説明

多孔質炭素製品並びにその製造方法

互いに接続された孔を有する無機のマトリックス材料製のモノリス状テンプレートを製造すること、テンプレートの孔に炭素または炭素前駆体を浸透させて、マトリックス材料で取り囲まれた炭素含有グリーン体骨格を形成すること、および該グリーン体骨格をか焼して、多孔質炭素製品を形成することを含む、多孔質炭素製品の製造のための公知の方法。ここから出発して、多孔質炭素製の製品の安価な製造を可能にする方法を提供するために、本発明によれば、テンプレートの製造がスート堆積プロセスを含み、その際、加水分解性または酸化性の、マトリックス材料の出発化合物を反応ゾーンに供給し、該反応ゾーン内で、加水分解または熱分解によってマトリックス材料粒子へと変換し、該マトリックス材料粒子をアグロメレート化またはアグリゲート化し、且つ、テンプレートへと成形することが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の方法段階
(a) 互いに接続された孔を有する無機のマトリックス材料製のモノリス状のテンプレートを製造する段階、
(b) テンプレートの孔に炭素または炭素前駆体物質を浸透させ、マトリックス材料で取り囲まれた炭素含有グリーン体骨格を形成する段階、および
(c) 該グリーン体骨格をか焼し、多孔質炭素製品を形成する段階、
を含む、多孔質炭素製品の製造方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、階層的な孔構造を有する多孔質炭素を含有する炭素製品に関する。
【0003】
その上、本発明は、多孔質炭素製の成形体の製造用のテンプレートとして使用するためのマトリックス材料にかかわる。
【0004】
多孔質炭素製のモノリス状の成形体は、その機械的な強さに比べて軽い質量、高い熱伝導率および吸着力の点で際立っており、且つ、それらはさらにまた、高い化学耐性および耐熱性を有している。
【0005】
多孔性炭素は、燃料電池、スーパーコンデンサおよび電気蓄電池(二次電池)用の電極において使用され、且つ、液体およびガス用の吸着剤として、ガス用の貯蔵媒体として、クロマトグラフィー用途または触媒プロセスにおける支持体材料として、および機械構造物における、または医療技術における原料として使用される。
【0006】
従来技術
多孔質炭素の製造のために、数多くの方法が公知であり、それらは殊に多孔性、孔径分布、および孔の形態に関する種々の特性をみちびく。
【0007】
例えば、DE202004006867号U1は、細胞培養担体として使用するための多孔質炭素に基づく成形体の製造であって、炭化可能なプラスチック粒子と無機の充填剤粒子(例えば塩)とを混合して半製品成形品を形成し、且つ、これを引き続き非酸化雰囲気中で炭化することによる製造を記載している。炭素に基づく成形体が得られ、そこから粒子の形の充填剤が洗い落とされるか、または焼き落とされ、そのようにして孔が露出される。
【0008】
しかしながら、炭素に基づく成形体を再充電式リチウムイオン電池の電極用に使用するためには、リチウムが可逆的に出入りできる(挿入される)電極材料が必要である。その際、可能な限り短い、電池の充電時間が目標とされる。その「急速充電能力」のためには、電極の反応性表面(その幾何学的表面と、内部の多孔性に基づくさらなる表面とから構成される)が、キーとなるパラメータであることが示された。
【0009】
特に大きな内部表面は、いわゆる「炭素エアロゲル」を有し、それは、有機化合物に基づくエアロゲルの熱分解によって製造される。しかしながら、そこから製造される電極材料は、大きな表面のために、比較的高い「電荷損失」を示し、それは本質的に不可逆性の損失として、リチウムの最初の挿入の際に現れる。
【0010】
さらには、多孔質材料性の一時的なプレフォーム(いわゆる「テンプレート」)を使用した、多孔質炭素の製造方法が公知である。このような方法はDE2946688号A1内に記載されており、そこから、冒頭で挙げられたジャンルに応じた炭素製品の製造方法も公知である。その際、炭素は、少なくとも1m2/gの表面積を有する無機のマトリックス材料製の「テンプレート」の孔に降積される。テンプレート用に適したマトリックス材料として、SiO2ゲル、多孔質ガラス、アルミニウム酸化物または他の多孔質耐性熱酸化物が挙げられる。マトリックス材料は、少なくとも40%の多孔度、および3nm〜2μmの範囲の平均孔径を有する。
【0011】
