説明

多層配線基板及びその製造方法

【課題】電気的接続の高い信頼性を有するビアホール導体により層間接続された、Pbフリーのニーズに対応することができる多層配線基板を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁樹脂層と絶縁樹脂層の両面にそれぞれ配設された配線とこれらの配線間を電気的に接続するためのビアホール導体とを有し、ビアホール導体は金属部分と樹脂部分とを含み、金属部分は、配線間を接続する銅粒子の結合体を含む第一金属領域と、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物等を主成分とする第二金属領域と、ビスマスを主成分とする第三金属領域と、を有し、結合体を形成する銅粒子同士が互いに面接触することにより面接触部を形成し、第二金属領域の少なくとも一部分が第一金属領域に接触している多層配線基板であって、絶縁樹脂層が、熱硬化性樹脂と無機フィラーを含有する多層配線基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁樹脂層に三次元的に形成された2つの配線間を層間接続するためのビアホール導体を備えた多層配線基板に関する。詳しくは、多層配線を層間接続するためのビアホール導体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁樹脂層に三次元的に形成された2つの配線間を層間接続して得られる多層配線基板が知られている。このような層間接続の方法として、絶縁樹脂層に形成された孔に導電性ペーストを充填して形成されるようなビアホール導体が知られている。また、導電性ペーストの代わりに、銅(Cu)を含有する金属粒子を充填し、これらの金属粒子同士を金属間化合物で固定したビアホール導体も知られている。
【0003】
具体的には、例えば、下記特許文献1は、CuSn化合物のマトリクス中に複数のCu粒子からなるドメインを点在させてなるマトリクスドメイン構造を有するビアホール導体を開示している。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2は、Cuを含む高融点粒子相材料と錫(Sn)または錫合金等の金属から選ばれる低融点材料とを含む、ビアホール導体の形成に用いられる焼結性組成物を開示している。このような焼結性組成物は、液相または過渡的(transient)液相の存在下で焼結される組成物である。
【0005】
また、例えば、下記特許文献3は、錫−ビスマス(Sn−Bi)系金属粒子と銅粒子を含む導電性ペーストをSn−Bi系金属粒子の融点以上の温度で加熱することにより銅粒子の外周に固相温度250℃以上の合金層を形成させたビアホール導体用材料が開示されている。このようなビアホール導体用材料は、固相温度250℃以上の合金層同士の接合により層間接続が行われるために、ヒートサイクル試験や耐リフロー試験でも合金層が溶融しないために高接続信頼性を得ることが可能であることが記載されている。
【0006】
また、例えば、下記特許文献4は、銅および錫を合計で80〜97質量%と、ビスマスを3〜20質量%の割合で含有するビアホール導体を備えた多層配線基板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−49460号公報
【特許文献2】特開平10−7933号公報
【特許文献3】特開2002−94242号公報
【特許文献4】特開2002−290052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたビアホール導体について図15を参照して詳しく説明する。図15は、特許文献1に開示された多層配線基板の配線1とビアホール導体2との接続部分の模式断面図である。
【0009】
図15の模式断面図においては、多層配線基板の表面に形成された配線1にビアホール導体2が接している。ビアホール導体2は、Cu3Sn、Cu6Sn5等の金属間化合物4を含むマトリクスと、金属間化合物4を含むマトリクス中にドメインとして点在する銅含有粉末3を含む。このビアホール導体2においては、Sn/(Cu+Sn)で表される質量比を0.25〜0.75の範囲にすることにより、マトリクスドメイン構造を形成している。しかしながら、このようなビアホール導体2においては、熱衝撃試験においてボイドやクラック(図15中の5)が発生しやすいという問題があった。
【0010】
このようなボイドやクラックは、例えば熱衝撃試験やリフロー処理においてビアホール導体2が熱を受けた場合に、Sn−Bi系金属粒子にCuが拡散してCu3Sn、Cu6Sn5等のCuSn化合物を生成することに起因する亀裂に相当する。またこのようなボイドは、CuとSnとの界面に形成されたCu−Snの拡散接合部に含有されたCuとSnとの金属間化合物であるCu3Snが、各種信頼性試験の際の加熱により、Cu6Sn5に変化することにより、ビアホール導体2に内部応力が発生することにも起因する。
【0011】
また、特許文献2に開示された焼結性組成物は、例えば、プリプレグをラミネートするための加熱プレス時において発生する、過渡的(transient)液相の存在下または不存在下で焼結される組成物である。このような焼結性組成物は、Cu、Sn、および鉛(Pb)を含むために市場から求められている、Pbフリー化に対応することが困難であった。また、このような焼結性組成物は、加熱プレス時の温度が180℃から325℃と高い温度になるために、樹脂基材を絶縁層とする多層配線基板の製造に適用することは困難であった。
【0012】
また、特許文献3に開示されたビアホール導体用材料においては、Cu粒子の表層に形成される合金層の抵抗値が高い。そのために、Cu粒子や銀(Ag)粉等を含有する一般的な導電性ペーストのようにCu粒子間やAg粒子間の接触のみで得られる接続抵抗値と比較して高抵抗値となるという問題があった。
【0013】
また、特許文献4に開示されたビアホール導体においても、後述するように、Cu粒子の表層に形成される合金層の抵抗値が高く、充分に低抵抗な層間接続が得られないという問題があった。
【0014】
本発明は、高い接続信頼性を有する低抵抗のビアホール導体により層間接続された、Pbフリーのニーズに対応することができる多層配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一局面である多層配線基板は、少なくとも1つの絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の第一面に配設された第一配線と絶縁樹脂層の第二面に配設された第二配線と、絶縁樹脂層を貫通するように設けられた第一配線と第二配線とを電気的に接続するためのビアホール導体と、を有する多層配線基板であって、絶縁樹脂層は60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材からなり、ビアホール導体は金属部分と樹脂部分とを含み、金属部分は、第一配線と第二配線とを電気的に接続する経路を形成する銅粒子の結合体を含む第一金属領域と、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域と、ビスマスを主成分とする第三金属領域と、を有し、結合体を形成する銅粒子同士は、互いに面接触することにより面接触部を形成しており、第二金属領域の少なくとも一部分が第一金属領域に接触していることを特徴とする。
【0016】
