説明

変位検出方法及び装置

【課題】永久磁石の往復移動に伴う磁場の変動によって磁歪線の内部で発生する磁化のヒステリシスを減少させ、変位検出精度を高める。
【解決手段】磁歪線10に電流供給部11から正負のパルス電流Pa,Pbを供給することにより、向きが変化するこれらのパルス電流Pa,Pbで該磁歪線10における磁化のヒステリシスを減少させると共に、永久磁石12との対応位置において該磁歪線10にねじり弾性波を発生させ、正及び/又は負のパルス電流Pa,Pbにより発生する弾性波を検出器13により検出して、その伝播時間と伝播速度とから演算部14において上記永久磁石12の変位を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪現象を用いて物体の機械的変位を検出する変位検出方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1により、磁歪現象を用いて物体の機械的変位を計測する磁歪式の変位検出装置は既に知られている。図15は、この特許文献1に開示された変位検出装置の原理構成を示すもので、この検出装置においては、ニッケル合金などの強磁性体によって形成された磁歪線1が水平に配置され、この磁歪線1の外周に水平方向に移動する円環状の永久磁石2が配置されている。この永久磁石2は両側面に異極が着磁されている。また、上記磁歪線1の一端には、パルス電流Pを供給するためのパルス発生装置3が配設されると共に、弾性波を検出するための検出装置4が設けられている。
【0003】
上記パルス発生装置3によってパルス電流を磁歪線1に供給すると、図16に示すように、該磁歪線1に円周方向の磁場5が形成され、この円周方向磁場5と、上記永久磁石2の近傍に形成される軸方向磁場6との相互作用により、この磁歪線1には永久磁石2の近傍においてねじり弾性波(超音波)7が発生する。この弾性波7は、上記磁歪線1を両端に向かって伝播し、一端側に向かった弾性波7が上記弾性波検出装置4によって検出される。そして、この検出装置4において、上記パルス電流を供給してから弾性波7が検出されるまでの伝播時間を算出し、この伝播時間に弾性波の伝播速度を乗じることにより、磁歪線1の一端の弾性波検出部位から永久磁石2までの距離X(従って永久磁石の変位)を求めることができる。
【0004】
上記パルス電流Pは、図17に示すように、一定の時間間隔で磁歪線1に供給され、各パルス電流P毎に発生する弾性波7によって永久磁石2の変位が連続的に検出されるが、このとき供給されるパルス電流Pは、向きが正方向(あるいは負方向)だけの単極性のパルス電流である。
【特許文献1】特開昭63−217224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの最近の研究から、図18に示すように、磁歪線1に沿って位置Aから位置Bに永久磁石2を移動させたときと、位置Cから位置Bに永久磁石2を移動させたときとでは、移動後に同一位置Bに永久磁石2があっても、パルス電流を流してから検出コイルで弾性波信号を検出するまでの伝播時間が異なり、検出精度に誤差が生じることが分かった。これは、永久磁石2を往復運動させると、磁歪線1の磁化のヒステリシス特性のため、単極性のパルス電流によって生じる一方向磁場に対し、上記永久磁石2による磁場が往方向に変動して作用した場合と、復方向に変動して作用した場合とで、上記B点における磁歪線1の磁化の状態が変化し、該B点における弾性波の発生点が異なるためと考えられる。
【0006】
そこで本発明の目的は、磁歪線に生じるねじり弾性波の伝播時間を利用して変位を検出するに際し、永久磁石の往復移動に伴う磁場の変動によって磁歪線の内部で発生する磁化のヒステリシスを排除し、検出精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によれば、永久磁石を磁歪線と平行に移動できるように配置すると共に、この磁歪線の端部に弾性波検出用の検出器を配設し、上記磁歪線にパルス電流を流すことにより上記永久磁石の近傍において該磁歪線にねじり弾性波を発生させ、この弾性波が磁歪線を伝播して上記検出器で検出されたときの伝播時間と該弾性波の伝播速度とから上記永久磁石の変位を検出する方法において、上記磁歪線に正負二極性のパルス電流を流すことにより、該磁歪線における磁化のヒステリシスを減少させると共に上記弾性波を発生させ、正及び/又は負のパルス電流により発生する弾性波から上記永久磁石の変位を検出することを特徴とする変位検出方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、強磁性材料からなる磁歪線と、該磁歪線にパルス電流を供給する電流供給部と、上記磁歪線に沿って変位する永久磁石と、上記磁歪線にパルス電流が供給されたとき永久磁石との対応位置において該磁歪線に発生するねじり弾性波を検出する検出器と、この検出器で検出された弾性波の伝播時間と該弾性波の伝播速度とから上記永久磁石の変位を求める演算部とを備えた変位検出装置において、上記電流供給部が、正負二極性のパルス電流を磁歪線に供給するように構成されると共に、上記演算部が、正及び/又は負のパルス電流により発生する弾性波から上記永久磁石の変位を検出するように構成されていることを特徴とする変位検出装置が提供される。
