説明

多気筒エンジンの吸排気装置

【課題】簡単な構成でエンジン出力を高めることのできる多気筒エンジンの吸排気装置を提供する。
【解決手段】独立排気通路52の下流端および集合部56を、エゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52に接続された排気ポート18内に負圧が生成される形状にし、集合部56の内周面を、その一部が、各独立排気通路52の内周面の下流端の一部とほぼ一致する位置から各独立排気通路52の下流端の軸線L2とほぼ同じ傾斜角度で下流側に延びる形状にするとともに、排気順序が連続する一方の気筒12のオーバーラップ期間と他方の気筒12の排気弁20の開弁開始時期とを重複させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に設けられる多気筒エンジンの吸排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンにおいて、エンジン出力を高めることを目的とした吸排気装置の開発が行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ターボ過給機を有する装置であって、各気筒の排気ポートに接続されて互いに独立する複数の独立通路と、ターボ過給機の上流に設けられてこれら独立通路が集合する集合部と、この集合部に設けられて各独立通路の流路面積を変更可能なバルブとを備えたものが開示されている。この装置では、前記バルブによって前記独立排気通路の流路面積を縮小することで、排気行程にある気筒の排気を所定の独立通路から前記集合部に比較的高速で流入させ、この高速の排気の周囲に生成された負圧を前記集合部において他の独立通路に作用させていわゆるエゼクタ効果によってこの他の独立通路内の排気を下流側に吸い出すことで、ターボ過給機に供給されるガス量を増大させてエンジン出力を向上させるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車等のエンジンにおいて、エンジン出力の向上要求は依然として高く、簡単な構成でより一層エンジン出力を高めることが求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、簡単な構成でより吸気量をより増大させてエンジン出力を高めることのできる多気筒エンジンの吸排気装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、吸気ポートおよび排気ポートがそれぞれ形成されるとともに前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と前記排気ポートを開閉可能な排気弁とが設けられた複数の気筒を有する多気筒エンジンの吸排気装置であって、1つの気筒あるいは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続された独立排気通路と、前記各独立排気通路を通過したガスが集合するように当該各独立排気通路の下流端に接続された集合部と、前記各気筒の吸気弁および排気弁を駆動可能なバルブ駆動手段とを備え、前記バルブ駆動手段は、少なくともエンジンの回転数が予め設定された所定の回転数よりも低くエンジンの負荷が予め設定された所定の負荷よりも高い低速高負荷領域において、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を駆動し、前記各独立排気通路のうち排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路は、互いに隣り合う位置で前記集合部に接続されており、前記各独立排気通路の下流端および前記集合部は、各気筒の排気ポートから当該独立排気通路の下流端を通って前記集合部に排気が排出されるのに伴いエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路に接続された排気ポート内に負圧が生成されるように、下流側ほど流路面積が小さくなる形状を有し、前記各独立排気通路の下流端は、排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路の下流端が互いに隣り合う位置となるように、かつ、当該各下流端の軸線がそれぞれ下流に向かうに従って前記集合部の軸線に近接する方向に傾斜するように、前記集合部に接続されており、前記集合部の内周面は、その一部が、前記各独立排気通路の内周面の下流端の一部とほぼ一致する位置から下流側に延びているとともに、当該一部が、前記各独立排気通路の下流端の軸線の傾斜角度とほぼ同じ角度で傾斜していることを特徴とする多気筒エンジンの吸排気装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、各独立排気通路および集合部がエゼクタ効果を得ることができるよう構成されているとともに低速高負荷領域において所定の気筒のオーバーラップ期間中に他の気筒の排気弁が開弁されるので、少なくともこの低速高負荷領域において、エゼクタ効果によりオーバーラップ期間中の気筒の排気ポート内に負圧を生成してこの負圧によりオーバーラップ期間中の掃気を促進することができる。
