説明

変調装置、復調装置及び情報通信システム

【課題】音の聴取を妨げることなく情報を送受信できるようにする。
【解決手段】変調装置は、複数の周波数成分を合成した波形の音信号を生成する。変調装置は、この音信号に情報を重畳させるときに、各々の周波数成分の要素(周波数の値やレベルなど)を情報に応じて変更する。要素の変更の態様は、あらかじめ記憶されたパラメータに記述されており、変調装置は、複数のパラメータから情報に応じたものを選択する。例えば、変調装置は、周波数f0、f1、f2及びf3が合成されて表される波形がある場合において、情報を重畳させるとき、シフト量を記述したパラメータに基づき、周波数f1をΔ1だけシフトさせ、周波数f2をΔ2だけシフトさせ、周波数f3をΔ3だけシフトさせる。すなわち、変調装置は、シフトを行わない場合(a)を基準とすると、各々の周波数を基準値から情報に応じた値だけシフトさせた周波数成分の波形を合成する(b)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音により情報を送受信する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を可聴音に重畳して伝送する技術がある。例えば、特許文献1には、番組にDTMF信号(いわゆるトーン信号)を重畳させる技術が記載されている。また、特許文献2には、音響信号のうちの高域成分を除去し、除去した成分のスペクトル包絡に合わせるように変調信号を重畳させる技術が記載されている。
【特許文献1】特開平8−37511号公報
【特許文献2】特開2007−104598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された技術は、DTMF信号が直接ユーザに聞こえるものである。ここにおいて、DTMF信号は、聴取される必要がないものであるから、ユーザにとっては雑音として聞こえるものである。また、特許文献2に記載された技術は、聴取する音の一部の成分が除去されるものである。
一方、本発明は、音の聴取を妨げることなく情報を送受信できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る変調装置は、音信号を生成する生成手段と、情報を取得する情報取得手段と、前記音信号が表す音の基準からの変化の態様を表すパラメータとして、複数の前記情報の各々に対応付けられた複数のパラメータからいずれかを選択するパラメータ選択手段と、前記パラメータ選択手段が前記情報取得手段により取得された情報に対応して選択した前記パラメータに従って、前記生成手段が生成する音信号を変更する変更手段とを備えることを特徴とする。
【0005】
本発明に係る変調装置は、発生させる音を指示する音情報を取得する音情報取得手段を備え、前記生成手段が、前記音情報取得手段が取得した音情報に応じた音信号を生成する構成を採用してもよい。
本発明に係る変調装置は、前記音情報が音のピッチを指示する情報を含む構成を採用してもよい。
本発明に係る変調装置は、前記音情報が、ピッチ又はパートが異なる複数の音を含み、前記パラメータ選択手段による選択を行う音を選択する音選択手段を備える構成を採用してもよい。
本発明に係る変調装置は、前記パラメータ選択手段が、前記複数の音のそれぞれに対して決められた前記複数のパラメータの組から、前記音選択手段により選択された音に対応する組を用いてパラメータを選択する構成を採用してもよい。
本発明に係る変調装置は、前記情報取得手段が取得した情報を所定の規則で変換する変換手段と、複数の前記規則から前記変換手段による変換に用いる規則を選択する規則選択手段とを備え、前記パラメータ選択手段が、前記変換手段が変換に用いる前記規則に対応付けて決められた複数のパラメータから、前記情報取得手段が取得した情報に応じたパラメータを選択する構成を採用してもよい。
【0006】
本発明に係る復調装置は、音信号を取得する音信号取得手段と、所定の音の変化の態様を表す複数のパラメータであって当該態様があらかじめ決められた情報に対応して異なる複数のパラメータを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された複数のパラメータから、前記音信号取得手段により取得された音信号が表す音と前記所定の音との差異に対応するパラメータを特定する特定手段と、前記特定手段により特定されたパラメータの前記態様が表す情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る情報通信システムは、送信機と受信機とを有し、前記送信機は、音信号を生成する生成手段と、情報を取得する情報取得手段と、前記音信号が表す音の基準からの変化の態様を表すパラメータとして、複数の前記情報の各々に対応付けられた複数のパラメータからいずれかを選択するパラメータ選択手段と、前記パラメータ選択手段が前記情報取得