説明

多層延伸フィルムの製造方法

【課題】融点125℃以上の熱可塑性樹脂と側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂との積層体で、15倍以上の高倍率で延伸しても外観性に優れた多層延伸フィルムを製造できる方法の提供。
【解決手段】側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂(A)含有層と、融点125〜300℃の熱可塑性樹脂(B)含有層とが、接着性樹脂(C)層を介し、前記接着性樹脂(C)として、前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有する熱可塑性樹脂を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造を有するビニルアルコール系樹脂層と、融点が125℃以上の熱可塑性樹脂層とを接着性樹脂層を介して積層した多層延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール樹脂(以下、「PVA樹脂」と略記する)やエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と表記することがある)等のビニルアルコール系樹脂は、分子中に多数の水酸基を有していることに基づき、透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性などに優れている。その反面、吸湿性が高いため、高湿度条件下ではガスバリア性が悪くなるという欠点がある。
【0003】
このため、ビニルアルコール系樹脂フィルムを、各種用途(食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等)に利用するにあたっては、通常、ビニルアルコール系樹脂フィルムに、耐湿性など、要求される特性を付与できる他の熱可塑性樹脂フィルムを積層した多層積層体として用いている。
【0004】
耐湿性向上のためには、ポリオレフィンやポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂フィルムとの積層体が一般に用いられる。しかし、これらの熱可塑性樹脂フィルムは、ビニルアルコール系樹脂フィルムとの接着性が高くないことから、通常、接着性樹脂を介して、ビニルアルコール系樹脂層に積層される。
【0005】
接着性樹脂は、一般に、ビニルアルコール系樹脂層とポリオレフィンやポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂層との双方に対して親和性を有し、且つ被接着層表面を一様に覆うことができるように(例えば、非特許文献1)、積層時に流体状を示すことができる樹脂であることが望まれる。このような理由から、接着性樹脂としては、例えば、特開2006−312313号公報(特許文献1)の段落番号0051に開示されているように、オレフィン系重合体を不飽和カルボン酸又はその無水物で変性させたカルボン酸変性オレフィン系重合体が用いられる。
【0006】
ビニルアルコール系樹脂(特にEVOH樹脂)層は延伸によりガスバリヤ性を向上できることから、ビニルアルコール系樹脂層を含む多層フィルムについても、通常、延伸処理が施される。延伸処理は、フィルムを融点以下の温度に加熱して、機械的にフィルムを引き伸ばすことにより、分子配向を生じさせる操作である。
【0007】
また、近年、開発された下記(1)式で示す構造単位(以下「側鎖1,2−ジオール単位」という)を有するビニルアルコール系樹脂では、このような側鎖1,2−ジオール単位を含有しないビニルアルコール系樹脂より高い延伸倍率で延伸することが可能であり、高倍率の延伸により、より高いガスバリア性を達成できることが知られている。
【0008】
【化1】

[(1)式において、R1〜R6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示す。]
【0009】
上記多層フィルムの場合、EVOH樹脂と熱可塑性樹脂とは伸び特性が異なることから、延伸時においては、介在層である接着性樹脂層が、EVOH樹脂層と熱可塑性樹脂層との伸びの違いを吸収できるように、流体状態となっていることが好適であると考えられている。従って、接着性樹脂としては、延伸時に流体状態を示すことができる融点を有する樹脂を選んで用いることが常法となっている。
【0010】
例えば、上記特許文献1の実施例では、接着性樹脂として無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(融点80℃程度)を使用して、側鎖1,2−ジオール単位を有するPVA系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレン(融点120℃程度)を積層した積層体を、100℃で予熱して縦方向6倍、横方向6倍の同時二軸延伸(延伸倍率:36倍)を行っている(段落番号0059、0062参照)。
【0011】
また、特開2006−123534号公報(特許文献2)の実施例では、側鎖1,2−ジオール単位を有するEVOH樹脂層とポリプロピレン層(融点160℃程度)の接着に、三菱化学製の「モディックAP P604V」(マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の商品名で融点134℃)を接着性樹脂として使用した積層体について、150℃で1分間予熱し、縦方向に4倍、横方向に6.5倍で逐次延伸処理(延伸倍率:26倍)を行っている。
【0012】
積層する熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリエチレンのように融点、軟化点が低い樹脂を使用する場合には、延伸時の加熱温度は100℃程度である。一方、ポリプロピレンのように融点、軟化点が高い熱可塑性樹脂を用いる場合には、上記特許文献2の実施例で示すように、150℃程度で延伸処理が行われる。接着性樹脂が溶融した流体は、高い温度にさらされると、粘度が低下する傾向にある。上記特許文献1や2で用いたような、融点100℃程度のカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂を接着性樹脂として使用し、150℃といった高温で延伸処理を行った場合、接着性樹脂の粘度が低下しすぎて、延伸時に発生する牽引力により、波状の力が接着性樹脂層に発生するためか、延伸、冷却固定後、接着性樹脂層の厚みが均一でなくなったためか、得られた多層延伸フィルムは、波状のスジがはいるなど、外観面で改善の余地がある。ひどい場合には、介層させている接着性樹脂層が分断されてしまい、延伸中に多層フィルムが破断してしまうこともある。
【0013】
一方、特開2006−123531号公報(特許文献3)の実施例では、側鎖1,2−ジオール単位を含有したEVOH樹脂層とポリエチレン層の接着に、三菱化学製の「モディクAP M533」(マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の商品名で融点123℃)を接着性樹脂として使用した積層体について、80℃で縦3.5倍、横3.5倍の逐次二軸延伸(延伸倍率:12.25倍)を行っている(段落番号0060)。これはシュリンクフィルムとして用いられる多層フィルムである。
【0014】
特許文献3に示すように、ポリエチレンやエチレン―ビニルエステル共重合体等の融点が100〜120℃と比較的低い融点を有する熱可塑性樹脂層を用いて、接着性樹脂の融点よりも低い温度で延伸を行った多層延伸フィルムの製造例はあるものの、13倍程度の低い延伸倍率であり、用途もシュリンクフィルムというシュリンク前の外観はそれほど問題とされない多層フィルムにおいてみられる程度である。
【0015】
【非特許文献1】社団法人高分子学会編,”接着と積層”地人書館発行,1965年7月,p1
【特許文献1】特開2006−312313号公報
【特許文献2】特開2006−123534号公報
【特許文献3】特開2006−123531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
融点が125℃以上の熱可塑性樹脂層と、側鎖1,2−ジオール含有のビニルアルコール系樹脂層とを、接着性樹脂層を介して積層した積層体で、しかも15倍以上の高倍率で延伸しても、外観性に優れた多層延伸フィルムを製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
融点が125℃以上の熱可塑性樹脂層と、側鎖1,2−ジオール単位含有のビニルアルコール系樹脂層とを、接着性樹脂層を介して積層した積層体を、15倍以上の高倍率で延伸するような場合には、意外にも、接着性樹脂層が流体状態でない方が、得られる多層延伸フィルムの外観が優れていることを、本発明者らは見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の多層延伸フィルムの製造方法は、下記(1)式で表わされる側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂(A)を含有する層の少なくとも片面に、接着性樹脂層(C)を介して、融点125〜300℃の熱可塑性樹脂(B)を含有する層を積層してなる積層体を、加熱下、少なくとも1軸方向に延伸した多層延伸フィルムの製造方法において、前記接着性樹脂(C)として、前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有する樹脂を用いることを特徴とする。
