説明

大和トウキの識別方法、その識別用材料、およびその応用製品

【課題】DNAマーカーを利用した大和トウキの他生産地トウキとの簡便な識別方法、その識別用材料およびその応用製品を提供すること。
【解決手段】大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)および北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)の識別用DNAマーカー、およびそのDNAマーカーをPCRにより選択的に増幅する識別用プライマー対、その識別用プライマー対を用いる大和トウキと他生産地トウキとの識別方法、ならびにその識別用プライマー対を含有するキットなどを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウキの品種識別に関し、生薬として優良な品質を持つと言われる奈良産の大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)を識別する簡便な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物体の品種識別方法としては、植物から抽出したゲノムDNAをPCR法により増幅して得られるDNAの多型に基づく植物品種の鑑定法が盛んに研究されている(特許文献1)。特にイネやイグサ等の品種識別方法が多く報告されている(特許文献2、3、4、5)。
【0003】
一方、トウキに関するゲノムDNAの多型に基づく識別法としては、トウキ(Angelica acutiloba)とミシマサイコ(Bupleurum falcatum)もしくはハマボウフウ(Glehnia littoralis)との識別に関する報告(非特許文献1)、ならびに唐トウキ(Angerica sinensis)、韓トウキ(Angerica gigas)及び日本産トウキ(Angerica acutiloba)間の識別に関する報告(非特許文献2)があるが、各種トウキの識別法としては未完成であり、特に各種日本産トウキの識別には利用出来ないものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−57073号公報
【特許文献2】特開2001−95589号公報
【特許文献3】特開2005−73655号公報
【特許文献4】特開2005−168308号公報
【特許文献5】特開2005−168309号公報
【非特許文献1】バイオロジカル ファーマソイティカル ブルテイン(Biol. Pharm.Bull.)18巻、1299−1301頁、1995年
【非特許文献2】ジャーナル オブ アグリカルチュラル アンド フード ケミストリー(J.Agric.Food Chem.) 51巻 2576−2583頁 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トウキ(当帰)は古来より漢方生薬として用いられている。日本で自生しているトウキには多くの変種が存在しているが、なかでも奈良産の大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)と北海道産の北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)が生薬原料として多く取り扱われている。トウキは、葉の形状、茎の色素、あるいは香気など、地上部による区別は可能であるものの、生薬原料である根茎部の識別には、伝承的な経験による五感識別が行われているのが現状である。奈良産の大和トウキは、古くから高品質な生薬として評価されてきているため、他の生産地品種と簡便に識別する方法が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、大和トウキを他の生産地トウキと簡便に識別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)および北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)の識別用DNAマーカーおよび該マーカーをPCRにより特異的に増幅する識別用プライマーを見出し、大和トウキを他の生産地品種と簡便に識別する方法を確立した。
【0008】
即ち、トウキまたはトウキ含有物から抽出したゲノムDNAをRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法を利用して、大和トウキおよび北海トウキの識別用DNAマーカーとなりうるDNA断片を見出し、その塩基配列を決定し、更にその塩基配列に基づいて設計し合成した識別用プライマー対を用いて上記大和トウキおよび北海トウキの識別用DNAマーカーを増幅させて電気泳動により検出することによって上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