また本発明の他の一局面である多層配線基板の製造方法は、60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材の表面を保護フィルムで被覆する第1工程と、保護フィルムを介して板状体に穿孔して貫通孔を形成する第2工程と、貫通孔に、銅粒子と錫−ビスマス系半田粒子と熱硬化性樹脂とを含むビアペーストを充填する第3工程と、第3工程の後、保護フィルムを剥離することにより、貫通孔からビアペーストの一部が突出して形成される突出部を表出させる第4工程と、突出部を覆うように、熱硬化性樹脂基材の少なくとも一面に金属箔を配置する第5工程と、金属箔を熱硬化性樹脂基材の表面に圧着して突出部を通じてビアペーストを圧縮することにより、銅粒子同士が互いに面接触して形成された面接触部を有する、銅粒子の結合体を含む第一金属領域を形成させる第6工程と、第6工程の後、ビアペーストを錫−ビスマス系半田粒子の共晶温度以上で共晶温度+10℃以下の温度の範囲でSn−Bi系半田粒子の一部分を溶融させた後、さらに共晶温度+20℃の温度以上300℃以下の温度の範囲に加熱することにより、少なくとも一部分が第一金属領域の表面に接触した、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域と、第二金属領域に接する、ビスマスを主成分とする第三金属領域とを生成させる第7工程と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の目的、特徴、局面、及び利点は、以下の詳細な説明及び添付する図面により、より明白となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多層配線基板のビアホール導体に含有される銅粒子同士が互いに面接触して形成された面接触部を有する銅粒子の結合体が低抵抗の導通路を形成することにより、抵抗値の低い層間接続を実現することができる。また、その銅粒子の結合体の表面の少なくとも一部に、銅粒子よりも硬い、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする第二金属領域が接触していることにより、銅粒子の結合体が補強されている。これにより、電気的接続の信頼性が高められている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は、第一実施形態における多層配線基板11の模式断面図であり、図1(B)は、図1(A)におけるビアホール導体14付近の拡大模式断面図を示す。
【図2】図2は、第一実施形態における多数の銅粒子7が互いに面接触することにより形成された銅粒子の結合体17aが配線12間の導通路23になることを説明するための説明図である。
【図3】図3は、Cu/Snが1.59より小さい場合におけるビアホール導体を説明するための模式断面図である。
【図4】図4は、第一実施形態における多層配線基板11の製造方法の一例を説明するための工程断面図を示す。
【図5】図5は、多層配線基板11の製造方法の一例を説明するための図4の続きの工程を示す。
【図6】図6は、多層配線基板11の製造方法の一例を説明するための図5の続きの工程を示す。
【図7】図7は第一実施形態における、熱硬化性樹脂基材25の貫通孔に充填されたビアペースト28を圧縮するときの様子を説明するための断面模式図である。
【図8】図8(A)は、実施例で得られた多層配線基板のビアホール導体の断面の3000倍の電子顕微鏡(SEM)写真、図8(B)はそのトレース図を示す。
【図9】図9(A)は、実施例で得られた多層配線基板のビアホール導体の断面の6000倍のSEM写真、図9(B)はそのトレース図を示す。
【図10】図10(A)は、実施例で得られた多層配線基板のビアホール導体の断面のSEM写真、図10(B)はそのトレース図を示す。
【図11】図11(A)は、図10のSEM像のCu元素のマッピングを行ったときの像、図11(B)はそのトレース図を示す。
【図12】図12(A)は、図10のSEM像のSn元素のマッピングを行ったときの像、図12(B)はそのトレース図を示す。
【図13】図13(A)は、図10のSEM像のBi元素のマッピングを行ったときの像、図14(B)はそのトレース図を示す。
【図14】図14は、従来知られた特許文献4の導電性ペーストから得られるビアホール導体と、本願発明に係るビアホール導体との抵抗値を比較したグラフである。
【図15】図15は、従来のビア導体の断面を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1(A)は、本発明に係る一実施形態の多層配線基板11の模式断面図である。また、図1(B)は、図1(A)の多層配線基板11におけるビアホール導体14付近の拡大模式断面図である。
【0021】
図1(A)に示すように、多層配線基板11は、絶縁樹脂層13に三次元的に形成された、銅箔等の金属箔から形成された複数の配線12が、絶縁樹脂層13を貫通するビアホール導体14により電気的に層間接続されている。
【0022】
図1(B)は、ビアホール導体14付近の拡大模式断面図である。図1(B)中、12(12a,12b)は配線、13は絶縁樹脂層、14はビアホール導体である。ビアホール導体14は、金属部分15と樹脂部分16とを含む。絶縁樹脂層13は60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材からなる。金属部分15は、Cu粒子7から形成された第一金属領域17と、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域18と、Biを主成分とする第三金属領域19とを含む。Cu粒子7の少なくとも一部は、それらが互いに直接面接触した面接触部20を介して接触結合されることにより破線で示した部分に銅粒子の結合体17aを形成している。そして、結合体17aが上層の配線12aと下層の配線12bとを電気的に接続する低抵抗の導通路として機能する。
【0023】
はじめに、多層配線基板11の絶縁樹脂層13について説明する。
絶縁樹脂層13は60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材からなる。絶縁樹脂層13がこのような熱硬化性樹脂基材であることにより、絶縁層を薄層化することができるとともに、多層化する際に配線が絶縁層に埋め込まれ易くなるために、層間に空隙等が残りにくくなる。
【0024】
絶縁樹脂層13の樹脂成分である熱硬化性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、またはシアネート樹脂等が挙げられる。これらの中では、ポリフェニレンエーテル樹脂やエポキシ樹脂がとくに好ましい。
【0025】
また、絶縁樹脂層13には60〜95質量%の範囲で無機フィラーが含まれる。無機フィラーの具体例としては、例えば、水酸化アルミニウム、シリカ、アルミナ、チタン酸バリウム等の粒子が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、水酸化アルミニウムの粒子が難燃性に優れている点から特に好ましい。
【0026】
絶縁樹脂層13に含有される無機フィラーの含有割合は60〜95質量%であり、65〜93質量%、さらには70〜90質量%であることが好ましい。無機フィラーの含有割合が60質量%未満の場合には、耐熱性や寸法安定性が低下することにより製造時の熱プレスの際に流動しすぎて寸法変化しやすくなる。また、無機フィラーの含有割合が95質量%を超える場合には、製造時の熱プレスの際に樹脂分が少なすぎて配線の埋込性や密着性が損なわれるやすくなる。
【0027】
無機フィラーの平均粒子径としては0.1〜50μm、さらには1〜15μm程度であることが好ましい。無機フィラーの平均粒子径が大きすぎる場合には、絶縁樹脂層13の表面が粗くなって回路の密着性が低下する傾向がある。また、無機フィラーの平均粒子径が小さすぎる場合には、コストが高くなる傾向がある。
【0028】
なお、絶縁樹脂層13は、織布、不織布などのような芯材を含有しないことが好ましい。繊維基材のような芯材を含む場合には、多層配線基板の薄層化が困難であるとともに、配線を埋め込むことが困難になる傾向がある。
【0029】
次に、金属部分15を構成する成分について説明する。金属部分15は、Cu粒子7から形成された第一金属領域17と、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域18と、Biを主成分とする第三金属領域19とを含む。
【0030】
