説明

太陽電池、及び太陽電池の製造方法

【課題】開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.を増加させ、結果的に変換効率を増加させることができる太陽電池を提供すること。
【解決手段】本発明の太陽電池は、p型半導体層と、下記化学式(1)で表される化合物を含み、p型半導体層上に形成されたn型半導体層と、を備える。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、及び太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
普及が進んできているバルク結晶シリコン太陽電池に替わって、薄膜状の半導体層を光吸収層として用いる薄膜太陽電池の開発が進んでいる。中でも、Ib族とIIIb族とVIb族とを含むp型の化合物半導体層を光吸収層とする薄膜太陽電池は、高いエネルギー変換効率を示し、光による劣化の影響を受け難いことから、次世代の太陽電池として期待されている(下記特許文献1〜7及び非特許文献1参照)。具体的には、Cu、In及びSeからなるCuInSe(以下、「CIS」と記す。)、又はCISにおいてIIIb族であるInの一部をGaで置換したCu(In1−a,Ga)Se(以下、「CIGS」と記す。)を光吸収層とする薄膜太陽電池において、高い変換効率が得られている(下記非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3249342号公報
【特許文献2】特許3837114号公報
【特許文献3】特許3434259号公報
【特許文献4】特表2006−525671号公報
【特許文献5】特許3468328号公報
【特許文献6】特許3337494号公報
【特許文献7】特開2004−047916号公報
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar cells 67 (2001):83−88
【非特許文献2】Prog.Photovolt:Res.Appl.(2008),16:235−239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、CIGSから構成されるp型半導体層(以下、「p−CIGS層」と記す。)を光吸収層として備える薄膜太陽電池(以下、「CIGS太陽電池」と記す。)は、基体となるソーダライムガラス上にモリブデン裏面電極(正極)、p−CIGS層、n型バッファ層(n型半導体層)、半絶縁層、透明導電層及び取り出し電極(負極)が順次積層された構造を有する。このようなCIGS太陽電池の変換効率ηは、下記式(A)で表される。
η=Voc・Isc・F.F./Pin×100 (A)
上記式(A)中、Vocは開放電圧であり、Iscは短絡電流であり、F.F.は曲線因子であり、Pinは入射パワー密度である。
【0005】
上記式(A)から明らかなように、開放電圧、短絡電流及び曲線因子をそれぞれ増加させることができれば、変換効率が向上する。一般にpn接合型太陽電池において、p型光吸収層、n型バッファ層それぞれのバンドギャップ(Eg)が大きいほど、開放電圧も大きくなる傾向がある。一方、短絡電流は、主にp型光吸収層の量子効率によって決まる。p型光吸収層のEgが小さい程、より長い波長の光がp型光吸収層に吸収されるため、短絡電流が増加する傾向がある。このように、開放電圧と短絡電流はトレード・オフの関係にある。両者を両立させるためのp型光吸収層のEgの最適値は、太陽光スペクトルとの相関から、1.4〜1.5eVとされている。したがって、p型光吸収層のEgを1.4〜1.5eVに制御することが望まれる。
【0006】
p−CIGS層のEgは、IIIb族元素であるInとGaのモル比を変調することで制御することができる。例えばCu(In1−a,Ga)Seにおいて、aを0から1まで変調すると、Egを1.04eVから1.68eVまで拡大することができる。そして、p−CIGS層のEgを最適値である1.4〜1.5eVにする場合、aを0.5〜0.8とすれば良い。
【0007】
しかしながら、現在のところ最も高い変換効率が得られるp−CIGS層では、aが0.2〜0.3、即ちモル比Ga/(In+Ga)が0.2〜0.3であり、Egは1.2〜1.3eVである。したがって、太陽電池の変換効率を上げるために、Egを最適値の1.4〜1.5eVまで拡大する余地がある。しかし、Ga/(In+Ga)を増加させ、Egを拡大すると、上述した傾向とは逆に、逆方向飽和電流が増加して開放電圧が下がり、変換効率が低下してしまう。この原因の一つは、pn接合界面におけるp型光吸収層の伝導帯底部のエネルギー準位(以下、「CBM」(Conduction band minimum)と記す。)とn型バッファ層のCBMとの差の増大にある、という報告がある(上記非特許文献1参照)。なお、以下では、pn接合界面におけるn型バッファ層のCBMからp型光吸収層のCBMを引いた値を「CBMオフセット」と記す。
