説明

大型ディーゼル機関の潤滑方法および大型ディーゼル機関

【課題】大型ディーゼル機関の効率や経済性を向上させる潤滑方法とそのような大型ディーゼル機関を提供する。
【解決手段】前記潤滑方法においては、シリンダブロック(3)内に設けられ少なくとも1個のシリンダ(2)と、シリンダ(2)内の転動面(21)に沿って前後運動し、燃焼空間(6)を画成し、クランクシャフト(10)に接続されているピストン(5)を有する大型ディーゼル機関において、ピストンの潤滑のために潤滑剤供給源(62)からシリンダに導入され、燃焼空間(6)において行われる燃焼過程によって汚損された潤滑剤がクランクハウジングへ入る前にシリンダから導出され、清浄装置(60)まで導かれ、そこで清浄にされ、潤滑剤供給源まで戻されることにより再使用されて、ディーゼル機関の経済性を向上させる。また、そのような大型ディーゼル機関も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれのカテゴリの独立項の序文に記載の大型ディーゼル機関の潤滑方法並びに該大型ディーゼル機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2ストローク機関あるいは4ストローク機関としてつくりうる大型のディーゼル機関は船舶の駆動ユニットとして使用されることが多く、また例えば発電用の大型発電機の駆動のような据え付け状態での作動においても使用することができる。これに関して、モータは一般に連続作動モードで可也の時間に亘り作動し、そのため作動上の安全性および作動性に対しては高度の要求を提起する。従って、特に、長期補修率、少ない磨耗および運転燃料の経済的な使用が作業員にとって評価の中核をなす。
【0003】
この点に関して、ピストンの潤滑に重要な意味が込められている。作動状態において、ピストンは、典型的には円筒形の滑り用ブッシュの形状につくられているシリンダの、滑り面として作用するシリンダの内壁に沿って滑動する。一方では、ピストンはシリンダ内でできるだけ円滑に、すなわち障害無しに滑動する必要があり、他方ではシリンダ内の燃焼空間をシールし、並びに燃焼過程で解放されるエネルギの機械的仕事への効率的な変換を可及的に保証する必要がある。
【0004】
このために、ディーゼル機関の作動の間、ピストンの良好な作動性を達成し、かつシリンダ壁、ピストン、およびピストンリングの磨耗を可及的に少なく保つために典型的には潤滑油がシリンダ中へ導入される。更に、潤滑油は活動的な燃焼生成物を中和させ、並びに腐食を阻止するように作用する。これらの多数の要件の故に、典型的には潤滑油として極めて高級で高価な物質が使用される。
【0005】
今日クロスヘッド付き駆動装置を備えた大型の2ストロークディーゼル機関に対しては典型的には二つの個別の潤滑系統が使用されている。一方の潤滑系統は、典型的にはクランクシャフトの主要ベアリング、クロスヘッド付のベアリング、あるいはクロスヘッド等のような全てのベアリングあるいはジャーナルの潤滑のために使用され、またピストンの(内側)冷却にも屡使用される所謂系統油(system oil)あるいは系統潤滑剤(system lubricant)を含む。他方の潤滑系統は典型的にはピストン、ピストンリングおよび転動面の潤滑のために使用される特殊なシリンダ油すなわちシリンダ潤滑剤を含む。シリンダ潤滑剤は単に消費産物(「全損」産物)であり、すなわち滑り面あるいはピストンに供給され、燃焼空間において汚損された後は、その残滓は集められ、処分されるものである。従って、シリンダ油は機関の回転毎に連続して消費される一方、殆どの場合系統潤滑剤は消費産物ではなく、すなわち清浄にされ、次いで潤滑供給源まで戻される。
【0006】
連接棒を備えた大型のディーゼル機関においては、潤滑剤がピストンの潤滑や、ベアリングの潤滑の双方にも、そしてまた任意にピストン内部の冷却にも使用されるので、典型的には単に一つの潤滑剤が使用される。これらの機械では、燃焼過程で汚損される潤滑剤は通常シリンダ内壁における滑り面に沿った下方運動時にピストンによって下方へ押し下げられ、シリンダの下端からクランクハウジングの底部に配置され潤滑剤の供給源として作用しうるオイルパン中へ落下する。ここで、燃焼空間からの高度に汚損した潤滑剤はその他の潤滑剤と混合されるが、容量に大きな差があるため汚損された潤滑剤は極めて強度に希釈される。また、オイルパンから出てくる潤滑剤を清浄することも知られている。
【0007】
