説明

多層セラミック基板およびその製造方法、未焼結セラミック積層体、ならびに電子装置

【課題】 いわゆる無収縮プロセスに基づいて多層セラミック基板を製造する際に作製される未焼結セラミック積層体が、複数の基体用グリーン層を挟むように拘束用グリーン層を備えているとき、拘束用グリーン層に含まれる有機バインダの存在のために、脱バインダ工程で除去すべき有機バインダの量が多くなるとともに、基体用グリーン層に含まれる有機バインダの除去が拘束用グリーン層によって順調に進まないことがある。
【解決手段】 拘束用グリーン層15に含まれる有機バインダとして、基体用グリーン層14に含まれる有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものを用い、脱バインダ工程において、拘束用グリーン層15中の有機バインダを先に熱分解または燃焼させ、その結果残された通路を通して、基体用グリーン層14に含まれる有機バインダが順調に排出されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、多層セラミック基板およびその製造方法、多層セラミック基板を製造するために作製される未焼結セラミック積層体、ならびに、多層セラミック基板を備える電子装置に関するもので、特に、多層セラミック基板の製造において用いられる有機バインダの選択方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】多層セラミック基板は、複数の積層されたセラミック層を備えている。このような多層セラミック基板には、種々の形態の配線導体が設けられている。配線導体としては、たとえば、多層セラミック基板の内部において、セラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜が形成されたり、特定のセラミック層を貫通するように延びるビアホール導体が形成されたり、また、多層セラミック基板の外表面上において延びる外部導体膜が形成されたりしている。
【0003】多層セラミック基板は、半導体チップ部品やその他のチップ部品等を搭載し、これらの電子部品を相互に配線するために用いられている。上述した配線導体は、この相互配線のための電気的経路を与えている。
【0004】また、多層セラミック基板には、たとえばコンデンサ素子やインダクタ素子のような受動部品が内蔵されることがある。この場合には、上述した配線導体としての内部導体膜やビアホール導体の一部によって、これらの受動部品が与えられる。
【0005】多層セラミック基板は、たとえば、移動体通信端末機器の分野において、LCR複合化高周波部品として用いられたり、コンピュータの分野において、半導体ICチップのような能動素子とコンデンサやインダクタや抵抗のような受動素子とを複合化した部品として、あるいは単なる半導体ICパッケージとして用いられたりしている。
【0006】より具体的には、多層セラミック基板は、PAモジュール基板、RFダイオードスイッチ、フィルタ、チップアンテナ、各種パッケージ部品、複合デバイス等の種々の電子部品を構成するために広く用いられている。
【0007】多層セラミック基板をより多機能化、高密度化、高性能化するためには、上述したような配線導体を高密度に配置することが有効である。
【0008】しかしながら、多層セラミック基板を得るためには、必ず、焼成工程を経なければならないが、このような焼成工程においては、セラミックの焼結による収縮が生じ、この収縮は多層セラミック基板全体において均一に生じにくく、そのため、セラミック層の主面方向に関して0.4〜0.6%程度の寸法誤差を生じることがある。
【0009】その結果、配線導体において不所望な変形や歪みが生じ、より具体的には、多層セラミック基板上に搭載されるチップ部品等の接続のための外部導体膜の位置精度が低下したり、配線導体において断線が生じたりすることがある。このような配線導体において生じる変形や歪みは、上述のような配線導体の高密度化を阻害してしまう。
【0010】そこで、多層セラミック基板を製造するにあたって、焼成工程において多層セラミック基板の主面方向での収縮を実質的に生じさせないようにすることができる、いわゆる無収縮プロセスを適用することが提案されている。
【0011】無収縮プロセスによる多層セラミック基板の製造方法においては、たとえば1000℃以下の温度で焼結可能な低温焼結セラミック粉末が用意されるとともに、上述の低温焼結セラミック材料の焼結温度では焼結しない、収縮抑制用として機能する難焼結性粉末が用意される。そして、焼成することによって目的とする多層セラミック基板となる未焼結セラミック積層体を作製するにあたっては、低温焼結セラミック材料を含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように、難焼結性粉末を含む拘束用グリーン層が配置され、また、基体用グリーン層に関連して、配線導体が設けられる。
【0012】上述のようにして得られた未焼結セラミック積層体は、次いで、焼成される。この焼成工程において、拘束用グリーン層に含まれる難焼結性粉末は実質的に焼結しないため、拘束用グリーン層においては、収縮が実質的に生じない。このようなことから、拘束用グリーン層が基体用グリーン層を拘束し、それによって、基体用グリーン層は、厚み方向にのみ実質的に収縮するが、主面方向での収縮が抑制される。その結果、未焼結セラミック積層体を焼成して得られた焼結セラミック積層体を備える多層セラミック基板において不均一な変形がもたらされにくくなり、そのため、配線導体において不所望な変形や歪みがもたらされにくくすることができ、配線導体の高密度化を可能にする。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】上述した未焼結セラミック積層体に備える基体用グリーン層および拘束用グリーン層は、ともに、有機バインダを含んでおり、焼成工程に先立って、この有機バインダを除去するための脱バインダ工程が実施される。
【0014】また、上述したような無収縮プロセスにおいて適用される未焼結セラミック積層体は、基体用グリーン層に加えて、拘束用グリーン層を備えている。この拘束用グリーン層は、基本的には、焼成工程において必要とされるものであり、得られた多層セラミック基板において特別な機能を果たすものではない。特に、拘束用グリーン層が、未焼結セラミック積層体の積層方向における両端に位置するように配置される場合には、焼成工程の後、この拘束用グリーン層を除去してしまうのが通常である。
【0015】このようなことから、たとえば配線導体の設計に関して同じ多層セラミック基板を得ようとする場合、拘束用グリーン層を備えない未焼結セラミック積層体に比べて、拘束用グリーン層を備える未焼結セラミック積層体の方が、脱バインダ工程において除去すべき有機バインダの量が多くなる。そのため、脱バインダ工程に要する時間が長くなるという問題にまず遭遇する。