手段により取得された情報に対応して選択した前記パラメータに従って、前記生成手段が生成する音信号を変更する変更手段と、前記生成手段により生成された音信号に応じた音を放音する放音手段とを備え、前記受信機は、前記放音手段が放音した音を収音する収音手段と、所定の音の変化の態様を表す複数のパラメータであって当該態様があらかじめ決められた情報に対応して異なる複数のパラメータを記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された複数のパラメータから、前記収音手段により収音された音と前記所定の音との差異に対応するパラメータを特定する特定手段と、前記特定手段により特定されたパラメータの前記態様が表す情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、音の聴取を妨げることなく情報を送受信することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態である情報通信システムの構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施形態の情報通信システム10は、送信機100と、受信機200とを備える。送信機100は、音声を再生することにより情報を送信し、受信機200は、その音声を収音することにより情報を受信する。すなわち、情報通信システム10においては、送信機100の再生音に情報が含まれている。
【0010】
図2は、送信機100の構成を示すブロック図である。同図に示すように、送信機100は、音情報供給部110と、音色番号供給部120と、情報供給部130と、符号化器140と、選択器150と、生成器160と、スピーカ170とを備える。また、送信機100は、メモリ等の記憶手段を備え、符号化テーブルTB1と、変換ルールデータベースDB1と、音色(おんしょく)データベースDB2とを記憶している。なお、この記憶手段は、書き換え可能であってもよく、また、いわゆるメモリカードのように送信機100に対して着脱可能であってもよい。
【0011】
音情報供給部110は、生成器160に音情報を供給する。音情報は、発生させるべき音を指示する情報であり、本実施形態においては、ある一つの音を表している。音情報は、少なくとも、音のピッチ(音高)を指示する情報を含み、より望ましくは、音の強さ、長さを表す情報などを含む。音情報供給部110は、音情報を記憶手段から読み出して供給してもよいし、音情報を外部装置から取得して供給してもよい。
音色番号供給部120は、選択器150に音色番号を供給する。音色番号は、音色を識別するためのIDであり、各音色について一意的に割り当てられる情報である。本実施形態においては、「スネアドラム」、「シンバル」、「ピアノ」などといったような、種々の楽器を識別するものとして音色番号が割り当てられる。音色番号供給部120は、あらかじめ決められた音色番号を供給してもよいし、ユーザの操作を受け付け、複数の音色番号の中からユーザが選択したものを供給してもよい。
【0012】
情報供給部130は、受信機200に供給する情報を符号化器140に供給する。ここにおいて、情報は、任意の内容であるが、符号化器140による符号化が可能なものである。
符号化器140は、情報供給部130により供給された情報を所定のアルゴリズムで符号化し、符号列に変換された情報(以下「符号化情報」という。)を選択器150に供給する。符号化器140による符号化のアルゴリズムは、任意であり、符号化テーブルTB1に記述されている。符号化器140は、本実施形態においては、「0」及び「1」の組み合わせで表される二進数の符号化情報を生成する。
【0013】
選択器150は、音色番号供給部120により供給された音色番号と符号化器140により供給された符号化情報とに応じた音色パラメータを選択する。選択器150が実行する機能は、次の2つの機能に大別される。選択器150の第1の機能は、所定の規則(ルール)を記述した変換ルールデータベースDB1を参照することにより、符号化情報を音色データベースDB2に適合した情報に変換する機能である。この変換後の符号化情報のことを、以下では「変換情報」という。選択器150の第2の機能は、音色データベースDB2から音色番号と変換情報とに応じた一の音色パラメータを選択する機能である。
【0014】
なお、本実施形態においては、説明の便宜上、変換前の二進数たる符号化情報を十進数で表した値を変換情報とする。すなわち、符号化情報が「101」なる二進数で表される場合、これに対応する変換情報は、十進数の「5(=1×22+0×21+1×20)」である。しかしながら、本発明における変換情報は、この例に限らず、符号化情報(又は供給されるもとの情報)と一意的に対応付けられる任意の値をとり得る。
【0015】
