説明

変性導電性高分子並びにそれを用いた導電性部材

【課題】 電気抵抗値のバラツキ及び環境依存性が小さく、安定な電気特性を示す有機重合体組成物及びそれを用いた導電性部材の提供。
【解決手段】 導電性高分子をラジカル種で化学処理した変性導電性高分子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル種で化学処理された変性導電性高分子並びにそれを含む有機重合体組成物、及びその組成物を用いた導電性部材に関する。この導電性部材は、複写機、カラープリンター等の電子写真記録装置の転写ロール、帯電ローラ、転写ベルト等の導電性部材として有用である。
【背景技術】
【0002】
有機重合体に導電性を付与することを目的として、有機重合体に導電剤が配合されている。そのような導電剤としては、カーボンブラック、金属酸化物微粒子等の導電性フィラーが用いられている。カーボンブラック等の導電性フィラーを有機重合体(樹脂)中に分散させた有機重合体組成物では、導電性フィラーを有機重合体中に均一に分散させることが困難なため、有機重合体組成物の電気抵抗値を要求値に制御したり、組成物中で均質化したりすることが困難であった。一方、イオン導電剤やイオン導電性樹脂等の導電剤は、有機重合体中に均一に分散できるために、電気抵抗値のバラツキを抑えて均質化することは可能であるが、電気抵抗値を要求値に制御することが困難であるという欠点があり、また電気抵抗値が水分等の影響を受けやすく、高温高湿下で測定した抵抗値と低温低湿下で測定した抵抗値ではその値が2桁以上も異なり、環境依存性を示すという欠点があった。
【0003】
一方、導電性高分子を有機重合体に分散させたものも報告されている。導電性高分子を有機重合体に分散させる方法としては、有機重合体と導電性高分子を溶媒中で混合分散させる方法や有機重合体と導電性高分子を混練する方法が挙げられる。しかしながら、導電性高分子はドーピング状態(導電状態)では不融不溶であることから、脱ドーピング状態(非導電状態)の導電性高分子を有機重合体中に分散させた後、ドーパントによる導電化処理を行う必要があり、工程が煩雑である上に組成物を均質に導電化処理することが困難であり、電気抵抗値を制御することが難しい。また、導電状態の導電性高分子を有機重合体中に分散させた場合、有機重合体と導電性高分子との相溶性が必ずしも高くないために、導電性高分子が有機重合体中に均一に分散できないために、有機重合体組成物の電気抵抗値のバラツキが大きくなり、その抵抗値の制御が困難であるという問題もあった(特許文献1及び2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−277455号公報
【特許文献2】特開2004−205617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、電気抵抗値のバラツキ及び環境依存性が小さく、安定な電気特性を示す有機重合体組成物及びそれを用いた導電性部材を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、有機重合体に混合分散させることにより、上記特性を有する有機重合体組成物を作製可能な、ラジカル種で化学処理された変性導電性高分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、導電性高分子をラジカル種で化学処理した変性導電性高分子並びにその変性導電性高分子を含む有機重合体組成物及びそれを用いた導電性部材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従って導電性高分子をラジカル種で化学処理して変性することにより、導電性高分子を有機重合体中に均一に分散させることができ、安定な電気特性を有する有機重合体組成物及び導電性部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に従ってラジカル種で化学処理される導電性高分子(以下導電性高分子)は、モノマーをドーピング剤(ドーパント)共存下に、化学酸化重合することによって得られる。そのようなモノマーとしては、例えばアニリン、チオフェン、ピロール及びこれらの誘導体を例示できる。上記誘導体としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基を置換基として少なくとも1つ有する誘導体を例示できる。
【0010】
上記酸化重合のための酸化剤としては、上記モノマーを重合し得うるものであれば、特に限定はなく、例えば過硫酸アンモニム、過硫酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸類、過酸化水素、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、重クロム酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過酸化水素−第一鉄塩等のレドックス開始剤等が好ましく用いられる。これら酸化剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。これら酸化剤の用いる量としては、上記モノマーを酸化重合し得うる量であれば特に限定はないが、モノマー1モルに対して好ましくは0.01〜10モル、より好ましくは0.1〜5モルである。
【0011】
