説明

太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法

【課題】太陽電池の製造において、製造のための消費エネルギーの低減を図る。
【解決手段】シリコン基板上に不純物層を形成し、かつガラス基板にカーボンまたはカーボンを含む光吸収層を形成し、上記不純物層と上記光吸収層を密着させ、当該ガラス基板の方向から赤外レーザ光を照射することにより、光吸収層を加熱することにより、レーザ照射された箇所のシリコン基板に上記不純物を導入することを特徴とすることにより不純物の導入を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板または半導体薄膜上に不純物拡散剤とカーボン光吸収層を形成した試料構造に対し、赤外半導体レーザを照射して不純物導入を図ろうとする技術に関する。
特に、シリコン基板上に不純物層を設け、カーボンから成る光吸収層を介して赤外半導体レーザを照射して不純物導入を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンをベースとしたダイオード、トランジスタ等の半導体素子および集積回路は、シリコン基板中に適度な濃度で不純物を導入しPN接合を形成する工程を経て作製される。
【0003】
不純物導入法としては、(1)850〜950℃に保ったシリコン基板上に、不純物ガスを送ることで不純物を拡散する方法、(2)シリコン基板表面に不純物を含んだ拡散剤を堆積し、次いで900〜1200℃の高温中で不純物をドーピングする方法、及び(3)不純物イオンを加速電圧を使って打ち込む方法(イオンビーム法)等が確立されている。
【0004】
(1)および(2)はもちろんのこと、(3)の方法においても不純物導入後にはアニールを必要とする。それは、不純物導入による結晶性の乱れ、特にイオン打ち込みによって結晶性が破壊されたシリコン表面を再結晶化することと、不純物を電気的に活性化するためである。従来のアニールとしては電気炉を用いて1000℃〜800℃の高温で2〜20時間加熱する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
あるいはパルスレーザを用いて半導体薄膜を短時間溶融して固化結晶化する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、レーザ光を用いてエネルギー効率を高めたアニールを行なうため、カーボンから成る光吸収層を介して被処理材を加熱する技術が知られている(例えば特許文献3)。
【0006】
さらに、ガラス基板上の薄膜シリコンへのレーザードーピングにエキシマレーザが使用される技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。これは、シリコンは長波長の光に比べて短波長の光を吸収することから、シリコン薄膜の結晶化、不純物の活性化などの熱処理には、パルス紫外光を発振するエキシマレーザ装置が適しているからである。
【特許文献1】特開2001−210631号公報
【特許文献2】特開2004−311615号公報
【特許文献3】特開2007−115927号公報
【特許文献4】特開2004−158564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1記載の技術にあっては、高温長時間の加熱を必要とし、エネルギー消費が大きいという問題がある。一方、例えば特許文献2記載の技術のように、レーザ光の電磁波を使用する方法では、被処理剤の反射によってエネルギー効率が悪いという問題がある。
【0008】
そこでこの問題を解決するために、特許文献3記載の技術では、被処理剤の上に光吸収効率の良いカーボン層を設け、そのカーボン層を介してレーザを照射することによりエネルギー効率を改善したレーザアニール技術が開示されている。しかし、特許文献3記載の技術はアニールを目的とした技術であり、不純物導入を目的とした技術ではない。
【0009】
また、エキシマレーザは不純物導入とシリコンの熱処理には大変都合が良いが、一方で、装置の大型化、レーザ発振に用いられるガスの交換サイクルが短いこと、及びそれに伴う光学系の調整等メンテナンスに多くの経費と時間がかかることも指摘されている。
【0010】
