説明

多段変速遊星歯車列

【課題】前進8段の多段変速遊星歯車列において、変速機部分の軸方向長さを短くレイアウト可能にする。
【解決手段】入力軸10と平行な第1出力軸12、第2出力軸14と、第1出力軸12と同軸に配置した第1遊星歯車組22と、第2出力軸14と同軸上に配置した第2遊星歯車組24と、入力軸10と同軸に配置され第1サンギヤ30と第2サンギヤ40を連結する中間歯車52とを有し、入力軸10は、第1歯車対を介して第1リングギヤ32と、第2歯車対を介して第2キャリア48と、それぞれ連結可能であり、第1出力軸12は第1キャリア38に、第2出力軸14は第2リングギヤ42に、それぞれ連結されるか、または連結可能であり、第2キャリア48はケース62に固定可能であり、第1サンギヤ30および第2サンギヤ40は、第1歯車対を介して入力軸10と連結可能、かつケース62に固定可能、かつ中間歯車52を介して入力軸10と連結可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機に用いる多段変速が可能な遊星歯車列に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用自動変速機に用いる遊星歯車列は、車両の燃費、排気特性、加速性能等を向上することを主眼に、前進6段の多段変速が可能なものが実用に供されている。
実用に供されている従来の前進6段の多段変速遊星歯車列は、2列または3列の遊星歯車と5個の摩擦要素により前進6段の変速比を得ている。(特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、上記従来の遊星歯車列は、前進6段の変速比を得るために2列または3列の遊星歯車組に加えて、これらと同じ軸上に5個の摩擦要素をさらに設ける必要があって、これらを配置すると軸方向の所要スペースが大きくなってしまうため、エンジンを横向きに配置した、いわゆるエンジン横置き式前輪駆動車等に搭載する変速機へ適用する場合に、車両への搭載が困難になることがあるという問題があった。
そこで、本出願人は2組の遊星歯車と5乃至6個の摩擦要素とを2つの軸に分けて配置して軸方向の所要スペースを小さくすることが可能な多段変速遊星歯車列を提案した(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平4−219553号公報
【特許文献2】特開2005−180665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、変速機の軸方向長さが長いために、エンジン横置き式車両への適用に際して所要スペースの面で制約がある変速機にあって、7段以上の適切な変速比を得ることができるように改善を要する点である。
本発明の目的は、前進7段以上の適切な変速比を得て燃費を向上させながら、歯車列の軸方向長さを短縮可能にして、エンジン横置き式車両の変速機への適用性を向上することが可能な多段変速遊星歯車列を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多段遊星歯車列は、入力軸と平行に設けられた第1出力軸および第2出力軸と、第1出力軸と一体の第1駆動歯車と第2出力軸と一体の第2駆動歯車と、第1駆動歯車および第2駆動歯車に噛み合う出力歯車と、第1出力軸と同軸に配置され、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1リングギヤおよび第1サンギヤに噛み合った第1ピニオン、第1ピニオンを回転自在に軸支する第1キャリアを有して、入力軸の回転数を第1駆動歯車の回転数に変換する第1遊星歯車組と、第2出力軸と同軸に配置され、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2リングギヤおよび第2サンギヤに噛み合った第2ピニオン、第2ピニオンを回転自在に軸支する第2キャリアを有して、入力軸の回転数を第2駆動歯車の回転数に変換する第2遊星歯車組と、第1サンギヤと第2サンギヤとを連結する中間歯車とを有し、入力軸は、第1歯車対を介して第1リングギヤと、第2歯車対を介して第2キャリアと、それぞれ連結可能であり、第1出力軸は第1キャリアに、第2出力軸は第2リングギヤに、それぞれ連結されるか、または連結可