説明

変換係数導出装置および変換係数導出方法

【課題】状況に応じた距離変換係数を導出する技術を提供する。
【解決手段】前処理部40は、取得した測位データに含まれたGPS速度を所定の期間にわたって逐次平均するとともに、取得したパルスの数を当該期間にわたって逐次計測する。仮変換係数導出部42は、平均したGPS速度と、計測したパルスの数とをもとに、パルスの数から移動距離への変換係数に対する仮係数を逐次導出する。フィルタ処理部46は、導出した仮係数を逐次統計処理する。補正制御部44は、統計処理した仮係数、あるいは導出した仮係数を変換係数として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換係数導出技術に関し、特に速度センサの出力信号から距離を算出する際に使用される変換係数を導出する変換係数導出装置および変換係数導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ナビゲーション装置では、一般的に、自律航法から算出された位置と、GPS(Global Positioning System)から算出された位置とが合成されることによって、最適な位置が推定される。自律航法では、車両の速度を示す速度パルスと、角速度センサによって計測された車両の旋回角速度とをもとに、前回の測位位置を更新することによって、現在の位置が算出される。このような方式のナビゲーション装置によれば、GPS衛星からの電波の受信が困難なトンネル、地下駐車場や高層ビルの谷間であっても、自律航法によって自車位置の導出が可能である。車両の移動距離d[m]は、次の式によって導出される。
d=K・ΣP ・・・(1)
ここで、K[m/pulse]は距離変換係数であり、ΣP[pulse]は距離導出期間における速度パルスの積算値である。
【0003】
移動距離を正確に求めるためには、距離変換係数を正確に求める必要がある。距離変換係数は、一般的に車両の重量の変化やタイヤの空気圧の変化により異なる。そのため、距離変換係数Kは、式(1)を変形した次の式によって、速度パルスの積算値とGPS等において計測される距離から導出される。
K=d/ΣP ・・・(2)
あるいは、距離をGPS等において計測される速度から導出する場合、式(2)は次のように示される。
K=v・Δt/ΣP ・・・(3)
ここで、v[m/sec]はGPS等から計測される速度、Δt[sec]はGPS等のサンプリング期間である。
【0004】
例えば、ドップラー効果をもとにGPSにおいて計測される速度を基準に、距離変換係数に関係した距離補正係数を補正する方法が提案されている。GPSから出力される速度、つまり単位時間当たりの移動距離を使用するため、その単位時間と速度パルスをカウントする時間幅を合わせれば、距離変換係数が容易に計算される(例えば、特許文献1)。しかしながら、GPSから出力される速度は、GPS衛星からの電波の受信状況や、走行速度を含む走行状態等の条件により精度が変化するため、補正された距離変換係数に誤差が含まれる可能性がある。これを解決するために、GPSにおいて計測された速度が一定値以上の場合にのみ距離変換係数を算出し、一旦算出された距離変換係数に対して平均化等のフィルタリングを行う技術が提案されている。そこでは、時定数の異なる平均化フィルタを複数個使用して距離変換係数の補正を行っている。補正初期には時定数の小さいフィルタを使用することで追従性を良くし、追従後は時定数の大きいフィルタを使用することで安定性を高めている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−18777号公報
【特許文献2】特開平8−14928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、GPSから出力される速度から、式(3)の速度v[m/sec]を算出する場合、GPS衛星からの電波の受信状況によって精度が変化するので、出力された速度値が同じであっても精度が異なる可能性がある。一般的に、移動速度が大きいほどGPSにおいて計測された速度の精度は高い。したがって、十分な精度を得るためには、距離変換係数の補正条件である速度下限値を大きくする必要があるが、補正機会が減少する。一方、補正機会を増加させようとして速度下限値を小さくすると十分な精度が得られない。特に補正の初期段階において、算出された距離変換係数に対して追従性の良好な平均化フィルタ等を用いると、距離変換係数を正確に補正することが難しくなる。