【0009】
本発明おいては、正負のパルス電流を交互に流すことも、規則性のある時間間隔で流すこともできる。
また、正負のパルス電流におけるパルスの振幅は、互いに等しくても良いが、一定パルス数毎に漸減させることも可能である。
更には、連続して出力される正負一対のパルス電流からなるパルス電流対を、規則性のある時間間隔で流すこともできる。
本発明において好ましくは、上記検出器として、弾性波を電圧に変換するコイルを用いることである。
【0010】
また、変位の検出誤差をなくすためには、上記磁歪線にパルス電流を流したときから、上記検出器による弾性波検出電圧が0Vになるときまでの時間を、上記弾性波の伝播時間とすることが好ましい。
本発明においては、上記伝播速度として、永久磁石位置に対する弾性波の伝播時間を実測して得られた伝播速度を用いることが望ましい。
あるいは、永久磁石位置と弾性波の伝播時間との関係を実測して絶対誤差を求め、この絶対誤差に基づいて永久磁石の検出位置の補正を行うようにすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、磁歪線に正負二極性のパルス電流を流すようにしたので、このパルス電流の向きの変化によって磁歪線の磁化状態が磁化のヒステリシス特性の範囲内で振動させられ、該磁歪線の磁化のヒステリシス特性が軽減されることになる。この結果、永久磁石の移動方向に関係なく、弾性波を精度良く検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係る磁歪式変位検出装置の原理構成図である。この検出装置は、強磁性材料からなる磁歪線10と、この磁歪線10にパルス電流を供給する電流供給部11と、上記磁歪線10に沿って往復に変位する永久磁石12と、上記磁歪線10にパルス電流が供給されたとき永久磁石12との対応位置において該磁歪線10に発生するねじり弾性波を検出する検出器13と、この検出器13で検出された弾性波の伝播時間に基づいて上記永久磁石12の変位を演算処理することにより算出する演算部14とを有している。
上記検出器13としては、音響式センサ(AEセンサ)や圧電式センサを使用することもできるが、図示した実施例においては、弾性波を電気信号(電圧)に変換して出力する検出コイルが用いられ、この検出コイルが上記磁歪線10の一端に配置されている。
【0013】
上記磁歪線10は、強磁性体によって形成された円形断面で均一太さの真っ直ぐな線条であって、エリンバー合金やニッケル合金等の、温度変化に伴う弾性率の変化の小さい素材によって形成されている。この磁歪線10は、アクチュエータにおける可動部材の動作領域、例えばアクチュエータが流体圧シリンダである場合にはピストンの動作領域に、該ピストンの動作方向と平行に延設される。この磁歪線10は、中実状のものであっても、パイプのような中空状のものであっても良い。
【0014】
一方、上記永久磁石12は、リング状又は棒状の何れの形態を有するものでも良く、また、N極とS極とは、上記磁歪線10の軸線L方向に着磁されていても、軸線Lと直交する方向に着磁されていても良い。永久磁石12がリング状である場合には、ラジアル方向に着磁することもできる。この永久磁石12は、上記アクチュエータの可動部材に、該可動部材と同期して変位するように取り付けられる。アクチュエータが上記流体圧シリンダである場合には、上記ピストンの外周に取り付けられる。
【0015】
また、上記電流供給部11は、図2に示すように、正負二極性のパルス電流Pa,Pbを磁歪線1に供給するもので、この実施形態においては、正のパルス電流Paと負のパルス電流Pbとを、一定の時間間隔t(例えば1ms)をおいて交互に出力するように構成されている。
【0016】
いま、ある時刻t0 に上記電流供給部11から正のパルス電流Paが上記磁歪線10に供給されると、図3に実線で示すように、該磁歪線10に時計回りの円周方向磁場15aが形成される。一方、上記永久磁石12の近傍において磁歪線10には軸線方向磁場16が形成されているため、これらの円周方向磁場15aと軸線方向磁場16との相互作用により、該磁歪線10には、上記永久磁石12の近傍でねじり弾性波17aが発生する。この弾性波17aは、磁歪線10を伝播してその一端の上記検出器13により検出され、電気信号即ちパルス電圧に変換されて演算部14に入力される。