【0008】
一般的に、CIGS太陽電池は、硫化カドミウム(CdS)から構成されるn型バッファ層を備える。このようなCIGS太陽電池では、p−CIGS層をワイドギャップ化するためにGa/(In+Ga)を0.5以上にすると、図3Bに示すように、CBMオフセットΔEが負となる。すなわちp−CIGS層のCBMがn型バッファ層のCBMより大きくなる。このようなバンド構造の場合、pn接合界面の欠陥準位Eを介して、多数キャリアの再結合が増加し、開放電圧が大きく低下してしまう。したがって、開放電圧の低下を抑制するためには、CBMオフセットが負にならないように、p−CIGS層のCBMとn型バッファ層のCBMを整合させる必要がある。一方、CBMオフセットを正にした場合、CBMオフセットが光生成キャリアの障壁として働く。この障壁が大きくなり過ぎると、取り出せるキャリアの数が減少してしまい、短絡電流が著しく低下してしまう。短絡電流の低下を引き起こすCBMオフセットは、シミュレーションによれば+0.4eV程度である。したがって、開放電圧と短絡電流を両立させるための適切なCBMオフセットは0〜+0.4eV程度である。
【0009】
以上の事情から、ワイドギャップ化したp−CIGS層のCBMとn型バッファ層のCBMオフセットが最適化されるように両層のバンドアライメントを行うことにより、変換効率を向上させることが望まれる。本発明者らは、CdS以外の物質から構成されるn型バッファ層を用いることにより、変換効率を向上させる可能性がある、と考えた。しかし、本発明者らは、CdS以外の物質として、従来知られている物質をn型バッファ層に用いた場合、以下のような問題があることを見出した。
【0010】
上記特許文献1では、化学溶液成長法(CBD法)を用いて、Zn(S,O,OH)から構成されるn型バッファ層を形成することが提案されている。この場合、人体に有害なカドミウムを使わずにn型バッファ層を形成することが可能である。しかし、Zn(S,O,OH)から構成されるn型バッファ層を形成する場合、CdSの場合と同様に化学溶液成長法を用いるため、n型バッファ層中に不純物が混入し易く、デバイス設計上重要な要素であるキャリア密度の制御が困難である。また化学溶液成長法ではn型バッファ層中のSとOのモル比を制御し難いため、CBMオフセットを最適化することが困難である。さらに、n型バッファ層の形成時にp−CIGS層が大気や溶液に曝され、p−CIGS層の酸化又は汚染が起こるため、pn接合界面近傍に欠陥が生じてしまう。また、太陽電池のような大面積デバイスの製造のためには大量の化学溶液を必要とする上、n型バッファ層の形成に用いた化学溶液は再利用できないため、化学溶液の購入、廃液処理に膨大なコストがかかってしまう。
【0011】
上記特許文献2では、ZnMgOから構成されるn型バッファ層が提案されている。ZnMgOのバンドギャップは、モル比Zn/Mgによって制御できる。しかし、MgOが岩塩構造を有するため、適切なバンドアライメントを得るためにMgの比率を増加させるほど、ZnMgOの結晶性が著しく劣化してしまう。また、MgOのイオン結合性が非常に高いため、ZnMgOへの不純物の添加によってキャリア密度を制御することは困難である。さらに、ZnMgOは、その潮解性が高く、化学的に不安定な材料であるため、n型バッファ層を構成する物質としての信頼性に劣る。
【0012】
以上のように、CdS以外の物質をn型バッファ層に用いた場合であっても、所望の太陽電池を得ることは困難であった。そのため、CdSから構成されるn型バッファ層を備えるCIGS太陽電池を超える変換効率は達成されていない。
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、従来の太陽電池に比べて、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.を増加させ、結果的に変換効率を増加させることができる太陽電池、及び太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る太陽電池は、p型半導体層と、下記化学式(1)で表される化合物を含み、p型半導体層上に形成されたn型半導体層と、を備える。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]
【0015】
上記本発明によれば、従来のn型半導体層を備える太陽電池に比べて、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.を増加させ、結果的に変換効率を増加させることが可能となる。本発明者らは、上記の組成を有するn型半導体層とp型半導体層を用いてpn接合を形成することによって、CBMオフセットが最適化されたバンドアライメントが達成される結果、本発明の効果が得られる、と考える。