移動距離の導出精度を向上させるためには、状況に応じた距離変換係数を導出することが要求される。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、状況に応じた距離変換係数を導出する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の変換係数導出装置は、GPS衛星からの信号をもとに測位された対象物の測位データと、速度センサから出力されたパルスとを逐次取得する取得部と、取得部において取得した測位データに含まれたGPS速度を所定の期間にわたって逐次平均するとともに、取得部において取得したパルスの数を所定の期間にわたって逐次計測する第1導出部と、第1導出部において平均したGPS速度と、第1導出部において計測したパルスの数とをもとに、パルスの数から移動距離への変換係数にあたる仮係数を逐次導出する第2導出部と、第2導出部において導出した仮係数を統計処理するフィルタ部と、初期段階において、第2導出部において導出した仮係数を変換係数とし、初期段階に続く追従段階において、フィルタ部において統計処理した仮係数を変換係数として出力する制御部とを備える。制御部は、第2導出部において導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、第1導出部において平均したGPS速度に依存した条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する。
【0009】
この態様によると、導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、GPS速度に依存した条件を満たさなければ統計処理を実行せず、条件を満たせば統計処理を実行するので、状況に応じた距離変換係数を導出できる。
【0010】
第1導出部は、初期段階における所定の期間よりも、追従段階における所定の期間の方を短くなるように設定してもよい。この場合、初期段階における所定の期間よりも、追従段階における所定の期間の方を短くするので、初期段階における誤差の影響を低減でき、追従段階における補正の機会を増加できる。
【0011】
制御部は、第2導出部において導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、所定の範囲に含まれる回数を計測する計測部と、計測部において計測した回数が所定の回数よりも大きくなった場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する決定部とを備えてもよい。決定部は、第1導出部において平均したGPS速度が高くなるほど、所定の回数を減少させてもよい。この場合、GPS速度が高くなるほど、初期段階から追従段階への切替を決定するための所定の回数を減少させるので、早期の切替を実行できる。
【0012】
計測部は、第1導出部において平均したGPS速度が高くなるほど、所定の範囲を狭くしてもよい。この場合、GPS速度が高くなるほど、所定の範囲を狭くするので、切替の判定精度を向上できる。
【0013】
第2導出部は、初期段階において、第1導出部によって新たに平均されたGPS速度が、過去に平均されたGPS速度よりも高くなった場合に、新たに平均されたGPS速度に対応した仮係数によって変換係数を更新してもよい。この場合、新たに平均されたGPS速度が、過去に平均されたGPS速度よりも高くなれば、新たに平均されたGPS速度に対応した仮係数によって変換係数を更新するので、変換係数の導出精度を向上できる。
【0014】
フィルタ部は、第1導出部において平均したGPS速度が所定の速度よりも高い場合の仮係数を統計処理の対象としてもよい。この場合、平均したGPS速度が所定の速度よりも高い場合の仮係数を統計処理の対象とするので、統計処理した仮係数の精度を向上できる。
【0015】
本発明の別の態様は、変換係数導出方法である。この方法は、GPS衛星からの信号をもとに測位された対象物の測位データと、速度センサから出力されたパルスとを逐次取得する取得ステップと、取得した測位データに含まれたGPS速度を所定の期間にわたって逐次平均するとともに、取得したパルスの数を所定の期間にわたって逐次計測する計測ステップと、平均したGPS速度と、計測したパルスの数とをもとに、パルスの数から移動距離への変換係数にあたる仮係数を逐次導出する導出ステップと、導出した仮係数を統計処理する統計処理ステップと、初期段階において、導出ステップにて導出した仮係数を変換係数とし、初期段階に続く追従段階において、統計処理ステップにて統計処理した仮係数を変換係数として出力する出力ステップとを備える。出力ステップは、導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、平均したGPS速度に依存した条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、状況に応じた距離変換係数を導出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に係る自律航法距離算出装置の構成を示す図である。
