説明

多波長発光素子及びその製造方法

【課題】効率的な製造が可能な多波長発光素子を提供する。
【解決手段】多波長発光素子100は、表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面121,122を有する基板110と、基板110上に第1結晶成長面121から半導体が結晶成長して形成された第1半導体層131と、第1半導体層131上に半導体が結晶成長して形成された第1半導体発光層151と、基板110上に第2結晶成長面122から半導体が結晶成長して形成された第1半導体層131の主面とは異なる結晶面を主面とする第2半導体層132と、第2半導体層132上に、第1半導体発光層151を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長して形成された第2半導体発光層152とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多波長発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光波長が相互に異なる複数の半導体発光層を同一基板上に形成した多波長発光素子が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、同一基板上に、GaP系、AlGaAs系、またはAlGaInP系化合物半導体からなる発光ダイオード部を少なくとも1個積層し、その発光ダイオード部上に、GaN系化合物半導体からなる発光ダイオード部を1個以上積層した多波長発光素子が開示されている。
【0004】
特許文献2には、1つの基板材料上に少なくとも2種類以上の半導体発光素子を形成し、各々の半導体発光素子上に、それぞれの素子の発光波長に反応する蛍光体を複数種類塗布し、各々の半導体発光素子を同時に発光させることにより、広範囲の発光波長を有する可視光を発光する多波長発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−55538号公報
【特許文献2】特開2008−71805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、発光波長が相互に異なる複数の半導体層を積層するため、それらの複数の半導体層を別々の工程で形成する必要がある。また、特許文献2に記載された技術でも、基板上に、第1の半導体発光素子を形成した後、別工程で第2の半導体発光素子を形成する。
【0007】
本発明の課題は、効率的な製造が可能な多波長発光素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多波長発光素子は、
表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面を有すると共に該第1及び第2結晶成長面に対応する第1及び第2発光領域が構成された基板と、
上記基板上の上記第1発光領域に積層されるように設けられ上記第1結晶成長面を起点として半導体が結晶成長して形成された第1半導体層と、
上記第1半導体層上に積層されるように設けられ半導体が結晶成長して形成された所定の波長の光を発光する第1半導体発光層と、
上記基板上の上記第2発光領域に積層されるように設けられ上記第2結晶成長面を起点として半導体が結晶成長して形成された、上記第1半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする第2半導体層と、
上記第2半導体層上に積層されるように設けられ上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長して形成された、及び/又は、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素の半導体が結晶成長して形成され且つ上記第1半導体発光層とは層厚が異なる、上記第1半導体発光層が発光する光の波長と異なる波長の光を発光する第2半導体発光層と、
を備える。
【0009】
本発明の多波長発光素子の製造方法は、
表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面を有する基板を準備する準備工程と、
上記準備工程で準備した基板の第1結晶成長面を起点として半導体を結晶成長させることにより、基板上に第1発光領域を構成して積層するように第1半導体層を形成する第1半導体層形成工程と、
上記準備工程で準備した基板の第2結晶成長面を起点として半導体を結晶成長させることにより、基板上に第2発光領域を構成して積層するように、第1半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする第2半導体層を形成する第2半導体層形成工程と、
