説明

増幅装置、無線基地局、及び増幅装置の制御方法

【課題】温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置の利得を所定範囲内に設定することが可能な増幅装置を得る。
【解決手段】増幅装置3は、ドハティ型の増幅装置であって、入力信号S1を入力信号S3と入力信号S4とに分配する分配器16と、入力信号S3を増幅するメインアンプ12と、入力信号S1の信号レベルが所定値以上である場合に、入力信号S4を増幅するピークアンプ13と、メインアンプ12から出力された出力信号S5と、ピークアンプ13から出力された出力信号S6とを合成して出力する出力部17と、メインアンプ12及びピークアンプ13の双方のゲートバイアス電圧Vgm,Vgpを略線形関係で制御することによって、増幅装置3の利得を所定範囲内に設定する制御部19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅装置(特にドハティ型増幅装置)、当該増幅装置を備えた無線基地局、及び当該増幅装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、RF入力信号から同相信号及び直交位相信号を生成する直交スプリッタと、同相信号を増幅するキャリア増幅器と、直交位相信号を増幅するピーク増幅器と、キャリア増幅器の出力及びピーク増幅器の出力を結合するコンバイナと、RF入力信号の電力レベルを検出する検出器と、検出器の検出信号に基づいてキャリア増幅器のゲートバイアス電圧を制御するキャリア増幅器バイアス制御回路と、検出器の検出信号に基づいてピーク増幅器のゲートバイアス電圧を制御するピーク増幅器バイアス制御回路とを備えるドハティ型増幅装置が開示されている。
【0003】
キャリア増幅器バイアス制御回路及びピーク増幅器バイアス制御回路はそれぞれ、正入力及び負入力を有する演算増幅器と、負入力に接続された直列抵抗と、演算増幅器の出力と負入力とを接続する直列抵抗を有する負帰還回路とを用いて構成されている。正入力及び負入力の一方には検出器の検出信号が入力され、他方には所定の基準電圧が入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4210332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたドハティ型増幅装置によると、増幅装置の温度変化等に起因してキャリア増幅器やピーク増幅器等の回路特性が変化した場合には、ゲートバイアス電圧の制御によって企図している所望の利得調整を実現することができないという問題がある。
【0006】
本発明はかかる問題を解決するために成されたものであり、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置の利得を所定範囲内に設定することが可能な増幅装置、当該増幅装置を備えた無線基地局、及び当該増幅装置の制御方法を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る増幅装置は、ドハティ型の増幅装置であって、入力信号を第1の入力信号と第2の入力信号とに分配する分配手段と、前記第1の入力信号を増幅する第1の増幅手段と、前記入力信号の信号レベルが所定値以上である場合に、前記第2の入力信号を増幅する第2の増幅手段と、前記第1の増幅手段から出力された第1の出力信号と、前記第2の増幅手段から出力された第2の出力信号とを合成して出力する出力手段と、前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、前記増幅装置の利得を所定範囲内に設定する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
第1の態様に係る増幅装置によれば、制御手段は、第1の増幅手段及び第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、増幅装置の利得を所
定範囲内に設定する。双方のゲートバイアス電圧を比較的高く設定することによって、増幅装置の利得を上昇させることができ、一方、双方のゲートバイアス電圧を比較的低く設定することによって、増幅装置の利得を低下させることができる。このように、双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、増幅装置の利得を所望に設定することができる。その結果、増幅装置の利得が所定範囲から外れた場合であっても、双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、その利得を所定範囲内に回復させることが可能となる。
【0009】
本発明の第2の態様に係る増幅装置は、第1の態様に係る増幅装置において特に、前記増幅装置の温度を取得する取得手段をさらに備え、前記制御手段は、前記取得手段によって取得された温度に基づいて前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、各温度において前記増幅装置の利得を前記所定範囲内に設定することを特徴とするものである。
【0010】
第2の態様に係る増幅装置によれば、制御手段は、取得手段によって取得された温度に基づいて第1の増幅手段及び第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、各温度において増幅装置の利得を所定範囲内に設定する。温度の低下に起因して増幅装置の利得が所定範囲から外れて上昇した場合には、双方のゲートバイアス電圧を現在の設定値よりも低く変更して利得を低下させることによって、利得を所定範囲内に回復させることができる。一方、温度の上昇に起因して増幅装置の利得が所定範囲から外れて低下した場合には、双方のゲートバイアス電圧を現在の設定値よりも高く変更して利得を上昇させることによって、利得を所定範囲内に回復させることができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る無線基地局は、送信信号を生成する信号生成部と、第1又は第2の態様に係る増幅装置と、前記増幅装置によって増幅された前記送信信号を送信するアンテナとを備えることを特徴とするものである。