図3は、音色データベースDB2に記述されたデータを示す模式図である。同図に示すように、音色データベースDB2は、複数の音色テーブルTB21、TB22、…、TB2iの集合である。ここにおいて、「i」の値は、音色番号に対応している。すなわち、音色データベースDB2は、それぞれの音色番号に応じた複数のテーブルを含んでいる。なお、以下において、音色テーブルTB21、TB22、…、TB2iの各々を区別しない場合には、これらを「音色テーブルTB2」と総称する。
【0016】
音色テーブルTB2は、音色パラメータの基準値を表す基準パラメータと、この基準パラメータから変更された複数の音色パラメータの組とを含む。基準パラメータは、対応する音色を構成する要素の集合であり、これによって対応する音色が表す波形を特定可能にするものである。本実施形態において、要素には、周波数とそのレベルとが含まれる。各々の音色パラメータは、上述した要素の値の少なくともいずれかが、上述した基準値と異なっている。各々の音色パラメータは、基準パラメータからの“ずれ”、すなわち変化の態様が、対応する変換情報に応じて決められている。したがって、例えば、変換情報が全部で「j」種類であれば、音色パラメータが各テーブルについて「j」個存在する。2つの音色パラメータが相異なるということは、これらの音声パラメータに含まれる要素の少なくともいずれかが同一でないということである。
【0017】
選択器150は、このような音色データベースDB2を用いて、音色番号と変換情報とに応じた音色パラメータを選択する。具体的には、選択器150は、音色番号供給部120から取得した音色番号に基づき、この音色番号に対応する音色テーブルTB2を特定するとともに、符号化器140から取得した符号化情報に応じた変換情報に対応する音色パラメータを、この特定した音色テーブルTB2から読み出す。
【0018】
生成器160は、音情報供給部110から取得した音情報が表す音を選択器150により選択された音色パラメータに従って変化させた音を表す音信号を生成してスピーカ170に出力する。本実施形態の生成器160は、複数の波形を合成した波形を表す音信号を生成する。スピーカ170は、生成器160により出力された音信号に応じた音を放音する。スピーカ170により放音される音は、基準となる音を音色パラメータに応じて変化させられた音である。
【0019】
図4は、生成器160の主たる構成を示す図である。同図に示すように、生成器160は、発振器1611、1612、1613、…、161nと、増幅器1621、1622、1623、…、162nと、加算器163とを備える。ここにおいて、符号の添字(1〜n)は、各々を区別するために付されたものである。よって、発振器1611〜161n又は増幅器1621〜162nの各々を区別する必要がない場合には、それぞれの添字を省略して「発振器161」又は「増幅器162」と表記する。発振器161及び増幅器162の数、すなわちnの値は、任意の自然数である。
【0020】
発振器161は、指定された周波数で発振し、正弦波を表す正弦波信号を生成する。増幅器162は、ゲインが可変である増幅器であり、対応する発振器161により発振された正弦波信号のレベルを増幅させる。加算器163は、増幅器162により増幅された正弦波信号を加算し、一の波形を表す音信号として出力する。
発振器1611、1612、1613、…、161nに指定される周波数は、互いに異なるものである。また、増幅器1621、1622、1623、…、162nのゲインは、指定された周波数毎に決められている。周波数及びゲインは、音色パラメータとに基づいて決められる。
【0021】
送信機100の構成は、以上のとおりである。ここで、かかる構成の送信機100が実行する動作について、一例を挙げて説明する。
図5は、送信機100の動作原理を説明するための図である。いま、音情報として、ピッチ、すなわち周波数(基本周波数)がf0である音のデータが与えられ、音色番号として、「1(スネアドラム)」という値のデータが与えられるとする。また、音色番号が「1」である音色テーブルTB21の基準パラメータは、周波数f1、f2及びf3と、これに対応するレベルのデータであるとする。なお、ここでは、レベルのデータは変化しないものとする。
【0022】
このような情報が与えられた場合において、仮に変換情報に応じた変化を音情報に与えずに生成器160が発振、増幅及び合成を行うとすると、周波数f0、f1、f2及びf3の各々の波形が合成された音信号が得られる。この音信号の周波数スペクトルは、図5(a)のようになる。この音信号は、送信機100による変調が行われない場合の音、すなわち基準となる音を表している。
なお、ここにおいて、周波数f1、f2及びf3は、基音たる周波数f0に対して倍音となる関係を有していると望ましいが、必ずしも倍音である必要はない。
【0023】
