説明

多層成形体の製造方法および多層成形体

【課題】 加飾シートをキャビティ内に配置するとともにキャビティ内に樹脂を注入して、加飾シートの片面に樹脂成形体が一体化した多層成形体を製造する場合において、表面に傷、汚れなどの成形不良を生じさせないとともに、表面の光学的意匠性の低下をも抑制する多層成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 加飾シート14の一方の面に保護フィルム16が設けられた積層シート15を使用して、加飾シート15の片面に樹脂成形体を一体化する一体成形工程を行った後、保護フィルムを剥離する剥離工程を行う。その際、保護フィルム16として、その加飾シート14との接触面16aが、加飾シート14の表面層13の外面13aよりも、ビカット軟化点が小さな材料から形成されたものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内外装部品などの多層成形体の製造方法、該製造方法で得られる多層成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンソールパネル、センタークラスタ、スイッチベースなどの自動車内装部品や、バンパー、サイドマットガード、ホイールキャップ、モールなどの自動車外装部品には、木目調、メタリック調などの絵柄が形成された加飾シートと、樹脂からなる成形体とが一体化した多層成形体が広く使用されている。
このような多層成形体の製造方法としては、金型のキャビティ内に加飾シートを配置するとともにキャビティ内に溶融樹脂を注入することにより、加飾シートと樹脂成形体とを一体化する方法がある。この際、加飾シートは、あらかじめキャビティの形状に沿うように立体成形されてキャビティ内に配置される場合と、平面状のままキャビティ内に配置される場合がある。平面状のまま配置される場合には、溶融樹脂の注入により、加飾シートの立体成形と、加飾シートと樹脂成形体との一体化とが同時に行われる。
【0003】
このように使用される加飾シートとして、例えば特許文献1には、ABS樹脂からなる層(シート層およびバッカー層)の上に絵柄印刷インキ層と、透明アクリル系樹脂シート層とが順次積層したシートが開示されている。
また、このような加飾シートには、表面を光沢のある鏡面調としたり、または艶のない艶消し調にしたりして、光学的意匠性を発揮させたものがある。鏡面調の加飾シートを製造する方法としては、加飾シートの表面を鏡面仕上げされた金属面で押圧、成形する方法などがある。一方、艶消し調の加飾シートを製造する方法としては、透明光拡散性粒子などからなる艶消し剤を透明シートに添加した表面シートを加飾シートの表面に設ける方法や、加飾シートの表面にエンボス加工により物理的に凹凸を形成する方法などがある。さらに加飾シートには、表面を立体加工して、立体的意匠性を発揮させたものもある。具体的な方法としては、エンボス加工の他、表面に樹脂をドット状、ドーム状に印刷する方法などがある。
【0004】
ところが、このように表面に光学的意匠性や立体的意匠性が付与された加飾シートを用いて、上述したような方法で多層成形体を製造すると、このように処理された処理面にキャビティの内面が加熱条件下で直に接して、これを押圧するため、キャビティの内面の表面状態が処理面に転写されるなどして、処理面の光学的意匠性、立体的意匠性が低下してしまうという問題があった。
さらに、加飾シートの表面には帯電により埃などの異物が付きやすく、また、キャビティの内面にはこのような異物や油脂などによる汚れ、しみなどが付着することがあるため、上述の方法で多層成形体を製造した場合、得られた多層成形体の表面に異物、汚れなどが付着したり、傷が付いたりして、成形不良が生じる場合もあった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2および3などに記載されているように、加飾シートの表面に保護フィルムを設けて上述のように成形を行った後、保護フィルムを剥離することで、加飾シートの処理面の光学的意匠性などの低下や、傷、汚れなどの成形不良を抑制する方法がある。
【特許文献1】特開2001−334609号公報
【特許文献2】特開平10−329170号公報
【特許文献3】特開2002−059452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように従来の保護フィルムを加飾シートの表面に設けて成形した場合、傷、汚れなどの成形不良を抑制できたとしても、加飾シートにおける処理面の光学的意匠性や立体的意匠性の低下を十分に抑制できない場合があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、加飾シートをキャビティ内に配置するとともにキャビティ内に樹脂を注入して、加飾シートの片面に樹脂成形体が一体化した多層成形体を製造する場合において、表面に傷、汚れなどの成形不良を生じさせないとともに、表面の光学的意匠性や立体的意匠性の低下をも抑制する多層成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層成形体の製造方法は、加飾シートの一方の面に保護フィルムが設けられた積層シートを、平面状のまま、あるいは立体成形してからキャビティ内に配置するとともに、前記キャビティ内に樹脂を注入して、前記加飾シートの他方の面側に前記樹脂からなる成形体を一体化する一体成形工程と、該一体成形工程の後、前記保護フィルムを剥離する剥離工程とを備えた多層成形体の製造方法であって、前記保護フィルムにおける前記加飾シートとの接触面は、前記加飾シートの一方の面よりもビカット軟化点が小さな材料から形成されていることを特徴とする。
