説明

多値光位相変調器

【課題】省サイズ化と低コスト化を実現できる多値光位相変調器を提供すること。
【解決手段】入力された光を分岐する光分岐器と、前記光分岐器に接続し、位相変調部を有する2つのアーム部を備え、前記分岐された光を強度変調して光信号として出力する2つ以上のマッハツェンダ型強度変調器と、前記各マッハツェンダ型強度変調器に接続し、該マッハツェンダ型強度変調器から出力した各光信号を合成して多値光信号として出力する光合成器と、前記光分岐器と、前記マッハツェンダ型強度変調器の少なくともいずれか1つの各位相変調部との間に設けられ、利得媒質を有し、該利得媒質の利得飽和特性を利用して、入力された光の強度を所定強度に調整して出力する少なくとも1つの光強度調整器と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多値光位相変調器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の位相と強度との両方に情報載せて通信を行なうQAM(Quadrature Amplitude Modulation)に代表される、多値位相変調方式では、光の波としての情報を実部と嘘部に分岐し、それぞれにデータ変調を行なう必要がある。
【0003】
そのため、たとえばQAMの変調を行なう多値光位相変調器(たとえば、特許文献1参照)では、入力された光を2分岐し、分岐した光の一方を並列接続した2つのマッハツェンダ(Mach-Zehnder)型強度変調器の一方に入力し、他方の光を、その位相を一方の光に対してπ/2だけシフトさせて、他方のマッハツェンダ型強度変調器に入力させる。一方のマッハツェンダ型強度変調器は、一方の光を実部の情報を有する信号によって強度変調し、実部光信号とし出力する。また、他方のマッハツェンダ型強度変調器は、位相をシフトされた他方の光を、虚部の情報を有する信号によって強度変調し、虚部光信号として出力する。多値光位相変調器は、各マッハツェンダ型強度変調器が出力した実部光信号と虚部光信号とを合成し、QAMの変調がされた光信号として出力する。なお、さらに多値の変調を行なう多値光位相変調器は、その変調方式に応じて、さらに多数のマッハツェンダ型強度変調器が並列または直列に接続されて構成される。
【0004】
マッハツェンダ型強度変調器の2つのアーム部において、光を位相変調する位相変調部としては、たとえば半導体のプラズマ効果、半導体の電界吸収効果(フランツ-ケルディッシュ効果、量子閉じ込めシュタルク効果)を用いたものや、半導体もしくはLN(LiNb)結晶のポッケルス効果を用いたものが利用される。また、複数のマッハツェンダ型強度変調器を並列または直列に接続する場合に、光の分岐、合成を行なうパッシブ光導波路の部分には、InP材料で作製された半導体光導波路や、低損失な石英系材料からなる光導波路である平面光波回路(PLC;Planar Lightwave Circuit)などが用いられる。また、マッハツェンダ型強度変調器とパッシブ光導波路とを集積した構造としては、パッシブ/変調器が半導体/半導体であるモノリシック集積タイプや、PLC/半導体のハイブリッド集積タイプがある。なお、PLC/半導体のハイブリッド集積構造の接合部における光導波路同士の調芯の技術としては、導波路に光を導光させて接続損失を実測しながら調芯を行なうアクティブアラインメントや、たとえば非特許文献1が開示されているような調芯マークによって調芯を行なうパッシブアラインメントの技術がある。
【0005】
ここで、特許文献2には、マッハツェンダ型強度変調器において、消光比を高くするために、2つのアーム部の位相変調部の後に強度変調部を設け、合成する光信号の強度を等しくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−86268号公報
【特許文献2】特開平7−49473号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Hashimoto et al., “Multichip Optical Hybrid Integration Technique with Planar Lightwave Circuit Platform”, J. Lightwave Technol., vol. 16, No. 7, pp. 1249-1258, July 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の多値光位相変調器を作製する際に、モノリシック集積技術を用いた場合には、半導体光導波路の作製精度に起因する導波路損失や曲げ損失のばらつきにより、またハイブリッド集積技術を用いた場合には、半導体光導波路とPLCとの接続損失のばらつきにより、各マッハツェンダ型強度変調器に入力される光の強度もばらつく。このばらつきが大きいと、多値光位相変調器から出力される光信号の強度と位相とが乱れ、光信号の品質が低下するという問題がある。
【0009】
図13は、2つのマッハツェンダ型強度変調器における光電界の位相状態を示す図である。なお、図13(a)は各マッハツェンダ型強度変調器に入力される光強度にばらつきがない状態を示し、図13(b)はばらつきがある状態の例を示している。
【0010】
図13(a)が示すように、ばらつきがない理想的な場合は、各アーム部における位相変調の振幅が等しくなるため、符号A1が示す光電界の実部軸(I軸)上の位相状態の変化と、符号A2が示す虚部軸(Q軸)上の虚部光信号の位相状態の変化とは略等しくなる。その結果、符号C1が示す合成された光信号の位相状態も等方的になり、コンスタレーションマップ(信号点配置図)上において信号点は等間隔に配置する。
【0011】
一方、図13(b)が示すばらつきがある例では、各アーム部における位相変調の振幅が異なっており、符号A3が示すI軸上の位相状態の変化に比して、符号A4が示すQ軸上の位相状態の変化の振幅が小さくなっている。その結果、符号C1が示す合成された光信号の位相状態もQ軸方向に縮小した形状となり、コンスタレーションマップ上において信号点は不等間隔に配置することとなり、ばらつきがない場合よりも光信号の品質は低下している。