【0019】
【化1】

(一般式(1)において、R1〜R6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
【0020】
前記ビニルアルコール系樹脂(A)含有層における前記側鎖1,2−ジオール単位の含有率が0.1〜30モル%であることが好ましく、前記側鎖1,2−ジオール単位が、下記式(1a)で表わされる構造単位であることが好ましい。
【化1a】

【0021】
前記ビニルアルコール系樹脂(A)は、ビニルエステル重合体ケン化物であるポリビニルアルコール系樹脂及びエチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物(EVOH樹脂)を含む概念である。前記ビニルアルコール系樹脂(A)としては、エチレンモノマーユニットを20〜60モル%含有するエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物であることが好ましい。
【0022】
前記延伸は、前記積層体の延伸温度40〜250℃で且つ前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)含有層及び前記熱可塑性樹脂(B)含有層の融点よりも低い温度で行うことが好ましい。また、延伸倍率は15〜100倍(面積比)であることが好ましい。
【0023】
前記接着性樹脂(C)の融点は、前記延伸温度よりも1〜40℃高いことが好ましく、前記接着性樹脂(C)は、延伸時の前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有するカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。また、前記カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂は、カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0024】
前記熱可塑性樹脂(B)の融点は145〜200℃であることが好ましく、より好ましくは、融点が145〜200℃のポリオレフィン系樹脂、特に好ましくはポリプロピレン系樹脂である。
【0025】
本発明の多層延伸フィルムは、積層体を、上記本発明の方法により延伸して製造されるものである。
【0026】
なお、本明細書において、融点とは、JIS K 7121に基づいて、示差走査熱量計(DSC)で一旦、樹脂を融点以上に加熱溶解後、10℃/minで30℃まで冷却後、昇温速度10℃/minにて融解メインピークを計測した値をいう。
また、本発明において、延伸温度とは、延伸対象となる積層体の中央部において、当該積層体から垂直方向へ1cm離れた位置における雰囲気温度を熱伝対式温度計で測定した温度をいう。
【発明の効果】
【0027】
本発明の多層延伸フィルムの製造方法によれば、熱可塑性樹脂含有層の特性に基づいて、高倍率で延伸しても、接着性樹脂層を介して、延伸時にかかる張力を積層体全体に均一に分散させることができるとともに、側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂層が高倍率延伸時の伸びに追随することができるので、外観に優れた高延伸倍率の多層延伸フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0029】
本発明の多層延伸フィルムの製造方法は、側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂(A)を含有する層の少なくとも片面に、接着性樹脂層(C)を介して融点125〜300℃の熱可塑性樹脂(B)を含有する層を積層してなる積層体を、加熱下、少なくとも一軸方向に延伸する多層延伸フィルムの製造方法において、前記接着性樹脂層(C)として、前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有する樹脂を用いることを特徴とする方法である。
【0030】
はじめに、本発明の製造方法で用いる積層体の各層について説明する。
<ビニルアルコール系樹脂(A)含有層>
本発明の製造方法で用いられる積層体のビニルアルコール系樹脂(A)含有層は、下記(1)式で示される側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂(A)(以下、「側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂」という)を含有する層である。
【化1】

【0031】
(1)式において、R1〜R6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。前記有機基としては特に限定しないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭素数1〜30(より好ましくは炭素数1〜15、特に好ましくは炭素数1〜4)の飽和炭化水素基または水素原子であり、最も好ましくは水素原子である。特に、R1〜R6のすべてが水素原子であることが好ましい。
【0032】
(1)式において、Xは単結合又は結合鎖である。ビニルアルコール系樹脂のガスバリア性の点などから、単結合であることが好ましい。
上記結合鎖としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2)m−、−(CH2O)nCH2−等のエーテル結合部位を含む構造単位;−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C6H4)CO−等のカルボニル基を含む構造単位;−S−、−CS−、−SO−、−SO2−等の硫黄原子を含む構造単位;−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造単位;−HPO4−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造単位;−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造単位;−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−等のチタン原子を含む構造単位;−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子等の金属原子を含む構造単位などが挙げられる。これらの構造単位中、Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基であることが好ましい。またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、特に好ましくは1〜10である。これらのうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、さらには炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に炭素数1の炭化水素鎖が好ましい。
【0033】
上記(1)式で表される側鎖1,2−ジオール単位における最も好ましい構造は、R1〜R6のすべて水素原子であり、Xが単結合である構造単位である。すなわち、下記式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【化1a】

【0034】
以上のような側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)は、側鎖1,2−ジオール単位を有しないビニルアルコール系樹脂と比較して融点が低く、延伸性に優れ、高倍率の延伸処理を施すことができる。
【0035】
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)中の側鎖1,2−ジオール単位の含有量は、通常0.1〜30モル%であり、好ましくは0.5〜25モル%であり、特に好ましくは1〜20モル%である。側鎖1,2−ジオール単位の含有量が少なすぎると、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の伸びが低下し、延伸時にビニルアルコール系樹脂含有層が破断しやすくなったり、延伸できても波状のスジが発生して、延伸フィルムの外観が悪くなる傾向がある。一方、側鎖1,2−ジオール単位の含有量が多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
ここで、側鎖1、2−ジオール単位量は、1H−NMRの測定結果より算出することができる。
【0036】
