説明

変位検出装置

【課題】組み付け性に優れ、また検出対象物が三次元方向に移動するものであっても正確に変位を検出することのできる検出装置を提供する。
【解決手段】直線運動や回転運動を行う所定の検出対象物21の変位を検出して信号を出力する変位検出装置において、前記検出対象物21の所定箇所に接触させられ、その接触点の変位に伴って直線的に移動する移動部材6と、その移動部材6を前記検出対象物21に弾性力で押し付ける弾性部材15と、前記移動部材6の移動に応じた信号を出力するセンサ部11,12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直線移動や回転などの動作を検出するための装置に関し、特にその動作に伴う変位量もしくは変速速度などを検出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御対象物の移動や回転を検出し、その検出結果を制御に反映させることが各種の制御分野で行われていることは広く知られている。その一例として、特許文献1には、トロイダル型無段変速機におけるトラニオンの変位量や回転角度(傾転角度)を検出して変速比を制御する発明が記載されている。その変位量や回転角度を検出するためのセンサとして、接触式のセンサの他に、静電容量型や光学式の非接触センサを使用できることが特許文献1に記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、検出コイルのインピーダンスの変化を利用して変位を検出するポジションセンサが記載されている。これは、検出コイルに所定の周波数および振幅の定電流を流しておき、その検出コイルに対する金属体の挿入長さに応じて検出コイルのインピーダンスが変化し、それが検出コイルの両端電圧として表れるので、その電圧に基づいて金属体の変位量やその速度を検出するように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−195393号公報
【特許文献2】特開2003−83764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような非接触式のセンサは、トラニオンの一部の移動もしくはトラニオンに設けた被検出部の移動に感応して静電容量やレーザー光などが変化し、その変化によって変位を検出する。したがって、検出対象物であるトラニオンにいわゆる被検出部を設ける必要があり、そのため被検出部を可動部側に、センサ部を固定部側にそれぞれ設けるなど、組み付け性が必ずしも良好でなく、改良の余地がある。また、接触式のセンサであっても同様であって、検出対象部に連結する必要があるので、可動部と固定部との両方に対する装着作業が必要なために組み付け性の点で改良の余地がある。特に、検出対象部に連結する構成の場合、その検出対象物がトラニオンなどのように回転を伴う複雑な移動を行うものであれば、被検出部が複合した動きをするために、検出精度が低下したり、検出結果を更に解析する必要が生じるなどの可能性がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されたポジションセンサでは、検出コイルに対して移動する金属体を検出対象物に連結する必要があるので、組み付け性が劣る可能性がある。また、検出対象物がトラニオンなどのように回転を伴う複雑な移動を行うものの場合、被検出部が複合した動きをするために、検出精度が低下したり、検出結果を更に解析する必要が生じるなどの可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、組み付け性に優れ、また検出対象物が三次元方向に移動するものであっても正確に変位を検出することのできる装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、直線運動や回転運動を行う所定の検出対象物の変位を検出して信号を出力する変位検出装置において、前記検出対象物の所定箇所に接触させられ、その接触点の変位に伴って直線的に移動する移動部材と、その移動部材を前記検出対象物に弾性力で押し付ける弾性部材と、前記移動部材の移動に応じた信号を出力するセンサ部とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記センサ部は、前記移動部材と一体となって動作する金属体と、その金属体との相対位置の変化に応じてインピーダンスが変化する検出コイルとを備えていることを特徴とする変位検出装置である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記移動部材は、前記弾性部材による押し付け方向に対して垂直な面に沿う方向には前記検出対象物に対して摺動するように前記検出対象物に接触させられていることを特