能であり、第2キャリアはケース側に固定可能であり、第1サンギヤおよび第2サンギヤは、第1歯車対を介して入力軸と連結可能、かつケース側に固定可能、かつ入力軸と同軸に配置した中間歯車を介して入力軸と連結可能に構成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多段変速遊星歯車列は、第1遊星歯車組および第2遊星歯車組と各締結要素を、第1出力軸と第2出力軸および入力軸に振り分けて配置するとともに、入力軸と第1および第2遊星歯車組とを第1、第2歯車対で連結し、第1および第2遊星歯車組のサンギヤ同士を、入力軸と同軸に配置した中間歯車を介して連結することで、前進7段以上の多段の変速比を得ることができ、燃費の向上をはかりながらも遊星歯車列の軸方向長さを短くすることができる。したがって、その分、エンジン横置きの前輪駆動車等へ搭載する際に、車幅の小さい車両への適用や、より軸方向長さの大きなエンジンを組み合わせての適用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態に係る多段変速遊星歯車列を、各実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は、本発明装置の1実施例のスケルトン図である。
また図2は、図1の左側から見た場合の各軸の位置関係を表す。
図1に示した本発明の多段変速遊星歯車列は、エンジン1からフルードカップリング2を介して駆動される入力軸10が、エンジン1の出力軸1aと同じ軸上にあり、またこれらと平行に第1出力軸12および第2出力軸14が配置されている。
【0009】
第1出力軸12および第2出力軸14には、第1駆動歯車12aおよび第2駆動歯車14aがそれぞれ一体になっており、第1駆動歯車12aおよび第2駆動歯車14aはともに出力歯車16と噛み合っている。図1は、図2におけるA−Aを平面に展開した状態で描いてあるので、同図では第2駆動歯車14aと出力歯車16とが離れているが、実際は図2のように第2駆動歯車14aと出力歯車16とは噛み合っている。
なお、図2では、それぞれの円は各歯車等の外径を表し、軸中心は黒い点で表して矢印で示した。
【0010】
したがって、第1出力軸12と第2出力軸14とは、それぞれ第1駆動歯車12a、出力歯車16、第2駆動歯車14aを介して互いに連結していることになる。
出力歯車16は差動装置18を介して車軸20a、20bを駆動し、車軸20a、20bは図示しない左右の車輪と連結されている。
【0011】
第1出力軸12上に第1遊星歯車組22が、第2出力軸14上に第2遊星歯車組24が、それぞれ同軸配置されている。
入力軸10と一体の第1入力駆動歯車10aは、第1出力軸12と同軸の第1入力歯車26と噛み合って第1歯車対を構成する。
同様に、入力軸10と一体の第2入力駆動歯車10bは、第2出力軸14と同軸の第2入力歯車28と噛み合って第2歯車対を構成している。
【0012】
第1遊星歯車組22と第2遊星歯車組24は、いずれも一般的にシングルピニオン型と呼ばれるものであり、それぞれが同じ構成になっている。
すなわち、第1遊星歯車組22は、第1サンギヤ30と、第1リングギヤ32と、第1リングギヤ32および第1サンギヤ30に噛み合った複数の第1ピニオン34と、第1ピニオン34を回転自在に軸支する第1キャリア38とで構成されている。
同様に、第2遊星歯車組24は、第2サンギヤ40、第2リングギヤ42、複数の第2ピニオン44、第2キャリア48とで構成されている。
【0013】
第1入力歯車26、第2入力歯車28、第1出力軸12および第2出力軸14と、第1遊星歯車組22および第2遊星歯車組24の各回転メンバーとは以下のように連結されているか、または連結可能である。
第1サンギヤ30と一体に連結された第1反力歯車50は、中間歯車52を介して、第2サンギヤ40と一体の第2反力歯車54と噛み合っている。
すなわち、中間歯車52は、第1反力歯車50と噛み合って第3歯車対を構成するとともに、第2反力歯車54と噛み合って第4歯車対を構成する。
【0014】
第1入力歯車26は、第1クラッチ56の締結により第1リングギヤ32と連結される。同様に、第2クラッチ58を締結すると、第1入力歯車26は第1サンギヤ30と連結される。
なお、第1キャリア38は第1出力軸12と連結している。