【図2】図1の距離変換係数演算部の構成を示す図である。
【図3】図2の決定部において記憶されるテーブルのデータ構造を示す図である。
【図4】図1の自律航法距離算出装置による自律航法距離の導出手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を具体的に説明する前に、まず概要を述べる。本発明の実施例は、車両等に搭載され、車両の移動距離を自律航法にて導出する自律航法距離算出装置に関する。自律航法距離算出装置は、速度センサからの速度パルスに対して、距離変換係数を使用しながら、移動距離を導出する。前述のごとく、移動距離の導出精度を向上させるためには、距離変換係数の精度の向上が必要とされる。そのため、起動してから短時間であっても高精度に距離変換係数を導出すること、安定性の高い距離変換係数を導出すること、環境の変動に応じた距離変換係数を導出することが要求される。これらに対応するために、本実施例に係る自律航法距離算出装置は、次の処理を実行する。
【0020】
自律航法距離算出装置は、起動してからの初期段階と、初期段階に続く追従段階という2種類の期間を設定し、それぞれの期間に応じた距離変換係数を導出する。初期段階において、自律航法距離算出装置は、測定精度の高いGPS速度を使用して、仮の距離変換係数(以下、「仮変換係数」という)を導出する。自律航法距離算出装置は、仮変換係数を距離変換係数として出力することによって、距離変換係数を導出するまでの期間を短縮させる。また、自律航法距離算出装置は、測定精度のさらに高いGPS速度を使用して仮変換係数を導出した場合に、当該仮変換係数によって距離変換係数を更新することによって、距離変換係数の導出精度を向上させる。一方、追従段階において、自律航法距離算出装置は、測定精度の高い仮変換係数を統計処理して距離変換係数を導出することによって、環境の変動に応じながらも、安定性の高い距離変換係数を導出する。
【0021】
ここで、初期段階から追従段階への切替タイミングは、GPS衛星からの信号の受信状況等によって異なる。つまり、GPS速度の精度が高く、仮変換係数のバラツキが小さい場合には、追従段階へ早期に移行することによって、距離変換係数の精度が向上される。一方、仮変換係数のバラツキがあまり小さくなければ、初期段階を継続することによって、環境の変動に応じた距離変換係数が導出される。自律航法距離算出装置は、仮変換係数と過去の仮変換係数との比を逐次導出し、所定の回数にわたって所定の範囲に比が含まれている場合に、初期段階の完了を決定する。ここで、所定の回数等の条件は、GPS速度に応じて設定されるので、上記の状況が反映される。
【0022】
図1は、本発明の実施例に係る自律航法距離算出装置100の構成を示す。自律航法距離算出装置100は、測定部10、距離変換係数演算部12、自律航法距離変換部14を含む。また、測定部10は、GPS測位部20、有効性判定部22、速度パルス検出部24を含む。さらに信号として、GPS測位データ200、速度パルス信号202、距離変換係数204が含まれる。
【0023】
GPS測位部20は、図示しないGPS衛星からの信号を受信して、GPS測位データ200を算出する。GPS測位データ200には、経緯度、車両の移動速度であるGPS速度、車両の方位であるGPS方位、車両の高度であるGPS高度、PDOP(Position Dilution Precision)、捕捉衛星数等が含まれる。ここで、PDOPは、GPS測位データ200におけるGPS衛星位置の誤差が受信点位置にどのように反映されるかの指標であり、衛星誤差に相当する。なお、GPS測位データ200には、これら以外の値が含まれていてもよい。また、GPS測位データ200の算出は、公知の技術によってなされればよいので、ここでは説明を省略する。また、GPS測位部20は、GPS測位データ200をサンプリング間隔ごとに、つまり周期的に算出する。GPS測位部20は、GPS測位データ200を有効性判定部22へ逐次出力する。
