説明

大気圧での化学気相堆積

【課題】大気圧で基板上に気化された化学材料を堆積させる方法を提供する。
【解決手段】大気圧で基板を被覆する方法が、加熱された不活性ガス流の中で、ほぼ大気圧で、制御された質量の半導体材料を気化させ、半導体材料の凝縮温度より高い温度を有する流体混合物を生成するステップと、ほぼ大気圧で、半導体材料の凝縮温度より低い温度を有する基板の上に流体混合物を向けるステップと、半導体材料の層を基板の表面の上に堆積させるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、基板上への気化された化学材料の堆積に関し、より具体的には、大気圧で基板上に気化された化学材料を堆積させる方法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2004年8月18日に出願された、仮特許出願連続番号第60/602,405号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
基板を被覆する技術分野において、熱分解プロセス及び加水分解プロセスのような化学気相堆積プロセスが公知である。こうしたプロセスに用いられるコーティング反応物質の物理的特性は、液体、蒸気、ガス状混合物内に分散された液体又は固体、エアロゾル、或いは、ガス状混合物内に分散された気化された又は蒸気性のコーティング反応物質とすることができる。
光起電力素子の生成においてガラス基板上に気化された化学化合物を堆積させる方法では、一般に、気化された化学化合物が、真空雰囲気内で堆積される。こうしたプロセスを実行するためのシステムは、一般に、互いに水平方向の接合部を備える下部及び上部でできた、密閉型堆積チャンバを有するハウジングを含むものであった。シール組立体が、下部ハウジングと上部ハウジングとの間の接合部に挿置される。チャンバ内を通してガラス・シート基板を輸送するために、コンベヤ手段が設けられる。基板がチャンバを通過するとき、ガラス基板上にコーティングを施すために、堆積チャンバ内に化学気相分配装置が配置される。
【0003】
システムは、堆積チャンバ内に真空を引くための真空源を含む。堆積チャンバは、一般に、ガラス・シートがシステムを通って搬送されるときに該ガラス・シートを加熱するための細長い加熱装置を含む。ガラス・シートは、堆積チャンバ内に入り、真空加熱炉から該加熱炉と類似した真空及び温度設定に維持されている真空堆積チャンバまで送られる。粉末状の硫化カドミウム及び粉末状のテルル化カドミウムが、気化堆積チャンバ内に供給される。次いで、既に被覆され加熱されたガラス基板上に、膜が連続的に堆積される。次に、被覆された基板は、ロード・ロックを通って、そこから圧縮窒素によって冷却が行われる冷却チャンバに移送され、最終的に、大気圧で、出口ロック・ロードを通って、周囲温度に下げるための空気冷却セクションに運ばれる。テルル化カドミウムの薄膜材料は、その多結晶構造を再結晶化し、積層膜から有効な光起電力素子を作ることができるように、後続の処理ステップを必要とする。典型的には、このステップは、塩化カドミウム溶液を冷却され被覆されたガラスのテルル化カドミウム表面に塗布し、該ガラスを、約15分から20分間、約390℃から420℃までの温度まで再加熱することによって達成される。必要とされるステップの処理時間全体を延長するこうした処置中に破損を回避するために、ガラスをゆっくり加熱し、冷却するように、注意を払う必要がある。
【0004】
再生可能なエネルギー源が、ますます重要になってきていることがよく認識されているので、再生可能なエネルギーの必要性を満足させるのに、電気エネルギーを生成するための光起電力素子の商業生産が重要であると思われる。光起電ベースの電気エネルギー生成システムの分野において、ガラス基板上に半導体材料の薄膜コーティングを利用することが、実行可能な機構であると考えられる。
【0005】
上で参照した技術に基づいた薄膜コーティング・システムが、真空において、市販のソーダ石灰ガラス基板の上に硫化カドミウム/テルル化カドミウムの光起電材料の薄膜を堆積させ得ることが見出された。続いて光起電材料を処理し、テルル化カドミウム表面を再結晶化させ、光起電力素子を更に処理するために積層膜を準備する。上述されたシステムは、電気エネルギーの生成に適した光起電性パネルを製造することが可能であるが、システムを商業的に実行可能にするために、こうした製造のためのコストを減少させることが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
大気圧で、基板上に化学気相からの半導体材料を堆積させることによって、光起電性パネルを生成することが、本発明の目的である。
本発明の別の目的は、硫化カドミウム及びテルル化カドミウムを気化させ、これらを加熱された基板の表面上に堆積させ、大気圧で、硫化カドミウムの第1の薄膜及びテルル化カドミウムの第2の薄膜を形成することによって、光起電性パネルを生成することである。
本発明の別の目的は、薄膜のテルル化カドミウム多結晶材料を高温で急速に再結晶化させることによって、光起電性パネルを生成し、高効率の光起電力素子をもたらすことである。
【0007】
