説明

壁用板状材、その製造方法および外壁構造

【課題】タイル材のような板状の建築材を並べて施工する壁面の構造において、板状材の連結部分においても、本来の機能を損なうことなく、良好な断熱性を発揮できるようにすることである
【解決手段】建築物の壁面に並べて施工される壁用板状材Wであって、窯業系材料の成形体からなり、概略板状をなす本体部10と、本体部10の側辺に有し、施工時に隣接して配置される別の壁用板状材Wの側辺に有する継手部22…と互いに上下に重ねて連結される継手部22…と、継手部のうち、本体部10の上面側に配置される上側継手22、24と、継手部のうち、上側継手22、24と対向する本体部10の側辺に配置され、本体部10の下面側に配置される下側継手32、34と、発泡樹脂の成形体からなり、本体部10の裏面のうち、上側継手32、34の裏面を除く裏面全体に密着して接合されてなる断熱材40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁用板状材、その製造方法および外壁構造に関し、詳しくは、住宅の外壁面などに多数を並べて施工されるセメント系硬化板などからなる壁用板状材と、このような壁用板状材を製造する方法と、このような壁用板状材を用いて構築される外壁構造とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築物において、外壁面の仕上げを、ALC板や焼成セラミックタイルなどの窯業系タイル材を並べて施工することが行われている。モルタル塗り壁などに比べて、施工作業性が良く、外観意匠性や耐久性などにも優れた外壁構造が得られるとされている。
外壁の断熱性を高めるために、上記のような外壁用板状材の裏面側に発泡スチレンなどの断熱材を施工することも行われている。
例えば、特許文献1には、外壁下地に施工するタイルの裏面に断熱材を設ける技術が示されている。この技術では、平坦な板状をなすタイルの四隅に配置されてタイルを外壁下地に取付固定するために受け金具の部分を除いて、タイルの裏面全体に断熱材が設けられている。
【0003】
これとは別に、タイル材を並べて施工された外壁面では、雨水などの水がタイル材同士の隙間から壁内部に浸入することを防止する止水機能が必要とされる。
特許文献2には、矩形板状の外壁用板状材の対向する側辺に、タイル材同士を面方向に連結する合いじゃくり継手を設けておく技術が示されている。合いじゃくり継手では、隣接するタイル材の側辺同士が継手部で互いに重ね合わされるので、タイル材同士の隙間が塞がれ、内部への雨水などの浸入を阻止する止水機能が発揮され易くなる。
【特許文献1】特開2003−301585号公報
【特許文献2】特開2005−163444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来におけるタイル材を用いた外壁構造では、タイル材の裏面に断熱材を設けていても、タイル材の連結部分で断熱性が損なわれてしまうという問題があった。
特許文献1の技術では、タイル材を取付固定するための受け金具の個所には、どうしても断熱材の存在しないところが生じる。断熱材が存在せず、しかも、熱伝導性の高い金属製の受け金具が存在すると、その部分が熱を効率的に通過させることになってしまう。
特許文献2の技術のように、タイル材同士を合いじゃくり継手で連結している場合には、合いじゃくり継手を形成するためにタイル材の裏面に形成される凹み部分に断熱材を貼り付けておくことが考えられる。しかし、それでは、合いじゃくり継手の部分には断熱材が存在しないことになり、この部分における断熱性が損なわれる。
【0005】
本発明の課題は、前記したタイル材のような板状の建築材を並べて施工する壁面の構造において、板状材の連結部分においても、本来の機能を損なうことなく、良好な断熱性を発揮できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる壁用板状材は、建築物の壁面に並べて施工される壁用板状材であって、窯業系材料の成形体からなり、概略板状をなす本体部と、前記本体部の側辺に有し、施工時に隣接して配置される別の壁用板状材の側辺に有する継手部と互いに上下に重ねて連結される継手部と、前記継手部のうち、前記本体部の上面側に配置される上側継手と、前記継手部のうち、前記上側継手と対向する本体部の側辺に配置され、前記本体部の下面側に配置される下側継手と、発泡樹脂の成形体からなり、前記本体部の裏面のうち、前記上側継手の裏面を除く裏面全体に密着して接合されてなる断熱材とを備える。