【0009】
しかも、本発明では、集合部の内周面は、その一部が、前記各独立排気通路の下流端の内周面の一部とほぼ一致する位置から下流側に延びているとともに、当該一部が、前記各独立排気通路の下流端の軸線の傾斜角度とほぼ同じ角度で傾斜している。そのため、集合部において、排気を集合部の内周面の一部にはりついた状態で流下させることができ、排気が集合部の軸と直交する方向に広がってしまい、この膨張に伴い排気の速度が低下するといった事態、また、集合部の内周面に衝突することに伴い排気の速度が低下するといった事態をより確実に回避することができる。そして、この排気の速度低下を抑制することにより、より高いエゼクタ効果すなわち排気ポート内の負圧量をより高くすることができ、これによって高い掃気性能を実現することができる。
【0010】
前記各独立排気通路の下流端および集合部の具体的構成としては、前記各独立排気通路の下流端は、前記集合部の軸線を中心とする円の円周上に、これら下流端全体で略円形をなすように配列されており、前記集合部の内周面の上流端は、前記各独立排気通路の下流端全体で形成される円と略一致する円形を呈し、前記集合部の内周面は、当該集合部の軸線を中心とする略円錐台面状を有するものが挙げられる(請求項2)。
【0011】
ここで、前記各独立排気通路と前記集合部とは、前記各独立排気通路の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をaとし、前記集合部の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をDとして、a/Dが大きいほど高いエゼクタ効果を得ることができるが、a/Dが0.7以上と大きくなり、独立排気通路の下流端から排出された排気が通過する集合部の下流端の流路面積が非常に小さくなると、排気が集合部において軸方向と直交する方向に広がることに伴って集合部の内周面に衝突する。そのため、a/D≧0.7において本発明を適用すれば、前記衝突を回避して確実に高いエゼクタ効果ひいては高い掃気性能を実現することができる(請求項3)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る多気筒エンジンの吸排気装置を備えたエンジンシステムの概略構成図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】吸気弁および排気弁のバルブタイミングを説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係る吸気弁および排気弁の開弁時期および閉弁時期を説明するための図である。
【図7】本発明の課題を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係る集合部付近の排気の速度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る多気筒エンジンの排気装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は前記多気筒エンジンの吸排気装置を備えたエンジンシステム100の概略構成図である。図2は、図1の部分拡大図である。このエンジンシステム100は、シリンダヘッド9およびシリンダブロックを有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2と、エンジン本体1に接続される複数の吸気管3と、エンジン本体1に接続される排気マニホールド5と、排気マニホールド5に接続される触媒装置6とを備えている。
【0015】
エンジン本体1と吸気管3について説明する。
【0016】
前記シリンダヘッド9およびシリンダブロックの内部には、ピストンがそれぞれ嵌挿された複数の気筒12が形成されている。本実施形態では、前記エンジン本体1は、直列4気筒のエンジンであって、前記シリンダヘッド9およびシリンダブロックの内部には4つの気筒12が直列に並んだ状態で形成されている。具体的には、図1の右から順に第1気筒12a,第2気筒12b,第3気筒12c,第4気筒12dが形成されている。前記シリンダヘッド9には、ピストンの上方に区画された燃焼室内に臨むようにそれぞれ点火プラグ15が設置されている。