【0012】
第3の態様に係る無線基地局によれば、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置の利得を所定範囲内に設定することができるため、増幅装置によって適切に増幅された送信信号をアンテナから送信することが可能となる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る増幅装置の制御方法は、入力信号を第1の入力信号と第2の入力信号とに分配する分配手段と、前記第1の入力信号を増幅する第1の増幅手段と、前記入力信号の信号レベルが所定値以上である場合に、前記第2の入力信号を増幅する第2の増幅手段と、前記第1の増幅手段から出力された第1の出力信号と、前記第2の増幅手段から出力された第2の出力信号とを合成して出力する出力手段とを有するドハティ型の増幅装置の利得を制御する方法であって、前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、前記増幅装置の利得を所定範囲内に設定することを特徴とするものである。
【0014】
第4の態様に係る増幅装置の制御方法によれば、第1の増幅手段及び第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、増幅装置の利得を所定範囲内に設定する。双方のゲートバイアス電圧を比較的高く設定することによって、増幅装置の利得を上昇させることができ、一方、双方のゲートバイアス電圧を比較的低く設定することによって、増幅装置の利得を低下させることができる。このように、双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、増幅装置の利得を所望に設定することができる。その結果、増幅装置の利得が所定範囲から外れた場合であっても、双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、その利得を所定範囲内に回復させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置の利得を所定範囲内に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】無線基地局の構成を概略的に示す図である。
【図2】増幅装置の構成を示すブロック図である。
【図3】データテーブルの作成方法の一例を工程順に示すフローチャートである。
【図4】増幅装置の入力電力−利得特性の一例を示す図である。
【図5】増幅装置の入力電力−利得特性の測定結果をまとめた表を示す図である。
【図6】増幅装置の入力電力−利得特性の測定結果をまとめた表を示す図である。
【図7】常温、低温、及び高温の各測定温度での最適値をプロットした図である。
【図8】増幅装置の入力電力−利得特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。
【0018】
図1は、無線基地局1の構成を概略的に示す図である。図1の接続関係で示すように、無線基地局1は、送信信号生成部2、増幅装置3、及びアンテナ4を備えて構成されている。送信信号生成部2は、ベースバンドの送信信号を変調するための変調器等を有して構成されており、変調後の高周波の送信信号S1を出力する。増幅装置3は、送信信号生成部2から入力された送信信号S1を増幅することにより、送信信号S2として出力する。増幅装置3から出力された送信信号S2は、アンテナ4から無線送信される。
【0019】
図2は、図1に示した増幅装置3の構成を示すブロック図である。増幅装置3は、いわゆるドハティ型の増幅装置であり、図2の接続関係で示すように、入力端子10、出力端子11、メインアンプ12、ピークアンプ13、1/4波長線路14,15、分配器16、出力部17、取得部18、制御部19、及び記憶部20を備えて構成されている。
【0020】
入力端子10及び出力端子11は、図1に示した送信信号生成部2及びアンテナ4にそれぞれ接続されている。分配器16は、入力端子10から入力された送信信号S1(以下「入力信号S1」と称す)を、入力信号S3,S4に分配する。
【0021】
入力信号S3は、メインアンプ12に入力される。メインアンプ12は、例えばAB級(又はA級)の動作を行うようにゲートバイアス電圧が設定されており、入力信号S1の信号レベル(瞬時入力電力)に関わらず電力増幅動作を行う。メインアンプ12は、入力信号S3を増幅することにより、出力信号S5として出力する。
【0022】
入力信号S4は、1/4波長線路15を介してピークアンプ13に入力される。ピークアンプ13は、例えばC級の動作を行うようにゲートバイアス電圧が設定されており、入力信号S1の信号レベルが所定値以上である場合に電力増幅動作を行う。ピークアンプ13は、入力信号S4を増幅することにより、出力信号S6として出力する。
【0023】
出力部17には、出力信号S5がメインアンプ4から1/4波長線路14を介して入力されるとともに、ピークアンプ13が動作を行っている場合には、出力信号S6がピークアンプ13から入力される。出力部17は、出力信号S5,S6を合成することにより、送信信号S2(以下「出力信号S2」と称す)として出力端子11から出力する。
【0024】
取得部18は、増幅装置3の温度に関する情報を任意の手法によって取得する。例えば
、増幅装置3のICチップが実装されている基板(又はその周辺環境)の温度を温度センサによって検出することにより、温度情報を取得する。あるいは、入力信号S1が入力されていない時に増幅装置3の内部に流れるアイドル電流を測定し、その測定された電流値を増幅装置3の温度に換算することにより、温度情報を取得してもよい。
【0025】