また、以上の場合において、「5」なる十進数の変換情報が与えられるとする。そうすると、選択器150は、この変換情報に対応する音色パラメータを音色テーブルTB21から読み出し、読み出した音色パラメータを生成器160に供給する。ここでは、「5」なる変換情報に対応する音色パラメータは、それぞれ、周波数f1に対して「f1+Δ1」、周波数f2に対して「f2+Δ2」、周波数f3に対して「f3+Δ3」であるとする。つまり、音色パラメータは、これらのΔ1、Δ2及びΔ3の値に応じた分だけ基準パラメータと異なる。
【0024】
ここにおいて、Δ1、Δ2及びΔ3は、上述した周波数についての差分(すなわち、|f1−f2|や|f2−f3|)に比して、十分に小さいと望ましい。Δ1、Δ2及びΔ3は、正負のいずれであってもよいし、その一部が0であってもよい(全部が0であると、基準パラメータとの差異が生じない。)。また、Δ1、Δ2及びΔ3は、基準となる周波数からのシフト量を数値(何Hzシフトするか)で表したものであってもよいし、シフト量を割合(基準となる周波数の値に対して何%シフトするか)で表したものであってもよい。
【0025】
生成器160は、以上のような音情報及び音色パラメータを取得し、これらが表す周波数及びレベルに応じた正弦波信号を生成し、複数の正弦波信号をを加算した音信号を出力する。具体的には、周波数f0が発振器1611に、周波数f1+Δ1が発振器1612に、周波数f2+Δ2が発振器1613に、といった具合に、一の周波数が一の発振器161に指定される。
このようにして出力される音信号が表す音の周波数スペクトルは、図5(b)のようになる。図5(a)と図5(b)とを比較すると、図5(a)の周波数スペクトルを基準としてみた場合に、周波数f1、f2及びf3が、基準(破線)から変更されている。すなわち、このようにして出力された音信号は、その波形が基準の波形と異なるものとなる。よって、受信機200においては、このように基準からずれた再生音が収音される。本発明における「変調」とは、このようにして音を基準から変化させて出力(放音)することをいうものである。ここにおいて、その変化の態様は、再生音に含めた情報に応じて異なる。
【0026】
受信機200は、収音した再生音の要素について、その値の基準値からの“ずれ”を特定することにより、その音に内包された情報を復元するものである。かかる復元のことを、ここでは「復調」という。
図6は、受信機200の構成を示すブロック図である。同図に示すように、受信機200は、マイク210と、分析器220と、比較器230と、復号器240と、情報出力部250とを備える。また、受信機200は、メモリ等の記憶手段を備え、符号化テーブルTB1と、変換ルールデータベースDB1と、音色データベースDB2とを記憶している。これらのデータは、送信機100が記憶しているデータと同様のものを含んでいる。
【0027】
マイク210は、送信機100による再生音を収音するマイクロホンである。マイク210は、再生音を音信号に変換し、分析器220に供給する。
分析器220は、マイク210から取得した音信号を分析し、比較器230による比較が可能な情報に変換する。分析器220による変換後の情報のことを、以下においては「分析データ」という。分析器220が行う分析は、例えば、FFT(高速フーリエ変換)である。FFTが行われると、音信号を周波数成分の集合に変換することが可能である。この場合、分析データは、周波数成分の集合である。
【0028】
比較器230は、分析器220から取得した分析データを音色テーブルTB2に含まれる各々の音色パラメータと比較し、分析データがいずれの音色パラメータに相当するか、すなわち、分析データが表す変換情報を特定する。具体的には、比較器230は、各々の音色パラメータの要素の値を取得した分析データの要素の値と比較し、要素の値が分析データと一致するか、あるいは最も類似する音色パラメータを特定する。また、比較器230は、ある音色パラメータの要素の値に、他の音色パラメータにない特徴的な値がある場合には、その値の有無によって当該ある音色パラメータであるか否かを判断してもよい。この場合、比較器230による特定の態様は、いわゆるパターンマッチングであるともいえる。
次に、比較器230は、変換ルールデータベースDB1を参照し、特定した変換情報がいかなる符号化情報を表しているのかを特定する。比較器230は、特定した符号化情報を復号器240に供給する。
【0029】
比較器230は、比較に用いる音色テーブルTB2が不明であり、これを特定する必要がある場合には、当該音色テーブルTB2に対応する音色番号を外部から取得する。この場合、音色番号は、例えば、ユーザの操作によって、又は、図示せぬ通信手段を介して、比較器230に供給され、比較器230は、取得した音色番号に対応する音色テーブルTB2を音色データベースDB2から読み出す。
なお、比較器230は、送信機100の音色番号供給部120があらかじめ決められた音色番号を供給する場合には、その音色番号に対応する音色テーブルTB2のみを音色データベースDB2として記憶していれば足り、音色パラメータを特定する必要がない。さらに、この場合には、音色番号供給部120の構成自体を省略してもよい。