【0012】
ここで、上述した特許文献2のように、マッハツェンダ型強度変調器の各アーム部に設けた強度変調部によって光信号の強度を調整する方法がある。しかしながら、この方法では、マッハツェンダ型強度変調器の光出力ポートにおいて光強度をモニタし、モニタした光強度に基づいて、強度変調部の駆動電流値をフィードバック制御することが、必ず必要であるため、この制御を行なう制御機構が必ず必要となり、省サイズ化と低コスト化の妨げになるという問題がある。また、光強度のばらつきが大きい場合、これに合わせて制御の範囲も大きくする必要がある。そのため、制御機構の負荷が大きくなり、大掛かりな制御機構が必要となるので、さらに省サイズ化と低コスト化の妨げになる。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、省サイズ化と低コスト化を実現できる多値光位相変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る多値光位相変調器は、入力された光を分岐する光分岐器と、前記光分岐器に接続し、位相変調部を有する2つのアーム部を備え、前記分岐された光を強度変調して光信号として出力する2つ以上のマッハツェンダ型強度変調器と、前記各マッハツェンダ型強度変調器に接続し、該マッハツェンダ型強度変調器から出力した各光信号を合成して多値光信号として出力する光合成器と、前記光分岐器と、前記マッハツェンダ型強度変調器の少なくともいずれか1つの各位相変調部との間に設けられ、利得媒質を有し、該利得媒質の利得飽和特性を利用して、入力された光の強度を所定強度に調整して出力する少なくとも1つの光強度調整器と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る多値光位相変調器は、上記の発明において、前記光強度調整器は、前記利得媒質が半導体活性層である半導体光増幅器を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る多値光位相変調器は、上記の発明において、前記半導体活性層はバルク構造を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る多値光位相変調器は、上記の発明において、前記光強度調整器は、当該光強度調整器に入力された光の強度が−10dBm〜10dBmの範囲のときに、当該入力された光の強度の10dBの変化に対して、前記出力する光の強度の変化量が0.01dB以下となるように、少なくとも前記利得媒質の利得長、断面積および閉じ込め係数が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る多値光位相変調器は、利得媒質の利得飽和特性を利用した光強度調整器を備えるので、光強度の制御の負荷が小さい、あるいは制御自体が不要となるため、省サイズ化と低コスト化を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施の形態1に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示す多値光位相変調器のA−A線断面図である。
【図3】図3は、図1に示す多値光位相変調器の半導体光導波路部の導波路構造を示す平面図である。
【図4】図4は、図3に示す導波路構造のB−B線断面図である。
【図5】図5は、図3に示す導波路構造のC−C線断面図である。
【図6】図6は、図1に示す半導体光増幅部の入力光強度と出力光強度との関係を示す図である。
【図7】図7は、半導体光導波路部の製造方法の一例の説明図である。
【図8】図8は、半導体光導波路部の製造方法の一例の説明図である。
【図9】図9は、半導体光導波路部の製造方法の一例の説明図である。
【図10】図10は、実施の形態2に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。
【図11】図11は、実施の形態3に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。
【図12】図12は、実施の形態4に係る多値光位相変調器の模式的な構成図である。
【図13】図13は、2つのマッハツェンダ型強度変調器における光電界の位相状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明に係る多値光位相変調器の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。
【0021】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、波長1.55μmの連続光に対してQAMの変調を行なう多値光位相変調器について説明する。以下では、本実施の形態1の多値光位相変調器の構成、動作、製造方法の順に説明する。
【0022】
(構成)
図1は、本実施の形態1に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。図1に示すように、この多値光位相変調器100は、光分岐器1と、光分岐器1に接続する2つのマッハツェンダ型強度変調器3、4と、マッハツェンダ型強度変調器3、4に接続する光合成器5と、光分岐器1とマッハツェンダ型強度変調器4との間に設けられた位相シフト器2とを備えている。また、この多値光位相変調器100は、石英系材料からなるPLCで形成されたPLC部P1、P2と、PLC部P1、P2の間に配置された、半導体導波路で形成された半導体光導波路部S1とが集積されたハイブリッド集積構造のものである。なお、光分岐器1と位相シフト器2はPLC部P1に形成され、光合成器5はPLC部P2に形成され、マッハツェンダ型強度変調器3、4はPLC部P1から半導体光導波路部S1、さらにPLC部P2にわたって形成されている。
【0023】
つぎに、各構成要素について具体的に説明する。光分岐器1は、光が入力される光入力部1aと、光入力部1aから分岐して形成された光出力部1b、1cとを備えている。