一方、合弁花類に保存されて存在するシングルコピーのオルソログ遺伝子から開発された保存されたオルソログセットII(COSII;Conserved Ortholog Set II)マーカーを利用する方法がある(COSIIホームページを参照;アドレスはhttp://www.sgn.cornell.edu/markers/cosii_markers.pl)。即ち、トウキまたはトウキ含有物から抽出したゲノムDNAを、COSIIマーカーの49種のプライマー対を用いたPCR反応に供し、増幅したDNA断片をアガロースゲルの電気泳動に付し、大和トウキおよび北海トウキを識別できるDNAマーカーとなり得るDNA断片を見出した。そのDNA断片の塩基配列を上記と同様に決定し、更にその塩基配列に基づいて設計し合成した識別用プライマー対を用いて同様に大和トウキを他の生産地トウキと識別できる。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)トウキまたはトウキ含有物から抽出したDNAに、少なくとも1対の識別用プライマーを共存させてPCRを行い、増幅したDNA断片によって識別することを特徴とする大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)の識別方法;
(2)前記識別用プライマー対が配列番号1と配列番号2で示される塩基配列である(1)記載の識別方法;
(3)配列番号1と配列番号2および/または配列番号16と配列番号17で示される塩基配列からなる識別用プライマー対を用いることを特徴とする(1)記載の識別方法;
(4)配列番号19と配列番号20および/または配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなる識別用プライマー対を追加して用いることを特徴とする(2)または(3)記載の識別方法;
(5)DNA断片が配列番号3で示される塩基配列である(1)記載の識別方法;
(6)DNA断片が配列番号3または/および配列番号18で示される塩基配列である(1)記載の識別方法;
(7)少なくとも配列番号1と配列番号2で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする大和トウキ識別用キット;
(8)配列番号1と配列番号2または/および配列番号16と配列番号17で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする大和トウキ識別用キット;
(9)配列番号19と配列番号20および/または配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする(7)または(8)記載の大和トウキ識別用キット;
(10)(1)に記載の方法で識別した大和トウキを含有することを特徴とする医薬品、化粧品または食品;
(11)北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)との識別方法である請求項1記載の識別方法;
(12)配列番号4と配列番号5の識別用プライマー対を追加して用いることを特徴とする(11)記載の識別方法;
(13)配列番号3もしくは配列番号6で示される塩基配列からなるDNA断片を含有する識別用材料;
(14)配列番号3、配列番号6、配列番号18および配列番号21で示される塩基配列からなるDNA断片の1つ以上を含有する識別用材料;
(15)配列番号1と配列番号2もしくは配列番号4と配列番号5で示される塩基配列からなるプライマー対を含有する識別用材料;
(16)配列番号1と配列番号2、配列番号4と配列番号5、配列番号16と配列番号17、配列番号19と配列番号20、及び配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなるプライマー対の1つ以上を含有することを特徴とする識別用材料;
(17)前記DNA断片がCOSII遺伝子由来である(1)記載の識別方法;
(18)前記識別用プライマー対が、(16)記載のDNA断片を特異的に増幅するプライマー対である(1)記載の識別方法;
(19)トウキ試料からゲノムDNA抽出する工程において、PureLink(商標) Plant(Invitrogen社)と、CTABおよびNaCl存在下で行うクロロホルム抽出とを組み合わせる方法;