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)を構成するビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル系重合体のケン化物としてのポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)及びエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物としてのEVOH系樹脂を含む概念である。すなわち、本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)としては、上記(1)式で表わされる側鎖1,2−ジオール単位を含有する側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂のほか、側鎖1,2−ジオール単位を含有するEVOH系樹脂が挙げられる。
【0037】
上記側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、ビニルエステルモノマー、側鎖1,2−ジオール単位となるモノマー、及びPVAとしての特性を損なわない範囲で含まれ得るビニルエステルと共重合可能なモノマーとの重合体のケン化物であり、ビニルアルコール構造単位、側鎖1,2−ジオール構造単位、共重合可能なモノマーに由来する構造単位、および残存したビニルエステル構造単位を有するポリマーである。かかるポリマーは通常、ビニルアルコール構造単位及び側鎖1,2−ジオール構造単位の含有合計が80〜100モル%である。
【0038】
上記側鎖1,2−ジオール含有EVOH系樹脂は、エチレン、ビニルエステルモノマー、側鎖1,2−ジオール単位となるモノマー、及びEVOH樹脂としての特性を損なわない範囲で含まれ得るビニルエステル及び/又はエチレンと共重合可能なモノマーとの共重合体のケン化物であり、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位、側鎖1,2−ジオール構造単位、共重合可能なモノマーに由来する構造単位、および残存したビニルエステル構造単位を有するポリマーである。
かかるポリマーは、通常、上記エチレン構造単位の含有率が通常20〜60モル%であり、好ましくは20〜50モル%であり、特に好ましくは25〜48モル%である。エチレン構造単位の含有率が低すぎた場合、吸湿性が高くなるため、高湿度条件下でのガスバリア性が低下したり、外観が悪化する傾向にある。逆にエチレン構造単位の含有率が高くなりすぎると、OH基に基づくガスバリア性が低下する傾向にある。また、かかるポリマーは通常、ビニルアルコール構造単位及び側鎖1,2−ジオール構造単位の含有合計が40〜80モル%である。
【0039】
上記ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等があげられるが、これらのうち、経済面から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0040】
PVAとしての特性を損なわない範囲で上記ビニルエステルモノマーと共重合可能なモノマー、EVOHとしての特性を損なわない範囲でビニルエステル及び/又はエチレンと共重合可能なモノマー(以下、これらをまとめて「他の共重合可能モノマー」という)としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、グリセリンモノアリルエーテル、エチレンカーボネート等を用いることができる。さらに、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有単量体、アセトアセチル基含有単量体等を用いることができる。これらのモノマーは、単独でまたは2種以上を同時に用いてもよい。
【0041】
本発明に用いるビニルアルコール系樹脂(A)は、最も好ましい構造である構造単位(1a)を含有するビニルアルコール系樹脂を例とすると、[1]側鎖1,2−ジオール単位を供給できるコモノマーとして3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−3−オール−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン等を用い、これらとビニルエステルモノマー(EVOH樹脂の場合にはさらにエチレン)と共重合して共重合体を得、次いでこれをケン化する方法;[2]側鎖1,2−ジオール単位を供給できるコモノマーとしてビニルエチレンカーボネート等を用い、これらとビニルエステルモノマー(EVOH樹脂の場合にはさらにエチレン)と共重合して共重合体を得、次いでこれをケン化、脱炭酸する方法;[3]側鎖1,2−ジオール単位を供給できるコモノマーとして2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン等を用い、これらとビニルエステル系モノマー(EVOH樹脂の場合にはさらにエチレン)と共重合して共重合体を得、次いでケン化、脱アセタール化する方法等により製造することができる。
【0042】
上記製造方法のうち、[1]の方法を採用することが好ましく、より好ましくは、共重合反応性に優れる点で3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとビニルエステルモノマー(およびエチレン)を共重合して得られた共重合体をケン化する方法である。さらに好ましくは、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンとして、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いる。かかる製造方法によれば、重合が良好に進行し、側鎖1,2−ジオール単位をビニルアルコール系樹脂の主鎖中に均一に導入しやすく、結果として未反応モノマーが少なくなり、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層に含まれる不純物を減らすことができるという利点がある。
【0043】
具体的に説明すると、酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701である。これは〔2〕のビニルエチレンカーボネートを用いた場合の各モノマーの反応性比、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較すると、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの方が酢酸ビニルとの共重合反応性に優れていることがわかる。
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)である。〔2〕の方法で用いるビニルエチレンカーボネートのCx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、〔3〕の方法で用いる2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランのCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)と比較すると、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数が小さく、重合度が上がりにくくなったり、重合速度低下の原因となりにくいことがわかる。
【0044】
さらに、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いた場合、得られる共重合体をケン化したときに生成される副生物は、酢酸ビニル構造単位に由来する副生物と同一である。したがって、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを用いる[1]の方法では、後処理に特別な装置や工程を設ける必要がないという工業的利点もある。
【0045】
一方、[2]の製法により製造された側鎖1,2−ジオール単位を有するビニルアルコール系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸が不充分な場合には側鎖にカーボネート環が残存し、溶融成形時に脱炭酸され、樹脂が発泡する原因となる傾向がある。また、[3]により製造された側鎖1,2−ジオール単位を有するビニルアルコール系樹脂も、製造方法[2]によるものと同様に、側鎖に残存したモノマー由来の官能基(アセタール環)が溶融成形時に脱離して、臭気が発生する傾向があるため、これに留意して使用する必要がある。
【0046】
なお、〔1〕の方法の原料として用いる3,4−ジオール−1−ブテンは、イーストマンケミカル社から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは工業生産用ではイーストマンケミカル社、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。1,4―ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することも出来る。原料として用いられる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンには、少量の不純物として3,4−ジアセトキシ−1−ブタンや1,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−1−ブタン等を含んでいても良い。