【0024】
有効性判定部22は、GPS測位部20からのGPS測位データ200を逐次入力する。有効性判定部22は、GPS測位データ200から、GPS測位データ200それぞれの有効性を判定する。例えば、有効性判定部22は、PDOPの値がしきい値以下である場合に、それらに対応したGPS速度が有効であると判定する。また、有効性判定部22は、上記の条件が満たされない場合に、対応したGPS速度が無効であると判定する。さらに具体的に説明すると、PDOPの値が6以下である場合に、有効性判定部22は、GPS速度の有効性をフラグで表す。このような処理の結果、有効性判定部22は、GPS測位データ200に含まれるGPS速度等の各値に対して、有効あるいは無効が示されたフラグを付加する(以下、フラグが付加されたGPS測位データ200もまた「GPS測位データ200」という)。有効性判定部22は、距離変換係数演算部12へGPS測位データ200を逐次出力する。
【0025】
速度パルス検出部24は、図示しない速度センサに接続されており、速度センサは、ドライブシャフトの回転に対応して回転するスピードメータケーブルの中間に設置され、ドライブシャフトの回転に伴ったパルス信号を出力する。速度パルス検出部24は、車両の移動に伴って出力されるパルス信号を所定の期間ごとに計数することによって、周期的に速度パルス信号202を検出する。また、速度パルス検出部24は、距離変換係数演算部12および自律航法距離変換部14へ速度パルス信号202を逐次出力する。
【0026】
距離変換係数演算部12は、有効性判定部22からのGPS測位データ200、速度パルス検出部24からの速度パルス信号202を入力する。距離変換係数演算部12は、GPS測位データ200、速度パルス信号202をもとに、距離変換係数204を算出する。なお、距離変換係数演算部12での処理の詳細は後述する。距離変換係数演算部12は、距離変換係数204を自律航法距離変換部14へ出力する。自律航法距離変換部14は、速度パルス検出部24からの速度パルス信号202、距離変換係数演算部12からの距離変換係数204を入力する。自律航法距離変換部14は、速度パルス信号202と距離変換係数204とをもとに、前述の式(1)を計算することによって、車両の移動距離dを算出する。ここで、自律航法距離変換部14は、入力された距離変換係数204を保持する。
【0027】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0028】
図2は、距離変換係数演算部12の構成を示す。距離変換係数演算部12は、前処理部40、仮変換係数導出部42、補正制御部44、フィルタ処理部46、期間管理部50を含む。また、補正制御部44は、仮変換係数比較部52、決定部54、仮変換係数記憶部56を含む。さらに、信号として、仮変換係数210、初期段階完了フラグ212、導出期間信号214が含まれる。
【0029】
前処理部40は、図示しない有効性判定部22から出力されるGPS測位データ200、図示しない速度パルス検出部24から出力される速度パルス信号202、期間管理部50から出力される導出期間信号214を入力する。前処理部40は、有効性判定部22で有効であると判定されたGPS測位データ200からGPS速度を抽出するとともに、導出期間信号214にて示された期間にわたって、GPS速度を積算することによって、GPS速度の平均値(以下、「GPS速度平均値」という)を逐次計算する。ここで、有効性判定部22で有効であると判定されたGPS測位データ200を特定するために、有効性判定部22によって付加されたフラグが使用される。また、前処理部40は、GPS測位データ200が有効である期間に対応する速度パルス信号202を積算する。これは、導出期間信号214にて示された期間にわたって、速度パルスの数を逐次計測することに相当する。前処理部40は、GPS速度平均値と、速度パルス信号202の積算値(以下、「積算値」という)とを仮変換係数導出部42へ出力する。
【0030】
仮変換係数導出部42は、前処理部40からのGPS速度平均値と積算値とを入力する。仮変換係数導出部42は、導出期間信号214にて示された期間における速度パルス信号202の積算値が存在する場合に、GPS速度平均値と積算値とをもとに、前述の式(3)を計算することによって仮変換係数210を逐次導出する。ここで、GPS速度平均値が、式(3)のvに代入され、積算値が、式(3)のΣPに代入される。また、仮変換係数210は、積算値から移動距離への距離変換係数に対する仮の係数に相当し、距離変換係数と同様に導出される。さらに、仮変換係数導出部42は、仮変換係数210を有効であるとし、その有効性をフラグで表す。