などを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)を他生産地トウキと簡便に識別することができる。特に近縁種である北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)とも容易に識別できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明を詳細に説明する。本明細書における「トウキ」は、トウキの種子、葉、茎、根を含む植物体の全ての部分、組織、細胞を意味し、更に生薬原料となる乾燥等の加工あるいは処理したものも含まれる。また、「トウキ含有物」とはトウキ由来の物質を含有する医薬品、健康食品、化粧品、食料品、飲料などの組成物が含まれるがこれらに限られず、トウキに由来する物質を一部にでも含有していればよい。「トウキ試料」とは、トウキの種子および植物体の全ての部分およびそれらを原料とするもの全般を意味する。
【0013】
本発明の大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)および北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)以外の生産地トウキの品種について特に限定はなく、例えばイヌトウキ(Angelica shikokiana Makino)、唐トウキ(Angerica sinensis)、韓トウキ(Angerica gigas)等のいずれの品種であっても対象として適用可能である。しかも、試料として用いるトウキの品種は1種に限定されず、2品種以上を混合したものであってもよく、他の品種の植物が含まれていても良い。
【0014】
これらのトウキ試料は、例えば液体窒素下で粉砕して粉末化した後、ゲノムDNA抽出操作に供する。粉砕は、適当な粉砕機器、例えば超遠心粉砕機(レッチェ社製)やサイクロンミル(ユーディ社製)、乳鉢等によってなされ、粉末化された試料は、以下の検出操作に供される。
【0015】
はじめに、トウキ試料からゲノムDNAの抽出を行う。抽出は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等を挙げることができる。特にChengらのCTAB改変法(Hort Science,32(5),921−922 (1997))などが好ましい。例えば、10%Sarkosy、5MNaClおよび8.6%CTAB/0.7MNaClを加えて、65℃で20分間保温しておくことにより、DNAを抽出することができる。
【0016】
さらに乾燥根などのトウキ試料の場合、根に蓄積する二次代謝産物や多糖類が後ほど行うPCR反応を阻害するため、これらを除去する必要がある。加えて、乾燥根由来のゲノムDNAは分解していることがあるため、トウキ試料の判別には高純度のゲノムDNAを抽出することが必要である。乾燥根からのゲノムDNAを抽出するための改良方法として、市販のゲノムDNA抽出キットであるPureLink(商標)Plant(Invitrogen社)とCTAB及びNaCl存在下で行うクロロホルム抽出を組み合わせると高純度のゲノムDNAをトウキ乾燥根から抽出することができることを見出した。
【0017】
DNAの抽出後、必要に応じてクロロホルム/イソアミルアルコール処理、イソプロパノール沈澱、フェノール/クロロホルムによる除蛋白、エタノール沈澱等の精製工程を加えてもよい。その後、TE(トリス−EDTA)緩衝液に溶解し、更にリボヌクレアーゼ(RNase)を加えて反応させ、RNAを除去したものをゲノムDNA試料とすることができる。
【0018】
続いて、ランダムプライマーを使用してRAPD分析により識別用DNAマーカーを見出す。即ち、ランダムプライマーの共存下に、上記の操作により得られるゲノムDNAを鋳型とするPCRを行う。ここで、本発明におけるPCRとは、DNAポリメラーゼによるDNA複製の連鎖反応を指す。すなわち、鋳型となるDNAに耐熱性DNAポリメラーゼおよびプライマーの共存下で90−96℃の高温処理過程(変性)、約30−75℃のプライマー・DNA結合過程(アニーリング)、約70−75℃のDNA複製過程(伸長)の3過程を繰り返すことにより、増幅させる反応をいう。なお、ランダムプライマーとしては、通常用いられているものを使用することができ、例えばオペロン社から市販されている10量体ランダムプライマーや、和光純薬社から市販されているDNAオリゴマーセット(12量体)等を挙げることができる。PCRに使用する際に用いるDNA合成酵素としては、例えばPuRe Taq Ready−To−Go PCR−Beads(Amersham Biosciences社製)またはAmpli Taq Gold PCR Master Mix(Applied Biosystem社製)などが用いられる。