第一金属領域17はCu粒子7から形成される。Cu粒子7の平均粒径は0.1〜20μm、さらには、1〜10μmの範囲であることが好ましい。Cu粒子7の平均粒径が小さすぎる場合には、ビアホール導体14中において、接触点が多くなるため導通抵抗が大きくなる傾向がある。また、このような粒径の粒子は高価である傾向がある。一方、Cu粒子7の平均粒径が大きすぎる場合には、100〜150μmφのように径の小さいビアホール導体14を形成しようとした場合に、充填率を高めにくくなる傾向がある。
【0031】
Cu粒子7の純度は90質量%以上、さらには99質量%以上であることが好ましい。Cu粒子7はその銅純度が高いほどより柔らかくなる。そのために後述する加圧工程において押し潰されやすくなるために、複数のCu粒子7同士が接触する際にCu粒子7が容易に変形することにより、Cu粒子7同士の接触面積が大きくなる。また、純度が高い場合には、Cu粒子7の抵抗値がより低くなる点からも好ましい。
【0032】
第一金属領域17は、第一配線と第二配線とを電気的に接続する経路を形成する銅粒子の結合体17aを含む。銅粒子は、多数のCu粒子7同士が互いに面接触して結合体17aを形成する。ここで、銅粒子同士の面接触とは銅粒子同士が触れる程度に接触しているのではなく、加圧圧縮されて塑性変形するまで互いに変形し、その結果として互いの銅粒子同士の間の接点が広がって、隣接する銅粒子同士が面で接触している状態をいう。このように、互いの銅粒子同士が互いに塑性変形するまで変形し、密着させることで、圧縮応力を開放した後も、銅粒子間の面接触部が保持され、第二金属領域で保護される。なお、Cu粒子7の平均粒径や、Cu粒子7同士が面接触している面接触部20は、形成された多層配線基板を樹脂埋めした後、ビアホール導体14の断面を研磨(必要に応じてFOCUSED ION BEAM等の微細加工手段も使って)して作成した試料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより確認及び測定される。
【0033】
多数のCu粒子7は互いに面接触して結合体17aを形成することにより、配線12aと配線12bとの間に低抵抗の導通路を形成する。このような結合体17aを形成させることにより配線12aと配線12bとの接続抵抗を低くすることができる。
【0034】
また、ビアホール導体14においては多数のCu粒子7が整然と整列することなく、図1(B)に示すようにランダムに接触することにより、複雑なネットワークを有するように低抵抗の結合体17aが形成されていることが好ましい。結合体17aがこのようなネットワークを形成することにより電気的接続の信頼性を高めることができる。また、多数のCu粒子7同士が面接触する位置もランダムであることが好ましい。ランダムな位置でCu粒子7同士を面接触させることにより、熱を受けたときにビアホール導体14の内部で発生する応力や、外部から付与される外力をその変形により分散させることができる。
【0035】
ビアホール導体14中に含有されるCu粒子7の含有割合としては、20〜90質量%、さらには、40〜70質量%であることが好ましい。Cu粒子7の含有割合が低すぎる場合には、多数のCu粒子7が互いに面接触することにより形成された結合体17aの、導通路としての電気的接続の信頼性が低下する傾向があり、高すぎる場合には、抵抗値が信頼性試験で変動しやすくなる傾向がある。
【0036】
図1(B)に示すように、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域18の少なくとも一部は第一金属領域17の表面に接触するように形成されている。このように第二金属領域18が第一金属領域17の表面に形成されることにより、第一金属領域17が補強される。また、第二金属領域18の少なくとも一部は、銅粒子7同士が互いに面接触している部分である面接触部20を跨ぐように覆っていることが好ましい。このように面接触部20を跨ぐように第二金属領域18が形成されることにより、面接触部20の接触状態がより補強される。
【0037】
第二金属領域18は、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分として含有する。具体的には、例えば、Sn単体,Cu6Sn5,Cu3Sn等を含む金属を主成分として含む。また、残余の成分としては、BiやCu等の他の金属元素を本発明の効果を損なわない範囲、具体的には、例えば、10質量%以下の範囲で含んでもよい。
【0038】
また、金属部分15においては、図1(B)に示すように、Biを主成分とする第三金属領域19が、Cu粒子7とは接触せず、第二金属領域18と接触するように存在していることが好ましい。ビアホール導体14において、第三金属領域19をCu粒子7と接しないように存在させた場合には、第三金属領域19は第一金属領域17の導電性を低下させない。
【0039】
第三金属領域19は、Biを主成分として含有する。また、第三金属領域19は、残余の成分として、BiとSnとの合金または金属間化合物等を本発明の効果を損なわない範囲、具体的には、例えば、20質量%以下の範囲で含んでもよい。
【0040】
なお、第二金属領域18と第三金属領域19とは互いに接しているために、通常、何れもBi及びSnの両方を含む。この場合において、第二金属領域18は第三金属領域19よりもSnの濃度が高く、第三金属領域19は第二金属領域18よりもBiの濃度が高い。また、第二金属領域18と第三金属領域19との界面は、明確であるよりも、不明確であるほうが好ましい。界面が不明確である場合には、熱衝撃試験等の加熱条件においても界面に応力が集中することを抑制することができる。
【0041】
このようにビアホール導体14を構成する金属部分15は、銅粒子7からなる第一金属領域17、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域18、及びビスマスを主成分とする第三金属領域19とを含む。なお、金属部分15のCuとSnとの質量比(Cu/Sn)は1.59〜21.43の範囲であることが好ましい。このCu/Sn比の意義については後に詳述する。
【0042】
一方、ビアホール導体14を構成する樹脂部分16は、硬化性樹脂の硬化物からなる。硬化性樹脂は特に限定されないが、具体的には、例えば、耐熱性に優れ、また、線膨張率が低い点からエポキシ樹脂の硬化物がとくに好ましい。
【0043】
ビアホール導体14中の樹脂部分16の含有割合としては、0.1〜50質量%、さらには、0.5〜40質量%であることが好ましい。樹脂部分16の含有割合が高すぎる場合には、抵抗値が高くなる傾向があり、低すぎる場合には、製造時に導電性ペーストの調製が困難になる傾向がある。
【0044】
次に、多層配線基板11におけるビアホール導体14の作用について、図2を参照して模式的に説明する。
【0045】
図2は、多数のCu粒子7同士が接触することにより形成された一つの結合体17aの導通路23に着目して説明する説明図である。また、便宜上、樹脂部分16等は表示していない。さらに、21はビアホール導体14の作用の説明するために便宜上示した仮想のばねである。
【0046】
図2に示すように、多数のCu粒子7同士が互いにランダムに面接触することにより形成された結合体17aは、配線12aと配線12bとを電気的に層間接続するための導通路23になる。なお、Cu粒子7同士が接触している面接触部20においては、面接触部20の周囲を被覆し、且つ面接触部20を跨ぐように第二金属領域18が形成されていることが好ましい。
【0047】
多層配線基板11の内部に内部応力が発生した場合、多層配線基板11の内部には矢印22aに示すように外向きに力が掛かる。このような内部応力は、例えば、半田リフロー時や熱衝撃試験の際に、各要素を構成する材料の熱膨張係数の違いによって発生する。
【0048】