更により効率的に作動する大型ディーゼル機関を鑑みれば、二種類の機関、すなわち2ストローク機関および4ストローク機関における潤滑を改良する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は作動上の安全性を何ら犠牲にする必要なしに機関の効率や経済性を向上させる、大型ディーゼル機関の潤滑方法を提供することである。更に、本発明の目的はそのような大型ディーゼル機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
プロセス工学および当該装置に関して前記の目的を満足させる本発明の主体はそれぞれのカテゴリの独立項に記載の特徴を有することを特徴とする。
【0010】
従って、本発明によれば、大型のディーゼル機関を潤滑する方法であって、少なくとも1個のシリンダがシリンダブロックに設けられ、ピストンが前記シリンダ内で転動面を上下に運動可能であり、ピストンが燃焼室を画成し、クランクハウジングに設けられたクランクシャフトに接続され、前記ピストンを潤滑するために潤滑剤が潤滑剤供給源から前記シリンダ中へ導入され、その潤滑剤が燃焼空間において行われる燃焼過程によって汚損されるような大型のディーゼル機関を潤滑する方法が提案されている。前記の汚損された潤滑剤はクランクハウジング中へ入りうる前にシリンダから導出され、清浄装置まで導かれて、そこで清浄にされる。
【0011】
汚損した潤滑剤をシリンダから導出し、それをクランクハウジングへ送入できるようになる前に清浄することの方法は、従来技術から知られているように燃焼空間から出てくる潤滑油は廃産物とはもはや考えられず、むしろ清浄することによって再使用可能であるという点で大型の2ストローク機関の潤滑に対して重要な影響を有している。このことは経済的な視野からも大いに利点がある。大型の4ストロークディーゼル機関の潤滑に対して、本方法による方法は高度に汚損された潤滑剤がクランクハウジングの底部にある比較的清浄な潤滑剤と混合しうる前にシリンダから導出されるという点で重要な影響を有している。しかしながら、もしも汚損された潤滑剤が先ず清浄な潤滑剤と混合され、次いで清浄される場合よりももしも汚損された潤滑剤がより濃度の高い形態で清浄される場合の方が清浄に関してははるかに効率的である。このように、4ストロークの機関に対しても、潤滑に関して可也な性能向上が達成される。
【0012】
汚損された潤滑剤は、最後のピストンリングの下死点位置とシリンダブロックとクランクハウジングの間の境界との間の点から導出されることが好ましい。最後のピストンリングとは燃焼空間から最も離れているピストンリングを意味する。この最後のピストンリングはまた、油スクレーパ(掻き取り)リングとしてつくることも可能である。すなわち、この方法によって、クランクハウジングに存在する油との混合が効率的に阻止されて、燃焼空間あるいは転動面から出てくる潤滑剤が可能な限り多く収集されるよう保証しうる。
【0013】
特に、2ストローク機関としての設計の構造学的観点から、もしも汚損した潤滑剤がシリンダブロックとクランクハウジングとの間に設けられているパッキング箱において、特にパッキング箱の直上において導出されとすれば有利である。
【0014】
潤滑剤が潤滑剤回路において導かれるように清浄にされた潤滑剤が潤滑剤供給源まで導かれるような有利な方法が提供される。特に2ストローク機関に対しては、ピストンの潤滑および(または)シリンダの潤滑に使用される潤滑剤はこのように使用後処分する必要のある消耗産物ではなく、清浄後潤滑剤供給源まで戻すことができ、あるいは潤滑剤回路のその他の位置まで導くことができる。機関の潤滑必要量を、シリンダ内の空間から潤滑剤をこのように再循環させることにより例えば300%以上驚異的に低減させることができる。同時に、潤滑率および(または)単位時間当たり転動面あるいはピストンに供給される潤滑剤の量を増大させて更に良好な潤滑を達成することができる。潤滑率を増大させたとしても清浄にされた潤滑剤を戻すことによって全体的な潤滑必要量を可也低減させるが、これもまた経済的な局面から極めて顕著な利点である。
【0015】
特に4ストローク機関に対しては、高度に汚損した潤滑剤を清浄にすることは全体量の潤滑剤の劣化を遅速させることになり、潤滑剤交換間隔および(または)潤滑剤の補充間隔を可也延長させることが可能で、処分するための廃物としての潤滑剤の発生は少なくなる。
【0016】
本発明の方法は、2ストロークの機関に対してピストンの潤滑に単に一つの潤滑剤を備えればよく、さらに少なくともジャーナルあるいはベアリングの潤滑および(または)ピストンの冷却に対しても使用可能としうる点で特に有利である。このように、二つの別個の潤滑系統を備えた従来技術から知られている潤滑はもはや必要ではなくなり、これもまた当該装置のための手間および(または)費用を低減させることになる。
