説明

大入熱溶接熱影響部の靭性に優れる溶接構造用鋼の製造方法

【課題】降伏応力が390MPa超え、かつ、溶接入熱量が200kJ/cmを超える大入熱溶接を施しても溶接熱影響部の靭性に優れる溶接構造用鋼の有利な製造方法を提案する。
【解決手段】C:0.03〜0.12mass%、Si:0.02〜0.22mass%、Mn:1.4〜2.5mass%、P:0.010mass%以下、S:0.0005〜0.0040mass%、Al:0.005〜0.06mass%、Ti:0.005〜0.025mass%、N:0.0030〜0.0070mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、平衡状態でフェライト分率が30〜70vol%のフェライト−オーステナイト2相域となる温度に3〜10時間保持した後、再加熱して熱間圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造船や建築・土木等の各種鋼構造物に使用され、特に、降伏応力が390MPa超えで、溶接入熱量が200kJ/cmを超える大入熱溶接が施される溶接構造用鋼の製造方法の関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、造船や建築・土木等の各種鋼構造物は、巨大化の一途を辿っており、それにともなって、それらに使用される鋼材も、高強度化や厚肉化が進行している。さらに、上記鋼材の高強度化や厚肉化の進行にともない、溶接施工に用いられる溶接方法も、サブマージアーク溶接やエレクトロガス溶接、エレクトロスラグ溶接などの生産能率に優れた大入熱溶接が適用されることが多くなってきている。
【0003】
大入熱溶接された鋼材の溶接熱影響部の靭性は、大きく低下することが知られている。この問題を回避するため、従来から種々の大入熱溶接用鋼が研究開発されており、例えば、TiNを鋼中に微細分散させ、これによって溶接熱影響部のオーステナイト粒の粗大化を抑制したり、溶接熱影響部におけるフェライト変態核として利用する技術が既に実用化されている。また、特許文献1には、Ti酸化物(オキシサイド)を溶接熱影響部に分散させることで溶接ボンド部と熱影響部の高靭性化を図った溶接用鋼材が、特許文献2には、Ti酸化物とTi窒化物+Mn硫化物(サルファイド)の複合体を析出させることで溶接熱影響部の靭性を向上させた溶接用低温強靭鋼が開示されている。
【0004】
しかしながら、TiNを鋼中に微細分散させる技術では、溶接によってTiNが溶解する温度域まで溶接熱影響部が加熱されるような場合には、TiNの効果が得られず、さらに、TiNの分解により固溶したTiおよびNにより地組織が脆化し、靭性が著しく低下するという問題がある。
【0005】
また、Ti酸化物を分散させる特許文献1や2の技術では、酸化物を均一微細に分散させることが困難であるという問題がある。この問題に対しては、酸化物を複合化する等の方法で分散能を改善することが検討されている。しかし、昨今では、鋼板の高強度化とともに要求される靭性特性もますます厳しくなってきており、この要求を満たすには、高度の微細分散制御技術が必要とされ、現状では十分に対応できるレベルにまで到達できていない。
【0006】
そこで、上記問題点を解決する技術として、特許文献3には、溶接熱影響部でのフェライト変態を促進するCa系非金属介在物を、Ca,OおよびSの含有量を適正範囲に制御することで、鋼中に微細分散して析出させて靭性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
また、Niは、マトリックスの靭性を向上させる効果がある元素であり、また、溶接部の靭性向上にも利用されている元素である。しかし、Niは、大入熱溶接の溶接熱影響部のように冷却速度が遅くなる場合には、ミクロ偏析部のNiが濃化した部分に、島状マルテンサイト(MA)と呼ばれる硬化組織が形成されるのを助長し、靭性を劣化させる。そこで、特許文献4には、Ni以外の他の合金元素の添加量を厳格に管理することで、大入熱溶接熱影響部のミクロ偏析部のMA生成を抑制し、Niに起因する溶接熱影響部靭性の低下を回避する技術が提案されている。
【0008】
また、特許文献5には、Nを多量に添加し、かつ、合金成分を厳密に規定して、高温でのδフェライト温度域を縮小させることでTiNの微細分散を達成し、高強度鋼の大入熱HAZ靭性を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−51243号公報
【特許文献2】特公平05−77740号公報
【特許文献3】特許第3546308号公報
【特許文献4】特開2005−256161号公報