このような外向きの力は、柔軟性の高いCu粒子7自身が変形したり、Cu粒子7同士が接触することにより形成された結合体17aが弾性変形したり、Cu粒子7同士の接触位置が多少ずれたりすることにより緩和される。このとき、第二金属領域18の硬さは、Cu粒子7の硬さよりも硬いために、結合体17aの変形、特に面接触部20の変形に抵抗しようとする。従って、結合体17aが変形に無制限に追従しようとした場合には、第二金属領域18がある程度の範囲で変形を規制するために、Cu粒子7間の面接触部20が離間するまで変形しない。これは、Cu粒子7同士が接触して形成された結合体17aをばねに喩えた場合、結合体17aにある程度の力が掛かった場合には、ある程度まではばねが伸びるがごとく変形に追従するが、さらに変形が大きくなりそうな場合には、硬い第二金属領域18により結合体17aの変形が規制される。このことは、多層配線基板11に、矢印22bに示すような内向きの力が掛かった場合にも同様の作用を奏する。このように、あたかもばね21のように、外力及び内力のいずれの方向の力に対して、結合体17aの変形が規制されることにより、電気的接続の信頼性を確保することができる。
【0049】
次に、上述したような多層配線基板11の製造方法の一例を説明するために、各製造工程について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0050】
本実施形態の製造方法においては、はじめに、図4に示すように、60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材(以下、単に板状体とも呼ぶ)25の両表面に保護フィルム26が貼り合わされる。このような板状体25を用いた場合には、不織布を含有するプリプレグを用いて得られる多層配線基板に比べて、薄肉の多層配線基板を得ることができる。具体的には、例えば、厚み15μm以下、さらには6μm以下のような厚みでも充分な絶縁性を有する絶縁樹脂層を形成することが可能になる。板状体25は金属箔及び形成された配線を接着する。
【0051】
60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材25としては、例えば、固形分として60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂ワニスを隙間が一定のブレードに流し込み、乾燥させることにより得られる、いわゆる、未硬化状態または半硬化状態(B−ステージ)の熱硬化性樹脂基材が好ましく用いられる。その具体例としては、また、樹脂ワニスに含有される樹脂成分としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、およびシアネート樹脂等が挙げられる。また、無機フィラーとしては、上述したようなものが含有される。
【0052】
保護フィルムとしては、各種樹脂フィルムが用いられる。その具体例としては、例えば、PET(ポリエチレンフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムの厚みとしては0.5〜50μm、さらには、1〜30μmであることが好ましい。このような厚みの場合には、後述するように、保護フィルムの剥離により、充分な高さのビアペーストからなる突出部を表出させることができる。
【0053】
また、ビアペースト中に含まれる好ましい硬化性樹脂成分であるエポキシ樹脂の具体例としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、またはその他変性エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0054】
また、エポキシ樹脂と組み合わせて硬化剤を配合してもよい。硬化剤の種類はとくに限定されないが、分子中に少なくとも1つ以上の水酸基を持つアミン化合物を含有する硬化剤を用いることが特に好ましい。このような硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化触媒として作用するとともに、Cu粒子、及びSn−Bi系半田粒子の表面に存在する酸化皮膜を還元することにより、接合時の接触抵抗を低減させる作用も有する点から好ましい。
【0055】
板状体25に保護フィルム26を貼り合わせる方法としては、例えば、板状体25の表面の表面タック性を用いて、直接貼り合わせる方法が挙げられる。
【0056】
次に、図4(B)に示すように、保護フィルム26が配された板状体25に保護フィルム26の外側から穿孔することにより、貫通孔27を形成する。穿孔には、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等の非接触による加工方法の他、ドリルを用いた穴あけ等各種方法が用いられる。貫通孔の直径としては10〜500μm、さらには50〜300μm程度が挙げられる。
【0057】
次に、図4(C)に示すように、貫通孔27の中にビアペースト28を満充填する。ビアペースト28は、Cu粒子と、SnとBiとを含有するSn−Bi系半田粒子と、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂成分を含有する。
【0058】
Cu粒子の平均粒径は、0.1〜20μm、さらには、1〜10μmの範囲であることが好ましい。Cu粒子の平均粒径が小さすぎる場合には、貫通孔27中に高充填しにくくなり、また、高価である傾向がある。一方、Cu粒子の平均粒径が大きすぎる場合には、径の小さいビアホール導体を形成しようとした場合に充填しにくくなる傾向がある。
【0059】
また、Cu粒子の粒子形状は、特に限定されない。具体的には、例えば、球状、扁平状、多角状、麟片状、フレーク状、あるいは表面に突起を有するような形状等が挙げられる。また、一次粒子でもよいし、二次粒子を形成していてもよい。
【0060】
Sn−Bi系半田粒子は、SnとBiとを含有する半田粒子であれば特に限定されない。Sn−Bi系半田粒子は、構成比を変化させたり各種元素を添加することにより、その共晶点を138℃〜232℃程度にまで変化させることができる。さらに、インジウム(In)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)等を添加することにより、濡れ性、流動性等を改善させることもできる。これらの中では、共晶点が138℃と低い、環境問題に考慮した鉛フリー半田である、Sn−58Bi系半田等が特に好ましい。
【0061】
Sn−Bi系半田粒子の平均粒径は0.1〜20μm、さらには、2〜15μmの範囲であることが好ましい。Sn−Bi系半田粒子の平均粒径が小さすぎる場合には、比表面積が大きくなり表面の酸化皮膜割合が大きくなり溶融しにくくなる傾向がある。一方、Sn−Bi系半田粒子の平均粒径が大きすぎる場合には、ビアホールヘの充填性が低下する傾向がある。
【0062】
ビアペーストは、Cu粒子と、SnとBiとを含有するSn−Bi系半田粒子と、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂成分とを混合することにより調製される。具体的には、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤と所定量の有機溶媒を含有する樹脂ワニスに、Cu粒子及びSn−Bi系半田粒子を添加し、プラネタリーミキサー等で混合することにより調製される。
【0063】
硬化性樹脂成分の、Cu粒子及びSn−Bi系半田粒子を含む金属成分との合計量に対する配合割合としては、0.3〜30質量%、さらには3〜20質量%の範囲であることが低い抵抗値を得るとともに、充分な加工性を確保する点から好ましい。
【0064】
また、金属成分中のCu粒子の含有割合としては、CuとSnとの質量比(Cu/Sn)が、1.59〜21.43の範囲になるように含有させることが好ましい。この理由は後に詳述する。従って、例えば、Sn−Bi系半田粒子としてSn−58Bi系半田粒子を用いた場合には、Cu粒子及びSn−58Bi系半田粒子の合計量に対するCu粒子の含有割合は、40〜90質量%、さらには、55.8〜65.5質量%であることが好ましい。
【0065】
ビアペーストの充填方法はとくに限定されない。具体的には、例えば、スクリーン印刷などの方法が用いられる。なお、本実施形態の製造方法においては、貫通孔にビアペーストを充填する場合において、充填工程の後に、保護フィルム26を剥離したときに、ビアペースト28の一部が板状体25に形成された貫通孔27から突出して突出部が表出するように、板状体25に形成された貫通孔27からはみ出す量を充填する必要がある。