【0017】
前記エンジン本体1は4サイクルエンジンであって、図5に示すように、各気筒12a〜12dにおいて、180℃Aずつずれたタイミングで前記点火プラグ15による点火が行われて、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程がそれぞれ180℃Aずつずれるように構成されている。本実施形態では、第1気筒12a→第3気筒12c→第4気筒12d→第2気筒12bの順に点火が行われてこの順に排気行程等が実施される。
【0018】
各気筒12の上部には、それぞれ燃焼室に向かって開口する2つの吸気ポート17および2つの排気ポート18が設けられている。吸気ポート17は、各気筒12内に吸気を導入するためのものである。排気ポート18は、各気筒12内から排気を排出するためのものである。各吸気ポート17には、これら吸気ポート17を開閉して吸気ポート17と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための吸気弁19が設けられている。各排気ポート18には、これら排気ポート18を開閉してこれら排気ポート18と気筒12内部とを連通あるいは遮断するための排気弁20が設けられている。前記吸気弁19は吸気弁駆動機構(バルブ駆動手段)30により駆動されることで、所定のタイミングで吸気ポート17を開閉する。また、前記排気弁20は、排気弁駆動機構(バルブ駆動手段)40により駆動されて、所定のタイミングで排気ポート18を開閉する。
【0019】
前記吸気弁駆動機構30は、吸気弁19に連結された吸気カムシャフト31と吸気VVT32とを有している。吸気カムシャフト31は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフトに連結されており、クランクシャフトの回転に伴い回転して、吸気弁19を開閉駆動する。
【0020】
前記吸気VVT32は、吸気弁19のバルブタイミングを変更するためのものである。この吸気VVT32は、吸気カムシャフト31と同軸に配置されてクランクシャフトにより直接駆動される所定の被駆動軸と吸気カムシャフト31との間の位相差を変更して、これによりクランクシャフトと前記吸気カムシャフト31との間の位相差を変更することで、吸気弁19のバルブタイミングを変更する。吸気VVT32の具体的構成としては、例えば、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に周方向に並ぶ複数の液室を有し、これら液室間に圧力差を設けることで前記位相差を変更する液圧式機構や、前記被駆動軸と前記吸気カムシャフト31との間に設けられた電磁石を有し、前記電磁石に電力を付与することで前記位相差を変更する電磁式機構等が挙げられる。この吸気VVT32は、ECU2で算出された吸気弁19の目標バルブタイミングに基づいて前記位相差を変更する。
【0021】
前記排気弁駆動機構40は、前記吸気弁駆動機構30と同様の構造を有している。すなわち、排気弁駆動機構40は、排気弁20およびクランクシャフトに連結された排気カムシャフト41と、この排気カムシャフト41とクランクシャフトとの位相差を変更することで排気弁20のバルブタイミングを変更する排気VVT42とを有している。排気VVT42は、ECU2で算出された排気弁20の目標バルブタイミングに基づいて、前記位相差を変更する。そして、排気カムシャフト41は、この位相差の下でクランクシャフトの回転に伴って回転して排気弁20を前記目標バルブタイミングで開閉駆動する。
【0022】
なお、本実施形態では、前記吸気VVT32および排気VVT42は、吸気弁19および排気弁20の開弁期間及びリフト量つまりバルブ・プロファイルをそれぞれ一定に保ったまま、吸気弁19および排気弁20の開弁時期と閉弁時期とをそれぞれ変更する。
【0023】
前記各気筒12の吸気ポート17は、その上流側においてそれぞれ前記吸気管3に接続されている。具体的には、前記吸気管3は気筒数に対応して4本設けられており、各気筒12に設けられた2つの吸気ポート17が、1つの吸気管3に接続されている。
【0024】
次に、排気マニホールド5について説明する。
【0025】
前記排気マニホールド5は、上流側から順に、3つの独立排気通路52と、集合部56と、この集合部56と同軸で配置された混合部57およびディフューザー部58とを備えている。
【0026】