【0016】また、上述したように、脱バインダ工程において除去すべき有機バインダの量が多いことから、脱バインダが十分に行なわれないと、脱バインダ工程を終えた後においても有機バインダが比較的多く残留することがあり、そのため、得られた多層セラミック基板に備える焼結セラミック積層体での残炭量が比較的多くなってしまうことがある。このような残炭量の増加は、得られた多層セラミック基板の信頼性を低下させる。
【0017】また、上述したように、脱バインダ工程を終えた後に比較的多くの有機バインダが残留する場合、このように残留した有機バインダは、未焼結セラミック積層体において不均一に分布しやすい。そのため、焼成工程を経て得られた焼結セラミック積層体において、反りが発生しやすい。
【0018】また、未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に比べると、積層方向における中央部においては、一般に、脱バインダが順調に進みにくい。脱バインダ工程では、有機バインダを熱分解させたり燃焼させたりして除去するが、そのときに生じるガスが未焼結セラミック積層体の外部に逃げ切れにくいためである。そのため、有機バインダの熱分解や燃焼によるガスが原因となって、得られた多層セラミック基板に備える焼結セラミック積層体において、セラミック層間に剥離が生じたり、気泡がもたらされたりすることがある。
【0019】これらの問題は、未焼結セラミック積層体に備える基体用グリーン層および/または拘束用グリーン層の数を減らすことによって、ある程度解決できるが、それでは、得ようとする多層セラミック基板の設計に関して制限を受け、好ましくない。
【0020】なお、特開平7−30253号公報においては、未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に位置される拘束用グリーン層に穴を設け、未焼結セラミック積層体に含まれる有機バインダよりも熱分解しやすい樹脂をこの穴に埋め込むことによって、脱バインダ工程において、有機バインダのより順調な除去を図ろうとする技術が記載されている。しかしながら、この従来技術によれば、穴を設けるための工程および穴に樹脂を埋め込むための工程が新たに必要となり、それによるコストアップがもたらされるとともに、未焼結セラミック積層体に対して実施されるプレス工程または焼成工程において、穴が原因となって変形がもたらされることがある。
【0021】そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る多層セラミック基板の製造方法、この製造方法によって得られた多層セラミック基板、多層セラミック基板を製造するために作製される未焼結セラミック積層体、ならびに、多層セラミック基板を備える電子装置を提供しようとすることである。
【0022】
【課題を解決するための手段】この発明は、セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつセラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から第1および第2の有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を、セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備える、多層セラミック基板の製造方法にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、この発明の第1の局面では、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0023】すなわち、基体用グリーン層および拘束用グリーン層は、ともに、有機バインダを含むが、基体用グリーン層に含まれる第1の有機バインダおよび拘束用グリーン層に含まれる第2の有機バインダとして、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものを用いることを特徴としている。
【0024】好ましくは、第2の有機バインダとして、第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものが用いられる。この場合、より好ましくは、第1の有機バインダと第2の有機バインダとの間での熱分解開始温度または燃焼開始温度の差は、10℃以上とされる。
【0025】また、前述した積層体作製工程において作製される未焼結セラミック積層体に備える拘束用グリーン層は、たとえば、未焼結セラミック積層体の積層方向における両端に位置するように配置される。この場合、焼成工程の後、拘束用グリーン層を除去する工程がさらに実施されてもよい。
【0026】また、積層体作製工程において作製される未焼結セラミック積層体に備える拘束用グリーン層は、たとえば、基体用グリーン層の間に位置するように配置されてもよい。この場合、基体用グリーン層は、加熱によって軟化・流動化する軟化流動性成分を含み、焼成工程においては、軟化流動性成分を拘束用グリーン層中に流動させることによって難焼結性粉末を固着させることが行なわれる。
【0027】また、基体用グリーン層に含まれるセラミック粉末は、1000℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック粉末であることが好ましい。
【0028】また、未焼結セラミック積層体は、基体用グリーン層に関連して設けられる、配線導体を備えることが好ましい。
【0029】また、焼成工程の後、焼結セラミック積層体の外表面上に搭載されるべき電子部品を実装する工程をさらに備えていてもよい。
【0030】この発明の第2の局面による多層セラミック基板の製造方法は、セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつセラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から第1および第2の有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を、セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備え、第1の有機バインダとして、脱バインダ工程において燃焼する燃焼系バインダを用い、かつ、第2の有機バインダとして、脱バインダ工程において熱分解する熱分解系バインダを用いることを特徴としている。
【0031】好ましくは、上述の第1の有機バインダは、ブチラール系有機バインダであり、第2の有機バインダは、アクリル系有機バインダである。