【0017】
上記演算部14においては、上記パルス電圧が増幅されて必要な演算処理が施されることにより、上記パルス電流Paを磁歪線10に供給したときから弾性波17aが検出されたときまでの伝播時間が算出されると共に、この伝播時間に、予めこの演算部に入力されている弾性波17aの伝播速度が乗じられることにより、上記正のパルス電流Paが供給された時刻t0 における検出器13から永久磁石12までの距離X(従って永久磁石12の変位)が求められる。
【0018】
次に、一定の時間間隔tをおいた時刻t1 に、上記電流供給部11から負のパルス電流Pbが上記磁歪線10に供給されると、図3に鎖線で示すように、該磁歪線10には反時計回りの円周方向磁場15bが形成されると共に、永久磁石12の近傍でねじり弾性波17bが発生するため、上記正のパルス電流Paを供給したときと同様にして、この負のパルス電流Pbが供給された時刻t1 における検出器13から永久磁石12までの距離Xが計測される。
【0019】
かくして、正負のパルス電流Pa,Pbを磁歪線10に交互に流すことにより、上記永久磁石12が往方向(図1の右方向)に移動するときの位置と、復方向(図1の左方向)に移動するときの位置とを、全ストロークについて検出することができる。
しかし、このように正負全てのパルス電流Pa,Pbにより発生する弾性波17a,17bを検出して永久磁石12の変位を検出する代わりに、正又は負何れか一方向のパルス電流Pa又はPbにより発生する弾性波17a又は17bを検出してそのときの位置を検出することもできる。あるいは、続けて供給される正及び負の複数のパルス電流Pa及びPbで発生する弾性波の伝播速度を計測し、その平均値から永久磁石12の変位を検出することもできる。
【0020】
図4には、上記パルス電流Pa及びPbが磁歪線10に供給されてから、検出器13で弾性波が検出されるまでの状態が、合成した線図によって示されている。同図において、Vaが正のパルス電流Paが供給された時の出力電圧、Vbが負のパルス電流Pbが供給された時の出力電圧である。この図から分かるように、検出器13の出力電圧Va,Vbは、パルス電流Pa,Pbが供給されると、一旦プラスに立ち上がったあとマイナスに転じ、緩やかに変動するが、弾性波が到達してそれが検出された部分の出力電圧即ち弾性波検出電圧Vad,Vbdは、パルス状に立ち上がってプラスに転じる。そこで、上記パルス電流Pa,Pbが供給された時点から弾性波が検出されるまでの時間tdを計測することにより、伝播時間を検出することができる。
【0021】
この場合、例えばトリガーレベルを1Vとして、上記弾性波検出電圧Vad,Vbdが1Vに達する時点までの時間を計測しても良いが、図5に一般的な例として示すように、この弾性波検出電圧Vad,Vbdの大きさは常に一定ではなく、パルス電流の向きや弾性波発生点までの距離などに応じて異なるため、検出電圧が1Vに達する時間もa,bのように異なってくる。このため、トリガーレベルを1Vとすると測定誤差を生じることになる。
【0022】
しかし、上述したように弾性波検出電圧Vad,Vbdの大きさが様々に違っても、それらの波形が変化の途中で0Vを越える時刻(c点)は殆ど変わらない。そこで、図4に示すように、トリガーレベルを0Vとし、上記磁歪線10にパルス電流を流したときから、上記検出器13が弾性波を検出して弾性波検出電圧Vad,Vbdが0Vになるときまでの時間tdを、上記弾性波の伝播時間とすることにより、弾性波検出電圧の大きさが異なる場合でも測定誤差を生じることなく伝播時間を精度良く検出することができる。
なお、上記弾性波検出時の出力電圧の変化の方向は、常にマイナス側からプラス側に向かうわけではなく、検出コイル13の巻線の方向等によって逆になることもある。
【0023】
かくして、磁歪線10に正負のパルス電流Pa,Pbを流して位置検出を行うことにより、磁気特性のヒステリシスによって生じる変位誤差を軽減することができる。即ち、磁歪線10に正のパルス電流Paを供給したとき形成される上記時計回りの円周方向磁場15aと、負のパルス電流Pbを供給したとき形成される反時計回りの円周方向磁場15bとは、互いに逆向きであるため、これら正負のパルス電流Pa,Pbによって磁歪線10は、見かけ上磁化のヒステリシス特性が軽減される。このため、上記永久磁石12を磁歪線10に沿って往復に変位させても、該磁歪線10に発生する磁化のヒステリシスは上記正負のパルス電流Pa,Pbによってうち消され、殆どなくなる程度まで減少する。この結果、永久磁石12が往方向に移動する場合と復方向に移動する場合とにおいて検出誤差を生じることなく、その位置検出を精度良く行うことができる。