【0015】
第1サンギヤ30は、第1ブレーキ60によりケース62に固定可能であり、このとき第1サンギヤ30および第2サンギヤ40はともに固定される。
第2入力歯車28は第3クラッチ64を介して第2キャリア48と連結可能である。
第2キャリア48は第2ブレーキ66によりケース62に固定可能であるとともに、ワンウエイクラッチ68により常に一方の回転方向でケース62に固定されている。
なお、第2リングギヤ42は第2出力軸14と連結している。
また、中間歯車52は第4クラッチ70により入力軸10と連結可能である。
【0016】
次に、図1に示した実施例1の作動を、図3に示した作動表を参考にしながら説明する。
以下の説明では、クラッチやブレーキを摩擦要素と呼び、ワンウエイクラッチを含めて軸、静止部、回転メンバーのいずれかの間の連結機能を有するものを総称して締結要素と呼ぶ。
【0017】
図3の作動表において、横方向の欄にはクラッチやブレーキおよびワンウエイクラッチといった締結要素が割り当ててあり、C−1は第1クラッチ56を、B−1は第1ブレーキ60を、OCはワンウエイクラッチ68をといった具合に、それぞれ表す。
なお、これらの記号と各締結要素の符号との関係は、図1に記してある。
【0018】
作動表の縦方向の欄には、図示しない操作レバーの「Dレンジ」「Rレンジ」および「Lレンジ」に分け、Dレンジは前進第1速(1st)乃至第8速(8th)の、Rレンジは後進(R−1、R−2)の各変速段を割り当ててある。
なお、Lレンジでは、後述するエンジンブレーキのように出力歯車16側から入力軸10を駆動することが可能である。
図3の作動表中、○印は各締結要素の締結を、空欄は各締結要素の解放を表す。
【0019】
ここで、各歯数比の算出について、遊星歯車組にあっては、リングギヤの歯数(Zr)に対するサンギヤの歯数(Zs)の比(Zs/Zr)を、第1遊星歯車組22をα1、第2遊星歯車組24をα2とし、歯車対にあっては、第1歯車対の第1入力駆動歯車10aと第1入力歯車26における歯数比をi1、第2歯車対の第2入力駆動歯車10bと第2入力歯車28における歯数比をi2とし、中間歯車52と第1反力歯車50における歯数比(第1反力歯車50の歯数/中間歯車52の歯数)をi3とし、中間歯車52と第2反力歯車54における歯数比(第2反力歯車54の歯数/中間歯車52の歯数)をi4とした場合について説明する。
なお、各歯車対の歯数比は、入力軸10側の歯数を分母、第1、第2出力軸12、14側の歯数を分子とした数値である。
【0020】
ここでは、各変速比の計算には、α1を0.41、α2を0.54、i1を1.76、i2を0.90、i3を0.85、i4を1.22とした場合について例示する。
つまり、第1入力歯車26は入力軸10から減速駆動され、第2入力歯車28は同じく増速駆動される。
なお、表示および計算式を簡略化するため、α2・i2・i3/{i1・i4・α1(1+α2)}をAとする。上記した歯数比においてAは0.305である。
【0021】
はじめに、前進第1速(1st)の変速比は、第1クラッチ56(C−1)を締結することによって得られる。
このとき、第2キャリア48はワンウエイクラッチ68(OC)によりケース62に固定される。
すなわち、ワンウエイクラッチ68は車両を前進駆動する回転方向において自動的に締結するようになっている。したがって、Dレンジにおける第1速は、いわゆるエンジンブレーキのように出力歯車16側から入力軸10を駆動することはできない。
【0022】
第1速の変速比(入力軸10の回転数/第1出力軸12および第2出力軸14の回転数)は、i1(1+α1)+α1・i1・i4/(α2・i3)になり、上記の値に設定した歯数比においては4.400になる。
【0023】
つぎに、第2速(2nd)への変速は、第1速における第1クラッチ56の締結を維持したまま、第1ブレーキ60(B−1)の締結により第1サンギヤ30をケース62に固定することで行う。
このとき、第2キャリア48のケース62への固定は、ワンウエイクラッチ68の作用で自動的に解除される。
【0024】
このため、第1速から第2速への変速において、いわゆる変速ショックは、第1ブレーキ60の締結を追加するだけで済むので、これを徐々に締結するだけでスムーズな変速制御を行うことができる。