この方法は、前記加飾シートの前記一方の面が、艶消し処理または鏡面処理が施されている場合に適している。
また、前記加飾シートの前記一方の面に、立体加工が施されている場合にも適している。
また、前記加飾シートは、基材層と絵柄層と表面層とが順次積層したものであって、該加飾シートの前記一方の面は前記表面層からなり、前記他方の面は前記基材層からなるものが好ましい。
本発明の多層成形体は、前記いずれかの方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層成形体の製造方法によれば、加飾シートをキャビティ内に配置するとともにキャビティ内に樹脂を注入して、加飾シートの片面に樹脂成形体が一体化した多層成形体を製造する場合において、表面に傷、汚れなどの成形不良がなく、表面の光学的意匠性や立体的意匠性にも優れた多層成形体を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法で製造された多層成形体10の一例であって、基材層11と絵柄層12と表面層13からなる加飾シート14と、樹脂からなる成形体(以下、樹脂成形体という。)20とが一体化した立体形状のものである。この多層成形体10においては、図示のように、加飾シート14の基材層11側に樹脂成形体20が一体化している。また、表面層13の外面13aには、エンボス加工により図示略の凹凸が形成され、艶消し調の意匠性が付与されている。
【0011】
このような多層成形体10を製造する場合には、まず、図2に示すような積層シート15を使用し、金型のキャビティ内においてこの積層シート15と樹脂成形体20とが一体化した多層成形体10を製造する一体成形工程を行う。
この積層シート15は、基材層11、絵柄層12、表面層13が順次積層した加飾シート14と、この加飾シート14の表面層13の外面13aに積層した保護フィルム16とからなるものである。
加飾シート14を構成する基材層11の材質としては特に制限はなく、例えば、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)の他、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのオレフィン系樹脂が例示でき、これらの樹脂からなるシートを使用できる。また、基材層11は、例えばPP/PETなど、複数の樹脂が積層したものでもよく、その場合には複数の樹脂層からなる多層シートを基材層11に使用できる。基材層11の厚さは、樹脂の種類などに応じて適宜設定できるが、多層成形体10とする際の形状追従性に優れることなどから、0.2〜1.0mmが好ましい。
【0012】
絵柄層12は、例えば、各種の印刷法や画像形成法などにより、通常、基材層11上に絵柄を形成する方法で設けられる。印刷法としては、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、静電印刷法などが挙げられ、画像形成法としてはロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、リップコート法、ダイコート法、コンマコート法などの各種コート法、フォトリソグラフ法、電子写真法、転写法などが挙げられる。絵柄層12の厚さには特に制限はないが、通常1〜30μmである。
【0013】
表面層13は、図1に示したように、多層成形体10の最外層となるものであって、この例では、外面13aにエンボス加工により凹凸が形成され、艶消し調の意匠性が付与されている。
表面層13の材質としては、各種熱可塑性樹脂が例示でき、これらからなるシートを表面層13に使用できる。また、表面層13は、複数の樹脂が積層したものでもよく、その場合には複数の樹脂層からなる多層シートを使用できる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、PVC、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、オレフィン系樹脂、ポリエステルなど、絵柄層12が視認できる程度の透明性を備えたものを例示できる。
これらのなかでは、耐候性、透明性、表面硬度、加工性などのバランスに優れることから、アクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂からなるシートが好適に使用できる。
また、表面層13の厚さには特に制限はないが、通常20〜150μmである。
【0014】
表面層13の外面13aに積層する保護フィルム16は、一体成形工程後に行われる剥離工程で剥離されるものであって、加飾シート14との接触面16a、すなわち、凹凸が形成された外面13aとの接触面16aが、この外面13aよりもビカット軟化点が小さな材料から形成されていることが必要である。
このような保護フィルム16を加飾シート14の表面層13の側に設けた積層シート15を使用することにより、後述の一体成形工程において、多層成形体10の表面(表面層13の外面13a)に傷、汚れなどが生じる成形不良や、表面の光学的意匠性の低下、立体的意匠性の低下を抑制できる。
【0015】
