説明

太陽電池モジュール

【課題】光入射面側に設けられた集電電極に蓄積されるダメージの影響を低減した太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態に係る太陽電池モジュール10では、太陽電池1aの光入射面と接する封止材2の第1領域2aの太陽電池1aに対する接着力は、太陽電池1aの裏面と接する第2領域2bの接着力よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信頼性を向上させた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池システムは、クリーンで無尽蔵に供給される太陽光を直接電気に変換する。従って、太陽電池システムは、新しいエネルギー源として期待されている。
【0003】
ここで、太陽電池システムを構成する太陽電池では、1枚当りの出力が数W程度である。従って、家屋やビル等の電源として太陽電池システムを用いる場合には、太陽電池システムには、複数の太陽電池が電気的に直列又は並列に接続された太陽電池モジュールが用いられる。これによって、太陽電池システムの出力は、数100W程度まで高められる。
【0004】
具体的には、図1に示すように、太陽電池モジュール100は、太陽電池101と、太陽電池101の光入射面側に設けられた光入射側支持部材102と、太陽電池101の裏面側に設けられた裏面側支持部材103と、光入射側支持部材102と裏面側支持部材103との間で太陽電池101を封止する封止材104とを有する。
【0005】
このような太陽電池モジュール100では、一般的に、耐候性及び耐久性を向上させるために、封止材104と太陽電池101の光入射面及び裏面との強固な接着が維持されることが望まれる。ここで、封止材104の太陽電池101に対する接着力の経時的な低下を改善するために、封止材104にシランカップリング剤を添加する技術が提案さている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−183382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池モジュール100が太陽光を受光していない状態では、図1に示すように、太陽電池101の光入射面側における応力aは、太陽電池101の裏面側における応力bと略等しい。
【0007】
一方で、太陽電池モジュール100が太陽光を受光している状態では、太陽電池101の光入射面側の温度が太陽電池101の裏面側の温度よりも高くなる。これに伴って、太陽電池101の光入射面側では、太陽電池101の裏面側よりも封止材が熱膨張する。封止剤104の方が太陽電池101よりも大きい熱膨張係数を有するため、図2に示すように、太陽電池101の光入射面側における応力aは、太陽電池101の裏面側における応力bよりも小さくなる。
【0008】
このように、太陽電池101が太陽光を受光している状態では、応力a及び応力bのバランスが崩れてしまうため、図2に示すように、太陽電池101の反りが生じる。
【0009】
ここで、図3に示すように、太陽電池101では、光電変換部105において生成される光生成キャリアを集電するために、光電変換部105の光入射面側に集電電極106が設けられ、光電変換部105の裏面側に集電電極107が設けられている。集電電極106は、太陽電池101の光入射面側に設けられているため、太陽光の受光を妨げないように、可能な範囲で細く形成されることが好ましい。
【0010】
しかしながら、太陽光の受光によって太陽電池101の反りが生じると、応力が集電電極106に加わる。そして、太陽電池モジュール100は屋外で使用され、受光と非受光が繰り返されるので、集電電極106にダメージが蓄積される。このため集電電極106の集電能力が低下するおそれがある。そして、太陽電池101の反りは、光電変換部105を構成する基板の厚みが薄くなるほど大きくなるので、従来は基板の厚みをそれ程薄くすることができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、光入射面側に設けられた集電電極に蓄積されるダメージの影響を低減した太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の特徴に係る太陽電池モジュールは、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、前記第1領域の前記太陽電池に対する接着力は、前記第2領域の前記太陽電池に対する接着力よりも小さいことを要旨とする。
【0013】