【0019】
続いてPCRで得られる増幅したDNA断片の電気泳動を行い、品種間に識別性のあるバンド部分(識別用DNA断片)を単離し塩基配列を決定する。塩基配列の決定は、ゲルより回収し、そのDNA断片を、例えばpGEM−T easy Vector(pGEMは登録商標)に連結後、大腸菌に導入し増殖させ、次いで、例えばFlexiPrep Kit(Amersham Biosciences社製)を用いてプラスミドを抽出・精製し、これを鋳型としてPCR法で増殖し、DNA自動シークエンサーにより塩基配列を決定する。
【0020】
更に続いて、決定された塩基配列から、識別用プライマー対の設計を行う。先のランダムプライマーによるPCR法において、鋳型であるトウキ試料由来のDNA断片のうちのランダムプライマーが結合した部位は、当該ランダムプライマーと同一あるいは相補的な(相同な)配列を有している筈である。つまり、この鋳型DNAから切り出して抽出した品種識別性の高いDNA塩基配列(これがPCR法におけるプライマー対の母体となる)は、両端にランダムプライマーと同一あるいは相同な配列を有していることになる。したがって、この識別性の高いDNA塩基配列のフォワード側およびリバース側のそれぞれから、適当な配列と長さとを有するトウキの品種判定に有用なプライマー対を設計し合成
することができる。設計した識別用プライマー対の使用のためのオリゴヌクレオチドは、化学合成の分野において公知の方法、例えばホスホロアミダイト法(Tetrahedron Lett.,22,1859−1862(1981)やトリエステル法(J.Am.Chem.Soc.,103,3185(1981))などによって化学的に合成される。これらの合成は自動合成機も使用しうる(Nucleic Acids Res.,12,6159−6168(1984))。
【0021】
得られた識別用プライマー対を用いることにより、最初のPCRにおいてランダムプライマーが鋳型DNAに結合する複数個所のうち、識別用プライマー対を使用する第2次のPCRにおいては、品種識別に有用な識別バンドとなる塩基配列部分のみに選択的に結合し、増幅することになり、容易に安定したトウキの品種識別が可能になる。
【0022】
一方、COSIIマーカーから49種のプライマー対を選択し合成した。上記操作と同様にトウキまたはトウキ含有物から抽出したゲノムDNAを鋳型として、合成した49種のプライマー対の共存下にPCRを実施した。続いて増幅したDNA断片をアガロースゲルの電気泳動にて展開した結果、49種のプライマー対のうち3種のプライマー対を用いた場合に、大和トウキおよび北海トウキ識別用DNAマーカーとなり得るバンド(DNA断片)を見出した。そのDNA断片の塩基配列を上記と同様に決定し、更にその塩基配列に基づいて設計し合成した識別用プライマー対を用いることにより、同様に大和トウキを他の生産地トウキと識別できる。
【0023】
本発明の識別用プライマー対は単一でも複数組み合わせて用いることが出来、その組み合わせは任意である。
【0024】
本発明のプライマーはまた、トウキの品種の識別のためのキットの構成要素にもなり得る。キットは、上述したようなプライマー対を少なくとも1つを含む。
【0025】
本発明により得られた識別用プライマー対、ならびに識別用DNAマーカー(DNA断片)は、植物を遺伝子レベルにて鑑定するための試薬やキットを製造するための原材料としても用いられる。
【0026】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【実施例】
【0027】
実施例1 ゲノムDNAの抽出
ゲノムDNAは、ChengらのCTAB改変法により抽出した。表1に示す植物を液体窒素下で粉末状に破砕した組織(30mg)に1mlの抽出Bufferを加え懸濁後、遠心分離(15000rpm、4℃、10分)を行った。上清を除去し、600μlのWashing Bufferを加え、沈殿をよく懸濁した。さらに、72μlの10%Sarkosyl、96μlの5MNaClおよび78μlの8.6%CTAB/0.7M NaClを加えてよく懸濁し、65℃で20分間保温した。次に、450μlのクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1v/v)混合液を加え懸濁後、遠心分離(15000rpm、室温、10分)を行った。得られた上清を新しいマイクロチューブに移し、450μlのイソプロパノールを加えて懸濁後、氷中で10分間静置した。遠心分離(150000rpm、4℃、10分)して得られた沈殿を乾燥後、150μlのTE緩衝液に溶解し、さらにRNase(10mg/ml)を加えて、37℃で30分間反応させ、RNAを除去したものをゲノムDNAとした。
