説明

塗装品

【課題】電子機器、楽器、音響機器その他の塗装品において、その外観の高級感を長期にわたって維持できるようにする。
【解決手段】基材2の表面に、カーボンブラック4などの顔料を含むベース着色層3が形成され、このベース着色層3の上側に、黒染料7などの染料を含むカラークリヤー層5が形成された塗装品1であって、カラークリヤー層5に光安定剤が添加されている。これにより、紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルを光安定剤で効率よく捕捉できるため、塗装品1の外観の高級感を長期にわたって維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、楽器、音響機器その他の塗装品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機器など各種の電子機器のボディ部材には、軽量であることが求められることから、一般に、アルミニウム素材やプラスチック素材からなる基材を用い、この基材の表面に、種々の付加価値を与えるため、塗装を用いた表面仕上げ加工が施されて塗装品となる場合が多い。また、ピアノなどの楽器やスピーカーなどの音響機器については、木材からなる基材を用い、この基材の表面に、重厚感を与えるため、着色されたコーティング液を何層も重ね塗りすることにより、表面仕上げ加工が施されて塗装品となる場合が多い。そして、これらの塗装品の外観には、近年、高級感が求められている。
【0003】
こうした要請を受けて、塗装品の外観に高級感を与えるべく、基材の表面に形成されるベース着色層に顔料を含めるとともに、このベース着色層の上側に形成されるカラークリヤー層に染料を含める技術(以下、公知技術1という。)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この公知技術1によれば、カラーベース層中の顔料による散乱などをカラークリヤー層中の染料で有効に抑制することができるため、塗膜のトータル明度を従来の限界より低下させることができることから、塗装品の外観に高級感(漆黒感、深み感)が与えられるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2876437号公報(段落〔0002〕〔0006〕〔0014〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カラークリヤー層に含まれる染料は、一般に耐光性が低く、紫外線などの光の作用を受けて劣化しやすいという性質を有している。そのため、公知技術1では、染料による散乱の抑制作用が徐々に薄れ、塗装品の外観の高級感を長期にわたって維持することができない恐れがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、外観の高級感を長期にわたって維持することが可能な塗装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の塗装品は、基材(2)の表面に、顔料(4)を含むベース着色層(3)が形成され、このベース着色層の上側に、染料(7)を含むカラークリヤー層(5)が形成された塗装品(1)であって、前記カラークリヤー層に光安定剤が添加されている塗装品としたことを特徴とする。
【0008】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものでないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルを光安定剤で効率よく捕捉できるため、外観の高級感を長期にわたって維持することが可能な塗装品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1に係る塗装品を示す断面図である。
【図2】同実施の形態1に係る塗装品の製造過程を例示するフロー図である。
【図3】同実施の形態1に係る塗装品の製造過程を示す断面図であって、(a)はベース着色層形成工程を示す図、(b)はカラークリヤー層形成工程を示す図、(c)はクリヤー層形成工程を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る塗装品を示す断面図である。
【図5】同実施の形態2に係る塗装品の製造過程を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0012】
図1ないし図3は、本発明の実施の形態1に係る図である。この実施の形態1では、顔料としてカーボンブラック4を用い、染料として黒染料7を用いている。
【0013】
まず、構成を説明する。
【0014】
この実施の形態1に係る塗装品1は、図1に示すように、アルミニウム素材、プラスチック素材、木材などからなる基材2を有している。基材2の表面にはベース着色層3が所定の厚さ(例えば、10〜30μm)で形成されており、ベース着色層3には、顔料としてカーボンブラック4が均一に分散した状態で含まれている。この顔料は、有機顔料であると無機顔料であるとを問わない。また、ベース着色層3の上側にはカラークリヤー層5が所定の厚さ(例えば、10〜20μm)で形成されており、カラークリヤー層5には、染料として黒染料7が含まれている。さらに、カラークリヤー層5には、ヒンダードアミン系またはヒンダードフェノール系の光安定剤が添加されているとともに、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が添加されている。さらに、カラークリヤー層5の上側にはクリヤー層6が所定の厚さ(例えば、0.1〜1μm)で平滑に形成されている。
