説明

天井内モニタリングロボットシステム

【課題】天井内のモニタリングを行う際に、ロボットが転倒することなくモニタリングを続行することができ、天井内の観察とロボットの捕捉を容易にすることが可能なロボットシステムを提供する。
【解決手段】天井内を走行可能な自走式ロボットが、走行制御機構と、可動式のカメラと、姿勢センサとを有する。天井点検口の付近に可動式の補助カメラを設置し、ロボットと補助カメラとの間で無線通信可能なコンピュータを備える。コンピュータがロボットと補助カメラからのデータを受信し、ロボットの走行制御機構に信号を送信して所定の向きと方向へと移動させる。姿勢センサが検出した傾斜角が第1の設定値に達するとコンピュータから走行制御機構に減速信号が送信され、第2の設定値に達すると停止信号が送信される。コンピュータのモニター画面にカメラが撮影した画像と補助カメラが撮影した画像とが概ね同時に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間が立ち入れない場所の状態を、カメラを搭載した遠隔操作の移動ロボットで確認するためのシステムに関し、特に天井内のモニタリング(状態観察・環境測定)を行う場合に適した天井内モニタリングロボットシステムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物の天井裏には、各種ケーブルなどの電気設備、各種配管などの給排水設備、ダンパーやフィルタなどの空調設備が配置されており、これらの諸設備を定期的に点検したり補修したりしなければならない。このようなメンテナンス作業のために、天井には点検口が設けられており、この点検口から作業員が出入りするようになっている。
【0003】
かかる煩雑なメンテナンス作業を自動化し、コスト低減を図るために、特に大きな空間を有する天井裏については自走式のロボットを用いたメンテナンスシステムが試みられてきたが、試作段階における自走式ロボットでは、ロボットの外に設置したカメラでロボットの映像を見ながら、障害物回避や転倒しないような操縦を行う必要があり、熟練した技術が必要であった。また、天井内にロボットを入れたのでは、ロボットの位置や状態が認識できないという問題点があった。特に、ロボットが障害物に当たって転倒した場合は、点検口までロボットを引き戻す作業に大変な労力と時間を要することがわかった。
【0004】
自走式ロボットにカメラを搭載する試みもなされたが、自走式ロボットが走行する場合、搭載したカメラだけで周囲を確認しながら移動するのは困難であり、操縦を誤ると、障害物に乗り上げて転倒することになる。また、カメラで周囲の状態を確認したとしても、小型のカメラでは局所的な画像しか得られないから、周囲の状況を判断するのは困難てあることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−173433「天井裏諸設備の管理方法」では、安全かつ迅速にメンテナンス作業を行うために、点検口の蓋の裏面にメンテナンスシートを張り付けている。
【0006】
【特許文献2】特開平9−149309「走行型点検ロボット」では、カメラを搭載した走行型点検ロボットを無線機とジョイスティックを用いて制御するシステムが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、天井内のモニタリングを行うのに適した天井内モニタリングロボットシステムを提供することにある。
本発明の第2の目的は、ロボットが転倒することなく天井内のモニタリングを続行できるようなロボットシステムを提供することにある。
本発明の第3の目的は、天井内の観察とロボットの捕捉を容易にすることが可能なロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するため、本発明による天井内モニタリングロボットシステムはその基本的態様として、天井内を走行可能な自走式ロボットと、前記ロボットに搭載された走行制御機構と、前記ロボットに搭載された可動式のカメラと、前記ロボットに搭載されロボットの傾斜角を検出可能な姿勢センサと、天井点検口の付近に設置された可動式の補助カメラと、前記ロボットと前記補助カメラとの間で無線通信可能なコンピュータとを備える。さらに、前記コンピュータが前記ロボットと前記補助カメラからのデータを受信し、前記ロボットの前記走行制御機構に信号を送信して所定の向きと方向へと移動させるようになっており、前記姿勢センサが検出した傾斜角が第1の設定値に達すると前記コンピュータから前記走行制御機構に減速信号が送信され、第2の設定値に達すると前記コンピュータから前記走行制御機構に停止信号が送信されるようになっており、前記コンピュータのモニター画面に前記カメラが撮影した画像と前記補助カメラが撮影した画像とが概ね同時に表示されるようになっていることを特徴としている。
【0009】
すなわち、本発明に係るロボットシステムは、天井内の状況を移動ロボットに搭載したカメラを用いてモニタリングするシステムで、移動ロボットは好適にはクローラタイプあるいは多車輪タイプの駆動機構を有して、遠隔で操作者(オペレータ)がジョイスティックで操縦する。好適には、ロボットに搭載したカメラは、パン(左右方向)・チルト(上下方向)・ズーム(遠近)の3つの調整操作が可能で、操作者は天井内の状態観察のためのカメラ操作及びロボット走行の遠隔操縦を行う。なお、ズーム機能は省略することもできる。
【発明の効果】
【0010】