【0047】
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)は、主として、上記のようにして得られる。
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度(ビニルアルコール系樹脂中のビニルエステル構造単位のうち、ケン化によりビニルアルコール構造単位となっているものの含有量)は特に限定されないが、通常90〜100モル%であり、好ましくは95〜100モル%であり、特に好ましくは99〜100モル%である。ケン化度が低すぎると、ガスバリア性や耐湿性が低下する傾向がある。
【0048】
以上のような構成を有する側鎖1、2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の融点は、通常100〜220℃であり、好ましくは130〜200℃であり、特に好ましくは150〜190℃である。
【0049】
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は210℃、荷重2160gにおいて、通常0.1〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜35g/10分である。MFRが小さすぎた場合、成形時に押出機内が高トルク状態となって押出加工が困難となる傾向があり、逆に大きすぎると得られるビニルアルコール系樹脂(A)含有層の厚み精度が低下する傾向がある。
【0050】
ビニルアルコール系樹脂(A)含有層に用いられる側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)は、1種類だけでなく、ケン化度が異なる側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)、分子量が異なる側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)、PVA系樹脂又はEVOH系樹脂を構成する他の共重合モノマーの種類が異なっている側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)など、2種類以上の側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)として、側鎖1,2−ジオール含有EVOH系樹脂を用いる場合、エチレン構造単位の含有量が異なるものを併せて用いてもよい。エチレン構造単位の含有量が異なるものを併せて用いる場合、その他の構造単位は同じであっても異なっていてもよいが、そのエチレン含有量差は通常1モル%以上、好ましくは2モル%以上、特に好ましくは2〜20モル%である。かかるエチレン含有量差が大きすぎると延伸性が不良となる場合がある。
【0052】
さらに、側鎖1,2−ジオール単位を含有していないPVA系樹脂やEVOH系樹脂が混合されていてもよい。ビニルアルコール系樹脂(A)含有層を構成するビニルアルコール系樹脂が側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂と他のビニルアルコール系樹脂との混合物の場合、側鎖1,2−ジオール単位の含有量が、混合物全体の平均値として、通常、0.1〜30モル%、好ましくは0.5〜25モル%、より好ましくは1〜20モル%となるような割合で混合されることが好ましい。
【0053】
異なる2種以上の側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)をブレンドして用いる場合、そのブレンド物の製造方法は特に限定しない。例えばケン化前のビニルエステル系共重合体の各ペーストを混合後ケン化する方法;ケン化後のビニルアルコール系樹脂をアルコールまたは水とアルコールの混合溶媒に溶解させた溶液を混合する方法;各ビニルアルコール系樹脂のペレットまたは粉体を混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0054】
ビニルアルコール系樹脂(A)含有層は、以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂単独で構成してもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ビニルアルコール系樹脂以外の他のポリマー、各種添加剤、さらに不可避的に含有されるビニルアルコール系樹脂(A)製造のためのモノマー残渣やモノマーのケン化物、いわゆる不純物が含まれていてもよい。
【0055】
不可避的不純物としては、具体的には、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3,4−ジオール−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−オール−1−ブテン、4−アセトキシ−3−オール−1−ブテン等が挙げられる。
【0056】
添加剤としては、例えば、飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10,000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤、不溶性無機塩(例えばハイドロタルサイト等)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなどの可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)、酸素吸収剤等が挙げられる。
【0057】
さらに、上記添加剤以外に、溶融成形時の熱安定性等の各種物性を向上させるために、酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸類またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩、また、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸類、またはこれらのこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム、マグネシウム等)などの塩等の添加剤を添加してもよい。これらのうち、特に、酢酸やホウ酸およびその塩を含むホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加することが好ましい。
【0058】
酢酸を添加する場合、その添加量は、ビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して通常0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.2重量部、特に好ましくは0.010〜0.1重量部である。酢酸の添加量が少なすぎると、酢酸の含有効果が十分に得られない傾向があり、逆に多すぎると均一なフィルムを得ることが難しくなる傾向がある。
【0059】
また、ホウ素化合物を添加する場合、その添加量は、ビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対してホウ素換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.001〜1重量部であり、好ましくは0.002〜0.2重量部であり、特に好ましくは0.005〜0.1重量部である。ホウ素化合物の添加量が少なすぎると、ホウ素化合物の添加効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。
【0060】
また、酢酸塩、リン酸塩(リン酸水素塩を含む)の添加量としては、ビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して金属換算(灰化後、ICP発光分析法にて分析)で通常0.0005〜0.1重量部、好ましくは0.001〜0.05重量部、特に好ましくは0.002〜0.03重量部であり、かかる添加量が少なすぎるとその含有効果が十分に得られないことがあり、逆に多すぎると均一なフィルムを得るのが困難となる傾向がある。尚、ビニルアルコール系樹脂(A)に2種以上の塩を添加する場合は、その総計が上記の添加量の範囲にあることが好ましい。
【0061】
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)にホウ素化合物、酢酸塩、リン酸塩を添加する方法については、特に限定されず、i)含水率20〜80重量%の側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の多孔性析出物を、添加物の水溶液と接触させて、添加物を含有させてから乾燥する方法;ii)側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の均一溶液(水/アルコール溶液等)に添加物を含有させた後、凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、さらに乾燥処理をする方法;iii)側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)と添加物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法;iv)側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸等の有機酸類で中和して、残存する酢酸等の有機酸類や副生成する塩の量を水洗処理により調整したりする方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、添加物の分散性に優れるi)、ii)の方法、有機酸およびその塩を含有させる場合はiv)の方法が好ましい。
