説明

塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板およびその製造方法

【課題】本発明は、優れた加工性を有し、さらに厚鋼板の耐食性を向上させ、上塗り塗装時の工数およびコストを大幅に削減できる耐食性に優れた厚鋼板を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼板表面に脱脂、酸洗またはショットブラストのいずれか一種以上の処理を施し、前記鋼板の少なくとも片面に、Feイオン濃度が500ppm以下のNiめっき浴中で電解処理を行い、膜厚が1〜5μmのNiめっき層を形成し、さらにその上層に膜厚が5〜25μmのブチラール系プライマー、エポキシ系プライマー、およびシリケート系プライマーから選らばれる1種のプライマー塗布層を形成することを特徴とする塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接性、ガスおよびレーザー切断性ならびに塗装耐食性に優れた鋼板に関し、橋梁、造船、建設機械などの構造用強度部材に使用でき、構造物の塗装寿命の延長化を図った塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性を目的とした表面処理厚鋼板の要求性能としては、加工性、特に溶接性を損なわずして優れた当該耐食性能が十分に発揮されることが挙げられる。
【0003】
厚鋼板に耐食性を付与させるため、亜鉛めっきを施す場合がある。しかし、亜鉛めっきは融点が低いため、溶断時には亜鉛めっきの焼損部が大きく、一般に、亜鉛めっき鋼板は、ガスおよびレーザー切断性が非常に劣り、この部分の補修処理に多くの工数が必要となる。さらに、補修処理をしても、この亜鉛めっきの焼損した部分は、それ以外の部分よりも耐食性が劣るという問題がある。かかる問題に対処するため、加工性および耐食性に優れる表面処理厚鋼板としてNiめっきによる下地処理が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、下地処理としてペースト状電解質を用いて電気Niめっきを行い、さらにNiめっき層の封孔処理として、クロメート処理を行っている。特許文献2では、Niめっき層のピンホールを消滅させるため、高温に鋼材を保持し、ピンホール部にマグネタイトを形成させる下地処理方法が行われている。特許文献3では、耐食性および溶接性に優れた厚鋼板として、Niめっき層の上にウォッシュプライマー層を備えた表面処理厚鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−225691号公報
【特許文献2】特許第2719041号公報
【特許文献3】特許第2685110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1によるクロメート処理による封孔処理方法は、環境規制が厳しい現況下では、新たに採用する技術手段としては適当ではない。また、特許文献2の方法は、鋼板を高温にする処理工程が必要になるため、工数およびコスト増につながる。また、特許文献3の提案は、Niめっき+ウォッシュプライマーの下塗り層の耐食性の向上は図れるものの、さらに、その上層に塗装される上塗り塗膜が付与された場合の総合的な観点からの耐食性については考慮をしていない。実際に、橋梁や船舶等の鋼構造物に鋼板が適用される際には、プライマーの上層に上塗り塗膜を塗装して使用するため、上塗り塗膜が付与された場合の耐食性を総合的に確保する技術についての開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、優れた加工性を有し、さらに厚鋼板の耐食性を向上させ、上塗り塗装時の工数およびコストを大幅に削減できる耐食性に優れた厚鋼板を提供することを目的とする。なお、本発明において、耐食性とは、Niめっき+プライマー塗布による一次防錆性、およびさらにその上層の上塗り塗装後の塗装耐食性を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、表面処理厚鋼板の要求特性として次の2点を挙げ、この要求項目を達成するため鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
1)一次防錆性:Niめっき+プライマー塗布において、耐食性が格段に優れること。さらに、ブチラール系プライマー、エポキシ系プライマー、またはシリケート系プライマーを使用した場合、上塗り塗装前のケレン作業等の作業負荷が小さくなること。
2)塗装耐食性:Niめっき+プライマー+上塗り塗膜、あるいは、Niめっき+上塗り塗膜において、耐食性が格段に優れること。したがって、耐食性が優れるため、現行の塗装よりも塗膜厚を大幅に減少することを達成すること。
【0009】
本発明の要旨構成は次の通りである。