【0017】
潤滑剤の粘度および(または)BN(基礎番号)値がモニターされるという有利な方法も提供される。このように、これらの値が許容限界を上回るか、あるいは下回ると、それを識別することができる。そのような場合、次に適当な対策をとることができる。
【0018】
作動中に潤滑剤回路に新しい潤滑剤を供給することが有利である。一方において、燃焼あるいは漏洩によって喪失される潤滑剤をそれによって交換することが可能であり、他方において例えば粘度とか、あるいはBN値のような潤滑剤のある特性を新しい潤滑剤を添加することによって適正な値に設定することができる。
【0019】
この点に関して、新しい潤滑剤をシリンダに最初に導入する前にそれがピストンを冷却するように新しい潤滑剤が潤滑剤回路に供給されることは有利な方法である。すなわち、それによって新しい潤滑剤は潤滑剤回路中へ可及的効率よく導入することができる。
【0020】
潤滑剤に添加剤が供給されることが好ましい。例えば、潤滑剤のBN値あるいは化学的特性は純粋な添加剤を添加することによって体系的に、かつ制御可能に変更することができる。
【0021】
転動面にある潤滑剤を特に効率的に収集および(または)掻き落すには、潤滑剤がピストンに設けられた油掻き落としリング(オイルスクレーパリング)によってシリンダの動転面から掻き落されれば特に有利である。
【0022】
更に、本発明によれば、シリンダブロックに少なくとも1個のシリンダが設けられている大型のディーゼル機関であって、ピストンがシリンダ内で転動面に沿って前後に運動可能であり、前記ピストンが燃焼空間を画成しており、クランクハウジングに設けられたクランクシャフトに接続されており、ピストンを潤滑するために潤滑剤供給源からシリンダまで潤滑剤を導入する潤滑剤入口を備えており、潤滑剤が燃焼空間において行われる燃焼過程によって汚損され、汚損された潤滑剤の出口が設けられ、かつ汚損された潤滑剤がクランクハウジング中へ入りうる前にそれがシリンダから導出されうるように配置され、かつそのようにつくられており、また前記出口に接続された清浄装置が汚損された潤滑剤のために設けられているような大型のディーゼル機関が提案されている。
【0023】
本発明による方法に関する説明は、本発明による大型のディーゼル機関の説明に対しても同じ趣旨で適用可能であり、その説明は2ストローク機関および4ストローク機関についても行いうるものである。
【0024】
既述した理由から、清浄装置は潤滑剤回路が存在するように潤滑剤供給源に接続される。
【0025】
汚損された潤滑剤の出口は最後のピストンリングの下死点とシリンダブロックとクランクハウジングとの間の境界との間に位置する点に配置されることが好ましい。
【0026】
本発明による大型のディーゼル機関、特に2ストローク機関に関して、汚損した潤滑剤の出口はまた、シリンダブロックとクランクハウジングとの間に設けられたパッキン箱に配置されることが好ましい。
【0027】
特に大型の4ストロークディーゼル機関に対して、潤滑剤の収集装置にはシリンダの下端において、例えば収集流路あるいは溝が設けられることが有利である。
【0028】
本発明の更に別の有利な方法や好適実施例が特許請求の範囲の従属項から提供される。
【0029】
以下、本発明を実施例および図面を参照して装置としての局面並びにプロセス技術の局面の双方から詳細に説明する。図面は尺度通り描画していない概略図面において部分的に断面で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】2ストローク機関としてつくられた本発明による大型のディーゼル機関の第一の実施例を示す。
【図2】4ストローク機関としてつくられた本発明による大型ディーゼル機関の第二の実施例を示す。
【図3】潤滑剤の収集装置の実施例を示す。
【図4】収集装置の別の実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
部分的に概略図示された断面図である図1は、全体的に参照番号1で示され、本発明による潤滑方法が実行される本発明による大型ディーゼル機関の第一の実施例を示している。
【0032】
この大型ディーゼル機関1は縦方向排気の低速2ストロークのクロスヘッド付き大型ディーゼル機関としてつくられている。
【0033】