【0028】

【表1】

【0029】
実施例2 RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)分析
実施例1で得られたゲノムDNAおよび27種類のランダムプライマーをそれぞれ100ng/μl、10μMに調製したものを使用した。PCR反応液は、ゲノムDNAを100ng、ランダムプライマーを0.4μM、DNA合成酵素としてPuRe Taq Ready−To−Go PCR−Beads(Amersham Biosciences社製)またはAmpli Taq Gold PCR Master Mix(Applied Biosystems社製)を用い、HOでそれぞれ総量25μlまたは20μlとした。PCR装置はThermal Cycler PTC−200を使用し、反応後、15μlのPCR溶液を1.5%アガロースゲルで100v、40分間電気泳動し、0.05%エチジウムブロマイド溶液で染色後、UV照射下で検出された増幅DNA断片から分析を行った。なお、PCRの反応条件は表2に示した。
【0030】
RAPD法分析の際にプライマーGCCTGCCTCACG(配列番号7)を用いると大和トウキ特異的なDNA断片(530bp)および北海トウキ特異的なDNA断片(650bp)が見出された。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例3 特異的断片のTA−vectorへのサブクローニングと大腸菌への形質転換
まず、実施例2で得られた特異的DNA断片をゲルから切り出し、抽出を行った。ゲル抽出には、QIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用い、手順は添付のプロトコルに従った。そのDNA断片を、pGEM−T Easy Vector(pGEMは登録商標)内へライゲーションさせ、大腸菌(Escherichia coli DH5α株)に導入した。コンピタントセルは、野島の高効率コンピタントセル調製法(岡山博人、松村正実 遺伝子工学ハンドブック 実験医学別冊(1991):46−51)のプロトコルに従って調製し、ヒートショック法を用いて大腸菌への形質転換を行った。選択プレートは、2%5−ブロモ−4−クロロインドリル−β−D−ガラクシド(X−gal)を60μl、100mMイソプロピル−β−D−チオ−ガラクトピレノシド(IPTG)を40μl添加し、カルベニシリンの最終濃度が10μg/mlとなるように調製したLB寒天培地を使用した。37℃で16−20時間培養した後、青色を呈したコロニーをDNA断片がベクターに挿入されていない形質転換体とし、白色コロニーをDNA断片が挿入された形質転換体として区別した。選抜した白色コロニーをコロニーPCRした後、電気泳動で目的のDNA断片のサイズを確認した。プライマーは、M13forward(GTAAAACGACGGCCAG)(配列番号8)およびreverse(TCACACAGGAAACAGCTATGAC)(配列番号9)、DNA合成酵素はTaq PCR Master Mix(QIAGEN社製)を用いた。
【0033】
実施例4 塩基配列の決定と解析
塩基配列の決定は、FlexiPrep Kit(Amersham Biosciences社製)を用いて抽出したプラスミドDNAをBigDye(商標) Teminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applide Biosystems社製)を用いて蛍光標識し、そのDNA試料をABI PRISM(商標)310 Genetic Analyzer(Applide Biosystems社製)で分析した。プライマーは10μMに調製したM13forwardおよびreverseをシークエンスに使用した。解析ソフトは、ABI PRISM(商標) 310 Genetic Analyzer Data Collection Version2.0とGENETYX−MAC(Software Development co.Ltd社製)を用いた。
【0034】
配列番号7のランダムプライマーを用いて増幅した大和トウキ特異的DNA断片(530bp)(配列番号3)および北海トウキ特異的DNA断片(650bp)(配列番号6)をTAクローニングし、その塩基配列を解析した。それぞれの塩基配列を配列表に示す。
【0035】
実施例5 大和トウキ識別用プライマーの設計と作製
実施例4で得られた大和トウキ識別用DNA断片(530bp)(配列番号3)の配列から識別用プライマー対を設計し、配列番号1および2のプライマーを合成した。