【0032】この第2の局面に関しても、前述した第1の局面での好ましい実施態様が適用される。
【0033】この発明は、また、上述したような製造方法によって得られた多層セラミック基板にも向けられる。
【0034】さらに、この発明は、上述の多層セラミック基板と、この多層セラミック基板を実装するマザーボードとを備える、電子装置にも向けられる。
【0035】また、この発明は、多層セラミック基板を得るために作製される未焼結セラミック積層体にも向けられる。
【0036】この発明に係る未焼結セラミック積層体は、第1の局面によれば、セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつセラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備え、第1の有機バインダおよび第2の有機バインダは、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものであることを特徴としている。
【0037】第2の局面によれば、この発明に係る未焼結セラミック積層体は、セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつセラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備え、第1の有機バインダは、脱バインダ工程において燃焼する燃焼系バインダであり、かつ、第2の有機バインダは、脱バインダ工程において熱分解する熱分解系バインダであることを特徴としている。
【0038】以上の多層セラミック基板の製造方法は、いわゆる無収縮プロセスを適用するものであったが、この発明による技術的思想の適用範囲は、無収縮プロセスによる多層セラミック基板の製造方法に限定されるものではない。
【0039】すなわち、この発明は、セラミック粉末および有機バインダを含み、かつ積層された、複数のセラミックグリーン層を備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を、セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備える、多層セラミック基板の製造方法にも向けられる。このような多層セラミック基板の製造方法において、この発明の技術的思想は、次のように適用される。
【0040】すなわち、未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダとして、積層方向における中間部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダよりも、熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものが用いられる。
【0041】
【発明の実施の形態】図1は、この発明の一実施形態による多層セラミック基板1を図解的に示す断面図である。図示した多層セラミック基板1は、セラミック多層モジュールを構成するものである。
【0042】多層セラミック基板1は、積層された複数のセラミック層2をもって構成される焼結セラミック積層体3を備えている。この焼結セラミック積層体3において、セラミック層2に関連して種々の配線導体が設けられている。
【0043】上述した配線導体としては、焼結セラミック積層体3の積層方向における端面上に形成されるいくつかの外部導体膜4および5、セラミック層2の間の界面に沿って形成されるいくつかの内部導体膜6、ならびにセラミック層2の特定のものを貫通するように形成されるいくつかのビアホール導体7等がある。
【0044】上述した外部導体膜4は、焼結セラミック積層体3の外表面上に搭載されるべき電子部品8および9への接続のために用いられる。図1では、たとえば半導体デバイスのように、バンプ電極10を備える電子部品8、およびたとえばチップコンデンサのように面状の端子電極11を備える電子部品9が図示されている。
【0045】電子部品8は、バンプ電極10に対して半田リフロー工程を適用したり超音波付与工程や熱圧着工程を適用したりすることによって、バンプ電極10を介して外部導体膜4に接合される。他方、電子部品9は、外部導体膜4に対して端子電極11を面対向させた状態で、端子電極11をたとえば半田または導電性接着剤を用いて外部導体膜4に接合することによって、焼結セラミック積層体3上に搭載された状態とされる。
【0046】また、外部導体膜5は、図1において想像線で示すように、この多層セラミック基板1を実装するマザーボード12への接続のために用いられる。すなわち、多層セラミック基板1は、外部導体膜5を介して電気的に接続された状態で、マザーボード12上に実装され、所望の電子装置を構成する。
【0047】図1に示した多層セラミック基板1に備える焼結セラミック積層体3は、図2に示すような未焼結セラミック積層体13を焼成することによって得られるものである。
【0048】未焼結セラミック積層体13は、前述したセラミック層2となるべき積層された複数の基体用グリーン層14を備えている。基体用グリーン層14は、セラミック粉末および第1の有機バインダを含んでいる。セラミック粉末としては、1000℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック粉末を用いることが好ましい。
【0049】未焼結セラミック積層体13は、また、基体用グリーン層14の特定のものの主面に接するように配置される拘束用グリーン層15を備えている。拘束用グリーン層15は、上述したセラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含んでいる。前述したように、セラミック粉末として低温焼結セラミック粉末が用いられるとき、難焼結性粉末としては、たとえば、アルミナ粉末が有利に用いられる。なお、この実施形態では、拘束用グリーン層15は、未焼結セラミック積層体13の積層方向における両端に位置するように配置される。
【0050】有機バインダには、主として、酸素に触れることによってバインダ中の炭素が二酸化炭素または一酸化炭素となって燃焼する燃焼系バインダと、主として、熱によるポリマー分解によって気化する熱分解系バインダとがあるが、基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダおよび拘束用グリーン層15に含まれる第2の有機バインダとして、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものが用いられる。
