得されたコンベヤ値Cvと動作開始点のコンベヤ値Cvとを比較する。そして、2つのコンベヤ値Cv間に誤差がある場合、塗装ロボット4は、自己の座標系のうち、コンベヤ値Cvに対応する座標系(本実施形態では、x座標系)を、誤差分修正する。例えば、本教示点No.1における塗装ポイントの塗装後、本教示点No.2における塗装ポイントを塗装するときの実際のコンベヤ値Cvが180mmであって、動作開始点(Cv=250mm)に対して70mmの誤差がある場合、塗装ロボット4は、自己のx座標系を、上流側70mmに対応する回転角となるように修正する。
【0041】
そして、本教示点の設定後は、本教示点が設定された動作プログラムをシミュレーションシステム12から読み出し、塗装ロボット4のコントローラにその動作プログラムを入力する。これにより、本実施形態の教示方法で作成した動作プログラムを、ロボットに教示することができる。
その後、実際の塗装工程では、上記動作プログラムを読み込んだ塗装ロボット4を用いて、塗装ライン1のコンベヤ3上を連続搬送される自動車ボデー2を塗装する。
4.作用効果
以上のように、上記教示方法によれば、シミュレーションにより、塗装ロボット4の座標系と、それに対応するコンベヤ値Cvの組み合わせからなる仮教示点が複数設定されることによって、自動車ボデー2に対する塗装ロボット4の塗装軌跡Tが作成される(図3参照)。
【0042】
その後、塗装ロボット4の塗装シミュレーションと、塗装シミュレーション時に発生する不具合の修正作業とが実行される。これにより、シミュレーション上において、塗装ロボット4の動作エラーが生じない、正常な塗装工程を確認することができる。
さらに、シミュレーション上での塗装工程の確認後、複数の仮教示点を、コンベヤ値Cvの特定範囲に基づいてグループ化することによって、塗装軌跡Tが第1〜第8塗装範囲群に区分される(図4および図5参照)。
【0043】
そして、第1〜第8塗装範囲群のそれぞれについて、コンベヤ値Cvの特定範囲の平均値(中間値)を算出し、各群に属する仮教示点におけるコンベヤ値Cvをすべて、各群の中間値に設定する(図6参照)。これにより、塗装ロボット4に実際に教示される本教示点が設定されるので、各塗装範囲群では、その群に属する本教示点のコンベヤ値Cv(各塗装範囲群の中間値)が一定の値として、当該群における塗装ロボット4の動作開始点とされる。すなわち、各塗装範囲群において、塗装工程の序盤に塗装される塗装ポイントに対応するコンベヤ値Cvが動作開始点として設定されるのではなく、塗装工程の中盤に塗装される塗装ポイントに対応するコンベヤ値Cv(中間値)が動作開始点として設定される。
【0044】
図7は、仮教示点におけるコンベヤ値Cv(塗装シミュレーション後のコンベヤ値Cv)と、本教示点におけるコンベヤ値Cvとの関係を示すグラフである。
上記のように、各塗装範囲群の中間値が当該塗装範囲群の動作開始点として設定される結果、仮教示点におけるコンベヤ値Cvと本教示点におけるコンベヤ値Cvとの関係は、図7に示すように、各塗装範囲群において一定であり、塗装範囲群が変わるごとに一定の割合(500mmごと)で変化する階段状となる。そのため、コンベヤ3の搬送速度が一定であることによって、各塗装範囲群に属する本教示点を、中間値(動作開始点)を挟んでマイナス側(コンベヤ値Cvが小さい側)とプラス側(コンベヤ値Cvが大きい側)とに振り分けることができる。
【0045】
したがって、各塗装範囲群においては、自動車ボデー2の実際のコンベヤ値Cvと各本教示点の動作開始点(中間値)との最大誤差を、コンベヤ値Cvの特定範囲(500mm範囲)の1/2以下である250mm以下に抑制することができる。
しかも、塗装範囲群が、自動車ボデー2のフロントフェンダパネルFF、フロントドアパネルFDなどの自動車ボデー2の各部位ではなく、各仮教示点におけるコンベヤ値Cvに応じて区分されるため、塗装ロボット4の稼動範囲Rに合わせて塗装範囲群の面積を調節すれば、実際の自動車ボデー2のコンベヤ値Cvと動作開始点との最大誤差を一層低減することができる。例えば、塗装ロボット4の稼動範囲Rが比較的狭い場合において、コンベヤ値Cvの特定範囲をより狭くすることにより最大誤差を低減すれば、稼動範囲Rの狭い塗装ロボット4の動作エラーを良好に抑制することができる。
【0046】
これらの結果、実際の塗装時において、自動車ボデー2のコンベヤ値Cvと動作開始点との誤差がシミュレーション時よりも大きくなり、塗装ロボット4によるx座標系の修正量が大きくなっても、修正後のx座標系が塗装ロボット4の稼動範囲R内に収まる確率を向上させることができる。よって、塗装ロボット4の動作エラーの発生を抑制することができる。
【0047】
