説明

多気筒エンジンの燃料噴射制御装置

【課題】一時的な燃料噴射量の増加を抑制し、燃費を向上させることのできる多気筒エンジンの燃料噴射制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン(1)において燃料噴射量に対して発生するトルクの関係を示す関数を2回微分した値が正となる燃費悪化領域に要求トルクがあるとき、この燃費悪化領域外の値を目標トルクとする高トルク気筒(例えば+10%トルク気筒3気筒)及び低トルク気筒(例えば−10%トルク気筒3気筒)とに分けて、高トルク気筒の目標トルク及び低トルク気筒の目標トルクの総和がエンジンに要求されている要求トルクと等しくなるよう各気筒の目標トルクを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒エンジンの燃料噴射制御装置に係り、詳しくは各気筒異なったトルクを出力するよう燃料噴射量を制御する燃料噴射制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の気筒を備える多気筒エンジンにおいて、気筒間の燃焼のばらつきを抑制するために、各気筒毎に燃料噴射時期、燃料噴射量、噴射波形、点火時期等を制御する燃焼制御装置がある。
例えば、各気筒にて発生するトルクのばらつきを抑制するよう、各気筒の筒内圧を検出し、当該筒内圧に応じて燃料の点火時期を制御することで、エンジンの回転変動及び振動を抑制する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−152857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、各気筒にて発生するトルクのばらつきを抑制することはできても、燃費に対しての燃焼を最適化するものではない。
トルクのばらつきを抑えるために燃料噴射量や点火時期を調整すると、EGRガス量の増加やターボチャージャの駆動等の運転状態により、一時的に燃料噴射量が増加し、燃費が悪化する場合がある。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、一時的な燃料噴射量の増加を抑制し、燃費を向上させることのできる多気筒エンジンの燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、請求項1の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置では、複数の気筒を有し、該気筒毎に燃料噴射手段を備えたエンジンと、前記エンジンに要求される要求トルクから前記気筒毎の目標トルクを設定し、該目標トルクに応じた燃料噴射量に基づき前記燃料噴射手段を制御する燃料噴射制御手段と、を備えた多気筒エンジンの燃料噴射制御装置であって、前記燃料噴射制御手段は、前記エンジンにおける燃料噴射量に対して発生するトルクの関数を2回微分した値が正となる所定の運転領域にあるとき、前記各気筒を、前記要求トルクを気筒数で等分した値より高く前記所定の運転領域外となる値を目標トルクとする高トルク気筒、及び前記要求トルクを気筒数で等分した値より低く前記所定の運転領域外となる値を目標トルクとする低トルク気筒とに分け、前記高トルク気筒の目標トルク及び前記低トルク気筒の目標トルクの総和が前記要求トルクと等しくなるよう各気筒の目標トルクを設定することを特徴としている。
【0007】
請求項2では、請求項1において、前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段を備え、前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと前記低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせを複数有し、前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じて該組み合わせを選択することを特徴としている。
請求項3では、請求項2において、前記運転状態検出手段は、前記エンジンと接続された変速機の変速ギヤ段を検出するギヤ段検出手段であり、前記燃料噴射制御手段は、前記ギヤ段検出手段により検出される変速ギヤ段が低速側のギヤであるほど、前記高トルク気筒の目標トルクと前記低トルク気筒の目標トルクとの差が小さい、高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせを選択することを特徴としている。
【0008】
請求項4では、請求項1から3のいずれかにおいて、前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒及び低トルク気筒の気筒数が同数である組み合わせである場合は高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼順が交互となるよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てることを特徴としている。