上記第1半導体層形成工程で形成した第1半導体層上に積層するように半導体を結晶成長させて所定の波長の光を発光する第1半導体発光層を形成すると同時に、上記第2半導体層形成工程で形成した第2半導体層上に積層するように、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体を結晶成長させて、及び/又は、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素の半導体を、上記第1半導体発光層とは層厚が異なるように結晶成長させて、上記第1半導体発光層が発光する光の波長と異なる波長の光を発光する第2半導体発光層を形成する第1及び第2半導体発光層形成工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面から半導体が結晶成長して形成された、主面の結晶面が相互に異なる第1及び第2半導体層上には、同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長しても、及び/又は、同一の構成元素の半導体が層厚が異なって結晶成長しても、発光波長が異なる第1及び第2半導体発光層が形成され得ることから、第1及び第2半導体発光層を同一工程で形成することができ、従って、多波長発光素子の効率的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る多波長発光素子の平面図である。
【図2】図1におけるII-II断面図である。
【図3】図1におけるIII-III断面図である。
【図4】(a)〜(d)は基板及び第1〜第3u-半導体層の具体例の断面図である。
【図5】(a)〜(f)は実施形態に係る多波長発光素子の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。
【0013】
(多波長発光素子)
図1〜3は本実施形態に係る多波長発光素子100を示す。
【0014】
<基板>
本実施形態に係る多波長発光素子100はベースとなる基板110を備えている。
【0015】
基板110としては、例えば、サファイア基板、SiC基板等が挙げられる。これらのうち汎用性の観点からAl23のコランダム構造の単結晶基板であるサファイア基板が好ましい。基板110の主面(基板の厚さ方向を法線方向とし、それに直交する面)は、法線方向がa軸であるa面<{11−20}面>、法線方向がc軸であるc面<{0001}面>、及び法線方向がm軸であるm面<{1−100}面>のいずれであってもよく、また、r面<{1−102}面>、n面<{11−23}面>等の他の結晶面であってもよい。さらに、基板110の主面は、a軸等が主面の法線方向に対して所定の角度(例えば45°や60°、あるいは数度以内の微少角)傾斜したミスカット面であってもよい。つまり、基板110はミスカット基板であってもよい。なお、a面、c面、及びm面は面方位が相互に直交する。
【0016】
基板110は、表面に面方位が相互に異なる第1〜第3結晶成長面121〜123を有しており、それらの第1〜第3結晶成長面121〜123に対応する第1〜第3発光領域A1〜A3が構成されている。なお、基板110は、表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面121,122のみを有し、それらの第1及び第2結晶成長面121,122に対応する第1及び第2発光領域A1,A2が構成されたものであってもよい。また、基板110は、表面に第1〜第3結晶成長面121〜123とは面方位が異なる結晶成長面を有し、その結晶成長面に対応する発光領域が1つ乃至複数構成されていてもよい。つまり、発光領域が3つよりも多く構成されていてもよい。
【0017】
第1〜第3結晶成長面121〜123は、基板110の主面、基板110に形成された第1凹溝111の一方の側面、第1凹溝111の延びる方向に角度(典型的には90°)を有して延びる第2凹溝112の一方の側面によって構成されている。第1及び第2凹溝111,112は、側面を有せば、コの字溝であってもよく、V字溝であってもよく、台形溝であってもよい。第1及び第2凹溝111,112は、例えば、溝開口幅が0.5〜10μm、溝深さが0.75〜100μm、及び溝側面の主面に対してなす角度が70〜120°である。第1及び第2凹溝111,112は、1本だけが形成されていてもよく、また、複数本が相互に間隔をおいて並行に延びるように形成されていてもよい。後者の場合、溝間隔は例えば1〜100μmである。なお、第1〜第3結晶成長面121〜123は、その他の凹部の側面や凸部乃至凸状の側面で構成されていてもよい。
【0018】
具体的には、例えば、基板110がサファイア基板であるとき、図4(a)に示すように、第1結晶成長面121が基板110の主面であるa面、第2結晶成長面122がm軸方向に延びる台形溝である第1凹溝111の一方の側面、及び第3結晶成長面123が第1凹溝111に直交してc軸方向に延びる台形溝である第2凹溝112の一方の側面である第1構成、図4(b)に示すように、第1結晶成長面121が基板110の主面であるc面、第2結晶成長面122がm軸方向に延びる台形溝である第1凹溝111の一方の側面、及び第3結晶成長面123が第1凹溝111に直交してa軸方向に延びる台形溝である第2凹溝112の一方の側面である第2構成、図4(c)に示すように、第1結晶成長面121が基板110の主面であるn面、第2結晶成長面122がm軸方向に延びる台形溝である第1凹溝111の一方の側面であるc面、及び第3結晶成長面123が第1凹溝111に直交する方向に延びる台形溝である第2凹溝112の一方の側面である第3構成、並びに、図4(d)に示すように、第1結晶成長面121が基板110の主面であるr面、第2結晶成長面122がa軸方向に延びる台形溝である第1凹溝111の一方の側面、及び第3結晶成長面123が第1凹溝111に直交する方向に延びる台形溝である第2凹溝112の一方の側面である第4構成が挙げられる。
