説明

多板式ディスクブレーキ装置

【課題】制動時にディスクロータが熱変形しても、ライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少を抑止して、安定した制動性能を維持することのできる多板式ディスクブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】多板式ディスクブレーキ装置100において、対向するディスクロータ7,9間に配置されるライニング組立体15,17が、対向するディスクロータ7,9間でこれらのディスクロータ7,9の軸方向に移動自在に支持されるケース31の取付穴33,34に、揺動自在に保持されたことで、ディスクロータ7,9の熱変形時に、ライニング面がディスクロータ面のうねりに追従して、ライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少を抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多板式ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多板式ディスクブレーキ装置は、車軸と一体回転するディスクロータが同軸上に複数枚配置されており、また、これらのディスクロータに押し当てるライニング組立体が対向するディスクロータ間と最外側のディスクロータの外側面側にそれぞれ装備される。
ライニング組立体は、ディスクロータに押し当てるライニング(摩擦パッド)の裏面に、取り付け支持用の裏板を固着させた構造である。
【0003】
同軸上に複数枚配置されるディスクロータの内の一枚は、通常、車軸のハブに固定されており、その他のディスクロータは車軸方向にのみ移動自在にハブに取り付けられる。
【0004】
また、各ライニング組立体は、通常、車体に固定されたサポートにより、車軸方向にのみ移動自在に支持されている。また、サポートには、ディスクロータやライニング組立体の外周を跨ぐキャリパが車軸方向に移動自在に支持されている。キャリパには、最外側に位置する2つのライニング組立体の一方を押えるキャリパ爪と他方をディスクロータ側に押圧するピストンとが装備されていて、これらのピストンとキャリパ爪とによって最外側のライニング組立体を車軸方向に押圧することで、各ライニング組立体が各ディスクロータに押し当てられる。
【0005】
ライニング組立体が各ディスクロータに押し当てられたときに、両者間に発生する摩擦力は、車体に固定されているサポートにより受け止められ、ディスクロータの回転を止める制動力となる。
【0006】
ところで、従来の多板式ディスクブレーキ装置では、各ライニング組立体は、その裏板を直線移動機構となるガイド機構(例えば、スプラインや摺動ピンなど)に嵌合させることにより車軸方向にのみ移動自在に支持させた構成となっているため、ライニング面の傾きは固定である(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−24221号公報
【特許文献2】特許第2578339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、ライニング面の傾きが固定のライニング組立体では、摩擦熱等でディスクロータにうねり等の熱変形が発生した時に、ライニング面の一部しかディスクロータ面に接触せず、ディスクロータとライニング組立体との間に非接触の領域が増えるため、摩擦面積の減少により制動性能が低下する虞があった。
特に、多板式ディスクブレーキ装置の場合では、ライニング組立体を挟む格好となる内奥のディスクロータ面は摩擦熱が籠もり易く、熱変形が生じ易いため、上述したディスクロータの熱変形に起因したライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少が起こり易いという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、制動時にディスクロータが熱変形しても、ライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少を抑止して、安定した制動性能を維持することのできる多板式ディスクブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は下記構成により達成される。
(1)本発明に係る多板式ディスクブレーキ装置は、対向するディスクロータ間に、これらのディスクロータと接触して制動力を発生するライニング組立体が備えられる多板式ディスクブレーキ装置であって、
前記対向するディスクロータ間に配置されるライニング組立体が、前記対向するディスクロータ間でこれらのディスクロータの軸方向に移動自在に支持されるケースの取付穴に、揺動自在に保持されているよう構成する。
【0011】
(2)上記(1)に記載の構成に加えて、前記ケースの両面に保持されるライニング組立体相互は、互いに裏板の中央部を前記ケースの取付穴間を遮断して該取付穴の底部となる隔壁に当接して、揺動自在に支持されるよう構成する。
【0012】
(3)上記(1)に記載の構成に加えて、前記ケースの両面に保持されるライニング組立体相互が、互いの裏板の中央部に形成した位置決め用当接部を背中合わせに当接しているよう構成する。
【発明の効果】
【0013】
上記の多板式ディスクブレーキ装置では、制動時に対向するディスクロータが熱変形しても、これらの対向するディスクロータ間に配置されているライニング組立体はケースに揺動自在に支持されていて、ケース上での揺動動作によりライニング面がディスクロータ面のうねりに追従して、ライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少を抑止することができる。