その際、液体としてまたは気体として導入され且つ引き続き孔の内部で重合され且つ炭化される、重合可能な有機材料を使用して、テンプレートの孔に炭素の降積が行われる。重合および炭化の後、テンプレートの無機のマトリックス材料が、例えばNaOH中またはフッ酸中で溶解されることによって取り除かれる。
【0012】
テンプレートの材料分布にほぼ相応する多孔質構造を有する、炭素に基づく成形体が得られる。
【0013】
しかしながら、良好な急速充電能力のためには、内部表面へ容易にアクセスできることも決め手となる。これに関して、いわゆる「階層的な多孔性」が有利であることが証明されている。大きな表面は、ナノメートル領域の孔によって提供することができる。これらの孔へのアクセスを良くするために、これらは、理想的には一貫したマクロ孔質の輸送系を介して接続されている。
【0014】
冒頭で挙げられたジャンルに応じたマクロ孔およびメソ孔からのそのような階層的な孔構造を有する炭素モノリスは、US2005/0169829号A1に記載されている。該マクロ孔は、0.05μm〜100μmの範囲、有利には0.8〜10μmの範囲の孔径を有し、且つ、該メソ孔は、1.8nm〜50nmの範囲、好ましくは5〜30nmの範囲の孔径を有する。炭素モノリスの骨格構造の壁の厚さは、100nm〜20μmの範囲である。
【0015】
階層的な孔構造の製造のために、SiO2テンプレートが製造される。このために、直径800nm〜10μmを有する二酸化ケイ素小球と、重合可能な物質とからの分散液を型にもたらし、そこでそれを加熱して、重合によって多孔質のシリカゲルを得て、過剰な液体を除去した後に乾燥させ、そして完全に重合しきる。
【0016】
そのように得られたSiO2テンプレートの孔に、引き続き炭素用の前駆体物質を浸透させ、その炭素前駆体物質を炭素へと炭化し、且つ、該SiO2テンプレートを引き続き、HFまたはNaOH中での溶解によって取り除く。
【0017】
公知のSiO2テンプレートの製造は、長い所要時間および高いコストを必要とし、このことは殊に、低い製造コストが重要となる大量生産品、例えば二次電池のための使用のためには受け容れられない。
【0018】
技術課題の位置付け
本発明は、多孔質炭素製の製品の安価な製造を可能にする方法を提供するという課題に基づいている。
【0019】
さらには、本発明は、階層的な孔構造を有し、且つ、リチウムイオン電池の電極における使用の際の高い急速充電能力の点において際立っている、多孔質の炭素製の製品を示すという課題に基づいている。
【0020】
さらには、本発明は、テンプレートとして使用するためのマトリックス材料を示すという課題に基づいている。
【0021】
該方法に関して、冒頭で挙げられたジャンルの方法に由来するこの課題は、本発明によれば、テンプレートの製造がスート(Soot)堆積プロセスを含み、その際、加水分解性または酸化性の、マトリックス材料の出発化合物を反応ゾーンに供給し、該反応ゾーン内で、加水分解または熱分解によってマトリックス材料粒子へと変換し、該マトリックス材料粒子をアグロメレート化またはアグリゲート化し、且つ、テンプレートへと成形することによって解決される。
【0022】
本発明による方法では、テンプレートの製造はスートの堆積プロセスを含む。その際、液体または気体状の出発物質を化学反応(加水分解または熱分解)に供し、且つ、その気相から固体成分として、降積面に堆積させる。反応ゾーンは、例えばバーナーの炎またはアーク(プラズマ)である。そのようなプラズマ堆積法またはCVD堆積法、例えばOVD法、VAD法、MCVD法、PCVD法またはFCVD法という名称の下で公知であるものを用いて、産業規模で、合成石英ガラス、スズ酸化物、チタン窒化物、および他の合成原料が製造される。
【0023】
その際、堆積されたマトリックス材料がテンプレートの製造に適合するためには、マトリックス材料が降積面(例えば容器、心棒(Dorn)、板またはフィルタであってよい)に、多孔質の「すす」(ここで、「スート」として示す)として生じることが重要である。これは、降積面の温度を、堆積されたマトリックス材料の密な焼結が防がれるように低く保つことによって確実にされる。中間製品として、いわゆる「スート体」または「スート塵」が得られる。
【0024】
スート堆積法は、「ゾルゲル経路」を介した製造方法と比較して安価な方法であり、それは、炭素に基づく成形体のためのテンプレートを、産業規模にて、低コストで製造することを可能にする。
【0025】
その際、スート堆積プロセスを用いて階層的な孔構造を有するマトリックス材料の異方性の物質分布を生じさせることが好都合であることがわかっている。
【0026】