CCTCACGTAAAATGGAACGA(配列番号1)
GCCTCACGATGAATGAGAAA(配列番号2)
次にトウキ葉組織から抽出したゲノムDNA(200ng)を配列番号1および2のプライマー0.4μMずつおよびDNA合成酵素としてTaq PCR Master Mix(QIAGEN社製)を用い、HOで希釈して総量20μlのPCR反応液とした。PCR反応条件は94℃で30秒、58℃で30秒および72℃で40秒を30回繰り返して行い増幅した。電気泳動の結果を図1Aに示すごとく、大和トウキのみに増幅DNA断片(530bp)が検出された。
【0036】
実施例6 北海トウキ識別用プライマーの設計と作製
実施例4で得られた北海トウキ識別用DNA断片(650bp)(配列番号6)の配列から識別用プライマー対を設計し、配列番号4および5のプライマーを合成した。
CACGTGTCAGCTCACTATGAA(配列番号4)
CACGATACGTACACCCCTGC(配列番号5)
次にトウキ葉組織から抽出したゲノムDNA(200ng)を配列番号4および5のプライマー0.4μMずつおよびDNA合成酵素としてTaq PCR Master Mix(QIAGEN社製)を用い、HOで希釈して総量20μlのPCR反応液とした。PCR反応条件は94℃で30秒、58℃で30秒および72℃で40秒を30回繰り返して行い増幅した。電気泳動の結果を図1Bに示すごとく、北海トウキのみに増幅DNA断片(650bp)が検出された。
【0037】
実施例7 COSIIマーカーの探索
実施例1で得られたゲノムDNAおよびCOSIIのプライマー対49種類を、それぞれ50ng/μlおよび2μMに調製したものを使用した。PCR反応液は、ゲノムDNAを2μl、COSIIプライマー対各5μlならびにDNA合成酵素としてAmpli Taq Gold PCR Master Mix(Applied Biosystems社製)12μlを用いて表3に示す反応条件でPCR反応した。反応後PCR溶液を1.5%アガロースゲルで電気泳動すると、図2に示すごとく、プライマー対としてTAGTGACGATACCTACTTTGAAGAAG(配列番号10)とTCAGTATTGTGTCATAGGCTCCAGC(配列番号11)を用いると大和トウキ特異的なDNA断片(約280bp)および北海トウキ特異的なDNA断片(約480bp)が見出され、プライマー対としてTAGGCCTCTACTCGCCGTACAGC(配列番号12)とTTAGTTCTTTCGAGGAAAGGTGGG(配列番号13)を用いると大和トウキ特異的なDNA断片(約220bp)および北海トウキ特異的なDNA断片(約280bp)が見出され、更にプライマー対としてACTTGATGAGCTGACAGCTTTCAATG(配列番号14)とAGCTTTGGTCCAAGCGACAAATC(配列番号15)を用いると大和トウキ特異的なDNA断片(約360bp)および北海トウキ特異的なDNA断片(約300bp)が見出された。
【0038】
【表3】

【0039】
続いて、上記操作で見出された大和トウキの特異的バンドおよび北海トウキ特異的バン
ドを実施例3、4と同様にしてゲルから切り出し、QIAGEN社製のQIAquick Gel Extraction Kitにより精製を行い、pGEM T−vectorにクローニングした後、配列の解析を行い、得られた配列情報から実施例5ならびに実施例6と同様に識別用プライマーの設計・合成し、得られる識別用プライマーと各種トウキから抽出したゲノムDNAとをDNA合成酵素存在下にPCR反応により増幅し電気泳動すると、大和トウキならびに北海トウキ特異的増幅DNAが得られ、大和トウキと他生産地トウキとを識別できる。
【0040】
実施例8 DNA抽出改良方法
大和トウキの乾燥根を市販のゲノムDNA抽出キット、PureLink(商標)Plant(Invitrogen社)を用い、キット製造者が推奨する実験方法に従ってゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNA溶液の液量を149μlにあわせ、5MのNaClを28μl、8.6%CTABを23μl混合し、液量200μlとし、200μlのクロロホルムにて三回抽出を繰り返した。得られた水層に等量のイソプロパノール及び1/4量の8M酢酸アンモニウムを加え、−20℃に一時間静置した。続いて定法の遠心操作によりゲノムDNAを回収した。得られたゲノムDNAを鋳型として用いて配列番号16および17のプライマー対にてPCR増幅した結果を図3に示す(レーン7)。
【0041】