【0051】この場合、第2の有機バインダは、第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものであることが好ましく、より好ましくは、熱分解開始温度または燃焼開始温度の差が10℃以上となるようにされる。
【0052】また、第1および第2の有機バインダの選択方法の他の態様として、第1の有機バインダを燃焼系バインダとし、他方、第2の有機バインダを熱分解系バインダとしてもよい。
【0053】この場合、より具体的には、第2の有機バインダとして、たとえばブチラール系有機バインダが用いられ、第2の有機バインダとして、たとえばアクリル系有機バインダが用いられる。
【0054】未焼結セラミック積層体13は、さらに、基体用グリーン層14に関連して設けられる配線導体を備えている。この配線導体としては、前述したように、外部導体膜4および5、内部導体膜6ならびにビアホール導体7等を備えている。
【0055】このような未焼結セラミック積層体13を作製するため、たとえば、次のような各工程が実施される。
【0056】まず、基体用グリーン層14を得るため、セラミック粉末に、第1の有機バインダ、分散剤、可塑剤および有機溶剤等を各々適量添加し、これらを混合することによって、セラミックスラリーを作製する。なお、セラミック粉末が低温焼結セラミック粉末である場合には、通常、ガラス成分を含有するセラミック材料が用いられる。このガラス成分は、セラミック成分を有する粉末にガラス粉末として混合されていても、焼成工程においてガラス質を析出するものであってもよい。
【0057】次いで、上述のセラミックスラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形して、基体用グリーン層14となるべき基体用セラミックグリーンシートを得る。
【0058】次いで、得られた基体用グリーンシートに、必要に応じて、ビアホール導体7を形成するための貫通孔を設け、この貫通孔に導電性ペーストまたは導体粉を充填することによって、ビアホール導体7を形成する。また、基体用セラミックグリーンシート上に、必要に応じて、導電性ペーストを印刷することによって、外部導体膜4および5ならびに内部導体膜6を形成する。ここで、セラミック粉末として、1000℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック粉末が用いられるとき、上述した外部導体膜4および5、内部導体膜6ならびにビアホール導体7を形成するための導電成分として、たとえば、銀、銀・白金合金、銀・パラジウム合金、銅または金等を有利に用いることができる。
【0059】次に、これら基体用セラミックグリーンシートをもって、図2に示した基体用グリーン層14を与えるため、基体用セラミックグリーンシートが所定の順序で積層される。
【0060】他方、拘束用グリーン層15を得るため、難焼結性粉末に、第2の有機バインダ、分散剤、可塑剤および有機溶剤等を各々適量添加し、これらを混合することによって、難焼結性粉末スラリーを作製する。
【0061】次いで、この難焼結性粉末スラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形して、拘束用グリーン層15のための拘束用グリーンシートを得る。
【0062】次に、前述のように積層された基体用セラミックグリーンシートの上下に、拘束用グリーンシートを積層し、プレスする。これによって、図2に示すように、未焼結セラミック積層体13が得られる。なお、必要に応じて、この未焼結セラミック積層体13を適当な大きさに切断してもよい。
【0063】次に、未焼結セラミック積層体13は、基体用グリーン層14に含まれるセラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成される。この焼成工程において、拘束用グリーン層15は、それ自身、実質的に収縮しない。したがって、拘束用グリーン層15は、基体用グリーン層14に対して、その主面方向での収縮を抑制する拘束力を及ぼし、それによって、基体用グリーン層14は、その主面方向での収縮が抑制されながら、実質的に厚み方向にのみ収縮し、そこに含まれるセラミック材料が焼結する。このようにして、図1に示したセラミック層2が基体用グリーン層14によって与えられ、多層セラミック基板1に備える焼結セラミック積層体3が得られる。
【0064】前述したように、基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダおよび拘束用グリーン層15に含まれる第2の有機バインダは、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なっている。したがって、脱バインダ工程での昇温過程において、第1の有機バインダと第2の有機バインダとは、互いに異なる時点で、熱分解または燃焼を開始する。そのため、一方の有機バインダが先に熱分解または燃焼を開始することによって、この有機バインダが存在していた部分に通路が形成され、他方の有機バインダが熱分解または燃焼を開始して生成されたガスは、この通路を通って、順調に未焼結セラミック積層体13の外部に排出されることができる。
【0065】このように熱分解開始温度または燃焼開始温度を互いに異ならせる場合、拘束用グリーン層15に含まれる第2の有機バインダの熱分解開始温度または燃焼開始温度が、基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダより低い方が好ましい。
【0066】なぜなら、拘束用グリーン層15によって挟まれた基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダが熱分解または燃焼するとき、それによって生じたガスは、多かれ少なかれ、拘束用グリーン層15内を通って、未焼結セラミック積層体13の外部に排出されなければならないが、熱分解開始温度または燃焼開始温度の関係が上述のように選ばれることによって、拘束用グリーン層15において先に有機バインダの除去による通路が形成され、この通路を通して、基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダの熱分解または燃焼によるガスが順調に排出されることができるからである。
【0067】上述の場合、第2の有機バインダとして、第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が10℃以上低いものが用いられると、第1の有機バインダの熱分解または燃焼を開始させる前に、確実に、第2の有機バインダの熱分解または燃焼を開始させることができる。
【0068】また、基体用グリーン層14に含まれる第1の有機バインダとして、ブチラール系有機バインダのような燃焼系バインダを用い、かつ、拘束用グリーン層15に含まれる第2の有機バインダとして、アクリル系有機バインダのような熱分解系バインダを用いることによっても、第1および第2の有機バインダの間で、脱バインダ工程において生じる熱分解または燃焼の挙動に差をもたせることができる。