上記酸化重合の際に共存させるドーピング剤としては、従来から導電性高分子の酸化重合で使用しているドーピング剤であれば特に限定はなく、例えば塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸、ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸、スルホン酸等の有機酸を例示でき、単独で使用しても2種以上併用してもよい。好ましいドーピング剤としてはスルホン酸が例示でき、具体的には一つ又は複数のスルホン酸基を有する脂肪族、芳香族又は環状脂肪族スルホン酸及びこれらの塩であり、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、高級脂肪酸エステルのスルホン酸、(ジ)アルキルスルホコハク酸、高級脂肪酸アミドのスルホン酸、カンファースルホン酸及びこれらの塩類を挙げることができる。また、スルホン酸基を有する高分子酸及びこれらの塩であり、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、ポリ(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸及びこれらの塩類も例示できる。これらのドーピング剤の使用量には特に限定はないが、上記モノマー1モル当り0.01〜5モル使用するのが好ましく、0.1〜3モル使用するのが更に好ましい。
【0012】
本発明のラジカル種は、導電性高分子を化学処理できるものであれば、特に限定されないが、下記化合物から加熱又は光照射によって形成される。ラジカル種を形成する化合物としては、アゾ化合物、チオール化合物、ジスルフィド化合物、ペルオキソ化合物、アジド化合物、カルボニル化合物を例示できる。ラジカル種を形成する化合物は単独で使用しても2種以上併用してもよい。好ましくは、アゾ化合物、チオール化合物、ジスルフィド化合物、ペルオキソ化合物が挙げられる。アゾ化合物としては具体的には、2,2‘−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2、2‘−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2‘−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、2、2‘−アゾビス〔N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2、2‘−アゾビス〔N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド〕、ジメチル2、2’−アゾビス(2−メチル−プロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等を例示できる。また、下記式(I)のアゾ基含有高分子化合物も例示できる。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R1及びR2は独立に、ヘテロ原子を含んでも良い2価の炭化水素基であり、置換基としてアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、カルボキシル基、水酸基等が結合していても良く、また、R3は、両端にNH又はOを有する基である。nは自然数を表す。)
【0015】
アゾ基含有高分子化合物の具体例としては、下記式(II)又は(III)が例示でき、和光純薬工業(株)から提供されているVPS−0501、VPS−1001、VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601を用いることができる。VPS−0501及びVPS−1001は以下の構造のアゾ基含有高分子化合物であり、VPS−0501はポリジメチルシロキサン部分の分子量が約5000、VPS−1001はポリジメチルシロキサン部分の分子量が約10000である。
【0016】
【化2】

【0017】
VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601は以下の構造のアゾ基含有高分子化合物であり、VPE−0201はポリエチレンオキシド部分の分子量が約2000、VPE−0401はポリエチレンオキシド部分の分子量が約4000、VPE−0601はポリエチレンオキシド部分の分子量が約6000である。
【0018】
【化3】

【0019】
チオール化合物としては、オクタンチオール、ドデカンチオール、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、チオグリセロール、チオグリセロール、ベンゼンチオール、メルカプト安息香酸等を例示できる。
【0020】
ジスルフィド化合物としては、ジチオジエチル、ジチオジプロピル、ジチオジブチル、ジチオジエタノール、ジチオジプロパノール、ジチオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸ジメチル、ジチオジフェニル、ジベンジルジスルフィド等を例示できる。
【0021】
ペルオキソ化合物としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミールパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、プロピオニルパーオキサイド、ブチリルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0022】