そのため、上記教示方法により教示された塗装ロボット4を用いる塗装方法によれば、自動車ボデー2の塗装にあたって、塗装ロボット4の動作エラーの発生を抑制することができる。その結果、自動車ボデー2を効率よく塗装することができる。
5.変形例
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これらに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【0048】
例えば、仮教示点のコンベヤ値Cvを任意な間隔で特定範囲に区分することにより、塗装範囲群を区分し、当該特定範囲の平均値(中間値)を算出して、その値を各塗装範囲群における本教示点のコンベヤ値Cvとすることもできる。例えば、第1塗装範囲群について、コンベヤ値をCv0mm以上1000mm未満として中間値を500mmとし、第2塗装範囲群について、コンベヤ値Cvを1000mm以上1500mm未満として中間値を1250mmとし、第3塗装範囲群について、コンベヤ値Cvを1500mm以上2500mm未満として中間値を2000mm・・・とすることができる。その場合、本教示点設定後における、仮教示点におけるコンベヤ値Cvと本教示点のコンベヤ値Cvとの関係は、図8に示すとおりとなる。このような教示方法によれば、実際の自動車ボデー2のコンベヤ値Cvの変化割合に合わせて、特定範囲の間隔を設定することができるので、例えば、コンベヤ3の搬送速度が一定ではなく、時間とともに変化する場合に好適に利用することができる。
【0049】
また、上記の実施形態では、自動車ボデー2の左側パネルを塗装する場合の例を代表して取り上げたが、右側パネル、上側パネルおよび下側パネルを塗装する場合も、上記と同様に教示すればよい。
さらに、上記の実施形態では、塗装ロボット4により塗装される被塗装物として、自動車ボデーを取り上げたが、本発明に係る塗装方法は、例えば、鉄道車両、建築資材などの比較的大型な製品、家電製品、携帯電話などの比較的小型な製品などの各種工業製品の塗装に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 塗装ライン
2 自動車ボデー
4 塗装ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装するための塗装ロボットの教示方法であって、
前記被塗物の三次元データを読み込み、前記被塗物の塗装範囲を画成するための基準となる複数のポイントと、複数の前記ポイントのそれぞれに対応する、前記塗装ラインの搬送方向における前記被塗物の移動位置とからなる複数の教示点をシミュレーションにより設定する工程と、
複数の前記教示点を、前記移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分する工程と、
各前記塗装範囲群における前記移動位置の特定範囲の中間値を算出し、各前記中間値を、前記塗装範囲群における前記塗装ロボットの動作開始点となるように設定する工程とを備えることを特徴とする、塗装ロボットの教示方法。
【請求項2】
塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装するための塗装ロボットの教示方法であって、
前記被塗物の三次元データを読み込み、前記被塗物の塗装範囲を画成するための基準となる複数のポイントと、複数の前記ポイントのそれぞれに対応する、前記塗装ラインの搬送方向における前記被塗物の移動位置とからなる複数の教示点をシミュレーションにより設定する工程と、
複数の前記教示点における前記移動位置を、前記塗装ラインの原点側から等間隔な特定範囲に区分し、それぞれの特定範囲の中間値を算出する工程と、
複数の前記教示点を、前記移動位置の特定範囲ごとに複数の塗装範囲群に区分する工程と、
各前記中間値を、前記塗装範囲群における前記塗装ロボットの動作開始点となるように設定する工程とを備えることを特徴とする、塗装ロボットの教示方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗装ロボットの教示方法により、塗装ロボットに教示する工程と、
教示された前記塗装ロボットを用いて、塗装ライン上を連続搬送される被塗物を塗装する工程とを備えることを特徴とする、塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−5612(P2011−5612A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153939(P2009−153939)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】