【0062】
ビニルアルコール系樹脂(A)含有層用組成物は、以上のようなビニルアルコール系樹脂(A)、さらに必要に応じて添加される他のポリマー、添加剤などを配合し、溶融混練することにより調製できる。ビニルアルコール系樹脂(A)含有層が側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の特性を保持しているように、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層用組成物における側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の含有率は、70重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。従って上記添加剤の配合量は、総量で通常30重量%未満であり、好ましくは20重量%未満であり、より好ましくは10重量%未満である。
【0063】
<熱可塑性樹脂(B)含有層>
熱可塑性樹脂(B)含有層に用いる熱可塑性樹脂(B)は、融点が125〜300℃、好ましくは135〜250℃であり、市場入手性の点、さらに耐湿性に優れているという点から、特に145〜200℃の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。融点125℃未満の熱可塑性樹脂を用いた多層延伸フィルムの外観を改善すべきといった要請が少ない一方、ポリプロピレン系樹脂に関しては、融点が低いほど、エチレンなどの共重合単位が含まれたランダムコポリマーとなり、耐湿性が劣る傾向にあることから、融点145℃以上のポリプロピレン系樹脂を用いたいという要求がある。また、融点が145〜200℃の熱可塑性樹脂は、側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の融点に近い融点を有しているという点でも好ましい。
【0064】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(B)としては、通常、側鎖1,2−ジオール単位を有するビニルアルコール系樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリプロピレン、αオレフィン変性ポリプロピレン(αオレフィンとしては、プロピレンを除く炭素数2〜20のエチレン性不飽和結合を有する炭化水素化合物)等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等の脂肪族炭化水素系樹脂、ポリスチレン、ポリアリルベンゼン等の芳香族炭化水素系樹脂、及び/又はこれらを不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の炭化水素系樹脂;アイオノマー、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、芳香族または脂肪族ポリケトン、更にこれらを還元して得られるポリアルコール類が挙げられる。得られる多層延伸フィルムに優れた強度及び疎水性を付与できるという点から、炭化水素系樹脂を用いることが好ましく、より好ましくは脂肪族炭化水素系樹脂、特に好ましくはポリプロピレン系樹脂が用いられる。
【0065】
熱可塑性樹脂(B)含有層には、本発明の趣旨を阻害しない範囲において、従来知られているような一般的添加剤、例えば酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等が含有されていてもよい。これらの添加剤が含有される場合、熱可塑性樹脂(B)含有層における熱可塑性樹脂(B)の含有量は、通常70重量%以上であり、好ましくは80重量%以上となる量である。従ってこれら添加剤の含有量は、総量で通常30重量%未満であり、好ましくは20重量%未満である。
【0066】
<接着性樹脂(C)層>
接着性樹脂(C)層に用いられる接着性樹脂(C)について説明する。
本発明の方法で用いる接着性樹脂(C)は、延伸温度よりも高い融点を有する熱可塑性樹脂である。ここで、延伸温度とは、延伸時の積層体の中央部において、当該積層体から垂直方向へ1cm離れた位置における雰囲気温度を熱伝対式温度計で測定した値をいう。
【0067】
接着性樹脂(C)として、延伸時に軟化しても融けない熱可塑性樹脂を用いることにより、融点125℃以上の熱可塑性樹脂(B)含有層と、側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)層との積層体を高倍率で延伸しても、波状のスジ等が現れない多層延伸フィルムが得られる。その理由、機構は明らかではないが、軟化したフィルム状態で延伸されることにより、延伸力が接着性樹脂層全体に均一に分散され、平面性を保持できるためではないかと考えられる。
【0068】
接着性樹脂(C)の融点は、延伸時の延伸温度よりも高い温度であればよく、通常、延伸温度よりも1〜40℃高く、延伸温度よりも1〜30℃高いことが好ましい。接着樹脂(C)の融点が延伸温度よりも40℃を超えて高くなりすぎると、延伸時における接着性樹脂(C)層の軟化状態が不十分となり、ひどい場合には、延伸力により破断してしまうおそれがあるからである。
【0069】
本発明で用いる接着性樹脂(C)は、融点が上記範囲の熱可塑性樹脂であればよいが、熱可塑性樹脂(B)含有層と側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)層との接着層の役割から、通常は熱可塑性樹脂(B)に類似した構造を有する樹脂で、且つ側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)層と親和性を有するような極性基を有する樹脂が好ましく用いられる。
【0070】
具体的には、アクリル酸エステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、熱可塑性樹脂(B)に炭化水素樹脂を適用する場合には、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。かかるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等の脂肪族ポリオレフィン系樹脂が挙げられるが、好ましくはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂であり、特に好ましくはポリプロピレン系樹脂である。
【0071】
カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂とは、ポリオレフィン系樹脂に、不飽和カルボン酸またはその無水物を、付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られる樹脂である。
ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィンモノマーのホモポリマーまたはコポリマーのほか、本発明の趣旨を阻害しない範囲において、オレフィンモノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合したコポリマーも包含する概念である。
【0072】
上記共重合可能なモノマーとしては、例えば、炭素数2〜20のエチレン性不飽和結合を有する炭化水素化合物が挙げられる。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、3−メチル−ブテン−1、3−メチル−ペンテン−1、ヘキセン、オクテン、デセン等の脂肪族オレフィン類、スチレン、アリルベンゼン等の芳香族オレフィン類、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロペンタン、シクロヘキセン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等の環状オレフィン類、ブタジエン、1,5−ヘキサジエンなどの脂肪族ジオレフィン類、ジビニルベンゼン等の芳香族ジオレフィン類、エチルアクリレート類、酢酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。これらのオレフィンは、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を同時に用いても良い。これらのうち好ましいのは脂肪族オレフィン類である。特に、カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂を用いる場合は、エチレンを共重合することも好ましい。