前記大型ディーゼル機関1は典型的に複数のシリンダ2を含むが、その中の1個のみを図1において見ることができる。シリンダ2はクランクハウジング4の上方に位置しているシリンダブロック3に配置されている。ピストン5が各シリンダ2において前後に運動可能に配置されており、ピストンは作動状態においてはシリンダ2の内壁にある転動面21に沿って運動する。典型的には、前記転動面21はシリンダの挿入体すなわちライナーによって形成されている。ピストン5は図示に従えばその上端において燃焼空間6を画成しており、該燃焼空間において燃焼過程が行われ、ピストンは典型的には、図1には示されていない複数のピストンリングを有している。ピストン5はピストンロッド7を介してクロスヘッド8に接続されており、該クロスヘッドの方は、クランクハウジング4に配置されているクランクシャフト10にプッシュロッド9を介して接続されている。
【0034】
ピストンロッドをシリンダブロック3からクランクハウジング4中へ貫通させるために前記ピストンロッドを密閉しているパッキン箱4がそれ自体既知の仕方で設けられている。
【0035】
大型ディーゼル機関の作動中、潤滑剤は既知の仕方で転動面21に供給され、ピストン5、ピストンリングおよび転動面を潤滑してピストンの良好な転動性を達成し、シリンダの壁、ピストン5およびピストンリングの磨耗を可能な限り低く抑える。更に、潤滑油が攻撃的な燃焼産出物を中和させ、並びに腐食、例えば硫黄による腐食を阻止するよう作用する。潤滑剤はシリンダ2の壁および(または)ピストン5の内部を通して転動面21に供給することができる。例えば脈動潤滑あるいは蓄積潤滑(任意潤滑)のような既知の全ての潤滑方法がこの目的に対して適当である。典型的に大型ディーゼル機関に使用される潤滑油のような全ての既知の潤滑媒体が潤滑剤として適当である。
【0036】
潤滑剤は燃焼空間6における燃焼過程によって、かつ例えば燃焼残滓、磨耗粒体、摩擦粒体あるいは攻撃的な燃焼産出物の中和によって生じる化学的合成物による機械的磨耗によって極めて高度に汚損される。
【0037】
図示に従えば、ピストン5の下方向運動時、潤滑油はピストン5および(または)ピストンリングによって転動面21から掻き取られ、パッキン箱34の領域においてシリンダブロック3の底部に集められる。典型的には、そこにチャンバ35が設けられており、該チャンバを経由して潤滑剤は出口36を介して流出する。従来技術においては、この高度の汚損した潤滑剤は他の用途にはもはや使用可能ではないので、処分される。
【0038】
本発明によれば、汚損された潤滑剤はクランクハウジング中へ入りうる前にシリンダ2から導出され、次いで矢印40によって指示されるように清浄装置60に供給され、そこで清浄されることが提案されている。
【0039】
驚くべきことに、燃焼空間から出てくる高度に汚損された潤滑剤は良好に清浄されうるので更に利用するために使用可能である。このことは経済性の局面から極めて重要な利点である。
【0040】
矢印41によって指示されるように、清浄された潤滑剤は、該潤滑剤が最初にそこから取り出された潤滑剤供給源62に供給される。潤滑剤供給源62は更に、接続配管(矢印45)を介して、クランクハウジング4の基部に設けられたオイルパン66に接続され、そのためそこで集められた潤滑剤はオイルパン66から潤滑剤供給源62に到来することができる。このように、潤滑剤が潤滑剤供給源62から取り出され、図1において矢印42によって記号的に指示されているようにピストン5を潤滑するためにシリンダの転動面21に供給され、次いで図示に従えば下方運動時にピストン5によって転動面21から掻き取られ、出口36を介して(矢印40で示すように)清浄装置60に到来し、そこで清浄され、潤滑剤供給源62まで再送される。クランクハウジングでの潤滑(例えばクロスヘッドの潤滑あるいはジャーナルの潤滑)から来る潤滑剤はオイルパン66において集められ、次いで接続配管(矢印45)を介して潤滑油供給源62に到来することができる。
【0041】
このように、本発明による大型のディーゼル機関の2ストローク機関での実施例に対しては、転動面21から出てくる汚損された潤滑剤はもはや廃物として処分されることはなく、むしろ清浄にされた形態で潤滑回路中へ戻される。このような再循環方法は潤滑剤の極めて大きな節約を達成する。潤滑を改善するために、例えば潤滑率、すなわち転動面に単位時間当たり、あるいはストローク当たりに供給される潤滑量を既知の大型の2ストロークディーゼル機関と比較して増した場合であっても、シリンダの潤滑に対する潤滑剤消費量は300%以上低下させることができる。
【0042】
図1に示すように、汚損された潤滑剤を一時的に貯めておくためにシリンダ2の出口36と清浄装置60との間に緩衝貯蔵装置61を設けることができる。
【0043】