【0069】すなわち、燃焼系バインダの場合には、主として、酸素に触れることによってバインダ中の炭素が二酸化炭素または一酸化炭素となって燃焼するので、このような燃焼が一気に生じることはなく、徐々に生じるのが通常である。これに対して、熱分解系バインダの場合には、主として、熱によるポリマー分解によって気化するものであるので、熱分解開始温度に達したときに、一気に、このような分解が生じる。このことから、第1の有機バインダと第2の有機バインダとの間で、各々が燃焼または熱分解する挙動に差をもたせることができる。
【0070】したがって、第2の有機バインダの熱分解によって迅速に生じた拘束用グリーン層15中の通路を通して、第1の有機バインダの燃焼によって徐々に生成される二酸化炭素または一酸化炭素を未焼結セラミック積層体13の外部に順調に排出することができる。
【0071】特に、第2の有機バインダの熱分解開始温度が、第1の有機バインダの燃焼開始温度よりも低くされると、第2の有機バインダの熱分解が生じた後に、第1の有機バインダの燃焼を開始させることができるので、第2の有機バインダの熱分解の結果として生じた拘束用グリーン層15中の通路を通して、第1の有機バインダの燃焼によって生じる二酸化炭素または一酸化炭素を未焼結セラミック積層体13の外部へ排出し得る状態を確実に得ることができる。
【0072】上述の場合、第2の有機バインダの熱分解開始温度が、第1の有機バインダの燃焼開始温度よりも10℃以上低くされると、上述したような通路を通しての排出状態をより確実に得ることができる。
【0073】以上のような焼成工程を終えた後、拘束用グリーン層15が除去される。拘束用グリーン層15の除去は、拘束用グリーン層15が焼結されないため、容易に行なうことができる。
【0074】このようにして、図1に示した多層セラミック基板1における焼結セラミック積層体3が得られる。この焼結セラミック積層体3の外表面上に、電子部品8および9を実装すれば、図1に示すような多層セラミック基板1が完成される。
【0075】次に、この発明の効果を確認するため、特定的な実施形態に関連して実施した実験例について説明する。
【0076】まず、基体用グリーン層14のためのセラミックスラリーを得るため、CaCO3 、Al2 3 、SiO2 およびB2 3 を、所定の比率となるように秤量し、混合し、白金るつぼ中において、1400℃にて溶融し、その後、水中に投入することによって急冷し、ガラスを得た。
【0077】次いで、このガラスを、ボールミルによって、平均粒径1.2〜2.4μmになるまで粉砕して、ガラス粉末とした。次いで、このガラス粉末とアルミナ粉末とを、重量比で40/60となるように混合した。
【0078】次に、上述のガラス粉末とアルミナ粉末との混合粉末100重量部に対して、表1に示すような有機バインダ8重量部、ジオクチルフタレート2重量部、分散剤1重量部、エタノール30重量部、およびトルエン30重量部を加えて、ボールミルによって24時間混合し、セラミックスラリーを得た。
【0079】他方、拘束用グリーン層15のための難焼結性粉末スラリーを得るため、難焼結性粉末としてアルミナ粉末を用い、このアルミナ粉末100重量部に対して、表1に示すような種々の有機バインダ8重量部、ジオクチルフタレート2重量部、分散剤1重量部、エタノール30重量部、およびトルエン30重量部を加えて、ボールミルによって24時間混合して、難焼結性粉末スラリーを得た。
【0080】
【表1】


【0081】表1に示すように、アクリル系バインダとして、アクリル■、アクリル■、アクリル■およびアクリル■というように、4種類のものを用いた。これら4種類のアクリル系有機バインダは、表1において括弧内に示すような熱分解開始温度を有している。熱分解開始温度は、熱重量示差熱分析によって求められたもので、アクリル■は330℃、アクリル■は350℃、アクリル■は360℃、およびアクリル■は380℃の熱分解開始温度を有している。
【0082】また、ブチラール系有機バインダとして、ブチラール■、ブチラール■およびブチラール■の3種類のものを用いた。これら3種類のブチラール系有機バインダは、表1において括弧内に示すような燃焼開始温度を有している。すなわち、ブチラール■は300℃、ブチラール■は320℃、およびブチラール■は340℃の燃焼開始温度を有している。
【0083】次に、上述のセラミックスラリーおよび難焼結性粉末スラリーを、それぞれ、真空脱泡した後、ドクターブレード法によって、厚さ100μmの基体用セラミックグリーンシートおよび拘束用グリーンシートを作製した。そして、基体用セラミックグリーンシート上に銀を含む導電性ペーストを印刷したものを10枚積層するとともに、その積層方向における各端に、拘束用グリーンシートを4枚ずつ積層し、80℃の温度を付与しながら、500kgf/cm2 の圧力にてプレスし、それによって、10層の基体用グリーン層14を挟むように各々4層の拘束用グリーン層15が配置された、未焼結セラミック積層体13を得た。
【0084】次に、この未焼結セラミック積層体13を、400℃の温度で脱バインダ処理した。
【0085】次に、大気中において、860℃の温度で30分間焼成することにより、未焼結セラミック積層体13に備える基体用グリーン層14を焼結させ、その後、拘束用グリーン層15を除去し、それによって、焼結セラミック積層体3を得た。
【0086】このようにして得られた焼結セラミック積層体3について、残炭量、反りおよび剥離/気泡の発生率を評価した。これらの結果が表2に示されている。
【0087】
【表2】


【0088】表2からわかるように、実施例1〜6によれば、比較例1および2に比べて、残炭量が少なく、反りが低減され、また、剥離/気泡の発生が防止されている。
【0089】このことから、比較例1および2のように、基体用グリーン層14において用いられる有機バインダと拘束用グリーン層15において用いられる有機バインダとの熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに同じ場合に比べて、実施例1および2のように、基体用グリーン層14において用いられる有機バインダと拘束用グリーン層15において用いられる有機バインダとが互いに異なる熱分解開始温度を有している場合や、実施例3および4のように、基体用グリーン層14において用いられる有機バインダと拘束用グリーン層15において用いられる有機バインダとが互いに異なる燃焼開始温度を有している場合や、実施例5および6のように、基体用グリーン層14において用いられる有機バインダが燃焼系バインダであり、拘束用グリーン層15において用いられる有機バインダが熱分解系バインダである場合には、脱バインダ工程において、これら有機バインダの除去が順調に行なわれたことがわかる。
