説明

多軸ステッチ基材

【課題】賦形性が良く、強化繊維糸の歪みやヨレの発生を抑制できる多軸ステッチ基材を提供する。
【解決手段】多軸ステッチ基材1の複数枚のシート状部材2A、2Bを形成する複数本の強化繊維糸3が、強化繊維からなる多数の不連続繊維11を同一方向に配向させて形成されている。これにより、多軸ステッチ基材1に対して、強化繊維糸3が延在する方向に引張力Pを作用させた場合に、強化繊維糸3の各不連続繊維11を互いにずれる方向に移動させて、強化繊維糸3を延在方向に伸長させ、多軸ステッチ基材1の変形性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の強化繊維糸が並列に配列されたシート状部材を複数枚、各シート状部材の強化繊維糸の配列方向が交差するように積層してステッチ糸で一体化した多軸ステッチ基材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、連続した強化繊維を複数本束ねて形成された強化繊維糸が並列に配列されたシート状部材を、各シート状部材の強化繊維糸の配列方向が互いに交差するように積層してステッチ糸にて一体化した、いわゆる多軸ステッチ基材が開示されている。
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/63033号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の多軸ステッチ基材は、連続した強化繊維を使用して強化繊維糸が形成されているので、強化繊維糸が延在する方向に引張した場合に同方向に伸長させることができない。従って、上記多軸ステッチ基材を、成形型の凹凸部や湾曲部などの複雑な形状部分に沿わせた場合に、かかる形状部分になじまず、多軸ステッチ基材に皺が発生し、賦形性に劣るという問題があった。
【0005】
そして、多軸ステッチ基材の複雑な形状部分に対応する箇所では、シート状部材の強化繊維糸に歪みやヨレが発生して、かかる部分の繊維強化率が低下するおそれがあり、要求される繊維強化率の条件を満たすために、周辺部分の板厚を厚くする、もしくはパッチを当てる等の種々の対策が別途必要であった。このような種々の対策は煩雑であり、作業工数の増加を招来し、生産性の向上を阻害するものであった。また、繊維強化樹脂成形品の全体重量が増加し、軽量化を阻害するものであった。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、賦形性が良く、強化繊維糸の歪みやヨレの発生を抑制できる多軸ステッチ基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の多軸ステッチ基材は、複数本の強化繊維糸が並行に配列されたシート状部材を複数枚、各シート状部材の強化繊維糸の配列方向が交差するように積層してステッチ糸で一体化した多軸ステッチ基材において、強化繊維糸は、強化繊維からなる多数の不連続繊維によって構成されたことを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、多軸ステッチ基材に対して、シート状部材の強化繊維糸が延在する方向に引張する力を作用させた場合に、強化繊維糸の各不連続繊維が互いにずれて、強化繊維糸を延在方向に伸長させることができる。従って、多軸ステッチ基材の変形性能を向上させることができ、例えば成形型の凹凸部や湾曲部等の複雑な形状に沿わせて賦形する際に、多軸ステッチ基材に皺を発生させることなく賦形することができる。また、その複雑な形状に対応する箇所において強化繊維糸に歪みやヨレが発生するのを抑制することができ、かかる箇所における繊維強化率の低下を防ぐことができる。
【0009】
さらに、本発明による強化繊維糸の好適な実施の形態において、強化繊維糸は、熱可塑性繊維からなる連続繊維を含む構成としてもよい。強化繊維糸が不連続繊維だけで構成されている場合、例えば多軸ステッチ基材の自重等によって各不連続繊維が互いにずれて強化繊維糸が伸長し、多軸ステッチ基材が自己の形状を一定に保つことができず、賦形前や賦形後に多軸ステッチ基材の形状が歪むおそれがあるが、強化繊維糸に熱可塑性繊維からなる連続繊維を含ませることによって、その連続繊維の連続性により各不連続繊維のずれを抑制でき、強化繊維糸の伸長を防いで多軸ステッチ基材の形状を一定に保つことができる。