比較例として、市販のDNA抽出液のDNAzol(Invitrogen社)により得られたゲノムDNA、およびCTAB法により得られたゲノムDNA、さらにそれぞれをNaClとCTAB存在下でクロロホルム抽出操作を行い得られたゲノムDNA、さらにクロロホルム抽出に加えて定法に従ってフェノール抽出操作を行い得られたゲノムDNAを、鋳型として用いて配列番号16および17のプライマー対にてPCR増幅した結果を図3のレーン1〜6に示す。また、PureLink(商標)Plant(Invitrogen社)により得られたゲノムDNAを鋳型として用いた場合の結果をレーン8に示す。なお、フェノール抽出は、DNA溶液と等量のフェノール溶液(Sigma社製 pH7.9)を混合し、転倒混和後に遠心操作により二層を分離することにより行い、さらに得られた水層を回収して、エタノール沈殿をおこなった。一方、葉組織由来のゲノムDNAを鋳型とした場合のPCR増幅結果をレーン9に示す。以上の図3に示す結果から、実施例8の方法にて抽出すると高純度のゲノムDNAが得られることが明らかである。
【0042】
実施例9 大和トウキ特異的プライマー(配列番号16,17)
実施例2におけるRAPD法分析のプライマーとしてGATCAATCGC(配列番号25)を用いて、実施例1〜4と同様の方法により得られたDNA断片(550bp)(配列番号18)の配列から識別用プライマー対を設計し、配列番号16および17のプライマーを合成した。
GATCAATCGCCACTGATTAATTAA(配列番号16)
GATCAATCGCTATAAAAAGTATC(配列番号17)
次にトウキ根組織から実施例8に示す方法にて抽出したゲノムDNA(10ng)、配列番号16および17のプライマー各0.5μMおよびDNA合成酵素としてExTaq DNA polymerase(TAKARA社)0.25Uを用い、HOで希釈して総量20μlのPCR反応液とした。PCR反応条件は94℃で20秒、56℃で20秒および72℃で30秒を35回繰り返して行い増幅した。電気泳動の結果を図4に示すごとく、大和トウキのみに増幅DNA断片(550bp)が検出された。
【0043】
実施例10 大和トウキおよび北海トウキ特異的プライマー(配列番号19,20)
実施例2におけるRAPD法分析のプライマーとしてGATCAATCGC(配列番号25)を用いて、実施例1〜4と同様の方法により得られたDNA断片(140bp)(配列番号21)の配列から識別用プライマー対を設計し、配列番号19および20のプライマーを合成した。
ACAAGAACTGAGAGTCTGAG(配列番号19)
CCATTGAAGGAGAAAACATA(配列番号20)
次にトウキ根組織から実施例8に示す方法にて抽出したゲノムDNA(10ng)、配列番号19および20のプライマー各0.5μMおよびDNA合成酵素としてExTaq DNA polymerase(TAKARA社)0.25Uを用い、HOで希釈して総量20μlのPCR反応液とした。PCR反応条件は94℃で20秒、56℃で20秒および72℃で30秒を35回繰り返して行い増幅した。電気泳動の結果を図4に示すごとく、大和トウキおよび北海トウキから増幅DNA断片(140bp)が検出された。
【0044】
実施例11 大和トウキおよび北海トウキ特異的プライマー(配列番号22,23)
実施例2におけるRAPD法分析のプライマーとしてTACAACGAGGA(配列番号26)を用いて、実施例1〜4と同様の方法により得られたDNA断片(300bp)(配列番号24)の配列から識別用プライマー対を設計し、配列番号22および23のプライマーを合成した。
GGAATACTTGTCATGATTTC(配列番号22)
CCTGATGAGGCTGATATCC(配列番号23)
次にトウキ根組織から実施例8に示す方法にて抽出したゲノムDNA(10ng)、配列番号22および23のプライマー各0.5μMおよびDNA合成酵素としてExTaq DNA polymerase(TAKARA社)0.25Uを用い、HOで希釈して総量20μlのPCR反応液とした。PCR反応条件は94℃で20秒、56℃で20秒および72℃で30秒を35回繰り返して行い増幅した。電気泳動の結果を図4に示すごとく、大和トウキおよび北海トウキから増幅DNA断片(300bp)が検出された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明により、DNAマーカーを指標とした大和トウキと北海トウキはじめ他の生産地品種との簡便で精度の高い識別方法が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】特異的プライマーを用いたPCRで増幅した電気泳動結果。Aは配列番号1と配列番号2のプライマー対を用いた結果、Bは配列番号4と配列番号5のプライマー対を用いた結果を示す。