上記した不純物導入法やアニール技術は、結晶シリコン太陽電池製造のPN接合作成工程にも、広く用いられているが、数時間にわたる高温加熱手段を必要とし、また装置の大型化に伴うエネルギー消費の問題がある。このことは、製造工程中に温暖化ガスの排出を増加させることを意味する。温暖化ガスの排出を低減するために用いられる太陽電池の製造のために多くの温暖化ガスを排出するというのでは、太陽電池の普及の意味を成さない。そこで、太陽電池の製造においては低コスト化と、特に製造のために必要とされる温暖化ガスの排出を可能な限り低減して、トータル的に地球環境改善に資する技術の創出が望まれている。すなわち太陽電池製造のための省エネルギー化が必要である。このため、エキシマレーザ装置に代わる、安価、メンテナンスフリー、高出力、長寿命、高安定なレーザ光源が活用できると大変都合が良い。
【0011】
そこで、本発明は、このような優れた特長を持つ赤外半導体レーザに着目し、結晶シリコン太陽電池に要求されるドープ拡散層を赤外レーザを用いて安価な方法で形成することを課題とする。また、シリコンは紫外域から赤外域までの光に対する表面反射ロスが、紫外域では60%以上、赤外域では30%以上と大変高い。すなわち照射するレーザーエネルギーの有効利用という観点から、シリコン表面での光反射率の低減ということも重要な課題である。そこで、本発明は、このような優れた特長を持つ赤外半導体レーザによって、結晶シリコン太陽電池に要求されるドープ拡散層を安価な方法で形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法は、シリコン基板上に不純物層を形成するステップと、透明板にカーボンまたはカーボンを含む光吸収層を形成するステップと、上記不純物層と上記光吸収層を密着させるステップと、当該透明板の方向から赤外レーザ光を照射することにより、当該光吸収層を加熱するステップとからなり、レーザ照射された箇所のシリコン基板に上記不純物を導入することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上述の太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法において、前記光吸収層を形成するステップは、カーボン微粒子を含む水性インクを上記透明板に塗布し、焼成によって皮膜形成するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上述のカーボン微粒子を含む水性インクを上記透明板に塗布するステップにおいて、上記塗布される透明板の温度が15℃以上とすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上述のシリコン基板上に不純物層を形成するステップは、五酸化二燐(P2O5)を20wt%以上含有する溶液または三酸化ホウ素(B2O3)を5wt%以上含有する溶液を当該シリコン基板上にコーティングするステップとそれを焼結するステップとを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は上述のカーボンまたはカーボンを含む光吸収層の膜厚は0.3〜3μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるレーザードーピング技術を、結晶シリコン太陽電池の製造工程に用いることによって、既存の電気炉による長時間・高温加熱の不純物導入方法よりも、はるかに少ないエネルギー投入量によってPN接合が形成できる。また、短時間加熱プロセス故にスループットの向上が期待でき、太陽電池製造コストの低減につながる。
また、近年低コストかつ大出力(>10kW)化がなされている、赤外半導体レーザは、高光変換効率(〜50%)、メンテナンスフリー、長寿命という特長を備えているため、シリコン半導体素子の作製プロセスにおいて、エキシマレーザよりもはるかに優れた省エネ効果、低コスト化が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1(A)は、本発明の半導体への不純物導入を実施する方法に係る構成の概略断面図である。図1(A)において、10cm×10cmのp型多結晶シリコン基板1上に、五酸化二リン25wt%を含有する液体型不純物拡散剤を、スピンコータによって回転数4000rpmで塗布し、ホットプレート上で200℃、30分間加熱焼成処理することで膜厚150nmの不純物拡散剤膜2を形成した。そして、それとは別に厚さ500μmの透明ガラス基板4に親水カーボンインクをスピンコータによって回転数1000rpmで塗布し、その後ホットプレート上で200℃、30分間焼成を行なうことで膜厚1000nmのカーボン膜3を形成した。