【0090】以上説明した実施形態では、拘束用グリーン層15が、未焼結セラミック積層体13の積層方向における両端に位置するように配置されたが、このような配置に代えて、あるいは、このような配置に加えて、基体用グリーン層14の間に位置するように、拘束用グリーン層15が配置されてもよい。このような実施形態の一例について、図3を参照して説明する。
【0091】図3は、未焼結セラミック積層体16を図解的に示す断面図である。
【0092】未焼結セラミック積層体16は、積層された基体用グリーン層17と、基体用グリーン層17の間に位置するように配置された拘束用グリーン層18とを備えている。この実施形態では、基体用グリーン層17と拘束用グリーン層18とが交互に配置されている。
【0093】図2に示した未焼結セラミック積層体13の場合と同様、基体用グリーン層17は、セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、拘束用グリーン層18は、セラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含んでいる。
【0094】この実施形態では、拘束用グリーン層18は、焼成工程の後、除去されず、製品となる多層セラミック基板に備える焼結セラミック積層体中に存在する。そのため、基体用グリーン層17は、たとえばガラス成分のように、加熱によって軟化・流動化する軟化流動性成分を含んでおり、焼成工程において、この軟化流動性成分は、拘束用グリーン層18中に浸透するように流動し、拘束用グリーン層18に含まれる難焼結性粉末を固着させる。
【0095】前述したように、基体用グリーン層17および拘束用グリーン層18は、互いに異なる第1および第2の有機バインダをそれぞれ含んでいる。したがって、脱バインダ工程において、第1および第2の有機バインダのいずれか一方が除去された後に残された通路を通して、第1および第2の有機バインダのいずれか他方が順調に除去されることができる。
【0096】なお、図3においては、基体用グリーン層17に関連して設けられる、外部導体膜、内部導体膜およびビアホール導体のような配線導体の図示が省略されている。
【0097】以上、この発明を図示した実施形態、すなわち、拘束用グリーン層を用いる無収縮プロセスに基づいて多層セラミック基板を製造する実施形態に関連して説明したが、この発明が適用されるのは、無収縮プロセスに基づく多層セラミック基板の製造方法には限定されない。
【0098】すなわち、セラミック粉末および有機バインダを含み、かつ積層された、複数のセラミックグリーン層を備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を、セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備える、多層セラミック基板の製造方法においても、前述したような有機バインダの選択が有効である。
【0099】より詳細に説明すれば、未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダとして、積層方向における中間部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダよりも、熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものを用いるようにすれば、脱バインダ工程において、積層方向における端部に位置するセラミックグリーンシートに含まれる有機バインダが熱分解または燃焼を開始した後に、積層方向における中間部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダを熱分解または燃焼させることができる。そのため、除去が比較的容易な端部の有機バインダが除去された後に残された通路を通して、除去が比較的困難な中間部の有機バインダを順調に除去することができる。
【0100】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、積層された複数の基体用グリーン層と、基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置された拘束用グリーン層とを備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から基体用グリーン層および拘束用グリーン層に含まれる有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備える、多層セラミック基板の製造方法において、基体用グリーン層に含まれる第1の有機バインダおよび拘束用グリーン層に含まれる第2の有機バインダとして、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものを用いたり、第1の有機バインダとして、脱バインダ工程において燃焼する燃焼系バインダを用い、かつ、第2の有機バインダとして、脱バインダ工程において熱分解する熱分解系バインダを用いているので、脱バインダ工程において、第1の有機バインダと第2の有機バインダとのいずれか一方の熱分解または燃焼を、いずれか他方の熱分解または燃焼に比べて、より早く開始または完了させることができる。
【0101】したがって、より早く熱分解または燃焼が開始または完了した一方の有機バインダが除去された後に残された通路を通して、未焼結セラミック積層体の外部に、他方の有機バインダを順調に排出することができる。
【0102】そのため、脱バインダ工程を能率的に進めることができ、また、脱バインダ工程後の有機バインダの残留量を少なくすることが容易となり、焼成工程によって得られた焼結セラミック積層体を備える多層セラミック基板の信頼性を高めることができる。
【0103】また、脱バインダ工程後において、未焼結セラミック積層体中に有機バインダが不均一に残留することを防止できるので、焼成工程によって得られた焼結セラミック積層体が反るなどの変形を生じにくくすることができる。
【0104】また、上述のように、脱バインダ工程後の有機バインダの残留量を容易に少なくすることができるので、焼成工程を経て得られた焼結セラミック積層体において、剥離や気泡が発生しにくくすることができる。