各構成について詳しく説明する。
【0007】
〔建築物の壁面〕
建築物としては、一般的な戸建て住宅を代表とする各種の建築物に適用できる。集合住宅や商業建築物、公共建築物なども含まれる。
建築物の壁面としては、建築物の屋内空間と屋外空間とを仕切る外側壁のほか、屋外に設置される柱や隔壁、塀などの構造物の壁面にも適用できる。建築物の内部における中庭を囲む壁面などもある。屋内において各部屋などを仕切る内壁部分にも適用できる。
壁面は平坦な平面である場合のほか、複数の平面が組み合わせられた屈曲面や段差面、凹凸面も含まれる。円筒面などの曲面もある。平面と曲面との組み合わせ壁面もある。
【0008】
〔壁用板状材〕
壁用板状材は、基本的には通常の壁用板状材と共通する材料や形状構造を備えていることができる。
一般的には、概略矩形の平板状をなしている。但し、施工する壁面の形態によって、あるいは、外観意匠的効果をねらって、矩形以外の多角形や曲線外形が採用される場合もある。平板ではなく、屈曲板や凹凸板、曲面板もある。
〔本体部〕
壁用板状材の主となる構造を構成する。基本的には、通常の壁用板状材と同様の材料や形状、構造、製造技術が適用される。
【0009】
本体部は、窯業系材料の成形体で構成される。窯業系材料は、セメントなどの水硬性材料をバインダーとして含む。細骨材、軽量骨材などの骨材を含むことがある。硬化性樹脂を含むこともある。ガラス繊維などの繊維材料や無機物粒子などを含むこともある。着色剤が配合されることもある。その他、通常の窯業系建材に配合される各種の添加剤が配合されることがある。このような窯業系材料を成形し硬化させることで、壁用板状材の本体部が得られる。従来、各種の建築材に使用されているセメント系硬化材料を用いることができる。
本体部の形状は、概略板状をなす。一般的には平面形が正方形あるいは矩形をなす。但し、単純な平坦板状ではなく、継手部などの連結構造、釘などによる固定のための構造などを構成する凹凸や孔などの立体的形状も有していることができる。断熱材との接合面に凹凸を有していれば、互いの接合一体性を高めることができる。矩形以外の多角形、曲線外形、屈曲板状や凹凸板状、曲面板状もある。
【0010】
本体部は、比較的に厚みが薄く、軽量であるものが好ましい。勿論、軽量であっても、必要とされる剛性や構造強度を備えている必要がある。原料である窯業系材料の配合によっても異なるが、通常、最も薄い部分で0.4〜1.0cm、最も厚い部分で1.0〜3.0cmに設定できる。全体として、面積当たり重量が15〜22kg/mであるものが好ましい。
本体部のうち、施工状態で外部に露出する上面に、釉仕上げ層を設けたり、着色塗装を施したりすることができる。本体部の材料に顔料などの着色材を配合しておけば、本体部の全体を着色することもできる。太陽光線、特に熱線を反射する反射塗膜層を設けておけば、本体部の裏側まで日射熱が伝達されるのを抑制することができ、断熱機能をより高めることができる。
【0011】
〔継手部〕
本体部の側辺に有する。施工時に隣接して配置される別の壁用板状材の側辺に有する継手部と互いに上下に重ねて連結される。
基本的には、通常の建材などにおける合いじゃくり継手の構造を備えている。
継手部は、上側継手と下側継手との組み合わせで構成される。上側継手は、本体部の上面側に配置される。下側継手は、本体部の下面側に配置される。通常、上側継手および下側継手の厚みを、本体部の全厚みの半分に設定しておく。本体部に存在する複数の側辺のうち、対向する1組の側辺で、一方には上側継手、他方には下側継手を配置しておく。上側継手と下側継手の幅は、ほぼ同じに設定される。
【0012】
上側継手および下側継手は、何れも帯板状をなすものが採用できる。また、互いの対向個所に、上下方向あるいは水平方向において互いに噛み合って位置決めされる凹凸構造を付け加えておくことができる。
壁用板状材の取付固定を行うための取付孔を、下側継手に配置しておくことができる。下側継手の取付孔に釘やねじ釘を取り付ければ、下側継手の上に別の壁用板状材の上側継手が覆い重ねられることで、取付孔や釘を隠すことができる。雨水などが取付孔から内部に浸入することも防止できる。金属製の釘頭などが外部に露出して断熱性を損なうことを防ぐことができる。外観意匠性や体裁も良好になる。