本発明のラジカル種により化学処理された変性導電性高分子(以下変性導電性高分子)は、以下の方法で得られるが、これに限定されるものではない。
【0023】
(a)前記導電性高分子を溶媒中に分散した導電性高分子分散液と前記ラジカル種を形成する化合物を反応させる方法(この方法では、ラジカル種を形成する化合物は、導電性高分子分散液にそのまま添加しても溶媒に溶解及び/又は分散したものを添加してもよい)。
(b)前記導電性高分子粉末に前記ラジカル種を形成する化合物を溶媒中に溶解させた溶液で処理、反応させる方法。
(c)前記導電性高分子粉末と前記ラジカル種を形成する化合物を粉末同士で混合、反応させる方法等が挙げられる。
【0024】
これらの方法のうちの好ましい方法としては(a)、(b)であり、最も好ましい方法としては、ラジカル種で導電性高分子を効率よく化学処理できることから(a)である。ここで言う分散は、溶媒中に導電性高分子の微粒子が分散している状態と導電性高分子が溶媒中に溶解している状態が混在していることを示している。
【0025】
導電性高分子を分散させる溶媒としては、導電性高分子を分散できる溶媒であれば特に限定はないが、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジブチレート、ヘキシレングリコールジアセテート、グリコールジアセテート等のグリコールエーテルエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、エチルブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等の脂肪酸エステル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールのアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、スルホラン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、水等を例示できる。上記溶媒は単独で使用しても2種以上を併用しても良い。ラジカル種を形成する化合物を溶解及び/又は分散させる溶媒としては、上記導電性高分子を分散させる溶媒として例示したものを用いることができる。
【0026】
導電性高分子分散液としては、特許第2003−349793号出願の明細書で開示されているポリアニリン分散液、三菱レイヨン製スルホン化ポリアニリン水分散液(商品名アクアパス)、バイエル製ポリエチレンジオキシチオフェン水分散液(商品名バイトロンP)等を用いることも可能である。
【0027】
ラジカル種で化学処理する導電性高分子は、ドーピング状態でも脱ドーピング状態でも良い。脱ドーピング状態の導電性高分子を用いた場合、ラジカル種による化学処理反応をドーピング剤の共存下で行うことにより、ラジカル種による化学処理とドーピング処理が同時に行われ、ラジカル種で化学処理された変性導電性高分子がドーピング状態で得られる。また、脱ドーピング状態の導電性高分子を用いた場合、ラジカル種による化学処理反応を行った後、ドーピング剤で処理することによっても、ラジカル種で化学処理された導電性高分子がドーピング状態で得られる。ドーピング状態の導電性高分子を用いた場合、ラジカル種による化学処理反応を行う際、ドーピング剤共存下で行っても良い。
【0028】
ドーピング剤としては、前記ドーピング剤に加えて、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタクリロイルオキシエチレンスルホン酸、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸等の脂肪族スルホン酸基含有モノマー類、スチレンスルホン酸、スルホフェニルマレイミド等の芳香族スルホン酸基含有モノマー類、またはこれらの塩類が挙げられる。
【0029】
ラジカル種と導電性高分子との反応は、加熱又は光照射下で行う。ラジカル種を形成する化合物は、導電性高分子100重量部あたり0.01〜30重量部使用することが好ましく、0.05〜20重量部使用するのが更に好ましい。また、反応温度としては、20℃〜180℃であり、好ましくは40℃〜150℃である。
【0030】
本発明の有機重合体組成物は、前記化学処理された導電性高分子を有機重合体100重量部に対して、好ましくは0.05〜80重量部、更に好ましくは0.1〜60重量部配合する。この配合量が少な過ぎると有機重合体組成物の体積抵抗値が1014Ω・cm以上となってしまう恐れがあり、逆に多すぎると添加量に見合っただけの効果が得られない恐れがある。
【0031】
本発明の有機重合体組成物に用いられる有機重合体には特に限定はなく、好ましい例としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム(例えばアクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエンゴム等)、水素化ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレン−α−オレフィンゴム(例えばエチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロプレン−非共役ジエンゴム、エチレン−ブテン−非共役ジエンゴム等)、ポリノルボルネンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、エピクロロヒドリンゴム、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素化ゴム、ポリウレタンゴム等のゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ポリアミドイミド、ポリアミック酸、ポリイミド等のポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、変性PPE樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、又はこれらの変性物などの樹脂などが挙げられる。