【0030】
復号器240は、符号化テーブルTB1を参照し、比較器230から取得した符号化情報を復号により特定する。すなわち、復号器240は、符号化器140が行う変換の逆変換を行う。復号器240は、復号により特定された情報を情報出力部250に供給する。
情報出力部250は、復号器240から取得した情報を出力する。ここにおいて、情報出力部250が行う「出力」とは、受信機200のユーザが情報を知覚できるように報知することをいう。例えば、情報出力部250は、取得した情報を液晶ディスプレイ等の表示手段により視覚的に報知してもよいし、バイブレータ等の振動手段により触覚的に報知してもよい。また、情報出力部250は、聴覚、味覚、嗅覚などによって情報を報知しても、もちろんよい。
【0031】
受信機200の構成は、以上のとおりである。受信機200は、この構成のもと、収音した再生音から情報を抽出し、これを出力する。比較器230においては、基準となる音色パラメータに基づいて、分析データから図5(b)に示したような“ずれ”が算出され、変換ルールデータベースDB1に記述された規則に基づいてその符号が特定される。また、復号器240においては、特定された符号で構成される符号列を復号し、もとの情報が得られる。
【0032】
このように、本実施形態の情報通信システム10によれば、再生音に情報を内包させ、これを復元させることが可能である。ここにおいて、再生音は、基準となる音とは異なる音になるものの、その聴取自体が妨げられることはない。また、再生音は、その“ずれ”、すなわちシフト量が十分に小さければ、音色が極端に変わることはなく、その“ずれ”を聴感上知覚されない程度にすることができる。そのため、再生音は、本来の音情報を本質的に失うこともない。よって、ユーザは、その再生音を聴取した場合に、変調がされていない音と同様のものであると知覚することができる。例えば、ユーザにあっては、「スネアドラム」の音であると知覚される範囲内において、その音色が微妙に変化していると感じることがあったとしても、「スネアドラム」であるはずの音が「ピアノ」の音に聞こえるようなことはない。
【0033】
また、本実施形態の情報通信システム10によれば、音情報が表す音以外の音は、再生されない。よって、ユーザは、情報の送受信に際し、聴取する必要がない音(雑音)を聞くことを免れる。また、本実施形態の情報通信システム10は、音情報が表す音の波形を変えるものであるため、周波数帯域の制約を受けず、本来聴取すべき音よりも高域の放音や収音を可能にしたりする必要もない。
【0034】
また、本実施形態の情報通信システム10は、個々の音色パラメータに特徴的なパターンがある場合に、分析データとのパターンマッチングにより音色パラメータを特定することができる。すなわち、本実施形態の情報通信システム10によれば、個々の音色パラメータの差異を適切に設定すれば、収音した再生音にノイズが含まれる場合であっても、複数の音色パラメータから適切な一の音色パラメータを特定することが可能である。したがって、本実施形態の情報通信システム10は、比較的ノイズに強いシステムとすることが可能である。
【0035】
本実施形態の情報通信システム10は、再生音に情報を内包させるものであるため、再生音を聴取可能な場所であればいかなる場所であっても利用可能である。この情報通信システム10の利用の態様としては、横断歩道等における誘導音(又は警告音)や時間を知らせるチャイムなどに所定の情報を重畳させるものを挙げることができる。例えば、かかる誘導音に場所を表す情報(緯度・経度など)を重畳させると、その重畳の規則を知っている者だけにその場所が特定可能であり、他の者には何も気付かれることがないシステムを構築することが可能である。また、時報音に時間を表す情報を重畳させ、聴覚に障害がある者に受信機200を所持させるようにすれば、聴覚に障害がある者に視覚や触覚などで時刻を知らせることが可能となる。すなわち、本実施形態の情報通信システム10によれば、何らかの音が発生している場合において、他の者に不都合を与えることなく特定の者だけに情報を伝達したり、他の者に知られては不都合がある情報を特定の者だけに伝達したり、聴覚的な情報を別の代替的な態様でも伝達したりすることが可能となる。
【0036】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態での実施が可能である。以下に示す変形例は、本発明に適用可能な変形の一例である。なお、これらの変形例は、必要に応じて、各々を適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【0037】
(1)変形例1
上述した実施形態は、音色パラメータの要素のうち周波数を変更するものである。しかしながら、変更する要素は、各周波数に対応するレベルであってもよい。周波数のレベルを用いる場合には、複数のレベル間の相対的な比率の違いによって情報を表してもよい。