【0013】
〔断熱材〕
発泡樹脂の成形体からなり、本体部の裏面のうち、上側継手の裏面を除く裏面全体に密着して接合される。
発泡樹脂としては、建築技術分野において断熱用途に利用されている各種の発泡樹脂が採用できる。例えば、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系発泡樹脂が挙げられる。発泡樹脂の成形体は、連続気泡を有するものよりも独立気泡を有するもののほうが、断熱性および止水性の点で優れている。
発泡樹脂成形体の発泡倍率が大きいほど、断熱性や弾力的変形性、軽量性などに優れる。止水性や機械的強度、剛性などを高めるには発泡倍率が小さいほうが良い。通常は、発泡倍率を5〜20倍に設定することが望ましい。
【0014】
断熱材の形状としては、本体部と組み合わせることで、壁用板状材の全体形状を構成し、壁用板状材として使用できるようになっていればよい。
断熱材は、本体部の裏側に嵌め込むようにして取り付けるので、断熱材の上部側の形状は、本体部の裏面形状に対応する形状になる。本体部と断熱材との間には実質的に隙間があかないようにしたほうが、両者の一体接合性が高まる。また、通気性や湿気の排出などを向上させるために部分的な隙間や通路を設けることもできる。
断熱材の構造の一部が、本体部における継手部の機能の一部を果たすことができる。具体的には、断熱材が本体部の下側継手と一体となって継手の機能を果たしたり、断熱材の端辺が本体部の上側継手の内端縁を構成したりできる。
【0015】
断熱材の底面は、壁用板状材の底面を構成する。通常は、平坦面である。平坦面の一部に凹凸や凹溝、穴などを設けておくこともできる。例えば、水抜き用や通気用に利用される溝を設けたり、取付金具や位置決め部材と係合する凹凸形状を備えていたりすることができる。
断熱材の厚みは、本体部の形状との組み合わせによって異なる。通常は、下側継手の裏面に配置される部分が最も厚みが薄くなる。下側継手以外の本体部の裏面に対応する部分は厚みがより分厚くなる。具体的には、本体部と断熱材を含む全体の厚みが、1.5〜4.0cmであるのに対して、断熱材の厚みを、厚みが最も薄くなる下側継手の裏面において0.5〜1.5cmに設定することができる。
【0016】
〔壁用板状材の製造〕
以上に説明した構造を有する壁用板状材は、各種建築用タイル材などの板状材の製造技術を適用して製造することができる。基本的には、一般的な窯業系タイル材の製造技術および断熱材の製造技術を組み合わせればよい。
本体部と断熱材と組み合わせて壁用板状材を製造する方法として、以下の工程を組み合わせる方法(I)(II)が採用できる
−製造方法(I)−
<工程(a):本体部の成形>
窯業系材料をプレス成形して本体部の形状を有する成形体を得る。
【0017】
通常の窯業系タイル材の製造技術が適用できる。
セメントなどを含む窯業系材料をプレス成形する方法が採用できる。プレス成形装置および成形条件は、通常のタイル材製造の場合と同様でよい。例えば、プレス成形の成形条件として、成形圧9.8〜14.7MPa(100〜150kgf/cm)に設定できる。プレス成形時に加熱しておくこともできる。
成形によって得られる成形体は、本体部の形状を有するが、まだ硬化は完了していない状態である。力を加えると変形したり割れたりする可能性がある。
プレス成形を終えた成形体は、直ちに次の工程に供給することができる。
【0018】
<工程(b):本体部と断熱材との一体化>
前工程(a)で得られ、変形可能な状態である本体部の成形体を、予め成形された発泡樹脂の成形体からなる断熱材に嵌め込んで一体化させる。
断熱材については、通常の発泡成形技術を適用して、予め製造しておく。
剛性のある支持台や支持板の上に、断熱材の平坦な底面を当てた状態で載せておけば、断熱材が安定して支持され、作業が行い易くなる。
本体部および断熱材が、設計通りの形状であれば、本体部はスムーズに断熱材に嵌め込まれる。製造のバラツキや寸法誤差によって、本体部と断熱材との形状が正確に一致していない場合でも、硬化前で変形可能な本体部を、わずかに変形させれば、断熱材との嵌め込みは容易である。
【0019】