【0066】
次に、図4(D)に示すように、板状体25の表面から保護フィルム26を剥離することにより、ビアペースト28の一部を貫通孔27から突出部29として突出させる。突出部29の高さhは、保護フィルムの厚みにもよるが、例えば、0.5〜50μm、さらには、1〜30μmであることが好ましい。突出部29の高さが高すぎる場合には、後述する圧着工程において樹脂シート25の表面の貫通孔27の周囲にペーストが溢れて表面平滑性を失わせる可能性があるために好ましくなく、低すぎる場合には、後述する圧着工程において充填されたビアペーストに圧力が充分に伝わらなくなる傾向がある。
【0067】
次に、図5(A)に示すように、板状体25の上に銅箔30を配置し、矢印で示す方向にプレスする。それにより、図5(B)に示すように板状体25と銅箔30とを一体化させることにより、絶縁樹脂層13が形成される。この場合においては、プレスの当初に、銅箔30を介して突出部29に力が掛かるために貫通孔27に充填されたビアペースト28が高い圧力で圧縮される。それにより、ビアペースト28中に含まれる複数のCu粒子7同士の間隔が狭められ、Cu粒子7同士が互いに変形し、面接触する。
【0068】
プレス条件はとくに限定されないが、常温(20℃)からSn−Bi系半田粒子の融点未満の温度に金型温度が設定された条件が好ましい。また、本プレス工程において、板状体25中の熱硬化性樹脂の硬化を進行させるために、硬化を進行させるのに必要な温度に加熱した加熱プレスを用いてもよい。
【0069】
ここで、突出部29を有するビアペースト28を圧縮するときの様子について、図7を用いて詳しく説明する。
【0070】
図7は、ビアペースト28が充填された板状体25の貫通孔27周辺の模式断面図である。また、図7(A)は圧縮前、図7(B)は圧縮後を示している。
【0071】
図7(A)に示すように、板状体25に形成された貫通孔27から突出した突出部29を銅箔30を介して押圧することにより、図7(B)のように貫通孔27に充填されたビアペースト28が圧縮される。その圧縮の際の加圧により、硬化性樹脂成分32の一部は板状体25の表面に押し出されることもある。そして、その結果、貫通孔27に充填されたCu粒子7及びSn−Bi系半田粒子31の密度が高くなる。
【0072】
そして、このように高密度化されたCu粒子7同士が互いに接触する。圧縮においては、当初はCu粒子7同士は互いに点接触し、その後、圧力が増加するにつれて押し潰されて、互いに変形し面接触して面接触部を形成する。このように、多数のCu粒子7同士が面接触することにより、上層の配線と下層の配線とを低抵抗な状態で電気的に接続するための結合体17aが形成される。
【0073】
なお銅箔30を板状体25に圧着し、銅箔30を介してビアペースト28の突出部29に所定圧力を掛けることにより、ビアペースト28を加圧し圧縮することが望ましい。こうすることで銅粒子同士を面接触させ、銅粒子の結合体17aを含む第一金属領域を形成する。なお銅粒子を面接触させるには、銅粒子同士が互いに塑性変形するまで、加圧圧縮することが望ましい。またこの圧着工程において、必要に応じて加熱する(あるいは加熱を開始する)ことは有効である。これは圧着工程に続き加熱工程を行うことが有用なためである。
【0074】
更にこの圧着状態を維持した状態で、所定の温度で加熱し、Sn−Bi系半田粒子の一部を溶融させることが有用である。この圧着状態を維持した状態で、加熱し、半田粒子を溶解させることで、銅粒子同士の面接触部分への、溶解した半田等や樹脂等の侵入を防止できる。そのため、圧着工程の一部に、加熱工程を設けることは有用である。また圧着工程の中で、加熱を開始することで、圧着工程や加熱工程のトータル時間を短縮することができ、生産性を高められる。
【0075】
また圧縮を維持した状態のままで、この圧縮されたビアペーストを加熱してSn−Bi系半田粒子の共晶温度以上共晶温度+10℃以下の温度の範囲でSn−Bi系半田粒子の一部分を溶融させ、引き続き、さらに共晶温度+20℃の温度以上300℃以下の温度の範囲に加熱することにより、銅粒子の結合体の面接触部を除く表面に錫,錫−銅合金または錫と銅の金属間化合物のいずれか一つ以上を主成分とする第二金属領域を形成することが望ましい。更にこれらを連続した圧着や加熱を伴う1の工程とすることは有用である。連続した1の工程で、これら各金属領域の形成反応を安定化でき、ビア自体の構造を安定化できる。
【0076】
圧縮によって結合体17aを形成し、さらにビアペースト28をSn−Bi系半田粒子31の共晶温度以上の温度にまで徐々に加熱していく。この加熱によりSn−Bi系半田粒子31の一部がその温度において溶融する組成割合で溶融する。そして、Cu粒子7や結合体17aの表面や周囲に錫、錫-銅合金及び/または錫-銅金属間化合物を主成分とする第二金属領域18が形成される。この場合において、Cu粒子7同士が面接触している面接触部20は、第二金属領域18に跨がれるようにして覆われることが好ましい。Cu粒子7と溶融したSn−Bi系半田粒子31とが接触することにより、Sn−Bi系半田粒子31中のSnとCu粒子7中のCuとが反応して、Cu6Sn5やCu3Snを含むSn−Cuの化合物層(金属間化合物)や錫-銅合金を主成分とする第二金属領域18が形成される。一方、Sn−Bi系半田粒子31は内部のSn相からSnを補われながら溶融状態を維持し続け、さらに残されたBiが析出することにより、Biを主成分とする第三金属領域19が形成される。結果として図1(B)に示すような構造を有するビアホール導体14が得られる。
【0077】
さらに詳しくは、上述のように高密度化されたCu粒子7同士は圧縮により互いに接触する。圧縮においては、はじめはCu粒子7同士は互いに点接触し、その後、圧力が増加するにつれて押し潰されて、互いに変形し面接触して面接触部を形成する。このように、多数のCu粒子7同士が面接触することにより、上層の配線と下層の配線とを低抵抗な状態で電気的に接続するための結合体17aが形成される。また、面接触部がSn−Bi系半田粒子31で覆われないために、Cu粒子7同士を直接、接触させた結合体17aを形成することができる。その結果、形成される導通路の電気抵抗を小さくすることができる。そしてこの状態で加熱して、Sn−Bi系半田粒子31の共晶温度以上に達するとSn−Bi系半田粒子31が部分的に溶融しはじめる。溶融する半田の組成は温度で決まり、加熱時の温度で溶融しにくいSnはSn固相体として残留する。また、溶融した半田にCu粒子7が接触してその表面が溶融したSn−Bi系半田で濡れたとき、その濡れた部分の界面でCuとSnの相互拡散が進んでSn−Cuの化合物層等が形成される。このようにしてCu粒子7の面接触部を除く表面に接触するように第二金属領域18が生成する。第二金属領域18の一部は面接触部を跨ぐように形成される。このような第二金属領域18の一部が面接触部を跨ぐように被覆した場合には、面接触部は補強され弾性に優れた導通路となる。そして、Sn−Cuの化合物層等の形成や、相互拡散がさらに進行することにより、溶融した半田中のSnは減少する。溶融した半田中の減少したSnはSn固体層から補填されるために溶融状態は維持し続けられる。さらにSnが減少し、SnとBiの比率がSn−57BiよりもBiが多くなるとBiが偏析しはじめ、ビスマスを主成分とする固相体として第二金属領域が析出して形成される。
【0078】
よく知られている比較的低温域で溶融する半田材料としては、Sn−Pb系半田、Sn−In系半田、Sn−Bi系半田などがある。これらの材料のうち、Inは高価であり、Pbは環境負荷が高いとされている。
一方、Sn−Bi系半田の共晶温度は、通常、電子部品を表面実装する際の一般的な半田リフロー温度よりも低い。従って、Sn−Bi系半田のみを回路基板のビアホール導体として単体で用いた場合には、半田リフロー時にビアホール導体の半田が再溶融することによりビア抵抗が変動してしまうおそれがある。一方、本実施形態のビアペーストを用いた場合には、Sn−Bi系半田粒子のSnがCu粒子の表面と反応することによりSn−Bi系半田粒子からSn濃度が減少し、一方で、加熱冷却工程を経ることによりBiが析出してBi相が生成される。そして、このようにBi相を析出させて存在させることにより、半田リフローに供してもビアホール導体の半田が再溶融しにくくなる。その結果、半田リフロー後でも、抵抗値の変動が起こりにくくなる。