このような太陽電池モジュールによれば、封止材の第1領域の太陽電池に対する接着力が、封止材の第2領域の太陽電池に対する接着力よりも小さい。即ち、第1領域は太陽電池の光入射面に小さい接着力で接着されているため、第1領域の体積変化が太陽電池の光入射面に与える影響力は小さい。従って、太陽光を受光している状態において、第1領域が熱膨張したとしても、第1領域が太陽電池の光入射面に与える影響力が小さいため、光入射面にかかる応力と裏面にかかる応力とのバランスが保たれる。換言すれば、第1領域は、内部応力を保持したまま太陽電池の光入射面においてずれるため、光入射面にかかる応力と裏面にかかる応力とのバランスが製造時のままに保たれる。この結果、太陽電池を光入射面側に対して凸になるように反らせようとする力が緩和され、太陽電池の光入射面に接着された集電電極に加わるストレスが弱まることとなるため、集電電極に蓄積されるダメージを抑制することができる。
【0014】
本発明の第2の特徴は、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記第1領域及び前記第2領域は、同じ封止用樹脂材料を含むと共に前記太陽電池との接着力を向上させる添加剤を含んでおり、前記第1領域に含まれる前記添加剤の量は、前記第2領域に含まれる前記添加剤の量よりも少ないことを要旨とする。
【0015】
本発明の第3の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記添加剤は、シランカップリング剤であることことを要旨とする。
【0016】
本発明の第4の特徴に係る太陽電池モジュールは、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、前記太陽電池は、光入射面及び裏面に水酸基を有しており、前記水酸基と共有結合又は水素結合を形成する官能基の前記第1領域における密度は、前記官能基の前記第2領域における密度よりも小さいことを要旨とする。
【0017】
本発明の第5の特徴に係る太陽電池モジュールは、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、前記太陽電池の裏面は、前記第2領域との接着力を向上させる下塗り剤が塗布されていることを要旨とする。
【0018】
本発明の第6の特徴に係る太陽電池モジュールは、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、前記太陽電池は、光入射面及び裏面において水酸基を有しており、前記太陽電池の光入射面における水酸基の密度は、前記太陽電池の裏面における水酸基の密度より小さいことを要旨とする。
【0019】
本発明の第7の特徴に係る太陽電池モジュールは、光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、前記太陽電池の光入射面における表面積は、前記太陽電池の裏面における表面積よりも小さいことを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光入射面側に設けられた集電電極に蓄積されるダメージの影響を低減した太陽電池モジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
《実施形態》
次に、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0022】
〈太陽電池モジュール10の構成〉
本実施形態に係る太陽電池モジュール10の断面図を図4に示す。同図(A)は、モジュール化工程を経て一体化された後の状態を説明するための断面構造図である。また、同図(B)は、モジュール化工程前の状態を説明するための分解図である。
【0023】
太陽電池モジュール10は、太陽電池ストリングス1、封止材2、光入射側支持部材3及び裏面側支持部材4を備えている。
【0024】
太陽電池ストリングス1は、複数の太陽電池1a,1a・・・を、銅箔等の配線材5によって互いに電気的に接続することにより形成されている。
【0025】
太陽電池1aは、光電変換部6及び集電電極7を備えている。
【0026】
光電変換部6は、内部にPN接合やPIN接合等の半導体接合を有する、単結晶Si(シリコン)や多結晶Si等の結晶系の半導体材料、GaAsやCuInSe等の化合物系の半導体材料をはじめ、薄膜シリコン系、色素増感系等の有機系など一般的な太陽電池材料を用いて作成することが出来る。
【0027】
集電電極7は、光電変換部6の光入射面及び裏面に接着され、光電変換部6において生成される光生成キャリアを収集する。従って、集電電極7は、光入射面側集電電極7aと裏面電極7bとを含む。
【0028】
光入射面側集電電極7a及び裏面電極7bは、銀やアルミ、銅、ニッケル、錫、金等、もしくはこれらの合金等の導電性材料を含んだもので形成される。なお、電極は導電性材料を含んだ単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。また、これらの導電性材料を含む層に加えて、SnO、ITO、IWO、ZnO等の透光性導電酸化物を含む層を有していてもよい。