【0031】
一方、仮変換係数導出部42は、積算値が0である場合に、仮変換係数210を導出せず、有効性フラグを無効に設定する。仮変換係数導出部42は、導出した仮変換係数210へGPS速度平均値および有効性フラグを付加する(以下、これらが付加された仮変換係数210もまた「仮変換係数210」という)。仮変換係数導出部42は、仮変換係数210を補正制御部44へ逐次出力する。
【0032】
補正制御部44は、仮変換係数導出部42からの仮変換係数210を逐次入力する。補正制御部44は、仮変換係数比較部52および決定部54の処理結果、あるいは仮変換係数記憶部56の処理結果をもとに、距離変換係数演算部12全体を制御する。補正制御部44は、初期段階において、仮変換係数導出部42において導出し、かつ仮変換係数記憶部56が記憶している仮変換係数210をフィルタ処理部46へ出力する。一方、補正制御部44は、初期段階に続く追従段階において、仮変換係数導出部42において導出した仮変換係数210をフィルタ処理部46へ出力する。詳細は後述するが、フィルタ処理部46では、GPS速度平均値が所定値以上、例えば20km/h以上の仮変換係数210を統計処理する。
【0033】
仮変換係数比較部52は、初期段階において、仮変換係数導出部42からの仮変換係数210と、過去に入力された仮変換係数210との比を計算する。例えば、入力した仮変換係数210がK(n)と示され、過去に入力した仮変換係数210がK(n−1)と示される。K(n)およびK(n−1)が有効である場合に、仮変換係数比較部52は、それらの比R(n)を次式により算出する。
R(n)=K(n)/K(n−1) ・・・(4)
なお、K(n)あるいはK(n−1)が無効であった場合、仮変換係数比較部52は、比R(n)を算出しない。
【0034】
決定部54は、仮変換係数比較部52から、比R(n)を入力する。また、決定部54は、初期段階から追従段階への切替条件をテーブルとして記憶する。決定部54は、比が切替条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する。図3は、決定部54において記憶されるテーブルのデータ構造を示す。図示のごとく、GPS速度平均値欄300、範囲条件欄302、回数条件欄304が含まれている。GPS速度平均値欄300には、仮変換係数210に対応したGPS速度平均値が示されており、範囲条件欄302、回数条件欄304には、初期段階の完了を判断するための条件が示されている。GPS速度平均値欄300に示されたGPS速度平均値が大きくなるほど、仮変換係数210の精度は高くなるので、範囲条件欄302における所定の範囲が狭くされる。また、GPS速度平均値欄300に示されたGPS速度平均値が大きくなるほど、回数条件欄304における所定の回数が減少される。図2に戻る。
【0035】
決定部54は、仮変換係数210のGPS速度平均値から、GPS速度平均値欄300に該当した範囲条件欄302の範囲および回数条件欄304の回数を特定する。決定部54は、比R(n)が所定の範囲に含まれる回数を計測する。さらに、決定部54は、計測した回数が、所定の回数よりも大きくなった場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する。例えば、GPS速度平均値が25km/h、比率R(n)が1−α2から1+α2内にある状態が4回連続した場合、決定部54は、初期段階の完了を決定する。決定部54は、初期段階あるいは追従段階をフィルタ処理部46へ通知する。また、決定部54は、初期段階の完了をフラグで表し、初期段階完了フラグ212として期間管理部50へ出力する。つまり、決定部54は、比R(n)が、GPS速度平均値に依存した条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する。
【0036】
仮変換係数記憶部56は、初期段階において、仮変換係数導出部42が仮変換係数210を導出した際のGPS速度平均値を比較し、新たなGPS速度平均値が過去のGPS速度平均値よりも高くなった場合に、新たなGPS速度平均値を記憶する。なお、前述のように、一般的にGPS速度は移動速度が速いほど精度が高く、仮変換係数210の精度も高くなる。また、仮変換係数記憶部56は、新たなGPS速度平均値を記憶した場合の仮変換係数210を記憶することによって、仮変換係数210を更新する。さらに、仮変換係数記憶部56は、初期段階において、記憶した仮変換係数210を逐次出力する。