請求項5では、請求項1から4のいずれかにおいて、前記エンジンは前記気筒を6つ有しており、前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒のうちの一方が2気筒であり、他方が4気筒である組み合わせの場合、一方の1気筒の燃焼に続き他方の2気筒が燃焼するよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いる本発明の請求項1の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置によれば、エンジンにおける燃料噴射量に対して発生するトルクの関係を示す関数を2回微分した値が正となる所定の運転領域、即ち燃費悪化領域であるとき、この燃費悪化領域外の値を目標トルクとする高トルク気筒及び低トルク気筒とに分けて、高トルク気筒の目標トルク及び低トルク気筒の目標トルクの総和が要求トルクと等しくなるよう各気筒の目標トルクを設定する。
【0010】
このように、総和として要求トルクを満たしつつ、燃費悪化領域外の値を目標トルクとする高トルク気筒及び低トルク気筒に分けて燃料噴射を行うことで、燃費の悪化を回避することができる。
これにより、一時的な燃料噴射量の増加を抑制し、燃費を向上させることができる。
請求項2の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置によれば、高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせを複数有し、エンジンの運転状態に応じていずれかの組み合わせを選択する。
【0011】
このようにエンジンの運転状態に適した高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせ選択することで、より確実に燃料噴射量の増加を抑制することができる。
請求項3の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置によれば、変速機の変速ギヤ段に基づき、変速ギヤ段が低速側のギヤであるほど、高トルク気筒の目標トルクと低トルク気筒の目標トルクとの差を小さく設定する。
【0012】
このように、エンジンにかかる負荷が大きくトルク変動が大きい低速時の燃費悪化領域では、高トルク気筒の目標トルクと低トルク気筒の目標トルクとの差を小さくすることで、トルク変動を抑制しつつ、燃費の改善を図ることができる。
請求項4の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置によれば、高トルク気筒及び低トルク気筒の気筒数が同数である組み合わせである場合は高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼順が交互となるよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てる。
【0013】
このように、高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼を連続させないことで、トルク変動を抑制することができる。
請求項5の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置によれば、6気筒エンジンであって、高トルク気筒及び前記低トルク気筒のうちの一方が2気筒であり、他方が4気筒である組み合わせの場合、一方の1気筒の燃焼に続き他方の2気筒が燃焼するよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てる。これにより、高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼が連続することを最小限に抑えることができ、トルク変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る燃料噴射制御装置を備えたエンジンの概略全体構成図である。
【図2】燃料噴射量に応じて発生するトルクの関係をエンジン回転数毎に示したマップである。
【図3】+10%トルク3気筒−10%トルク3気筒にトルク分配した場合の燃料噴射量及びトルクの関係マップである。
【図4】+20%トルク2気筒−10%トルク4気筒にトルク分配した場合の燃料噴射量及びトルクの関係マップである。
【図5】トルク配分の組み合わせ毎に燃費改善領域を示したマップである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1を参照すると、本発明に係る燃料噴射制御装置を備えたエンジンの概略全体構成図が示されている。
エンジン1は、車両前方から順に第1気筒#1から第6気筒#6まで直列に並んで形成された直列6気筒ディーゼルエンジンである。各気筒にはそれぞれ燃料噴射弁2が設けられており、各燃料噴射弁2はコモンレール4に接続されている。各燃料噴射弁2はコモンレール4に蓄圧された高圧燃料が供給され、任意の噴射時期及び噴射量で気筒内への燃料噴射が可能である。なお、燃焼順序は#1、#5、#3、#6、#2、#4である。
【0016】
エンジン1の吸気側には吸気マニホールド6が接続されており、吸気マニホールド6からは吸気管8が延びている。吸気管8の吸気上流端にはエアクリーナ10が設けられており、吸気管8の途中にはターボチャージャ12のコンプレッサ12aが設けられ、当該コンプレッサ12aの吸気下流側にはインタークーラ14が設けられている。
一方、エンジン1の排気側には排気マニホールド16が接続されており、排気マニホールド16からは排気管18が延びている。
【0017】