【0016】
上記本発明では、p型半導体層が、Cu、In、Ga及びSeを含むことが好ましい。これにより、本発明の効果が顕著となる。
【0017】
本発明に係る太陽電池の第一の製造方法は、p型半導体層を形成する工程と、酸素を含む雰囲気中での蒸着法により、上記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層をp型半導体層上に形成する工程と、を備える。
【0018】
本発明に係る太陽電池の第二の製造方法は、p型半導体層を形成する工程と、酸素を含む雰囲気中でのスパッタリング法により、上記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層をp型半導体層上に形成する工程と、を備える。
【0019】
本発明に係る太陽電池の第三の製造方法は、p型半導体層を形成する工程と、スパッタリング法により、Zn及びSeを含み、Sの含有率が0mol%以上である前駆体層をp型半導体層上に形成する工程と、酸素を含む雰囲気中で前駆体層を加熱することにより、上記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層をp型半導体層上に形成する工程と、を備える。
【0020】
上記第一、二及び三の製造方法によれば、上記本発明に係る太陽電池を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の太陽電池に比べて、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.を増加させ、結果的に変換効率を増加させることができる太陽電池、及び太陽電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池の概略断面図である。
【図2】ZnS、ZnO、ZnSe、p−CIGS、CdSそれぞれのバンド構造の概略図である。
【図3】図3Aは、本発明の一実施形態に係る太陽電池のバンド構造の概略図であり、図3Bは、CdSから構成されるn型バッファ層を備える従来の太陽電池のバンド構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。なお、図面において、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りである。また、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0024】
(太陽電池)
図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池2は、ソーダライムガラス4(青板ガラス)と、ソーダライムガラス4上に形成された裏面電極層6と、裏面電極層6上に形成されたp型光吸収層8(p型半導体層)と、p型光吸収層8上に形成されたn型バッファ層10(n型半導体層)と、n型バッファ層10上に形成された半絶縁層12と、半絶縁層12上に形成された窓層14(透明導電層)と、窓層14上に形成された上部電極16(取り出し電極)と、を備える薄膜型太陽電池である。
【0025】
p型光吸収層8は、Ib族元素、IIIb族元素及びVIb元素を含むことが好ましい。本実施形態では、Cu、Ag又はAu等のIb族元素の中でもCuを用いることが好ましい。また、B、Al、Ga、In又はTl等のIIIb族元素の中でもIn及びGaを用いることが好ましい。また、O、S、Se又はTe等のVI族元素の中でもSeを用いることが好ましい。
【0026】
Ib族元素がCuであり、IIIb族元素がIn及びGaであり、VI族元素がSeであることにより、p型光吸収層8をp−CIGS層とすることが可能となる。
【0027】
p−CIGS層では、InとGaとのモル比を調整することにより、禁制帯幅Egを1.0〜1.6eVの範囲内で制御することが可能であり、また光吸収係数を10cm−1より大きくすることが可能である。このようなp−CIGS層を備える太陽電池では、高い変換効率を実現することが可能となる。
【0028】
以下では、p型光吸収層8がp−CIGS層である場合について説明する。
【0029】
n型バッファ層10は、下記化学式(1)で表される化合物から構成される。
ZnO1−x−ySe (1)
【0030】
化学式(1)中、x≧0であり、y>0であり、0.2<x+y<0.65である。すなわち、本実施形態において、n型バッファ層10は、ZnO、ZnS及びZnSeが(1−x−y):x:yのモル比で混在する混晶である。
【0031】