本体部と断熱材との当接面に、接着剤や硬化性材料を塗工しておけば、本体部と断熱材とが強力に接合される。但し、後で本体部を養生硬化させることで、本体部が断熱材に接合される作用が生じるので、接着剤などは使用しなくても構わない。
断熱材と嵌め合わせた本体部を断熱材側に押し付けることができる。本体部が変形して、断熱材との間に残る隙間がなくなったり、断熱材との接合性が高まったりする。発泡樹脂成形体からなる断熱材の表面に有する細かな凹凸にしたがって本体部の表面が変形することで、本体部と断熱材との一体性が向上する。
本体部を断熱材の上に載せられた状態にして、本体部を断熱材に押し付ければ本体部が容易に変形して断熱材と強固に接合される。
【0020】
なお、支持台に上に本体部を載せ、本体部の上方から断熱材を嵌め込んで一体化させることもできる。
<工程(c):本体部の養生>
断熱材と一体化された本体部の成形体を、養生硬化させる。
養生硬化の処理装置や処理条件は、通常のセメント系タイル材の製造における養生硬化と共通する技術が適用できる。
既知のタイル材製造では、タイル材の成形体を、形崩れしないように支持できる支持台に載せた状態で、養生装置への搬入および養生中の支持を行う。タイル材の成形体が立体的形状を有するものであれば、支持台にも立体的な形状が必要になる。タイル材の形状変更があれば、支持台についても設計変更が必要になる。
【0021】
これに対し、断熱材に支持された本体部は、上記のような立体的形状を備えた支持台が不要である。本体部を支持した断熱材をそのままで、養生装置に送り込むなどの取り扱いができる。平坦な板などからなる支持台に、本体部を支持した断熱材の底面を載せるだけでも安定した載置状態になり、取り扱い中に振動が加わったり少しぐらい傾いたりしても、転倒したり形崩れを生じたりすることはない。
養生処理としては、処理室内において、ヒータなどで加熱したり、加熱空気を当てたり、加熱蒸気によって蒸気養生を行ったりすることができる。加熱雰囲気を、空気以外のガスに置換しておくこともできる。加熱を行う場合、加熱温度は、断熱材の耐熱温度を超えないように設定する。加熱や雰囲気調整などを行わず、大気中で静置したり、風通しの良い所に置いたりする自然養生も可能である。
【0022】
養生処理では、本体部の材料に含まれるセメントなどの硬化性材料の作用で本体部の全体が硬化する。本体部が硬化すれば、本体部と断熱材とが一体的に接合された壁用板状材が得られる。養生装置から取り出して、建築施工への使用が可能になる。
<その他の工程>
上記した各工程に加えて、通常の建築用板状材の製造において採用されているような各種の加工や処理の工程を行うことができる。
例えば、硬化した本体部の表面を磨いたり、成形バリなどの不要部分を削除したり、洗浄したりすることができる。本体部の表面に、仕上げ塗装を行ったり、コーティングを施したりすることができる。壁用板状材の施工などに必要な金具を取り付けたり、取付孔や取付用の凹凸構造などを追加加工したりすることもできる。
【0023】
−製造方法(II)−
この方法では、本体部を成形し養生硬化させたあとで断熱材と一体化させる。
<工程(m):本体部の成形>
窯業系材料をプレス成形して本体部の形状を有する成形体を得る。
前記製造方法(I)の工程(a)と共通する技術が適用される。
<工程(n):本体部の養生硬化>
本体部の成形体を養生硬化させる。
前記製造方法(I)の工程(c)と、基本的には共通しているが、本体部を単独で養生硬化させる点が異なる。必要に応じて、本体部の成形体を支持する支持台を用いる。断熱材が存在しないので、断熱材の耐熱性などを考慮する必要はなく、本体部の養生硬化に取って適切な温度や雰囲気などの条件設定ができる。
【0024】
<工程(o):本体部と断熱材との一体化>
養生硬化された本体部を、予め成形された発泡樹脂の成形体からなる断熱材に嵌め込んで一体化させる。
前記製造方法(I)の工程(b)と、基本的には共通しているが、本体部が養生硬化済である点で異なる。
この場合は、本体部については、あまり大きな変形はできないが、断熱材の変形性を利用して、本体部と断熱材とを密着させて嵌め合わせることができる。本体部と断熱材との接合は、物理的な嵌合作用だけで行なっても良いが、接合を確実にするために、接着剤や硬化性材料による接合を行なうことが有効である。
【0025】
<その他の工程>
本体部と断熱材とが一体化されたあとは、前記製造方法(I)と同様に、必要な処理作業を行うことができる。
