説明

多層シート

【課題】太陽電池素子の封止材や合わせガラスの中間膜として用いられる破壊強度、耐衝撃性および耐突き破り性が改良された多層シートを提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位が5〜25重量%のエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、酢酸ビニルから導かれる構成単位が15〜40重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを有し、総厚みが0.1〜2mmであることを特徴とする多層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層シートに関し、特に太陽電池モジュール等に用いることのできる多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用封止材として、従来、エチレン・酢酸ビニル共重合体が多用されている。しかしながら、太陽電池がヨーロッパを中心に普及するに従い、問題も指摘されるようになった。その一つとして北欧では雪の重みでモジュールが破損するトラブルや風圧でセルが割れるようなトラブルが発生している。また、太陽電池の用途も多様化しており、そのままで建材として使用できる太陽電池モジュールなどもあるが、窓材等に使用されるシースルータイプのモジュールに、何かがぶつかって割れるトラブルも起こっている。そのためモジュールの剛性や破壊強度を上げたいという要求が強くなっていた。
【0003】
このような欠点または難点を有しないものとして、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを封止材として使用する方法は、例えば特許文献1〜2などにおいてすでに提案されている。しかしながら、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーはエチレン・酢酸ビニル共重合体に比べて実績がないこともあり、普及がなかなか進んでいなかった。
【特許文献1】特開昭60−86057号公報
【特許文献2】特開平8−295541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、太陽電池素子の封止材や合わせガラスの中間膜として用いられる破壊強度、耐衝撃性および耐突き破り性が改良された多層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決して破壊強度、耐衝撃性および突き破り性が改良された多層シートについて鋭意研究し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の事項を含む。
〔1〕(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位が5〜25重量%であるエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、酢酸ビニルから導かれる構成単位が15〜40重量%であるエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを有し、総厚みが0.1〜2mmであることを特徴とする多層シート。
〔2〕前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層からなる中間層と、その両面に形成された前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層からなる外層とを含む3層シートであることを特徴とする〔1〕に記載の多層シート。
〔3〕前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを含む2層シートであることを特徴とする〔1〕に記載の多層シート。
〔4〕前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層の厚み(a)と、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層の厚み(b)との比(a/b)が20/1〜1/20であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の多層シート。
〔5〕前記(A)層を構成するエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーのメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999、190℃、2
160g荷重)が0.1〜150g/10分であり、前記(B)層を構成するエチレン・酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が0.1〜150g/10分であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の多層シート。
〔6〕エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層およびエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層にそれぞれ架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤および酸化防止剤から選ばれる1種以上の添加剤が配合されてなる〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の多層シート。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の多層シートを用いて得られた合わせガラス。
〔8〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の多層シートを用いて得られた太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エチレン・酢酸ビニル共重合体の単体シートのもつ透明性および騒音レベルを維持しながら、破壊強度、耐衝撃性および耐突き破り性などが改良された多層シートを提供することができる。
【0007】
本発明の多層シートは、従来のエチレン・酢酸ビニル共重合体を用いた太陽電池用封止材がもつ透明性、柔軟性、耐久性、接着性および信頼性等の特性を活かしながら、破壊強度、耐衝撃性、耐突き破りおよび防振性などが改良されているため、太陽電池素子の封止材および合わせガラスの中間膜として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
〔多層シート〕
本発明の多層シートは、(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位が5〜25重量%であるエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、酢酸ビニルから導かれる構成単位が15〜40重量%であるエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを有するものであり、総厚みが0.1〜2mmであ