気相堆積の際、反応ゾーン内で、ナノメートル領域の粒径を有するマトリックス材料の一次粒子が発生し、それが降積面への経路上で一緒に重なって、そして多かれ少なかれ球面のアグロメレートまたはアグリゲートの形で、降積面上に生じ、それを以下で「二次粒子」としても称する。反応ゾーンおよび降積面への経路内でのその発生位置次第で、二次粒子は異なる数の一次粒子からなり、且つ、それゆえに原則的に広い粒径分布を示す。二次粒子内部(一次粒子の間)に、特に小さな中空室およびナノ領域の孔、いわゆるメソ孔が存在し、他方で個々の二次粒子の間に、より大きな中空室または孔が形成される。
【0027】
テンプレートの製造のためにそのようなマトリックス材料を使用する際、孔および中空室の内部表面は、炭素含有出発物質で浸透する際に占有され、従ってテンプレート内に予め設定された孔構造は多かれ少なかれ正確に、炭素に基づく製品へと変換され、従って、それはマトリックス材料に相応する、少峰性(oligomodal)の孔径分布を有する階層構造を有する。
【0028】
スート堆積プロセスの際、マトリックス材料は、スート粉末の形で生じることができ、それが引き続き、造粒法、プレス法、スラリー法または焼結法を用いて、中間製品またはテンプレートへとさらに加工される。中間製品として、粒またはフレークが挙げられる。しかしながら、有利には、スート堆積プロセスは、反応ゾーンに対して相対的に運動している支持体上にマトリックス材料粒子を層状に堆積してスート体を形成することを含む。
【0029】
そのように得られたモノリス状のスート体、またはその粒子は、直接的にテンプレートとして使用可能であり、その際、モノリス状の構造は、方法段階(b)による浸透を容易にする。マトリックス材料粒子の層状の堆積は、完成したマトリックス材料における異方性の物質分布に寄与する。マトリックス材料粒子の層状の堆積によって得られるスート体は必然的に層構造を有しているので、個々の層の間の密度は、マトリックス材料の層内部の密度とは異なる。スート体、もしくはそこから得られたテンプレートの層構造は、炭素含有製品中で再現され、且つ、面状または薄片状の形態を示す。
【0030】
これについては、マトリックス材料粒子が、縦軸周りで回転する長形の支持体のシリンダー外装面に堆積されて中空シリンダーのスート体を形成する際に、特に実証済みである。
【0031】
気相堆積のこの方法は、「OVD法」(Outside Vapor Deposition)として一般に知られている。その際、マトリックス材料粒子を、堆積されたマトリックス材料粒子層の「スパイラル状の巻線」が生じるように、縦軸周りで回転する支持体のシリンダー外装面に堆積させる。
【0032】
それによってもたらされる層状で異方性の、テンプレートの物質分布は、そこから製造される炭素製品中で、同様に特徴的な層構造を生じる。この形態のために、層の間の分離が容易になり、この場合、炭素製品は曲がった薄片(または小板)の形になり、その際、小板ごとに1層(しかし通常は多数の層)が含まれる。この炭素製品は、例えば、リチウムイオン電池の電極の製造のための出発材料として適しており、その際、それは、階層的な孔構造に基づく高い急速充電能力の点で際立っている。
【0033】
好ましくは10μm〜200μmの範囲、有利には30μm〜100μmの平均厚さを有するスート層が堆積される。
【0034】
10μm未満の層厚は、スート体の機械的安定性の低下をみちびくことがある。200μmを上回る厚さを有するスート層では、これが均質に浸透されるのが一段と困難になる。
【0035】
このことは、マトリックス材料の理論比密度の平均相対密度10%〜25%の範囲、有利には20%未満を有するテンプレートが製造される場合に実証済みである。
【0036】
テンプレートの密度が低くなるほど、マトリックス材料の損失、およびそれを除去するための労力が少なくなる。しかしながら、テンプレートの平均密度が10%未満では、機械的安定性が低下し、そのことはテンプレートの取り扱いを困難にする。多孔質テンプレートの密度は、例えばスート堆積プロセスの際の表面温度によって、または粒子の形のマトリックス材料をプレスしてテンプレートにする際の圧力および/または温度によって、調整される。
【0037】
本発明による方法の好ましい変法の際、無機のマトリックス材料を、方法段階(c)によるか焼の後に除去する。
【0038】
この際、無機のマトリックス材料は、単に、炭素前駆体物質の降積およびか焼のための機械的且つ熱的に安定な骨格としてはたらく。得られる炭素製品は、本質的にマトリックス材料がないので、先にマトリックス材料で占有された表面領域も、自由にアクセス可能である。それゆえ、該炭素製品は、広い面積も重要である用途の際に高い能力を示す。