〔外壁構造〕
前記のような構造の壁用板状材を用いて、建築物の外壁構造が構築できる。基本的には、通常のタイル仕上げによる外壁構造と共通する技術が適用できる。
具体的には、建築物の外壁面に施工される外壁下地面に、壁用板状材を並べて施工する。
【0026】
外壁下地面は、通常の建築物における外壁構造と同様でよい。コンクリート躯体や鉄骨などの骨組構造体そのものであってもよいし、その上に、サイディングボードなどの下地板を貼り付けたものであってもよい。縦横に間隔をあけて桟材が配置されていてもよい。防水層や非透湿層などとなるフィルムやシートを貼り付けておいたり、コーティング処理を施しておいたりすることもできる。なお、従来の外壁施工において、外壁タイル材を貼り付ける前に行われていた断熱シートの貼り付けは行わなくてもよい。勿論、壁構造の内側に、通常の断熱壁構造と同様の断熱層が設けられていることはある。
壁用板状材は、断熱材の底面が外壁下地面に当接するように配置される。通常は、断熱材と外壁下地面との間に隙間があかないようにすることで、内部結露を防止することができる。また、断熱材と外壁下地面との間に通気隙間を設けることで、湿気の排出を促進させる場合もある。
【0027】
壁用板状材は、壁面の一方側から他方側へと順番に取り付けていく。最初に取り付けた壁用板状材は、接着剤や釘などを用いて、外壁下地材に固定する。先に取り付けた壁用板状材の下側継手に、次に取り付ける壁用板状材の上側継手が載るように配置していく。
垂直壁面あるいは傾斜壁面においては、壁面の下側から上側へと壁用板状材を配置して取り付けていく。これによって、下側の壁用板状材の下側継手を、上側の壁用板状材の上側継手が覆うように取り付けられる。上側の壁用板状材に沿って流れる雨水などが、継手の隙間から内部に入り込み難くなる。
継手同士の当接面には、止水材を塗工したり、止水フィルムを挟んでおいたりすることもできる。壁用板状材を外壁下地材に固定するための取付孔や釘の周辺にコーキング材を充填しておいたり、防水処理や防錆処理を施しておいたりすることもできる。止水性能を高めるために隙間を無くすことは、断熱性を向上させることにも結び付く。
【0028】
壁面の所定領域に壁用板状材が連続的に並んで取り付けられたあと、必要に応じて、施工領域の端辺に縁材を施工したり、端部の止水処理を行ったりすることができる。施工された壁用板状材の表面全体にコーティング処理を施したり、塗装仕上げを施すこともできる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる壁用板状材は、窯業系材料の成形体からなる本体部の側辺に、上側継手または下側継手を設け、合いじゃくり継手による連結機能および止水機能を果たし、本体部の裏面には、発泡樹脂の成形体からなる断熱材を設けて、断熱機能を果たす。
特に、断熱材を、本体部の裏面のうち、上側継手の裏面には設けず、下側継手を含むその他の裏面全体に設けているので、断熱材が合いじゃくり継手の機能を阻害することがない。しかも、壁用板状材を合いじゃくり継手で連結した状態では、本体部の裏面において、隣接する壁用板状材の断熱材同士の端面が隙間をあけずに密接して配置されることになる。
【0030】
その結果、壁用板状材を施工した壁面は、全面において良好な断熱性を発揮することができる。取付金具や連結構造による局部的な断熱機能の低下の問題が解消される。しかも、壁用板状材の施工自体は、合いじゃくり継手を利用して、簡単かつ正確に行えるので、施工作業性が高く、高機能な壁面構造を経済的に施工することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔壁用板状材〕
図1〜3に示す壁用板状材Wは、本体部10と断熱材40とで構成されている。
本体部10は、セメント系硬化材からなり、矩形板状をなす上盤部20と、L形板状をなす下盤部30とが上下に重ねられた構造を有する。下盤部30は、上盤部20と同じ厚みで、上盤部20の隣接する2側辺の裏側に接合されて外側に張り出している。下盤部30には直交する各辺にそって、複数の取付用孔36が貫通形成されている。
上盤部20のうち、下盤部30から遠い2側辺が上側継手22、24となる。下盤部30のうち、上盤部20から遠い2側辺が下側継手32、34となる。本体部10の対向する側辺には、上側継手22と下側継手32、あるいは、上側継手24と下側継手34とがそれぞれ対向して配置されており、いわゆる合いじゃくり継手を構成している。