ることを特徴としている。なお、本発明で(メタ)アクリル酸とはアクリル酸あるいはメタクリル酸を意味する。
【0009】
本発明の多層シートを構成する(A)層の主成分であるエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーにおいて、エチレンから導かれる構成単位は、95〜75重量%、好ましくは92〜75重量%、(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位は5〜25重量%、好ましくは8〜25重量%である。
【0010】
エチレンから導かれる構成単位が上記範囲より少ないと、共重合体の耐熱性、機械的強度等が低下する場合がある。一方、エチレンから導かれる構成単位が上記範囲より多いと、透明性、柔軟性、接着性等が低下する場合がある。
【0011】
上記重合体における(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位は、ガラス等の基材との接着性に重要な役割を果たすものであり、上記範囲より少ないものは透明性や柔軟性が低下する場合があるが、上記範囲を超えるものはべた付きが顕著となり、著しく加工性を損なうので上記範囲とするのがよい。
【0012】
上記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体には、エチレンおよび(メタ)アクリル酸の合計100重量%に対し、0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%のその他の共重合性モノマーから導かれる構成単位が含まれていてもよい。その他の共重合性モノマーとしては不飽和エステル、例えば、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチ
ル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。その他の共重合体モノマーから導かれる構成単位が上記範囲で含まれていると、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の柔軟性が向上するので好ましい。
【0013】
本発明においては、上記共重合体の代わりにそのアイオノマーを用いることができる。アイオノマーにおけるイオン源としては、リチウムおよびナトリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム、亜鉛およびアルミニウムなどの多価金属などが挙げられる。
【0014】
アイオノマーとしては中和度が通常80%以下のものが用いられる。中和度が上記範囲であると、透明性や高温における貯蔵安定性に優れた多層シートを得ることができる。一般的に、防振性の観点からはアイオノマーよりエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体を用いる方がよいが、防振性をそれ程損なわないという観点からすると中和度が60%以下、特に30%以下ものを用いるのが好ましい。
【0015】
上記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体は、各重合成分を高温、高圧下にラジカル共重合することによって得ることができる。また、そのアイオノマーは、このような共重合体と金属化合物を反応させることによって得ることができる。
【0016】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーとしては、加工性および機械強度を考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999)が、0.1〜150g/10分、特に0.1〜50g/10
分のものを用いるのがよい。
【0017】
本発明の多層シートを構成する(A)層には、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを通常80重量%以上、好ましくは90重量%以上含まれている。エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーが上記範囲で含まれていると、良好な透明性、耐衝撃性、耐突き破り性等が得られるので好ましい。
【0018】
(A)層には、本発明の目的を損なわない範囲内において、各種添加剤を含有させることができる。かかる添加剤としては、例えば、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤および酸化防止剤等が挙げられる。
【0019】
架橋剤としては、半減期1時間の分解温度が通常90〜180℃、好ましくは100〜150℃の有機過酸化物を用いるのがよい。このような有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ヒドロキシヘプチルパーオキサイドおよびジクロヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。架橋剤はエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー100重量部に対し、通常0.1〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の量で含有させることができる。
【0020】
架橋助剤としては、例えば、ポリアリル化合物やポリ(メタ)アクリロキシ化合物のよ
うな多不飽和化合物が挙げられる。なかでも、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレートおよびジアリルマレエートなどのポリアリル化合物;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレートなどのポリ(メタ)アクリロキシ化合物;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。架橋助剤はエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー(A)100重量部に対し、通常5重量部以下、好ましくは0.1〜3重量部の量で含有させることができる。
【0021】
シランカップリング剤としては、ビニル基、アミノ基またはエポキシ基と、アルコキシ基のような加水分解基とを有するシランカップリング剤およびチタンカップリング剤などを挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミ
ノエチル)3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキ
シシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプピルトリメトキシシランおよびN−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。シランカップリング剤は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー(A)100重量部に対し、通常5重量部以下、好ましくは0.02〜3重量部の量で含有させることができる。シランカップリング剤が上記範囲で含まれていると、多層シートと、保護材または太陽電池素子等との接着性を向上させることができる。