次に図1〈B〉に示すように、不純物拡散剤膜2が形成されたp型多結晶シリコン1上の不純物拡散剤膜2に、カーボン膜3が接触するようにカーボン膜形成ガラス基板4を密着させ、熱処理用のサンプル5を作成した。次に、図2に示すようにサンプル5のカーボン層と不純物層の両者を、半値幅が180μmのガウス型強度分布を有する赤外レーザ照射装置上10でずれることのないようにしっかりとX−Yステージ9上に固定し、赤外レーザビームを照射した。赤外レーザービームは図2に示すように、赤外レーザ光源6からの赤外レーザー光を光ファイバー7により導き、レンズ8により焦点されて、不純物層2を加熱する。このとき赤外レーザービームの光強度を84kW/cm2として、Y軸方向への速度15cm/s、X方向への送りピッチを50μmという条件で10cm×10cmウェハの全体にレーザービームの照射を行なった。
【0019】
レーザ照射後、純水によりカーボン膜3を除去し、続いて5%の希フッ酸により不純物拡散剤膜を除去した。不純物ドープ層に電極を形成してシート抵抗を測定したところ、130Ω/□の値となった。基板中のリン原子の濃度プロファイルを二次イオン質量分析法によって測定したところ、基板深さ250〜300nmの位置にPN接合が形成されたことが分かった。また、ドープ層表面と基板裏面にアルミ電極を形成し、-1.0〜1.0Vの電圧を印加したところ、PN接合ダイオードの特性が確認された。
【0020】
尚、図4に示すように、10cm×10cmのp型多結晶シリコン基板1上に、五酸化二リン25wt%を含有する液体型不純物拡散剤を、スピンコータによって回転数4000rpmで塗布し、ホットプレート上で200℃、30分間加熱焼成処理することで膜厚150nmの不純物拡散剤膜2を形成し、その後カーボンを含む層3を不純物拡散層の上に形成するため、親水カーボンインクをスピンコータによって回転数1000rpmで、不純物拡散剤膜2上に塗布する方法もある。しかしこの方法では親水カーボンインクによって不純物拡散層表面が浸食される場合があることが判明し、工程は簡単ではあるが、実際に適用するには解決すべき問題がある。
【0021】
「実施例2」
次に、4インチφのn型単結晶シリコン基板上に、三酸化二ボロンを5wt%を含有する液体型不純物拡散剤を、スピンコータによって回転数4000rpmで塗布し、ホットプレート上で200℃、30分間加熱焼成処理をし、膜厚150nmとした。そして、実施例1のときと同様に、厚さ500μmのガラス基板に親水カーボンインクをスピンコータによって回転数1000rpmで塗布し、その後ホットプレート上で200℃、30分間焼成を行ない膜厚を1000nmとした。三酸化二ボロン膜が形成されたn型単結晶シリコン上の不純物層2に、カーボン膜3が接触するようにカーボン膜形成ガラス基板4を密着させ、熱処理用のサンプル5を作成した。図2に示すようにサンプル5のカーボン層3と不純物層2の両者がレーザ照射装置10上でずれることのないように、しっかりとX−Yステージ上に固定し、実施例1と同様に赤外レーザビームを照射した。実施例1と同様に、レーザービームの光強度を84kW/cm2の下で、Y軸方向への速度15cm/s、X方向への送りピッチを50μmという条件で4インチφウェハの全体にレーザービームの照射を行なった。
【0022】
レーザ照射後、純水によりカーボン膜を除去し、続いて5%の希フッ酸により不純物拡散剤膜を除去した。不純物ドープ層に電極を形成してシート抵抗を測定したところ、300Ω/□の値となった。また、ドープ層表面と基板裏面にアルミ電極を形成し、-1.0〜1.0Vの電圧を印加したところ、PN接合ダイオードの特性が確認された。
【0023】
ここで、実施例1及び2において、カーボン微粒子を含む水性インクは、スピンコータによって被塗布面であるガラス基板4に均一膜厚になるよう塗布する必要がある。そのためにガラス基板には予め親水化処理を施すが、10℃以下の低温下では、水の表面張力が極めて大きくなることから、ガラス基板面にカーボン水溶液膜が均一に付着しないこともある。そこで、上記カーボンインクを塗布する工程は、カーボンインクが塗布されるガラス基板の温度を15℃以上として水の表面張力を低減して行なうことが重要である。
【0024】