【0024】
マッハツェンダ型強度変調器3は、光分岐器1の光出力部1bに接続する光入力部3aと、光入力部3aから分岐して形成されたアーム部3b、3cと、アーム部3b、3cが結合して形成された光出力部3dとを備えている。また、マッハツェンダ型強度変調器4は、光分岐器1の光出力部1cに接続する光入力部4aと、光入力部4aから分岐して形成されたアーム部4b、4cと、アーム部4b、4cが結合して形成された光出力部4dとを備えている。
【0025】
ここで、半導体光導波路部S1において、マッハツェンダ型強度変調器3のアーム部3bは、位相変調部3bbを有しているとともに、位相変調部3bbの光入力部3a側には光強度調整器としての半導体光増幅部3baが設けられている。
【0026】
また、マッハツェンダ型強度変調器3のアーム部3cも、半導体光導波路部S1において、位相変調部3cbを有しているとともに、位相変調部3cbの光入力部3a側には半導体光増幅部3caが設けられている。さらに、マッハツェンダ型強度変調器4のアーム部4b、4cも、半導体光導波路部S1において、それぞれ位相変調部4bb、4cbを有しているとともに、位相変調部4bb、4cbの光入力部4a側には半導体光増幅部4ba、4caが設けられている。なお、この半導体光導波路部S1の構造については後に詳述する。
【0027】
光合成器5は、QAMの変調がされた多値光信号が出力される光出力部5aと、光出力部5aから分岐して形成され、マッハツェンダ型強度変調器3の光出力部3dとマッハツェンダ型強度変調器4の光出力部4dとにそれぞれ接続する光入力部5b、5cとを備えている。
【0028】
つぎに、PLC部P1の断面構造について説明する。図2は、図1に示す多値光位相変調器100のA−A線断面図であり、光分岐器1の光入力部1aの断面を示している。図2に示すように、A−A線断面においては、コア層である光入力部1aが、下部クラッド層6a上に形成され、さらに上部クラッド層6bにより埋め込まれた埋め込みメサ型の導波路構造が形成されている。光入力部1aの断面のサイズは7μm×7μmである。また、下部クラッド層6aと上部クラッド層6bとの屈折率は同一である。また、下部クラッド層6aおよび上部クラッド層6bに対する光入力部1aの比屈折率差は0.45%である。このように断面サイズと比屈折率差が設定されていることにより、光入力部1aは波長1.55μmの光を単一横モードかつ偏波無依存で導波することができる。なお、上記断面のサイズと比屈折率差は例示であり、特に限定はされない。
【0029】
また、PLC部P1、P2に形成されている他の要素、すなわち、光分岐器1の光出力部1b、1c、マッハツェンダ型強度変調器3、4の光入力部3a、4a、アーム部3b、3c、4b、4cの一部、および光出力部3d、4d、ならびに光合成器5も、光入力部1aと同様の導波路構造を有している。
【0030】
また、位相シフト器2も、光入力部1aと同様の導波路構造を有しているが、π/2の位相差を与えるように、下部クラッド層6aおよび上部クラッド層6bに対するコア層の比屈折率差が、光入力部1aの場合よりも高く設定されている。
【0031】
つぎに、半導体光導波路部S1の構造について説明する。図3は、図1に示す多値光位相変調器100の半導体光導波路部S1の導波路構造を示す平面図である。なお、図3はマッハツェンダ型強度変調器3のアーム部3bの一部である領域Rを拡大して示したものである。
【0032】
図3に示すように、領域Rは、光入力部3a側に位置するスポットサイズ変換器(SSC:Spot Size Converter)領域R1、半導体光増幅器領域R2、位相変調器領域R3、および光出力部3d側に位置するSSC領域R4からなる。この各領域R1〜R4には、SSC部3bc、半導体光増幅部3ba、位相変調部3bb、SSC部3bdがそれぞれ形成されている。これらのSSC部3bc、半導体光増幅部3ba、位相変調部3bb、SSC部3bdは、いずれもクラッド部となる埋め込み半導体層16で埋め込まれた埋め込みメサ型の導波路構造を有している。なお、符号7、9はp側電極を示し、符号8、10は電極パッドを示しているが、これらについては後述する。
【0033】
SSC部3bcの長さL1は500μmであり、そのメサ幅(コア幅)はメサ幅W1からメサ幅W2まで変化している。メサ幅W1は0.5μmであり、メサ幅W2は2μmである。SSC部3bdはSSC部3bcと同様の構造を有する。半導体光増幅部3baの長さL2は1300μmであり、メサ幅W3は0.7μmである。位相変調部3bbの長さL3は1000μmであり、メサ幅W4は2μmである。なお、上記各長さとメサ幅は例示であり、特に限定はされない。また、マッハツェンダ型強度変調器3、4の他のアーム部3c、4b、4cにおける領域Rに対応する部分も、図3と同様の構造を有している。
【0034】
つぎに、半導体光導波路部S1の断面構造を、図3に示す半導体光増幅器領域R2、位相変調器領域R3の断面を用いて説明する。図4は、図3に示す導波路構造のB−B線断面図である。
【0035】
図4に示すように、位相変調器領域R3は、裏面にn側電極11を形成したn型のInPからなる基板12上に、バッファ層としての役割も果たしているn型のInPからなる下部クラッド層13と、コア層となる位相変調部3bbと、p型のInPからなる上部クラッド層14、15とが積層した構造を有している。基板12の一部から上部クラッド層15まではメサ構造となっており、その両側はp型のInPからなる下部電流阻止半導体層16aとn型のInPからなる上部電流阻止半導体層16bとからなる埋め込み半導体層16によって埋め込まれている。また、上部クラッド層15と埋め込み半導体層16との上にはp型のInPからなる上部クラッド層17、p型のInGaAsPからなるコンタクト層18が積層している。また、コンタクト層18上には、位相変調部3bb全体を覆うようにp側電極9が形成され、またはSiN膜からなる誘電体保護膜19で保護されている。さらに、誘電体保護膜19に形成された開口部においてp側電極9に接触するように、電極パッド10が形成されている。