【0037】
期間管理部50は、決定部54からの初期段階完了フラグ212を入力する。期間管理部50は、初期段階完了フラグ212の入力の有無に応じて、前処理部40における積算期間を決定する。積算期間は、初期段階での期間よりも追従段階での期間の方が短くなるように設定される。これは、初期段階において式(3)の計算精度を向上させるためであり、追従段階において補正機会を増大させて追従性を向上させるためである。例えば、初期段階において積算期間は5秒に設定され、追従段階において積算期間は3秒に設定される。期間管理部50は、決定した積算期間を導出期間信号214として前処理部40へ出力する。
【0038】
フィルタ処理部46は、補正制御部44からの仮変換係数210を入力する。また、フィルタ処理部46は、決定部54から、初期段階あるいは追従段階を通知される。フィルタ処理部46は、初期段階を通知された場合に、入力した仮変換係数210をそのまま距離変換係数204として出力する。一方、フィルタ処理部46は、追従段階を通知された場合に、仮変換係数210に対して統計処理を逐次実行する。フィルタ処理部46は、例えば、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタを含むように構成されており、IIRフィルタによってローパスフィルタを構成する。その結果、式(3)におけるGPS速度の誤差が吸収される。フィルタ処理部46は、統計処理した仮変換係数210を距離変換係数204として出力する。これは、補正制御部44が、初期段階において、仮変換係数導出部42において導出された仮変換係数210を距離変換係数204とし、追従段階において、フィルタ処理部46において統計処理した仮変換係数210を距離変換係数204とすることに相当する。なお、フィルタ処理部46は、GPS速度平均値が所定の速度よりも高い場合の仮変換係数210を統計処理の対象としてもよい。
【0039】
以上の構成による自律航法距離算出装置100の動作を説明する。図4は、自律航法距離算出装置100による自律航法距離の導出手順を示すフローチャートである。自律航法距離算出装置100は、速度パルス検出部24が速度パルス信号202を出力するタイミングで自律航法距離を導出する。有効性判定部22は、GPS測位部20において測位されたGPS測位データ200が入力されたとき、その有効性を判定する(S10)。GPS測位データ200が入力されない場合、あるいはGPS測位データ200が有効でない場合(S10のN)、ステップ32へスキップされる。GPS測位データ200が有効である場合(S10のY)、仮変換係数導出部42は、期間管理部50が決定する導出期間信号214に示された導出期間において有効とされたGPS速度平均値と、それに対応する速度パルス信号202から、仮変換係数210を導出する(S12)。
【0040】
仮変換係数210が有効でない場合(S14のN)、ステップ32へスキップされる。補正制御部44は、仮変換係数210が有効であり(S14のY)、初期段階であれば(S16のY)、入力された仮変換係数210のGPS速度平均値と仮変換係数記憶部56が記憶するGPS速度平均値の最大値とを比較する(S18)。入力されたGPS速度平均値が、仮変換係数記憶部56が記憶するGPS速度平均値の最大値より大きければ(S18のY)、仮変換係数記憶部56は、GPS速度平均値の最大値を更新する(S20)。また、補正制御部44は、入力された仮変換係数210を出力する(S22)。さらに、自律航法距離変換部14は、保持している距離変換係数204を入力された距離変換係数204に更新する。
【0041】
入力されたGPS速度平均値が、仮変換係数記憶部56が記憶するGPS速度平均値の最大値より大きくなければ(S18のN)、ステップ20とステップ22はスキップされる。補正制御部44は、仮変換係数比較部52の処理結果が初期段階完了条件を満足したならば(S24のY)、初期段階の完了を決定する(S26)とともに、初期段階完了フラグ212を有効にして期間管理部50へ出力する。初期段階完了条件を満足しなければ(S24のN)、ステップ32へスキップされる。
【0042】