前記各独立排気通路52は、前記各気筒12の排気ポート18に接続されている。具体的には、前記気筒12のうち第1気筒12aの排気ポート18と第4気筒12dの排気ポート18とは、それぞれ個別に独立排気通路52a、52dに接続されている。一方、排気行程が隣り合わず排気順序が連続しない第2気筒12bと第3気筒12cの排気ポート18は、これら各気筒から同時に排気が排出されることがないため、構造を簡素化する観点から、1つの独立排気通路52bに接続されている。より詳細には、この第2気筒12bと第3気筒12cの排気ポート18に接続されている独立排気通路52bは、その上流側において二股上に形成されており、その一方に前記第2気筒12bの排気ポート18が接続され、他方に前記第3気筒12cの排気ポート18が接続されている。本実施形態では、前記第2気筒12bおよび第3気筒12cの排気ポート18に対応する独立排気通路52は、これら気筒12b,12cの中央部分すなわちエンジン本体1の略中央部分と対向して直線的に延びており、他の気筒12a,12dの排気ポート18に対応する独立排気通路52は、対応する各排気ポート18と対向する位置から前記第2気筒12bおよび第3気筒12cに対応する独立排気通路52に向かって湾曲して延びている。
【0027】
これら独立排気通路52は、互いに独立しており、第2気筒12bあるいは第3気筒12cから排出された排気と、第1気筒12aから排出された排気と、第4気筒12dから排出された排気とは、互いに独立して各独立排気通路52内を通って下流側に排出される。各独立排気通路52を通過したガスは前記集合部56に流入する。
【0028】
前記各独立排気通路52および前記集合部56は、各独立排気通路52から高速で排気が噴出されてこの排気が高速で前記集合部56内に流入するのに伴い、この高速の排気の周囲に発生した負圧作用すなわちエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路52およびこの独立排気通路52と連通する排気ポート18内に負圧が生成されこの排気ポート18内のガスが下流側に吸い出されるような形状を有している。
【0029】
具体的には、前記各独立排気通路52は、排気が各独立排気通路52から高速で前記集合部56内に噴出されるよう、下流に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。本実施形態では、図3に示すように、各独立排気通路52は、略楕円形断面を有する上流側部分から下流に向かうに従ってその断面積が縮小されていき、その下流端では上流側部分の楕円形断面積の略1/3となる扇形となっている。そして、これら独立排気通路52は、扇形をなす各下流端が、互いに隣接して全体として略円形断面を形成するように集合して前記集合部56に接続されている。
【0030】
前記集合部56は、前記各独立排気通路52から排出された排気が高い速度を維持したまま下流側に流れるよう、下流側に向かうほどその流路面積が小さくなる形状を有している。そして、集合部56の内周面は、下流に向かうほど集合部56の軸線L1に近づく方向に傾斜している。本実施形態では、集合部56の内周面は、下流に向かうに従って縮径する円錐台面状を呈している。
【0031】
ここで、本発明者らは、各独立排気通路52から集合部56に排出された排気の噴流が集合部56に流入した際にこの集合部56の軸線L1と直交する方向に広がると、この広がりすなわち膨張に伴い排気の速度が低下すること、また、前記広がりによって、図7に示すように、集合部56の内周面に衝突して排気の速度が低下すること、また、上流側で一端広がった後下流側で再び絞られる結果流れの向きが変更されて抵抗が増加することを発見した。また、前記独立排気通路52の下流端の断面積と同じ面積を有する真円の直径をa(図2参照)とし、前記集合部56の下流端および混合部57の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をD(図2参照)として、a/Dが大きいほど高いエゼクタ効果を得ることができる一方、a/Dが、特に、0.7以上という範囲に設定された場合において前記衝突が生じて排気の速度が低下することを突き止めた。この集合部56における排気の速度低下は、エゼクタ効果すなわち他の排気ポート18内の排気を下流側に吸い出す力を低下させて掃気性能を低下させる。
【0032】
そこで、本発明者らは、a/D≧0.7としつつ、各独立排気通路52の下流端から集合部56に排出された排気噴流を集合部56の内周面にはりついた状態で流下させて排気の広がりを抑制して排気速度の低下を抑え、これにより高いエゼクタ効果ひいては高い掃気性能を確実に得られるようにした。すなわち、本発明者らは、流れの周囲に物体を配置すると流れがこの物体に吸い寄せられるというコアンダ効果を利用した。
【0033】