(1)鋼板表面に脱脂、酸洗またはショットブラストのいずれか一種以上の処理を施し、前記鋼板の少なくとも片面に、Feイオン濃度が500ppm以下のNiめっき浴中で電解処理を行い、膜厚が1〜5μmのNiめっき層を形成し、さらにその上層に膜厚が5〜25μmのブチラール系プライマー、エポキシ系プライマー、およびシリケート系プライマーから選ばれる1種のプライマー塗布層を形成することを特徴とする塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
(2)さらに前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜800μmのエポキシ樹脂系塗布層または膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層のいずれかを形成することを特徴とする(1)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
(3)さらに前記エポキシ樹脂系塗布層の上層に、膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層を形成することを特徴とする(2)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
(4)さらに前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜700μmの鉛・クロムフリー錆止め塗料塗布層を形成することを特徴とする(1)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
(5)さらに最上層塗布層として、膜厚が50〜500μmのフタル酸樹脂系塗布層を形成することを特徴とする(1)または(4)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
(6)(1)〜(5)記載のいずれかの方法で製造された塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
(7)鋼板の少なくとも片面に、膜厚が1〜5μmのNiめっき層を有し、さらにその上層に膜厚が5〜25μmのブチラール系プライマー、エポキシ系プライマーおよびシリケート系プライマーから選ばれる1種のプライマー塗布層を有することを特徴とする塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
(8)さらに、前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜800μmのエポキシ樹脂系塗布層または膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層のいずれかを有することを特徴とする(7)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
(9)さらに、前記エポキシ樹脂系塗布層の上層に、膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層を形成してなることを特徴とする(8)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
(10)さらに、前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜700μmの鉛・クロムフリー錆止め塗料塗布層を有することを特徴とする(7)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
(11)さらに、最上層塗布層として、膜厚が50〜500μmのフタル酸樹脂系塗布層を形成してなることを特徴とする(7)または(10)に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚鋼板にNiめっき+プライマー塗布の表面処理層を備えることにより、加工中のプライマー塗布材の耐食性が格段に向上し、さらに、構造物の本塗装時の下地処理作業を軽減できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を具体的に説明する。
【0012】
まず、本発明において、鋼板の酸洗、脱脂、ショットブラストの少なくともいずれか一工程を実施することが必要である。酸洗は、鋼板表面のスケールや錆を除去してNiめっきを施す下地の表面を清浄化するために実施される。脱スケール処理の能率の面では、塩酸酸洗が好ましいが、塩酸に限らず例えば硫酸酸洗でも良い。ショットブラストは、鋼板表面のスケールや錆を除去してNiめっきを施す下地の表面を清浄化するために実施される。脱脂は、特に表面に付着した油分を除去する観点から実施される処理であり、たとえば、苛性ソーダやオルソ珪酸ソーダなどのアルカリ溶液に界面活性剤を添加した処理液中で、浸漬あるいは電解することにより実施することができる。なお、酸洗、脱脂、ショットブラストのその他の具体的な処理条件は、鋼板サイズや設備制約などを勘案して、公知の手法から適宜選択して実施することができる。
【0013】