従って、安定した摩擦面積の維持により、安定した制動性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る多板式ディスクブレーキ装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る多板式ディスクブレーキ装置の一実施の形態における2枚のディスクロータとこれらのディスクロータに押し当てるライニング組立体及びパッド組立体の配置を示す側面図、図2は図1のA矢視図、図3は図1に示したディスクロータ及びライニング組立体及びパッド組立体をその背面側の上方から見た斜視図、図4は図3に示したライニング組立体及びパッド組立体の斜視図、図5は対向するディスクロータ間に配置されるパッド組立体の分解斜視図、図6は図5に示したケースの両面の取付穴にそれぞれライニング組立体が取り付けられた状態のケース断面図である。
【0015】
この一実施の形態の多板式ディスクブレーキ装置100は、車軸と一体に回転するディスクロータとして、車軸に固定されるハブ5に固定される第1のディスクロータ7と、車軸の軸線方向に移動自在にハブ5に取り付けられる第2のディスクロータ9と、の2枚のディスクロータ7,9を備えている。
【0016】
ハブ5には、図1に示すように、ねじ部材21を介して、鍔型のアダプタ23が固定されている。また、アダプタ23には、ハブ5と同心の円筒状を成すホルダー24(図3参照)が、ねじ部材25により固定されている。
第1のディスクロータ7は、図示はしていないが、アダプタ23とホルダー24との間に挟持されると共に、ロータの内周部にねじ部材25が貫通して、ハブ5と一体回転可能に固定されている。
第2のディスクロータ9は、その内周部が、車軸方向に沿ってアダプタ23とホルダー24との外周部に橋渡しされたガイドピン27に係合することで、車軸の軸線方向にのみ移動自在にハブ5に取り付けられている。
【0017】
また、この一実施の形態の多板式ディスクブレーキ装置100は、上記のディスクロータ7,9に押し当てるライニング組立体として、第1のディスクロータ7の外面に押し当てられる第1のライニング組立体11と、第2のディスクロータ9の外面に押し当てられる第2のライニング組立体13と、第1のディスクロータ7の内面に押し当てられる2個の第3のライニング組立体15と、第2のディスクロータ9の内面に押し当てられる2個の第4のライニング組立体17と、の4種類のライニング組立体11,13,15,17を備えている。
【0018】
各ライニング組立体11,13,15,17は、図4及び図5に示すように、ディスクロータに押し当てられるライニング(摩擦パッド)11a,13a,15a,17aと、ライニング11a,13a,15a,17aの裏面に固着された金属板製の裏板11b,13b,15b,17bとから構成されている。
【0019】
第1のライニング組立体11と第2のライニング組立体13とは、同様の構造で、裏板11b,13bの上部両端に取り付け用の耳部11c,13cが設けられており、該耳部11c,13cが車体に固定されたサポートのパッドガイド部に係合することで、車軸方向に移動自在にサポートに支持される。
【0020】
対向するディスクロータ7,9間に配置される第3のライニング組立体15と第4のライニング組立体17とは、同様の構造であり、図5及び図6に示すように、裏板15b,17bの中央部(重心部)に、凸球面の位置決め用当接部15c,17cが膨出形成されている。
【0021】
これらのライニング組立体15,17は、対向するディスクロータ7,9間でこれらのディスクロータ7,9の軸方向に移動自在にサポートに支持されるケース31の両面に取り付けられたパッド組立体32の形態で、対向するディスクロータ7,9間に装備される。
【0022】
ケース31は、第1のライニング組立体11や第2のライニング組立体13の裏板11b,13bと同様に、上部両端に取り付け用の耳部31cが設けられており、該耳部31cが車体に固定されたサポートのパッドガイド部に係合することで、車軸方向に移動自在にサポートに支持される。
【0023】
ケース31の両面には、図5及び図6に示すように、各ライニング組立体15,17を嵌合装着する取付穴33,34が座ぐり形成されている。これらの取付穴33,34は、ライニング組立体15,17が周方向に回らないように、ライニング組立体15,17の裏板15b,17bの外形に対応した非円形(円弧の一部を切り落とした形状)に形成されている。
【0024】
また、第3のライニング組立体15が嵌合する取付穴33と、第4のライニング組立体17が嵌合する取付穴34とは、図6に示すように対向して配置されており、これらの取付穴33,34間を遮断している隔壁36が取付穴33,34の底壁となっている。
【0025】
ケース31のそれぞれの取付穴33,34に装着されたライニング組立体15,17は、その裏板15b,17bの位置決め用当接部15c,17cが、隔壁36に当接して、揺動自在に支持される。
揺動自在にするために、取付穴33,34は、裏板15b,17bの外形よりも大きく設定されているが、取付穴33,34内でライニング組立体15,17がガタ付くことを防止するために、取付穴33,34の内周面には、図5及び図6に示すように、ガタ付き防止用のスプリング37が装着される。
なお、ライニング組立体15,17は、取付穴33,34内での揺動が良好となるように、スプリング37の内面に外接する金属板製の裏板15b,17bの側面が湾曲状に形成されている。
【0026】