【0024】
上記正負のパルス電流Pa,Pbにおけるパルスの振幅及びパルス幅は、それぞれ互いに等しいことが好ましいが、必ずしも完全に等しい必要はなく、若干異なっていても構わない。
また、正負のパルス電流Pa,Pbを出力する時間間隔(出力時間差)tも、必ずしも一定かつ同じである必要はなく、正負のパルス電流Pa,Pbが規則性のある時間間隔で出力されるようになっていれば良い。例えば、正のパルス電流Paと負のパルス電流Pbとの出力時間差tと、正のパルス電流Pa同士あるいは負のパルス電流Pb同士の出力時間差tとが、互いに異なっていても良い。
【0025】
図6には、上述した正負二極性のパルス電流Pa,Pbを流す方法で測定した弾性波の伝播時間tdの測定結果と、従来の単極性のパルス電流Pを流す方法で測定した弾性波の伝播時間tdの測定結果とが示されている。使用したパルス電流の大きさは1Aである。また、図7には、図6における伝播時間tdの誤差を変位誤差εに換算したものが示されている。
上記伝播時間tdの測定方法は、永久磁石12を磁歪線10に沿って変位0mmの地点から10mmの地点まで移動させ、1mm毎の各変位点における弾性波の伝播時間を測定し、そのあと、変位10mmの地点から再び変位0mmの地点に戻しながら同様の測定を行うという方法である。なお、二極性のパルス電流を流す方法においては、正のパルス電流Paにより発生する弾性波の伝播時間を測定した。
【0026】
これらの測定結果から分かるように、単極性パルスを使った従来方法では、往路と復路とにおいて伝播時間に0.32μsの時間差が生じ、この時間差を変位に変換すると約0.9mmの誤差に相当する。これに対し、二極性パルスを使った本発明の方法では、往路と復路とにおいて伝播時間の差は非常に小さく、変位に換算しても最大0.3mm程度であり、この値は従来の約1/3である。
【0027】
このように、磁歪線10に流すパルス電流として向きが正及び負に交互に変化する二極性のパルス電流Pa,Pbを使用することにより、これらのパルス電流Pa,Pbの向きの変化によって上記磁歪線10の磁化状態が磁化のヒステリシス特性の範囲内で振動させられ、該磁歪線10の磁化のヒステリシス特性が軽減されることになる。この結果、永久磁石12の移動方向に関係なく、弾性波を精度良く検出することが可能となる。
【0028】
図8及び図9には、上記電流供給部11から磁歪線10に供給されるパルス電流の異なる例が示されている。これらの例は、正負のパルス電流におけるパルスの振幅(電流値I)を、一定パルス数毎に漸減させるもので、図8の場合は、基準の振幅を有する正負の基準パルス電流Pa,Pbのあとに、基準の1/2の振幅を有する振幅漸減のための低パルス電流Pcをそれぞれ1つずつ出力させており、図9の場合は、正負の基準パルス電流Pa,Pbのあとに、振幅が順次1/2ずつ漸減する低パルス電流Pcをそれぞれ3つずつ出力させている。上記正負のパルス電流Pa,Pb,Pcは、一定の時間間隔(例えば1ms)で交互に出力される。
【0029】
なお、上述したような基準パルス電流Pa,Pbの間に低パルス電流Pcが介在するパルス電流Pa,Pb,Pcを磁歪線10に流した場合、上記低パルス電流Pcによっても弾性波が発生するが、その検出電圧は小さいもので、演算部14においては、このような低パルス電流Pcによる弾性波は位置検出の対象から除外し、基準パルス電流Pa,Pbにより発生する弾性波のみを対象として位置検出が行われるように設定されている。
【0030】
図10及び図11には、上記図8及び図9に示すパルス電流を用いて測定した弾性波の伝播時間tdの測定実験の結果と、この伝播時間の誤差を変位誤差に換算したものが示されている。これによると、低パルス電流Pcを含まない場合、即ち同じ振幅の正負のパルス電流Pa,Pb(図6参照)のみを流した場合と同様に伝播時間のヒステリシスが小さくなっており、また、測定変位誤差の最大幅は、図8のものにおいては約0.15mm、図9のものにおいては約0.14mmであって、これは、振幅が同じ正負のパルス電流を流した場合(図7参照)に比べても約1/2の値であることが分かる。
【0031】
図12には、上記電流供給部11から磁歪線10に供給されるパルス電流のさらに異なる例が示されている。この例では、時間差ゼロで連続的に出力される正負一対のパルス電流Pa,Pbからなるパルス電流対Pabを、一定の規則性を有する時間間隔をおいて順次供給するようにしている。つまり、正のパルス電流Paと負のパルス電流Pbとを時間差0で連続して供給したあと、一定の時間差(例えば1ms)をおいて正負一対のパルス電流Pa,Pbを同じく時間差0で連続して供給し、以下同様の動作を繰り返す。この場合、正負のパルス電流の前後関係は、図示したものと逆であっても良い。