【0036】
位相変調部3bbは、バンドギャップ波長が1.48μmのInGaAsP材料からなり、多重量子井戸(MQW:Multi Quantum Well)構造の上下に3段階の分離閉じ込めヘテロ構造(SCH:Separate Confinement Heterostructure)を形成したMQW−SCH構造を有する。なお、MQWは例えば、6層の6nmの井戸層と、5層の10nmの障壁層とが順次積層された構造を有する。また、厚さ100nmの3段SCHでMQWの上下を挟んだ構造となっている。
【0037】
つぎに、図5は、図3に示す導波路構造のC−C線断面図である。図5に示すように、半導体光増幅器領域R2は、図4に示す断面構造において、コア層を位相変調部3bbから活性層である半導体光増幅部3baに置き換え、p側電極9、電極パッド10をそれぞれp側電極7、電極パッド8に置き換えた構造を有している。なお、半導体光増幅器3baはバンドギャップ波長が1.55μmのInGaAsP材料からなり、PN接合のバルク構造を有する。
【0038】
なお、SSC領域R1、R4の断面構造は、図4に示す断面構造において、コア層を位相変調部3bbからSSC部3bc、3bdに置き換え、p側電極9、電極パッド10を削除した構造を有している。SSC部3bc、3bdはバンドギャップ波長が1.15μmのInGaAsP材料からなる。また、下部クラッド層13および上部クラッド層14、15はノンドープのInPからなる。
【0039】
(動作)
つぎに、この多値光位相変調器100の動作について説明する。まず、電極および電極パッドを介して、各半導体光増幅部3ba、3ca、4ba、4caに順方向バイアス電圧にて駆動電流を注入し、位相変調部3bb、3cb、4bb、4cbに逆方向バイアス電圧と変調電圧信号とを印加した状態で、図1に示すように光分岐器1の光入力部1aに連続光ILを入力する。すると、光分岐器1は入力された連続光ILを2分岐し、光出力部1b、1cから出力する。光出力部1bから出力された連続光はマッハツェンダ型強度変調器3に入力する。また、光出力部1cから出力された連続光は、位相シフト器2によってπ/2だけ位相をシフトされた後にマッハツェンダ型強度変調器4に入力する。
【0040】
マッハツェンダ型強度変調器3は、光入力部3aから入力された連続光をアーム部3b、3cへ分岐し、分岐した各連続光を、外部から変調信号が与えられた位相変調部3bb、3cbの量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect、QCSE)効果による屈折率変化によって位相変調し、その後光出力部3dにおいて光合成し、実部光信号として出力する。
【0041】
一方、マッハツェンダ型強度変調器4は、位相シフトされて光入力部4aから入力された連続光をアーム部4b、4cへ分岐し、分岐した各連続光を、外部から変調信号が与えられた位相変調部4bb、4cbの電界吸収効果によって位相変調し、その後光出力部4dにおいて光合成し、虚部光信号として出力する。
【0042】
最後に、光合成器5は、マッハツェンダ型強度変調器3、4が出力し光入力部5b、5cから入力された実部光信号および虚部光信号を合成し、光出力部5aからQAMの変調がされた光信号OSLとして出力する。
【0043】
ここで、マッハツェンダ型強度変調器3、4の各アーム部3b、3c、4b、4cには、PLC部P1と半導体光導波路部S1との接続部分が存在している。この接続部分において接続される光導波路間の接続損失が、アーム部3b、3c、4b、4cの間でばらついていると、半導体光導波路部S1に入力した際の連続光の強度もばらつくこととなる。
【0044】
これに対して、本実施の形態1に係る多値光位相変調器100では、各アーム部3b、3c、4b、4cにおいて、位相変調部3bb、3cb、4bb、4cbの前に、それぞれ光強度調整器として半導体光増幅部3ba、3ca、4ba、4caが設けられている。これらの半導体光増幅部3ba、3ca、4ba、4caは、利得飽和特性を有しており、入力された連続光の強度にかかわらず、この連続光の光強度を略一定の強度に調整して出力する。なお、利得飽和特性とは、利得媒質に入力される光の強度が高くなると、誘導放出によりレーザ上準位のキャリアが減少し、これによって利得が低下する特性である。その結果、各アーム部の位相変調部3bb、3cb、4bb、4cbに入力される連続光の強度は略等しくなり、各位相変調部において略等しい位相変調が印加される。その結果、外部から光強度を制御しなくても、最終的に出力される光信号OSLは図13(a)に示すような理想的な状態となる。
【0045】
以下、半導体光増幅部3ba、3ca、4ba、4caの利得飽和特性についてより具体的に説明する。なお、半導体光増幅器3baを例にして説明するが、他の半導体光増幅器も同様の特性を有している。
【0046】
図6は、図1に示す半導体光増幅部3baの入力光強度と出力光強度との関係を示す図である。なお、図6において、光の波長は1.55μmとしている。また、コア層である半導体光増幅部3baのメサ幅W3および厚さは0.7μmとし、閉じ込め係数Γは0.45とし、利得長である長さL2は1300μmとし、挿入損失αは40cm−1とし、駆動電流Iopは500mAとしている。
【0047】
図6に示すように、この半導体光増幅部3baは、入力光強度が−50dBmから20dBmの範囲において出力光強度の変化量が0.15dB以下であり、ほぼ一定となっている。また、特に入力光強度が−10dBm〜10dBmの範囲のときに、入力光強度の10dBの変化に対して、出力光強度の変化量が0.01dB以下となっている。ここで、光通信における実用的な光強度を考慮すると、この半導体光増幅部3baへ入力する光強度は−10dBm〜10dBmの範囲と考えられる。したがって、半導体光増幅部3baへの入力光強度がこの範囲であれば、その光強度に10dB程度のばらつきがあっても、出力光強度のばらつきを0.01dB以内に抑制することができる。
【0048】