【0079】
圧縮後のビアペースト28を加熱する温度は、Sn−Bi系半田粒子31の共晶温度以上の温度であり、板状体25の構成成分を分解しないような温度範囲であればとくに限定されない。具体的には、例えば、Sn−Bi系半田粒子としてSn−58Bi系半田粒子を用いる場合には、150〜250℃、さらには160〜230℃程度の範囲であることが好ましい。なお、このときに温度を適切に選択することにより、ビアペースト28中に含まれる硬化性樹脂成分を硬化させることができる。
【0080】
このようにして、上層の配線と下層の配線とを層間接続するためのビアホール導体14が形成される。
【0081】
本実施形態における、ビアペースト28中に含まれる金属成分中のCu粒子の含有割合は、先述したようにCuとSnとの質量比(Cu/Sn)が、1.59〜21.43の範囲になるように含有させることが好ましい。この理由を以下に説明する。
【0082】
図3は、Cu/Snが1.59より小さい場合におけるビアホール導体の一例を示す、模式断面図である。
【0083】
図3に示すように、Cu/Snの比が1.59より小さい場合、ビアホール導体中のCuの割合が少なくなり、多数のCu粒子7同士が互いに面接触しにくくなり、Cu粒子7が金属間化合物4からなるマトリクス中に点在するように存在する傾向がある。この場合には、多数のCu粒子7が硬い金属間化合物4により硬く束縛されてしまうために、ビアホール導体自身もバネ性が低い硬い状態になる傾向がある。Cu粒子7に比べ、Cu6Sn5、Cu3Snのような金属間化合物4は硬く、変形しにくい。発明者らの調査によると、ビッカース硬度はCu6Sn5で約378Kg/mm2、Cu3Snで約343Kg/mm2であり、Cuの117Kg/mm2よりも著しく高い。
【0084】
そして、Cu粒子7と金属間化合物4では、互いの熱膨張係数が異なるため、半田リフロー時に、この熱膨張係数の違いによる内部応力が発生し、その結果クラックやボイド24が発生しやすくなる。
【0085】
また、Cu/Snの質量比が1.59より小さい場合には、ボイドが発生しやすくなる。このようなボイドの発生原因の重要な要因としては、SnとCuとの接触拡散によるカーケンダル効果(Kirkendall effect)によるカーケンダルボイドが挙げられる。カーケンダルボイドは、Cu粒子の表面とCu粒子同士の隙間に充填されたSnまたはSnを含む合金との界面に発生しやすい。
【0086】
図3に示すようにCu粒子7と金属間化合物4の界面にクラックやボイド24が存在する場合、クラックやボイド24が伝播して広がりやすくなる傾向がある。カーケンダルボイドが発生したときにはカーケンダルボイドも伝播して広がりやすくなる傾向がある。とくにビアホール導体の径が小さい場合、クラックやボイド24は、金属間化合物4の凝集破壊や、更にはビアホール導体の断線の発生原因となりやすい。そして、これら凝集破壊や界面破壊が、ビアホール導体の内部に発生した場合、ビア部分の電気抵抗が増加し、ビア部分の信頼性に影響を与える。
【0087】
一方、Cu/Snの比が1.59以上の場合について、図1(B)及び図2を参照しながら模式的に説明する。
Cu/Snの比が1.59以上の場合、図1(B)に示すように、金属部分15に含まれる第二金属領域18は、多数のCu粒子7同士が面接触する面接触部20やCu粒子7の表面を物理的に保護している。図2に示す矢印22a、22bは、ビアホール導体14に加えられた外力や、ビアホール導体14に発生した内部応力を示す。ビアホール導体14に矢印22aに示すような外力や内部応力22bが掛かった場合、柔軟なCu粒子7が変形することにより力が緩和される。また、例え、第二金属領域18にクラックが発生したとしても、多数のCu粒子7同士が面接触していることにより結合体17aによる導通路は充分に確保されており、電気的特性や信頼性に大きな影響を与えない。なお、図1(B)に示すように、金属部分15全体は樹脂部分16で弾性的に保護されているために、変形はさらに一定の範囲で抑えられる。従って、凝集破壊や界面破壊が発生しにくくなる。
【0088】
またCu/Snが1.59以上である場合には、面接触部20を跨ぐように、第二金属領域18が形成されやすくなる。そして、Cu/Snが1.59以上の場合には、カーゲンダルボイドは、Cu粒子同士の隙間に充填されたSn−Bi系半田粒子の内部やその界面に発生するのではなく、第二金属領域18側に発生しやすくなる。第二金属領域18に発生したカーゲンダルボイドは、ビアホール導体14の信頼性や電気特性に影響を与えにくい。電気的導通はCu粒子7同士の接触により充分に確保されているためである。
【0089】
次に、図5(C)に示すように、配線12を形成する。配線12は、表層に貼り合わされた銅箔30の表面にフォトレジスト膜を形成し、フォトマスクを介して選択的露光することによりパターニングした後、現像を行い、エッチングにより配線部以外の銅箔を選択的に除去した後、フォトレジスト膜を除去すること等により形成されうる。フォトレジスト膜の形成には、液状のレジストを用いてもドライフィルムを用いてもよい。
【0090】
このような工程により、上層の配線12aと下層の配線12bとをビアホール導体14を介して層間接続した両面に回路形成された配線基板41が得られる。このような配線基板41をさらに、多層化することにより図1(A)に示すような複数層の回路が層間接続された多層配線基板11が得られる。配線基板41の多層化の方法について図6を参照して説明する。
【0091】
はじめに、図6(A)に示すように、上述のようにして得られた配線基板41の両表面に、図4(D)で得られたのと同様のビアペースト28からなる突出部29を有する板状体25を配置する。さらに、各板状体25の外表面それぞれに銅箔30を配置して重ね合わせ体を形成させる。そして、この重ね合わせ体をプレス金型に挟み込み、上述したような条件でプレス及び加熱することにより、図6(B)に示すような積層体が得られる。そして、上述したようなフォトプロセスを用いることにより新たな配線12が形成される。このような多層化プロセスをさらに繰り返すことにより多層配線基板11が得られる。
【実施例】
【0092】
次に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は本実施例の内容により何ら限定して解釈されるものではない。
【0093】
[実施例1〜5及び比較例1〜6]
はじめに、本実施例で用いた原材料を以下にまとめて説明する。
・Cu粒子:平均粒子径5μmの三井金属(株)製1100Y
・Sn−Bi系半田粒子:Sn42-Bi58、平均粒子径3μm、共晶温度138℃、山石金属(株)製
・エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン(株)製jeR871及び硬化剤
・樹脂シート:表1に記載のような割合でエポキシ樹脂と水酸化アルミニウムとを含有する厚み60μmのBステージの板状体
・保護フィルム:厚み25μmのPET製シート
・銅箔(厚み25μm)
【0094】
(ビアペーストの調整)
Cu粒子60質量%及びSn−Bi系半田粒子40質量%を含む金属成分とエポキシ樹脂及び硬化剤の樹脂成分とを配合し、プラネタリーミキサーで混合することにより、ビアペーストを調製した。なお、樹脂成分の配合割合は、Cu粒子及びSn−Bi系半田粒子の合計100質量部に対して、エポキシ樹脂10質量部、硬化剤2質量部とした。
【0095】
(多層配線基板の製造)
樹脂シートの両表面に保護フィルムを貼り合わせた。そして、保護フィルムを貼り合わせた樹脂シートの外側からレーザーにより直径150μmの孔を100個以上穿孔した。
次に、調製されたビアペーストを貫通孔に満充填した。そして、両表面の保護フィルムを剥離することにより、貫通孔からビアペーストの一部が突出して形成された突出部を表出させた。