【特許文献5】特開2007−239090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年では、降伏応力が390MPaを超える高強度鋼にも大入熱溶接が適用されることが増加している。さらに、より高強度の鋼材も求められるようになってきている。母材強度を高めるためには、合金元素を多量に添加して炭素当量を高めてやることが有効である。しかし、大入熱溶接が施された溶接熱影響部の冷却速度は遅く、粗大化した旧オーステナイト粒内はフェライトとベイナイトの混合組織となるため、靭性を確保することが困難となる。さらに、母材強度が高強度化すれば、溶接継手部もそれと同等以上の強度が求められるが、大入熱溶接では、溶接熱影響部も軟化を起こすため、継手強度の確保も課題となる。
【0011】
しかしながら、発明者らの研究によれば、上述した従来の技術を、降伏応力が390MPaを超える鋼に適用した場合には、溶接部の靭性が不十分となること、特に、Niを添加する特許文献4の技術では、高強度化には限界があることが明らかとなってきた。
【0012】
そこで、本発明の目的は、降伏応力が390MPa超えで、かつ、溶接入熱量が200kJ/cmを超える大入熱溶接を施しても溶接熱影響部の靭性に優れる溶接構造用鋼の有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決するべく、高強度化にともなう溶接熱影響部の靭性低下の原因を詳細に調査した。その結果、大入熱溶接した高強度鋼のボンド部近傍の熱影響部には、低強度鋼には見られない島状マルテンサイト(MA)と呼ばれる硬化組織が形成されており、これが靭性低下を引き起こしていること、上記島状マルテンサイトが形成される場所はMnとPとが同時偏析したところでもあること、そして、上記MnとPの同時偏析を無くすには、鋼スラブを熱間圧延する前に、フェライトとオーステナイトの2相温度域に加熱保持してやることが有効であり、これによって大入熱溶接熱影響部における島状マルテンサイトの生成を回避し、靭性を向上させることができることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、C:0.03〜0.12mass%、Si:0.02〜0.22mass%、Mn:1.4〜2.5mass%、P:0.010mass%以下、S:0.0005〜0.0040mass%、Al:0.005〜0.06mass%、Ti:0.005〜0.025mass%、N:0.0030〜0.0070mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、平衡状態でフェライト分率が30〜70vol%のフェライト−オーステナイト2相域となる温度に3〜10時間保持した後、再加熱して熱間圧延することを特徴とする溶接構造用鋼の製造方法を提案する。
【0015】
本発明の溶接構造溶鋼の製造方法おける鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Nb:0.025mass%以下、V:0.06mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Cu:1.0mass%以下、Cr:0.7mass%以下、Mo:0.7mass%以下、W:0.5mass%以下、Ca:0.0005〜0.0030mass%およびB:0.0005〜0.0025mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、造船、建築・土木等の各種鋼構造物に用いて好適な、降伏応力が390MPa超えで、かつ、溶接入熱量が200kJ/cmを超える大入熱溶接でも溶接熱影響部の靭性に優れる溶接用鋼材を得ることができるので、産業上奏する効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】溶接部のマクロ組織と、衝撃試験片採取位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明の基本的な技術思想について説明する。
発明者らは、高強度鋼の大入熱溶接継手の破壊靭性値を向上させるため、高強度化にともなう溶接熱影響部の靭性低下の原因を詳細に調査した。その結果、大入熱溶接した高強度鋼のボンド部近傍の熱影響部には、低強度鋼には見られなかった島状マルテンサイト(MA)と呼ばれる硬化組織が形成されており、これが靭性に悪影響を及ぼしていることが判明した。この島状マルテンサイトの生成は、高強度化するために鋼の焼入れ性を高くした、即ち、炭素当量Ceqを増加させた結果であると考えられる。さらに、島状マルテンサイトの生成メカニズムを詳細に調査したところ、島状マルテンサイトが形成された箇所は、MnとPとが同時偏析した場所であることがわかった。MnとPは、凝固時に同時にミクロ偏析するため、局所的に脆化組織が生成されるものと考えられる。
【0019】
そこで、発明者らは、MnとPの同時偏析部を無くしてやれば、大入熱溶接部の靭性が向上するものと予想し、その方法について検討した。