図7は、周波数のレベルによって情報を表す場合を例示する図であり、図7(a)がある情報(変換情報)を表すものであり、図7(b)が別の情報情報(変換情報)を表すものである。
【0038】
また、変更する要素として、各周波数の正弦波の位相を用いてもよいし、波形そのもの(すなわち波形の形状)を要素とみなして、決められた波形に対して所定の情報を割り当てるようにしてもよい。なお、合成に用いる波形は、正弦波に限らず、例えば、三角波や矩形波であってもよい。
【0039】
さらに、例えば、周波数のシフト量にある情報を割り当て、その周波数のレベルのシフト量に別の情報を割り当てる、というように、属性が異なる複数の要素を組み合わせてものよい。このようにすれば、単一の属性の要素を用いる場合に比べ、一つの波形に対して重畳できる情報量をより増加させることが可能である。
【0040】
(2)変形例2
本発明は、上述した音色パラメータをテーブルとして記憶する態様に代えて、音色パラメータに応じた音のデータをテーブルとして記憶する態様とし、与えられた情報に応じた音のデータを選択して出力する構成であってもよい。ここにおける音のデータは、例えば、互いに音色が異なる複数種類のスネアドラムの音をサンプリングした音源データである。なお、本例の場合、基準パラメータに相当するデータは、省略してもよいし、基準パラメータにに応じた音のデータをテーブルに含めるようにしてもよい。
【0041】
(3)変形例3
本発明において、音情報は、音のピッチを表すものであればいかなるものであってもよい。音情報は、例えば、MIDI(Musical Instrument Digital Interface:登録商標)データであってもよい。MIDIデータである場合、音情報は、ノートナンバのみのデータであってもよいし、その他のデータを含んでもよい。
【0042】
また、音情報は、その表す音のピッチが時間に応じて別のピッチに変化するものであってもよく、ある時間に相異なるピッチの音を発生させるものであってもよい。複数の音を発生させる典型的な例は、複数の楽器による複数のパートの音を発生させるものである。例えば、MIDIデータの場合、パートの違いをプログラムナンバによって記述することが可能である。
【0043】
本発明において、音情報がピッチ又はパートが異なる複数の音を表す情報である場合、その複数の音から変調の対象(情報を重畳する対象)とする音を選択する選択手段を設けてもよい。かかる選択手段は、例えば、音色番号を選択するものであってもよいし、周波数や音名(「ハ音(ド)」や「ニ音(レ)」など)を指定するものであってもよい。このようにすれば、楽音に含まれる特定の音のみに情報を含ませることができ、例えば、不正な復調をより困難ならしめることが可能である。
また、音情報が複数の音を表す情報である場合、音色テーブルTB2を複数の音毎に異なるものにしてもよい。これは、例えば、音色番号が「スネアドラム」を表す場合の音色テーブルTB2と音色番号が「シンバル」を表す場合の音色テーブルTB2とが同一でなく、同じ変換情報に対して異なる態様でシフト量が割り当てられる場合などが相当する。
なお、以上のような場合には、受信機200に変調の対象である音を特定する特定手段を設けることが望ましい。かかる特定手段は、例えば、送信機100と無線通信を行うものであってもよいし、ユーザが音色番号などを指定するものであってもよい。
【0044】
また、音情報は、電子的なサイレンやベルのような、時間的な変化が規則的である音を表す場合には、時間に関連するパラメータを要素として用いてもよい。かかるパラメータは、例えば、アタック(音を発音してから最大レベルに達するまでの時間)、ディケイ(音量が最大レベルからサステインレベルに変化するまでの時間)、ホールド(一定レベルの音量を維持する時間)、リリース(音量が減衰してから0になるまでの時間)である。かかるパラメータを用いて変調を行った場合、情報に応じていわゆるエンベロープが変化する。
【0045】
さらに、音情報としては、人間の声などを用いることも可能である。例えば、複数のフォルマントの組み合わせによって音声を合成する場合であれば、上述した実施形態と同様の要領、すなわち、フォルマントの周波数を情報に応じて異ならせることにより、本発明が実施可能である。この場合、上述した受信機200においては、情報が重畳される音がいずれであるか(例えば、「あ」や「い」など)を特定することが必要である。音の特定は、例えば、分析器220に音声認識をする機能を付加することで可能となる。この場合、分析器220は、音声認識により所望の音が入力されたことを特定した場合に、その音信号を分析して分析データを生成する。
【0046】
なお、上述した実施形態は、音が聴取されることを前提としたものであったが、本発明において、音情報が表す音は、超音波のような聴取されない音であってもよい。