【0019】
<第1〜第3u-半導体層>
本実施形態に係る多波長発光素子100は、基板110上の第1〜第3発光領域A1〜A3に積層されるように設けられた第1〜第3u-半導体層131〜133を備えている。これらの第1〜第3u-半導体層131〜133は、第1〜第3結晶成長面121〜123を起点として、それぞれアンドープの半導体が結晶成長して形成されたものである。
【0020】
第1〜第3u-半導体層131〜133を形成する半導体としては、例えば、GaN、InGaN、AlGaN等が挙げられる。第1〜第3u-半導体層131〜133は、同一の半導体で形成されていてもよく、また、異なる半導体を含んで形成されていてもよい。第1〜第3u-半導体層131〜133の厚さは例えば2〜100μmである。
【0021】
第1u-半導体層131は、基板110の主面の結晶面と同じ結晶面を主面としてもよく、また、基板110の主面の結晶面と異なる結晶面を主面としてもよい。第2u-半導体層132は、第1半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする。第3u-半導体層133は、第1及び第2半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする。
【0022】
具体的には、第1〜第3u-半導体層131〜133を形成する半導体がGaNのとき、第1構成の場合、図4(a)に示すように、第1結晶成長面121である基板110の主面のa面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第1u-半導体層131として、c面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がm軸方向である第1u-GaN層131が形成され、また、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第2u-半導体層132として、m面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がc軸方向である第2u-GaN層132が形成され、さらに、第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第3u-半導体層133として、a面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がm軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がc軸方向である第3u-GaN層133が形成される。
【0023】
第2構成の場合、図4(b)に示すように、第1結晶成長面121である基板110の主面のc面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第1u-半導体層131として、c面(又はm面)を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がm軸(又はc軸)方向である第1u-GaN層131が形成され、また、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第2u-半導体層132として、m面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がc軸方向である第2u-GaN層132が形成され、さらに、第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第3u-GaN層133として、c面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がm軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がa軸方向である第3u-GaN層133が形成される。
【0024】
第3構成の場合、図4(c)に示すように、第1結晶成長面121である基板110の主面のn面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第1u-半導体層131として、c面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がm軸方向である第1u-GaN層131が形成され、また、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第2u-半導体層132として、半極性{0−101}面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がa軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がc軸とm軸との中間の方向である第2u-GaN層132が形成され、さらに、第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第3u-半導体層133として、a面とc面との中間の結晶面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がm軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がa軸とc軸との中間の方向である第3u-GaN層133が形成される。