レーザードーピングによる不純物導入の特徴の一つとして、形成されるPN接合は比較的浅い位置、すなわちシリコン基板表面から、せいぜい数百ナノメートルの深さである。太陽電池のPN接合深さは浅い方が有利な場合がある。なぜならば、太陽電池における光吸収の殆どは深さ1μm以内の比較的浅い領域で起こり、特にPN接合近辺で光吸収により発生したフォトキャリアが発電に大きく寄与するためである。しかしその半面、接合位置が浅いということは、ドープ層のシート抵抗の増大を招き変換効率の低下につながる。そこで、PN接合深さは浅くても、不純物導入層のシート抵抗を低くすべく、高濃度不純物を導入することが必要がある。そのため本発明の実施例では、シリコン基板上1に不純物層2を形成する工程においては、五酸化二燐(P2O5)を20wt%以上含有する溶液または三酸化ホウ素(B2O3)を5wt%以上含有する溶液を塗布し、焼成によって不純物層皮膜を形成した。
【0025】
一方、光吸収層3として用いられるカーボン膜は、膜厚が薄すぎると赤外レーザ光を十分に吸収することができず、シリコン表面を十分に加熱することができない。また、カーボン膜厚3が必要以上に厚すぎると、光吸収に寄与した表面近くのカーボンで発生した熱が、光吸収に寄与しなかったカーボンをも加熱することとなり、結果的にシリコン表面への加熱効率が悪くなる。そこで、実施例1及び2において、レーザードーピングに適切なカーボン膜厚を0.3〜3μmとした。
【0026】
レーザ照射後、純水によりカーボン膜を除去し、続いて5%の希フッ酸により不純物拡散剤膜を除去した。不純物ドープ層に電極を形成してシート抵抗を測定したところ、1.0kΩ/□の値となった。また、ドープ層表面と基板裏面にアルミ電極を形成し、-1.0〜1.0Vの電圧を印加したところ、図3に示すPN接合ダイオードの特性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)(B)本発明において、赤外半導体レーザを照射することによって、半導体シリコン基板への不純物ドーピングを可能とする請求項1に関わる試料構造である。
【図2】本発明において、実施例1、2に用いられる赤外半導体レーザ照射による不純物導入のための装置の概略図である。
【図3】本発明のレーザードーピング法において、実施例1により作製されたPN接合ダイオードの電流電圧特性である。
【図4】本発明を適用する前段階で試作した試料の形状を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上に不純物層を形成するステップと、透明板にカーボンまたはカーボンを含む光吸収層を形成するステップと、上記不純物層と上記光吸収層を密着させるステップと、当該透明板の方向から赤外レーザ光を照射することにより、当該光吸収層を加熱するステップとからなり、レーザ照射された箇所のシリコン基板に上記不純物を導入することを特徴とする太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法
【請求項2】
前記光吸収層を形成するステップは、カーボン微粒子を含む水性インクを上記透明板に塗布し、焼成によって皮膜形成するステップをさらに含む請求項1記載の太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法
【請求項3】
カーボン微粒子を含む水性インクを上記透明板に塗布するステップにおいて、上記塗布される透明板の温度が15℃以上とすることを特徴とする請求項2記載の太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法
【請求項4】
シリコン基板上に不純物層を形成するステップは、五酸化二燐(P2O5)を20wt%以上含有する溶液または三酸化ホウ素(B2O3)を5wt%以上含有する溶液を当該シリコン基板上にコーティングするステップとそれを焼結するステップとを含むことを特徴とする請求項1記載の太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法
【請求項5】
請求項1に記載のカーボンまたはカーボンを含む光吸収層の膜厚は0.3〜3μmであることを特徴とする太陽光発電に用いられる半導体への不純物導入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−3834(P2010−3834A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160886(P2008−160886)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】