排気マニホールド16と吸気マニホールド6とは、排気をEGRガスとして吸気へと還流可能なEGR通路20により接続されている。EGR通路20にはEGRガスを冷却するEGRクーラ22やEGRガスの還流量を調節するEGRバルブ24が設けられている。
また、排気管18の途中には上記コンプレッサ12aと同軸上に連結されたタービン12bが設けられている。
【0018】
さらに、エンジン1の出力軸は変速機26と接続されており、当該変速機26は運転者により選択した変速ギヤ段に応じた変速比で、エンジン1からの回転駆動力を変速させてプロペラシャフト28へと伝達するものである。
また、当該エンジン1を搭載した車両には、エンジン1の運転制御をはじめとした総合的な制御を行うための制御装置としてECU30が設けられている。当該ECU30は、CPU、メモリ、タイマカウンタなどから構成され、様々な制御量の演算を行うとともに、その制御量に基づき各種デバイスの制御を行っている。
【0019】
例えば、ECU30の入力側には、変速機26における変速ギヤ段を検出するギヤ段センサ32、車両の車速を検出する車速センサ34、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度を検出するアクセル開度センサ36等の各種センサ類が接続されている。また、当該ECU30は、これらセンサ類からの情報からエンジン1に作用する負荷やエンジン回転数等を演算して検出することが可能である。さらに、ECU30の出力側には各気筒の燃料噴射弁2、EGRバルブ24等の各種デバイス類が接続されている。
【0020】
そして、当該ECU30は、燃費が悪化する所定の運転領域では、この燃費の悪化を回避するための気筒毎の燃料噴射制御を行う。
以下、当該ECU30によって行われる燃料噴射制御について説明する。
ECU30はアクセル開度センサ36により検出されるアクセル開度から運転者がエンジン1に要求する要求トルクを算出し、当該要求トルクから各気筒の目標トルクを設定し、当該目標トルクを発生させるのに必要な燃料噴射量を算出する。
【0021】
ここで図2を参照すると、エンジン1における燃料噴射量に応じて発生するトルクの関係をエンジン回転数毎に示したマップが示されている。
図2の一点鎖線は燃料噴射量の増加に対するトルク増加の変化率を一定にした場合を示しており、当該一点鎖線の傾きより下方となる線分は、所定の燃料噴射量で発生するトルクが低下し、燃費が低いことを示す。
【0022】
同図を見ると、全体の傾向としてはトルクが増加するほど燃料噴射量が増加し、燃費が徐々に低下している。また、エンジン回転数の高い線分ほど下側にあり、燃費が低いことがわかる。
また、局所的な傾向として、例えばエンジン回転数2500rpmの線分では、白抜き矢印で示す所定領域では、下に凸に変曲した線分となっている。つまり、当該所定領域は、エンジン1において燃料噴射量に対して発生するトルクの関数を2回微分した値が正となる領域であり、燃費が局所的に悪化する燃費悪化領域である。このような局所的な燃費悪化は、例えば燃料噴射時期を進角させるためにEGR量を増加させたり、ターボチャージャ12の駆動状態が変化する等のエンジン1の運転状態の変化により生じるものである。
【0023】
ECU30は、要求トルクが上記図2に示すような燃費悪化領域に入った際には、エンジン1に対する要求トルクを気筒数で等分した値より高い値を目標トルクとする高トルク気筒と、要求トルクを気筒数で等分した値より低い値を目標トルクとする低トルク気筒とに分け、高トルク気筒の目標トルク及び低トルク気筒の目標トルクの総和が、要求トルクと等しくなるように各気筒の目標トルクを分配して設定する。
【0024】
具体的には、図3及び4に基づき説明する。図3には+10%トルク3気筒−10%トルク3気筒にトルク分配した場合の燃料噴射量及びトルクの関係マップ、図4には+20%トルク2気筒−10%トルク4気筒にトルク分配した場合の燃料噴射量及びトルクの関係マップがそれぞれ示されている。
詳しくは、図3は、上記図2の白抜き矢印で示した1つの燃費悪化領域において、第1気筒#1から第3気筒#3については要求トルクを気筒数で等分した値より10%高い目標トルクとする高トルク気筒に、第4気筒#4から第6気筒#6については要求トルクを気筒数で等分した値より10%低い目標トルクとする低トルク気筒にそれぞれ分配した場合を示している。なお、高トルク気筒及び低トルク気筒の目標トルクはそれぞれ燃費悪化領域外のトルクである。
【0025】
つまり、例えば燃費悪化領域における要求トルクが1200Nmであるとき、気筒数の6で等分した値は200Nmであり、これより+10%の高トルク気筒は220Nmの目標トルクに設定され、−10%の低トルク気筒は180Nmの目標トルクに設定される。また、高トルク気筒及び低トルク気筒の目標トルクの総和(220×3+180×3=1200Nm)と要求トルクは等しい。なお、高トルク気筒が第1気筒#1から第3気筒#3であり、低トルク気筒が第4気筒#4から第6気筒#6であることで、高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼が交互に行われることとなる。
【0026】
このように、総和として要求トルクを満たしつつ高トルク気筒と低トルク気筒とにトルクを分配することで、1気筒当たり平均した燃料噴射量は、図3に示すように、実線で示されている+10%トルク及び−10%トルクとを結んだ線分上の値(白抜き四角)となる。この+10%トルク及び−10%トルクを結んだ線分は、燃料噴射量及びトルクの変化率一定の線分の傾きに近づき、要求トルクを等分した場合よりも燃費が改善される。