なお、非特許文献1によれば、ハイブリッド集積構造においてパッシブアラインメントを行なった場合、PLCと半導体光導波路部との間には最大6dBの接続損失のばらつきが存在する。この多値光位相変調器100では、マッハツェンダ型強度変調器3、4の内部でこのように6dBの接続損失のばらつきがあっても、図6が示すような特性を有する半導体光増幅部3baを用いているので、光強度のばらつきが6dBから0.01dB以内に抑制される。したがって、接続損失のばらつき等に起因する入力光強度のばらつきは抑制されるため、外部からの光強度の制御が不要とできる。また、外部から制御を行うとしても、その制御の負荷が小さくなるため、大掛かりな制御機構は不要である。したがって、この多値光位相変調器100は省サイズ化と低コスト化を実現できるものとなる。
【0049】
また、このような0.01dB以内のばらつきは、多値位相変調を行なう通信システムにおいて通常用いられる受信回路の受信感度と比較すると無視出来るレベルであるから、このようなばらつきが存在しても、多値位相変調した光信号の伝送特性に影響を及ぼさない。
【0050】
また、上記のように6dBの光強度のばらつきが抑制されると、この多値光位相変調器100によりデータ変調を行なった場合、ばらつきがある場合よりもアイパターンの消光比の劣化を6dBだけ改善できると考えられる。これにより、アイパターンのS/Nの良い、良好なデータ変調ができると期待される。さらに、マッハツェンダ型強度変調器3、4において6dBの光強度の違いが抑制されたとすると、16QAMの変調方式においてBack−to−Backで誤り率を測定した場合に、誤り率10−5において受信強度が12dBだけ改善される。すなわち、この多値光位相変調器100を用いれば、光伝送において同じ誤り率を得るために必要な光強度が大幅に低減されるため、光伝送システム全体の低消費電力化に多大な効果をもたらす。
【0051】
ところで、利得媒質の飽和特特性は、飽和強度なるパラメータに依存する。飽和強度が小さい利得媒質の方が、入力した光強度が小さくても利得飽和が起こりやすいので、出力光強度を一定にできる入力光強度の範囲が広くなり好ましい。飽和強度をIsatとすると、半導体光増幅器の場合はIsatは以下の式(1)で表される。
【0052】
Isat=hν/(ΓAgτ)×W×d ・・・ (1)
なお、式(1)において、hはプランク定数、Γは活性コア層の閉じ込め係数、Agは微分利得係数、τは光の減衰時間、Wは活性コア層の幅、dは活性コア層の厚さを示す。
【0053】
また、活性コア層の利得係数をg(n)(nはキャリア密度)とすると、g(n)は以下の式(2)で表される。
【0054】
g(n)=Ag×(n−n0)×[(1/(1+I/Isat)] ・・・ (2)
なお、式(2)において、n0は透明キャリア密度、Iは入力光の強度密度を示す。
【0055】
また、半導体光増幅器の導波路構造依存性や光損失等を含めた利得Gは、以下の式(3)で表される。
【0056】
G=exp((Γ×g(n)−α)×L)=exp((Γ×Ag×(n−n0)−α)×L) ・・・ (3)
なお、式(3)において、αは挿入損失、Lは利得長を示す。また、「exp」は自然対数の底の指数関数を示す記号である。
【0057】
式(1)〜(3)に示すように、利得媒質である活性コア層の利得長L、断面積W×d、および閉じ込め係数Γをパラメータとして適宜設定することによって、半導体光増幅器の利得特性を所望にものとすることができる。特に、閉じ込め係数Γを大きくすれば、飽和強度Isatが小さくなるので、出力光強度を一定にできる入力光強度の範囲が広くなり好ましい。また、本実施の形態1のように、半導体光増幅部3baをバルク構造とすると、閉じ込め係数Γを大きくしやすいので好ましい。
【0058】
なお、たとえば、図6に示す特性を実現するためには、出力を十分に飽和させるために利得長L(単位mm)と閉じ込め係数Γ(単位なし)の積を0.6以上に設定すれば良い。また、通信波長帯1.31μmもしくは1.55 μmにおいて単一横モードとなり、出力を飽和させるために断面積W×dを0.5μm以下に設定すれば良い。
【0059】
また、利得長L、断面積W×d、および閉じ込め係数Γは、入力する光の波長において半導体光増幅器が単一横モード伝送かつ偏波無依存特性を実現するように設定することが好ましいが、各設定パラメータが上記範囲であれば、波長1.55μmにおいて単一横モード伝送かつ偏波無依存特性という条件を満たしている。
【0060】
なお、図6、および式(1)〜(3)に示すように、利得媒質に対する入力光強度が高くなると、その利得飽和特性によって出力光強度が入力光強度よりも低くなり、利得が負の値となる場合がある。本明細書における利得媒質とは、このように入力光強度が高くなった場合に、その利得飽和特性によって利得が正から負に転じるようなものも含むものである。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態1に係る多値光位相変調器100は、外部からの光強度の制御が不要の多値光位相変調器となる。その結果、制御機構が必ずしも必要ではなくなり、省サイズ化かつ低コスト化を実現できる多値光位相変調器となる。
【0062】
(製造方法)
つぎに、本実施の形態1に係る多値光位相変調器100の製造方法の一例について説明する。はじめに、PLC部P1、P2の製造方法の一例について説明する。はじめに、光ファイバ製造技術の応用である火炎直接堆積(FHD:Flame Hydrolysis Deposition)法により、PLC作製用基板(例えばシリコン基板)上に、下部クラッド層およびコア層となるガラス粒子を堆積し、その後加熱してガラス微粒子を溶融透明化する。その後、半導体集積回路製造技術であるフォトリソグラフィと反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)で、光分岐器1、光合成器5、およびマッハツェンダ型強度変調器3、4の一部に対応する光導波路パターンを形成し、再びFHD法により上部クラッド層を形成する。これによって、同一のPLC作製用基板上に、PLC部P1、P2が形成される。なお、PLC部P1、P2は別々の基板上に形成してもよい。