補正制御部44は、初期段階でなく(S16のN)、つまり追従段階において、入力された仮変換係数210のGPS速度平均値が所定値以上であれば(S28のY)、仮変換係数210をフィルタ処理部46へ出力する。フィルタ処理部46は、入力した仮変換係数210をフィルタ処理し(S30)、フィルタ処理した仮変換係数210を出力する。自律航法距離変換部14は、保持している距離変換係数204を入力された距離変換係数204に更新する。補正制御部44は、入力された仮変換係数210のGPS速度平均値が所定値より大きくなければ(S28のN)、ステップ32へスキップされる。自律航法距離変換部14は、保持している距離変換係数204によって、速度パルス検出部24から入力される速度パルス信号202を自律航法距離へ変換する(S32)。
【0043】
本発明の実施例によれば、仮変換係数と、過去に導出した仮変換係数との比が、GPS速度に依存した条件を満たさなければ統計処理を実行せず、条件を満たせば統計処理を実行するので、仮変換係数が安定しているか否かに応じて統計処理の有無を決定できる。また、統計処理を実行しなければ、距離変換係数の導出期間を短縮できる。また、統計処理を実行すれば、距離変換係数の精度を向上できる。また、統計処理を実行しない状態から統計処理を実行する状態への切替を実行するので、状況に応じた距離変換係数を導出できる。また、初期段階における積算期間よりも、追従段階における積算期間の方を短くするので、初期段階における誤差の影響を低減でき、追従段階における補正の機会を増加できる。
【0044】
また、初期段階において、GPS測位データが有効かつ0以上であれば、仮変換係数の導出期間においてGPS速度平均値にもとづいた距離変換係数の更新を常に実行するので、補正機会を増加できる。また、補正機会が増加されるので、追従性を向上できる。また、GPS速度平均値が高くなるほど、初期段階から追従段階への切替を決定するための所定の回数を減少させるので、早期の切替を実行できる。また、GPS速度平均値が高くなるほど、所定の範囲を狭くするので、処理の精度を向上できる。また、GPS速度は移動速度が大きいほど精度がよく、導出期間におけるGPS速度平均値が大きい仮変換係数で距離変換係数を更新するので、精度を向上できる。また、新たなGPS速度平均値が、過去のGPS速度平均値よりも高くなれば、新たなGPS速度平均値に対応した仮変換係数によって距離変換係数を更新するので、距離変換係数の精度を向上できる。
【0045】
また、仮変換係数の導出期間におけるGPS速度平均値に応じた初期段階完了条件を設けたので、追従段階のフィルタ処理において正確な初期値を与えることができる。また、追従段階のフィルタ処理において正確な初期値が与えられるので、距離変換係数の導出精度を向上できる。また、GPS速度平均値が所定の速度よりも高い場合の仮変換係数を統計処理の対象とするので、統計処理した仮変換係数の精度を向上できる。
【0046】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0047】
本発明の実施例において、決定部54は、GPS速度平均値欄300におけるGPS速度平均値が高くなるほど、範囲条件欄302における所定の範囲が狭くなるような条件を予め記憶している。しかしながらこれに限らず例えば、GPS速度平均値欄300におけるGPS速度平均値が高くなっても、範囲条件欄302における所定の範囲は一定であってもよい。その際、GPS速度平均値によって、回数条件欄304における所定の回数が変化する。つまり、GPS速度平均値が高くなるほど、初期段階から追従段階への切替が容易になされるような関係が規定されていればよい。本変形例によれば、切替をより早期に実行できる。
【0048】
本発明の実施例において、有効性判定部22は、GPS測位データ200の有効性を判定するために、PDOPを使用している。しかしながらこれに限らず例えば、有効性判定部22は、GDOP(Geometric Dilution Of Precision)、HDOP(Horizontal Dilution Of Precision)等や、これらの組合せを使用してもよい。本変形例によれば、さまざまなパラメータを判定に使用できる。
【0049】
本発明の実施例において、フィルタ処理部46は、IIRフィルタを含むように形成されている。しかしながらこれに限らず例えば、フィルタ処理部46は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタを含むように形成されていてもよい。本変形例によれば、フィルタ構成の自由度を向上できる。
【符号の説明】
【0050】