【0022】
また、紫外線に基づく多層シートの劣化を防ぐために、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー中に紫外線吸収剤、光安定剤および酸化防止剤などを含有させるのが好ましい。
【0023】
紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−カルボキシベンゾフェノンおよび2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジt−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールおよび2−(2’−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系;フェニルサリチレートおよびp−オクチルフェニルサリチレートなどのサリチル酸エステル系のものが用いられる。
【0024】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系のものが用いられる。
酸化防止剤として各種ヒンダードフェノール系やホスファイト系のものが用いられる。
酸化防止剤、光安定剤および紫外線吸収剤は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー(A)100重量部に対し、各々通常5重量部以下、好ましくは0.1〜3重量部の量で含有させることができる。
【0025】
また、(A)層には、上述した添加剤以外に、必要に応じて、着色剤、光拡散剤および難燃剤などの添加剤を含有させることができる。
着色剤としては、顔料、無機化合物および染料等が挙げられ、特に白色の着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛および炭酸カルシウムが挙げられる。これらの添加剤を含有する多層シートを太陽電池素子の受光側の封止材として用いる場合は、透明性を損なう場合があるが、太陽電池素子の受光側と反対面の封止材として用いる場合には好適に用いられる。
【0026】
光拡散剤としては、無機系の球状物質としてはガラスビーズ、シリカビーズ、シリコンアルコキシドビーズ、中空ガラスビーズなどが列記できる。有機系の球状物質としてはアクリル系やビニルベンゼン系などのプラスチックビーズなどが挙げられる。
【0027】
難燃剤としては、臭素化物などのハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物などが挙げられる。
本発明の多層シートを構成する(B)層の主成分であるエチレン・酢酸ビニル共重合体において、エチレンから導かれる構成単位は、85〜60重量%、好ましくは82〜65重量%、酢酸ビニルから導かれる構成単位は15〜40重量%、好ましくは18〜35重量%重量%である。
【0028】
エチレンから導かれる構成単位が上記範囲より少ないと、共重合体の耐衝撃性、耐突き破り性などが良好でない場合がある。一方、エチレンから導かれる構成単位が上記範囲より多いと、共重合体の透明性が低下する場合がある。
【0029】
酢酸ビニルから導かれる構成単位が上記範囲より少ない共重合体を用いると、多層シートの透明性および柔軟性が低下する場合がある。一方、酢酸ビニルから導かれる構成単位が上記範囲を超える共重合体を用いると、多層シートのべた付きが顕著となり、取扱いにくくなる場合がある。
【0030】
エチレン・酢酸ビニル共重合体は従来公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。
エチレン・酢酸ビニル共重合体としては、加工性および機械強度を考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210−1999)が、
0.1〜150g/10分、特に0.1〜50g/10分のものを用いるのがよい。
【0031】
本発明の多層シートを構成する(B)層には、エチレン・酢酸ビニル共重合体を通常(80)重量%以上、好ましくは(90)重量%以上含まれている。エチレン・酢酸ビニル共重合体が上記範囲で含まれていると、良好な透明性、耐衝撃性、耐突き破り性等が得られるので好ましい。
【0032】
(B)層には、エチレン・酢酸ビニル共重合体以外に、少量のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれていてもよく、該エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体に対し、50重量%以下の量で含まれていてもよい。
【0033】
(B)層には、本発明の目的を損なわない範囲内において、各種添加剤を含有させることができる。かかる添加剤としては、(A)層に含有させることができる添加剤として上述したものをすべて挙げることができる。また、上記添加剤は、(A)層に含有させる量と同じだけ含有させることができる。なお、本発明ではシランカップリング剤を(B)層のみに含有させてもよく、また(A)、(B)両層に含有させてもよい。
【0034】
本発明の多層シートは、特定のエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、特定のエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを有するものであり、該多層シートの総厚みは0.1〜2mm、好ましくは
0.2〜1.5mmである。多層シートの総厚みが上記範囲を下回ると、衝撃等が与えられたときに破れやすくなる場合がある。一方、多層シートの総厚みが上記範囲を上回ると、多層シートの透明性が低下し、意匠性が低下する場合がある。
【0035】
(A)層は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーにより一
層を形成していることが好ましいが、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体の組成あるいはエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体に含まれるその他の共重合性モノマーの比率などが異なる複数の層を形成していてもよい。
【0036】
(B)層は(A)層の片面または両面に積層される。(B)層もまた、(A)層と同様に、単一の層を形成していることが好ましいが、組成の異なるエチレン・酢酸ビニル共重合体が複数積層した層であってもよい。
【0037】
上述したように、多層シートは(A)層および(B)層により複数の層を形成しているものが好ましいが、特に好ましくは、(A)層からなる中間層と、その両面に形成された(B)層からなる外層とを含む3層シートであるか、あるいは(A)層と(B)層とを含む2層シートである。
【0038】