【0032】
断熱材40は、発泡倍率5〜20倍のポリスチレン押出発泡体からなり、本体部10の裏面側に一体接合されている。断熱材40は、本体部10の上盤部20の裏側から下盤部30の内周端面および裏面に配置されている。断熱材40は、本体部10の上側継手22、24の裏面には存在せず、断熱材40の外側端面が上側継手22、24の内側端縁を構成している。下側継手32,34の裏側では、断熱材40の外周端面が下側継手32,34の外周端面と同じ位置まで配置されている。断熱材40の底面は、上盤部20と同じ形状の矩形で対角線方向に少しずれて配置されている。
<壁用板状材の寸法例>
上盤部20:縦30cm×横45cmの矩形、厚み1.0cm。
【0033】
下盤部30:縦29.7cm×横44.7cmで、縦横の各辺の幅5.8cmであるL形、厚み1.0cm。
断熱材40:縦29.7cm×横44.7cmの矩形底面、全厚み1.5cm、下側継手32、34部分の厚み0.5cm。
断熱材40の端面から上側継手22、24の張出量3.3cm。
上盤部20の端面から下盤部30の張出量3.0cm。
〔外壁構造〕
図4に示すように、住宅等の外壁50の仕上げに、壁用板状材Wを用いる。
【0034】
外壁50は、図示を省略した骨組構造や断熱層、内部配管などを含んでおり、屋外側になる表面に、サイディングボードなどからなる外壁下地板52が貼り付けられている。
外壁50は垂直壁面であり、下側から上側へと壁用板状材Wを取り付けていく。
壁用板状材Wを、下側継手34が上を向き、上側継手24が下を向く姿勢で、外壁下地板52に配置する。外壁下地板52の表面には断熱材40の底面が当たる。断熱材40と外壁下地材52との接触面に接着剤を塗布しておけば、断熱材40を外壁下地材52に接着することもできる。
この状態で、下盤部30に貫通形成された取付用孔36に、取付ねじ60を挿通させ、外壁下地材52にねじ込む。取付ねじ60が、外壁下地材52を貫通して外壁50本体部分までねじ込まれる場合もある。図4の上方に示す壁用板状材Wは、取付用孔36が下盤部30から断熱材40まで貫通して形成されているが、断熱材40には取付用孔36が形成されていなくても構わない。下盤部30の取付用孔36から取付ねじ60をねじ込めば、比較的に柔らかい断熱材40を通して外壁下地材52までねじ込むことは容易である。
【0035】
壁用板状材Wは、複数個所の取付用孔36で取付ねじ60を外壁下地材52にねじ込み取り付けすることで、外壁下地材52に固定される。
先に取り付けられた壁用板状材Wの上に、次の壁用板状材Wを配置する。次に取り付ける壁用板状材Wの下辺に存在する上側継手24が、取付済みの壁用板状材Wの下側継手34の上に載るような形で、合いじゃくり継手による連結が行われる。下盤部30の取付用孔36には取付ねじ60の頭部が露出しているが、次の壁用板状材Wの上側継手24で、取付用孔36および取付ねじ60は完全に覆い隠される。
このような作業を、壁面50の下から上まで繰り返して行えば、壁面50の全体に壁用板状材Wを取り付けることができる。図示を省略したが、壁面50の水平方向においても左側から右側へと順次、壁用板状材Wを取り付けていくことになる。
【0036】
壁面50の全体に壁用板状材Wが取り付けられた状態では、屋外に露出する側の表面には、壁用板状材Wの本体部10が存在する。断熱材40が露出することはない。そして、本体部10と外壁下地材52との間には、面方向の全体に途切れることなく、断熱材40が存在することになる。外壁下地材52と本体部10とが直接に接触している個所はない。
屋外の寒気や強い日射は、壁用板状材Wの表面に存在する本体部10には接触して、本体部10を冷やしたり熱したりするが、断熱材40で完全に隔離された外壁下地材52および外壁50の内部まで、伝熱されることが抑制される。
【0037】
なお、取付ねじ60の個所だけは、本体部10から取付ねじ60を介して外壁下地材52へと熱伝達が行われ易くなる可能性はある。しかし、点状に存在する取付ねじ60の個所だけであれば、壁面50の全体における断熱機能を大きく損なうことはない。特に、取付ねじ60は本体部10の上側継手22、24で覆われているので、屋外の熱がそのまま取付ねじ60から壁内部へと伝熱されることはない。