かかる構成に基づき、本発明によるロボットシステムでは、従来困難とされてきた天井内に自走式ロボットを入れることにし、そのために、ロボットの転倒防止機能を備えることと、補助カメラを用いてロボットの置かれている状況を認識する機能を備えることとした。これにより、ロボットを扱い慣れていない操作者でも、比較的容易にロボットの操縦を行うことができるようになった。
また、ロボットが姿勢センサを備えているので、ロボットが転倒することなく天井内のモニタリングを続行することができる。
さらに、補助カメラを備えているので、天井内の観察とロボットの捕捉を容易にすることが可能になった。加えて、補助カメラの設置位置とパン及びチルト角度からロボットの概略位置を類推することが可能になるという利点がある。
【0011】
(1)ロボットの転倒防止機能
ロボットには姿勢を検出するセンサが取り付けられていて、前後方向(水平方向)の傾斜角度θがリアルタイムに認識できる。操作者は基本的にジョイスティックで操作を行い、ロボットが第1の設定傾斜角度θ1を超えると自動的に走行速度を減速する。さらに、そのまま続けて操作を行った場合、ロボットは段階的に同じ制御を行い、ロボットが第2の設定傾斜角度θ2を検出すると自動的に停止する。なお、さらに細かく多段階式に制御することもできる。クローラタイプの自走式ロボットは重心位置の関係から左右方向に転倒する可能性は低いから、左右方向の傾斜角を検出する必要性は少ないが、必要に応じて左右方向の傾斜角を検出するセンサを設けることもできる。
【0012】
(2)補助カメラによる環境認識機能
補助カメラを天井内に入れることで、移動ロボットの位置・走行方向・姿勢などが観察できる。補助カメラはロボットを入れた点検口付近に設置する。周囲の状況に合わせて三脚などを取り付ける。補助カメラは動き検出機能(市販品に標準装備)を有し、自動でロボットを追尾する。ただし、追尾に失敗した場合は、ジョイスティックを用いて遠隔手動操作でパン・チルト・ズームの操作をしてロボットを捕捉することができる。なお、暗い天井内でも使えるように照明付きとする。
【0013】
本発明では、姿勢センサが検出した傾斜角が第1の設定値に達すると、コンピュータから走行制御機構に減速信号が送信されるようになっている。これにより、転倒防止のための第1段階が実行され、操作者が必要な操作を行うことにより、転倒を回避することができる。さらに、姿勢センサが検出した傾斜角が第2の設定値に達すると、コンピュータから走行制御機構に停止信号が送信されるようになっている。これにより、転倒防止のための第2段階が実行され、操作者が必要な操作を行うことなく、自動的に転倒を防止することができる。
【0014】
さらに、本発明では、コンピュータのモニター画面にカメラが撮影した画像と補助カメラが撮影した画像とが概ね同時に、好適には画面を左右2分割した状態で、表示されるようになっている。これは時間差を利用した周知のポーリング機能で可能となり、両方の画像を比較することで、天井内の微妙な観察とロボットの正確な操作とが可能になる。
【0015】
さらに、本発明の好適な態様では、ロボット上にさらに天井内の温度、湿度、風速、照度などを検出するための環境センサが搭載されており、天井内の環境を居室側から検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるロボットシステムを天井内に配置した状態を表す概略斜視図。
【図2】本発明によるロボットシステムにおける無線通信の仕組みを表す概略斜視図。
【図3】本発明によるロボットシステムにおける転倒防止機能を説明するための斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に基づくロボットシステムを建物の天井内と居室内とに配置した状態を表しており、天井10に設けられた点検口14から自走式ロボット20が天井内に入れられ、さらに点検口14の付近に三脚を用いて補助カメラ28が設置されている。補助カメラ28は、運動制御機構29に駆動されて、パン及びチルトの動きをすることが可能になっている。床面12上の居室内には、無線通信(LANなど)が可能なノート型パソコン30が配置され、操作者は、モニター画面32に表示される画像を見ながら、キーボード34とジョイスティック36を用いて、ロボット20と補助カメラ28とを操作する。
【0018】
図1のロボット20はクローラ式の走行駆動装置を有し、ロボットに搭載された走行制御機構22で前進・後進・左右回転などを制御する。さらに、ロボット20上には、運動制御機構25に駆動されて、パン及びチルトの動きをすることが可能になっているカメラ24が搭載され、カメラ24が撮影した画像が無線通信により居室内のパソコン30へと送られる。さらに、ロボット20上には、前後方向の傾斜角を検出するための姿勢センサ26が取り付けられており、ロボットが転倒するのを防止できるようになっている。
【0019】
さらに、ロボット20上には、天井内の温度、湿度、風速、照度などを検出するための環境測定センサ38が搭載されており、天井内の環境を居室側から検知することが可能になっている。
【0020】
ノート型パソコン30には、ロボット20に搭載したカメラ24から送られてくる画像41、補助カメラ28から送られてくる画像42、姿勢センサ26からの傾斜角データ43、及び環境測定センサ38からの測定データ44(例えば、温度、湿度、風速、照度など)の値が無線伝送(無線LANなど)を介して表示される。操作者は、パソコンのモニター画面30を見ながらロボットの走行制御機構22とカメラの運動制御機構25及び補助カメラの運動制御機構29を操縦し、天井内のモニタリング(状態観察・環境測定)を行う。