徴とする変位検出装置である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記移動部材の先端部を突出させ、かつその移動部材の後端部側および前記センサ部を前記検出対象物に対して遮蔽するカバー部材を更に備えていることを特徴とする変位検出装置である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記検出対象物は、トロイダル型無段変速機におけるパワーローラを保持しているトラニオンであることを特徴とする変位検出装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、検出対象物が所定の方向に移動し、もしくは回転すると、これに接触させられている移動部材がその接触点の変化に応じて直線的に移動する。その場合、移動部材は弾性力で検出対象物に押し付けられているので、接触点の変位に追従して移動する。その移動量もしくは速度に応じてセンサ部が信号を出力する。したがって、検出対象物に対しては移動部材を押し付けるだけでよいので、容易に組み付けることができる。また、検出対象物が回転し、あるいは三次元方向に変位するとしても、移動部材は検出対象物に接触しているだけであるから、その変位は弾性体を圧縮し、あるいは伸長させる直線方向に限られ、その変位をセンサ部で検出するので、精度の良い変位の検出を行うことができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、移動部材の変位に応じて金属体が検出コイルに対して相対移動し、それに伴って検出コイルのインピーダンスが変化する。したがって、検出コイルに所定の周波数の定電流を流しておけば、その両端電圧が変化し、変位を電気信号として検出することができる。また、その信号はアナログ信号であるから、デジタル−アナログ変換などの信号処理を行うことなく、そのまま速度信号とすることができ、雑音などの影響を特に受けることなく精度よく変位速度を検出することができる。さらに、小型化が容易である。
【0015】
請求項3の発明によれば、移動部材は、その直線移動の方向に対して垂直な面に沿う方向には、検出対象物に対して相対的に摺動するように検出対象物に接触しているので、検出対象物が前記直線移動の方向とは異なる方向にも変位する場合であっても、移動部材は、当該異なる方向への変位もしくは荷重の影響を受けにくく、したがって前記直線移動の方向における変位を精度よく検出することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、検出対象物が動作することに伴う塵埃や潤滑油などの飛散物をカバー部材によって遮断できるので、移動部材の円滑な動作やセンサ部の感度など、本来の機能を常時良好な状態に維持することができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、トロイダル型無段変速機におけるトラニオンの変位を正確に検出することができ、またトロイダル型無段変速機に対する組付けを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1にこの発明に係る変位検出装置の一例を断面図で示してあり、この変位検出装置は、全体の筐体を成すボディ1を備えている。このボディ1は、以下に述べる移動部材やセンサ部を収容するとともに、検出対象物を含む装置に取り付けるためのものであり、図1に示す例では、全体として円筒状に形成され、その軸線方向での中間部には、外周側に突出したフランジ部2が設けられている。そのフランジ部2には対象とする装置に固定するための取付孔3が形成されている。なお、図1に示す例では、その取付孔3にカラー4が嵌め込まれている。
【0019】
ボディ1の先端側(図1での下側)には、小径の貫通孔が形成され、ここにブッシュ5が圧入されており、この発明における移動部材に相当する検出ロッド6がこのブッシュ5に挿入されてその軸線方向に移動できるように保持されている。この検出ロッド6は、その先端を検出対象物に接触させてその接触点の変位に応じてその軸線方向に直線的に移動するように構成され、そのために、その先端部は、検出対象物に対して、軸線方向とは垂直な面に沿う方向に摺動もしくは滑動できるように凸球面などの曲面に成形されている。また、検出ロッド6が限界以上にボディ1内に退入しないようにするために、検出ロッド6の突出端側にEリングなどの止め環7が取り付けられている。
【0020】
さらに、ボディ1の先端部には、カバー部材8が取り付けられている。このカバー部材8は、ゴムなどの弾性材料によって構成された蛇腹状の部材であって、基端部がボディ1の先端部に嵌着され、また先端部は前記検出ロッド6を突出させた状態で検出ロッド6に取り付けられている。すなわち、ボディ1の先端側はカバー部材8によって被われて、検出対象物に対して遮蔽されている。