また、本発明で厚鋼板とは、板厚が4.5mm以上から60mm以下の鋼板をいう。この範囲の鋼板が塗装耐食性の用途が求められているからである。
【0014】
Niめっき浴中のFeイオン濃度: 500ppm以下
Niめっき浴中のFeイオン濃度500ppm超えると、めっき効率が70%以下へと悪化する。さらに、Niめっき層中にFeが不純物として残存してしまうため、塗装耐食性の劣化原因となる。したがって、Niめっき浴中のFeイオン濃度を500ppm以下に限定する。ここで、ppmは質量ppmを意味し、めっき効率とは、Niめっき浴中のFeイオン濃度が0ppmの際、浴温度を50℃、電流密度を100mA/cm、めっき液攪拌なしで、3μmの皮膜厚さとなる条件を100%とした場合の比率で判断する。また、長期間、同一の浴内でNiめっきをすると、鋼板からFeイオン濃度が溶解し増加するため、Feイオン濃度を500ppm以下に制御するには、ある一定の期間毎にめっき浴を調査・管理することにより行う。
【0015】
Niめっき層厚: 1〜5μm
Niめっき層は、Niめっき層自体に欠陥がなく健全であれば当該Niめっき層の耐食性は高いことは言うまでもない。また、Niめっき層に損傷部が存在した場合でも、地鉄(Fe)の腐食はあまり進行しない。Niめっき層の一部が損傷を受けた場合、たしかに、外観上は、露出した地鉄(Fe)の方がNiめっきに対してはるかに小面積であり、しかもFeのほうがNiよりも電気化学的に卑だから、全カソード面積(Niめっき層)に対して全アノード面積(露出した地鉄面積)に流れる腐食電流量は等しいことから考えると、地鉄露出部に腐食電流が集中して腐食が進みそうに思われる。しかし、実際の腐食反応に関与するのはNiめっき損傷部のごく近傍部分に限られるため、Niめっきがごく薄い本発明のような場合には、全カソード面積(Niめっき層)よりも全アノード面積(露出した地鉄面積)の方が実質的に大きくなることから、地鉄の腐食もあまり進行しないものと考えられる。また、地鉄の腐食が進行する場合においても、地鉄露出部やその近傍にFeの腐食生成物が形成されることにより、地鉄への酸素や水の供給が遮断されるので、腐食の進行が抑制される。
【0016】
Niめっき層の耐食性は、厚さが1μmで効果が認められ、3μm以上になると耐食性は格段に向上する。しかし、5μmを超えると効果が飽和するため、1〜5μmの範囲に限定した。Niめっき層厚を制御するのは、めっき工程でめっき浴組成、浴温、浴内での流速、めっき浴のpH、電極と厚板の極間距離等を調整することで、制御することができる。また、Niめっきの皮膜厚さは、例えば、表層部を含む鋼板断面をEPMAにより面分析することにより確認できるが、皮膜厚さの確認方法は、これに限られない。
【0017】
ブチラール系プライマー、エポキシ系プライマー、シリケート系プライマー厚み: 5〜25μm
本発明において、プライマーはNiめっき面の腐食抑制ならびにNiめっき層に存在するピンホールの封孔処理を目的として塗布されている。通常、一次防錆に求められるプライマー厚みは25μm以上であるが、Niめっきとプライマーを組み合わせることで、膜厚が5μm以上から一次防錆性が向上する。一次防錆性が求められる期間は通常、ブチラール系プライマーは3ヶ月、エポキシ系プライマーならびにシリケート系プライマーは6ヶ月であり、25μmを超える塗布は過剰性能となるため、最適な膜厚範囲は5〜25μmの範囲である。なお、エポキシ系プライマーならびにシリケート系プライマーは、プライマー中へ亜鉛系粉末を含有していなくても本発明の効果に影響を及ぼすものではない。
【0018】
本発明に係る表面処理鋼材は、さまざまな腐食環境において耐食性を発揮させるために、以下に述べる各種の塗料を用いた上塗り塗装を施すことが好ましい。本発明においては、鋼板にNiめっきを施した上にプライマーを塗布し、その上にさらに上塗り塗装を施すものであり、Niめっき層の上にプライマー塗布を施していない場合に比べて、小さい膜厚の上塗り塗装でも耐食性が向上する。その理由としては、Niめっき層自体は、鋼素地よりも大幅に耐食性が高いため、Niめっき層/プライマー層界面の健全性が維持され、Niめっき層とプライマー層との付着性が良好であること、さらに、それに伴い、プライマー層の存在により腐食も抑制され、プライマー層/上塗り塗膜界面の健全性が維持され、プライマー層と上塗り塗膜との良好な付着性も保持されること、等によるものと考えられる。
【0019】
エポキシ樹脂系塗料膜厚: 50〜800μm
Niめっき層の上にプライマーを塗布した上に、さらに、エポキシ樹脂系塗料を膜厚:50〜800μmの範囲で塗布する。エポキシ樹脂系塗料膜厚が50μmを超えると耐食性の効果が現れ、800μmを超えるとその効果は飽和し経済性を考慮するとその上限値を800μmとした。
【0020】
橋梁用途の表面処理厚鋼板の場合には、エポキシ樹脂系塗料膜厚は50〜500μmが好ましい。また、さらに確実に耐食性を確保するには下限値を70μmとし、海浜に近い場所における橋梁には下限値を90μmとすること耐食性向上の観点から推奨される。上限の値は、経済性の観点から適宜選定できる。したがって、エポキシ樹脂系塗料膜厚は、より好ましくは70〜350μm、さらに好ましくは90〜150μmの範囲である。