【0027】
また、各気筒のトルク分配の組み合わせはこの類型に限られず、図4では、第1気筒#1及び第6気筒#6については要求トルクを気筒数で等分した値より20%高い目標トルクとする高トルク気筒に、第2気筒#2から第5気筒#5については10%低い目標トルクとした低トルク気筒にそれぞれ分配した場合を示している。
つまり、要求トルクが1200Nmであり、気筒数で等分した値が200Nmであるとき、高トルク気筒の目標トルクは240Nm、低トルク気筒の目標トルクは180Nmとなり、高トルク気筒及び低トルク気筒の目標トルクの総和(240×2+180×4=1200Nm)と要求トルクは等しい。なお、高トルク気筒が第1気筒#1、第6気筒#6であり、低トルク気筒が第2気筒#2から第5気筒#5であることで、高トルク気筒1気筒の燃焼に続き低トルク気筒2気筒が燃焼する。
【0028】
この場合の1気筒当たり平均した燃料噴射量は、図4に示すように、実線で示されている+20%トルク及び−10%トルクと結んだ線分上の値(白抜き四角)となる。この+20%トルク及び−10%トルクを結んだ線分は、上記図3の+10%トルク及び−10%トルクを結んだ線分よりも変化率一定の線分の傾きに近づき、上記図3の場合以上に燃費が改善される。
【0029】
さらに、ECU30は、上記図3、4に示したトルク配分の組み合わせの他、+10%の高トルク気筒を4気筒及び−20%の低トルク気筒を2気筒、+50%の高トルク気筒を1気筒及び−10%の低トルク気筒を5気筒、+10%の高トルク気筒を5気筒、−50%の低トルク気筒を1気筒、とした組み合わせも記憶しており、合計5つの類型のトルク配分の組み合わせを記憶している。
【0030】
さらにECU30は、図5に例示するように、トルク配分の組み合わせ毎に、上記図2で示したような燃費悪化領域に対応して、そのトルク配分による燃料噴射の実行により燃費が改善される運転領域(燃費改善領域)を示したマップを有している。
具体的には、図5(a)は+10%トルク3気筒−10%トルク3気筒の燃費改善領域を示したマップ、図5(b)は+20%トルク2気筒−10%トルク4気筒の燃費改善領域を示したマップ、図5(c)は+50%トルク1気筒−10%トルク5気筒の燃費改善領域を示したマップである。なお、+10%トルク4気筒−20%トルク2気筒に関するマップ、+10%トルク5気筒−50%トルク1気筒に関するマップは省略している。
【0031】
図5(a)〜(c)において斜線で示された運転領域が燃費改善領域であり、ECU30は、検出されたエンジン回転数及び負荷が当該燃費改善領域に入ったときには対応するトルク配分の組み合わせに基づき燃料噴射を行う。
なお、ECU30は、エンジン1の運転状態に応じて該トルク配分の組み合わせを選択する。具体的にはこの運転状態を変速ギヤまたは車速により検出する。ギヤ段センサ32により検出される変速ギヤ段が低速ギヤであるほど、または車速センサ34により検出される車速が低いほど高トルク気筒及び低トルク気筒の目標トルクの差が小さい組み合わせを選択する。例えば、変速ギヤ段が1、2速または低速であるときは+10%3気筒−10%3気筒、変速ギヤ段が3、4速または中速であるときは+20%2気筒−10%4気筒、変速ギヤ段が5、6速または高速であるときは+50%1気筒−10%5気筒を選択する。
【0032】
つまり、エンジン1にかかる負荷が大きくトルク変動が車両走行に影響の出やすい低速段、低速時の燃費悪化領域では、高トルク気筒及び低トルク気筒の目標トルクの差を小さくすることで、トルク変動を抑制しつつ、燃費の改善を図ることができる。
以上のように、ECU30は、エンジン1における燃料噴射量に対して発生するトルクの関係を示す関数を2回微分した値が正となる燃費悪化領域では、この燃費悪化領域外の値を目標トルクとする高トルク気筒及び低トルク気筒とに分けて、高トルク気筒の目標トルク及び低トルク気筒の目標トルクの総和が要求トルクと等しくなるよう各気筒の目標トルクを設定する。
【0033】
このように、総和として要求トルクを満たしつつ、高トルク気筒及び低トルク気筒に分けて燃料噴射を行うことで、上記図3、4で示したように燃費の悪化を回避し燃費改善を図ることができる。
また、高トルク気筒及び低トルク気筒の組み合わせにおいて、+10%トルク気筒3気筒−10%トルク3気筒のように、高トルク気筒及び低トルク気筒の気筒数が同数である組み合わせである場合は高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼順が交互となる各気筒を割り当て、+20%トルク2気筒−10%トルク4気筒のような組み合わせである場合でも、+20%トルク1気筒の燃焼に続き−20%トルク2気筒が燃焼するよう、各気筒を割り当てていることで、高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼が連続することを最小限に抑えることができ、トルク変動を抑制することができる。
【0034】
これらのことから、本発明に係る多気筒エンジンの燃料噴射制御装置は、トルク変動を抑制しつつ、一時的な燃料噴射量の増加を抑制し、燃費を向上させることができる。
以上で本発明に係る多気筒エンジンの燃料噴射制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