【0073】
ポリオレフィン系樹脂の変性に用いる不飽和カルボン酸またはその無水物としては、特に限定しないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸などのモノ不飽和カルボン酸類およびその無水物、あるいはフマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸類およびその無水物が挙げられる。
カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂に含有される不飽和カルボン酸又はその無水物の量は、通常0.001〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.03〜0.5重量%である。該変性物中の変性量が少ないと、接着性が不充分となることがあり、逆に多いと架橋反応を起こし、成形性が悪くなる傾向がある。
【0074】
以上のような構成を有する接着性樹脂(C)の融点は、接着性樹脂(C)を構成する主となる化合物の融点に依存する。例えば接着性樹脂(C)がカルボン酸変性ポリオレフィン樹脂の場合、主成分となるポリオレフィン系樹脂の組成に依存する。一般的に炭素数が多いαオレフィンを共重合すると融点が低くなるという傾向があり、αオレフィンの共重合割合が高いほど融点が低くなる。したがって、本発明で用いられる接着性樹脂(C)としては、本発明の要件を充足する融点を有するように、オレフィンモノマーの種類や共重合割合を適宜調節したランダム共重合体又はブロック共重合体を用いればよい。
【0075】
なお、接着性樹脂(C)層としては、上記要件を充足する融点を有する1種類の樹脂だけで構成してもよいし、2種類以上の樹脂を混合してもよい。さらに、PVA系樹脂、ポリイソブチレン、αオレフィン−プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、さらには他の熱可塑性樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂の場合、接着性樹脂(C)の主成分として用いたポリオレフィン樹脂とは異なるポリオレフィン樹脂をブレンドすることもある。
【0076】
<積層体>
本発明の製造方法で用いられる積層体は、上記側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と、上記熱可塑性樹脂(B)含有層とが、接着性樹脂(C)層を介して積層されたものである。
【0077】
積層方法としては、例えばビニルアルコール系樹脂(A)含有フィルム、シート等に熱可塑性樹脂(B)含有層用組成物を溶融押出ラミネートする方法、逆に熱可塑性樹脂(B)含有フィルム、シートにビニルアルコール系樹脂(A)含有層用組成物を溶融押出ラミネートする方法、また、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層用組成物と熱可塑性樹脂(B)含有層用組成物とを共押出する方法が挙げられるが、多層フィルムとして延伸性が良好な点で共押出する方法が好ましい。ここで、PVA系樹脂は、一般に、溶融押出成形できない樹脂として知られているが、本発明で用いる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の場合、ビニルアルコール単位が80モル%以上であっても、側鎖1,2−ジオール単位を含むことにより溶融押出成形が可能となっている。
【0078】
共押出法においては、例えばインフレーション法、Tダイ法マルチマニーホールドダイ法、フィードブロック法、マルチスロットダイ法が挙げられる。ダイ外接着法等のダイスの形状としてはTダイス、丸ダイス等を使用することができ、溶融押出時の溶融成形温度は、通常150〜300℃である。
【0079】
本発明の製造方法で用いられる積層体は、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層用の少なくとも一面に熱可塑性樹脂(B)含有層が接着性樹脂(C)を介して積層されていればよく、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層をa(a1、a2、・・・)、熱可塑性樹脂(B)含有層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等任意の組み合わせが可能である。
さらに、積層体がビニルアルコール系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の混合物からなるリグラインド層を有する場合は、該リグラインド層をRとするとき、b/R/a、b/R/a/b、b/R/a/R/b、b/a/R/a/b、b/R/a/R/a/R/b等とすることも可能である。
また、これらの積層体は、任意の位置に、他のビニルアルコール系樹脂や、熱可塑性樹脂層に用いた樹脂とは異なる熱可塑性樹脂を含有する層を設けても良い。
【0080】
以上のような構成を有する積層体の厚みは、通常70〜15000μmであり、好ましくは220〜7500μmである。積層体の各層の厚みは、層構成、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の厚みは通常7〜7500μmであり、好ましくは35〜3000μmである。熱可塑性樹脂(B)含有層の厚みは通常70〜13500μmであり、好ましくは220〜6000μmである。接着性樹脂(C)層の厚みは通常7〜7500μmであり、好ましくは7〜1500μmの範囲から選択される。
【0081】
また、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と接着性樹脂(C)層の厚みは、通常、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の方が厚く、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層/接着性樹脂(C)層として、通常、1〜100、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10である。
また、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と熱可塑性樹脂(B)含有層の厚みは、多層延伸フィルム中の同じ樹脂層の厚みを全て足し合わせた状態で、通常、熱可塑性樹脂(B)含有層の方が厚く、熱可塑性樹脂(B)含有層/ビニルアルコール系樹脂(A)含有層として、通常1〜100、好ましくは3〜20、より好ましくは6〜15である。
【0082】
<多層延伸フィルムの製造>
本発明の多層延伸フィルムの製造方法は、上記のような積層体を延伸する方法である。
積層体の延伸温度、すなわち延伸時の積層体の中央部において、フィルムから垂直方向へ1cm離れた位置における雰囲気温度を熱伝対式温度計で測定した温度は、側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)層及び熱可塑性樹脂(B)層の融点よりも低い温度である。通常、延伸温度は、熱可塑性樹脂(B)の融点未満、乃至当該融点よりも40℃程度と低くなる範囲で選択することが好ましい。積層体において、通常、熱可塑性樹脂(B)層がもっとも厚い層となるため、積層体の延伸倍率は熱可塑性樹脂(B)の延伸性要因に支配される割合が高くなるからである。
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の融点、熱可塑性樹脂(B)含有層の融点は、各層の厚み比にもよるが、側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)の融点と、熱可塑性樹脂(B)の融点とがほぼ同程度となるような組み合わせが好ましく用いられることから、延伸温度としては、通常40〜250℃、好ましくは100〜180℃、特に好ましくは120〜165℃、殊に好ましくは145〜165℃の範囲から選択される。延伸温度が積層体を構成する各層の融点と比べて低すぎた場合には、各層が延伸されにくくなり、ひどい場合には各層のフィルム破断が起こることがある。
【0083】
延伸を多段階にて行なう場合は、各段階の延伸温度のうち、最も高温の延伸温度が、上記要件を充足する必要がある。
【0084】
延伸倍率は、特に限定しないが、本発明の積層体を構成している側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)は、従来の側鎖1,2−ジオール単位を含有しないビニルアルコール系樹脂と比べて伸びやすいことから、熱可塑性樹脂(B)層に応じて、高倍率の延伸を行うことが可能である。具体的には、面積倍率で、15〜100倍、好ましくは20〜85倍、特に好ましくは30〜70倍である。従来、15倍以上の延伸倍率のときに、得られる多層延伸フィルム外観が波状になったり、破断したりするという問題があったが、本発明の方法では、接着性樹脂(C)層を介して延伸時の張力、負荷を積層体全体に均一に分散させることができるので、側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール(A)含有層も、熱可塑性樹脂(B)層の伸びに追随することが可能となる。