【0021】
造船用途の表面処理厚鋼板の場合には、エポキシ樹脂系塗料膜厚は50〜800μmが好ましく、より好ましく100〜600μm、さらに好ましくは、180〜380μmの範囲である。以上の好適な範囲は下限値は主として耐食性の観点から、上限値は経済性の観点および使用環境等を考慮して総合的に決定される。
【0022】
フッ素樹脂系塗料膜厚: 30〜600μm
Niめっき層の上にプライマーを塗布した上に、あるいはさらにエポキシ樹脂系塗料を塗布した上に、フッ素樹脂系塗料を塗布することができる。この場合の膜厚は、30〜600μmの範囲とする。フッ素樹脂系塗料膜厚が30μm未満では十分な塗装耐食性が期待されず、600μmを超えるとその効果が飽和するので、この範囲に限定する。
【0023】
さらに、より好ましくは、100〜500μm、さらに好ましくは200〜400μmの範囲である。これらの範囲下限値は耐食性の観点から、上限値は使用環境、経済性、工数の観点からそれぞれ選定される。
【0024】
鉛・クロムフリー錆止め塗料膜厚: 50〜700μm
Niめっき層の上にプライマーを塗布した上に錆止め塗料を塗布する場合には、鉛およびクロムを含まない、鉛・クロムフリー錆止め塗料を塗布することが、環境に有害な物質を含まない表面処理厚鋼板を得る上で好ましい。ここで、鉛・クロムフリー錆止め塗料とはJIS K 5674:2008に規定される塗料である。
【0025】
鉛・クロムフリー錆止め塗料を塗布する場合の膜厚は、50〜700μmの範囲とする。鉛・クロムフリー錆止め塗料を塗布する場合の膜厚が50μm未満では十分な塗装耐食性が得られず、700μmを超えるとその効果が飽和するので、この範囲に限定する。さらに、より好ましくは100〜550μm、さらに好ましくは230〜400μmの範囲である。これらの範囲下限値は耐食性の観点から、上限値は使用環境、経済性、工数の観点からそれぞれ選定される。
【0026】
フタル酸樹脂系塗料膜厚: 50〜500μm
Niめっき層の上にプライマーを塗布した上に、あるいはさらにその上に錆止め塗料を塗布した上に、フタル酸樹脂系塗料を塗布することができる。フタル酸樹脂系塗料を塗布する場合の膜厚は、50〜500μmの範囲とする。フタル酸樹脂系塗料を塗布する場合の膜厚が50μm未満では十分な塗装耐食性が得られず、500μmを超えるとその効果が飽和するので、この範囲に限定する。さらに、より好ましくは100〜400μm、さらに好ましくは160〜330μmの範囲である。これらの範囲下限値は耐食性の観点から、上限値は使用環境、経済性、工数の観点からそれぞれ選定される。
【実施例】
【0027】
表1に示す成分を有する溶鋼を、真空溶解炉で溶製または転炉溶製後、連続鋳造によりスラブとした。ついで、スラブを加熱炉に装入して1150℃に加熱後、熱間圧延により6mm厚の鋼板とした。その後、ショットブラストにより表面のスケールを除去した。
【0028】
【表1】

【0029】
ついで、当該鋼板を、スルファミン酸ニッケル330g/L、塩化ニッケル30g/L、ホウ酸30g/Lの比率のめっき液組成で、電流密度を500mA/cm、Niめっきの膜厚1μm当りの投入電気量を3クーロン/cmとした条件でNiめっきを施した。Niめっき浴中のFeイオン濃度を変化させるには、種々の濃度の塩化第一鉄(FeCl)をNiめっき液に添加し作製することに依った。
【0030】
腐食試験に供した試験片の形状は6mmt×50mmW×150mmLとした。この試験片に表3に示す種々の塗装を行い供試材とした。なお、耐食性は、Niめっきを施していない比較対象材の腐食試験の結果との比較により評価した。比較対象材の塗装皮膜の種類と膜厚を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
ここで、腐食試験は、海水飛沫帯における5年間暴露試験(これを腐食試験(1)とする)、および、実船のバラストタンクの上甲板裏に相当する腐食環境を模擬した試験(これを腐食試験(2)とする)の2種類を行った。腐食試験(2)は、(35℃、5%NaCl溶液噴霧、2Hr)→(60℃、25%RH、4Hr)→(50℃、95%RH、2Hr)を1サイクルとする試験を168サイクル行ったものである。ここで、RHは相対湿度を意味する。このような腐食試験により耐食性を評価したのは、一次防錆性および上塗り塗装後の塗装耐食性を適切に評価できると経験的に判断したからである。比較対象材との腐食試験の結果の比較は、塗膜の上からカッターナイフで地鉄表面まで達する80mm長さのスクラッチ疵を一文字状に付与しておき、以下の条件の腐食試験後に、スクラッチ疵の周囲に発生した塗膜膨れ面積の比率(%)を求めることにて行った。結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
表3および4より、Niめっき層厚さが1μm以上あると、Niめっき層を有さない比較対象材に比べて、上塗り塗料の膜厚が小さくても塗膜膨れ面積率は大幅に減少すること、すなわち、耐食性が大きく向上することがわかる。また、Niめっき層厚が厚いほど、その傾向が顕著になっている。