潤滑剤回路(矢印43)中へ新しい潤滑剤をそこから導入することができる潤滑剤リザーバ63並びに別のリザーバ64が設けられている。後者のリザーバにおいては、例えば潤滑剤のBN値(基礎番号値)を所望する値に設定するために矢印44で指示するように潤滑剤回路中へ潤滑剤の添加剤を必要に応じて導入することができる。当然のことながら、別の材料を潤滑回路中へ導入するために別のリザーバを設けることも可能である。
【0044】
また、任意であるがモニター装置65が潤滑剤回路に設けられ、潤滑剤の特性および(または)成分をその装置によってモニターおよび(または)制御、あるいは分析することができる。例えば、潤滑剤の粘度は前記モニター装置を使用して分析することが可能で、その化学的成分、温度なども同様に分析可能である。前記モニター装置は例えば、そこへ供給される測定結果あるいは入力信号に応じて新しい潤滑剤、添加剤あるいはその他の成分の供給を調整することができる。
【0045】
転動面から出てくる潤滑剤を導出し、清浄する本方法によって、ピストンの潤滑およびジャーナルの潤滑、並びに任意に大型2ストローク機関におけるピストンの冷却に対しても単に一つの潤滑剤で作業することも可能であることが示されてきた。二つの潤滑系統、すなわち系統潤滑剤による潤滑系統および、それとは別個のシリンダ潤滑剤による潤滑系統の現在典型的な使用はもはや必要でなくなる。図1は、大型のディーゼル機関において潤滑を必要する全ての位置に潤滑剤を供給する潤滑剤回路を含む一つの潤滑系統が前以って設けられている大型の2ストロークディーゼル機関のそのような実施例を示す。非限定的に列挙したものに、これらの潤滑位置は例えば転動面21、およびピストンリングを備えたピストン5、クランクシャフト10の主ベアリング、プッシュロッド9のベアリング、クロスヘッド付きジャーナル、クロスヘッド8の摺動路および(または)摺動シュー、およびピストンロッドジャーナルがある。更に、潤滑剤はまた、ピストンを冷却するためにそれ自体既知の方法で使用することができる。この目的に対して、潤滑剤はピストン5の内部へ冷却油として導入され、そこから任意であるがオイルパン66を介して潤滑剤供給源62まで流れて戻る。
【0046】
大型の2ストロークディーゼル機関において一つのみの潤滑剤を使用すると、粘度とBN値に関しては妥協がなされる。ピストンの潤滑および(または)シリンダの潤滑を行う場合、潤滑剤に関する主要な要件は活動的燃焼産出物を中和する能力並びに清浄力(洗浄性)であり、一方潤滑系統のその他の用途に対しては潤滑剤が露出される部分的に極度に高い圧力並びに非混合性(非乳化性)、すなわち、例えば水からの分離性が主要な重要性をもつ。一般に、潤滑剤の粘度はSAE番号(SAEとは自動車技術協会のこと)によって指示される。大型のディーゼル機関1において単に一つの潤滑剤を使用する場合、例えばSAE40およびBN40の潤滑剤が使用可能であり、あるいは4ストロークの機関用のその他の典型的な潤滑剤が使用可能である。
【0047】
しかしながら、本発明による方法および本発明による大型ディーゼル機関の実施例ではまた、特に2ストローク機関の場合、二つの個別の潤滑系統、すなわち、シリンダの潤滑および(または)ピストン潤滑のための系統と、系統潤滑(すなわち、ジャーナル潤滑および、任意にピストン冷却)のための系統とを設けることも可能である。そのような実施例によれば、シリンダ潤滑のための系統は燃焼過程によって汚損される潤滑剤がシリンダ2の滑り面21から掻き取られ、シリンダ2から導出され、清浄され、次いで潤滑剤供給源まで再送され、そこから潤滑剤はピストン潤滑およびシリンダ潤滑のために転動面21に再度供給される潤滑剤回路としてつくられることが好ましい。
【0048】
清浄装置60は潤滑剤がその中で清浄される遠心分離機を含むことが好ましい。特に、粒体あるいは水のような非溶解性の液体成分は前記遠心分離機において分離させることができる。汚損された潤滑剤が先ず機械的フィルタによって清浄されるように前記遠心分離機の前に目の粗い機械的粗フィルタあるいは種々の目の細かさの複数の機械的フィルタを接続することが有利でありうる。
【0049】
代替的に、あるいは遠心分離機に追加して、例えば活動的な燃焼生成物を中和することによって生じる潤滑剤からの物質を選択的に除去するために潤滑剤に対して化学的清浄装置を設けることができる。例えば、新しい潤滑剤に存在するカルシウムは燃焼の結果生じる硫酸塩イオンを結合し、一方硫酸カルシウムを形成するが、それは清浄時に例えば沈殿反応およびその後の濾過によって再度除去することができる。
【0050】