【0032】
本発明の有機重合体組成物は、有機重合体と化学処理された変性導電性高分子とを混合することにより得られるが、混合方法には特に限定はなく、変性導電性高分子と有機重合体とを混練機で混合する方法が挙げられる。混練機としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、2軸押出機等が挙げられる。また、本発明の有機重合体組成物は、変性導電性高分子の分散液と、あらかじめ溶媒等に溶解又は分散させた有機重合体とを混合する方法によっても得ることができる。有機重合体を溶解又は分散させる溶媒としては、特に限定されないが、化学処理された変性導電性高分子の分散液の溶媒と相溶できるものが好ましい。混合方法は、化学処理された変性導電性高分子と有機重合体とが効率よく混合できる方法であれば特に限定されないが、簡便な撹拌混合法やサンドミル、ビーズミル、ボールミル、3本ロールミル、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル等の分散機を用いて混合する方法が挙げられる。また、本発明の有機重合体組成物は、化学処理された変性導電性高分子と一般に有機重合体の加工性、柔軟性を改善するために用いられている可塑剤、プロセスオイルとを予め混合したものを上記有機重合体と混合することによっても得られる。
【0033】
また、本発明の有機重合体組成物は、変性導電性高分子及び/又はその分散液と上記有機重合体の補強剤として用いられているカーボンブラック、シリカ、タルク等のフィラーと予め混合したものと上記有機重合体と混合することによっても得られる。また、本発明の有機重合体組成物は、変性導電性高分子の分散液で上記補強剤を処理したものを上記有機重合体と混合することによっても得られる。
【0034】
本発明の有機重合体組成物にはその他の成分としては、例えばカーボンブラック、シリカ、タルクなどの補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は加硫促進剤、シランカップリング剤、各種オイル、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤等のゴム又は樹脂用に一般的に配合されている各種添加剤を従来の配合量で任意的に配合することができる。本発明の有機重合体組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、イオン導電剤、電子伝導剤を配合しても差し支えない。イオン導電剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤等が挙げられる。電子伝導剤としては、カーボンブラック、導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、導電性酸化スズ、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボン短繊維等が挙げられる。
【0035】
本発明のラジカル種で化学処理された変性導電性高分子は、溶媒及び有機重合体に対する分散性が良好である。その結果、変性導電性高分子と有機重合体とを含む有機重合体組成物は、電気抵抗値のバラツキ及び環境依存性が小さくなり、電気抵抗値の制御が可能となり、安定的な電気特性を示す。そして、本発明の有機重合体組成物は、上記特徴を持つため、OA機器類に用いられている導電性ベルト、導電性ロール、導電性ブレード等の導電性部材、及び電子部品類の静電気障害を防止する帯電防止剤及び包装材として有用である。また、本発明の有機重合体組成物は電磁波シールド、アクチュエータ等にも利用できる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を以下の実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
反応例1:導電性ポリアニリン分散液の調製
トルエン300gにアニリン6g、ドデシルベンゼンスルホン酸21gを溶解させた後、6mol/L濃度の塩酸10.8mLを溶解させた蒸留水100gを加えた。この混合溶液を5℃以下に冷却した後、過硫酸アンモニウム16.2gを溶解させた蒸留水100gを加えた。5℃以下の状態で7時間酸化重合を行った後、トルエン450gを反応溶液に加えた。さらに、水150gにメタノール80g溶解した混合溶液を加え、撹拌を行った。撹拌を止め反応溶液を静置すると、反応溶液はトルエン層と水メタノール層の2層に分離した。導電性ポリアニリンが分散しているトルエン層を採取した。
【0037】
反応例2:化学処理された変性導電性ポリアニリン分散液1の調製