【0015】
ここで、カラークリヤー層5は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂成分に黒染料7が溶解したものである。
【0016】
また、クリヤー層6は、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび無機フッ化物からなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂成分を含むものである。ここで、無機フッ化物としては、フッ化アルミニウム(AlF3 )、フッ化バリウム(BaF2 )、フッ化カルシウム(CaF2 )、チオライト(Na5 Al3 14)、クリオライト(Na3 AlF6 )、フッ化ガドリウム(GdF3 )、フッ化鉛(PbF2 )、フッ化ランタン(LaF3 )、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2 )、フッ化ネオジム(NdF3 )、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化イッテルビウム(YbF3 )、フッ化イットリウム(YF3 )から選ばれた一つ以上が好適である。
【0017】
そして、クリヤー層6の屈折率は、カラークリヤー層5の屈折率より小さくなっている。
【0018】
以上のような構成を有する塗装品1を製造する際には、例えば、図2に示すフロー図に従い、以下に述べるように、基材2上にベース着色層3、カラークリヤー層5およびクリヤー層6を順に積層する。
【0019】
まず、ベース着色層形成工程で、図3(a)に示すように、基材2の表面にベース着色層3を形成する(ステップS101〜S103)。それには、カーボンブラック4が均一に分散された黒塗料を調合し(ステップS101)、この黒塗料を基材2の表面にコーティングしてコーティング皮膜を形成した後(ステップS102)、熱循環式加熱炉に入れて加熱することにより、このコーティング皮膜を硬化させてベース着色層3を形成する(ステップS103)。すると、カーボンブラック4が均一に分散されたベース着色層3が基材2の表面に形成された状態となる。
【0020】
このとき、黒塗料のコーティング方法は、特に限定される訳ではなく、例えば、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせを採用することができる。特に、均一膜厚で10μm厚以上をコートする方法としては、電着塗装が良好である。
【0021】
次いで、カラークリヤー層形成工程に移行し、図3(b)に示すように、ベース着色層3の上側にカラークリヤー層5を形成する(ステップS104〜S107)。それには、黒染料を光安定剤および紫外線吸収剤とともにシンナーに溶解し(ステップS104)、これを熱硬化型のクリヤー塗料に混ぜて十分に撹拌することにより、カラークリヤーコート液を調製した後(ステップS105)、このカラークリヤーコート液をベース着色層3上にコーティングしてコーティング皮膜を形成し(ステップS106)、さらに、熱循環式加熱炉に入れて加熱することにより、このコーティング皮膜を硬化させてカラークリヤー層5を形成する(ステップS107)。すると、黒染料、光安定剤および紫外線吸収剤が溶解したカラークリヤー層5がベース着色層3の上側に形成された状態となる。
【0022】
このとき、カラークリヤーコート液のコーティング方法は、特に限定される訳ではなく、例えば、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせを採用することができる。特に、スプレー塗装、浸漬引き上げが良好である。
【0023】
最後に、クリヤー層形成工程に移行し、図3(c)に示すように、カラークリヤー層5の上側にクリヤー層6を形成する(ステップS108〜S110)。それには、フッ素系シランカップリング剤を調合し、これを熱硬化型のクリヤー塗料に混ぜてクリヤーコート液を調製し(ステップS108)、このクリヤーコート液をカラークリヤー層5上にコーティングしてコーティング皮膜を形成した後(ステップS109)、熱循環式加熱炉に入れて加熱することにより、このコーティング皮膜を硬化させてクリヤー層6を形成する(ステップS110)。すると、カラークリヤー層5の上側にクリヤー層6が平滑に形成された状態となる。
【0024】
このとき、クリヤーコート液のコーティング方法は、特に限定される訳ではなく、例えば、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせを採用することができる。特に、浸漬引き上げ、真空蒸着が良好である。
【0025】
ここで、塗装品1の製造過程が終了する。
【0026】
このようにして製造された塗装品1においては、反射率が大幅に低下して明度が著減するため、外観に高級感が得られる。
【0027】
すなわち、図1に示すように、塗装品1の外部(図1上方)から入射した光は、一部がクリヤー層6の表面で反射され、残部がクリヤー層6内をカラークリヤー層5側へ透過する。この透過光は、一部がクリヤー層6とカラークリヤー層5との境界面で反射され、残部がカラークリヤー層5内をベース着色層3側へ透過する。この透過光は、一部がカラークリヤー層5とベース着色層3との境界面で反射され、残部がベース着色層3内を基材2側へ透過する。この透過光は、基材2の表面で反射された後、一部がベース着色層3とカラークリヤー層5との境界面で反射され、残部がカラークリヤー層5内をクリヤー層6側へ透過する。この透過光は、一部がカラークリヤー層5とクリヤー層6との境界面で反射され、残部がクリヤー層6内を透過する。この透過光は、一部がクリヤー層6の表面で反射され、残部が塗装品1の外部へ出射される。