図2の積層シート15を用いて多層成形体10を製造する具体的方法としては、図3に概略的に示すように、一対の雄型31と雌型32からなる金型30を用い、そのキャビティ33の所定位置に積層シート15を配置し、型締めした後、雄型31に形成された樹脂注入用ゲート34から溶融した樹脂を注入する。これによって、積層シート11を立体成形するとともに、この積層シート11の基材層11側に樹脂成形体20を成形、一体化する(一体成形工程)。ここで注入する樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂オレフィン系熱可塑性エラストマーなどが例示できる。
その後金型30を冷却し、樹脂成形体20の表面に積層シート15が一体化した成形体をキャビティから取りだし、積層シート15から保護フィルム16を剥離することによって(剥離工程)、図1の多層成形体10が得られる。
なお、一体成形工程と剥離工程の間、または、剥離工程の後に、積層シート15あるいは加飾シート14の不要部分を切除するトリミング加工を適宜行う。
また、このように平面状のまま積層シート15を所定位置に配置する方法の他、必要に応じて一体成形工程の前に、真空成形などにより積層シート15をキャビティ33の形状に沿うようにあらかじめ立体成形する機械加工工程を行って、立体成形された積層シート15を所定位置に配置してもよい。さらには、一体成形工程の前に積層シート15の不要部分をあらかじめ切除するトリミング工程を行ってもよい。
【0016】
このような方法によれば、樹脂成形体20と一体化する際に使用するシートとして、加飾シート14における表面層13の外面13aに保護フィルム16が設けられた積層シート15を使用しているので、一体成形工程において、多層成形体10の表面の成形不良や光学的意匠性の低下、立体的意匠性の低下が生じない。
【0017】
すなわち、このような保護フィルム16を設けることにより、加飾シート14の輸送、保管中などに、表面層13の外面13aへ埃などの異物が付着することを防止でき、その結果、これに起因した傷、汚れなどの成形不良を防止できる。また、このように保護フィルム16が設けられていることにより、一体成形工程において表面層13の外面13aとキャビティ33の内面とは直に接しない。よって、たとえキャビティ33の内面に異物や油脂などによる汚れ、しみなどが付着していたとしても、これに起因した成形不良を抑制できる。
さらに、ここで用いられる保護フィルム16は、加飾シート14との接触面16aが、この加飾シート14の表面層13の外面13aよりもビカット軟化点が小さな材料から形成されているので、一体成形工程において、表面層13の外面13aが保護フィルム16を介してキャビティ33の内面により押圧されても、外面13に形成された凹凸を保護フィルム16が押し潰すことなく吸収する。よって、表面層13の外面13aの光学的意匠性を維持することができる。
なお、ここでビカット軟化点は、JIS K 7206 B50法により測定されたものである。
【0018】
保護フィルム16は、その接触面16aが、このように特定のビカット軟化点を備えた材料から形成されている限り、その材質などに特に制限はない。しかしながら、この保護フィルム16には、積層シート15の輸送および保管時や、一体成形工程、さらにはこの工程の前段側で必要に応じて行われる積層シート15の機械加工工程などにおいては、表面層13から剥がれないことが求められる。また、その一方で、積層シート15と樹脂成形体20とを一体化した後には、容易に表面層13から剥離できることが要求される。さらに保護フィルム16には、キャビティ33内での加熱加工に耐え得る耐熱性を備えていることも必要となる。
よって、保護フィルム16の好適な具体例としては、その接触面16aがエチレン−酢酸ビニル共重合体などからなる自己粘着層により形成され、この自己粘着層とポリエチレンなどのオレフィン層とが積層した溶融2層押出しによる2層フィルムが挙げられる。このような2層フィルムからなる保護フィルムによれば、剥離工程の前までは表面層13に確実に密着し、かつ、剥離工程においては容易に剥離する、密着性と剥離性との両立が可能となる。さらにこのような2層フィルムは透明性をも備えているため、一体成形工程と剥離工程との間に、多層成形体10の表面状態をこのフィルムを通して製品検査することもできる。
【0019】
また、保護フィルム16の接触面16aを形成する好適なその他の材料としては、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂が挙げられる。
低密度ポリエチレンとしては、線状低密度ポリエチレン(LL)、分岐状低密度ポリエチレン(LD)があり、これらを1種単独で使用しても、2種以上ブレンドして用いてもよいが、耐熱性の観点から高圧法によるLDを使用することが好ましい。線状低密度ポリエチレン(LL)は、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数4〜10の範囲にあるαオレフィンとの共重合体であり、これらを1種単独で使用しても、2種以上の混合組成物を使用してもよい。
αオレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルー1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセンなどがある。
【0020】