【0021】
前記ブッシュ5を嵌め込んである貫通孔より図1での上側の部分には、相対的に大径の中空部が形成され、その中空部の内周面には磁気シールド9が施されている。さらにその磁気シールド9の内周側に、前記ブッシュ5の内径より僅かに大きい内径のコイルボビン10が挿入されており、そのコイルボビン10の外周側に検出コイル11が設けられている。
【0022】
前記検出ロッド6の後端部は、コイルボビン10の内部に挿入されており、またコイルボビン10の内周面に摺接するように、ブッシュ5の内径より僅かに大径に形成されている。したがって、その大径の部分がブッシュ5に係合することにより、先端側への抜け止めがなされている。
【0023】
この検出ロッド6の後端部には、その軸線方向に延びるコア12が一体に取り付けられている。このコア12はこの発明におけるセンサ部を構成する金属体であって、検出ロッド6と一体となって軸線方向に移動することにより、検出コイル11との相対位置(より具体的には挿入長さ)が変化し、それに伴って検出コイル11のインピーダンスが変化するようになっている。したがって、検出コイル11およびコア12がこの発明におけるセンサ部を形成している。
【0024】
磁気シールド9を施した中空部より後端側(図1での上側)は更に大径の中空部になっており、この部分から前記コイルボビン10の内部にバネ受け13が挿入されている。このバネ受け13は、平板部の中央に円筒部を突出させた構成の部材であって、その円筒部をコイルボビン10の後端部(図1の上端部)に密着させて嵌合させ、その状態で平板部を貫通させたネジ14によってボディ1に対して固定されている。
【0025】
そして、そのバネ受け13と前記検出ロッド6における後端部の大径部分との間に圧縮バネ15が配置されている。この圧縮バネ15はこの発明における弾性体に相当し、検出ロッド6を検出対象物に向けて押するようになっている。したがって、検出ロッド6およびこれと一体のコア12とが、検出対象物に追従して直線的に移動するように構成されている。
【0026】
さらに、ボディ1における後端側の開口部には、回路16および出力端子17を有する基板18が嵌め込まれ、この基板18を樹脂モールド19によって固定することにより、開口部が密閉されている。この回路16は、検出コイル11に所定の周波数および振幅の定電流を供給するとともに検出コイル11の両端電圧を検出して検出信号を出力するためのものであり、一例として前述した特開2003−83764号公報に記載されている回路を採用することができる。
【0027】
上述した変位検出装置の作用について説明すると、図1はトロイダル型無段変速機20におけるトラニオン21を検出対象物とする例であり、そのトラニオン21の変位を検出するようになっている。そのトラニオン21はその一端側に設けられた油圧シリンダなどのアクチュエータ(図示せず)によって前後動させられ、それに伴って傾転するように構成されており、そのアクチュエータとは反対の端部側にこの発明に係る変位検出装置が配置されている。具体的には、ケーシング22に形成された開口部にボディ1が挿入され、その状態で前記取付孔3に挿入したボルト(図示せず)によってケーシング22に対して固定される。
【0028】
その場合、検出ロッド6の先端部がトラニオン21の端部に突き当てられて接触し、それに伴って圧縮バネ15が圧縮させられることにより、その弾性力で検出ロッド6がトラニオン21に押し付けられる。したがってトラニオン21が変位検出装置から離れる方向(図1の下方向)に移動すると、検出ロッド6が圧縮バネ15に押されてトラニオン21に追従して移動する。また反対にトラニオン21が図1の上方向に移動すると、検出ロッド6は圧縮バネ15を圧縮しつつトラニオン21と共に移動する。すなわち検出ロッド6は、その軸線方向において、トラニオン21と一体となって移動する。このように、ボディ1をケーシング22に固定すれば、検出ロッド6を検出対象物であるトラニオン21に、検出方向に対して一体化させることができるので、その取付作業は容易である。
【0029】
検出ロッド6には前述したコア12が一体に設けられているので、トラニオン21が上記のように移動すると、検出コイル11に対するコア12の挿入長さが変化し、それに応じて検出コイル11のインピーダンスが変化する。検出コイル11には、所定の周波数および振幅の定電流が流されており、したがってインピーダンスの変化に応じて検出コイル11の両端電圧が変化し、この電圧変化が検出信号として前記出力端子17から出力される。すなわち、トラニオン21の直線的な変位量や変位速度が電気的に検出される。
【0030】