【0085】
延伸処理は、一般的な処理方法が採用可能であり、例えば、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよい。二軸延伸の場合は同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる。延伸方法は特に限定せず、公知の延伸方法、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等を採用できる。延伸は、チャック、プラグ、圧空力等を利用して行うことができる。
【0086】
本発明の多層延伸フィルムの製造方法において、延伸処理の終了後、熱固定を行うことが好ましい。熱固定は周知の手段で実施可能である。得られた延伸フィルムを、たるみなく緊張状態を保ちながらフィルム近傍の雰囲気温度にて通常80〜135℃、好ましくは100〜120℃にて、通常2〜600秒間程度、静置することにより行う。
【0087】
本発明の製造方法によれば、延伸時に接着性樹脂(C)層が融けずに、フィルム形状を保持した状態にある。かかる状態で、側鎖1、2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と熱可塑性樹脂(B)含有層との積層体を延伸すると、延伸した場合に多層フィルム中の全ての層が均一に伸ばされた、外観が優れた多層延伸フィルムが得られる。その理由、機構は明らかでないが、融けずに軟化したフィルム状態の接着性樹脂(C)層が、側鎖1、2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)含有層及び熱可塑性樹脂(B)含有層とともに延伸される際、延伸時に発生する負荷を、接着性樹脂(C)層を介してフィルム全体に均一に分散できたためと考えられる。
【0088】
以上のようにして得られる延伸多層フィルムの厚みは、通常5〜1000μmであり、好ましくは15〜500μmである。延伸多層フィルムの各層の厚みは、層構成、用途や包装形態、要求される物性などにより一概に言えないが、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層は通常0.5〜500μmであり、好ましくは2.5〜200μmである。熱可塑性樹脂(B)含有層は通常5〜900μmであり、好ましくは15〜400μmである。接着性樹脂(C)層は通常0.5〜500μmであり、好ましくは0.5〜100μmの範囲から選択される。
また、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と接着性樹脂(C)層の厚みは、通常ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の方が厚く、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と接着性樹脂(C)層の厚み比(ビニルアルコール系樹脂(A)含有層/接着性樹脂(C)層)は、通常1〜100、好ましくは1〜50、特に好ましくは1〜10である。
また、多層延伸フィルムにおいて、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の厚み総計よりも、熱可塑性樹脂(B)含有層の厚み総計の方が大きく、その厚み総計比(熱可塑性樹脂(B)含有層/ビニルアルコール系樹脂(A)含有層)は、通常1〜100、好ましくは3〜20、特に好ましくは6〜15である。
【0089】
本発明の延伸多層フィルムは、本発明の製造方法により製造される多層延伸フィルムである。延伸処理後、他の基材をさらに積層してもよい。他の基材としては、紙、金属箔、一軸若しくは二軸延伸プラスチックフィルム又はシート、及びこれらのフィルム若しくはシートの無機物蒸着物、織布、不織布、金属綿状体、木質片等を用いることができる。このような他の基材は、延伸多層フィルム上に押出コートしたり、接着性樹脂を用いてラミネート等することによって積層することができる。
【0090】
本発明の多層延伸フィルムは、外観に優れ、しかも高延伸倍率により高いガスバリア性を有しているので、食品、医薬品、工業薬品、農薬等各種の包装材料として有用である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0092】
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で採用した測定、評価方法について説明する。
(1)多層延伸フィルムの外観
得られた多層延伸フィルムを目視観察して、その外観性を以下のとおり評価した。
○・・・延伸ムラ、偏肉が認められず、外観良好である。
△・・・延伸ムラ、偏肉が認められ外観不良であるが、延伸時に破断なし。
×・・・延伸時に破断し、延伸フィルムを得る事ができない。
【0093】
(2)層間接着性
得られた多層延伸フィルムをカッターで切断して、その切断面を以下のとおり評価した。
○・・・層間剥離が認められず、接着性良好である。
×・・・層間が剥離し、接着性が不良である。
【0094】
(3)積層体の雰囲気温度
以下の実施例に示される積層体の雰囲気温度は、対象とする積層体の中央部において、垂直方向で1cm離れた位置における雰囲気温度を熱伝対式温度計で測定した温度である。
【0095】
〔多層延伸フィルムの作製及び評価〕
実施例1:
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)としてEVOH樹脂[エチレン含有量38mol%、ケン化度99.8mol%、側鎖1,2−ジオール単位(1a)含有量0.7mol%、MFR4.0g/10min(210℃、2160g)]を用いた。また、熱可塑性樹脂(B)として、日本ポリプロピレン社製の「ノバテックPP FL6CK」(融点160℃のポリプロピレン系樹脂)を用いた。さらに、接着性樹脂(C)としては、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂(融点161℃)を用いた。
以上のような側鎖1、2−ジオール含有EVOH樹脂(A)、ポリプロピレン系樹脂(B)、接着性樹脂(C)を、フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、ポリプロピレン系樹脂層/接着性樹脂層/EVOH樹脂層/接着性樹脂層/ポリプロピレン系樹脂層の層構成(厚み200/30/60/30/200μm)を有する積層体を共押出法によって得た。
【0096】
得られた積層体を、雰囲気温度にて155℃で2分間予熱した後、同温度で200mm/secの延伸速度で、縦方向に7倍、横方向に7倍(延伸倍率:49倍)の同時二軸延伸を行った。延伸処理後、積層体の雰囲気温度にて110℃で3分間の熱処理を行って、多層延伸フィルムを得、上記測定評価方法に基づいて、外観及び層間接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
比較例1、2:
接着性樹脂(C)として、表1に示すような融点を有するマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして多層延伸フィルムを作成し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1から、延伸温度よりも高い融点を有する接着性樹脂を用いた実施例1の外観は優れていたが、延伸温度よりも低い融点を有する接着性樹脂を用いた比較例1、2はいずれも外観を満足することができなかった。特に、接着性樹脂の融点と延伸温度の差が33℃もある比較例1は、その差が10℃である比較例2よりも外観が劣っていた。比較例1では、接着性樹脂が流体となり、さらにその粘度が下がったためか、延伸時に多層フィルムが破断してしまった。接着性樹脂層が軟らかすぎて、延伸時の負荷をフィルム全体に均一に分散することができなかったためと考えられる。
【0100】
実施例2、比較例3、4:
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)として、エチレン含有量38mol%、ケン化度99.8mol%、側鎖1,2−ジオール単位(1a)含有量1.5mol%、MFR4.0g/10min(210℃、荷重2160g)であるEVOH樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして多層延伸フィルムを作成し、評価した。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
側鎖1,2−ジオール単位(1a)含有量1.5mol%のEVOH樹脂を用いた場合も、側鎖1,2−ジオール単位含有量0.7mol%のEVOH樹脂を用いた場合と同様に、延伸温度よりも高い融点を有する接着性樹脂を用いた実施例2の多層延伸フィルムの外観は優れていたが、融点が延伸温度よりも低い接着性樹脂を用いた比較例3,4の多層延伸フィルムの外観は、波状のスジが認められた。
なお、比較例3では、比較例1と同様に、延伸温度と接着性樹脂の融点の温度差が33℃の場合であるが、側鎖1,2−ジオール含有率の高い、より延伸性に優れたビニルアルコール系樹脂(A)を用いたことで、延伸時における多層フィルムの破断が防止されたと思われる。