【0039】
殊に炭素製品製のリチウムイオン電池用電極の製造を目的としている、選択的な、同様に好ましい方法の様式の際、マトリックス材料が酸化物原料であること、および炭素製品およびマトリックス材料の少なくとも一部が電極の製造のための出発材料として使用されることが予想される。
【0040】
リチウムイオン電池における短絡の際、強い発熱反応および蓄電池の爆発的な焼失が起きることがある。酸化物原料製のマトリックス材料の部分は、このリスクを低減でき、なぜなら、電極が追加的に安定化されるからである。そのことは、炭素製品が多孔質粒子からの微細に分割された炭素へと細分される際に、実証済みである。
【0041】
炭素製品は、本発明による方法の際、通常、モノリスとして、または小板または薄片状の形態で生じ、且つ、より小さな粒子に容易に細分され得る。細分後に得られる粒子は、テンプレートのスート堆積に起因する階層的な孔構造を示し、且つ、例えば通常のペースト法またはスラリー法を用いて成形体または層へとさらに加工される。
【0042】
有利には、マトリックス材料はSiO2である。
【0043】
合成のSiO2は、スート堆積法を用い、安価な出発物質を使用して、産業規模で比較的低コストで製造可能である。SiO2テンプレートは、か焼の際の高温に耐える。温度の上限は、SiO2と炭素とがSiCになる反応の開始によって(約1000℃)、予め設定される。方法段階(d)による、合成SiO2の形のマトリックス材料の除去は、化学的な溶解によって行われる。
【0044】
方法段階(a)の後に得られるテンプレートのさらなる処理を、従来技術から公知の措置を用いて行う。
【0045】
例えば、内部表面に官能基を備えることによる、テンプレートの後処理が好都合であることがわかっている。SiO2テンプレートの場合、例えば、疎水化のためのシラン、シロキサン、シラザン、または他の無機材料を使用した官能化が考えられる。さらに、方法段階(b)による浸透前の自由な表面の拡大のために、アルミニウム含有コーティングと組み合わせたSiO2テンプレートの熱処理をしてアルミノケイ酸ゼオライトに変換することが考慮に入れられる。
【0046】
テンプレートの孔を、炭素または炭素前駆体物質で浸透することを、流動性(気体状または液体状)の出発物質を使用して行う。黒鉛炭素の前駆体物質として、例えばメソフェーズのピッチまたはナフトールが考慮される。しばしば、黒鉛ではない炭素の前駆体物質、例えばサッカロース、フルクトースまたはグルコースも使用される。相応する物質を、溶解された形で、テンプレートに浸透させる。上記の黒鉛の前駆体物質のために適した溶剤は、例えばクロロホルムおよびテトラヒドロフラン(THF)である一方、上記の黒鉛ではない前駆体物質は水溶性である。
【0047】
前駆体物質のテンプレートへの浸透を、従来技術において公知の方法を用いて行い、その際、殊に浸漬、ポンピング、および振盪が挙げられる。
【0048】
方法段階(c)によるグリーン体骨格のか焼を、高温で、可能な限り酸素のないガス下または真空下で行う。
【0049】
方法段階(d)による無機のマトリックス材料の除去を、化学的に内部を溶解させることによって行う。SiO2マトリックス材料の場合は、溶剤として殊に酸(例えばフッ酸)または塩基(例えば水酸化ナトリウム)が挙げられる。
【0050】
マトリックス材料の除去後、そのように得られた孔を含有する成形体を濯ぎ且つ乾燥させ、且つ、場合によっては後処理をして、基礎材料のさらなる仕上げに供する。この際、さらなる黒鉛化のための、殊に、真空または不活性ガス下で3000℃までの高温でのか焼、または、モノリス内部の活性な黒鉛ではない中心部の選択的な酸化のための、酸化性雰囲気下で約400℃までの温度でのか焼が挙げられる。
【0051】
炭素製品に関して、冒頭で挙げられたジャンルの炭素製品に由来する上記の課題は、本発明によれば、それが多孔質炭素薄片の形で存在することによって解決される。
【0052】
そのような炭素薄片は、「テンプレート法」によるその製造の際、本発明による方法を用いた層状のスート堆積によってテンプレートが製造される場合に生じる。そのように得られた炭素薄片または小板は、層状の形態を有しており、且つ、1つの炭素層を含むが、通常は多数の個々の炭素層を含む。各々の炭素層は、多孔質の炭素骨格からなる。
【0053】
本発明による炭素薄片は、気相堆積によるその製造に基づいて調整される、上記で本発明の方法を用いて既に詳細に説明された通りの、階層的な孔構造を有する多孔質炭素からなる。