【0029】
光入射面側集電電極7aは、光電変換部6の光入射側面積を大きくするため、即ち、光電変換部6の露出部分の面積を大きくとるため、できるだけ小さい面積になるように設けられている。例えば、光入射面側集電電極7aは、太陽電池1aの断面図及び上面図(図5(A)及び(B)参照)に示されるように、電極幅を小さくして、櫛型状又は所謂フィンガー状に形成される。一方、裏面電極7bは、櫛型状でもよいし、光電変換部6の裏面側の全面に設けられていてもよい。このように、本実施形態では、光電変換部6の光入射面に接着された光入射面側集電電極7aの接着面積は、裏面に接着された裏面電極7bの接着面積よりも小さい。
【0030】
封止材2は、太陽電池ストリングス1を封止している。具体的には、図4(A)に示すように、太陽電池1aの光入射面は封止材2の第1領域2aと接しており、太陽電池1aの裏面は封止材2の第2領域2bと接している。封止材2は、EVA(エチレン・ビニル・アセチレート)やPVB(ポリ・ビニル・ブチラール)、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素系樹脂、アイオノマー樹脂、シラン変性樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂などの樹脂材料を用いて構成することができ、これらの樹脂の2種類以上を混合して用いても良い。なお、封止材がEVAのような熱可塑性樹脂の場合には、接着性を向上させるために、例えばシランカップリング剤が配合される。
【0031】
ここで、本実施形態では、封止材2の第1領域2aの太陽電池1aに対する接着力は、封止材2の第2領域2bの太陽電池1aに対する接着力よりも小さい。このような封止材2の構成は本発明の特徴に係るため後に詳説する。
【0032】
光入射側支持部材3は、太陽電池1aの光入射側に封止材2の第1領域2aを介して接着されている。光入射側支持部材3は、ガラス板やプラスチック板等の保護部材として硬くて変形しにくく、且つ、太陽電池1aが吸収できる波長の光の大半を透過させる部材を含んで構成される。光入射側支持部材3は、例えば1〜10mmの厚さを有するガラス板を含んでいる。
【0033】
裏面側支持部材4は、封止材2の第2領域2bを介して太陽電池1aの裏面側に接着されている。裏面側支持部材4は、モジュール全体の重量を軽くするため、比較的軟らかいフィルム状のPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムやフッ素樹脂フィルム等の樹脂フィルム、シリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着膜が形成された樹脂フィルム、アルミ箔等の金属フィルム、もしくはこれらの積層フィルムなどの材料を用いて構成することができる。
【0034】
〈太陽電池モジュール10の製造方法〉
本実施形態に係る太陽電池モジュール10の製造方法について、図6乃至図8を用いて説明する。
【0035】
図6は、本実施形態に係る太陽電池モジュール10の製造工程の概略を示すフロー図である。
【0036】
ステップ101において、太陽電池1aを作成する。まず、n型単結晶シリコン基板の表面を洗浄して不純物を除去する。次に、RFプラズマCVD法或いはCat−CVD法等の気相成長法を用いて、n型単結晶シリコン基板の光入射面上に、i型非晶質シリコン層とp型非晶質シリコン層とを順次積層する。同様に、n型単結晶シリコン基板の裏面上に、i型非晶質シリコン層とn型非晶質シリコン層とを順次積層する。これにより光電変換部6が作成される。次に、マグネトロンスパッタ法を用いて、p型非晶質シリコン層の光入射面及びn型非晶質シリコン層の裏面に、ITO膜を形成する。次に、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の印刷法を用いて、エポキシ系熱硬化型の銀ペーストを、ITO膜の光入射面上に所定のパターンで配置する。同様に、エポキシ系熱硬化型の銀ペースト等の導電性材料を、ITO膜の裏面上に所定のパターンで配置する。これにより光入射面側集電電極7a及び裏面電極7bが、光電変換部6上に一体的に形成される。なお、本実施形態では、光入射面側集電電極7aは櫛型状に形成され、裏面電極7bは光電変換部6の裏面側の全面に設けられている。以上により、太陽電池1aが作成される。
【0037】
次に、ステップ102において、太陽電池ストリングス1を作成する。具体的には、一の太陽電池1aの光入射面側集電電極7aと他の太陽電池1aの裏面電極7bとに、配線材5を押しつけながら加熱して接続する。これにより、一の太陽電池1aと、当該一の太陽電池1aに隣接する他の太陽電池1aとが電気的に接続され、太陽電池ストリングス1が作成される。
【0038】