【0047】
(4)変形例4
本発明において、音情報は、音色番号を含む構成としてもよい。また、本発明は、音情報が基準パラメータに相当する情報を含む態様であってもよいし、音色番号に代えて、音色番号と基準パラメータとを組み合わせた情報が供給される態様であってもよい。このような態様とした場合、音色データベースDB2から基準パラメータを省略することができる。
【0048】
(5)変形例5
上述した実施形態においては、ある基本周波数に対して複数の周波数が音色パラメータとして存在し、基本周波数を変えることなく他の周波数のみを変更させていたが、基本周波数をも変更の対象とし、割り当てられる情報に応じた変更をこれに行ってもよい。このようにすれば、実施形態の場合に比べ、一つの波形に対して重畳できる情報量をより増加させることが可能である。ただし、音色の聴感上の変化を抑制したい場合であれば、基本周波数の変更は行わないようにするのが望ましい。
【0049】
(6)変形例6
本発明において、シフト量、すなわち要素の値を変更する度合いは、発明の用途や音情報の態様によって異なっていてよい。例えば、音情報が表す音が楽曲のようなものであれば、シフト量は、比較的小さいことが望ましい。一方、音情報が表す音が格別に注意して聴取されず、鳴っているかどうかがわかれば十分な程度のものであれば、シフト量を比較的大きくしてもよい。
【0050】
(7)変形例7
本発明において、変換ルールデータベースDB1の記述内容、すなわち変調及び復調の規則は、複数あってもよく、さらには段階的なレベルを設けて区別してもよい。これは、例えば、下位の規則と上位の規則とを定義し、上位の規則によっては下位の規則よりも多くの要素を用いて変調及び復調を可能にする、といったものである。より具体的には、図4に示した例において、下位の規則に従った場合には周波数f1及びf2の要素での変調及び復調が可能であり、上位の規則に従った場合には周波数f1、f2及びf3の要素での変調及び復調が可能である、といった具合のものである。
【0051】
このようなレベルを設けた場合、受信機200においては、変換ルールデータベースDB1のレベルに応じて復調できる情報量を異ならせることが可能となる。すなわち、本例によれば、下位の規則しか記憶されていない受信機200にあっては、再生音が内包している情報の一部が復元できないようにし、上位の規則を記憶している受信機200にあっては、再生音が内包している情報の全部を復元できるようにすることが可能である。また、同様に、送信機100においても、変換ルールデータベースDB1のレベルに応じて変調できる情報量を異ならせることが可能となる。
【0052】
なお、このように複数の規則を設ける場合には、送信機100又は受信機200にそれぞれの規則を記憶させ、必要に応じていずれかの規則を選択し、使い分けを行えるようにしてもよい。この場合において、複数の規則は、ある規則(上位の規則)が他の規則(下位の規則)を包含する関係にあってもよいし、それぞれが独立した異なる規則であってもよい。
【0053】
(8)変形例8
本発明においては、情報を符号化情報に変換する際の規則や符号化情報を変換情報に変換する際の規則を複数用意しておき、必要に応じていずれの規則を用いるかを切り替えてもよい。この場合、送信機100及び受信機200は、複数の規則を記憶手段に記憶するとともに、いずれの規則を用いるかを選択する選択手段を備える。
【0054】
なお、上述した実施形態においては、情報を符号化情報にする変換と符号化情報を変換情報にする変換の2段階の変換を行ったが、これらのいずれか一方を省略してもよい。また、変調の対象となる情報と音色パラメータとがあらかじめ対応付けられていれば、いずれの変換も行わないようにしてもよい。
【0055】
(9)変形例9
上述した送信機100は、本発明に係る変調装置の一例であり、上述した受信機200は、本発明に係る復調装置の一例である。本発明に係る変調装置及び復調装置は、上述した実施形態の構成に限らず、これに適当な構成の付加、省略又は置換を行うことが可能である。例えば、本発明に係る変調装置及び復調装置は、ネットワークを介した通信手段をさらに備え、上述したテーブルやデータベースのデータをダウンロード(又はアップロード)できる構成であってもよいし、上述した送信機100及び受信機200双方の構成を兼備し、情報の送受信を相互に行えるようにしてもよい。
【0056】
また、上述した送信機100又は受信機200が実現する機能は、その一部を集積回路として実現してもよいし、一部の機能をプログラムとして記述し、CPU等の演算装置に実行させるようにしてもよい。また、本発明に係るプログラムは、これを記録媒体に記憶させた形態で利用に供したり、ネットワークを介してダウンロードさせる形態で利用に供したりさせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】情報通信システムの構成を示すブロック図