驚くことに、上記の目的は、(1)硫化カドミウム又はテルル化カドミウムのような半導体材料源を準備し、(2)半導体材料を加熱し、ほぼ大気圧で気化させ、気化された材料をその凝縮温度より高い温度に保持し、及び(3)ほぼ大気圧で、ガラスのような加熱された基板の表面上に気化された材料を連続的に堆積させ、層状構造体を形成するステップを含む、大気圧で基板を被覆する方法によって達成できることが見出された。随意的には、層状構造体が、依然としてほぼ堆積温度かつほぼ大気圧である間、テルル化カドミウム層を反応性ガスで処理し、テルル化カドミウムの再結晶化を行うことができる。層状積層膜の次の処理を達成し、アクティブな薄膜光起電力素子を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の進歩性を、概略的な形で示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の上記及び他の目的及び利点は、添付図面に照らして、本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読むことにより、当業者には容易に明白になるであろう。
図を参照すると、大気圧において、基板の表面をテルル化カドミウムの膜で被覆する方法のステップが、概略的に示される。
【0010】
好ましくは粉末形態の硫化カドミウム(CdS)又はテルル化カドミウム(CdTe)である、個々に計量された質量の半導体材料が、ほぼ大気圧で入口と出口との間を流れる、好ましくは窒素である不活性ガス流によって連続的にパージされる区域内に導入される。粉末は、制御された速度で流れる不活性ガスによって、入口から、加熱された充填床からなる気化装置の中に運ばれ、その中で、粉末は、充填床の媒体の格子間ボイドを通過するときに気化される。加熱された充填床の出口が、加熱された区域の内部と連通状態にされ、気化された材料を基板に分散させる。気化された材料の流体流を生成するために、計量された粉末質量及びキャリア不活性ガスが加熱される代替的な粉末気化方法を用いることもできる。代替的な方法は、必ずしもこれらに限られるものではないが、キャリア不活性ガスが加熱され、粉末が気化される、加熱された流動床、キャリア不活性ガスを加熱し、粉末を気化させる熱式「点滅」気化装置、及び、キャリア不活性ガスを加熱し、粉末を気化させる、大気圧溶射ユニットを含むことができる。
【0011】
好ましくは硫化カドミウム又はテルル化カドミウムの粉末及びキャリア不活性ガスを含む流体は、その凝縮温度より高い温度のキャリア不活性ガス及び気化された材料を含む高温の流体混合物である。流体混合物の温度は、典型的には、約800℃から約1,100℃までの範囲にある。次に、加熱された流体混合物は、ほぼ大気圧で基板の表面の方向に一定速度の層流を生成するように、装置内に指向される。一般に、基板は、好ましくは、透過性で導電性の低放射率コーティングを有するソーダ石灰ガラスである。こうしたガラスの例は、Pilkington Glass Co.社によって製造され、TEC−15と表される。基板の表面は、約585℃から約650℃までの温度に維持される。
【0012】
所望の流体混合物層流を生成するための装置は、流体が通路を通って流れるときに過渡流体内の一連の速度変化をもたらすように適合された一連の個々の通路から構成される。装置は、通路内での材料の凝縮を防ぐために、硫化カドミウム又はテルル化カドミウムの気化温度より高く維持される。こうした流体流は、細長い出口ノズルに流体混合物を均等に分散させ、一定の質量流量分布の均一な層流が、基板の接線方向に流れ、基板の表面に供給されることを可能にする。上記の作用により、流体混合物の分子が、細長い出口ノズルの全長にわたって均等に分散され、該分子が、ほぼ平行な経路において一定速度で該出口ノズルから移動され、一定速度の層流及び基板の方向に向けられた質量分布を生成する。
【0013】
出口ノズルを出る流体混合物の速度は、入口において流体混合物が導入される質量流速を制御することによって調整することができる。
基板に適用される装置から放出される流体内の気化された材料の薄膜堆積速度を制御するために、基板の温度を気化された材料の凝縮点より低くなるように制御しながら、流体混合物の質量流速及び基板の速度を制御する。加熱された流体混合物は、冷たい基板の上に当たるので、気化された材料の凝縮温度より低い温度まで冷却される。材料は、多結晶の形で、流体混合物から、連続的な薄膜層のような移動している基板の上に凝縮する。流体抽出装置が、出口ノズルの上流及び下流に配置され、基板の表面に向けられた流体混合物の非膜生成成分の回収の制御を可能にする。
【0014】
過渡ガラス基板の表面において気化された硫化カドミウム又はテルル化カドミウムを均等に分散させるための多数の異なるシステムが存在し得るが、Hofer他に付与された米国特許第4,509,526号に示され、説明された装置は、満足のいく結果をもたらし得ると考えられる。
層流構造体を準備するための、上述された装置による硫化カドミウム及び/又はテルル化カドミウムの任意の数の連続的な層堆積が、本発明によって考えられる。
【0015】
テルル化カドミウムの多結晶薄膜の堆積に続いて、薄層状の積層膜から光起電力素子を生成することを可能にするように、再結晶化ステップが必要とされる。ほぼ1大気圧で、高温テルル化カドミウム膜を、窒素内の希塩化水素の高温ガス状雰囲気に曝すことによって、こうしたステップを1分未満で達成できることが見出された。基板の温度を維持しながらテルル化カドミウムの再結晶化を制御する能力は、再結晶化ステップの際の、基板/積層膜組立体の冷却及び再加熱を排除する。「乾式」再結晶化ステップの使用により、有毒な塩化カドミウム溶液及びその適用装置の使用が排除される。典型的には、ライン内の再結晶化プロセスを出るガラス基板は、約620℃から約630℃までの温度を有する。こうした温度範囲は、基板/積層膜が処理ラインを出るとき、ガラスが、冷却ガス流によって熱的に調節されることを可能にする。
【0016】