本発明の多層シートは太陽電池素子の封止材として好適に用いられるほか、合わせガラスの中間膜として用いることもできる。
本発明の多層シートを太陽電池および合わせガラスに用いる場合、(A)層を構成するエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーおよび/または(B)層を構成するエチレン・酢酸ビニル共重合体層は前述した添加剤を含有させることにより架橋されていてもよい。(A)層および(B)層のそれぞれを架橋することにより、透明性は維持しながら、高温使用時の溶融流れを抑制することができる程度の耐熱性を多層シートに付与することができる。
【0039】
上記多層シートを構成する(A)層の厚み(a)と、(B)層の厚み(b)との比(a/b)は、20/1〜1/20、好ましくは10/1〜1/10である。(A)層および(B)層の厚みの比(a/b)が上記範囲内にあると、太陽電池封止材および合わせガラスに好適に用いられる、透明性、接着性、破壊強度、耐衝撃性および耐突き破り性等に優れた多層シートが得られる。
【0040】
本発明の多層シートの成形は、単層または多層T−ダイ押出機、カレンダー成形機あるいは単層または多層インフレーション成形機などを用いる公知の方法によって行うことができる。例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーおよびエチレン・酢酸ビニル共重合体のそれぞれに、有機過酸化物、架橋助剤、接着付与剤、酸化防止剤、光安定剤および紫外線吸収剤等の添加剤を必要に応じて添加してドライブレンドし、多層T−ダイ押出機の主押出機および従押出機のホッパーから供給し、シート状に多層押出成形することにより得られる。
【0041】
〔太陽電池モジュール〕
太陽電池モジュールは太陽電池素子の上部および下部を保護材で固定することにより製造されるものである。本発明の太陽電池モジュールとしては、例えば、上部透明保護材 /
多層シート / 太陽電池素子 / 多層シート / 下部保護材のように、太陽電池素子の両側から多層シートで挟む構成のもの;ガラス基板等の上に電極を設けることで得られた太陽電池素子を上部透明保護材 / 多層シート / 太陽電池素子 / 多層シート / 下部保護材のように太陽電池素子の両側から多層シートで挟む構成のもの;上部透明保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子、例えば、フッ素樹脂系シート上にアモルファス太陽電池素子をスパッタリング等をして作成したものの上に多層シートおよび下部保護材を形成させる構成のものなどが挙げられる。このような太陽電池モジュールにおいて、本発明の多層シートが(B)層 / (A)層 / (B)層の3層構造である場合は、外層である(B)層の一方が太陽電池素子と当接し、他方の外層である(B)層が上部透明保護材または下部保護材と当接するように積層される。また、本発明の多層シートが(A)層 / (B)層の
2層構造である場合は、(A)層が太陽電池素子と当接し、(B)層が上部保護材または
下部保護材(バックシート)と当接するように積層される。
【0042】
上記太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコンおよびアモルファスシリコンなどのIV族半導体;ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレン、銅−インジウム−ガリウム−セレンおよびカドミウム−テルルなどのIII−V族およびII−VI族の化合物半導体などの太陽電池素子が用いられる。なかでも、本発明の多層シートはアモルファスシリコン太陽電池素子の封止用に好適に用いられる。
【0043】
〔合わせガラス〕
本発明の合わせガラスは上記多層シートを合わせガラスの中間膜として用いることにより製造される。
【0044】
上記合わせガラスは、上述した成形方法で得られた多層シートをガラス基板間に挟んで作製してもよいし、多層シートをあらかじめ作製せずに、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層の単体シートと、エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層の単体シートとをそれぞれ作製しておき、ガラス基板間に(A)層の単体シートと(B)層の単体シートとを重ね合わせて、例えば、ガラス基板 / (A)層の単体シートおよび(B)層の単体シート / (A)層の単体シート
/ ガラス基板からなる構成で作製してもよい。
【0045】
本発明の多層シートは、該多層シートの間にポリエステル、ポリカーボネートおよびアクリル樹脂などの基材シートまたはフィルム(以下単に「基材シート」という。)を挟んでもよい。基材シートは1枚だけでなく、多層シート / 基材シート / 多層シート / 基材シート / 多層シートのように交互に重ねてもよい。
【0046】
また、本発明の多層シートは、これらの基材シートとの接着性に比較的優れることから、2枚以上の多層シートの間に基材シートを挟むことで、意匠性および破壊強度に優れた合わせガラスを得ることができる。
【0047】
このように、2枚以上の多層シートの間に基材シートを挟んだ合わせガラスは、常温だけでなく広い温度域で優れた耐衝撃性および耐突き破り性を示し、車両、船舶および建築物などのガラスとして好適に用いられる。
【0048】
合わせガラスの表層として用いられる基材としては、ガラス以外にアクリル樹脂、ポリカーボネートおよびポリエステルなどを用いてもよい。本発明の多層シートはこれらの基材に対しても良好な接着性を示す。
【0049】
合わせガラスの製造は、本発明の多層シートが溶融する温度で、ラミネーターまたはオートクレーブなどを用いてまずガラス基板と多層シートとを積層させたものを真空状態にして層間に入っている空気を除去し、ガラスと多層シートとを加熱接着させる。接着および架橋は100〜180℃で5〜60分間で行う。
【0050】
〔実施例〕
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(1)本発明で使用した樹脂を以下に示す。
EVA1:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル28重量%、MFR1g/10分

EVA2:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル33重量%、MFR1g/10分)
アイオノマー1:エチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛(Zn)アイオノマー
(ベースポリマーのエチレン・メタクリル酸共重合体中のメタクリル
酸含量:15質量%)、中和度:59%、MFR:0.9g/10分)
アイオノマー2:エチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体の亜鉛(Zn)アイオノマー(ベースポリマーのエチレン・メタクリル酸・アクリル酸イソブチル共重合体中のメタクリル酸含量10重量%、アクリル酸イソブチル含量10重量%)、中和度70%、MFR0.9g/10分
(2)本発明で用いた評価方法を以下に示す。
i)デュポン衝撃試験