また、保護フィルム16には、上述した熱可塑性樹脂の他に、必要に応じて、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤、防曇剤、顔料、難燃剤、充填材、補強材、ブロッキング剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着付与剤などの各種添加剤を添加できる。
粘着付与剤としては、テルペン系樹脂、ロジン、ロジン誘導体などが挙げられ、これらを適宜熱可塑性樹脂に混合して保護フィルム16を形成することにより、表面層13の外面13aへの密着性と剥離性とを調整することができる。
【0021】
また、保護フィルム16は、その接触面16aの表面層13の外面13aに対して、26℃、40%RHの試験環境下、貼付圧力3MPa、剥離速度500mm/minによる180℃剥離試験での粘着力が、2〜350g/25mm程度の範囲であると、密着性と剥離性とがともに発現するため好ましい。
保護フィルム16の厚さには特に制限はないが、通常0.025〜0.1mmである。また、ここで表面層13の外面13aが、エンボス加工や各種立体加工が施されたものであって、最も高い部分と最も低い部分との差がΔhである場合、保護フィルム16の厚みは、Δhの2倍以上であることが好ましい。
【0022】
なお、以上の例においては、使用する加飾シート14として、表面層13の外面13aにエンボス加工が施され、艶消し調の意匠性が付与されたものを例示したが、艶消し処理の方法としては、エンボス加工に限定されない。他の艶消し処理の方法としては、微粒子を含有する艶消し剤を表面層13の外面13aにコーティングする方法や、艶消し剤を表面層を形成するシート材料の樹脂にあらかじめ混合してからシート状に成形する方法などがある。これらの方法によれば、艶消し剤に含有される微粒子が表面層13の外面13aに凹凸を形成し、艶消し感を発現する。艶消し剤に含まれる微粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミノシリケート、雲母などの無機物粒子の他、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタンなどの樹脂粒子が例示できる。
【0023】
また、加飾シート14としては、このように艶消し調の意匠性が付与されたものの他に、表面層13の外面13aが鏡面処理され、鏡面調の意匠性が付与されたものでもよい。その場合にも、保護フィルム16が設けられた積層シート15をキャビティ33内に配置して、上述の一体成形工程を行うことにより、得られた多層成形体10の表面における鏡面調の意匠性を維持することができる。
鏡面調の意匠性を付与する鏡面処理の方法としては特に制限はなく、鏡面仕上げされたステンレス製の押圧面を備えた押圧手段により、表面層13の外面13aを押圧する方法などが例示できる。
さらに加飾シート14としては、表面層13の外面13aに各種立体加工が施され、立体的意匠性が付与されたものでもよい。立体的意匠性を付与する方法としては、エンボス加工の他、スクリーン印刷などでドット状、ドーム状などに樹脂を印刷する方法が挙げられる。ここで使用される樹脂の種類には制限はなく、表面層13に密着していればよいが、例えば、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、アクリルウレタン樹脂系のものなどが挙げられる。以上説明した製造方法によれば、このような立体的意匠性も維持することができる。
さらに加飾シート14には、必ずしも絵柄層12が形成されていなくてもよく、その場合には表面層13に、透明性のないシートを使用してもよい。
【0024】
このような製造方法によれば、一体成形工程における、多層成形体10の表面の汚れ、傷などの成形不良とともに、表面の光学的意匠性の低下や立体的意匠性の低下をも抑制できるので、外観に優れ意匠性の良好な多層成形体10を製造できる。多層成形体10の具体的な用途としては特に制限はなく、例えば建築分野、家電分野などで利用できるが、特に、高い意匠性が要求される、コンソールパネル、センタークラスタ、スイッチベースなどの自動車内装部品、バンパー、サイドマットガード、ホイールキャップ、モールなどの自動車外装部品に好適である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
[実施例1]
基材層、絵柄層、表面層が順次積層した加飾シートの表面層上に、保護フィルムが積層した積層シートの両面を、ハロゲンヒーターにて150℃まで加熱した後に、40℃の金型を用いて、1.8気圧の真空吸引力で真空成形して、3次元積層成形シートを得た。さらに、これを切断刃付きプレス金型で所望の形に打ち抜き、3次元積層成形体を得た。
次に、この3次元積層成形体の保護フィルムがキャビティ面に密着するようにインサート成形用金型のキャビティに装着した。次に、固定型と可動型とを型締めして成形されたキャビティに成形温度220〜230℃、金型温度65℃でABS樹脂を射出成形し、3次元積層成形体とABS樹脂とを密着させた(一体成形工程)。冷却後、金型から保護フィルム付きの多層成形体を取り出し、保護フィルムを剥離し(剥離工程)、多層成形体を得た。
得られた多層成形体の表面には、傷、汚れなどの成形不良がなく、また、艶消し調の意匠性の低下は認められなかった。
【0026】
加飾シートの各層および保護フィルムには以下のものを用いた。
1)基材層:信越ポリマー社製ABSシート(F975BR448)、厚さ0.36mm