【0105】また、拘束用グリーン層は、基本的に、焼成工程において必要とするのみで、焼成後においては、実質的な機能を果たすものではない。特に、拘束用グリーン層が焼成後において除去される場合には、拘束用グリーン層は、得られた多層セラミック基板が与える特性に何ら影響を及ぼすものではない。この発明においては、拘束用グリーン層に含まれる第2の有機バインダとして、基体用グリーン層に含まれる第1の有機バインダとは異なるものを用いることを特徴としているので、前述した拘束用グリーン層の機能を考慮したとき、拘束用グリーン層に含まれる第2の有機バインダとして、基体用グリーン層に含まれる第1の有機バインダに比べて、品質の低いものを問題なく使用できるようになり、そのため、多層セラミック基板の製造コストの低減を期待することができる。
【0106】この発明において、第2の有機バインダとして、第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものが用いられると、第1の有機バインダの熱分解または燃焼が開始した後に、第2の有機バインダの熱分解または燃焼を開始させることができる。
【0107】上述のように、熱分解または燃焼が開始する時点を、第2の有機バインダを先にし、第1の有機バインダを後にすることは、拘束用グリーン層が未焼結セラミック積層体の積層方向における両端に位置するように配置される場合において特に顕著な効果を発揮する。なぜなら、基体用グリーン層に含まれる第1の有機バインダの除去は、基体用グリーン層が拘束用グリーン層によって挟まれるために困難になるが、拘束用グリーン層に前もって通路が形成されることにより、この除去の困難性が低減されるからである。
【0108】また、上述したように、第2の有機バインダの熱分解開始温度または燃焼開始温度が、第1の有機バインダよりも低くされる場合、その温度差を10℃以上とすれば、第1の有機バインダと第2の有機バインダとの熱分解または燃焼の開始時点をより確実に異ならせることができる。
【0109】なお、上述のような効果は、拘束用グリーン層を備えない未焼結セラミック積層体を取り扱う場合にも同様に奏されることができる。
【0110】すなわち、セラミック粉末および有機バインダを含み、かつ積層された、複数のセラミックグリーン層を備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、未焼結セラミック積層体から有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、未焼結セラミック積層体を、セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備える、多層セラミック基板の製造方法において、未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダとして、積層方向における中間部に位置するセラミックグリーン層に含まれる有機バインダよりも、熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものを用いた場合にも、前述した拘束用グリーン層を備える未焼結セラミック積層体を取り扱う場合と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態による多層セラミック基板1を図解的に示す断面図である。
【図2】図1に示した焼結セラミック積層体3を得るために用意される未焼結セラミック積層体13を図解的に示す断面図である。
【図3】この発明の他の実施形態を説明するための未焼結セラミック積層体16を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 多層セラミック基板
2 セラミック層
3 焼結セラミック積層体
4,5 外部導体膜(配線導体)
6 内部導体膜(配線導体)
7 ビアホール導体(配線導体)
8,9 電子部品
12 マザーボード
13,16 未焼結セラミック積層体
14,17 基体用グリーン層
15,18 拘束用グリーン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、前記基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつ前記セラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、前記未焼結セラミック積層体から前記第1および第2の有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、前記未焼結セラミック積層体を、前記セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備え、前記第1の有機バインダおよび前記第2の有機バインダとして、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものを用いることを特徴とする、多層セラミック基板の製造方法。
【請求項2】 前記第2の有機バインダとして、前記第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものが用いられる、請求項1に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項3】 前記第2の有機バインダとして、前記第1の有機バインダよりも熱分解開始温度または燃焼開始温度が10℃以上低いものが用いられる、請求項2に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項4】 前記積層体作製工程において作製される前記未焼結セラミック積層体に備える前記拘束用グリーン層は、前記未焼結セラミック積層体の積層方向における両端に位置するように配置される、請求項1ないし3のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項5】 前記焼成工程の後、前記拘束用グリーン層を除去する工程をさらに備える、請求項4に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項6】 前記積層体作製工程において作製される前記未焼結セラミック積層体に備える前記拘束用グリーン層は、前記基体用グリーン層の間に位置するように配置され、前記基体用グリーン層は、加熱によって軟化・流動化する軟化流動性成分を含み、前記焼成工程は、前記軟化流動性成分を前記拘束用グリーン層中に流動させることによって前記難焼結性粉末を固着させる工程を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項7】 前記セラミック粉末は、1000℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック粉末である、請求項1ないし6のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項8】 