【0054】
それは、高い急速充電能力を有する充電式のリチウムイオン電池の電極の製造のために特によく適している。その際、電極は炭素粒子製の層の形で存在する。離散した個々の粒子の間の接触位置で、接触抵抗が生じ、それは電子伝導を阻害し、且つ、劣化によって拡大することがある。本発明による炭素薄片はこの欠点を示さない。なぜなら、これらは離散的で再配置可能な個々の粒子から構成されているのではなく、そのかわりに、炭素骨格から、または複数の結びついた炭素骨格から形成されているからである。
【0055】
該炭素骨格は、ナノ粒子による占有に適しており、ひいては、蓄電池の電極材料としても、同様に冒頭で挙げられた使用のためにも用いることができる。
【0056】
有利には、炭素薄片は、10μm〜200μmの範囲、有利には30μm〜100μmの範囲の平均層厚を有する層構造を有する。
【0057】
炭素薄片の層構造は、SiO2テンプレートの層状の異方性の物質分布を反映する。10μm未満の層厚は、炭素薄片の機械的安定性の低下をみちびくことがある。200μmよりも厚い炭素薄片は、その厚さを通じて一段と不均一になる。
【0058】
該炭素薄片をリチウムイオン蓄電池の電極層の製造のために使用する際、炭素薄片の層厚は、理想的には電極層の厚さのオーダーである。それによって、より小さな、離散した炭素粒子の間の接触抵抗が回避されるか、または減少される。
【0059】
そのような電極層の製造のために、炭素薄片を液体中で分散させ、且つ、公知の方法を用いて多孔質の炭素層へとさらに加工する。
【0060】
多孔質炭素製の製品の製造のためのテンプレートとしての使用に関して、本発明によれば、上記の課題はSiO2スート体をその目的のために使用することによって解決される。
【0061】
合成のSiO2は、スート堆積法を用い、安価な出発物質を使用して、産業規模で比較的低コストで製造可能である。合成SiO2からのスート体は、良好な耐熱性の点で、および異方性の孔分布の点で際立っており、そのことによって、それらは直接的にテンプレートとして使用するために適するようになる。
【0062】
実施例
以下で実施例と図面を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、SiO2スート体の製造のための装置を模式的に描いた図を示す
【図2】図2は、スート体の縦軸の方向にみた、スート体のコンピュータ断層写真を示す
【図3】図3は、階層的な孔構造を有するSiO2スート体の形でのテンプレートのSEM写真を示す
【図4】図4は、図3に対して10倍に拡大したSiO2スート体のSEM写真を示す
【図5】図5は、図3によるスート体を使用して得られた炭素製品のSEM写真を示す
【図6】図6は、水銀ポロシメトリーによって算出された、5による炭素製品の孔径分布についてのグラフを示す。
【0064】
図1に描かれた装置は、SiO2スート体を製造するために役立つ。アルミニウム酸化物製の支持管1に沿って、一列に配置された多数の火炎加水分解バーナー2が配置されている。火炎加水分解バーナー2は、共通のバーナーブロック3に取り付けられており、矢印5および6で示すように、支持管1の縦軸4と平衡に、縦軸4に関して定置の2つの転換点の間を往復運動し、且つ、これに対して垂直に動かすことができる。バーナー2は石英ガラスからなり、互いの間隔は15cmである。
【0065】
火炎加水分解バーナー2に、それぞれバーナーの炎7が配分されており、その主拡散方向8は、支持管1の縦軸方向に垂直に走っている。火炎加水分解バーナー2を用いて、縦軸4の周りで回転する支持管1のシリンダー外装面にSiO2粒子を堆積させて、層状に、外径400nmを有するブランク11を作製する。個々のSiO2スート層は、平均で50μmほどの厚さを有する。
【0066】
火炎加水分解バーナー2に、それぞれ燃焼ガスとしての酸素および水素を供給し、並びに、SiCl4を、SiO2粒子を形成するための使用材料として供給する。その際、バーナーブロック3を、2つのバーナー間隔の振幅で(30cmとして)往復運動させる。堆積プロセスの間、ブランク表面12上で約1200℃の平均温度が生じる。
【0067】
堆積プロセスの終了後、長さ3m、外径400mmおよび内径50mmを有する多孔質SiO2スート製の管(スート管)が得られる。スート体の作製の際の温度は、SiO2スート材料が22%の低い平均相対密度(石英ガラスの密度 2.21g/cm3に対して)を有するように、比較的低く保たれる。
【0068】