【0032】
図13には、上記図12のようなパルス電流対Pabを磁性線10に流したときの変位誤差の検出実験結果と、同じ大きさの正負のパルス電流Pa及びPbを5ms間隔で流したときの変位誤差の検出実験結果とが示されている。これによると、個々のパルス電流を5ms間隔で流したときの変位誤差のヒステリシス幅は約0.31mmであるのに対し、上記パルス電流対Pabを流した場合の変位誤差のヒステリシス幅は約0.105mmであって、約1/3にも減少しているといった具合に、磁化のヒステリシス特性がより軽減されていることが分かる。
【0033】
上記永久磁石12の位置検出は、上記演算部14において、弾性波の伝播時間tdに伝播速度sdを乗じることにより行われるが、このとき用いられる伝播速度sdとしては、検出装置に使用する磁歪線について予め実測したものを用いるのが望ましい。以下はその実測方法の一例である。即ち、永久磁石12を上記磁歪線10に沿って例えば0mmの位置から10mmの位置まで1mmずつ移動させながら、それぞれの位置における弾性波の伝播時間tdを測定する。図14には、各磁石位置と伝播時間との関係を示す近似曲線が示されている。次に、この近似曲線を微分することにより伝播速度sdを算出する。図14に示すような数値の場合、伝播速度sdは2804(m/s)となる。
このように、実測した永久磁石位置と伝播時間との値から伝播速度sdを求めて使用することにより、絶対誤差を小さくすることが可能になる。
【0034】
あるいは、上述したように単に永久磁石位置と伝播時間との実測値を一次近似して伝播速度sdを求めるのではなく、永久磁石位置と伝播時間との関係を実測し、各位置における絶対誤差を演算部14に記憶させておき、永久磁石12の位置検出が行われたときこの絶対誤差に基づいて検出位置を補正するようにすることもできる。この場合には、検出精度をより高めることが可能である。
なお、実際の製品に実測した伝播速度及び絶対誤差を用いる場合には、変位の測定範囲全体について、すなわち、永久磁石の全ストロークについて、上述したような方法で伝播時間及び絶対誤差の実測が行われると共に、変位検出時の位置補正が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る変位検出装置の一実施形態を示す原理構成図である。
【図2】本発明おいて使用される二極性パルス電流の波形を示す線図である。
【図3】本発明おいて磁歪線に生ずる磁場及び弾性波について説明する要部拡大図である。
【図4】正負のパルス電流を流したときの検出器からの出力電圧波形を示す線図である。
【図5】図4の出力電圧のうち弾性波が検出された時の検出電圧波形の変動を示す線図である。
【図6】二極性パルスと単極性パルスを用いて測定した弾性波の伝播時間のヒステリシスを示す線図である。
【図7】図4における伝播時間差を変位誤差に変換して示す線図である。
【図8】本発明において用いられる二極性パルス電流の異なる波形例を示す線図である。
【図9】本発明において用いられる二極性パルス電流のさらに異なる波形例を示す線図である。
【図10】図8及び図9に示すパルス電流を用いて測定した弾性波の伝播時間のヒステリシスを示す線図である。
【図11】図10における伝播時間差を変位誤差に変換して示す線図である。
【図12】本発明において用いられる二極性パルス電流のさらに異なる波形例を示す線図である。
【図13】図12のパルス電流を用いて測定した変位誤差の線図である。
【図14】弾性波の伝播速度を実測する過程で得られた永久磁石位置と伝播時間との関係を示す一次近似曲線である。
【図15】従来の磁歪式変位検出装置の原理構成図である。
【図16】従来の検出装置の磁歪線に生ずる磁場及び弾性波の方向を示す斜視図である。
【図17】従来の検出装置に用いらる単極性パルス電流の波形を示す線図である。
【図18】位置検出時の磁歪線に対する永久磁石の変位の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
10 磁歪線
11 電流供給部
12 永久磁石
13 検出器
14 演算部
17a,17b 弾性波
Pa 正のパルス電流
Pb 負のパルス電流
t 時間間隔
td 伝播時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を磁歪線と平行に移動できるように配置すると共に、該磁歪線の端部に弾性波検出用の検出器を配設し、上記磁歪線にパルス電流を流すことにより上記永久磁石の近傍において該磁歪線にねじり弾性波を発生させ、この弾性波が磁歪線を伝播して上記検出器で検出されたときの伝播時間と該弾性波の伝播速度とから上記永久磁石の変位を検出する方法において、