【0010】
そして、連続繊維の熱可塑性によって、熱を加えたときだけ強化繊維糸を引っ張り方向に伸長させることができ、強化繊維糸の延在方向に多軸ステッチ基材を変形させることができる。従って、例えば多軸ステッチ基材を成形型に重ねて加熱手段により加熱し、成形型に押し付けることによって所望形状に賦形することができ、賦形後に冷却して固化させることによって、かかる形状を維持させ、多軸ステッチ基材の形状が崩れるのを防ぐことができる。従って、多軸ステッチ基材の形状安定性と取扱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多軸ステッチ基材の変形性能を向上させることができ、例えば成形型の凹凸部や湾曲部等の複雑な形状に沿わせて賦形する際に、多軸ステッチ基材に皺を発生させることなく賦形することができる。また、その複雑な形状に対応する箇所において強化繊維糸に歪みやヨレが発生するのを抑制することができる。従って、良好な品位のプリフォームを得ることができ、例えばマトリックス樹脂を含浸させて繊維強化樹脂を構成した場合には、所期の繊維強化率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本実施の形態における多軸ステッチ基材1の構成を概略的に示す斜視図、図2は、強化繊維糸3の構成を説明するための図、図3は、多軸ステッチ基材1に対して強化繊維糸3が延在する方向に引張力Pを作用させた状態を示す図である。
【0013】
多軸ステッチ基材1は、図1に示すように、2枚のシート状部材2A、2Bが上下に積層された状態でステッチ糸4によってステッチ縫合されて一体化されている。各シート状部材2A、2Bは、複数本の強化繊維糸3が並行に配列されて形成されており、各シート状部材2A、2B間で強化繊維糸3の配列方向が交差するように積層されている。
【0014】
上層のシート状部材2Aは、ステッチ糸4の延在方向に対して強化繊維糸3が+45°方向に傾斜する角度で配列され、下層のシート状部材2Bは、ステッチ糸4が延びる方向に対して強化繊維糸が−45°方向に傾斜する角度で配列されている。
【0015】
ステッチ糸4は、ポリエステル等の合成繊維糸からなり、2枚のシート状部材2A、2Bを上下に貫くチェーンステッチによりシート状部材2A、2Bの強化繊維糸3を拘束して、各シート状部材2A、2Bを固定している。ステッチ糸4は、図1に示すように、多軸ステッチ基材1にて一直線状に延在し、複数本が互いに所定間隔をあけて平行に整列するように縫い付けられている。各ステッチ糸4の間隔は、シート状部材2A、2Bが積層された状態で、後述する強化繊維糸3の不連続繊維11がバラケない間隔に設定されている。
【0016】
本実施の形態における強化繊維糸3は、概略的に示す拡大図である図2(a)に細線で示されるように、強化繊維からなる多数の不連続繊維11によって構成されている。不連続繊維11は、一本の繊維長さが約10センチメートル〜20センチメートル程度の長さを有する不連続な繊維である。不連続繊維11は、同方向に配向されて束状に集合され、繊維方向に連続している。
【0017】
強化繊維糸3は、その延在方向に引張する力を作用させた場合に、各不連続繊維11が互いにずれる方向に移動して、強化繊維糸3を延在方向に伸長させることができるように各不連続繊維11を撚って絡めて形成されている。上記において使用される強化繊維は、特に限定されず、繊維強化樹脂の強化繊維として用いられる全ての繊維を適用することができる。例えば炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
【0018】
また、強化繊維糸3は、熱可塑性繊維からなる連続繊維12を含んでいる。連続繊維12は、図2(a)に太線で示すように、切れ目のない一本の連続した繊維であり、その連続性によって各不連続繊維11の繊維方向への移動、すなわち不連続線11のずれを抑制し、強化繊維糸3の伸長を防いで多軸ステッチ基材1の形状を一定に保つことができる。
【0019】
連続繊維12は、加熱により軟化して各不連続繊維11のずれを許容し、強化繊維糸3を伸長させて、多軸ステッチ基材1の形状を変形させることができるようになっている。上記において使用される熱可塑性繊維は、特に限定されず、例えばポリエチレンやポリプロピレン等が上げられる。
【0020】