降雨や散水によって壁用板状材Wの表面に水が流れることがある。水は、本体部10の表面を流れ落ちる。本体部10の下辺にある上側継手24の先端から、下側の壁用板状材Wの表面へと水が流れるので、壁用板状材W同士の隙間に水が入り込み難い。上側継手24の下端面から内側に水が浸入しても、上側継手24の裏側で、下側に配置された壁用板状材Wに有する下盤部30の下側継手34が垂直方向の壁を構成しているので、それ以上の浸入は困難である。さらに、下側継手34の表面から上端面まで水が這い登るように染み込んできたとしても、下側継手34の先端面は、上側に配置された壁用板状材Wの断熱材40の端面と当接して押し付けられているので、断熱材40との当接個所を超えて内側まで水が浸入することはない。
【0038】
〔壁用板状材の製造〕
図5は、壁用板状材Wの製造工程を(a)〜(e)へと段階的に示している。
<段階(a)>
本体部10の成形を行う。上下一対の成形型70、72に、セメントなどの原料を混練して団子状になった成形材料80を供給する。成形型70、72には、本体部10の形状に対応する型面を有している。
<段階(b)>
成形型70、72を型閉めしてプレス圧を加えると、成形材料80は、成形型70、72のキャビティ形状に対応する形状、すなわち本体部10の形状に成形される。
【0039】
成形後は、成形型70、72を型開きして、成形された本体部10を取り出す。
但し、成形直後の本体部10は、いまだ硬化しておらず、可塑性を残した状態である。取り扱いは、柔らかい本体部10が変形したり破損したりしないように、慎重に行う必要がある。
<段階(c)>
支持台76の上に、予め樹脂成形された断熱材40を置く。断熱材40の製造については、通常の型発泡成形技術を適用すればよい。発泡成形されたブロック状の発泡体の一部に対して、切削加工や切断加工を行って、所定の断熱材40の形状に作製してもよい。
【0040】
平坦な支持台76に対して、断熱材40の平坦底面32が載せられるので、断熱材40は傾いたり変形したりすることなく、安定した状態で載置される。
このような断熱材40の上に、前段階(b)で成形された本体部10を配置する。本体部10の裏面形状は、断熱材40の外形と対応しているので、本体部10は、断熱材40にぴったりと嵌まり込む。特に、本体部10は、いまだ完全には硬化しておらず、ある程度の変形が可能な状態であるので、断熱材40の形状に合わせて本体部10がわずかに変形することで、嵌め込み作業を容易にし、断熱材40との隙間を無くすことができる。本体部10の各部を、断熱材40のほうに強く押し当てるようにすれば、本体部10と断熱材40との密着性は極めて良好になる。本体部10の裏面が、断熱材40を構成する発泡体の微細な凹凸や穴に押し付けられて嵌まり込むようになれば、両者の一体性はより強固になる。
【0041】
必要に応じて、断熱材40と本体部10との当接面に接着剤を塗工しておいたり、本体部10の成形材料と同じセメントスラリーを塗工しておいたりすれば、本体部10と断熱材40との接合力が強くなり、一体性が高まる。
<段階(d)>
断熱材40と本体部10とが一体化した状態で、本体部10を養生硬化させる。
養生硬化は、通常、内部を加熱したり加熱蒸気を供給したりできる養生室78で行う。養生室78における養生処理の前に、本体部10から余分の水分を除去する乾燥処理を行うこともある。乾燥処理には自然乾燥あるいは乾燥炉による強制乾燥を行う。
【0042】
何れの場合も、断熱材40と本体部10との一体物は、支持台76に載せたままで、移送や養生室78への搬入作業を行う。本体部10にみだりに接触したり、本体部10と断熱材40とを剥がすような力が加わったりすることがなく、取り扱いが容易である。
養生室78において、所定の時間、所定の温度で加熱された本体部10は、成形材料に含まれるセメントなどの硬化材料が硬化して、硬化体からなる本体部10となる。本体部10が硬化すると同時に、本体部10が断熱材40に対して強力に接合する作用も生じる。
<段階(e)>
養生硬化処理が完了すれば、硬化した本体部10と断熱材40とからなる壁用板状材Wが完成する。
【0043】
加熱によって昇温している本体部10が十分に冷却するまでは、壁用板状材Wは支持台76の上に載せたままにしておけばよい。