【0025】
第4構成の場合、図4(d)に示すように、第1結晶成長面121である基板110の主面のr面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第1u-半導体層131として、a面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がm軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がc軸方向である第1u-GaN層131が形成され、また、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第2u-半導体層132として、{11−22}面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がm軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がa軸とc軸との中間の方向である第2u-GaN層132が形成され、さらに、第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面を起点としてアンドープのGaNが結晶成長し、第3u-半導体層133として、m面を主面とすると共に、第1凹溝111の延びる方向がc軸方向で、且つ第2凹溝112の延びる方向がa軸方向である第3u-GaN層133が形成される。
【0026】
なお、基板110と第1〜第3u-半導体層131〜133との間には、厚さが20〜30nm程度の低温バッファ層が設けられていてもよい。また、上記で構成された第1〜第3u-半導体層131〜133の高さは結晶成長の困難さより揃わないことも予想され、その場合は研磨等を施すことによって高さを揃えてもよい。
【0027】
<第1〜第3n型半導体層>
本実施形態に係る多波長発光素子100は、第1〜第3u-半導体層131〜133に積層されるように設けられた第1〜第3n型半導体層141〜143を備えている。これらの第1〜第3n型半導体層141〜143は、第1〜第3u-半導体層131〜133の主面を起点として、それぞれn型ドーパントがドープされた半導体がエピタキシャル結晶成長して形成されたものである。従って、第1〜第3n型半導体層141〜143は、第1〜第3u-半導体層131〜133の主面と同一の結晶面を主面とする。
【0028】
第1〜第3n型半導体層141〜143を構成する半導体としては、例えば、GaN、InGaN、AlGaN等が挙げられる。第1〜第3n型半導体層141〜143は、同一の半導体で構成されていてもよく、また、異なる半導体を含んで構成されていてもよい。
【0029】
第1〜第3n型半導体層141〜143に含まれるn型ドーパントとしては、例えば、Si、Ge等が挙げられる。n型ドーパントの濃度は例えば1.0×1017〜20×1017/cm3である。
【0030】
第1〜第3n型半導体層141〜143は、単一層で構成されていてもよく、また、n型ドーパントの種類や濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。第1〜第3n型半導体層141〜143の厚さは例えば2〜10μmである。
【0031】
<第1〜第3発光層>
本実施形態に係る多波長発光素子100は、第1〜第3n型半導体層141〜143に積層されるように設けられた第1〜第3発光層151〜153を備えている。これらの第1〜第3発光層151〜153は、第1〜第3n型半導体層141〜143の主面を起点として、それぞれ半導体がエピタキシャル結晶成長して形成されたものである。従って、第1〜第3発光層151〜153は、第1〜第3n型半導体層141〜143及び第1〜第3u-半導体層131〜133の主面と同一の結晶面を主面とする。
【0032】
第1〜第3発光層151〜153は、第1〜第3井戸層(第1〜第3半導体発光層)151a〜153aと第1〜第3障壁層151b〜153bとの交互積層構造を有する多重量子井戸層によって構成されている。第1〜第3井戸層151a〜153a及び第1〜第3障壁層151b〜153bの層数は例えば5〜15層である。
【0033】
第1〜第3井戸層151a〜153aを形成する半導体としては、例えば、InGaN、InGaAlN等が挙げられる。第1〜第3井戸層151a〜153aの厚さは例えば1〜20nmである。
【0034】
第1〜第3障壁層151b〜153bを形成する半導体としては、例えば、GaN、InGaN(ただし、第1〜第3井戸層151a〜153aのバンドギャップより大きい)等が挙げられる。第1〜第3障壁層151b〜153bの厚さは例えば5〜20nmである。
【0035】