本実施形態では、n型バッファ層10を上記化学式(1)で表される化合物から構成することによって、以下に説明するように、CBMオフセットを最適化することが可能となる。
【0032】
図2に示すように、ZnS及びZnSeの各CBM(E)は、p−CIGSのCBMより高い。一方、ZnOのCBMはp−CIGSのCBMより低い。そのため、ZnO1−x−ySeで表される化合物において、S及びSeによるOの置換率(x+y)を0.2より大きく0.65より小さい範囲内で調整することにより、ZnO1−x−ySeのCBMを、ZnS及びZnSeの各CBMとZnOのCBMとの間で自在に制御することが可能となる。そのため、本実施形態では、p−CIGS層8のEgを1.4〜1.5eV程度にワイドギャップ化した場合であっても、p−CIGS層8とn型バッファ層10のCBMオフセットが最適化されたバンドアライメントが達成される。例えば、本実施形態では、図3Aに示すように、CBMオフセットΔEを正とすることが可能であり、CBMオフセットΔEを最適値の0〜+0.4eV程度に制御することも可能である。CBMオフセットΔEが最適化されると、pn接合界面の欠陥準位Eを介した多数キャリアの再結合が抑制されると共に、CBMオフセットΔEが光生成キャリアの障壁となり難い。その結果、本実施形態では、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.を増加させ、変換効率を向上させることが可能となる。
【0033】
x+yが小さ過ぎる場合、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.が低下し、結果として変換効率が低下する傾向がある。x+yが大き過ぎる場合、開放電圧、短絡電流及び曲線因子F.F.が低下し、結果として変換効率が低下する傾向がある。本実施形態では、0.2<x+y<0.65であるため、これらの傾向を抑制することができる。
【0034】
(太陽電池の製造方法)
本実施形態では、まず、ソーダライムガラス4上に裏面電極層6を形成する。裏面電極層6は、通常、Moから構成される金属層である。裏面電極層6の形成方法としては、例えばMoターゲットのスパッタリング等が挙げられる。
【0035】
ソーダライムガラス4上に裏面電極層6を形成した後、p−CIGS層8を裏面電極層6上に形成する。p−CIGS層8の形成方法としては、一段階同時蒸着法(ワンステップ法)、三段階同時蒸着法(NREL法)、固相セレン化法又は気相セレン化法等が挙げられる。
【0036】
p−CIGS層8の形成後、n型バッファ層10をp−CIGS層8上に形成する。n型バッファ層の形成方法としては、以下に示すように、第一、第二又は第三の方法が挙げられる。
【0037】
第一の方法では、酸素を含む雰囲気中での蒸着法により、n型バッファ層10をp−CIGS層8上に形成する。第一の方法の具体例としては、ソーダライムガラス4、裏面電極層6及びp−CIGS層8を備える積層体(以下、「基板」と記す。)を、蒸着装置内に設置し、装置内へ酸素ガスを供給しながら、装置内でZnSペレット及びZnSeペレットにそれぞれ電子ビームを照射し、発生したZnS及びZnSeの蒸気を酸素と共にp−CIGS層の表面に蒸着させる方法が挙げられる。これにより、n型バッファ層10が形成される。なお、第一の方法では、Zn単体から構成されるペレット、S単体から構成されるペレット及びSe単体から構成されるペレットをそれぞれ個別に蒸発させてもよい。
【0038】
第一の方法では、蒸着装置内へ供給する酸素ガスの量又は各ペレットの蒸着量を調整することにより、n型バッファ層10の組成を上記化学式(1)で表される範囲内で適宜制御することが可能となる。
【0039】
第一の方法では、基板の温度を100〜400℃とすることが好ましく、200〜300℃とすることがより好ましい。基板の温度が低過ぎる場合、n型バッファ層がp−CIGS層8から剥がれ易い傾向があり、また、n型バッファ層10の結晶性が劣り、良好な太陽電池特性を得にくい傾向がある。一方、基板の温度が高過ぎる場合、基板及びn型バッファ層が軟化して変形したり、溶解したりする傾向があり、また、成膜速度が著しく低下する傾向がある。これらの傾向は、基板の温度を上記の範囲内とすることにより抑制することができる。
【0040】
第二の方法では、酸素を含む雰囲気中でのスパッタリング法を用いて、n型バッファ層10をp−CIGS層8上に形成する。
【0041】
第三の方法では、スパッタリング法を用いて、Zn及びSeを含み、Sの含有率が0mol%以上である前駆体層をp−CIGS層8上に形成した後、酸素を含む雰囲気中で前駆体層を加熱する。これにより、前駆体層が酸化され、n型バッファ層10となる。
【0042】