上述のプロセスは、広い面積の光起電性パネルを提供するように、ソーダ石灰ガラス基板の表面上に、薄膜の硫化カドミウム/テルル化カドミウムの光起電材料を生成する方法に関する。しかしながら、通常真空で堆積される他の薄膜材料を含むように、大気圧での蒸着の概念を広げ得ることを理解する必要がある。
考え得る薄膜光起電材料は、CIGS(銅インジウム・ガリウム・セレン化物)、CdS/CIS合金(硫化カドミウム/銅インジウム・セレン合金)、アモルファス・シリコン又は薄膜多結晶シリコン、及びZn(O、S、OH)x/CIGS(酸化硫化水酸化亜鉛/銅インジウム・ガリウム・セレン化物)である。
【0017】
ガラス基板に塗布することが考えられる他の薄膜材料は、非常に低い放射率の膜及び反射防止膜のために用いられる多層膜のような光学コーティングである。本発明の大気圧堆積概念を用いて、耐久性が改善された膜、自己洗浄膜、フォト光学膜、及び電気光学膜のような、他の付加価値構造を開発することができる。
表面特性を向上させるために、薄膜材料の大気圧堆積プロセスを、種々の基板材料に適用することができる。考え得る基板は、ポリマー材料、セラミック、金属、木材及び他のものを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧で半導体材料の凝縮温度より低い温度まで加熱された基板を被覆する方法であって、
制御された質量の半導体材料と加熱された不活性ガス流とを混合し、
前記加熱された不活性ガス流の中で、前記半導体材料を気化させ、前記半導体材料の凝縮温度より高い温度を有する流体混合物を生成し、
ほぼ大気圧で前記基板の上に前記流体混合物を向け、
前記半導体材料の層を前記基板の表面の上に堆積させる、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記半導体材料は、硫化カドミウム又はテルル化カドミウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが窒素であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記流体混合物の温度は、800℃から1,100℃までの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、ガラスを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ガラスは、透過性で導電性の低放射率コーティングを有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記基板は、585℃から650℃までの範囲の温度を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板上に少なくとも1つの付加的な半導体材料層を堆積させるために、前記気化させるステップ、前記向けるステップ、及び前記堆積させるステップが、少なくとも1度繰り返されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
大気圧で半導体材料の凝縮温度より低い温度まで加熱された基板を被覆する方法であって、
制御された質量の半導体材料と加熱された不活性ガス流とを混合し、
前記加熱された不活性ガス流の中で、前記半導体材料を気化させ、800℃から1100℃までの範囲の温度を有する流体混合物を生成し、
ほぼ大気圧で、透過性で導電性の低放射率コーティングを有し、かつ、585℃から650℃までの範囲の温度を有する前記基板の上に前記流体混合物を向け、
前記半導体材料の層を前記基板の表面の上に堆積させる、
ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記基板上に少なくとも1つの付加的な半導体材料層を堆積させるために、前記気化させるステップ、前記向けるステップ、及び前記堆積させるステップが、少なくとも1度繰り返されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
大気圧で半導体材料の凝縮温度より低い温度まで加熱された基板を被覆する方法であって、
制御された質量の半導体材料と加熱された不活性ガス流とを混合し、
加熱された不活性ガス流の中で、前記半導体材料を気化させ、800℃から1100℃までの範囲の温度を有する流体混合物を生成し、
ほぼ大気圧で、透過性で導電性の低放射率コーティングを有し、かつ、585℃から650℃までの範囲の温度を有する前記基板の上に前記流体混合物を向け、
前記半導体材料の層を前記基板の表面の上に堆積させ、
前記気化させるステップ、前記向けるステップ、及び前記堆積させるステップを少なくとも1度繰り返し、少なくとも1つの付加的な半導体材料層を前記基板の上に堆積させる、
ステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−233920(P2011−233920A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156512(P2011−156512)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2007−527845(P2007−527845)の分割
【原出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(510292526)カリクソ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】