10 測定部、 12 距離変換係数演算部、 14 自律航法距離変換部、 20 GPS測位部、 22 有効性判定部、 24 速度パルス検出部、 40 前処理部、 42 仮変換係数導出部、 44 補正制御部、 46 フィルタ処理部、 50 期間管理部、 52 仮変換係数比較部、 54 決定部、 56 仮変換係数記憶部、 100 自律航法距離算出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星からの信号をもとに測位された対象物の測位データと、速度センサから出力されたパルスとを逐次取得する取得部と、
前記取得部において取得した測位データに含まれたGPS速度を所定の期間にわたって逐次平均するとともに、前記取得部において取得したパルスの数を前記所定の期間にわたって逐次計測する第1導出部と、
前記第1導出部において平均したGPS速度と、前記第1導出部において計測したパルスの数とをもとに、パルスの数から移動距離への変換係数にあたる仮係数を逐次導出する第2導出部と、
前記第2導出部において導出した仮係数を統計処理するフィルタ部と、
初期段階において、前記第2導出部において導出した仮係数を変換係数とし、初期段階に続く追従段階において、前記フィルタ部において統計処理した仮係数を変換係数として出力する制御部とを備え、
前記制御部は、前記第2導出部において導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、前記第1導出部において平均したGPS速度に依存した条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定することを特徴とする変換係数導出装置。
【請求項2】
前記第1導出部は、初期段階における所定の期間よりも、追従段階における所定の期間の方を短くなるように設定することを特徴とする請求項1に記載の変換係数導出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第2導出部において導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、所定の範囲に含まれる回数を計測する計測部と、
前記計測部において計測した回数が所定の回数よりも大きくなった場合に、初期段階から追従段階への切替を決定する決定部とを備え、
前記決定部は、前記第1導出部において平均したGPS速度が高くなるほど、所定の回数を減少させることを特徴とする請求項1または2に記載の変換係数導出装置。
【請求項4】
前記計測部は、前記第1導出部において平均したGPS速度が高くなるほど、所定の範囲を狭くすることを特徴とする請求項3に記載の変換係数導出装置。
【請求項5】
前記第2導出部は、初期段階において、前記第1導出部によって新たに平均されたGPS速度が、過去に平均されたGPS速度よりも高くなった場合に、新たに平均されたGPS速度に対応した仮係数によって変換係数を更新することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の変換係数導出装置。
【請求項6】
前記フィルタ部は、前記第1導出部において平均したGPS速度が所定の速度よりも高い場合の仮係数を統計処理の対象とすることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の変換係数導出装置。
【請求項7】
GPS衛星からの信号をもとに測位された対象物の測位データと、速度センサから出力されたパルスとを逐次取得する取得ステップと、
取得した測位データに含まれたGPS速度を所定の期間にわたって逐次平均するとともに、取得したパルスの数を前記所定の期間にわたって逐次計測する計測ステップと、
平均したGPS速度と、計測したパルスの数とをもとに、パルスの数から移動距離への変換係数にあたる仮係数を逐次導出する導出ステップと、
導出した仮係数を統計処理する統計処理ステップと、
初期段階において、前記導出ステップにて導出した仮係数を変換係数とし、初期段階に続く追従段階において、前記統計処理ステップにて統計処理した仮係数を変換係数として出力する出力ステップとを備え、
前記出力ステップは、導出した仮係数と、過去に導出した仮係数との比が、平均したGPS速度に依存した条件を満たす場合に、初期段階から追従段階への切替を決定することを特徴とする変換係数導出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−249578(P2010−249578A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97200(P2009−97200)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】