変速比はi1(1+α1)になり、上記した歯数比においては2.482である。
【0025】
つぎに、第3速(3rd)への変速は、第2速における第1クラッチ56の締結を維持したまま、第1ブレーキ60を解放するとともに第2クラッチ58を締結することで行う。
これにより第1遊星歯車組22は一体になり、変速比はi1になる。上記した歯数比において変速比は1.760である。
【0026】
つぎに、第4速(4th)への変速は、第3速における第1クラッチ56の締結を維持したまま、第3クラッチ58の締結を解除するとともに第4クラッチ70(C−4)の締結により第1サンギヤ30と入力軸10とを、第3歯車対を介して連結することで行う。
これにより、変速比はi1・i3(1+α1)/{i3(1+α1)+α1(i1−i3)}になる。上記した歯数比において変速比は1.342である。
【0027】
つぎに、第5速(5th)への変速は、第4速における第1クラッチ56の締結を維持したまま、第4クラッチ64の締結を解除するとともに第3クラッチ64(C−3)の締結により、第2キャリア48を第2入力歯車28と連結することで行う。
これにより、変速比は{i2+A・i1(1+α1)(1+α2)}/{(1+A)(1+α2)}になる。上記した歯数比において変速比は1.027である。
【0028】
つぎに、第6速(6th)への変速は、第5速における第3クラッチ64の締結を維持したまま、第1クラッチ56の締結を解除するとともに、再び第4クラッチ70を締結することにより行う。
これにより、第2サンギヤ40が第4歯車対を介して入力軸10と連結され、変速比はi2・i4/{α2(i4−i2)+i4}になる。上記した歯数比において変速比は0.788の増速になる。
【0029】
つぎに、第7速(7th)への変速は、第6速における第3クラッチ64の締結を維持したまま、第4クラッチ70の締結を解除するとともに、再び第2クラッチ58を締結することにより第1サンギヤ30および第2サンギヤ40を第1入力歯車26と連結することで行う。
上記歯数比において変速比は0.668である。
【0030】
つぎに、第8速(8th)への変速は、第7速における第3クラッチ64の締結を維持したまま、第2クラッチ58の締結を解除するとともに、再び第1ブレーキ66を締結することにより第1サンギヤ30および第2サンギヤ40をケース62に固定することで行う。
これにより、変速比はi2/(1+α2)になる。上記歯数比において変速比は0.584である。
【0031】
つぎに、Rレンジにおける後進第1速(R−1)の変速は、第2クラッチ58および第2ブレーキ66の締結により、第2サンギヤ40を第1入力歯車26と連結し、第2キャリア48をケース62に固定することで行われる。
これにより、変速比は−i1・i4/(α2・i3)になる。上記歯数比において変速比は−4.678の逆転である。
【0032】
つぎに、後進第2速(R−2)の変速は、第4クラッチ70の締結および第2キャリア48をケース62に固定することで行われる。
これにより、変速比は−i4/α2になる。上記歯数比において変速比は−2.259である。
【0033】
前述のように、Dレンジの第1速においては、エンジンブレーキのように出力歯車16側から駆動する場合には動力伝達ができない。そこでエンジンブレーキを作用させるには、図3の作動表のLレンジに示すように、Dレンジにおける1速の締結に加えて、第2ブレーキ66を締結する。これにより、出力歯車16側から駆動する場合において動力伝達することができるようになる。
【0034】
以上の変速比をまとめると以下になる。なお、隣り合った変速比同士の比が段間比であり( )内に示す。すなわち、第1速に示した値は第2速の変速比との比である。
第1速 4.400 (1.773)
第2速 2.482 (1.410)
第3速 1.760 (1.311)
第4速 1.342 (1.306)
第5速 1.027 (1.303)
第6速 0.788 (1.180)
第7速 0.668 (1.143)
第8速 0.584
【0035】
これに見るように、変速比の幅(4.400/0.584)が7.528と広く、変速段数が多いことに加えて、全般に高速段側へ行くにしたがって段間比が小さくなっており、内燃機関で駆動する車両用変速機の変速比として好ましい傾向になっている。