上記第一の方法では、ZnS、ZnSe及び酸素ガスを別々に基板へ供給できるため、n型バッファ層10の組成を変調し易く、グレーテッド層を作ることが可能となる。したがって、第一の方法では、前駆体層を酸素雰囲気中で加熱する必要がある第三の方法に比べて、CBMオフセットが最適化されたバンドアライメントを容易に達成できる。また第一の方法では、スパッタリング法を用いる第二及び三の方法とは異なり、p−CIGS層8がスパッタリング時に生成するプラズマによって損傷を受けることがないため、太陽電池2におけるpn接合界面で欠陥準位が形成され難い。
【0043】
上記第二の方法では、第一の方法と同様に、ZnS、ZnSe及び酸素ガスを別々に基板へ供給できるため、n型バッファ層の組成を変調し易い。
【0044】
上記第三の方法では、スパッタリング時に酸素ガスを基板へ供給する機構が不要であるため、簡単な設備でn型バッファ層を作成することが可能である。また、上記第三の方法では、スパッタリング後に得られる前駆体層を酸化するため、上記第一及び第二の方法に比べて、n型バッファ層の表面で酸素がリッチになる。そのため、第三の方法は、n型バッファ層が薄い場合、又はn型バッファ層10における酸素のモル比(1−x−y)を大きくする場合に好適である。
【0045】
従来の化学溶液成長法でn型バッファ層を形成する場合、pn接合界面に混入した不純物が、欠陥準位の形成及び欠陥準位における再結合の原因となるが、上記第一、第二及び第三の方法では、化学溶液成長法に比べて、不純物による界面の汚染が防止され、キャリア密度の制御が容易となる。さらに、上記第一、第二及び第三の方法では、化学溶液成長法で必須となる化学溶液が不要であるため、化学溶液の購入、廃液に関するコストも不要となる。
【0046】
本実施形態では、第一又は第二の方法が好ましく、第一の方法が最も好ましい。第一の方法を用いた場合、本発明の効果が顕著となる。
【0047】
n型バッファ層10の形成後、n型バッファ層10上に半絶縁層12を形成し、半絶縁層12上に窓層14を形成し、窓層14上に上部電極16を形成する。これにより、太陽電池2が得られる。なお、窓層14上にMgFから構成される反射防止層を形成してもよい。
【0048】
半絶縁層12としては、例えばZnO層等が挙げられる。窓層14としては、例えばZnO:B又はZnO:Al等が挙げられる。上部電極16は例えばAl又はNi等の金属から構成される。半絶縁層12、窓層14及び上部電極16は、例えばスパッタリング又はMOCVD等によって形成することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)(S,Se)、CuInSe、CuGaSe、Cu(In,Ga)Se、又はCu(In,Ga)(S,Se)、CuAlSe、Cu(In,Al)Se、Cu(Ga,Al)Se、AgInSe、Ag(In,Ga)Se又はCuZnSnS等から構成されるn型半導体層8を備える太陽電池においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
縦10cm×横10cm×厚さ1mmの青板ガラスを洗浄乾燥した後、Mo単体から構成される膜状の裏面電極をスパッタリングにより青板ガラス上に形成した。裏面電極の膜厚は1μmとした。
【0053】
青板ガラス上に形成された裏面電極をスパッタリング装置のチャンバー内に設置し、チャンバー内を脱気した。そして、スパッタリング工程において、Arガス(スパッタリングガス)をチャンバー内に供給し続けながら、Gaの含有率が40原子%であるCuGa合金から構成されるターゲットをチャンバー内でスパッタした後、Inメタルから構成されるターゲットをスパッタした。このスパッタリング工程により、CuGa合金層を裏面電極上に形成し、In層をCuGa合金層上に形成した。このようにして、CuGa合金層とCuGa合金層上に形成されたIn層とから構成される層(CuGa−In層)を得た。
【0054】
なお、スパッタリング工程では、CuGa合金層の厚さを700nmとし、In層の厚さを300nmとした。また、スパッタリング工程では、青板ガラス及び裏面電極の温度を200℃とし、チャンバー内の気圧を1Paとした。
【0055】
CuGa−In層の形成後、熱処理工程において、550℃のHSe雰囲気中でCuGa−In層を1時間加熱した。これにより、厚さが1μmであり、CuIn0.4Ga0.6Seで表される組成を有するp型半導体層(p−CIGS層)を形成した。
【0056】
p−CIGS層の形成後、上述した第一の方法(以下、「蒸着法」と記す。)を用いて、表1に示す組成を有するn型バッファ層をp−CIGS層上に形成した。
【0057】