前記未焼結セラミック積層体は、前記基体用グリーン層に関連して設けられる、配線導体を備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項9】 前記焼成工程の後、前記焼結セラミック積層体の外表面上に搭載されるべき電子部品を実装する工程をさらに備える、請求項1ないし8のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項10】 セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、前記基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつ前記セラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、前記未焼結セラミック積層体から前記第1および第2の有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、前記未焼結セラミック積層体を、前記セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備え、前記第1の有機バインダとして、前記脱バインダ工程において燃焼する燃焼系バインダを用い、かつ、前記第2の有機バインダとして、前記脱バインダ工程において熱分解する熱分解系バインダを用いることを特徴とする、多層セラミック基板の製造方法。
【請求項11】 前記第1の有機バインダは、ブチラール系有機バインダであり、前記第2の有機バインダは、アクリル系有機バインダである、請求項10に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項12】 前記第2の有機バインダの熱分解開始温度は、前記第1の有機バインダの燃焼開始温度よりも低い、請求項10または11に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項13】 前記第2の有機バインダの熱分解開始温度は、前記第1の有機バインダの燃焼開始温度よりも10℃以上低い、請求項12に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項14】 前記積層体作製工程において作製される前記未焼結セラミック積層体に備える前記拘束用グリーン層は、前記未焼結セラミック積層体の積層方向における両端に位置するように配置される、請求項10ないし13のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項15】 前記焼成工程の後、前記拘束用グリーン層を除去する工程をさらに備える、請求項14に記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項16】 前記積層体作製工程において作製される前記未焼結セラミック積層体に備える前記拘束用グリーン層は、前記基体用グリーン層の間に位置するように配置され、前記基体用グリーン層は、加熱によって軟化・流動化する軟化流動性成分を含み、前記焼成工程は、前記軟化流動性成分を前記拘束用グリーン層中に流動させることによって前記難焼結性粉末を固着させる工程を含む、請求項10ないし13のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項17】 前記セラミック粉末は、1000℃以下の温度で焼結する低温焼結セラミック粉末である、請求項10ないし16のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項18】 前記未焼結セラミック積層体は、前記基体用グリーン層に関連して設けられる、配線導体を備える、請求項10ないし17のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項19】 前記焼成工程の後、前記焼結セラミック積層体の外表面上に搭載されるべき電子部品を実装する工程をさらに備える、請求項10ないし18のいずれかに記載の多層セラミック基板の製造方法。
【請求項20】 請求項1ないし19のいずれかに記載の製造方法によって得られた、多層セラミック基板。
【請求項21】 請求項20に記載の多層セラミック基板と、前記多層セラミック基板を実装するマザーボードとを備える、電子装置。
【請求項22】 セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、前記基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつ前記セラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備え、前記第1の有機バインダおよび前記第2の有機バインダは、熱分解開始温度または燃焼開始温度が互いに異なるものであることを特徴とする、未焼結セラミック積層体。
【請求項23】 セラミック粉末および第1の有機バインダを含み、かつ積層された、複数の基体用グリーン層と、前記基体用グリーン層の特定のものの主面に接するように配置され、かつ前記セラミック粉末の焼結温度では焼結しない難焼結性粉末および第2の有機バインダを含む、拘束用グリーン層とを備え、前記第1の有機バインダは、脱バインダ工程において燃焼する燃焼系バインダであり、かつ、前記第2の有機バインダは、脱バインダ工程において熱分解する熱分解系バインダであることを特徴とする、未焼結セラミック積層体。
【請求項24】 セラミック粉末および有機バインダを含み、かつ積層された、複数のセラミックグリーン層を備える、未焼結セラミック積層体を作製する、積層体作製工程と、前記未焼結セラミック積層体から前記有機バインダを除去する、脱バインダ工程と、前記未焼結セラミック積層体を、前記セラミック粉末が焼結する温度条件下で焼成し、それによって、焼結セラミック積層体を得る、焼成工程とを備え、前記未焼結セラミック積層体の積層方向における端部に位置する前記セラミックグリーン層に含まれる前記有機バインダとして、積層方向における中間部に位置する前記セラミックグリーン層に含まれる前記有機バインダよりも、熱分解開始温度または燃焼開始温度が低いものを用いることを特徴とする、多層セラミック基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−353624(P2002−353624A)
【公開日】平成14年12月6日(2002.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−157048(P2001−157048)
【出願日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】