【0063】
つぎに、半導体光導波路部S1の製造方法について説明する。図7〜図9は、半導体光導波路部S1の製造方法の一例の説明図である。なお、図7は、図3に示すD−D線断面に対応する断面を示している。
【0064】
まず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)結晶成長装置を用い、成長温度600度において以下のような結晶成長を行なう。すなわち、図7(a)に示すように、基板12上に、下部クラッド層13、位相変調部3bb、上部クラッド層14、15を順次結晶成長する。
【0065】
つぎに、図7(b)に示すように、SiNからなるマスクM1で位相変調器領域R3のみを覆い、それ以外の領域において、ICP(Inductive Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)−RIE装置により、上部クラッド層14、15および位相変調部3bbと、下部クラッド層13の一部分をエッチング除去する。そして、エッチング除去した領域に、バットジョイント成長により、半導体光増幅部3baと上部クラッド層14、15とを形成する。半導体光増幅部3baは、厚さ0.7μmのInGaAsPバルク半導体活性層と、半導体活性層を上下から挟む2つの厚さ0.1μmのバンドギャップ波長1.18μmのSCH層から形成される。エッチング後にはマスクM1をBHF(バッファードフッ酸)により除去する。
【0066】
つぎに、図7(c)に示すように、SiNからなるマスクM2で半導体光増幅器領域R2および位相変調器領域R3のみを覆い、それ以外の領域において、ICP−RIE装置により、上部クラッド層14、15および半導体光増幅部3baをエッチング除去し、エッチング除去した領域に、バットジョイント成長により、SSC部3bc、3bdと上部クラッド層14、15とを形成する。パッシブのSSC部3bc、3bdは、厚さ0.3μmのバンドギャップ波長1.15μmのInGaAsPコア層と、コア層を上下から挟む2つの厚さ0.3μmのノンドープInP層から形成される。
その後、図7(d)に示すようにマスクM2を除去する。このようにして、SSC領域R1、R4、半導体光増幅器領域R2、位相変調器領域R3が形成される。
【0067】
つづいて、図8は、図3に示すB−B線断面に対応する断面を示している。まず、図8(a)は、図7(d)の工程を行った後の状態を示している。つぎに、図8(b)、(c)に示すように、各領域R1〜R4において上部クラッド層15上の全面にSiN膜からなるマスクM3を形成し、このマスクM3を、図3に示すメサ構造を形成するための形状にエッチングする。そして、図8(d)に示すように、マスクM3を形成した以外の領域の上部クラッド層14、15、位相変調部3bb、下部クラッド層13を、塩素系またはメタン水素系のガスを用いたドライエッチングによって除去する。つづいて、図8(e)に示すように、ウェットエッチングを用いて、さらに上部クラッド層15から基板12の一部に到る深さまでをエッチングし、図4に示す導波路構造のメサ構造を形成する。この工程において各領域R1〜R4におけるメサ形状が形成される。
【0068】
つぎに、図8(f)に示すように、メサ構造の両側に、下部電流阻止半導体層16aと上部電流阻止半導体層16bとを順次形成して埋め込み半導体層16を形成し、各領域R1〜R4におけるメサ構造を埋め込む。その後、BHF(バッファードフッ酸)により、マスクM3を除去する。つぎに、図8(g)に示すように、各領域R1〜R4において上部クラッド層17、コンタクト層18を形成し、さらに必要に応じて保護層であるキャップ層Capを形成する。キャップ層Capはその後、図8(h)に示すように除去される。
【0069】
つぎに、位相変調器領域R3の構造を形成する工程を説明する。なお、半導体光増幅器領域R2も同様の工程で形成することができる。まず、図9(a)に示すように、図8(h)で形成した構造上にフォトリソグラフィにより、p側電極9に対応する部分をパターニングしたレジストr1を形成し、その上にAuZn膜E1を蒸着する。つぎに、図9(b)に示すように、レジストr1を除去し、リフトオフしてp側電極9を形成する。その後、図9(c)に示すように、SiN膜からなる誘電体保護膜19を成膜する。なお、誘電体保護膜19の成膜は全ての領域R1〜R4に対して行なう。つぎに、図9(d)に示すように、誘電体保護膜19上に、フォトリソグラフィにより、電極パッド10をp側電極9に接触させるための部分をパターニングしたレジストr2を形成する。
【0070】
つぎに、図9(e)に示すように、CFガスを用いたRIEにより、レジストR2をパターニングした部分の誘電体保護膜19をエッチングし、その後レジストr2を除去する。さらに、図9(f)に示すように、誘電体保護膜19上に、フォトリソグラフィにより、電極パッド10に対応する部分をパターニングしたレジストr3を形成し、その上にTi/Pt膜E2を蒸着する。その後、図9(g)に示すように、レジストr3を除去し、リフトオフして電極パッド10を形成する。
【0071】
最後に、基板12の裏面全面を研磨し、研磨した裏面にAuGeNi/Au膜を蒸着してn側電極11を形成した後、オーミックコンタクトをとるために430℃で焼結(シンタ)する。その後、へき開して半導体光導波路部S1が完成する。最後に端面の反射を抑えるために両端面に無反射コーティングを施す。
【0072】
つづいて、別途作製しておいたPLC作製用基板上のPLC部P1とPLC部P2との間に半導体光導波路部S1を嵌合し、アクティブアラインメントまたパッシブアラインメントによって調芯を行なった後に半導体光導波路部S1を固定し、多値光位相変調器100が完成する。
【0073】
なお、PLC部P1、P2を別々の基板上に作製した場合は、半導体光導波路部S1の両端にPLC部P1、P2をそれぞれ隣接させて、アクティブアラインメントまたパッシブアラインメントによって調芯を行い、その後に半導体光導波路部S1とPLC部P1、P2とを接合し、多値光位相変調器100が完成する。