まず、鋼素材(スラブ)を高温で長時間加熱し、拡散により偏析を軽減することを検討した。この方法は、スラブの溶体化処理または拡散処理として知られている処理方法である。しかし、偏析を無くしてやるには、1250〜1300℃という高温に、30〜50時間という長い時間保持してやる必要があり、コスト面や生産性の面からは実用的ではない。また、上記熱処理によって、徴細なTiNはオストワルド成長により粗大化し、溶接熱影響部のオーステナイト粒をピンニングする効果を失うため、却って靭性が低下してしまうことも明らかとなった。
【0020】
そこで、発明者らは、さらに検討を重ねた結果、鋼素材をフェライト−オーステナイト2相温度域に加熱保持することで、MnとPの同時偏析を軽減し、これによって大入熱溶接熱影響部における島状マルテンサイトの生成を回避する方法に想到した。
【0021】
鋼素材を2相域に保持することで、MnおよびPの同時偏析低減に有効な理由について説明する。
フェライト−オーステナイトの2相温度域では、鋼中に含まれるC等の合金元素は、熱力学的に平衡状態に近づくべく分配を起こすことが知られている。そこで、MnおよびPに着目すると、Mnはオーステナイト相に多く分配し、Pはフェライト相に多く分配する元素である。そこで、ミクロ偏析部を2相域に保持してやれば、MnとPはそれぞれ別の相に分配していき、MnとPのミクロ偏析は低減する。なお、偏析が解消するには原子の拡散が必要であり、そのための駆動力を必要とするが、2相温度域では、Mn,Pそれぞれの元素のオーステナイト相とフェライト相での化学ポテンシャルが違うこと、これに濃度勾配差が加わることにより、低温でも原子の拡散が容易に起こり得る。しかも、フェライト−オーステナイトの2相温度域は、比較的低温であるためTiNの粗大化も起こらないという利点がある。
したがって、フェライト−オーステナイトの2相温度域での熱処理は、前述した溶体化処理のような高温長時間の熱処理と比較して、工業的にはきわめて有利な方法であるといえる。
【0022】
次に、本発明の溶接構造溶鋼の成分組成を限定する理由について説明する。
C:0.03〜0.12mass%
Cは、鋼の強度を高める元素であり、本発明では、所望の強度(YS>390MPa)を確保するため、0.03mass%以上の添加を必要とする。しかし、Cが0.12mass%を超えると、溶接性が低下するだけでなく、靭性にも悪影響を及ぼすようになる。よって、本発明では、Cは0.03〜0.12mass%の範囲とする。好ましくは0.04〜0.08mass%の範囲である。
【0023】
Si:0.02〜0.22mass%
Siは、脱酸元素として、また鋼の強化元素として添加される元素であるが、0.02mass%未満の添加量では、それらの効果が十分に得られない。一方、0.22mass%を超えると、鋼の表面性状を損なうばかりか、靭性が極端に低下するようになる。よって、Siは0.02〜0.22mass%の範囲とする。
【0024】
Mn:1.4〜2.5mass%
Mnは、鋼の強化元素として添加する元素であり、1.4mass%より少ないと、その効果が十分に得られない。一方、2.5mass%を超えると、溶接性が低下し、鋼材コストも上昇する。よって、Mnは1.4〜2.5mass%の範囲とする。
【0025】
P:0.010mass%以下
Pは、不純物元素として鋼中に不可避的に含有され、偏析して靭性に悪影響を及ぼす元素である。本発明は、上記偏析を低減する方法に関するものであるが、0.010mass%を超えて含有すると、偏析を低減しても溶接部の靭性への悪影響の方が大きく、本発明の効果が十分に得られない。そこで、本発明では、Pの上限値を0.010mass%とする。
【0026】
S:0.0005〜0.0040mass%
Sは、溶接熱影響部の靭性向上に有効なCaの酸硫化物(Ca(OS))の分散粒子を構成するために必要な元素であり、0.0005mass%以上の含有が必要である。しかし、0.0040mass%を超えて含有すると、MnSなどの非金属介在物が過剰に析出して、逆に、母材や溶接部の靭性の低下を招く。よって、本発明では、Sは0.0005〜0.0040mass%の範囲とする。
【0027】
Al:0.005〜0.06mass%
Alは、脱酸元素として添加される元素であり、0.005mass%以上添加する必要がある。しかし、0.06mass%を超えて添加すると、母材の靭性を低下させると共に、溶接部金属の靭性低下を招く。よって、Alは、Al:0.005〜0.06mass%の範囲とする。好ましくは0.02〜0.05mass%の範囲である。
【0028】
Ti:0.005〜0.025mass%
Tiは、鋳造凝固時およびその後の鋳片冷却時にTiNとなって析出し、溶接部でのオーステナイト粒の粗大化の抑制に有効に作用し、靭性向上に寄与する元素である。しかし、0.005mass%未満では上記効果は十分に得られず、一方、0.025mass%を超えると、TiN粒子が粗大化し、期待した効果が得られなくなる。よって、Tiは0.005〜0.025mass%の範囲とする。