次に、樹脂シートの両表面に、突出部を覆うようにして銅箔を配置した。そして、加熱プレスの一対の金型の下型の上に離形紙を介して、銅箔が配置された樹脂シートとの積層体を載置し、常温25℃から最高温度220℃までを60分で昇温して220℃を60分間キープしたのち、60分間かけて常温まで冷却した。なお、プレス圧は3MPaであった。このようにして多層配線基板を得た。
そして、両表面に貼り合わせられた銅箔にフォトマスクを介して選択的露光することによりパターニングした後、現像を行い、エッチングにより配線部以外の銅箔を選択的に除去した後、フォトレジスト膜を除去することにより回路を形成した。このようにして線幅100μmの回路が形成された配線基板を得た。
次に、図6(A)〜図6(C)に示すような工程により配線基板を多層化した。具体的には、得られた配線基板の両表面に、さらに、上述したような突出部を表出させた樹脂シートを配置した。そして、各樹脂シートの外表面それぞれに銅箔を配置して重ね合わせ体を形成させた。そして、この重ね合わせ体をプレス金型に挟み込み、上述したような条件でプレス及び加熱した。このようにして、内層に2層の回路が埋め込まれた多層配線基板が得られた。
【0096】
(評価)
<配線埋込性>
得られた多層配線基板の断面を目視で観察し、評価した。全ての配線が絶縁樹脂に充分に埋められて場合をA、一部の配線が絶縁樹脂に完全に埋め込まれておらず、内層に空隙が存在する場合をBと判定した。
<抵抗特性>
得られた配線基板に形成された100個のビアホール導体の抵抗値を4端子法により測定して求めた。そして、100個の最大抵抗値を求めた。そして、100個測定したサンプルの最大抵抗値が10mΩ未満の場合をA、10mΩ〜1Ωの場合をB、1Ωより大きい場合をCと判定した。
【0097】
【表1】

【0098】
表1より、本発明に係る実施例1〜5の配線基板の場合には低抵抗化と配線埋込性とが両立できていることがわかる。一方、水酸化アルミニウムの含有割合が60質量%未満である比較例1〜5の配線基板の場合には最大抵抗値が高かった。これは、樹脂シート中の水酸化アルミニウムの含有割合が少なすぎることにより耐熱性や形態安定性が不充分になることにより、プレス中に樹脂シートが流動して接続部分の接触が不安定になったためであると考えられる。また、95%を超える比較例6の配線基板の場合には配線埋込性が不充分であった。これは、樹脂シート中の水酸化アルミニウムの含有割合が高すぎることにより、耐熱性や形態安定性が高くなりすぎて、配線の埋込性や配線の密着性が損なわれるためであると考えられる。なお、水酸化アルミニウムの代わりに、シリカを用いた場合にもほぼ同様の結果が得られた。また、後述するSEMにより、実施例1〜5のいずれにおいても、銅粒子同士が、互いに面接触することにより面接触部を形成しており、第二金属領域の少なくとも一部分が第一金属領域に接触していることを確認した。
【0099】
[実施例6〜11及び比較例7〜9]
次に、Cu粒子とSn−Bi系半田粒子との配合割合について検討した。具体的には、表2に記載の配合組成でCu粒子及びSn42-Bi58半田粒子を配合したペーストを調製した以外は実施例1と同様にして配線基板を得た。そして、初期抵抗値、接続信頼性、剥離試験を以下の方法により評価した。
【0100】
(評価)
〈抵抗値判定〉
得られた配線基板に形成された100個のビアホール導体の抵抗値を4端子法により測定して求めた。そして、100個の最大抵抗値を求めた。そして、100個のサンプルのうちの最大抵抗値が2mΩ未満の場合をA、2〜3mΩの場合をB、3mΩより大きい場合をCと判定した。
〈剥離試験〉
得られた配線基板の表面の銅箔を剥離(あるいは破壊)したときのビアホール導体の密着性を調べた。このとき剥離ができなかったときをA、困難であったが剥離したときをB、容易に剥離したときをCと判定した。
〈初期抵抗値〉
多層配線基板に形成された100個のビアホールの連結接続抵抗値を4端子法により測定した。なお、初期抵抗値としては1Ω以下のものをA、1Ω以下のものと1Ωを超えるものが混在していたものをB、全て1Ωを超えていたものをCと判断した。
〈接続信頼性〉
初期抵抗値を測定した多層配線基板の500サイクルのヒートサイクル試験を行い、初期抵抗値に対する変化率が10%以下のものをA、10%を超えたものをBと判断した。
結果を表1に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2から、Sn42-58Bi粒子の割合が60質量%以下の実施例10〜11の場合には、最大抵抗値が小さくなることが判る。しかしながら、Sn42-58Bi粒子を含有しない比較例7の場合には剥離が発生しやすいことがわかる。一方、Sn42-58Bi粒子の割合が増加するにつれて、剥離が発生しにくくなることがわかる。
【0103】
また、Sn42-58Bi粒子の割合が10〜60質量%の範囲においては低抵抗化と高信頼性化が両立できていることがわかる。Sn42-58Bi粒子が存在しない場合には、Cu粒子同士が接触する面接触部の周囲に存在する第二金属領域が形成されないために接続信頼性が低下する。一方、Sn42-58Bi粒子の割合が高すぎる場合には第二金属領域が多くなりすぎることにより、Cu粒子同士が接触する面接触部が少なくなり、それにより、抵抗値が大きくなる傾向がある。
【0104】
ここで、代表的に、本発明に係るペーストNo.9を用いて得られた多層配線基板のビア導体の断面の電子顕微鏡(SEM)写真及び、そのトレース図を図8〜図9に示す。なお、図8は3000倍、図9は6000倍であり、それぞれSEM写真(A)及びそのトレース図(B)を示している。また、図10は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)に用いたビア導体の断面のSEM写真及びトレース図を示している。
【0105】
図8〜図9から、得られたビアホール導体は、多数のCu粒子7が高充填され、互いに面接触して面接触部20を形成していることがわかる。これにより、抵抗値の低い導通路が形成されることがわかる。また、面接触部20または銅粒子7の表面、あるいはこの面接触部20を跨ぐように、錫(Sn)や錫-銅金属間化合物や錫-銅合金を主成分とする第二金属領域18が形成されていることがわかる。また、抵抗値の高いBiを主成分とする第三金属領域19は、実質的にCu粒子と接触していないことがわかる。この第三金属領域は、Sn42-58Bi粒子中のSnがCu粒子7の表面のCuと合金(例えば金属間化合物)を形成することにより、高濃度のBiが析出したと思われる。なお、実施例6〜11のいずれにおいても同様に、銅粒子同士が、互いに面接触することにより面接触部を形成しており、第二金属領域の少なくとも一部分が第一金属領域に接触していることを確認した。
【0106】
また、図11に、図10のSEM像をEPMAによりCu元素のマッピングを行ったときの像(A)及びそのトレース図(B)を示す。
【0107】
図11(A)(B)より、得られたビアホール導体には、多数のCu粒子が高密度にランダムに存在することがわかる。また、多数のCu粒子同士は、直接、面接触することにより電気的に接続していることがわかる。
【0108】
また、図12に、図10のSEM像を用いたSn元素のマッピング像(A)及びそのトレース図(B)を示す。
【0109】
図12(A)(B)より、多数のCu粒子同士が直接接触する面接触部の表面には、その面接触部を跨ぐように第二金属領域が形成されていることが判る。
【0110】
なお、図10においては、Cu粒子の表面の大部分が第二金属領域で覆われているように見える。しかし、EPMAではエポキシ樹脂は透過されるために、観察面の表層のSn元素だけでなく、下地のSn元素も検出されている。従って、実際は第二金属領域はCu粒子の表面の大部分を覆っているのではなく、その表面、更には面接触部を跨ぐように存在している。このことは、図14〜図11で示したSEM像からもわかる。そして、このような構造によれば、比較的硬い第二金属領域に発生した応力は柔らかいCu粒子で吸収される。そのために、第二金属領域に発生したクラックが伝播して広がることが抑制される。