【図2】COSIIプライマー対を用いたPCRで増殖した電気泳動結果。P2は配列番号10と配列番号11のプライマー対、P10は配列番号12と配列番号13のプライマー対ならびにP49は配列番号14と配列番号15のプライマー対を用いた結果を示す。
【図3】乾燥根由来のトウキ試料から改良抽出方法(レーン7)、従来抽出方法(レーン1〜6およびレーン8)、ならびに葉由来のトウキ試料から従来抽出方法で、それぞれ抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅・電気泳動した結果を示す。
【図4】大和トウキおよび北海トウキの乾燥根由来のゲノムDNAを鋳型として配列番号16と17、配列番号19と20、および配列番号22と23のプライマー対を用いてPCR増幅・電気泳動した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウキまたはトウキ含有物から抽出したDNAに、少なくとも1対の識別用プライマーを共存させてPCRを行い、増幅したDNA断片によって識別することを特徴とする大和トウキ(Angelica acutiloba Kitagawa)の識別方法。
【請求項2】
前記識別用プライマー対が配列番号1と配列番号2で示される塩基配列である請求項1記載の識別方法。
【請求項3】
配列番号1と配列番号2および/または配列番号16と配列番号17で示される塩基配列からなる識別用プライマー対を用いることを特徴とする請求項1記載の識別方法。
【請求項4】
配列番号19と配列番号20および/または配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなる識別用プライマー対を追加して用いることを特徴とする請求項2または3記載の識別方法。
【請求項5】
DNA断片が配列番号3で示される塩基配列である請求項1記載の識別方法。
【請求項6】
DNA断片が配列番号3または/および配列番号18で示される塩基配列である請求項1記載の識別方法。
【請求項7】
少なくとも配列番号1と配列番号2で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする大和トウキ識別用キット。
【請求項8】
配列番号1と配列番号2および/または配列番号16と配列番号17で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする大和トウキ識別用キット。
【請求項9】
配列番号19と配列番号20および/または配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなるプライマー対を含有することを特徴とする請求項7または8記載の大和トウキ識別用キット
【請求項10】
請求項1に記載の方法で識別した大和トウキを含有することを特徴とする医薬品、化粧品または食品。
【請求項11】
北海トウキ(Angelica acutiloba var. sugiyamae Hikino)との識別方法である請求項1記載の識別方法。
【請求項12】
配列番号4と配列番号5の識別用プライマー対を追加して用いることを特徴とする請求項11記載の識別方法。
【請求項13】
配列番号3もしくは配列番号6で示される塩基配列からなるDNA断片を含有する識別用材料。
【請求項14】
配列番号3、配列番号6、配列番号18および配列番号21で示される塩基配列からなるDNA断片の1つ以上を含有する識別用材料。
【請求項15】
配列番号1と配列番号2もしくは配列番号4と配列番号5で示される塩基配列からなるプライマー対を含有する識別用材料。
【請求項16】
配列番号1と配列番号2、配列番号4と配列番号5、配列番号16と配列番号17、配列番号19と配列番号20、および配列番号22と配列番号23で示される塩基配列からなるプライマー対の1つ以上を含有することを特徴とする識別用材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−86309(P2008−86309A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227285(P2007−227285)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(306023336)財団法人奈良県中小企業支援センター (18)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】