第1〜第3発光層151〜153は、第1〜第3井戸層151a〜153aが同一の構成元素(例えば、構成元素がIn、Ga、及びNで同一である。)からなる半導体が結晶成長して形成されていると共に、第1〜第3障壁層151b〜153bも同一の構成元素(例えば、構成元素がGa及びNで同一である。)からなる半導体が結晶成長して形成されている。第1〜第3井戸層151a〜153aは、相互に異なる結晶面を主面とする第1〜第3n型半導体層141〜143、従って、第1〜第3u-半導体層131〜133の主面と同一の結晶面を主面とするので、例えばInGaNで形成されている場合、層内へのInNの取り込まれ効率(InN混晶比)が相異し、そのため、元素組成比が相互に異なることとなり、及び/又は、層厚が相互に異なることとなり、その結果、相互に異なる波長の光を発光するように構成されている。
【0036】
第1〜第3発光層151〜153は、例えば、それぞれR(赤)、G(緑)、及び(青)の光を発光するように構成されていてもよい。これによりワンチップの白色発光素子(白色LED)を構成することができる。
【0037】
<第1〜第3p型半導体層>
本実施形態に係る多波長発光素子100は、第1〜第3発光層151〜153に積層されるように設けられた第1〜第3p型半導体層161〜163を備えている。
【0038】
第1〜第3p型半導体層161〜163を構成する半導体としては、例えば、GaN、InGaN、AlGaN等が挙げられる。第1〜第3p型半導体層161〜163は、同一の半導体で構成されていてもよく、また、異なる半導体を含んで構成されていてもよい。
【0039】
第1〜第3p型半導体層161〜163に含まれるp型ドーパントとしては、例えば、Mg、Cd等が挙げられる。ホール効果測定で測定される自由正孔濃度は例えば2.0×1017〜10×1017/cm3である。
【0040】
第1〜第3p型半導体層161〜163は、単一層で構成されていてもよく、また、p型ドーパントの種類や濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。第1〜第3p型半導体層161〜163の厚さは例えば50〜200nmである。
【0041】
<n型電極及びp型電極>
本実施形態に係る多波長発光素子100は、第1〜第3n型半導体層141〜143に電気的に接続するように設けられた第1〜第3n型電極171〜173、及び第1〜第3p型半導体層161〜163に電気的に接続するように設けられた第1〜第3p型電極181〜183を備えている。
【0042】
第1〜第3n型電極171〜173の構成電極材料としては、例えば、Ti/Al、Ti/Al/Mo/Au、Hf/Au等の積層構造、或いは合金等が挙げられる。第1〜第3n型電極171〜173の厚さは例えばTi/Al(10nm/500nm)である。
【0043】
第1〜第3p型電極181〜183としては、例えば、Pd/Pt/Au、Ni/Au、Pd/Mo/Au等の積層構造、或いは合金等、又はITO(酸化インジウム錫)などの酸化物系透明導電材料が挙げられる。なお、第1〜第3p型電極181〜183の上にはワイヤーボンディング用のパッド電極が必要であり、多くの場合は第1〜第3n型電極171〜173と同じ材料系が用いられる。第1〜第3p型電極181〜183の厚さは例えばITOの場合10〜200nmである。
【0044】
(多波長発光素子の製造方法)
次に、本実施形態に係る多波長発光素子100の製造方法について図5(a)〜(f)に基づいて説明する。以下の本実施形態に係る多波長発光素子100の製造方法では、ウエハ110’(基板110)上に第1〜第3u-半導体層131〜133としてのu-GaN層、第1〜第3n型半導体層141〜143としてのSiをドープしたn型GaN層、第1〜第3発光層151〜153としての多重量子井戸層(第1〜第3井戸層151a〜153a:InGaN層、第1〜第3障壁層151b〜153b:GaN層)、及び第1〜第3p型半導体層161〜163としてのMgをドープしたp型GaN層の各半導体層を順に形成した後、第1〜第3n型GaN層141〜143及び第1〜第3p型GaN層161〜163の上に第1〜第3n型電極171〜173及び第1〜第3p型電極181〜183をそれぞれ形成するものを例とする。
【0045】
<ウエハ(基板)準備工程>
ウエハ110’の各多波長発光素子100の形成領域において、図5(a)に示すように、凹溝形成予定部分だけが開口部となるようにフォトレジストのパターニングを形成し、図5(b)に示すように、フォトレジスト200をエッチングレジストとしてエッチングすることにより、ウエハ110’の表面に第1及び第2凹溝111,112を形成した後、フォトレジスト200を除去する。
【0046】
このとき、ウエハ110’の各多波長発光素子100の形成領域には、表面に、相互に面方位が異なる第1結晶成長面121である基板110の主面、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面、及び第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面が露出する。
【0047】
<半導体層の形成工程>
以下の各半導体層の形成方法としては、有機金属気相成長法(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等が挙げられ、これらのうち有機金属気相成長法が最も一般的である。以下では、有機金属気相成長法を利用した各半導体層の形成方法について説明する。