【0029】
N:0.0030〜0.0070mass%
Nは、前述したTiNを確保するうえで必要な元素であり、0.0030mass%以上の添加を必要とする。しかし、0.0070mass%を超えて添加すると、溶接熱サイクルによってTiNが溶解を起こす溶接ボンド部近傍領域における固溶N量が増加し、靭性を著しく低下させるようになる。よって、本発明では、Nは0.0030〜0.0070mass%の範囲とする。
【0030】
本発明の鋼材は、上記必須とする成分に加えてさらに、Nb,V,Ni,Cu,Cr,Mo,W,CaおよびBのうちから選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で添加してもよい。
Nb:0.025mass%以下
Nbは、制御圧延を行う鋼においては重要な添加元素であり、鋼の高強度化に有効に作用する。斯かる効果を得るには0.005mass%以上の添加が好ましい。しかし、多量のNbの添加は、析出硬化により溶接熱影響部の靭性を低下させるので、上限は0.025mass%とするのが好ましい。
【0031】
V:0.06mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Cu:1.0mass%以下、Cr:0.7mass%以下、Mo:0.7mass%以下およびW:0.5mass%以下
V,Ni,Cu、Cr、MoおよびWは、いずれも鋼の焼入れ性を高める元素であり、圧延後の強度上昇に直接寄与するとともに、靭性、高温強度の向上、あるいはさらに耐候性の向上などのために添加することができる。上記の効果は、各元素とも0.01mass%以上の添加で発現する。しかし、過度の添加は、靭性や溶接性を低下させるようになるため、それぞれの元素の上限は、V:0.06mass%、Ni:1.0mass%、Cu:1.0mass%、Cr:0.7mass%、Mo:0.7mass%、W:0.5mass%として添加するのが好ましい。
【0032】
Ca:0.0005〜0.0030mass%
Caは、Sとともに酸硫化物(Ca(OS))を形成して、MnSの析出を抑制する元素である。MnSは、圧延時に展伸して、靭性に悪影響を及ぼすので、Caの添加により、MnSによる靭性の低下を抑制することができる。上記効果を発現させるには0.0005mass%以上添加することが好ましい。しかし、0.0030mass%を超えて添加しても、上記効果は飽和してしまう。よって、Caは0.0005〜0.0030mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0033】
B:0.0005〜0.0025mass%
Bは、溶接熱影響部でTiNが溶解して放出されるNをBNとして固定することで、溶接部の靭性低下を抑制するのに有効な元素である。また、BNは、フェライト生成核となって、組織の微細化と島状マルテンサイトの生成を抑制し、溶接部靭性の向上に寄与する。さらに、焼入性を向上させて、母材の強度を高めるのにも有効な元素である。それらの効果は0.0005mass%以上の添加で発現するが、0.0025mass%を超えて添加しても、その効果は飽和してしまう。よって、Bは0.0005〜0.0025mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0034】
本発明の上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物であるが、本発明の効果を害しない範囲内であれば、他の元素の添加を拒むものではない。
【0035】
次に、本発明の溶接構造用鋼の製造方法について説明する。
上述した本発明に適合する成分組成に調整した鋼を、転炉、脱ガス処理等、通常公知の精錬プロセスにて溶製し、連続鋳造して鋼素材(スラブ)とする。
次いで、本発明では、上記鋼素材を、連続鋳造での凝固時に形成されたMnとPの同時偏析を低減するため、平衡状態でのフェライト分率が30〜70vol%の2相域となる温度域に3〜10時間保持する熱処理を施すことが必要である。
上記熱処理で保持する温度が、フェライト分率が30vol%未満となる温度であると、フェライト相にPが過度に濃化し、一方、フェライト分率が70vol%を超える温度であると、オーステナイト相にMnが過度に濃化して、MnとPの同時偏析を十分に低減することができず、最終的に、溶接熱影響部に島状マルテンサイトが生成しやすくなってしまう。また、上記温度に保持する時間を3〜10時間の範囲とする理由は、3時間未満では、MnとPの拡散が不十分なため同時偏析部の島状マルテンサイトを低減する効果が十分に得られない。一方、10時間を超える長時間保持しても、上記効果は飽和してしまうからである。
【0036】