ここで、ステップ101及び102と並行した又は事前のステップ103において、封止材2を作成及び準備しておく。
【0039】
次に、ステップ104において、太陽電池モジュール10を作成する。当該モジュール化は、以下の2つの工程を含む。
【0040】
ラミネート工程:この工程は、図7に示す真空ラミネート装置20を用いて、各部材間の気泡の発生を抑制しつつ内部部材同士を仮接着するための工程である。真空ラミネート装置20の内部は、ダイアフラム30により上下2室に分離されており、各室独立に減圧することができる。まず、真空ラミネート装置20内に加熱可能に構成された載置台40上に、光入射側支持部材3、光入射側封止材シート(第1領域)2a、太陽電池ストリングス1、裏面側封止材シート(第2領域)2b、及び裏面側支持部材4をこの順に載置する。次に、載置台40を所定の温度に加熱しながら上下各室から排気して脱泡する。続いて、上室に吸気することにより、ダイアフラム30で太陽電池モジュール10を所定時間だけ押さえて仮接着する。
【0041】
キュア工程:この工程は、図8に示す加熱装置50を用いて、封止材2を硬化させるための工程である。加熱装置50は、温風を送ることにより、太陽電池モジュール10を均一に加熱することができる。まず、仮接着された太陽電池モジュール10を、加熱装置50内に投入する。次に、太陽電池モジュール10を、所定の温度で所定の時間だけ加熱する。これにより封止材2は完全に硬化する。
【0042】
以上のようにして、本実施形態にかかる太陽電池モジュール10は製造される。
【0043】
〈封止材2の太陽電池1aに対する接着力について〉
本実施形態では、封止材2の第1領域2aの太陽電池1aに対する接着力は、封止材2の第2領域2bの太陽電池1aに対する接着力よりも小さいことを特徴としている。このように、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくするには、上述した太陽電池モジュール10の製造工程において、以下のような方法を用いることができる。
【0044】
(1)アンカー効果の利用
太陽電池1aの光入射面における表面積が裏面における表面積よりも小さくなるように、裏面に凹凸形状を形成する。これにより、第1領域2aと太陽電池1aとの界面で生じるアンカー効果は、第2領域2bと太陽電池1aとの界面で生じるアンカー効果より小さくなる。従って、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくすることができる。
【0045】
具体的には、上記ステップ101において、n型単結晶シリコン基板に、反応性イオンエッチング(RIE)等を用いてClF等のエッチングガスにより表面処理を施す。当該n型単結晶シリコン基板を用いて太陽電池1aを作成することにより、太陽電池1aの光入射面における表面積を、前記太陽電池の裏面における表面積よりも小さくすることができる。
【0046】
(2)接着力を向上させる表面処理
太陽電池1aの裏面には、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力を向上させるための表面処理を実施する。一方、光入射面には当該表面処理を実施しない。これにより、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくすることができる。
【0047】
具体的には、上記ステップ101により作成された太陽電池1aの裏面に以下に示すいずれかの表面処理を実施する。
【0048】
プラズマ処理:主にアルゴンガスや酸素ガス等を大気中でプラズマ化し、太陽電池1aの裏面に吹き付けることにより、裏面に水酸基を形成する。
【0049】
コロナ放電処理:コロナ放電を太陽電池1aの裏面近傍で発生させ、裏面を活性化されたラジカルな状態にすることにより、表面に水酸基が形成されるように促す。
【0050】
UV照射処理:高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の紫外線(波長200〜300nm)を太陽電池1aの裏面に照射することにより、有機物質等の汚染物質を除去すると共に表面を活性化し、表面に水酸基が形成されるように促す。
【0051】
(3)接着力を向上させる下塗り剤の塗布
第2領域2bとの接着力を向上させる下塗り剤を、太陽電池1aの裏面に塗布する一方、光入射面には当該下塗り材を塗布しない。これにより、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくすることができる。
【0052】
具体的には、上記ステップ102により作成された太陽電池ストリングス1を構成する各太陽電池1aの裏面に、第2領域2bとの接着力を向上させる下塗り剤を用いて、スプレー法等によるプライマー処理を施す。このような下塗り剤として、エポキシ樹脂、フェノール化合物、シラン化合物等を用いることができる。なお、このようなプライマー処理は、上記ステップ101により作成された太陽電池1aに対して行ってもよい。この場合、下塗り剤が絶縁性であるときは、光入射面側集電電極7aのうち配線材5が接続される部分にマスキングを施す。