図1に提供されている実施例において、潤滑剤回路には特に潤滑剤リザーバ63からの新しい潤滑剤を提供することができる。このようにして、一方では漏洩、燃焼あるいはその他の工程によって喪失された潤滑剤を補給することができ、他方、新しい潤滑剤を導入することによって、潤滑剤の特性、例えばそのBN値を制御可能な仕方で変えることができる。
【0051】
潤滑剤回路への新しい潤滑剤の供給は前記回路のいずこの点においても行うことが可能であり、そのため高度の融通性が得られる。このように、特に、新しい潤滑剤は、それが初めてシリンダの滑り面21に供給される前に先ずピストンを冷却するように潤滑剤回路へ導入することが有利となりうる。この場合、新しい潤滑剤は、その新しい潤滑剤によって理想的な冷却成果が達成されうるように潤滑剤供給源62からピストン5の内部に設けられた油冷却配管まで延在する配管に供給される。
【0052】
リザーバ64からの添加物も潤滑剤回路のいずれか任意の位置において導入することができる。潤滑剤がシリンダ2の滑り面21に供給される前に添加物が直接潤滑剤と組み合わされるように添加物が潤滑剤回路に導入されると特に有利である。
【0053】
用途に応じて、当然ながら潤滑剤リザーバ63からの新しい潤滑剤あるいはリザーバ64からの添加物が潤滑剤回路に導入されるその他の多くの適当な、あるいは有利な位置がありうる。
【0054】
滑り面21における潤滑剤の掻き取り効率を上げ、こうして再循環される潤滑剤の量を増すためには、ピストンリングに追加してピストン5に潤滑油掻き取りリングが設けられるとか、最後のピストンリングが潤滑油掻き取りリングとして形成されると有利である。ピストン5における「最後の」ピストンリングとは燃焼空間6から最も離れたところにあるピストンリングを意味する。また、汚損した油の基本的に全てが滑り面21から掻き取られるので、油膜すなわち潤滑剤の膜が滑り面21において極めて迅速に取り替わることが潤滑油掻き取りリングによって保証される。
【0055】
大型ディーゼル機関の潤滑剤消費は、滑り面21からの潤滑剤の再循環あるいは掻き取り効率の向上のような前記の全ての方法によって驚異的に減少させることができる。このように、例えば、図1に示す縦方向排気の大型2ストロークディーゼル機関において潤滑剤の消費あるいは潤滑油の消費を0.2から0.6g/kWhの範囲の値まで低下させることができる。同時に潤滑率の高められた潤滑を使用することができる。
【0056】
当然ながら、汚損した潤滑剤はパッキン箱34とは異なる位置においてシリンダ2から導出することも可能である。汚損した潤滑剤の収集ができるだけ効率的となるよう保証するために、汚損された潤滑剤を図1によれば最後のピストンリングの下死点位置の下方にある位置、および(または)潤滑油掻き取りリングが存在しているとすれば該リングの下方にある位置において導出することが有利である。
【0057】
また、1個以上の潤滑剤のための出口36を設けることも可能であり、すなわち汚損した潤滑剤を2箇所以上の異なる位置においてシリンダ2から導出することも可能であることが理解される。
【0058】
本発明により代替的に、あるいは追加して、潤滑剤の出口をパッキン箱34に、あるいはパッキン箱34の下端に設けることも可能である。このように、ピストンロッド7に付着した潤滑剤も収集することができる。
【0059】
更に、当然のことながら、清浄装置60から来る潤滑剤は潤滑剤供給源62に直接供給されないか、あるいは全部が供給されるのではなく、むしろ一箇所以上の異なる位置において潤滑剤回路へ導入されるようにすることも可能である。
【0060】
図2は、本発明による方法が実行され、かつ大型の4ストロークディーゼル機関1としてつくられている、本発明による大型のディーゼル機関1の第二の実施例を概略的に示している。同じ、あるいは類似の機能を有する部材には図1と同じ参照番号が付されている。
【0061】
図1および第一の実施例に関して提供された全ての説明は同様に、あるいは同じ意味で第二の実施例にも適用される。
【0062】
図2に示す大型の4ストロークディーゼル機関に対しては、ピストン5は連接棒9′を介して直接クランクシャフト10に接続されている。図2には複数のピストンリング51が示されており、その中最後の、すなわち燃焼空間6から最も離れたものは油掻き取りリング52としてつくられている。
【0063】
本発明によれば燃焼空間6の上端には、少なくとも1個の入口弁68および1個の出口弁69が設けられている。
【0064】