【0111】
さらに、図13に、図10のSEM像を用いたBi元素のマッピング像(A)及びそのトレース図(B)を示す。
【0112】
図13より、Biは、第三金属領域がCu粒子と接触しないように存在していることがわかる。このことから、抵抗値の高いBiはCu粒子の接触により形成された導通路に影響を与えていないことがわかる。
【0113】
[従来技術との比較]
次に、上述した実施例の多層配線基板のビアホール導体の抵抗値と、上述した特許文献4に係るビアホール導体の抵抗値とを比較した結果について説明する。
【0114】
図14は実施例の多層配線基板のビアホール導体の抵抗値と、特許文献4に係る多層配線基板のビアホール導体の抵抗値とを比較したグラフである。
図14において、横軸(X軸)は、ビアホール導体中に含まれるビスマスの含有割合を質量%で示したものである。縦軸(Y軸)は、ビアホール導体の抵抗値を相対値(最も低い抵抗値を1とした相対値)で表したものである。
図14におけるIの線は、実施例1の[表1]の結果である抵抗値の変化を相対値で示したものである。
【0115】
一方、図14におけるIIの線は特許文献4の[表1]の(Sn−2Ag−0.5Cu−20Bi)における抵抗値の変化を相対値で示したものである。また図14におけるIIIの線は、特許文献4の[表1]の(Sn−2Ag−0.5Cu−15Bi)における抵抗値の変化を相対値で示したものである。また、図14におけるIVの線は、特許文献4の[表1]の(Sn−58Bi)における抵抗値の変化を相対値で示したものである。
【0116】
図14より、線Iで示す本実施例の多層配線基板のビアホール導体の場合、ビアホール導体中に含まれるビスマスの含有割合が増加しても、ビアホール抵抗は殆ど増加していないことが判る。これは本実施例の多層配線基板のビアホール導体においては、銅粒子同士が互いに直接面接触して銅粒子からなる結合体を形成し、この結合体が複数の配線同士を電気的に接続しているためであるといえる。そのため、ビスマスの含有割合が増加しても抵抗値は殆ど増加しない。
【0117】
一方、線II、III、IVで示す特許文献4の[表1]の多層配線基板のビアホール導体の場合、ビアホール導体中に含まれるビスマスの含有割合が増加するにつれて、ビアホール抵抗が急激に増加していることが判る。これは特許文献4の多層配線基板のビアホール導体においては、銅粒子同士が高抵抗の金属成分を介して電気的に接続しているためであると思われる。このことは、特許文献4の段落番号[0015]に記載されているように「接続に溶解した金属成分が関与している」ためであると思われる。すなわち、ビスマスの含有割合が増加すればするほど、銅粒子間に存在する高抵抗の金属成分の厚みが厚くなるためと考えられる。
【0118】
以上のように、本実施例の多層配線基板のビアホール導体の場合、銅粒子は、それらが互いに面接触している部分である面接触部を介して互いに接触してなる結合体を形成し、この結合体が複数の配線同士を電気的に接続しているため、ビアホール導体中のビスマスの含有割合が増加しても、ビアホール抵抗は急激に殆ど増加しないために低抵抗を保っている。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、携帯電話等に使われる多層配線基板の更なる低背化、小型化、高機能化、高信頼性化が実現できる。
【符号の説明】
【0120】
4 金属間化合物
5,24 ボイドまたはクラック
7 銅粒子
11 多層配線基板
12(12a、12b)、42 配線
13,113 絶縁樹脂層
14 ビアホール導体
15 金属部分
16 樹脂部分
17 第一金属領域
17a Cu粒子の結合体
18 第二金属領域
19 第三金属領域
20 面接触部
21 仮想のバネ
25 板状体
26 保護フィルム
27 貫通孔
28 ビアペースト
29 突出部
30 銅箔
31 Sn−Bi系半田粒子
32 硬化性樹脂成分
41 配線基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の第一面に配設された第一配線と前記絶縁樹脂層の第二面に配設された第二配線と、前記絶縁樹脂層を貫通するように設けられた前記第一配線と前記第二配線とを電気的に接続するためのビアホール導体と、を有する多層配線基板であって、
前記絶縁樹脂層は60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材からなり、
前記ビアホール導体は金属部分と樹脂部分とを含み、
前記金属部分は、
前記第一配線と前記第二配線とを電気的に接続する経路を形成する銅粒子の結合体を含む第一金属領域と、
錫,錫‐銅合金、及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域と、
ビスマスを主成分とする第三金属領域と、を有し、
前記結合体を形成する前記銅粒子同士は、互いに面接触することにより面接触部を形成しており、前記第二金属領域の少なくとも一部分が前記第一金属領域に接触していることを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂基材は繊維基材を含有しない請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記結合体の、前記面接触部の周囲の少なくとも一部分が前記第二金属領域で覆われている請求項1または2に記載の多層配線基板。
【請求項4】
前記ビアホール導体中の前記銅粒子の質量割合が20〜90%の範囲である請求項1〜3の何れか1項に記載の多層配線基板。
【請求項5】
前記金属部分の銅(Cu)と錫(Sn)との質量比(Cu/Sn)が1.59〜21.43の範囲である請求項1〜4の何れか1項に記載の多層配線基板。
【請求項6】
前記第一金属領域と前記第三金属領域とが接触していない請求項1〜5の何れか1項に記載の多層配線基板。
【請求項7】
60〜95質量%の無機フィラーを含有する熱硬化性樹脂基材の表面を保護フィルムで被覆する第1工程と、
前記保護フィルムを介して前記板状体に穿孔して貫通孔を形成する第2工程と、
前記貫通孔に、銅粒子と錫−ビスマス系半田粒子と熱硬化性樹脂とを含むビアペーストを充填する第3工程と、
前記第3工程の後、前記保護フィルムを剥離することにより、前記貫通孔から前記ビアペーストの一部が突出して形成される突出部を表出させる第4工程と、
前記突出部を覆うように、前記熱硬化性樹脂基材の少なくとも一面に金属箔を配置する第5工程と、
前記金属箔を前記熱硬化性樹脂基材の表面に圧着して前記突出部を通じて前記ビアペーストを圧縮することにより、前記銅粒子同士が互いに面接触して形成された面接触部を有する、前記銅粒子の結合体を含む第一金属領域を形成させる第6工程と、
前記第6工程の後、前記ビアペーストを前記錫−ビスマス系半田粒子の共晶温度以上で共晶温度+10℃以下の温度の範囲で前記Sn−Bi系半田粒子の一部分を溶融させた後、さらに前記共晶温度+20℃の温度以上300℃以下の温度の範囲に加熱することにより、少なくとも一部分が前記第一金属領域の表面に接触した、錫,錫‐銅合金,及び錫‐銅金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を主成分とする第二金属領域と、前記第二金属領域に接する、ビスマスを主成分とする第三金属領域とを生成させる第7工程と、
を備えたことを特徴とする多層配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図14】
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【図15】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−138417(P2012−138417A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288447(P2010−288447)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】