【0053】
(4)接着力を向上させる添加剤入り封止材の使用
上記ステップ103において、第2領域2bに使用する封止剤として、太陽電池1aとの接着力を向上させる添加剤入り封止材を準備する。一方、第1領域2aに使用する封止剤として、当該添加剤が相対的に少ない又は入っていない封止材を準備する。このような封止材を用いることにより、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくすることができる。
【0054】
具体的には、上記添加剤入りの封止材は、封止材の材料と上記添加剤とをシリンダーバレル加熱炉に入れて溶融状態にし、口金から押し出すことによりシート化される。
【0055】
(5)水酸基と共有結合を形成する官能基の密度を調整した封止材の使用
上記ステップ103において、第2領域2bに使用する封止剤として、太陽電池1aの表面に存在する水酸基と共有結合を形成する官能基の密度が大きい封止材を準備する。一方、第1領域2aに使用する封止剤として、当該密度の小さい封止材を準備する。このような封止材では、無機材料と共有結合や水素結合を形成する側鎖や主鎖の密度が、第2領域2bにおいて大きい。従って、このような封止材を用いることにより、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力を、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さくすることができる。
【0056】
具体的には、このような封止材は、シランカップリング剤をシラノール縮合触媒やグラフト化反応触媒等を用いてシラノール基を導入する方法、シランカップリング剤の有機官能基と反応可能な有機官能基を有する有機樹脂とシランカップリング剤とを化学反応によって結合させる方法、シランカップリング剤と共重合可能な樹脂の側鎖に反応させる方法等により作成することができる。
【0057】
〈作用及び効果〉
本実施形態によれば、このような構成を有することにより、光の当たり方の相違に起因する長時間使用後の特性低下を抑制し、信頼性が向上した太陽電池モジュールを提供することが出来る。この理由を以下に詳説する。
【0058】
表1は、太陽電池モジュールを構成する主な部材の線膨張係数を示す特性表である。封止材としては主な材料であるEVA樹脂の値を示している。また太陽電池として、一般的に用いられる材料であるシリコンの値を示している。また裏面フィルムとしてPETフィルムの値を記入している。
【表1】

【0059】
同表に示す通り、線膨張係数は、封止材>PETフィルム>銅>ガラス≒シリコンの関係である。また、太陽電池モジュールを構成する部材の中で、封止材の線膨張係数とシリコンの線膨張係数の差が最も大きいことが分かる。
【0060】
従って、モジュール化工程において熱膨張した各構成部材の収縮度合いは、線膨張係数の大きい封止材が最も大きく、線膨張係数の小さいシリコン材料からなる太陽電池が最も小さい。
【0061】
従来の太陽電池モジュール100の製造時点においては、図1に示すように、太陽電池101の光入射面にかかる応力aと裏面にかかる応力bとが略等しい。しかし、太陽光を受光している状態では、図2及び図3に示したように、太陽電池101の光入射面側の封止剤が軟化・膨張することに起因して応力aと応力bとのバランスが崩れ、太陽電池101の反りが生じる。その結果、集電電極106にダメージが蓄積され、太陽電池モジュール100の信頼性が低下する。なお、以上の太陽電池モジュールの出力低下は、シリコンウェハが薄くなるに連れて、より起こりやすくなる。
【0062】
一方、本実施形態にかかる太陽電池モジュール10によれば、封止材2の第1領域2aの太陽電池1aに対する接着力が、封止材2の第2領域2bの太陽電池1aに対する接着力よりも小さい。即ち、第1領域2aは太陽電池1aの光入射面に小さい接着力で接着されているため、第1領域2aの体積変化が太陽電池1aの光入射面に与える影響力は小さい。従って、太陽光を受光している状態において、第1領域2aが軟化・膨張したとしても、第1領域2aが太陽電池1aの光入射面に与える影響力は小さいため、光入射面にかかる応力aと裏面にかかる応力bとのバランスが保たれる。換言すれば、第1領域2aは、内部応力aを保持したまま太陽電池1aの光入射面においてずれるため、光入射面にかかる応力aと裏面にかかる応力bとのバランスが製造時のままに保たれる。この結果、太陽電池1aを光入射面側に対して凸になるように反らせようとする力が緩和され、光入射面側集電電極7aに加わるストレスが弱まることとなるため、集電電極の接触抵抗の増加或いは剥離を抑制することができる。
【0063】