記憶部20には、データテーブル21が記憶されている。データテーブル21には、増幅装置3の各温度に対応して、メインアンプ12のゲートバイアス電圧Vgmの設定値と、ピークアンプ13のゲートバイアス電圧Vgpの設定値とが記述されている。データテーブル21は、増幅装置3の設計段階において作成されて、記憶部20に記憶される。データテーブル21の作成方法については後述する。
【0026】
制御部19には、増幅装置3の温度情報に関する信号S7が取得部18から入力される。制御部19は、データテーブル21を参照することにより、増幅装置3の現在の温度に対応するゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの設定値を求める。そして、制御信号S8によって、ゲートバイアス電圧Vgmをその求めた設定値に設定するとともに、制御信号S9によって、ゲートバイアス電圧Vgpをその求めた設定値に設定する。
【0027】
以下、データテーブル21の作成方法について説明する。図3は、データテーブル21の作成方法の一例を工程順に示すフローチャートである。
【0028】
まずステップF01において、測定条件を設定する。具体的には、各ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最大値及び最小値と、各ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最大値−最小値間での変更段階数と、常温、低温、及び高温の各測定温度とを設定する。
【0029】
各ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最小値としては、メインアンプ12及びピークアンプ13の実際の動作において想定される最小値(あるいは定格で規定されている最小値)を採用することができる。同様に、各ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最大値としては、メインアンプ12及びピークアンプ13の実際の動作において想定される最大値を採用することができる。一例として、メインアンプ12をAB級で動作させる場合には、ドレイン電流が最大ドレイン電流(IDSS)の例えば10%となる値を、ゲートバイアス電圧Vgmの最大値として設定する。また、メインアンプ12をA級で動作させる場合には、ドレイン電流がIDSSの例えば50%となる値を、ゲートバイアス電圧Vgmの最大値として設定する。また、ピークアンプ13をC級で動作させる場合には、ドレイン電流がIDSSの例えば0%となる値を、ゲートバイアス電圧Vgpの最大値として設定する。以下の例では、ゲートバイアス電圧Vgmの最大値及び最小値をそれぞれ−1.18V及び−1.34Vに設定し、ゲートバイアス電圧Vgpの最大値及び最小値をそれぞれ−2.6V及び−3.8Vに設定するものとする。
【0030】
各ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最大値−最小値間での変更段階数は、要求精度に応じて任意の値に設定することができる。以下の例では、ゲートバイアス電圧Vgmに関しては等間隔に5段階に設定し、ゲートバイアス電圧Vgpに関しては等間隔に7段階に設定するものとする。また、低温及び高温の各測定温度は、増幅装置3の実際の動作において想定される温度範囲の最大値及び最小値(あるいは動作保証されている温度範囲の最大値及び最小値)に設定することができる。以下の例では、低温を−20℃に設定し、高温を85℃に設定するものとする。また、常温を25℃に設定するものとする。
【0031】
次にステップF02において、常温における増幅装置3の入力電力−利得特性を測定する。具体的には、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpをある値に固定した状態で、入力信号S1を最小値から最大値まで徐々に大きく変更して、各入力信号S1の電力値に対する出力信号S2の電力値を測定することにより、入力電力−利得特性を得る。そして、得ら
れた入力電力−利得特性に基づいて、そのゲートバイアス電圧Vgm,Vgpに関する利得G、利得平坦度DG、及びP1dB(1dB利得圧縮点)を求める。
【0032】
図4は、増幅装置3の入力電力−利得特性の一例を示す図である。図の横軸は入力電力(Pin)であり、縦軸は利得(Gain)である。利得Gは、入力電力が最大である変曲点X1の利得として得られる。利得平坦度DGは、変曲点X1の入力電力と、それよりも所定値(例えば10dB)だけ小さい入力電力との間の範囲内において、利得の最小点X2と最大点X3との利得差として得られる。P1dBは、利得Gよりも1dBだけ利得が低下する点X4の出力電力値(つまり入力電力値+利得)として得られる。なお、上述した利得G及び利得平坦度DGの定義は一例であり、他の観点から利得G及び利得平坦度DGを定義してもよい。
【0033】
上記の測定を、ステップF01で設定したゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの組合せの全てに対して実行することにより、各組合せにおける利得G、利得平坦度DG、及びP1dBを求める。
【0034】
図5,6は、増幅装置3の入力電力−利得特性の測定結果をまとめた表を示す図である。図5,6の(A)に、常温における測定結果を示している。この例では、ゲートバイアス電圧Vgmの電圧値M1(最大値),M2,M3,M4,M5(最小値)はそれぞれ−1.18V,−1.22V,−1.26V,−1.30V,−1.34Vであり、ゲートバイアス電圧Vgpの電圧値P1(最大値),P2,P3,P4,P5(最小値)はそれぞれ−2.6V,−2.8V,−3.0V,−3.2V,−3.4V,−3.6V,−3.8Vである。図5,6の(A)においては、測定の結果、利得平坦度DGが所定値(例えば0.6dB)未満となった点には丸の印を付しており、所定値以上となった点にはバツの印を付している。また、測定の結果、利得平坦度DGが最小となった点(M2,P4)に二重丸の印を付している。