具体的には、集合部56の内周面の上流端の一部と各独立排気通路52の内周面の下流端の一部とをほぼ一致させるとともに、集合部56の軸線L1に対する集合部56の内周面の傾斜角度γ(図2参照)と、集合部56の軸線L1に対する各独立排気通路52の下流端の軸線L2の傾斜角度α(図2参照)とをほぼ一致させて、集合部56の一部が独立排気通路52の下流端から同じ角度で傾斜し、これらが連続して延びるように構成している。
【0034】
本実施形態では、前記各独立排気通路52の下流端全体で形成された円が、集合部56の内周面の上流端の円とほぼ一致するように構成している。
【0035】
ここで、独立排気通路52の下流端全体で構成された円と、これに対応する集合部56の内周面の上流端の円との径方向のずれ量は、各独立排気通路52の下流端から集合部56に排出された排気噴流を集合部56の内周面にはりついた状態で流下させることが可能な範囲で適宜設定可能である。例えば、図2に示す例では、この図2のIV−IV線断面図である図4に示すように、集合部56の内周面の上流端の円C1よりも、独立排気通路52の下流端で構成される円C2の方が径が大きい。具体的には、集合部56の上流端の円C1の内径が51mmに設定されている場合において、この集合部56の内周面の上流端の円C1は、独立排気通路52の下流端で構成される円C2よりも約2mm径方向外側に設定されている。ただし、集合部56が各独立排気通路52の下流端よりも径方向内側に位置する場合は、集合部56の上流端によって排気の集合部56内への流入が阻害されるおそれがあるため、集合部56は各独立排気通路52の下流端と一致あるいは径方向外側に位置するのが好ましい。
【0036】
また、集合部56の内周面の傾斜角度γと、各独立排気通路52の下流端の傾斜角度αとのずれ量も、各独立排気通路52の下流端から集合部56に排出された排気噴流を集合部56の内周面にはりついた状態で流下させることが可能な範囲で適宜設定可能である。ただし、各独立排気通路52の内周面の径方向外側部分であって、円周上に延びる部分の、集合部56の軸線L1に対する傾斜角度をβとした際に、集合部56の傾斜角度γが、この傾斜角度βよりも大きいと、排気噴流が集合部56に流入した際にこの集合部56の内周面に衝突して排気の速度低下をまねくおそれがある。そのため、集合部56の傾斜角度γは、各独立排気通路52の径方向外側部分の傾斜角度をβよりも小さい方が好ましい。図2に示す例では、各独立排気通路52の内周面の径方向外側部分の、集合部56の軸線L1に対する傾斜角度をβとした際に、集合部56の内周面の傾斜角度γが、γ=(α+β)/2をほぼ満足するように設定されている。
【0037】
なお、図2に示す例では、各寸法が次のように設定されている。各独立排気通路52の下流端全体で形成される円の直径は47mmに設定されている。各独立排気通路52の下流端は、その断面積と同じ面積を有する真円の直径aが25mmになるように設定されている。前記集合部56の下流端の直径は、前述のように、独立排気通路52の下流端で構成される円よりも大きく、51mmに設定されている。前記集合部56の下流端は、その断面積と同じ面積を有する真円の直径Dが29mmになるように設定されている。各独立排気通路52の下流端の軸線L2の、集合部56の軸線L1に対する傾斜角度αは、7度に設定されている。各独立排気通路52の内周面の円周上に延びる部分の、集合部56の軸線L1に対する傾斜角度βは、14度に設定されている。これに伴い、集合部56の軸線L1に対する傾斜角度γは、10度に設定されている。
【0038】
以上のように構成された本実施形態に係る各独立排気通路52および集合部56における排気の流れの様子、具体的には、排気の速度分布を調べた結果を図8に示す。
【0039】
図8に示すように、本実施形態では、各独立排気通路52から排出された排気噴流は、集合部56の軸線L1と直交する方向に広がることなく集合部56の内周面にはりついた状態で流下している。そして、集合部56の内周面のうち排気噴流の噴出箇所と反対側の面に、排気噴流が衝突するのが回避されており、抵抗が小さく抑えられた状態ひいては速度を高く維持した状態で流下している。
【0040】
以上のように構成された集合部56の下流端に接続される前記混合部57は、略円柱状を有している。そして、この混合部57の下流端に接続される前記ディフューザー部58は下流側に向かうほど流路面積が拡大する形状を有している。前記集合部56から排出された高速の排気は、前記混合部57およびこのディフューザー部58を通過することで圧力回復する。本実施形態では、このディフューザー部58は、下流側に向かうに従って拡径する円錐台形状を有している。
【0041】
次に、触媒装置6について説明する。
【0042】