【0048】
各半導体層の形成に用いるMOVPE装置は、各々、電子制御される、ウエハ搬送系、ウエハ加熱系、ガス供給系、及びガス排気系で構成されている。ウエハ加熱系は、熱電対及び抵抗加熱ヒータ、その上に設けられた炭素製或いはSiC製のサセプタで構成されている。そして、MOVPE装置は、ウエハ加熱系において、搬送される石英トレイのサセプタの上にセットされたウエハ110’上に反応ガスにより半導体層を結晶成長させるように構成されている。
【0049】
−u-GaN層形成工程−
上記MOVPE装置を用い、表面に第1及び第2凹溝111,112を形成加工したウエハ110’を、表面が上向きになるように石英トレイ上にセットした後、ウエハ110’を1050〜1150℃に加熱すると共に反応容器内の圧力を10k〜100kPaとし、また、反応容器内に設置したフローチャネル内にキャリアガスとしてH2を流通させ、その状態を数分間保持することによりウエハ110’をサーマルクリーニングする。
【0050】
次いで、ウエハ110’の温度を1050〜1150℃とすると共に反応容器内の圧力を10k〜100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスH2を10L/min程度の流量で流通させながら、そこに反応ガスとして、V族元素供給源(NH3)、及びIII族元素供給源(TMG)を、それぞれの供給流量が0.1〜5L/min、及び50〜150μmol/minとなるように流す。
【0051】
このとき、図5(c)に示すように、結晶成長条件の選択により、第1結晶成長面121である基板110の主面を起点として、アンドープのGaNが基板110上に積層するように結晶成長して第1u-GaN層131が形成され、それによって第1発光領域A1が構成される。また、第2結晶成長面122である第1凹溝111の一方の側面を起点として、アンドープのGaNが基板110上に積層するように結晶成長して第2u-GaN層132が形成され、それによって第2発光領域A2が構成される。さらに、第3結晶成長面123である第2凹溝112の一方の側面を起点として、アンドープのGaNが基板110上に積層するように結晶成長して第3u-GaN層133が形成され、それによって第3発光領域A3が構成される。
【0052】
第1〜第3u-GaN層131〜133は、それぞれ第1〜第3結晶成長面121〜123を起点として結晶成長して形成されることにより相互に異なる面方位の主面を有することとなる。
【0053】
第1〜第3u-GaN層131〜133は、結晶成長条件の選択により、或いは、結晶成長させない部分にマスク等して、個別に結晶成長させて形成してもよく、また、結晶成長条件の選択により、第1〜第3u-GaN層131〜133のうち2つ又は全部を同時に結晶成長させて形成してもよい。
【0054】
なお、第1〜第3u-GaN層131〜133を形成する前に低温バッファ層を形成する場合には、ウエハ110’の温度を400〜500℃としてGaNを結晶成長させればよい。また、ウエハ110’における第1〜第3発光領域A1〜A3以外の部分にはマスクを設けておいてもよい。
【0055】
−n型GaN層形成工程−
反応容器内の圧力を10k〜100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスH2を5〜15L/min(以下、ガス流量は基準状態(0℃、1気圧)での値とする)の流量で流通させながら、そこに反応ガスとして、V族元素供給源(NH3)、III族元素供給源1(TMG)、及びn型ドーピング元素供給源(SiH4)を、それぞれの供給流量が0.1〜5L/min、50〜150μmol/min、及び1〜5×10-3μmol/minとなるように流す。
【0056】
このとき、図5(d)に示すように、結晶成長条件の選択により、第1〜第3u-GaN層131〜133の主面を起点として、n型ドーパントであるSiがドープされたGaNが第1〜第3u-GaN層131〜133上に積層するようにエピタキシャル結晶成長して第1〜第3n型GaN層141〜143が形成される。従って、第1〜第3n型GaN層141〜143もまた、第1〜第3u-GaN層131〜133と同様、相互に異なる面方位の主面を有することとなる。
【0057】
第1〜第3n型GaN層141〜143は、結晶成長条件の選択により、或いは、結晶成長させない部分にマスク等して、個別に結晶成長させて形成してもよく、また、結晶成長条件の選択により、第1〜第3n型GaN層141〜143のうち2つ又は全部を同時に結晶成長させて形成してもよい。
【0058】
−発光層形成工程−
ウエハ110’の温度を800℃程度とすると共に反応容器内の圧力を10k〜100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスN2を5〜15L/minの流量で流通させながら、そこに反応ガスとして、V族元素供給源(NH3)、III族元素供給源1(TMG)、及びIII族元素供給源2(TMI)を、それぞれの供給流量が0.1〜5L/min、5〜15μmol/min、及び2〜30μmol/min流す。