蒸着法では、ソーダライムガラス、裏面電極層及びp−CIGS層を備える積層体(基板)と、亜鉛とセレンの供給源であるZnSeペレットを、蒸着装置のチャンバー内に設置した。また、酸素の供給源としてOガス配管をチャンバー内の基板近くに設置した。そして、基板の温度を300℃に維持した状態で、Oガスを40sccmで基板へ供給しながら、ZnSeペレットに電子ビームを照射し、Zn、Se及びOをp−CIGS層の表面に蒸着させた。これにより、n型バッファ層を得た。n型バッファ層の厚さは100nmとした。n型バッファ層におけるOとSeのモル比(1−y)/yは、Oガスの供給量により制御した。
【0058】
n型バッファ層の形成後、50nmの厚さのi−ZnO層(半絶縁層)をn型バッファ層上に形成した。1μmの厚さのZnO:Al層(窓層)をi−ZnO層上に形成した。Alから構成され、500nmの厚さの集電電極(上部電極)を、ZnO:Al層上に形成した。i−ZnO層、ZnO:Al層及び集電電極は、それぞれスパッタリングにより形成した。これにより、実施例1の薄膜型太陽電池を得た。
【0059】
(実施例2)
蒸着法の代わりに、上述した第二の方法(以下、「スパッタ法」と記す。)を用いて、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の薄膜型太陽電池を得た。
【0060】
スパッタ法では、上記基板と、亜鉛とセレンの供給源であるZnSeターゲットを、スパッタ装置のチャンバー内に設置した。また、酸素の供給源としてOガス配管をチャンバー内の基板近くに設置した。そして、基板の温度を300℃に維持した状態で、Arガスを50sccmで基板へ供給し、且つOガスを40sccmで基板へ供給しながら、高周波電力を用いたRFマグネトロンスパッタリングを行うにより、n型バッファ層をp−CIGS層上に形成した。n型バッファ層の厚さは100nmとした。n型バッファ層におけるOとSeのモル比(1−y)/yは、Oガスの供給量により制御した。
【0061】
(実施例3)
蒸着法の代わりに、上述した第三の方法(以下、「酸化法」と記す。)を用いて、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の薄膜型太陽電池を得た。
【0062】
酸化法では、上記基板と、亜鉛とセレンの供給源であるZnSeターゲットを、スパッタ装置のチャンバー内に設置した。そして、基板の温度を200℃に維持した状態で、Arガスを50sccmで基板へ供給しながら、高周波電力を用いたRFマグネトロンスパッタリングを行うにより、n型バッファ層の前駆体層(ZnSeから構成される層)をp−CIGS層上に形成した。n型バッファ層の前駆体層の厚さは100nmとした。
【0063】
n型バッファ層の前駆体層が形成された基板を熱処理炉内へ移し、ArガスとOガスを熱処理炉内へ供給しながら、n型バッファ層の前駆体層を30分間熱処理した。これにより、n型バッファ層を得た。熱処理炉内へ供給するOガスとArガスの流量比O/Arを0.3とし、熱処理の温度を400℃とした。n型バッファ層におけるOとSeのモル比(1−y)/yは、流量比O/Arにより制御した。
【0064】
(実施例4)
蒸着法において、Oガスを15sccmで基板へ供給することにより、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の薄膜型太陽電池を得た。
【0065】
(実施例5)
p型半導体層として、p−CIGS層の代わりに、CuZnSnSから構成される層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の薄膜型太陽電池を得た。
【0066】
CuZnSnS層の形成では、青板ガラス上に形成された裏面電極、CuSターゲット、ZnSターゲット及びSnSターゲットを、スパッタ装置のチャンバー内に設置した。そして、Ar雰囲気中で各ターゲットを用いた三元同時RFマグネトロンスパッタリングを行った。これにより、Cu、Zn、Sn及びSを含み、厚さが1μmである層(以下、「Cu−Zn−Sn−S層」と記す。)を裏面電極上に形成した。スパッタリング時の裏面電極の温度は300℃とした。スパッタリング後、Cu−Zn−Sn−S層をHS雰囲気中で1時間熱処理した。熱処理の温度は550℃とした。これにより、CuZnSnSから構成されるp型半導体層を得た。
【0067】
(実施例6)
蒸着法において、ZnSeペレットに加えてZnSペレットを用い、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の薄膜型太陽電池を得た。
【0068】
(比較例1)
蒸着法において、Oガスを10sccmで基板へ供給することにより、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の薄膜型太陽電池を得た。
【0069】
(比較例2)
蒸着法において、Oガスを55sccmで基板へ供給することにより、表1に示す組成を有するn型バッファ層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の薄膜型太陽電池を得た。