【0028】
このとき、カラークリヤー層5内を透過する光は、一部がカラークリヤー層5中の黒染料7に吸収されて減衰する。また、ベース着色層3内を透過する光は、一部がベース着色層3中のカーボンブラック4に吸収されて減衰し、残部がカーボンブラック4の表面で散乱する。この散乱光は、カラークリヤー層5に戻るものと戻らないものとに二分されるが、前者の大部分はカラークリヤー層5中の黒染料7に吸収されて減衰し、後者は塗装品1の表面に戻ることはない。
【0029】
さらに、カラークリヤー層5の屈折率がクリヤー層6の屈折率がより大きいため、カラークリヤー層5とクリヤー層6との境界面にカラークリヤー層5側から入射した光は、その入射角が所定の臨界角(スネルの法則に基づき、カラークリヤー層5およびクリヤー層6の屈折率から算出される角度)を超えた場合に、この境界面で全反射し、クリヤー層6側、ひいては塗装品1の表面に戻らなくなる。
【0030】
これらの結果、塗装品1に対する入射光は、塗装品1の表面に戻りにくくなる。したがって、塗装品1は、反射率が大幅に低下して明度が著減するため、外観に高級感が得られる。
【0031】
また、塗装品1では、上述したとおり、ベース着色層3中にカーボンブラック4が均一に分散しているとともに、表面のクリヤー層6の平滑性が高いことから、クリヤー層6の表面で反射される光は、光源色と層内拡散光とのコントラストが増して鮮映性が高まる。そのため、塗装品1は、本来の層内拡散色(黒)が見えやすくなり、外観の高級感がますます向上する。
【0032】
しかも、カラークリヤー層5には光安定剤が添加されているので、紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルをこの光安定剤が効率よく捕捉(トラップ)する。その結果、カラークリヤー層5中の黒染料7は、その弱点である耐光性の低さが補われるため、塗装品1の外観の高級感を長期にわたって維持することが可能となる。
【0033】
また、カラークリヤー層5には紫外線吸収剤が添加されているので、樹脂にとって有害な紫外線をこの紫外線吸収剤が吸収する。その結果、カラークリヤー層5中の黒染料7は、その弱点である耐光性の低さが補われるため、塗装品1の外観の高級感を長期にわたって維持することが可能となる。
【0034】
そして、光安定剤と紫外線吸収剤とは、上述したとおり、耐光性の低さを補う機構が互いに異なるため、両者(光安定剤および紫外線吸収剤)を併用することによって相乗効果が得られ、極めて優れた耐光性を示すことになる。
[発明の実施の形態2]
【0035】
図4および図5は、本発明の実施の形態2に係る図である。
【0036】
この実施の形態2に係る塗装品1は、図4に示すように、カラークリヤー層5の上側にクリヤー層が形成されていない点を除き、上述した実施の形態1と同じ構成を有している。なお、実施の形態1と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
そして、この塗装品1を製造する際には、例えば、図6に示すフロー図に従い、以下に述べるように、基材2上にベース着色層3およびカラークリヤー層5を順に積層する。
【0038】
まず、ベース着色層形成工程で、基材2の表面にベース着色層3を形成する(ステップS201〜S203)。それには、カーボンブラック4が均一に分散された黒塗料を調合し(ステップS201)、この黒塗料を基材2の表面にコーティングしてコーティング皮膜を形成した後(ステップS202)、熱循環式加熱炉に入れて加熱することにより、このコーティング皮膜を硬化させてベース着色層3を形成する(ステップS203)。すると、カーボンブラック4が均一に分散されたベース着色層3が基材2の表面に形成された状態となる。
【0039】
このとき、黒塗料のコーティング方法は、特に限定される訳ではなく、例えば、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせを採用することができる。
【0040】
次いで、カラークリヤー層形成工程に移行し、ベース着色層3の上側にカラークリヤー層5を形成する(ステップS204〜S207)。それには、黒染料を光安定剤および紫外線吸収剤とともにシンナーに溶解し(ステップS204)、これを紫外線硬化型のクリヤー塗料に混ぜて十分に撹拌することにより、カラークリヤーコート液を調製した後(ステップS205)、このカラークリヤーコート液をベース着色層3上にコーティングしてコーティング皮膜を形成し(ステップS206)、さらに、紫外線照射装置で紫外線を照射することにより、このコーティング皮膜を硬化させてカラークリヤー層5を形成する(ステップS207)。すると、黒染料、光安定剤および紫外線吸収剤が溶解したカラークリヤー層5がベース着色層3の上側に形成された状態となる。
【0041】
このとき、カラークリヤーコート液のコーティング方法は、特に限定される訳ではなく、例えば、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせを採用することができる。
【0042】