【0036】
本発明鋼板は溶断した後の溶接性試験においてもなんら不都合なく、溶接部の機械的性質および耐食性も良好であることを確認している。
本発明は、優れた加工性を有し、さらに厚鋼板の耐食性を向上させ、上塗り塗装時の工数・コストを大幅に削減できる耐食性に優れた厚鋼板であり、その優れた塗装耐食性から、産業上その貢献度は極めて大である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、橋梁ならびに船舶の腐食環境下で使用することが可能であり、特に、船舶の用途では外板、バラストタンクなど、とほとんど全ての使用部位に本発明に係る鋼材を適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に脱脂、酸洗またはショットブラストのいずれか一種以上の処理を施し、前記鋼板の少なくとも片面に、Feイオン濃度が500ppm以下のNiめっき浴中で電解処理を行い、膜厚が1〜5μmのNiめっき層を形成し、さらにその上層に膜厚が5〜25μmのブチラール系プライマー、エポキシ系プライマー、およびシリケート系プライマーから選ばれる1種のプライマー塗布層を形成することを特徴とする塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
【請求項2】
さらに前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜800μmのエポキシ樹脂系塗布層または膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層のいずれかを形成することを特徴とする請求項1に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
【請求項3】
さらに前記エポキシ樹脂系塗布層の上層に、膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層を形成することを特徴とする請求項2に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
【請求項4】
さらに前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜700μmの鉛・クロムフリー錆止め塗料塗布層を形成することを特徴とする請求項1に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
【請求項5】
さらに最上層塗布層として、膜厚が50〜500μmのフタル酸樹脂系塗布層を形成することを特徴とする請求項1または請求項4に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれかの方法で製造された塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【請求項7】
鋼板の少なくとも片面に、膜厚が1〜5μmのNiめっき層を有し、さらにその上層に膜厚が5〜25μmのブチラール系プライマー、エポキシ系プライマーおよびシリケート系プライマーから選ばれる1種のプライマー塗布層を有することを特徴とする塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【請求項8】
さらに、前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜800μmのエポキシ樹脂系塗布層または膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層のいずれかを有することを特徴とする請求項7に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【請求項9】
さらに、前記エポキシ樹脂系塗布層の上層に、膜厚が30〜600μmのフッ素樹脂系塗布層を形成してなることを特徴とする請求項8に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【請求項10】
さらに、前記プライマー塗布層の上層に、膜厚が50〜700μmの鉛・クロムフリー錆止め塗料塗布層を有することを特徴とする請求項7に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。
【請求項11】
さらに、最上層塗布層として、膜厚が50〜500μmのフタル酸樹脂系塗布層を形成してなることを特徴とする請求項7または請求項10に記載の塗装耐食性に優れた表面処理厚鋼板。

【公開番号】特開2011−93211(P2011−93211A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249732(P2009−249732)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】