シリンダ2の領域において、シリンダブロック3は連接棒9′の構造上クランクハウジング4に向って開放している、すなわち2ストローク機関のようにはパッキング箱は何ら存在しない。潤滑剤供給源62としてつくられているオイルパンはクランクハウジング4の基部に位置している。
【0065】
作動時、ピストン5の下方運動によって、潤滑剤はシリンダ2および(または)シリンダライナーの滑り面21から掻き取られる。
【0066】
従来技術では、燃焼過程によって高度に汚損した潤滑剤はシリンダ2の下部区画からクランクハウジング4中へ落下し、潤滑剤供給源62にある残りの潤滑剤と混合する。滑り面21から掻き取られた汚損潤滑剤の量は潤滑剤の全体量と比較すれば無視しうるほど少量であるので、汚損潤滑剤は潤滑剤供給源62おいて極度に希釈される。
【0067】
本発明によれば、滑り面21から掻き取られた高度に汚損した潤滑剤がクランクハウジング4中へ滴下することは、この汚損潤滑剤がクランクハウジング4へ入りうる前にシリンダから導出され、次いで清浄装置60まで導かれるということで阻止される。
【0068】
この目的に対して、収集装置22が大型の4ストロークディーゼル機関1のシリンダ2の下端に設けられており、滑り面21から掻き取られた汚損潤滑剤を収集するので汚損潤滑剤が基本的にクランクハウジング4へ入りえないように、従って未清浄の状態で潤滑剤供給源62へ入りえないようにしている。
【0069】
収集装置22の二実施例が図3と図4とに示されている。
【0070】
図3に示す実施例においては、この図示によればシリンダ2の下端あるいはシリンダライナーの下端において、溝221が全周に亘り設けられており、その基部において少なくとも1個の出口開口222が設けられ、そこを通して汚損された潤滑剤が出口36へ入ることができる。
【0071】
図4に示す収集装置22の別の実施例においては、シリンダ2の下端領域あるいはシリンダライナーの下端領域において全周に亘り延在する溝223が設けられている。その中へ、滑り面21から掻き取られてくる潤滑剤が集められる。汚損した潤滑剤は、図4に示されていない出口開口を介して前記溝223から出口36へ流入する。前記溝223は図4に示されているように潤滑剤の収集をより良くできるようにシリンダ2の外壁に向って下方に傾斜していることが好ましい。
【0072】
そのような実施例はまた、二つの個別の潤滑剤回路、すなわちシリンダ潤滑および(または)ピストン潤滑剤のためのものと、ジャーナル潤滑および任意的にピストン冷却のためのものが設けられている大型の4ストロークディーゼル機関に対しても適用可能である。
【0073】
図2に示す実施例において、汚損された潤滑剤が異なる位置あるいは複数の異なる位置から導出されるような変形も可能であることが理解される。汚損した潤滑剤は最後のピストンリングあるいは潤滑油掻き取りリング52の下死点とシリンダブロック3とクランクハウジング4の間の境界との間にある位置あるいは複数の位置において導出されることが好ましい。原則として、著しい量の汚損した潤滑油が転動面21からクランクハウジング4を介し直接潤滑剤回路へ入ることだけは阻止される必要がある。
【0074】
高度に汚損した潤滑剤が潤滑剤供給源62における潤滑剤と混合することなくシリンダ2から導出されることが可能であるので、汚損された潤滑剤は希釈されることもなく、従って清浄装置60において顕著により良好に、かつ効率的に清浄することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 ディーゼル機関
2 シリンダ
3 シリンダブロック
4 クランクハウジング
5 ピストン
6 燃焼空間
7 ピストンロッド
8 クロスヘッド
10 クランクシャフト
21 滑り面
22 収集装置
34 パッキン箱
36 汚損潤滑剤出口
42 潤滑剤入口
52 掻き取りリング
60 清浄装置
62 潤滑剤供給源
221 溝
222 出口
223 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロック(3)に設けられた少なくとも1個のシリンダ(2)を有し、ピストン(5)が前記シリンダ(2)内で滑り面(21)に沿って前後に運動可能であり、前記ピストン(5)が燃焼空間(6)を画成し、前記ピストン(5)がクランクハウジング(4)に設けられたクランクシャフト(10)に接続されており、前記ピストン(5)を潤滑するために、潤滑剤が潤滑剤供給源(62)からシリンダ(2)中へ導入され、潤滑剤が燃焼空間(6)において行われる燃焼過程によって汚損されるような大型のディーゼル機関を潤滑する方法において、汚損された潤滑剤がシリンダ(2)から導出され、次いで清浄装置(60)まで導かれ、該清浄装置において前記潤滑剤がクランクハウジング(5)へ入りうる前に清浄にされることを特徴とする大型のディーゼル機関を潤滑する方法。