これは、中間歯車52と第1反力歯車50における歯数比i3を増速比とし、中間歯車52と第2反力歯車54における歯数比i4を減速比としたためである。
【0036】
また、上記の変速比例において、第1歯車対の歯数比i1を変えると以下になる。
i1 1.73 1.86
第1速 4.325 (1.773) 4.650 (1.773)
第2速 2.439 (1.410) 2.623 (1.410)
第3速 1.730 (1.301) 1.860 (1.346)
第4速 1.330 (1.299) 1.359 (1.328)
第5速 1.023 (1.298) 1.041 (1.320)
第6速 0.788 (1.177) 0.788 (1.189)
第7速 0.670 (1.146) 0.663 (1.134)
第8速 0.584 0.584
変速比幅 7.400 7.956
すなわち、第1歯車対の歯数比を変えるだけで、段間比の順列を乱すことなく変速比の幅を変化させることができる。
したがって、様々な車両やエンジンと組み合わせて使う場合に、第1歯車対を構成する2枚の歯車のみを変更して適用することができるので、製造コストを大きく変化させないで対応が可能になる。
【0037】
このように、本発明の実施例に係る多段遊星歯車列は、遊星歯車組を二つの第1、第2出力軸12、14に分けて配置し、締結要素は入力軸10も含めて3軸に分けて配置したため、軸方向長さを大きくしないで適切な変速比の前進8段の変速比を得ることができるのが最大の特徴である。
特に例示はしないが、途中の変速段を省略する形で前進7段にしても、変速機として適切な変速比を得ることができる。
【実施例2】
【0038】
図4は、本発明の第2の実施例に係る多段遊星歯車列を表す。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同一の符号を付し、それらの説明を省略する。
【0039】
図4は図1に対応したスケルトン図であり、第1遊星歯車組22のまわりが実施例1と異なる。
すなわち、第1入力歯車26と第1リングギヤ32および第1サンギヤ30との間に中間部材72を設け該中間部材70と第1入力歯車26との間を発進クラッチ74で連結可能にするとともに、中間部材70と第1リングギヤ32とを第1クラッチ56で、中間部材70と第1サンギヤ30とを第2クラッチ58で、それぞれ連結可能とした。
したがって、入力軸10と第1リングギヤ32および第1サンギヤ30とは発進クラッチ74と第1クラッチ56または第2クラッチ58を介して連結されることになる。
【0040】
また、第1ブレーキ60は、第2クラッチ58の外側に配置したバンドブレーキの構成にして描いてあるが、機能は実施例1と同じである。
さらに、後述のように発進作用は発進クラッチ74で行うため、エンジン1と入力軸10との間にダンパー3を設けて、実施例1のフルードカップリングを削除した。
【0041】
図4に示した実施例2の作動については、図5に示した作動表を参考に説明する。
図5は図3に対応しているが、締結要素に発進クラッチ74(C−0)が追加してある。また、◎印は車両を発進させる際に滑らせながら締結することを表し、括弧で囲った○は締結しているが動力伝達に関与しないことを表す。
【0042】
この表で、第6速以外は、発進クラッチ74(C−0)の締結が追加されただけで、実施例1の図3と同じであるので詳述を割愛するが、第1速(1st)と後進の第1速(R−1)において、実施例1と同じように各締結要素を締結するのに加えて発進クラッチ74を滑らせながら締結する点が異なる。
すなわち、前進第1速を例にとると、第1クラッチ56を締結して、発進クラッチ74を徐々に滑らせながら締結すると、ワンウエイクラッチ68の作用と相まって車両は発進することができる。
【0043】
第6速は、実施例1と同様に第3クラッチ64と第4クラッチ70のみを締結しても、第5速と第7速の中間の変速比を得ることができるが、実施例2では図5に示したように、第4クラッチ70を締結したうえで第1および第2クラッチ56、58を締結する。
第1および第2クラッチ56、58を締結したことで第1遊星歯車組22は一体になり、変速比はi2/(1+α2)+i2・α2・i3/{i4(1+α2)}となる。
【0044】