反応例1で得られた導電性ポリアニリン分散液80gにアゾ化合物4,4‘−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)0.7gを溶解したNMP溶液20gを加えた。窒素下、70℃、16時間反応を行った後、トルエンを真空下で加熱除去することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンのNMP分散液1(ポリアニリン含有量3重量%)を得た。変性導電性ポリアニリンNMP分散液の一部を採取し、NMPを真空下で加熱除去し、緑色粉末を得た。この粉末をアンモニア水で処理した後、水洗浄、乾燥することにより脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。この粉末の赤外吸収スペクトルは、1700cm-1付近にカルボニル基に由来する吸収が観測されたことから、4,4‘−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)から形成されたラジカル種により導電性ポリアニリンが化学処理されていることがわかった。
【0038】
反応例3:化学処理された変性導電性ポリアニリン分散液2の調製
反応例1で得られた導電性ポリアニリン分散液80gに高分子系アゾ化合物VPE−201(和光純薬製)0.7gを溶解したNMP溶液20gを加えた。窒素下、70℃、16時間反応を行った後、トルエンを真空下で加熱除去することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンのNMP分散液2を得た(ポリアニリン含有量3重量%)。変性導電性ポリアニリンNMP分散液の一部を採取し、NMPを真空下で加熱除去し、緑色粉末を得た。この粉末をアンモニア水で処理した後、水洗浄、乾燥することにより脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。この粉末の赤外吸収スペクトルは、1100cm-1付近にポリエーテル鎖に由来する吸収が観測されたことから、高分子系アゾ化合物から形成されたラジカル種により導電性ポリアニリンが化学処理されていることがわかった。
【0039】
反応例4:化学処理された変性導電性ポリアニリン分散液3の調製
反応例1で得られた導電性ポリアニリン分散液80gに高分子系アゾ化合物VPS−501(和光純薬製)0.7gを加えた。開始剤が溶解したのを確認した後、NMP20gを添加し、窒素下、70℃、16時間反応を行うことにより、化学処理された変性導電性ポリアニリンのNMP分散液3を得た(ポリアニリン含有量3重量%)。変性導電性ポリアニリンNMP分散液の一部を採取し、NMPを真空下で加熱除去し、緑色粉末を得た。この粉末をアンモニア水で処理した後、水洗浄、乾燥することにより脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。この粉末の赤外吸収スペクトルは、1000cm-1付近にシロキサン結合に由来する吸収が観測されたことから、高分子系アゾ化合物から形成されたラジカル種により導電性ポリアニリンが化学処理されていることがわかった。
【0040】
反応例5:化学処理された変性導電性ポリアニリンの調製
反応例1で得られた導電性ポリアニリン分散液80gにアゾ化合物2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピルアミド)(和光純薬製)0.7gを加えた。開始剤が溶解したのを確認した後、窒素下、70℃、16時間反応を行うことにより、化学処理された変性導電性ポリアニリンのトルエン分散液を得た。変性導電性ポリアニリントルエン分散液からトルエンを真空下で加熱除去し、緑色粉末を2.3g得た。この粉末の一部を採取しアンモニア水で処理した後、水洗浄、乾燥することにより脱ドープ状態のポリアニリン粉末を得た。この粉末の赤外吸収スペクトルは、1650cm-1付近にアミド結合に由来する吸収が観測されたことから、アゾ化合物から形成したラジカル種により導電性ポリアニリンが化学処理されていることがわかった。
【0041】
実施例1
ポリメチルメタクリレート(アルドリッチ社製、重量平均分子量12万)を溶解させたNMP溶液(濃度20重量%)10gに反応例2で得られた化学処理された変性導電性ポリアニリン分散液1を7.0g添加混合することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンとポリメチルメタクリレートとからなるNMP分散液(有機重合体組成物1)を調製した。このNMP分散液をガラス基板上に塗布後、150℃で、1時間加熱処理することにより、導電性ポリアニリン含有ポリメチルメタクリレートフィルムを厚さ150μmで得た。
【0042】
実施例2
ポリメチルメタクリレート(アルドリッチ社製、重量平均分子量12万)を溶解させたNMP溶液(濃度20重量%)10gに反応例3で得られた化学処理された変性導電性ポリアニリン分散液2を7.0g添加混合することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンとポリメチルメタクリレートとからなるNMP分散液(有機重合体組成物2)を調製した。このNMP分散液をガラス基板上に塗布後、150℃で、1時間加熱処理することにより導電性ポリアニリン含有ポリメチルメタクリレートフィルムを厚さ150μmで得た。
【0043】
実施例3
ポリアミド酸NMP溶液(宇部興産、ポリイミドワニス「U−ワニス−A」(固形分18%))10gに反応例4で得られた化学処理された変性導電性ポリアニリンNMP分散液3を5.7g添加混合することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンとポリアミド酸とからなるNMP分散液(有機重合体組成物3)を調製した。このNMP分散液をガラス基板上に塗布後、150℃1時間、200℃30分、300℃40分で加熱処理することにより、導電性ポリアニリン含有ポリイミドフィルムを厚さ150μmで得た。