2)絵柄層:日本デコール社製印刷PETシートから転写法により基材層に転写したもの。絵柄層厚さ2.3μm、PET厚さ0.025mm。
3)表面層(艶消し調);住友化学工業社製アクリル樹脂シート(S001 M20)、厚さ0.125mm、外面に艶消し剤をコーティングしたタイプで、その外面(保護フィルムとの接触面)のビカット軟化点は、95〜100℃であるもの。ここでビカット軟化点は、JIS K 7206 B50法により測定されたものである。
4)保護フィルム:大王加工紙工業社製マスキングフィルム、加飾シートの外面との接触面は、ビカット軟化点が60〜65℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体層(15μm)からなり、これにビカット軟化点が75〜80℃のポリエチレン層(35μm)が積層したもの。なお、26℃、40%RHの試験環境下、貼付圧力3MPa、剥離速度500mm/minによる保護フィルムの表面層からの180°剥離試験を行ったところ、粘着力は25g/25mmであった。
【0027】
[実施例2]
実施例1と同じ表面層の外面に、帝国インキ製造社製の溶剤型アクリルウレタン樹脂系スクリーンインキ(VAR)で、10mmピッチで直径5mm、高さ0.02mmのドーム型の立体をスクリーン印刷し、立体加工を施した。
また、保護フィルムとしては、加飾シートの外面との接触面のビカット軟化点が55〜60℃のエチレン−酢酸ビニル共重合体層(20μm)からなり、これにビカット軟化点が70〜75℃のポリエチレン層(60μm)が積層したものを用いた。なお、26℃、40%RHの試験環境下、貼付圧力3MPa、剥離速度500mm/minによる保護フィルムの表面層からの180°剥離試験を行ったところ、粘着力は70g/25mmであった。
これ以外の構成は実施例1と同様の積層シートを用いて、同様に多層成形体を得た。
得られた多層成形体の表面には、傷、汚れなどの成形不良がなく、また、立体加工による意匠性の低下は認められなかった。
【0028】
[比較例1]
保護フィルムを備えていない加飾シートを使用した以外は実施例1と同様にして加飾シートを製造し、多層成形体を得たが、その表面は艶消し感が不均一であるとともに不十分であり、意匠性が劣っていた。また、数カ所の傷も認められた。
【0029】
[比較例2]
保護フィルムとして、加飾シート外面との接触面がアクリル系粘着剤(厚さ2μm)からなり、これにポリプロピレン層(厚さ45μm)が積層し、接触面のビカット軟化点が120〜130℃のものを使用した以外は、実施例2と同様にして、多層成形体を得たが、その表面層に設けられたドーム型の立体は、真空成形持、射出成形時のキャビティ面からの押圧により表面層に陥没し、立体意匠性が失われていた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の製造方法で製造された多層成形体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法で使用する積層シートを示す断面図である。
【図3】図1の多層成形体の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 多層成形体
11 基材層
12 絵柄層
13 表面層
13a 表面層の外面
14 加飾シート
15 積層シート
16 保護フィルム
16a 保護フィルムにおける加飾シートとの接触面
33 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加飾シートの一方の面に保護フィルムが設けられた積層シートを、平面状のまま、または立体成形してからキャビティ内に配置するとともに、前記キャビティ内に樹脂を注入して、前記加飾シートの他方の面側に前記樹脂からなる成形体を一体化する一体成形工程と、該一体成形工程の後、前記保護フィルムを剥離する剥離工程とを備えた多層成形体の製造方法であって、
前記保護フィルムにおける前記加飾シートとの接触面は、前記加飾シートの前記一方の面よりもビカット軟化点が小さな材料から形成されていることを特徴とする多層成形体の製造方法。
【請求項2】
前記加飾シートの前記一方の面は、艶消し処理または鏡面処理が施されていることを特徴とする請求項1に記載の多層成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加飾シートの前記一方の面には、立体加工が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の多層成形体の製造方法。
【請求項4】
前記加飾シートは、基材層と絵柄層と表面層とが順次積層したものであって、該加飾シートの前記一方の面は前記表面層からなり、前記他方の面は前記基材層からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の多層成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とする多層成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−142698(P2006−142698A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337467(P2004−337467)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】