本体部10が十分に冷却された後は、壁用板状材Wを支持台76から取り外して、梱包や出荷などの作業に送ればよい。必要に応じて、壁用板状材Wに対して、本体部10に残った成形時のバリなどを除去したり、表面を削ったり、施工時に必要な金具を取り付けたり、金具取付用の孔や溝を形成したりする加工を施すこともできる。本体部10の表面に仕上げ塗装を施すこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の壁用板状材は、例えば、住宅の外壁仕上げ施工に利用される。施工が簡単で能率的に行えるとともに、施工後の壁面は、断熱性および止水性などの性能に優れ、外観的にも体裁の良いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施形態を表す壁用板状材の斜視図
【図2】同上の正面図
【図3】同上の平面図
【図4】壁用板状材を施工した外壁構造の断面図
【図5】壁用板状材の製造工程を段階的に示す模式図
【符号の説明】
【0046】
10 本体部
20 上盤部
22、24 上側継手
30 下盤部
32,34 下側継手
36 取付用孔
40 断熱材
W 壁用板状材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の壁面に並べて施工される壁用板状材であって、
窯業系材料の成形体からなり、概略板状をなす本体部と、
前記本体部の側辺に有し、施工時に隣接して配置される別の壁用板状材の側辺に有する継手部と互いに上下に重ねて連結される継手部と、
前記継手部のうち、前記本体部の上面側に配置される上側継手と、
前記継手部のうち、前記上側継手と対向する本体部の側辺に配置され、前記本体部の下面側に配置される下側継手と、
発泡樹脂の成形体からなり、前記本体部の裏面のうち、前記上側継手の裏面を除く裏面全体に密着して接合されてなる断熱材と、
を備える壁用板状材。
【請求項2】
前記本体部となる窯業系材料の成形体が、セメント系硬化材料からなり、面積当たり重量が15〜22kg/mであり、
前記断熱材となる発泡樹脂の成形体が、発泡倍率5〜20倍の独立気泡ポリスチレン発泡体からなり、
前記本体部と断熱材を含む全体の厚みが1.5〜4.0cmであり、
前記断熱材の厚みが、前記下側継手の裏面において0.5〜1.5cmを有する、
請求項1に記載の壁用板状材。
【請求項3】
請求項1〜2の何れかに記載の壁用板状材を製造する方法であって、
前記窯業系材料をプレス成形して前記本体部の形状を有する成形体を得る工程(a)と、
前工程(a)で得られた前記本体部の成形体を、予め成形された発泡樹脂の成形体からなる断熱材に嵌め込んで一体化させる工程(b)と、
前記工程(b)で得られ、前記断熱材と一体化された前記本体部の成形体を、養生硬化させる工程(c)と
を含む壁用板状材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜2の何れかに記載の壁用板状材を製造する方法であって、
前記窯業系材料をプレス成形して前記本体部の形状を有する成形体を得る工程(m)と、
前記工程(m)で得られた前記本体部の成形体を養生硬化させる工程(n)と
前工程(n)で得られた前記本体部を、予め成形された発泡樹脂の成形体からなる断熱材と嵌め込み一体化させる工程(o)と、
を含む壁用板状材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜2の何れかに記載の壁用板状材を用いる建築物の外壁構造であって、
建築物の外壁面に施工される外壁下地面と、
前記外壁下地面の上に、前記断熱材の底面を外壁下地面に密接させ、前記継手部により互いに前後左右に連結されて敷設された前記壁用板状材とを備え、
隣接する壁用板状材の断熱材同士が水平方向に連続して配置されている、
外壁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−138443(P2007−138443A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330638(P2005−330638)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(000237053)富士スレート株式会社 (10)
【Fターム(参考)】