【0074】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。図10は、本実施の形態2に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。図10に示すように、この多値光位相変調器200は、光分岐器1と、位相シフト器2と、2つのマッハツェンダ型強度変調器3、4と、光合成器5とが、1つの半導体基板上に集積されたモノリシック集積構造を有する。なお、光分岐器1、位相シフト器2、および光合成器5は、多値光位相変調器100のSSC領域R1と同様の埋め込みメサ構造を有するが、そのメサ幅は等幅であり、波長1.55μmの光を単一横モードかつ偏波無依存で導波することができるように、たとえば2μmの幅とされている。
【0075】
この多値光位相変調器200の場合、各半導体光導波路の作製精度に起因する1〜2dB程度の導波路損失や曲げ損失のばらつきが存在する。しかしながら、多値光位相変調器200は、多値光位相変調器100と同様に、利得飽和特性を有する半導体光増幅部3ba、3ca、4ba、4caを有するため、上記の各損失のばらつきが存在するにも関わらず、制御機構が必ずしも必要ではなくなり、省サイズ化かつ低コスト化を実現できる多値光位相変調器となる。
【0076】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3について説明する。図11は、本実施の形態3に係る多値光位相変調器の模式的な平面図である。図11に示すように、この多値光位相変調器300は、PLC部P3、P4、P5と、これらの間に配置された半導体光導波路部S2、S3とが集積されたハイブリッド集積タイプのものである。なお、光分岐器1と位相シフト器2はPLC部P3に形成され、光合成器5はPLC部P5に形成され、マッハツェンダ型強度変調器3、4はPLC部P4から半導体光導波路部S3、さらにPLC部P5にわたって形成されている。
【0077】
ここで、この多値光位相変調器300では、マッハツェンダ型強度変調器3、4の各アーム部3b、3c、4b、4cは、それぞれ位相変調部3bb、3cb、4bb、4bcを有するが、半導体光増幅部は設けられていない。その代わりにPLC部P3とPLC部P4との間に配置された半導体光導波路部S2に、多値光位相変調器100の半導体光増幅部3baと同様な利得飽和特性を有する半導体光増幅器20、21が設けられている。この多値光位相変調器300のように、光分岐器1と、マッハツェンダ型強度変調器3、4の各位相変調部3bb、3cb、4bb、4bcとの間に光強度調整器である半導体光増幅器20、21が設けられていれば、接続損失のばらつきの影響が抑制される。その結果、制御機構が必ずしも必要ではなくなり、省サイズ化かつ低コスト化を実現できる多値光位相変調器となる。
【0078】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る多値光位相変調器について説明する。本実施の形態4に係る多値光位相変調器は、光強度の制御機構を備えたものである。図12は、実施の形態4に係る多値光位相変調器の模式的な構成図である。
【0079】
図12に示すように、この多値光位相変調器400は、光分岐器1と、光分岐器1に接続する2つのマッハツェンダ型強度変調器3、4と、マッハツェンダ型強度変調器3、4に接続する光合成器22と、光分岐器1とマッハツェンダ型強度変調器3との間に設けられた半導体光増幅器20と、光分岐器1とマッハツェンダ型強度変調器4との間に設けられた位相シフト器2および半導体光増幅器21と、を備えている。また、さらに、この多値光位相変調器400は、光接続端子23、28と、光電変換素子(O/E)24、29と、基準レベル電圧端子25、30と、信号レベル検出回路(Det)26、31と、電圧−電流変換回路(V/I)27、32とを備えている。
【0080】
光分岐器1、マッハツェンダ型強度変調器3、4、光合成器22、半導体光増幅器20、21、および位相シフト器2は、半導体光導波路のモノリシック集積構造または半導体光導波路とPLCとを適宜組み合わせたハイブリッド集積構造により形成されている。ただし、マッハツェンダ型強度変調器3、4の位相変調部3bb、3cb、4bb、4cbおよび半導体光増幅器20、21は、半導体光導波路により形成されている。
【0081】
また、光合成器22は、光信号が出力される光出力部22aと、光出力部22aから分岐して形成され、マッハツェンダ型強度変調器3とマッハツェンダ型強度変調器4とにそれぞれ接続する光入力部22b、22cと、光入力部22b、22cから分岐して形成され、光入力部22b、22cに入力された実部または虚部光信号の一部をモニタ光として取り出すモニタ光出力部22d、22eと備えている。
【0082】
また、光接続端子23は、モニタ光出力部22dに接続しており、モニタ光出力部22dが出力したモニタ光を受け付ける。光電変換素子24は、光接続端子23に接続しており、光接続端子23が受け付けたモニタ光を受光し、その光強度に応じた電気信号を出力する。信号レベル検出回路26は、基準レベル電圧端子25と光電変換素子24とに接続しており、基準レベル電圧端子25から入力された基準電圧と光電変換素子24が出力した電気信号の電圧とを比較して、その電圧差の信号を出力する。電圧−電流変換回路27は、信号レベル検出回路26に接続しており、信号レベル検出回路26が出力した電圧差信号に対応して、この電圧差が小さくなる方向に制御した電流を半導体光増幅器20に出力する。すなわち、光電変換素子24、信号レベル検出回路26、電圧−電流変換回路27によって負のフィードバック制御機構が構成されている。
【0083】