該スート管を、コンピュータ断層検査(CT検査)に供する。その際、該スート体を、その長さ方向にわたってエックス線で透視する。そのように撮られた写真は、SiO2物質分布について、およびスート管の軸方向および半径方向の層構造の強度および均一性について、定性的且つ定量的に表わすことを可能にする。
【0069】
図2は、相応するCT写真を示す。この写真技術の場合、比較的高い密度を有する領域が明るい平面領域として現れる。明らかな輝度の差によって、層厚50μmほどを有する、互いに並行に走る層が明らかに識別可能である。
【0070】
図3および4によるスート体のSEM写真は、多数の結びついた孔および種々の大きさの中空室を有する骨格構造を示す。図4から、殊に明らかに、骨格構造が個々の球状且つ互いに合体したSiO2二次粒子から構成されていることが識別可能である。これは、大きな中空室からチャネル状に張りめぐらされている、華奢な寸断された表面を形成する。BET法(DIN ISO 9277、2003年5月)によって内部の比表面積を測定すると、測定値20m2/g程度である。
【0071】
該スート体は、多孔質炭素製造のためのテンプレートとして使用される。このために、スート体を、メソフェーズピッチのTHF溶液の浸漬浴に入れる。浸透された材料を引き続き乾燥させる。この浸透および乾燥段階を、特記すべき空孔容積がもはや残らなくなるまで繰り返す。
【0072】
スート体および乾燥されたピッチ層からそのように得られたグリーン体骨格を、窒素中での加熱によってか焼する。それにより、比表面積(BETによる)約100m2/gを有する、石英ガラスおよび炭素製の骨格状の複合構造が形成される。SiO2スート体に対する比表面積の上昇は、炭素占有物の微細構造に起因するかもしれない。
【0073】
SiO2マトリックス材料の除去を、浸透されたスート体をフッ酸浴中に入れることによって行う。SiO2骨格をエッチング除去した後、そのように得られた、多孔質炭素製の成形体を濯ぎ、且つ乾燥させ、真空下、2500℃ほどの温度でのさらなるか焼段階に供して、さらに黒鉛化する。
【0074】
そのように得られた炭素製品は、黒鉛のような層状の造りを有し、且つ、曲げられ且つ容易に圧縮され得る小板状または薄片状の形成物の多数の層から構成される。約50μmの平均厚さを有する個々の紙のような層は、SiO2スート体の元の層構造に起因する。
【0075】
図5のSEM写真は、そのように得られた、多孔質炭素製の成形体の孔構造を示す。これは、元の球面のSiO2二次粒子の反転転写を示しており、且つそのほかに、テンプレートの孔構造に似ている。殊に、それは多数の比較的大きな孔のチャネル(マクロ孔)を有し、そのほかに華奢な寸断された表面構造が張りめぐらされている、階層的な孔構造の点で際立っている。BET法によって内部の比表面積を測定すると、測定値200m2/g程度、従って、炭素および石英ガラス製の複合体の比表面積のほぼ2倍である。
【0076】
図6のグラフは、多孔質炭素の孔径分布を示す。左の縦座標に累積の孔容積Vc[cm3/g]が、右の縦座標に相対孔容積Vr[%]が、孔の直径D[nm]に対してプロットされている。その際、示された測定結果は、水銀ポロシメトリーを用いて得られたことに留意すべきである。該技術は、非ぬれ性液体の水銀を多孔質の系に圧力下で貫入することに基づく。この方法は、孔径分布、孔容積、見かけおよび実際の密度についての信頼性のある情報を、マクロ孔から大きなメソ孔までの範囲でもたらすが、しかし、ナノメートル領域の孔についてはそうではない。
【0077】
多孔質炭素が、5nm〜100000nmにわたり、且つ400nm周辺に孔径の最大値を示す、広い孔径分布の点で際立っていることが認識される。そこから算出される内部の比表面積は、約27m2/gである。BET法によって算出された、およそ200m2/gである値とのずれは、内部表面全体に対して最大割合を構成するナノメートル領域の孔が、この測定では検知され得ないからだと説明される。
【0078】
この炭素製品は、充電式リチウムイオン電池の電極製造用の出発材料として使用される。このために、それを粉砕し、且つ分散液に取り込み、且つ、通常の方法を用いて電極に加工する。その際、粒子の小板または薄片の形態、およびその広い孔径分布、並びに階層的な孔構造は、残って保たれている。このことは、リチウムイオン電池の高い急速充電能力のための前提条件である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の方法段階