ここで、上記フェライト分率が30〜70vol%となる温度域は、予め実験で実測して求めておけばよい。なお、本発明の成分組成の範囲であれば、フェライト分率が30〜70vol%となる温度は、概ね770〜820℃の範囲である。
【0037】
上記熱処理後の鋼素材は、一旦、室温まで冷却した後、再加熱し、熱間圧延してもよく、あるいは、冷却せずにそのまま再加熱し、熱間圧延してもよい。ただし、上記熱間圧延前の再加熱温度は、1050〜1200℃の範囲とするのが好ましい。再加熱温度が1050℃未満であると、熱間圧延での負荷が大きくなり、圧延能率が低下する。一方、再加熱温度が1200℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化し、靭性の低下を招くばかりでなく、酸化によるスケールロスが大きくなって歩留が低下する。より好ましくは1050〜1100℃の範囲である。
【0038】
上記再加熱した鋼素材は、その後、熱間圧延により所望の板厚とするが、本発明の溶接構造用鋼は、高強度とともに母材靭性にも優れることが要求されることが多いので、制御圧延を行うことが好ましい。この場合の仕上圧延温度は、900〜650℃の温度範囲とするのが好ましく、より好ましくは、800〜700℃の範囲である。さらに、高強度化のためには、圧延後の冷却を加速冷却とするのが好ましい。
【実施例】
【0039】
表1に示した成分組成を有するA〜Oの鋼を、転炉、真空脱ガス処理等、通常の精錬プロセスで溶製し、連続鋳造して鋼素材(スラブ)とした。さらに、表2に示す条件で、上記スラブに熱処理を施してMn,Pの偏析を低減した後、再加熱し、熱間圧延し、冷却して板厚が60mmのNo.1〜24の厚鋼板を得た。なお、上記偏析低減のための熱処理温度およびフェライト分率は、上記鋼素材から得た試験片を用いて実測により求めた値である。
【0040】
【表1】

【0041】
次いで、上記各厚鋼板の母材板厚の1/4部から、平行部の径が14mmφのJIS14A号引張試験片を圧延直角方向に沿って採取し、降伏応力YS、および引張強さTSを測定した。また、板厚の1/4部よりJIS4号衝撃試験片(Vノッチ)を採取し、−40℃でシャルピー試験を行って、吸収エネルギーを求めた。
さらに、各鋼板から溶接線方向が圧延直角方向になるように試験材を採取し、V開先を加工した後、入熱量が400J/cmのエレクトロガスアーク溶接により、大入熱溶接の溶接継手を作製した。この溶接継手の板厚表面下1mmの位置から、Vノッチの位置をボンド部とするJIS4号衝撃試験片を採取し(図1を参照)、母材と同様、−40℃でシャルピー試験を行って、吸収エネルギーを求めた。
【0042】
上記測定の結果を表2に示した。この結果から、本発明に適合する成分組成を有し、本発明に適合する条件で製造された厚鋼板は、いずれも、引張応力YSが390MPa超えであると共に、母材靭性およびボンド部靭性ともシャルピー吸収エネルギーが100J以上であり、優れた機械的特性を有していることがわかる。
【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の技術は、大入熱溶接に用いられる溶接構造溶鋼に限定されるものではなく、MnやPのミクロ偏析が問題となる鋼であれば、いずれにも適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.03〜0.12mass%、
Si:0.02〜0.22mass%、
Mn:1.4〜2.5mass%、
P:0.010mass%以下、
S:0.0005〜0.0040mass%、
Al:0.005〜0.06mass%、
Ti:0.005〜0.025mass%、
N:0.0030〜0.0070mass%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、
平衡状態でフェライト分率が30〜70vol%のフェライト−オーステナイト2相域となる温度に3〜10時間保持した後、再加熱して熱間圧延することを特徴とする溶接構造用鋼の製造方法。
【請求項2】
上記成分組成に加えてさらに、Nb:0.025mass%以下、V:0.06mass%以下、Ni:1.0mass%以下、Cu:1.0mass%以下、Cr:0.7mass%以下、Mo:0.7mass%以下、W:0.5mass%以下、Ca:0.0005〜0.0030mass%およびB:0.0005〜0.0025mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接構造用鋼の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−19021(P2013−19021A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152961(P2011−152961)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】