前記触媒装置6は、エンジン本体1から排出された排気を浄化するための装置である。この触媒装置6は、三元触媒等の触媒本体64とこの触媒本体64を収容するケーシング62とを備えている。ケーシング62は上下流方向に延びる略円筒状を有している。前記触媒本体64は、前記ケーシング62の上下流方向の中央部分に収容されており、このケーシング62の上流端には所定の空間が形成されている。前記ディフューザー部58の下流端はこのケーシング62の上流端に接続されており、ディフューザー部58から排出された排気はこのケーシング62の上流端に流入した後、触媒本体64側へ進行する。
【0043】
次に、ECU2について説明する。
【0044】
ECU2は、吸気弁19、排気弁20のバルブタイミングを制御可能である。ECU2は、各種センサからの信号に基づき現在の運転条件を演算するとともに、この運転条件に応じて、吸気弁19、排気弁20のバルブタイミングを予め記憶された目標バルブタイミングになるように制御する。
【0045】
前記吸気弁19および排気弁20の目標バルブタイミングは、全運転領域において、排気弁20の開弁期間と吸気弁19の開弁期間とが吸気上死点(TDC)を挟んでオーバーラップし、かつ、排気弁20が他の気筒12のオーバーラップ期間T_O/L中に開弁を開始するように設定されている。具体的には、図5に示すように、第1気筒12aの吸気弁19と排気弁20とがオーバーラップしている期間中に第3気筒12cの排気弁20が開弁し、第3気筒12cの吸気弁19と排気弁20とがオーバーラップしている期間中に第4気筒12dの排気弁20が開弁し、第4気筒12dの吸気弁19と排気弁20とがオーバーラップしている期間中に第2気筒12bの排気弁20が開弁し、第2気筒12bの吸気弁19と排気弁20とがオーバーラップしている期間中に第1気筒12aの排気弁20が開弁するよう設定されている。
【0046】
なお、本エンジンシステム100において、前記吸気弁19および排気弁20の開弁時期、閉弁時期とは、それぞれ、図6に示すように、各バルブのリフトカーブにおいてバルブのリフトが急峻に立ち上がるあるいは立ち下がる時期であり、例えば0.4mmリフトの時期をいう。
【0047】
以上のように構成された本エンジンシステム100における吸気性能について次に説明する。
【0048】
所定の気筒12(以下、適宜、排気行程気筒12という)の排気弁20が開弁すると、この気筒12から対応する排気ポート18および前記独立排気通路52には排気が高速で排出される。特に、排気弁20の開弁開始直後は気筒12から非常に高速で排気(いわゆるブローダウンガス)が排出される。
【0049】
本エンジンシステム100では、前述のように、前記独立排気通路52および集合部56は、所定の独立排気通路52から集合部56に排気が高速で噴出され、これに伴いエゼクタ効果よって他の独立排気通路52内に負圧が生成されてこの他の独立排気通路52ひいてはこの他の独立排気通路52に連通する排気ポート18内のガスが下流側へ吸い出されるよう構成されている。そして、所定の気筒12(吸気行程気筒)のオーバーラップ期間中に、排気順序がこの吸気行程気筒12の1つ後に設定された他の気筒12(排気行程気筒)の排気弁20が開弁するように設定されている。
【0050】
従って、排気行程気筒12の排気弁20が開弁して前記ブローダウンガスがこの排気行程気筒12から独立排気通路52を通って集合部56に高速で噴出されるのに伴い、前記エゼクタ効果によりオーバーラップ期間中の吸気行程気筒12の排気ポート18内に負圧が生成され、これにより、このオーバーラップ期間中の吸気行程気筒12内の掃気が促進される。
【0051】
本実施形態では、前述のように、各独立排気通路52から排出された排気噴流は、集合部56の軸線L1と直交する方向に広がることなく集合部56の内周面にはりついた状態で流下して、これにより排気が集合部56を高速で流下するよう構成されている。そのため、より高いエゼクタ効果、すなわち、より高いエンジン出力を得ることができる。
【0052】
ここで、前記実施形態では、全運転領域において、吸気弁19と排気弁20とをオーバーラップさせるとともに他の気筒12の排気弁20の開弁開始時期とこのオーバーラップ期間とを重複させる制御を実施する場合について説明したが、この制御は、エンジン回転数が所定の回転数よりも低く、かつ、エンジンの負荷が予め設定された所定の負荷よりも高い低速高負荷等の一部の領域でのみ行なうようにしてもよい。すなわち、エンジン回転数が高い運転領域では、排気流量が増大するため、エゼクタ効果により得られる掃気促進効果よりもポンプ損失低減により得られる掃気促進効果の方が高い場合がある。従って、このような場合には、吸気弁19と排気弁20とを掃気促進効果をより高めることができるように制御するのが好ましい。
【0053】