ここで、塗装品1の製造過程が終了する。
【0043】
このようにして製造された塗装品1においては、反射率が大幅に低下して明度が著減するため、外観に高級感が得られる。
【0044】
すなわち、図4に示すように、塗装品1の外部(図4上方)から入射した光は、一部がカラークリヤー層5の表面で反射され、残部がカラークリヤー層5内をベース着色層3側へ透過する。この透過光は、一部がカラークリヤー層5とベース着色層3との境界面で反射され、残部がベース着色層3内を基材2側へ透過する。この透過光は、基材2の表面で反射された後、一部がベース着色層3とカラークリヤー層5との境界面で反射され、残部がカラークリヤー層5内を透過する。この透過光は、一部がカラークリヤー層5の表面で反射され、残部が塗装品1の外部へ出射される。
【0045】
このとき、カラークリヤー層5内を透過する光は、一部がカラークリヤー層5中の黒染料7に吸収されて減衰する。また、ベース着色層3内を透過する光は、一部がベース着色層3中のカーボンブラック4に吸収されて減衰し、残部がカーボンブラック4の表面で散乱する。この散乱光は、カラークリヤー層5に戻るものと戻らないものとに二分されるが、前者の大部分はカラークリヤー層5中の黒染料7に吸収されて減衰し、後者は塗装品1の表面に戻ることはない。
【0046】
その結果、塗装品1に対する入射光は、塗装品1の表面に戻りにくくなる。したがって、塗装品1は、反射率が大幅に低下して明度が著減するため、外観に高級感が得られる。
【0047】
また、塗装品1では、ベース着色層3中にカーボンブラック4が均一に分散していることから、カラークリヤー層5の表面で反射される光は、光源色と層内拡散光とのコントラストが増して鮮映性が高まる。そのため、塗装品1は、本来の層内拡散色(黒)が見えやすくなり、外観の高級感がますます向上する。
【0048】
しかも、カラークリヤー層5には光安定剤が添加されているので、紫外線エネルギーによって生じる有害なフリーラジカルをこの光安定剤が効率よく捕捉(トラップ)する。その結果、カラークリヤー層5中の黒染料7は、その弱点である耐光性の低さが補われるため、塗装品1の外観の高級感を長期にわたって維持することが可能となる。
【0049】
また、カラークリヤー層5には紫外線吸収剤が添加されているので、樹脂にとって有害な紫外線をこの紫外線吸収剤が吸収する。その結果、カラークリヤー層5中の黒染料7は、その弱点である耐光性の低さが補われるため、塗装品1の外観の高級感を長期にわたって維持することが可能となる。
【0050】
そして、光安定剤と紫外線吸収剤とは、上述したとおり、耐光性の低さを補う機構が互いに異なるため、両者(光安定剤および紫外線吸収剤)を併用することによって相乗効果が得られ、極めて優れた耐光性を示すことになる。
[発明のその他の実施の形態]
【0051】
なお、上述した実施の形態1、2では、ベース着色層3にカーボンブラック4が含まれる塗装品1について説明したが、本発明では、カーボンブラック4に加えて黒染料をベース着色層3に含ませても構わない。
【0052】
また、上述した実施の形態1、2では、ヒンダードアミン系またはヒンダードフェノール系の光安定剤がカラークリヤー層5に添加された塗装品1について説明したが、本発明に用いられる光安定剤は、これらには限定されない。
【0053】
また、上述した実施の形態1、2では、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤がカラークリヤー層5に添加された塗装品1について説明した。しかし、本発明では、ベンゾトリアゾール系以外の紫外線吸収剤を代用または併用したり、紫外線吸収剤の添加を省いたりすることも可能である。
【0054】
また、上述した実施の形態1、2では、カラークリヤー層5に光安定剤および紫外線吸収剤が添加された塗装品1について説明した。しかし、本発明では、カラークリヤー層5を形成する樹脂の改質、補強、増量などを目的として、各種の充填剤(フィラー)をカラークリヤー層5に充填しても構わない。
【0055】
また、上述した実施の形態1では、クリヤー層6の屈折率がカラークリヤー層5の屈折率より小さい塗装品1について説明したが、本発明では、必ずしもこれらの屈折率の大小関係を満たす必要はない。
【0056】
また、上述した実施の形態1、2では、カーボンブラック4および黒染料7を用いた無彩色の塗装品1について説明した。しかし、顔料および染料を適宜選択することにより、赤、緑、青などの色相をもつ色、つまり有彩色を呈する塗装品1に本発明を同様に適用することも可能である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
【0058】
実施の形態2に対応する塗装品(実施例1)を試作した。すなわち、この実施例1では、基材2としてアルマイト基板を用いるとともに、このアルマイト基板上へ黒塗装を行ってベース着色層3を形成した。また、紫外線硬化型のクリヤー塗料とシンナーとの混合割合を10質量部:5質量部とし、この混合物にオリエント化学工業(株)製の染料「VALIFAST BLACK 3820」を5質量%添加してスターラで十分に撹拌した後、紫外線硬化型樹脂と混合撹拌し、これをカラークリヤー層5として用いた。そして、これをベース着色層3の上にコーティングし、クリヤー塗料および紫外線硬化型樹脂を紫外線硬化させ、これを実施例1とした。
[比較例1]
【0059】
一方、アルマイト基板の表面に黒塗装を行うことにより、塗装品(比較例1)を試作した。
[明度の比較]
【0060】