これを基に、α1を0.40、α2を0.55、i1を1.93、i2を0.94、i3を0.92、i4を1.22とした場合について変速比の具体例を示すと、以下になる。なお、( )内は隣り合った変速比同士の比が段間比を示す。
第1速 4.563 (1.689)
第2速 2.702 (1.400)
第3速 1.930 (1.314)
第4速 1.469 (1.310)
第5速 1.121 (1.307)
第6速 0.858 (1.230)
第7速 0.697 (1.150)
第8速 0.606
【0045】
これに見るように、変速比の幅(4.563/0.606)が7.525と、実施例1で例示したのとほぼ同じ値であるが、段間比が改善されている。
すなわち、第1速と第2速の段間比が1.689と小さくなったので第1速から第2速への変速時の変速ショックを小さくすることが可能になるとともに、高速段側へ行くにしたがって段間比が小さくなっており、内燃機関で駆動する車両用変速機の変速比として好ましい傾向になっている。
これは、中間歯車52と第1反力歯車50における歯数比i3を増速比とし、中間歯車52と第2反力歯車54における歯数比i4を減速比としたことと相まって、第6速の変速比が実施例1と異なるためである。
【0046】
このように、実施例2の多段変速遊星歯車列は、実施例1と比べて、発進クラッチ74が追加になる代わりに、フルードカップリングをダンパーに置換できるので、全体として軸方向長さを小さくレイアウトすることが可能であり、望ましい変速比が得られることに変わりはない。
【実施例3】
【0047】
図6は、本発明の第3の実施例に係る多段遊星歯車列を表す。
ここでは、実施例2と異なる部分を中心に説明し、実施例2と実質的に同じ部分については同一の符号を付し、それらの説明を省略する。
【0048】
図6は図4に対応したスケルトン図であり、発進クラッチ74の配置が実施例2と異なる。
すなわち、発進クラッチ74は入力軸10と同軸に設けられており、入力軸10は発進クラッチ74および第1歯車対10a、26を介して中間部材72と連結可能になっている。
また、第1ブレーキ60が、実施例1と同様の形状にしてある点が異なる。
その他は、作動表を含めて変速比も実施例2と同様であるので詳しい説明は省略する。
【0049】
実施例3は、発進クラッチ74を入力軸10側へ配置したため、直径を大きくすることが可能であり、車両を発進させる際に滑りで生ずる発熱への対応が容易になるので、特に車両重量の重い場合や大容量のエンジンへの適用性に優れる。
このように、実施例2の多段変速遊星歯車列は、実施例1と同様に、全体として軸方向長さを小さくレイアウトすることが可能であり、望ましい変速比が得られる。
【0050】
以上、説明したように、本実施例の多段変速遊星歯車列は、軸方向長さを短くレイアウトすることで従来例に比べて車両全体を小型軽量にすることができるので、変速段数とあいまって重量面でも燃費の向上をはかることができるといった特徴もある。
また、中間歯車52と第1反力歯車50における歯数比i3を増速比とし、中間歯車52と第2反力歯車54における歯数比i4を減速比としたため、高速段側へ行くにしたがって段間比が小さくなり、車両用変速機の変速比として好ましい傾向にすることができる。
【0051】
上記した各実施例は、第2遊星歯車組をシングルピニオン型とした場合であるが、これをダブルピニオン型にして、第2キャリアを第2出力軸と連結し、第2リングギヤを第2歯車対と連結可能にしても、同様に前進7段以上の変速比を得ることができる。
さらに、上記実施例では、エンジン1と入力軸10との間にフルードカップリング2を設けているが、これに代えてトルクコンバータを用いてもよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
前進7段以上の望ましい変速比を得るとともに、変速機部分の軸方向長さを短くレイアウトできるため、特にエンジン横置き式車両に搭載する変速機へ適用する場合に、より車幅が小さい車両に適用可能になるとともに、より軸方向長さの大きなエンジンと組み合わせて適用することもできるので、小型乗用車などに幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の多段変速遊星歯車列の構造を示したスケルトン図である。(実施例1)
【図2】実施例1の軸の配置を示す図である。