【0059】
このとき、結晶成長条件の選択により、第1〜第3n型GaN層141〜143の主面を起点として、InGaNが第1〜第3n型GaN層141〜143に積層するようにエピタキシャル結晶成長して第1〜第3井戸層151a〜153aが同時に形成される。
【0060】
次いで、V族元素供給源(NH3 )、及びIII族元素供給源(TMG)を、それぞれの供給流量が0.1〜5L/min、及び5〜15μmol/minとなるように流す。
【0061】
このとき、結晶成長条件の選択により、第1〜第3井戸層151a〜153aの主面を起点として、GaNが第1〜第3井戸層151a〜153aに積層するようにエピタキシャル結晶成長して第1〜第3障壁層151b〜153bが同時に形成される。
【0062】
そして、上記と同様の操作を交互に繰り返すことにより、図5(e)に示すように、第1〜第3井戸層151a〜153aと第1〜第3障壁層151b〜153bとが交互に積層された多重量子井戸層の第1〜第3発光層151〜153を形成する。
【0063】
ここで、第1〜第3発光層151〜153が相互に異なる結晶面を主面とする第1〜第3n型半導体層141〜143、従って、第1〜第3u-半導体層131〜133の主面と同一の結晶面を主面とするので、第1〜第3発光層151〜153における第1〜第3井戸層151a〜153a内へのInNの取り込まれ効率が相異し、そのため、元素組成比が相互に異なる、及び/又は、層厚が相互に異なることとなる。その結果、第1〜第3発光層151〜153は相互に異なる波長の光を発光するように構成されることとなる。なお、第1〜第3発光層151〜153の発光波長は、第1〜第3井戸層151a〜153aの井戸幅(厚み)及びInN混晶比に依存するが、InN混晶比が高いほど発光波長は長波長となる。InN混晶比はTMIのモル流量/(TMGのモル流量+TMIのモル流量)と成長温度によって決定される。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る多波長発光素子100の製造方法によれば、面方位が相互に異なる第1〜第3結晶成長面121〜123から半導体が結晶成長して形成された、主面の結晶面が相互に異なる第1〜第3u-GaN層131〜133上には、同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長しても、及び/又は、同一の構成元素の半導体が層厚が異なって結晶成長しても、発光波長が異なる第1〜第3井戸層151a〜153aが形成され得ることから、第1〜第3半導体発光層151〜153を同一工程で形成することができ、従って、多波長発光素子100の効率的な製造が可能となる。
【0065】
−p型GaN層の形成−
ウエハ110’の温度を1000〜1100℃とすると共に反応容器内の圧力を10k〜100kPaとし、また、反応容器内にキャリアガスのH2を5〜15L/minの流量で流通させながら、そこに反応ガスとして、V族元素供給源(NH3)、III族元素供給源1(TMG)、III族元素供給源3(TMA)、及びp型ドーピング元素供給源(Cp2Mg)を、それぞれの供給流量0.1〜5L/min、50〜150μmol/min、2〜80μmol/min、及び0.03〜30μmol/min流す。
【0066】
このとき、図5(f)に示すように、結晶成長条件の選択により、第1〜第3発光層151〜153の主面を起点として、p型ドーパントであるMgがドープされたGaNが第1〜第3発光層151〜153上に積層するように結晶成長して第1〜第3p型GaN層161〜163が形成される。
【0067】
<n型電極及びp型電極形成工程>
ウエハ110’上に積層形成した半導体層を部分的に反応性イオンエッチングすることにより第1〜第3n型GaN層141〜143を露出させた後、真空蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の方法により第1〜第3n型GaN層141〜143上に第1〜第3n型電極171〜173及び第1〜第3p型GaN層161〜163上に第1〜第3p型電極181〜183をそれぞれ形成する。
【0068】
そして、ウエハ110’を劈開することにより個々に分断し、本実施形態に係る多波長発光素子100が製造される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は多波長発光素子及びその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0070】
100 多波長発光素子
110 基板
110’ ウエハ
111 第1凹溝
112 第2凹溝
121〜123 第1〜第3結晶成長面
131〜133 第1〜第3u-半導体層(第1〜第3u-GaN層)
141〜143 第1〜第3n型半導体層(第1〜第3n型GaN層)
151〜153 第1〜第3発光層
151a〜153a 第1〜第3井戸層(第1〜第3半導体発光層)
151b〜153b 第1〜第3障壁層
161〜163 第1〜第3p型半導体層(第1〜第3p型GaN層)
171〜173 第1〜第3n型電極
181〜183 第1〜第3p型電極
200 フォトレジスト