上記磁歪線に正負二極性のパルス電流を流すことにより、該磁歪線における磁化のヒステリシスを減少させると共に上記弾性波を発生させ、正及び/又は負のパルス電流により発生する弾性波から上記永久磁石の変位を検出することを特徴とする変位検出方法。
【請求項2】
正負のパルス電流を交互に流すことを特徴とする請求項1に記載の変位検出方法。
【請求項3】
正負のパルス電流を規則性のある時間間隔で流すことを特徴とする請求項1又は2に記載の変位検出方法。
【請求項4】
正負のパルス電流におけるパルスの振幅が互いに等しいことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項5】
正負のパルス電流におけるパルスの振幅を、一定パルス数毎に漸減させることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項6】
連続して出力される正負一対のパルス電流からなるパルス電流対を、規則性のある時間間隔で流すことを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項7】
上記検出器が、弾性波を電圧に変換して検出するコイルであることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項8】
上記磁歪線にパルス電流を流したときから、上記検出器による弾性波検出電圧が0Vになるときまでの時間を、上記弾性波の伝播時間とすることを特徴とする請求項7に記載の変位検出方法。
【請求項9】
上記伝播速度として、永久磁石位置に対する弾性波の伝播時間を実測して得られた伝播速度を用いることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項10】
永久磁石位置と弾性波の伝播時間との関係を実測して絶対誤差を求めておき、この絶対誤差に基づいて永久磁石の検出位置を補正することを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の変位検出方法。
【請求項11】
強磁性材料からなる磁歪線と、該磁歪線にパルス電流を供給する電流供給部と、上記磁歪線に沿って変位する永久磁石と、上記磁歪線にパルス電流が供給されたとき永久磁石との対応位置において該磁歪線に発生するねじり弾性波を検出する検出器と、この検出器で検出された弾性波の伝播時間と該弾性波の伝播速度とから上記永久磁石の変位を求める演算部とを備えた変位検出装置において、
上記電流供給部が、正負二極性のパルス電流を磁歪線に供給するように構成されると共に、上記演算部が、正及び/又は負のパルス電流により発生する弾性波から上記永久磁石の変位を検出するように構成されていることを特徴とする変位検出装置。
【請求項12】
上記電流供給部が、正負のパルス電流を交互に磁歪線に供給するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載の変位検出装置。
【請求項13】
上記電流供給部が、正負のパルス電流を規則性のある時間間隔で磁歪線に供給するように構成されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の変位検出装置。
【請求項14】
上記電流供給部が、パルスの振幅が等しい正負のパルス電流を磁歪線に供給するように構成されていることを特徴とする請求項11から13の何れかに記載の変位検出装置。
【請求項15】
上記電流供給部が、正負のパルス電流におけるパルスの振幅を一定パルス数毎に漸減させて磁歪線に供給するように構成されていることを特徴とする請求項11から13の何れかに記載の変位検出装置。
【請求項16】
上記電流供給部が、連続して出力される正負一対のパルス電流からなるパルス電流対を規則性のある時間間隔で磁歪線に供給するように構成されていることを特徴とする請求項11から15の何れかに記載の変位検出装置。
【請求項17】
上記検出器が、弾性波を電圧に変換して検出するコイルであることを特徴とする請求項11から16の何れかに記載の変位検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−240333(P2007−240333A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63271(P2006−63271)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】