(a) 互いに接続されている孔を有する、無機材料のマトリックス製のモノリス状テンプレートを製造する段階、
(b) 該テンプレートの孔に、炭素または炭素前駆体物質を浸透させて、マトリックス材料で取り囲まれた炭素含有グリーン体骨格を形成する段階、および
(c) 該グリーン体骨格をか焼して、多孔質炭素製品を形成する段階
を含む多孔質炭素製品の製造方法であって、テンプレートの製造がスート堆積プロセスを含み、その際、マトリックス材料の加水分解性または酸化性の出発化合物を反応ゾーンに供給し、該反応ゾーン内で、加水分解または熱分解によってマトリックス材料粒子に変換し、該マトリックス材料粒子をアグロメレート化またはアグリゲート化し、且つ、テンプレートに成形することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
スート堆積プロセスを用いて、階層的な孔構造を有するマトリックス材料の異方性の物質分布を生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スート堆積プロセスが、反応ゾーンに対して相対的に運動している支持体にマトリックス材料粒子を層状に堆積させて、スート体を形成することを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マトリックス材料粒子を、縦軸周りで回転する長形の支持体のシリンダー外装面に堆積して、中空シリンダーのスート体を形成することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
10μm〜200μmの範囲、有利には30μm〜100μmの範囲の平均厚さを有するスート層が堆積されることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
炭素製品が、多孔質の炭素薄片の形で生じることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
マトリックス材料の理論比密度の10%〜25%の範囲、有利には20%未満の平均相対密度を有するテンプレートが製造されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
無機のマトリックス材料が、方法段階(c)によるか焼後に除去されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
マトリックス材料が酸化物原料であり、且つ、炭素製品およびマトリックス材料の少なくとも一部が、リチウムイオン電池用電極の製造のための出発材料として使用されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
炭素製品が、多孔質粒子からの微細に分割された炭素へと細分されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
マトリックス材料がSiO2であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
多孔質の炭素薄片の形で存在することを特徴とする、階層的な孔構造を有する多孔質炭素を含有する炭素製品。
【請求項13】
炭素薄片が、10μm〜200μmの範囲、有利には30μm〜100μmの範囲の平均層厚を有する層構造を有することを特徴とする、請求項12に記載の炭素製品。
【請求項14】
多孔質炭素製の製品の製造のためのテンプレートとしてのSiO2スート体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−518022(P2013−518022A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550413(P2012−550413)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050939
【国際公開番号】WO2011/092149
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(507332918)ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (17)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Quarzstrasse 8, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】