【請求項2】
汚損された潤滑剤が最後のピストンリングの下死点位置とシリンダブロック(3)とクランクハウジング(4)の間の境界との間に位置する点において導出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚損された潤滑剤がシリンダブロック(3)とクランクハウジング(4)との間に設けられたパッキング箱(34)において導出されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
清浄にされた潤滑剤が潤滑剤回路中を導かれるように潤滑剤供給源(62)まで導かれることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ピストン(5)の潤滑のために使用され、更に少なくともベアリングあるいはジャーナルの潤滑および(または)ピストン(5)の冷却に使用される単に一つの潤滑剤が供給されることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
潤滑剤の粘度および(または)BN(基礎番号)値がモニターされることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
新しい潤滑剤が潤滑剤回路に供給されることを特徴とする請求項4から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
新しい潤滑剤が初めにシリンダ(2)中へ導入される前に先ずピストン(5)を冷却するように潤滑剤回路に供給されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
添加剤が潤滑剤に供給されることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
潤滑剤がピストン(5)に設けられた油掻き取りリング(52)によってシリンダ(2)の転動面(21)から掻き取られることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
シリンダブロック(3)に設けられた少なくとも1個のシリンダ(2)を有し、ピストン(5)が前記シリンダ(2)内で滑り面(21)に沿って前後に運動可能であり、前記ピストン(5)が燃焼空間(6)を画成し、クランクハウジング(4)に設けられたクランクシャフト(10)に接続されており、潤滑剤供給源(62)から潤滑剤を前記ピストン(5)の潤滑のために前記シリンダ(2)へ供給する潤滑剤入口(42)を備え、前記燃焼空間(6)において行われる燃焼過程によって潤滑剤が汚損される大型のディーゼル機関において、汚損された潤滑剤のための出口(36)が設けられており、前記出口(36)は、汚損された潤滑剤がクランクハウジング(4)へ入りうる前に前記シリンダ(2)から導出されうるように配置され、かつそのようにつくられており、また汚損された潤滑剤の清浄装置(60)が設けられており、該清浄装置(60)は前記出口(36)に接続されていることを特徴とする大型のディーゼル機関。
【請求項12】
前記清浄装置(60)は潤滑剤回路が存在するように潤滑剤供給源(62)に接続されていることを特徴とする請求項11に記載の大型ディーゼル機関。
【請求項13】
汚損された潤滑剤のための出口(36)が、最後のピストンリングの下死点位置とシリンダブロック(3)とクランクハウジング(4)の間の境界との間に位置する点において配置されていることを特徴とする請求項11または12のいずれか1項に記載の大型ディーゼル機関。
【請求項14】
汚損された潤滑剤のための出口(36)がシリンダブロック(3)とクランクハウジング(4)との間に設けられているパッキング箱(34)に配置されていることを特徴とする請求項11から13までのいずれか1項に記載の大型ディーゼル機関。
【請求項15】
潤滑剤の収集装置(22)がシリンダ(2)の下端に設けられていることを特徴とする請求項11から14までのいずれか1項に記載の大型ディーゼル機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90897(P2010−90897A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232968(P2009−232968)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】