【0035】
次にステップF03において、常温におけるゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最適値を特定する。例えば、図5,6の(A)において二重丸の印を付した点(M2,P4)を、常温における最適値として特定する。なお、上述した最適値の特定手法は一例であり、他の観点から常温の最適値を特定してもよい。
【0036】
次にステップF04において、上記と同様の方法により、低温における増幅装置3の入力電力−利得特性を測定し、ステップF01で設定したゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの各組合せにおける利得G、利得平坦度DG、及びP1dBを求める。図5,6の(B)に、低温における測定結果を示している。図5の(B)においては、測定の結果、利得平坦度DGが所定値(例えば0.6dB)未満となり、かつ、常温の最適値における利得Gとの差が所定値(例えばプラスマイナス1dB)未満となった点には丸の印を付しており、それ以外の点にはバツの印を付している。右下の領域(つまり、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方が比較的低い領域)に、丸の印が集中する傾向が見受けられる。また、図6の(B)においては、測定の結果、利得平坦度DGが所定値(例えば0.6dB)未満となり、かつ、常温の最適値におけるP1dBとの差が所定値(例えばプラスマイナス0.3dB)未満となった点には丸の印を付しており、それ以外の点にはバツの印を付している。
【0037】
次にステップF05において、低温におけるゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最適値を特定する。例えば、図5,6の(B)の双方において丸の印が付された組合せの中で、常温の最適値における利得Gとの差が最小となった点(測定の結果、M5,P6)を、低温における最適値として特定する。なお、上述した最適値の特定手法は一例であり、他の観点から低温の最適値を特定してもよい。
【0038】
次にステップF06において、上記と同様の方法により、高温における増幅装置3の入力電力−利得特性を測定し、ステップF01で設定したゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの各組合せにおける利得G、利得平坦度DG、及びP1dBを求める。図5,6の(C)に、高温における測定結果を示している。図5の(C)においては、測定の結果、利得平坦度DGが所定値(例えば0.6dB)未満となり、かつ、常温の最適値における利得Gとの差が所定値(例えばプラスマイナス1dB)未満となった点には丸の印を付しており、それ以外の点にはバツの印を付している。左上の領域(つまり、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方が比較的高い領域)に、丸の印が集中する傾向が見受けられる。また、図6の(C)においては、測定の結果、利得平坦度DGが所定値(例えば0.6dB)未満となり、かつ、常温の最適値におけるP1dBとの差が所定値(例えばプラスマイナス0.3dB)未満となった点には丸の印を付しており、それ以外の点にはバツの印を付している。
【0039】
次にステップF07において、高温におけるゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最適値を特定する。例えば、図5,6の(C)の双方において丸の印が付された組合せの中で、常温の最適値における利得Gとの差が最小となった点(測定の結果、M1,P1)を、高温における最適値として特定する。なお、上述した最適値の特定手法は一例であり、他の観点から高温の最適値を特定してもよい。
【0040】
次にステップF08において、ステップF03,F05,F07で特定した最適値に基づいて、各温度での設定値を決定する。図7は、常温の最適値(M2,P4)、低温の最適値(M5,P6)、及び高温の最適値(M1,P1)をプロットした図である。図の横軸は温度であり、縦軸はゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの値である。図7に示すように、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最適値は、温度が高いほど高く、温度が低いほど低くなっており、ほぼ線形的な関係を有している。従って、直線Q(又は曲率の小さな曲線)を用いて近似することができ、この直線Q上の点として、各温度におけるゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの設定値を決定することができる。そして、各温度と、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの設定値との対応関係を記述することにより、データテーブル21を作成することができる。
【0041】
なお、本実施の形態では、常温(25℃)、低温(−20℃)、及び高温(85℃)の三点のみの測定を行ったが、測定温度をさらに増やすことによって、さらに正確なデータテーブル21を作成することができる。
【0042】
また、直線Qによって近似するのではなく、増幅装置3の動作温度範囲を数℃程度の細かい間隔で複数の温度領域に分割し、各温度領域に関するゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの最適値を実測によって求めて、それらの最適値をデータテーブル21に記述してもよい。
【0043】