なお、図2(a)において不連続繊維11と連続繊維12を示す線は、説明の便宜上、線の太さを相違させて示したものであり、不連続繊維11と連続繊維12の実際の太さ関係を示すものではない。
【0021】
従来の多軸ステッチ基材は、強化繊維糸100の構成を概略的に示す拡大図である図2(b)に示されるように、強化繊維糸100が強化繊維からなる連続繊維101で構成されており、強化繊維糸100の延在方向に引張力を作用させても強化繊維糸100を伸長させることができない。
【0022】
これに対して、上記した本発明の多軸ステッチ基材1は、多軸ステッチ基材1に熱を加えた状態で、多軸ステッチ基材1に対して、図3に示すように、シート状部材2A、2Bの強化繊維糸3が延在する方向に引張力Pを作用させた場合に、強化繊維糸3の各不連続繊維11が互いにずれる方向に移動して、強化繊維糸3を延在方向に伸長させることができる。
【0023】
従って、本発明の多軸ステッチ基材1は、多軸ステッチ基材1の変形性能を飛躍的に向上させることができ、例えば図示していない成形型の凹凸部や湾曲部等の複雑な形状に沿わせて賦形する際に、多軸ステッチ基材1に皺を発生させることなく賦形することができる。また、その複雑な形状に対応する箇所において強化繊維糸3に歪みやヨレが発生するのを抑制することができる。従って、良好な品位のプリフォームを得ることができ、例えばマトリックス樹脂を含浸させて繊維強化樹脂を構成した場合には、所期の繊維強化率を得ることができる。
【0024】
また、本発明の多軸ステッチ基材1によれば、強化繊維糸3が熱可塑性繊維からなる連続繊維12を含む構成を有するので、その連続繊維12の連続性により各不連続繊維11のずれを抑制でき、強化繊維糸3の伸長を防いで多軸ステッチ基材1の形状を一定に保つことができる。そして、連続繊維12の熱可塑性によって、熱を加えたときだけ強化繊維糸3を引っ張り方向に伸長させることができ、シート状部材2A、2Bの強化繊維糸3の延在方向に多軸ステッチ基材1を変形させることができる。従って、例えば多軸ステッチ基材1を成形型に重ねて加熱手段により加熱し、成形型に押し付けることによって所望形状に賦形することができ、賦形後に冷却して固化させることによって、かかる形状を維持させ、多軸ステッチ基材1の形状が崩れるのを防ぐことができる。従って、多軸ステッチ基材1の形状安定性と取扱性を向上させることができる。
【0025】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、多軸ステッチ基材1が、上下2層のシート状部材2A、2Bからなる2軸ステッチ基材の場合を例に説明したが、3層以上のシート状部材からなる多軸ステッチ基材1でもよい。また、ステッチ糸4に対する強化繊維糸3の傾斜角度を+45°と−45°の場合を例に説明したが、かかる傾斜角も適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態における多軸ステッチ基材の構成を概略的に示す斜視図。
【図2】強化繊維糸の構成を説明する図。
【図3】多軸ステッチ基材に対して強化繊維糸が延在する方向に引張力を作用させた状態を示す図。
【符号の説明】
【0027】
1 多軸ステッチ基材
2 シート状部材
2A 上層のシート状部材
2B 下層のシート状部材
3 強化繊維糸
4 ステッチ糸
11 不連続繊維
12 連続繊維
P 引張力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の強化繊維糸が並行に配列されたシート状部材を複数枚、各シート状部材の強化繊維糸の配列方向が交差するように積層してステッチ糸で一体化した多軸ステッチ基材において、
前記強化繊維糸は、強化繊維からなる多数の不連続繊維によって構成されたことを特徴とする多軸ステッチ基材。
【請求項2】
前記強化繊維糸は、熱可塑性繊維からなる連続繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の多軸ステッチ基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249784(P2009−249784A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101248(P2008−101248)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】