A1〜A3 第1〜第3発光領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面を有すると共に該第1及び第2結晶成長面に対応する第1及び第2発光領域が構成された基板と、
上記基板上の上記第1発光領域に積層されるように設けられ上記第1結晶成長面を起点として半導体が結晶成長して形成された第1半導体層と、
上記第1半導体層上に積層されるように設けられ半導体が結晶成長して形成された所定の波長の光を発光する第1半導体発光層と、
上記基板上の上記第2発光領域に積層されるように設けられ上記第2結晶成長面を起点として半導体が結晶成長して形成された、上記第1半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする第2半導体層と、
上記第2半導体層上に積層されるように設けられ、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長して形成された、及び/又は、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素の半導体が結晶成長して形成され且つ上記第1半導体発光層とは層厚が異なる、上記第1半導体発光層が発光する光の波長と異なる波長の光を発光する第2半導体発光層と、
を備えた多波長発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された多波長発光素子において、
上記第1及び第2結晶成長面のうち一方が上記基板の表面に形成された凹溝の側面である多波長発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載された多波長発光素子において、
上記第1及び第2結晶成長面のうち他方が上記基板の主面である多波長発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された多波長発光素子において、
上記第1及び第2半導体層を形成する半導体がGaNであると共に、上記第1及び第2半導体発光層を形成する半導体がInGaNである多波長発光素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載された多波長発光素子において、
上記基板がサファイア基板である多波長発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された多波長発光素子において、
上記基板は、表面に、上記第1及び第2結晶成長面とは面方位が異なる第3結晶成長面を有すると共に該第3結晶成長面に対応する第3発光領域が構成されており、
上記基板上の上記第3発光領域に積層されるように設けられ上記第3結晶成長面を起点として半導体が結晶成長して形成された、上記第1及び第2半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする第3半導体層と、
上記第3半導体層上に積層されるように設けられ、上記第1及び第2半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体が結晶成長して形成された、及び/又は、上記第1及び第2半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素の半導体が結晶成長して形成され且つ上記第1及び第2半導体発光層とは層厚が異なる、上記第1及び第2半導体発光層が発光する光の波長と異なる波長の光を発光する第3半導体発光層と、
をさらに備えた多波長発光素子。
【請求項7】
表面に面方位が相互に異なる第1及び第2結晶成長面を有する基板を準備する準備工程と、
上記準備工程で準備した基板の第1結晶成長面を起点として半導体を結晶成長させることにより、基板上に第1発光領域を構成して積層するように第1半導体層を形成する第1半導体層形成工程と、
上記準備工程で準備した基板の第2結晶成長面を起点として半導体を結晶成長させることにより、基板上に第2発光領域を構成して積層するように、第1半導体層の主面とは異なる結晶面を主面とする第2半導体層を形成する第2半導体層形成工程と、
上記第1半導体層形成工程で形成した第1半導体層上に積層するように半導体を結晶成長させて所定の波長の光を発光する第1半導体発光層を形成すると同時に、上記第2半導体層形成工程で形成した第2半導体層上に積層するように、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素で且つ元素組成比が異なる半導体を結晶成長させて、及び/又は、上記第1半導体発光層を形成する半導体と同一の構成元素の半導体を、上記第1半導体発光層とは層厚が異なるように結晶成長させて、上記第1半導体発光層が発光する光の波長と異なる波長の光を発光する第2半導体発光層を形成する第1及び第2半導体発光層形成工程と、
を備えた多波長発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−191013(P2012−191013A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53393(P2011−53393)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】