【0021】
図2は、ロボット20が各種の障害物51,52,53に相対した状態で、ロボット20と補助カメラ28とから送られてくるデータライン(仮想)を説明するための図である。カメラとパソコンとの間のデータライン61では、カメラ24が撮影した画像が送られると共にカメラ24のパン及びチルト角度を変化させるための信号が送られる。補助カメラとパソコンとの間のデータライン62では、補助カメラ28が撮影した画像が送られると共に補助カメラ28のパン及びチルト角度を変化させるための信号が送られる。姿勢センサとパソコンとの間のデータライン63では、姿勢センサ26が検出した前後方向(水平方向)の傾斜角のデータが送られる。環境測定センサとパソコンとの間のデータライン64では、環境測定センサ26が検出した温度、湿度、風速、照度などのデータが送られる。ロボットの走行制御機構とロボットとの間のデータライン65では、ロボットの前進・後進・減速・停止などの信号が送られる。
【0022】
さらに、図2に示すように、コンピュータのモニター画面32は左右に2分割され、カメラが撮影した画像41と補助カメラが撮影した画像42とが概ね同時に、表示されるようになっている。これは時間差を利用した周知のポーリング機能で可能となり、両方の画像を比較することで、天井内の微妙な観察とロボットの正確な操作とが可能になる。
【0023】
前述したように、操作者は、パソコンのモニター画面30を見ながらロボットの走行制御機構22(図1)とカメラの運動制御機構25(図1)及び補助カメラの運動制御機構29(図1)を操縦し、天井内のモニタリング(状態観察・環境測定)を行う。
【0024】
図3は、本発明のロボットシステムにおける転倒防止機能を説明する図である。図3Aは、自走式ロボット20が障害物51に向かって前進していく状態を表している。姿勢センサ26はロボットの前後方向の傾斜角が概ねゼロ近辺の値を検出している。
【0025】
図3Bは、ロボットが前進し障害物51に当たって傾いた状態を表しており、このとき姿勢センサが検出した傾斜角が第1の設定値θ1に達すると、コンピュータから走行制御機構22に減速信号が送信される。これにより、転倒防止のための第1段階が実行され、操作者が必要な操作を行うことにより、転倒を回避することができる。
【0026】
図3Cは、ロボットがさらに前進して障害物51に乗り上げ、大きく傾いた状態を表しており、このとき姿勢センサが検出した傾斜角が第2の設定値θ2に達すると、コンピュータから走行制御機構22に停止信号が送信される。これにより、転倒防止のための第2段階が実行され、操作者が必要な操作を行うことなく、自動的に転倒を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上詳細に説明した如く、本発明によるロボットシステムによれば、
(1)ロボットが転倒防止機能と状況認識機能を備えたので、従来困難とされてきた天井内に自走式ロボットを入れることが可能になった。
(2)ロボットを扱い慣れていない操作者でも、比較的容易にロボットの操縦を行うことができるようになった。
(3)ロボットが転倒することによる時間のロスがなくなり、モニタリング作業の能率が著しく向上した。
(4)補助カメラが天井内の観察とロボットの捕捉を行うので、メンテナンス作業の前後における確認作業がきわめて容易になった、などの利点が得られ、その技術的価値には極めて顕著なものがある。
【符号の説明】
【0028】
10 天井
14 点検口
20 自走式ロボット
22 走行制御機構
24 カメラ
25,29 運動制御機構
26 姿勢センサ
28 補助カメラ
30 コンピュータ
32 モニター画面
38 環境センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井内を走行可能な自走式ロボットと、
前記ロボットに搭載された走行制御機構と、
前記ロボットに搭載された可動式のカメラと、
前記ロボットに搭載されロボットの傾斜角を検出可能な姿勢センサと、
天井点検口の付近に設置された可動式の補助カメラと、
前記ロボットと前記補助カメラとの間で無線通信可能なコンピュータとを備え、
前記コンピュータが前記ロボットと前記補助カメラからのデータを受信し、前記ロボットの前記走行制御機構に信号を送信して所定の向きと方向へと移動させるようになっており、
前記姿勢センサが検出した傾斜角が第1の設定値に達すると前記コンピュータから前記走行制御機構に減速信号が送信され、第2の設定値に達すると前記コンピュータから前記走行制御機構に停止信号が送信されるようになっており、
前記コンピュータのモニター画面に前記カメラが撮影した画像と前記補助カメラが撮影した画像とが概ね同時に表示されるようになっていることを特徴とする天井内モニタリングロボットシステム。
【請求項2】
前記ロボット上にさらに天井内の温度、湿度、風速、照度などを検出するための環境測定センサが搭載されている請求項1記載のロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136380(P2011−136380A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296269(P2009−296269)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】