【図2】送信機の構成を示すブロック図
【図3】音色データベースに記述されたデータを示す模式図
【図4】生成器の構成を示す図
【図5】送信機の動作原理を示す図
【図6】受信機の構成を示すブロック図
【図7】周波数のレベルによって情報を表す場合を例示する図
【符号の説明】
【0058】
10…情報通信システム、100…送信機、110…音情報供給部、120…音色番号供給部、130…情報供給部、140…符号化器、150…選択器、160…生成器、170…スピーカ、200…受信機、210…マイク、220…分析器、230…比較器、240…復号器、250…情報出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音信号を生成する生成手段と、
情報を取得する情報取得手段と、
前記音信号が表す音の基準からの変化の態様を表すパラメータとして、複数の前記情報の各々に対応付けられた複数のパラメータからいずれかを選択するパラメータ選択手段と、
前記パラメータ選択手段が前記情報取得手段により取得された情報に対応して選択した前記パラメータに従って、前記生成手段が生成する音信号を変更する変更手段と
を備えることを特徴とする変調装置。
【請求項2】
発生させる音を指示する音情報を取得する音情報取得手段を備え、
前記生成手段が、前記音情報取得手段により取得された音情報に応じた音信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の変調装置。
【請求項3】
前記音情報が音のピッチを指示する情報を含むことを特徴とする請求項2に記載の変調装置。
【請求項4】
前記音情報が、ピッチ又はパートが異なる複数の音を含み、
前記パラメータ選択手段による選択を行う音を選択する音選択手段を備える
ことを特徴とする請求項2に記載の変調装置。
【請求項5】
前記パラメータ選択手段が、
前記複数の音のそれぞれに対して決められた前記複数のパラメータの組から、前記音選択手段により選択された音に対応する組を用いてパラメータを選択する
ことを特徴とする請求項4に記載の変調装置。
【請求項6】
前記情報取得手段が取得した情報を所定の規則で変換する変換手段と、
複数の前記規則から前記変換手段による変換に用いる規則を選択する規則選択手段とを備え、
前記パラメータ選択手段が、
前記変換手段が変換に用いる前記規則に対応付けて決められた複数のパラメータから、前記情報取得手段が取得した情報に応じたパラメータを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の変調装置。
【請求項7】
音信号を取得する音信号取得手段と、
所定の音の変化の態様を表す複数のパラメータであって当該態様があらかじめ決められた情報に対応して異なる複数のパラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された複数のパラメータから、前記音信号取得手段により取得された音信号が表す音と前記所定の音との差異に対応するパラメータを特定する特定手段と、
前記特定手段により特定されたパラメータの前記態様が表す情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする復調装置。
【請求項8】
送信機と受信機とを有し、
前記送信機は、
音信号を生成する生成手段と、
情報を取得する情報取得手段と、
前記音信号が表す音の基準からの変化の態様を表すパラメータとして、複数の前記情報の各々に対応付けられた複数のパラメータからいずれかを選択するパラメータ選択手段と、
前記パラメータ選択手段が前記情報取得手段により取得された情報に対応して選択した前記パラメータに従って、前記生成手段が生成する音信号を変更する変更手段と、
前記生成手段により生成された音信号に応じた音を放音する放音手段と
を備え、
前記受信機は、
前記放音手段が放音した音を収音する収音手段と、
所定の音の変化の態様を表す複数のパラメータであって当該態様があらかじめ決められた情報に対応して異なる複数のパラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された複数のパラメータから、前記収音手段により収音された音と前記所定の音との差異に対応するパラメータを特定する特定手段と、
前記特定手段により特定されたパラメータの前記態様が表す情報を出力する出力手段と
を備える
ことを特徴とする情報通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−273003(P2009−273003A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123318(P2008−123318)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】