トラニオン21は直線的な変位に伴って傾転し、またトルク伝達に伴う応力で変位することがあり、その全体的な変位は、回転を伴う三次元方向の変位になる。これに対して前記検出ロッド6の先端部は、その軸線方向に対して垂直な平面に沿う方向には、トラニオン21と相対移動できるようになっているので、トラニオン21がその平面に沿う方向に変位しても検出ロッド6は変位しない。すなわち、検出ロッド6の軸線方向でのトラニオン21の変位にのみ追従して検出ロッド6が変位する。したがって、これとは異なる方向での変位や荷重が検出ロッド6の変位に影響を及ぼさないので、トラニオン21の直線的な変位を正確に検出することができる。
【0031】
一方、トロイダル型無段変速機は、広く知られているように、一対のディスクの間にパワーローラを挟み付け、そのパワーローラを介して各ディスクの間でトルクを伝達する変速機であり、そのパワーローラとディスクとの間のトルクの伝達は、トラクションオイルの油膜を介して行われる。したがって前記ケーシング22の内部ではオイルなどが飛散している。しかしながら、前記カバー部材8によって検出ロッド6の後端部側およびセンサ部を含むボディ1の全体が、検出対象物であるトラニオン21やケーシング22の内部空間に対して遮蔽されているので、オイルなどの異物が変位検出装置に浸入することが防止されている。そのため、検出ロッド6やコア12の直線的な移動に異常を来したり、センサ部の感度が低下したりすることを防止もしくは抑制することができる。
【0032】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、センサ部は静電容量型のもの、あるいは光学的に変位を検出する形式のものなど、上記のいわゆるインピーダンス式以外のセンサによって構成してもよい。また、そのセンサ部は、直線的な移動を所定のリンクなどによって旋回運動に変換し、その旋回角度によって変位を検出する構成であってもよい。また反対に回転運動を所定のリンクなどによって直線運動に変換し、その直線的な変位から角度を検出する構成であってもよい。さらに、この発明における検出対象物は、上述したトラニオンに限られないのであって、更に高速度で直線的に往復運動する部材であってもよく、その場合、インピーダンス式のセンサ部における金属体もしくはコアを、往復運動する部材に取り付け、検出コイルを固定しておくことが好ましい。このように構成すれば、慣性力を小さくできるので、高速追従性が向上して検出精度を高くでき、また耐久性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明に係る変位検出装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…ボディ、 6…検出ロッド、 8…カバー部材、 11…検出コイル、 12…コア、 15…圧縮バネ、 20…トロイダル型無段変速機、 21…トラニオン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線運動や回転運動を行う所定の検出対象物の変位を検出して信号を出力する変位検出装置において、
前記検出対象物の所定箇所に接触させられ、その接触点の変位に伴って直線的に移動する移動部材と、
その移動部材を前記検出対象物に弾性力で押し付ける弾性部材と、
前記移動部材の移動に応じた信号を出力するセンサ部と
を備えていることを特徴とする変位検出装置。
【請求項2】
前記センサ部は、前記移動部材と一体となって動作する金属体と、その金属体との相対位置の変化に応じてインピーダンスが変化する検出コイルとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の変位検出装置。
【請求項3】
前記移動部材は、前記弾性部材による押し付け方向に対して垂直な面に沿う方向には前記検出対象物に対して摺動するように前記検出対象物に接触させられていることを特徴とする請求項1または2に記載の変位検出装置。
【請求項4】
前記移動部材の先端部を突出させ、かつその移動部材の後端部側および前記センサ部を前記検出対象物に対して遮蔽するカバー部材を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の変位検出装置。
【請求項5】
前記検出対象物は、トロイダル型無段変速機におけるパワーローラを保持しているトラニオンであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の変位検出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−170391(P2008−170391A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6118(P2007−6118)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】