以上のようにして得られた実施例1および比較例1について、その明度(つまり、表面の反射率の大小を判定する視知覚の属性を尺度化した物理量)を比較すべく、それぞれ明度指数(L*値)を測定した。
【0061】
その結果、明度指数は、比較例1では1.5であったのに対して、実施例1では0.3であった。このことから、比較例1に比べて実施例1では、表面の反射率が低下し、黒味が増したことがわかる。
[鮮映性の比較]
【0062】
また、実施例1および比較例1について、それぞれ鮮映性を評価した。すなわち、(株)村上色彩研究所社製のゴニオフォトメーターGP200(狭い角度範囲で、その中心の角度がいろいろ変化する光の集まり(集光角)を利用して指向性反射率を測定するのに用いる器具)を用いて、入射角45°の正反射光のピーク角度から2.5°ずらした位置での反射率を測定した。その結果、この反射率は、比較例1では4であったのに対して、実施例1では2であった。
【0063】
また、これら以外の塗装品についても、正反射光のピーク角度から2.5°ずらした位置での反射率を同様に測定したところ、ピアノが8、ゲーム機が9、携帯電話端末が23〜85、スピーカーが60、デジタルカメラが54であった。
【0064】
これらの結果から、比較例1やその他の塗装品に比べて実施例1では、光源色と層内拡散光とのコントラストが大きく、鮮映性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機器、携帯音楽プレーヤーなどの電子機器や、ピアノ、ギター、バイオリンなどの楽器、スピーカー、ヘッドホン、ホームシアターなどの音響機器、家具、道具などの什器その他、各種の工業製品を製造する際に、その塗装工程において幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1……塗装品
2……基材
3……ベース着色層
4……カーボンブラック(顔料)
5……カラークリヤー層
6……クリヤー層
7……染料(黒染料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、顔料を含むベース着色層が形成され、このベース着色層の上側に、染料を含むカラークリヤー層が形成された塗装品であって、
前記カラークリヤー層に光安定剤が添加されていることを特徴とする塗装品。
【請求項2】
前記光安定剤は、ヒンダードアミン系またはヒンダードフェノール系の光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載の塗装品。
【請求項3】
前記カラークリヤー層には、紫外線吸収剤が添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の塗装品。
【請求項4】
前記カラークリヤー層は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂およびポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂成分に前記染料が溶解したものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗装品。
【請求項5】
前記ベース着色層に含まれる顔料は、カーボンブラックであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗装品。
【請求項6】
前記ベース着色層には、染料が含まれていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗装品。
【請求項7】
前記ベース着色層および前記カラークリヤー層の少なくとも一方は、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせからなるコーティング方法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塗装品。
【請求項8】
前記カラークリヤー層の上側には、クリヤー層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の塗装品。
【請求項9】
前記クリヤー層の屈折率は、前記カラークリヤー層の屈折率より小さいことを特徴とする請求項8に記載の塗装品。
【請求項10】
前記クリヤー層は、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび無機フッ化物からなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂成分を含むものであることを特徴とする請求項8または9に記載の塗装品。
【請求項11】
前記クリヤー層は、スプレー塗装、電着塗装、浸漬引き上げ、スピンコート、ロールコート、グラビアコート若しくは真空蒸着またはこれらの組み合わせからなるコーティング方法によって形成されたものであることを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の塗装品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−279899(P2010−279899A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135158(P2009−135158)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】