以上に説明した多板式ディスクブレーキ装置100では、制動時に対向するディスクロータ7,9が熱変形しても、これらの対向するディスクロータ7,9間に配置されているライニング組立体15,17はケース31に揺動自在に支持されていて、ケース31上での揺動動作によりライニング面がディスクロータ面のうねりに追従して、ライニング面とディスクロータ面との間の摩擦面積の減少を抑止することができる。
従って、安定した摩擦面積を維持して、安定した制動性能を維持することができる。
【0027】
なお、上記実施の形態では、位置決め用当接部15c,17cは各ライニング組立体15,17の裏板15b,17bに膨出形成されるとしたが、裏板15b,17bに代えて、隔壁36に膨出形成したり、裏板15b,17bと隔壁36の双方に膨出形成したり、或いは、一方のライニング組立体では裏板に、他方のライニング組立体では隔壁に膨出形成した構成としてもよい。
【0028】
また、上記実施の形態では、ケース31上に対向配置されるライニング組立体15,17の位置決め用当接部15c,17cは、取付穴33,34の底面となる隔壁36に当接させていた。
しかし、図7に示すように、ケース31の両面に保持されるライニング組立体15,17相互が、ケース31の取付穴33,34の底部に形成された貫通孔部39を通して、互いの裏板15b,17bの中央部の位置決め用当接部15c,17cを背中合わせに当接するように構成しても良い。なお、貫通孔部39は、取付穴33,34と同一径に形成されていても良い。つまり、取付穴33,34は貫通形成されて底部となる隔壁36を省略した構造としても良い。
【0029】
図7に示す構成にすると、ケース31の両面に保持される各ライニング組立体15,17相互は、互いの裏板15b,17bの中央部の位置決め用当接部15c,17cを背中合わせに当接することにより、それぞれの背面位置が規制されるため、ケース31自体には各ライニング組立体15,17の背面位置を規制する隔壁36を装備する必要がなくなり、隔壁36を省略できる分、ケース31を薄肉化して、多板式ディスクブレーキ装置の小型化を図ることができる。
【0030】
なお、上記実施の形態の多板式ディスクブレーキ装置では、対向するディスクロータ間に配置されるライニング組立体のみ揺動自在に支持したが、パッド組立体32におけるライニング保持構造を、最外側のディスクロータの外面に押し当てるライニング組立体にも適用して、使用する全てのライニング組立体を揺動自在に支持した構成としても良い。
このようにすると、更に、最外側のディスクロータの外面に押し当てるライニング組立体においても、熱変形したディスクロータ面への追従性が向上し、さらに安定した制動特性が維持できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る多板式ディスクブレーキ装置の一実施の形態における側面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図1に示したディスクロータ及びライニング組立体及びパッド組立体をその背面側の上方から見た斜視図である。
【図4】図3に示したライニング組立体及びパッド組立体の斜視図である。
【図5】2枚のディスクロータ間に配置されるパッド組立体の分解斜視図である。
【図6】ライニング組立体が取り付けられた状態のケース断面図である。
【図7】ライニング組立体が取り付けられた状態のケースの他の実施の形態の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
5 ハブ
7 第1のディスクロータ
9 第2のディスクロータ
11 第1のライニング組立体
13 第2のライニング組立体
15 第3のライニング組立体
15a ライニング(摩擦パッド)
15b 裏板
15c 位置決め用当接部
17 第4のライニング組立体
17a ライニング(摩擦パッド)
17b 裏板
17c 位置決め用当接部
23 アダプタ
24 ホルダー
27 ガイドピン
31 ケース
31c 耳部
33,34 取付穴
37 スプリング
39 貫通孔部
100 多板式ディスクブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するディスクロータ間に、これらのディスクロータと接触して制動力を発生するライニング組立体が備えられる多板式ディスクブレーキ装置であって、
前記対向するディスクロータ間に配置されるライニング組立体が、前記対向するディスクロータ間でこれらのディスクロータの軸方向に移動自在に支持されるケースの取付穴に、揺動自在に保持されていることを特徴とする多板式ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記ケースの両面に保持されるライニング組立体相互は、互いに裏板の中央部を前記ケースの取付穴間を遮断して該取付穴の底部となる隔壁に当接して、揺動自在に支持されることを特徴とする請求項1に記載の多板式ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記ケースの両面に保持されるライニング組立体相互が、互いの裏板の中央部に形成した位置決め用当接部を背中合わせに当接していることを特徴とする請求項1に記載の多板式ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−97663(P2009−97663A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271371(P2007−271371)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】