同様に、光接続端子28は、モニタ光出力部22eに接続しており、モニタ光出力部22eが出力したモニタ光を受け付ける。光電変換素子29は、光接続端子28に接続しており、光接続端子28が受け付けたモニタ光を受光し、その光強度に応じた電気信号を出力する。信号レベル検出回路31は、基準レベル電圧端子30と光電変換素子29とに接続しており、基準レベル電圧端子30から入力された基準電圧と光電変換素子29が出力した電気信号の電圧とを比較して、その電圧差の信号を出力する。電圧−電流変換回路32は、信号レベル検出回路31に接続しており、信号レベル検出回路31が出力した電圧差信号に対応して、この電圧差が小さくなる方向に制御した電流を半導体光増幅器21に出力する。すなわち、光電変換素子29、信号レベル検出回路31、電圧−電流変換回路32によって負のフィードバック制御機構が構成されている。
【0084】
本実施の形態4に係る多値光位相変調器400は、上記のようなフィードバック制御機構を有することによって、マッハツェンダ型強度変調器3が出力する実部信号光の強度と、マッハツェンダ型強度変調器4が出力する虚部信号光の強度とが、より高い精度で一定にされるため、より高精度にQAMの変調がされた光信号を出力できる。また、この多値光位相変調器400は、利得飽和特性を有する半導体光増幅器20、21を備えるため、フィードバック制御機構は簡易な構成のものでよいため、省サイズ化と低コスト化を実現できるものとなる。
【0085】
なお、本実施の形態4が備えるフィードバック制御機構を実施の形態1〜3に係る多値光位相変調器に取り付ければ、より高精度にQAMの変調がされた光信号を出力できるものとなる。
【0086】
また、たとえば実施の形態1に係る多値光位相変調器では、マッハツェンダ型強度変調器の各アーム部に半導体光増幅器を設けているが、マッハツェンダ型強度変調器の少なくともいずれか1つの各位相変調部との間に半導体光増幅器を設けるようにしてもよい。また、各半導体光増幅器は、同様の特性を有しているが、異なる特性のものとしてもよい。
【0087】
また、上記実施の形態に係る多値光位相変調器は、光強度調整器として、利得媒質が半導体活性層である半導体光増幅器を備えるものであるが、光強度調整器は利得飽和特性を有する利得媒質を備えるものであれば特に限定はされない。たとえば、光強度調整器として、PLCのコア部にエルビウム、イッテルビウム等の希土類金属元素を添加した利得媒体を備えるものを用いてもよい。
【0088】
また、上記実施の形態に係る多値光位相変調器は、QAMの変調を行なうものであるが、本発明は他の多値光位相変調を行なう変調器に対しても適用できる。たとえば、8QAMの変調を行なう多値光位相変調器を構成する場合には、4つのマッハツェンダ型強度変調器を並列接続した構成が採用される。
【0089】
また、上記実施の形態に係る多値光位相変調器は、波長1.55μm用にその化合物半導体や電極等の材料、サイズ等が設定されている。しかしながら、各材料やサイズ等は、使用する光の波長等に応じて適宜設定でき、特に限定はされない。
【0090】
また、上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1 光分岐器
1a、3a、4a、5b、5c、22b、22c 光入力部
1b、1c、3d、4d、5a、22a 光出力部
2 位相シフト器
3、4 マッハツェンダ型強度変調器
3b、3c、4b、4c アーム部
3ba、3ca、4ba、4ca 半導体光増幅部
3bb、3cb、4bb、4cb 位相変調部
3bc、3bd SSC部
5、22 光合成器
6a、13 下部クラッド層
6b、14、15、17 上部クラッド層
7、9 p側電極
8、10 電極パッド
11 n側電極
12 基板
16 埋め込み半導体層
16a 下部電流阻止半導体層
16b 上部電流阻止半導体層
18 コンタクト層
19 誘電体保護膜
20、21 半導体光増幅器
22d、22e モニタ光出力部
23、28 光接続端子
24、29 光電変換素子
25、30 基準レベル電圧端子
26、31 信号レベル検出回路
27、32 電流変換回路
100〜400 多値光位相変調器
Cap キャップ層
E1 AuZ膜
E2 Ti/Pt膜
IL 連続光
M1〜M3 マスク
OSL 光信号
P1〜P5 PLC部
R 領域
r1〜r3 レジスト
R1、R4 SSC領域
R2 半導体光増幅器領域
R3 位相変調器領域
S1〜S3 半導体光導波路部
W1〜W4 メサ幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された光を分岐する光分岐器と、
前記光分岐器に接続し、位相変調部を有する2つのアーム部を備え、前記分岐された光を強度変調して光信号として出力する2つ以上のマッハツェンダ型強度変調器と、
前記各マッハツェンダ型強度変調器に接続し、該マッハツェンダ型強度変調器から出力した各光信号を合成して多値光信号として出力する光合成器と、
前記光分岐器と、前記マッハツェンダ型強度変調器の少なくともいずれか1つの各位相変調部との間に設けられ、利得媒質を有し、該利得媒質の利得飽和特性を利用して、入力された光の強度を所定強度に調整して出力する少なくとも1つの光強度調整器と、
を備えることを特徴とする多値光位相変調器。
【請求項2】
前記光強度調整器は、前記利得媒質が半導体活性層である半導体光増幅器を備えることを特徴とする請求項1記載の多値光位相変調器。
【請求項3】
前記半導体活性層はバルク構造を有することを特徴とする請求項2に記載の多値光位相変調器。
【請求項4】
前記光強度調整器は、当該光強度調整器に入力された光の強度が−10dBm〜10dBmの範囲のときに、当該入力された光の強度の10dBの変化に対して、前記出力する光の強度の変化量が0.01dB以下となるように、少なくとも前記利得媒質の利得長、断面積および閉じ込め係数が設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の多値光位相変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−112873(P2011−112873A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269244(P2009−269244)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】