また、前述のように、エンジン回転数が高い運転領域におけるポンプ損失を低減するべく、前記各独立排気通路52のうち流路面積が小さくなる領域から前記ディフューザー部58の下流側の部分までをバイパスする通路を設け、この通路をその流路面積を一定等として排気抵抗が大きくならない形状にするとともに、この通路にこの通路を開閉するバルブを取り付けて、前記エンジン回転数が低い運転領域ではこのバルブを閉じて前記独立排気通路52のみを排気が通過するように構成するとともに、エンジン回転数が高い運転領域では前記バルブを開いて排気が前記バイパス通路側をも通過するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン本体
17 吸気ポート
18 排気ポート
19 吸気弁
20 排気弁
30 吸気弁駆動機構(バルブ駆動手段)
40 排気弁駆動機構(バルブ駆動手段)
52 独立排気通路
56 集合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートおよび排気ポートがそれぞれ形成されるとともに前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と前記排気ポートを開閉可能な排気弁とが設けられた複数の気筒を有する多気筒エンジンの吸排気装置であって、
1つの気筒あるいは排気順序が互いに連続しない複数の気筒の排気ポートにそれぞれ接続された独立排気通路と、
前記各独立排気通路を通過したガスが集合するように当該各独立排気通路の下流端に接続された集合部と、
前記各気筒の吸気弁および排気弁を駆動可能なバルブ駆動手段とを備え、
前記バルブ駆動手段は、少なくともエンジンの回転数が予め設定された所定の回転数よりも低くエンジンの負荷が予め設定された所定の負荷よりも高い低速高負荷領域において、前記各気筒の吸気弁の開弁期間と排気弁の開弁期間とが所定のオーバーラップ期間重複し、かつ、排気順序が連続する気筒間において一方の気筒の前記オーバーラップ期間が他方の気筒の排気弁が開弁している時期に重複するように、各気筒の吸気弁および排気弁を駆動し、
前記各独立排気通路のうち排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路は、互いに隣り合う位置で前記集合部に接続されており、
前記各独立排気通路の下流端および前記集合部は、各気筒の排気ポートから当該独立排気通路の下流端を通って前記集合部に排気が排出されるのに伴いエゼクタ効果によって隣接する他の独立排気通路に接続された排気ポート内に負圧が生成されるように、下流側ほど流路面積が小さくなる形状を有し、
前記各独立排気通路の下流端は、排気順序が連続する気筒に接続された独立排気通路の下流端が互いに隣り合う位置となるように、かつ、当該各下流端の軸線がそれぞれ下流に向かうに従って前記集合部の軸線に近接する方向に傾斜するように、前記集合部に接続されており、
前記集合部の内周面は、その一部が、前記各独立排気通路の内周面の下流端の一部とほぼ一致する位置から下流側に延びているとともに、当該一部が、前記各独立排気通路の下流端の軸線の傾斜角度とほぼ同じ角度で傾斜していることを特徴とする多気筒エンジンの吸排気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒エンジンの吸排気装置において、
前記各独立排気通路の下流端は、前記集合部の軸線を中心とする円の円周上に、これら下流端全体で略円形をなすように配列されており、
前記集合部の内周面の上流端は、前記各独立排気通路の下流端全体で形成される円と略一致する円形を呈し、
前記集合部の内周面は、当該集合部の軸線を中心とする略円錐台面状を有することを特徴とする多気筒エンジンの吸排気装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多気筒エンジンの吸排気装置において、
前記各独立排気通路と前記集合部とは、前記各独立排気通路の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をaとし、前記集合部の下流端の流路面積と同じ面積を有する真円の直径をDとして、a/Dが0.7以上となる形状を有することを特徴とする多気筒エンジンの吸排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−32753(P2013−32753A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169801(P2011−169801)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】