【0070】
(比較例3)
n型バッファ層として、ZnO1−x−ySeから構成される層の代わりに、CdSから構成される層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の薄膜型太陽電池を得た。なお、CdSから構成される層は化学溶液成長法により形成した。また、CdSから構成される層の厚さは50nmとした。
【0071】
(比較例4)
n型バッファ層として、ZnO1−x−ySeから構成される層の代わりに、CdSから構成される層を形成したこと以外は、実施例5と同様の方法で、比較例4の薄膜型太陽電池を得た。なお、CdSから構成される層は化学溶液成長法により形成した。また、CdSから構成される層の厚さは50nmとした。
【0072】
[薄膜型太陽電池の評価]
実施例1〜6、比較例1〜4の各薄膜型太陽電池の開放電圧、短絡電流、曲線因子F.F.及び変換効率を求めた。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
p−CIGS層と、下記化学式(1)で表される化合物から構成されるn型バッファ層とを備える実施例1〜4及び6では、p−CIGS層とn型バッファ層とを備え、n型バッファ層の組成が下記化学式(1)で表される組成の範囲外である比較例1〜3に比べて、開放電圧、短絡電流、曲線因子F.F.及び変換効率が大きいことが確認された。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]
【0075】
CuZnSnS層と、上記化学式(1)で表される化合物から構成されるn型バッファ層とを備える実施例5の太陽電池では、CuZnSnS層とCdSから構成されるn型バッファ層とを備える比較例4に比べて、開放電圧、短絡電流、曲線因子F.F.及び変換効率が大きいことが確認された。
【符号の説明】
【0076】
2・・・太陽電池、4・・・ソーダライムガラス、6・・・裏面電極層、8・・・p型半導体層(p−CIGS層)、10・・・n型半導体層(n型バッファ層)、12・・・半絶縁層、14・・・窓層(透明導電層)、16・・・上部電極(取り出し電極)、E・・・伝導帯底部のエネルギー準位、E・・・フェルミ順位、E・・・価電子帯最上部のエネルギー準位、ΔE・・・CBMオフセット、E・・・欠陥準位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体層と、
下記化学式(1)で表される化合物を含み、前記p型半導体層上に形成されたn型半導体層と、
を備える、太陽電池。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]
【請求項2】
前記p型半導体層がCu、In、Ga及びSeを含む、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
p型半導体層を形成する工程と、
酸素を含む雰囲気中での蒸着法により、下記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層を前記p型半導体層上に形成する工程と、
を備える、太陽電池の製造方法。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]
【請求項4】
p型半導体層を形成する工程と、
酸素を含む雰囲気中でのスパッタリング法により、下記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層を前記p型半導体層上に形成する工程と、
を備える、太陽電池の製造方法。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]
【請求項5】
p型半導体層を形成する工程と、
スパッタリング法により、Zn及びSeを含み、Sの含有率が0mol%以上である前駆体層を前記p型半導体層上に形成する工程と、
酸素を含む雰囲気中で前記前駆体層を加熱することにより、下記化学式(1)で表される化合物を含むn型半導体層を前記p型半導体層上に形成する工程と、
を備える、太陽電池の製造方法。
ZnO1−x−ySe (1)
[化学式(1)中、x≧0、y>0、0.2<x+y<0.65。]



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−192689(P2010−192689A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35594(P2009−35594)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】