【図3】実施例1の作動表を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る多段変速遊星歯車列の構造を示したスケルトン図である。(実施例2)
【図5】実施例2の作動表を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る多段変速遊星歯車列の構造を示したスケルトン図である。(実施例3)
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2 フルードカップリング
3 ダンパー
10 入力軸
12 第1出力軸
14 第2出力軸
16 出力歯車
18 差動装置
20 車軸
22 第1遊星歯車組
24 第2遊星歯車組
26 第1入力歯車
28 第2入力歯車
30 第1サンギヤ
32 第1リングギヤ
34 第1ピニオン
38 第1キャリア
40 第2サンギヤ
42 第2リングギヤ
44 第2ピニオン
48 第2キャリア
50 第1反力歯車
52 中間歯車
54 第2反力歯車
56 第1クラッチ
58 第2クラッチ
60 第1ブレーキ
62 ケース
64 第3クラッチ
66 第2ブレーキ
68 ワンウエイクラッチ
70 第4クラッチ
72 中間部材
74 発進クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
該入力軸と平行に設けられた第1出力軸と、
前記入力軸および前記第1出力軸に平行に設けられた第2出力軸と、
前記第1出力軸と一体の第1駆動歯車と、
前記第2出力軸と一体の第2駆動歯車と、
前記第1駆動歯車および前記第2駆動歯車に噛み合う出力歯車と、
前記第1出力軸と同軸に配置され、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1リングギヤおよび第1サンギヤに噛み合った第1ピニオン、第1ピニオンを回転自在に軸支する第1キャリアを有して、前記入力軸の回転数を前記第1駆動歯車の回転数に変換する第1遊星歯車組と、
前記第2出力軸と同軸に配置され、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2リングギヤおよび第2サンギヤに噛み合った第2ピニオン、第2ピニオンを回転自在に軸支する第2キャリアを有して、前記入力軸の回転数を前記第2駆動歯車の回転数に変換する第2遊星歯車組と、
前記入力軸と同軸に配置され、前記第1サンギヤと前記第2サンギヤとを連結する中間歯車とを有し、
前記入力軸は、第1歯車対を介して前記第1リングギヤと、第2歯車対を介して前記第2キャリアと、それぞれ連結可能であり、
前記第1出力軸は前記第1キャリアに、前記第2出力軸は前記第2リングギヤに、それぞれ連結されるか、または連結可能であり、
前記第2キャリアはケース側に固定可能であり、
前記第1サンギヤおよび前記第2サンギヤは、前記第1歯車対を介して前記入力軸と連結可能、かつ前記ケース側に固定可能、かつ前記中間歯車を介して前記入力軸と連結可能であることを特徴とする多段変速遊星歯車列。
【請求項2】
前記入力軸と前記第1リングギヤおよび前記第1サンギヤとの間に前記第1出力軸と同軸の中間部材を有し、該中間部材と前記第1リングギヤおよび前記第1サンギヤとをそれぞれ連結可能なクラッチを設けるとともに、前記入力軸と前記中間部材との間を発進クラッチで連結可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の多段変速遊星歯車列。
【請求項3】
前記中間歯車と前記第1反力歯車の歯数比を増速比とし、前記中間歯車と前記第2反力歯車の歯数比減速比としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多段変速遊星歯車列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−292227(P2007−292227A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121901(P2006−121901)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(594008626)協和合金株式会社 (49)
【Fターム(参考)】