【0103】
実施例3:
熱可塑性樹脂(B)として、日本ポリプロピレン社製の「ノバテックPP FX4G」(融点125℃のポリプロピレン系樹脂)を用いた。また、接着性樹脂(C)として、比較例1で用いた接着性樹脂(融点122℃のマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂)を用いた以外は、実施例2と同様にして多層積層体を作成した。
積層体の雰囲気温度にて120℃で2分間予熱後、当該温度を保持した状態で200mm/secの延伸速度で、縦方向に7倍、横方向に7倍(延伸倍率:49倍)の同時二軸延伸を行った。延伸後、雰囲気温度にて110℃で、3分間の熱処理を行って多層延伸フィルムを得、上記評価方法に基づいて、外観、層間接着性を評価した。結果を表3に示す。
【0104】
比較例5
接着性樹脂(C)として、エマレイン酸変性チレンビニルアセテート系樹脂(融点98℃)を用いた以外は実施例3と同様にして多層延伸フィルムを作成し、同様に評価した。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

【0106】
接着性樹脂(C)として、熱可塑性樹脂(B)の融点よりも低い融点を有する樹脂を用いた場合であるが、このような場合であっても、接着性樹脂の融点が延伸温度よりも高い実施例3の多層延伸フィルムの外観は優れていたのに対し、延伸温度よりも低い融点を有する接着性樹脂を用いた場合(比較例5)では、得られた多層延伸フィルムに波状のスジが認められた。
また、実施例2と実施例3とは、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層が同じで、融点の異なる熱可塑性樹脂(B)含有層を用いた積層体の場合である。延伸温度は、熱可塑性樹脂(B)含有層の融点以下となるように設定され、接着性樹脂(C)としては延伸温度よりも高い融点を有する樹脂が用いられている。いずれの積層体も外観が優れていたことから、ビニルアルコール系樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との多層延伸フィルムの製造には、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層と延伸温度との差を小さくすることよりも、接着性樹脂の選択が重要であることがわかる。
【0107】
実施例4、5及び比較例6
側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂(A)として、エチレン含有量38mol%、ケン化度99.8mol%、側鎖1、2−ジオール単位(1a)含有量3.0mol%、MFR4.0g/10min(210℃、2160g)のEVOH樹脂を使用し、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層の形成のために、未変性EVOH〔エチレン含有量38mol%、ケン化度99.6mol%、構造単位(1a)含有量0mol%、MFR4.0g/10min(210℃、荷重2160g)〕を50/50の割合でブレンドしたEVOH樹脂組成物を用いた。従って、ビニルアルコール系樹脂(A)含有層としての側鎖1,2−ジオール含有率は1.5mol%となる。
熱可塑性樹脂(B)として、日本ポリプロピレン社製の「ノバテックPP FX4E」(融点131℃のポリプロピレン系樹脂)を用いた。
接着性樹脂(C)として、表4に示すような融点を有するマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂をそれぞれ用いた。
【0108】
フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に、上記樹脂(又は組成物)をそれぞれ供給して、ポリプロピレン系樹脂層/接着性樹脂層/EVOH組成物層/接着性樹脂層/ポリプロピレン系樹脂層の層構成(厚み360/45/90/45/360μm)を有する積層体を共押出法によって得た。
【0109】
得られた積層体を、雰囲気温度にて130℃で2分間予熱後、同温度で200mm/secの延伸速度で、縦方向に7倍、横方向に7倍(延伸倍率:49倍)の同時二軸延伸を行った。延伸後、雰囲気温度にて110℃で3分間の熱処理を行って、多層延伸フィルムを得、上記評価方法に基づいて、外観、層間接着性を評価した。結果を表4に示す。
【0110】
【表4】

【0111】
延伸温度よりも高い融点を有する接着性樹脂を用いた実施例4、5の多層延伸フィルムは、優れた外観を有していた。一方、比較例6は、接着性樹脂の融点と延伸温度との差が8℃であって、実施例4(温度差31℃)、実施例5(温度差10℃)よりも温度差が小さいにもかかわらず、得られた多層延伸フィルムには波状のスジが認められた。これらの結果から、高倍率で延伸する場合、接着性樹脂として、延伸時に流体とならない樹脂を用いることが有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の製造方法によれば、ガスバリア性に優れた側鎖1,2−ジオール含有ビニルアルコール系樹脂含有層とポリプロピレン樹脂等の融点125℃以上の熱可塑性樹脂含有層とを接着性樹脂層を介して積層した多層積層体を、高倍率で延伸しても、厚みの均一性が高く、外観に優れた多層延伸フィルムを製造することができる。従って、本発明の製造方法を用いることにより、高度なガスバリア性、機械的強度等のフィルム特性、且つ外観に対する要求も高い、食品や医薬品等の包装用フィルムの製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式で表わされる側鎖1,2−ジオール単位を含有するビニルアルコール系樹脂(A)を含有する層の少なくとも片面に、接着性樹脂層(C)を介して、融点125〜300℃の熱可塑性樹脂(B)を含有する層を積層してなる積層体を、加熱下、少なくとも1軸方向に延伸した多層延伸フィルムの製造方法において、
前記接着性樹脂(C)として、前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有する樹脂を用いることを特徴とする多層延伸フィルムの製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、R1〜R6はそれぞれ独立して水素原子又は有機基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
【請求項2】
前記ビニルアルコール系樹脂(A)含有層における前記側鎖1,2−ジオール単位の含有率が0.1〜30モル%である請求項1に記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ビニルアルコール系樹脂(A)は、ポリビニルアルコール系樹脂又はエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物である請求項1〜2のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ビニルアルコール系樹脂(A)は、エチレン構造単位を20〜60モル%含有するエチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物である請求項1〜3のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸は、前記積層体の延伸温度40〜250℃で且つ前記ビニルアルコール系樹脂(A)含有層及び前記熱可塑性樹脂(B)含有層の融点よりも低い温度で行う請求項1〜4のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記接着性樹脂(C)の融点は、前記延伸温度よりも1〜40℃高い請求項1〜5のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記接着性樹脂(C)は、延伸時の前記積層体の延伸温度よりも高い融点を有するカルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(B)の融点が145〜200℃である請求項1〜7のいずれかに記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂(B)は、融点が145〜200℃のポリオレフィン系樹脂である請求項8に記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項10】
延伸倍率が15〜100倍(面積比)である請求項1〜9に記載の多層延伸フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法により製造される多層延伸フィルム。

【公開番号】特開2008−307889(P2008−307889A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113511(P2008−113511)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】