このように本実施の形態に係る増幅装置3によれば、制御部19は、メインアンプ12及びピークアンプ13のゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を、図7に示すように略線形関係で制御することによって、増幅装置3の利得Gを設定する。具体的には、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を比較的高く設定することによって、増幅装置3の利得Gを上昇させることができ、一方、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を比較的低く設定することによって、増幅装置3の利得Gを低下させることができる。このように、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を略線形関係で制御することによって、増幅装置3の利得Gを所望に設定することができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る増幅装置3によれば、制御部19は、取得部18によって取
得された温度情報(信号S7)に基づいて、メインアンプ12及びピークアンプ13のゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を制御することによって、各温度において増幅装置3の利得Gを所定範囲内(上記の例では、常温での最適値の利得Gに対してプラスマイナス1dB以内)に設定する。温度の低下に起因して増幅装置3の利得Gが所定範囲から外れて上昇した場合には、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を現在の設定値よりも低く補正して利得を低下させることによって、増幅装置3の利得Gを所定範囲内に回復させることができる。一方、温度の上昇に起因して増幅装置3の利得Gが所定範囲から外れて低下した場合には、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を現在の設定値よりも高く補正して利得を上昇させることによって、増幅装置3の利得Gを所定範囲内に回復させることができる。
【0045】
図8は、増幅装置3の入力電力−利得特性の一例を示す図である。特性K0は常温での特性を示しており、特性K1は補正前の低温での特性を示しており、特性K2は補正後の低温での特性を示しており、特性K3は補正前の高温での特性を示しており、特性K4は補正後の高温での特性を示している。特定K1,K2を比較すると明らかなように、常温から低温方向への温度変化に起因して増幅装置3の利得Gが上昇した場合(特性K1)であっても、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を現在の設定値よりも低く補正することによって、良好な特性K2に回復されていることが分かる。また、特定K3,K4を比較すると明らかなように、常温から高温方向への温度変化に起因して増幅装置3の利得Gが低下した場合(特性K3)であっても、ゲートバイアス電圧Vgm,Vgpの双方を現在の設定値よりも高く補正することによって、良好な特性K4に回復されていることが分かる。
【0046】
また、本実施の形態に係る無線基地局1によれば、温度変化等に起因して回路特性が変化した場合であっても増幅装置3の利得Gを所定範囲内に設定することができるため、増幅装置3によって適切に増幅された送信信号S2をアンテナ4から送信することが可能となる。
【0047】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 無線基地局
2 送信信号生成部
3 増幅装置
4 アンテナ
12 メインアンプ
13 ピークアンプ
16 分配器
17 出力部
18 取得部
19 制御部
21 データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドハティ型の増幅装置であって、
入力信号を第1の入力信号と第2の入力信号とに分配する分配手段と、
前記第1の入力信号を増幅する第1の増幅手段と、
前記入力信号の信号レベルが所定値以上である場合に、前記第2の入力信号を増幅する第2の増幅手段と、
前記第1の増幅手段から出力された第1の出力信号と、前記第2の増幅手段から出力された第2の出力信号とを合成して出力する出力手段と、
前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、前記増幅装置の利得を所定範囲内に設定する制御手段と
を備える、増幅装置。
【請求項2】
前記増幅装置の温度を取得する取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記取得手段によって取得された温度に基づいて前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を制御することによって、各温度において前記増幅装置の利得を前記所定範囲内に設定する、請求項1に記載の増幅装置。
【請求項3】
送信信号を生成する信号生成部と、
請求項1又は2に記載の増幅装置と、
前記増幅装置によって増幅された前記送信信号を送信するアンテナと
を備える、無線基地局。
【請求項4】
入力信号を第1の入力信号と第2の入力信号とに分配する分配手段と、前記第1の入力信号を増幅する第1の増幅手段と、前記入力信号の信号レベルが所定値以上である場合に、前記第2の入力信号を増幅する第2の増幅手段と、前記第1の増幅手段から出力された第1の出力信号と、前記第2の増幅手段から出力された第2の出力信号とを合成して出力する出力手段とを有するドハティ型の増幅装置の利得を制御する方法であって、
前記第1の増幅手段及び前記第2の増幅手段の双方のゲートバイアス電圧を略線形関係で制御することによって、前記増幅装置の利得を所定範囲内に設定する、増幅装置の制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−273018(P2010−273018A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121987(P2009−121987)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】