上記実施形態ではエンジン1は直列6気筒ディーゼルエンジンだが、当該エンジンの型式にこれに限られるものではない。例えば、気筒列は直列に限らず並列等でも構わない。また、気筒数も6気筒に限らず、4気筒や8気筒等の多気筒エンジンでも構わない。
【0035】
また、上記実施形態では、ECU30が図5に示すようなトルク配分の組み合わせ毎に燃費改善領域を示したマップを記憶し、当該マップに基づく燃料噴射制御を行っているが、燃費改善領域はEGR量の増加やターボチャージャの駆動変化等の運転状態の変化が生じる領域に対応していることから、当該運転状態の変化を直接検出し、所定の運転状態の変化が検出されたときに、最適なトルク分配の組み合わせで燃料噴射制御を行う構成とすることも可能である。
【0036】
また、上記実施形態では、10%単位で高トルク及び低トルクを定めているが、より細分化した単位で高トルク及び低トルクを定めてもよい。
また、上記実施形態では、図3に示した+10%トルク3気筒−10%トルク3気筒の組み合わせの場合、高トルク気筒を第1気筒#1から第3気筒#3、低トルク気筒を第4気筒#4から第6気筒#6に、図4に示した+20%トルク2気筒−10%トルク4気筒の組み合わせの場合、高トルク気筒を第1気筒#1及び第6気筒#6、低トルク気筒を第2気筒#2から第5気筒#5に、それぞれ割り当てているが、このような割り当てに限られるものではない。燃焼順に基づき、高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼が連続することを最小限に抑えた割り当てることが好ましい。また、途中で高トルク気筒及び低トルク気筒の割り当てを変更してもよく、それにより特定の気筒のみに高負荷がかかることを防止し、エンジンの長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0037】
#1〜#6 気筒
1 エンジン
2 燃料噴射弁(燃料噴射手段)
12 ターボチャージャ
20 EGR通路
22 EGRクーラ
24 EGRバルブ
26 変速機
30 ECU(燃料噴射制御手段)
32 ギヤ段センサ
34 車速センサ
36 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有し、該気筒毎に燃料噴射手段を備えたエンジンと、
前記エンジンに要求される要求トルクから前記気筒毎の目標トルクを設定し、該目標トルクに応じた燃料噴射量に基づき前記燃料噴射手段を制御する燃料噴射制御手段と、を備えた多気筒エンジンの燃料噴射制御装置であって、
前記燃料噴射制御手段は、前記エンジンにおける燃料噴射量に対して発生するトルクの関数を2回微分した値が正となる所定の運転領域にあるとき、前記各気筒を、前記要求トルクを気筒数で等分した値より高く前記所定の運転領域外となる値を目標トルクとする高トルク気筒、及び前記要求トルクを気筒数で等分した値より低く前記所定の運転領域外となる値を目標トルクとする低トルク気筒とに分け、前記高トルク気筒の目標トルク及び前記低トルク気筒の目標トルクの総和が前記要求トルクと等しくなるよう各気筒の目標トルクを設定することを特徴とする多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段を備え、
前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと前記低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせを複数有し、前記運転状態検出手段により検出される運転状態に応じて該組み合わせを選択することを特徴とする請求項1記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記運転状態検出手段は、前記エンジンと接続された変速機の変速ギヤ段を検出するギヤ段検出手段であり、
前記燃料噴射制御手段は、前記ギヤ段検出手段により検出される変速ギヤ段が低速側のギヤであるほど、前記高トルク気筒の目標トルクと前記低トルク気筒の目標トルクとの差が小さい、高トルク気筒の気筒数及び目標トルクと低トルク気筒の気筒数及び目標トルクの組み合わせを選択することを特徴とする請求項2記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒及び低トルク気筒の気筒数が同数である組み合わせである場合は高トルク気筒及び低トルク気筒の燃焼順が交互となるよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記エンジンは前記気筒を6つ有しており、
前記燃料噴射制御手段は、前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒のうちの一方が2気筒であり、他方が4気筒である組み合わせの場合、一方の1気筒の燃焼に続き他方の2気筒が燃焼するよう前記高トルク気筒及び前記低トルク気筒を割り当てることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−69315(P2011−69315A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222327(P2009−222327)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】