【0044】
実施例4
SBR(日本ゼオン社製、Nipol 1502)100gに反応例5で得られた化学処理された変性導電性ポリアニリン20gをロールを用いて混練することにより化学処理された変性導電性ポリアニリンを含有するSBR(有機重合体組成物4)を得た。この有機重合体組成物4に亜鉛華(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3号)3g、ステアリン酸(日本油脂(株)製)1g、加硫促進剤(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)(大内新興化学(株)製、ノクセラーNSP)1g、硫黄((株)鶴見化学製)1.7g、老化防止剤(N−フェニル−N’−1,3−ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン)(FLEXSIS製、SANTOFLEX 6PPD)1gをロールを用いて混合した後、500x500x1mmの金型中で180℃30分間プレス成形することにより加硫ゴムシートを作製した。
【0045】
比較例1
脱ドープ状態ポリアニリン粉末(アルドリッチ製)をNMPに溶解することにより10重量%のポリアニリンNMP溶液を得た。このポリアニリンNMP溶液1.8gをポリアミド酸NMP溶液(宇部興産、ポリイミドワニス「U−ワニス−A」(固形分18%))10gに添加混合した。この溶液を用いて、実施例3と同様にポリアニリン含有ポリイミドフィルムを厚さ150μmで得た。得られたポリイミドフィルムを、蒸留水400gとメタノール500gの混合溶媒にパラトルエスルホン酸100gを溶解させて調整したドーパント溶液に、室温下30分間浸漬して導電性ポリアニリン含有ポリイミドフィルムを得た。
【0046】
比較例2
ドープ状態ポリアニリン粉末(アルドリッチ製)0.2gをポリアミド酸NMP溶液(宇部興産、ポリイミドワニス「U−ワニス−A」(固形分18%))10gに添加混合した。この溶液を用いて、実施例3と同様に導電性ポリアニリン含有ポリイミドフィルムを厚さ150μmで得た。ポリイミド樹脂ベルトの表面にはポリアニリン粒子の凝集物が観察され、樹脂表面は滑らかでなかった。
【0047】
比較例3
カーボンブラック(三菱化学社製MA−100)25gをポリアミド酸NMP溶液(宇部興産、ポリイミドワニス「U−ワニス−A」(固形分18%))100gに添加混合した。この溶液を用いて、実施例3と同様に導電性ポリアニリン含有ポリイミドフィルムを厚さ150μmで得た。
【0048】
上で得られたフィルムに関して以下の4項目を評価し、結果を表Iに示す。
(1)体積抵抗値:抵抗測定器(アドバンテスト社製、R8340A)を用いて、試料に
250Vの電圧を30秒間印加したときの体積抵抗値を測定した。
(2)体積抵抗値の面内ばらつき:シート面内の24ヶ所の体積抵抗値を測定し、体積抵
抗値の対数値をとり、その最大値と最小値の差として算出した。
(3)環境依存性:高温高湿(40℃、80%RH)と低温低湿(10℃、15%RH)
の環境下における体積抵抗値の対数値の差として算出した。
(4)表面滑らかさ:目視で表面の滑らかさを観察した。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のラジカル種で化学処理された変性導電性高分子を含む有機重合体組成物は、変性導電性高分子が有機重合体中に均一に分散するためフィルム表面には異物が観測されず、なめらかな形状であり、フィルム面内の電気抵抗値のバラツキが小さく、環境依存性に対する特性に優れている。このような特性をもつ本発明の有機重合体組成物は、OA機器類に用いられている導電性ベルト、導電性ロール、導電性ブレード等の導電性部材、及び電子部品類の静電気障害を防止する帯電防止剤及び包装材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子をラジカル種で化学処理した変性導電性高分子。
【請求項2】
化学処理される導電性高分子がポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の変性導電性高分子。
【請求項3】
ラジカル種がアゾ化合物、チオール化合物、ジスルフィド化合物及びペルオキソ化合物から形成されるものである請求項1又は2に記載の変性導電性高分子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性導電性高分子と有機重合体とを含んでなる有機重合体組成物。
【請求項5】
有機重合体100重量部あたり請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性導電性高分子が0.05〜80重量部含まれる有機重合体組成物。
【請求項6】
体積抵抗値が10〜1013Ω・cm−1である請求項4又は5に記載の有機重合体組成物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の有機重合体組成物を用いた導電性部材。

【公開番号】特開2006−169291(P2006−169291A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360103(P2004−360103)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】