図1の装置に示すように、ポンチを先端部(1/4インチ)がシートに当たるように設
置し、錘を落下させたときのシート破れが起きない荷重と高さを求めた。
ii)ラミネート
3.2mm厚強化ガラス(75mm×120mm)および0.4mm厚多層シートを用い、真空加熱貼合器(NPC製LM−50x50S)により150℃、10分間の条件でガラス / 多層シート / ガラスからなる構成の試料を作製した。
iii)透明性
ii)で作製した試料の全光線透過率を測定した。
iv)騒音測定
ii)で作製した試料の中心の高さ50mmのところから鉄球(直径11mm、重さ5.4g)を落下させ、発生する音をリオン社製騒音測定機(NL−02A型モードA)で試料中心より300mm離れた地点(23℃)で測定した。
(3)多層シートの作製は以下に示す成形機を用いて行った。
【0052】
3種3層多層キャスト成形機:田辺プラスチックス機械株式会社製
フィードブロック式:EDI社製
押出機はいずれも40mmφ単軸押出機
ダイ幅500mm
[実施例1]
EVA2を外層1、外層2とし、アイオノマー1を中間層に用いて、多層キャスト成形機を用いて、樹脂温度200℃にて、厚み比率を外層1 / 中間層 / 外層2=1 / 2 / 1にして総厚み400μm(0.4mm)の多層シートを作製した。
【0053】
このシートを用いてデュポン衝撃試験を行った。次いでこのシートをガラスと貼り合わせ、ガラス / 多層シート / ガラスの構成の試料を作製し、透明性および騒音測定を行った。
【0054】
結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、厚み比率を外層1 / 中間層 / 外層2=2 / 1 / 2にした以外は実施例1と同様にして多層シートを作製した。
【0055】
結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、厚み比率を外層1 / 中間層 / 外層2=4 / 1 / 4にした以外は実施例1と同様にして多層シートを作製した。
【0056】
結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、アイオノマー1の代わりにアイオノマー2を中間層に用い、厚み比率を外層1 / 中間層 / 外層2=1 / 2 / 1にした以外は実施例1と同様にして多層シ
ートを作製した。
【0057】
結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例4において、厚み比率を外層1 / 中間層 / 外層2=2 / 1 / 2にする以外は実施例4と同様にして多層シートを作製した。
【0058】
結果を表1に示す。
[比較例1]
EVA1を外層1、外層2および中間層に用いて、EVA1単体のシートを作製した。加工条件は実施例1と同様にして行った。
【0059】
結果を表1に示す。
[比較例2]
比較例1において、EVA1の代わりにEVA2を用いた以外は比較例1と同様にしてEVA2単体のシートを作製した。
【0060】
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の多層シートは太陽電池素子の封止材ならびに車両、船舶および建築物などの合わせガラスの中間膜として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1はデュポン衝撃試験の方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸から導かれる構成単位が5〜25重量%であるエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、
酢酸ビニルから導かれる構成単位が15〜40重量%であるエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを有し、総厚みが0.1〜2mmであることを特徴とする
多層シート。
【請求項2】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層からなる中間層と、その両面に形成された前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層からなる外層とを含む3層シートであることを特徴とする請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層と、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層とを含む2層シートであることを特徴とする請求項1に記載の多層シート。
【請求項4】
前記エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層の厚み(a)と、前記エチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層の厚み(b)との比(a/b)が20/1〜1/20であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層シート。
【請求項5】
前記(A)層を構成するエチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーのメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が0.1〜150g/10分であり、
前記(B)層を構成するエチレン・酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999、190℃、2160g荷重)が0.1〜150g/10分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層シート。
【請求項6】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマーを主成分とする(A)層およびエチレン・酢酸ビニル共重合体を主成分とする(B)層にそれぞれ架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤および酸化防止剤から選ばれる1種以上の添加剤が配合されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の多層シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の多層シートを用いて得られた太陽電池モジュール。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の多層シートを用いて得られた合わせガラス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−298046(P2009−298046A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155783(P2008−155783)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】