具体的には、図10に示すように、本実施形態にかかる太陽電池モジュール10によれば、太陽光が入射している場合であっても、太陽電池1aの光入射面にかかる応力aと裏面にかかる応力bとの大きさのバランスが等しく保持されている(同図(A)参照)。また、太陽光が入射したことにより第2領域2bが膨張した場合には、太陽電池1aが裏面側に凸になりうる(同図(B)参照)。この場合、裏面電極7bは、光入射面側集電電極7aと比較して、光電変換部6との接着面積を大きくすることにより接着力を強くすることができるため、図9(B)に示すように太陽電池1aが裏面側に凸になるように反ったとしても、裏面電極7bに対するダメージは小さい。
【0064】
このように、本実施形態にかかる太陽電池モジュール10によれば、光入射面側に設けられた集電電極に蓄積されるダメージを抑制して、信頼性の向上を可能とする太陽電池モジュール10及び太陽電池モジュール10の製造方法を提供することができる。
【0065】
〈その他の実施形態〉
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0066】
例えば、上記の実施形態では、裏面電極7bを光電変換部6の裏面全面に接着することとしたが、光電変換部の一部を露出するように接着されていてもよく、光入射面側集電電極7aと同様の櫛形状に形成されていてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、太陽電池の光入射側、及び裏面側の封止材をいずれも単層構造のものとしたが、これに限らず、光入射側或いは裏面側のいずれか一方の封止材を2層以上の構造としても良い。或いは、光入射側及び裏面側の封止材をいずれも2層以上の構造としても良い。図9は、第1領域2aの光入射面に第3領域2cを備え、さらに、第2領域2bの裏面に第4領域2dを備える太陽電池モジュール10の分解断面図である。図9に示す太陽電池モジュール10においても、第1領域2aと太陽電池1aとの接着力が、第2領域2bと太陽電池1aとの接着力よりも小さい。一方、第3領域及び第4領域を形成するための封止材料は、前述のEVAやPVB等の樹脂材料を単独或いは組合わせたものから選択することができる。この場合であっても、上記の実施形態と同様の効果を奏する。
【0068】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例】
【0069】
以下、本発明に係る太陽電池モジュールについて、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施することができるものである。
【0070】
〈接着力を向上させる添加剤と接着力との関係〉
まず、接着力を向上させる添加剤と接着力との関係について調べた。充填材としてEVA樹脂を使用し、接着力向上のための添加剤としてビニルトリクロロシラン(シランカップリング剤)を使用する。
【0071】
使用したEVA樹脂はエチレンビニル:酢酸ビニル=7:3(wt%比)であり、架橋剤としてのジメチルヘキサン(2wt%;EVA樹脂に対する比)、架橋補助剤としてのトリアリルイソシアヌレート(3wt%;EVA樹脂に対する比)、安定剤としてのハイドロキノン(1wt%;EVA樹脂に対する比)が含まれており、0.6mm厚のシート状に成形されている。
【0072】
これらの樹脂とともに配合するシランカップリング剤のEVA樹脂に対する配合量を、0.5wt%、2wt%、5wt%と変化させ、試料EVA−1、試料EVA−2、試料EVA−3を作成した。そして、試料EVA−1〜3の接着力を、以下の方法で評価した。
【0073】
まず、大きさが10cm角、厚みが約4mmのガラス上に、スパッタ法により厚み約1000ÅのITO膜を形成した。次いで、ラミネート装置の載置台上に、このガラス板をITO膜を上側にして載置し、この上に上述のEVA−1〜3のうちいずれか1つのシート、厚み約188μmのPETフィルムを順に載置し、そしてラミネート工程を経て一体化した。
【0074】
次に、この積層体に、PETフィルム側からEVAフィルムに対し、ITO膜との界面に達するまで、5mm幅×5cm長の矩形状の切れ目を入れた。次いで、切れ目の端部からPETフィルム及びEVA層を同時に持ち上げ、EVA層がITO膜から剥離するときの引っ張り強度を測定した。
【0075】
EVAがITO膜から剥離する際の引っ張り強度は、図11に示す装置を用い、EVAとPETの端部を垂直に引き離す方向に引っ張る事で測定をした。具体的には、上記の積層体をガラス板を下側にして引き剥がし強度測定器60の試料台(図示せず)上に固定すると共に、クリップ61により、積層体のPETフィルム及びEVA層を挟む(図示せず)。その後、引き剥がし強度測定器60のハンドル62を回すことにより、クリップ61が引っ張られるので、引き剥がし強度測定器60のゲージ63に表示される引き剥がし強度の最大値を測定することにより、接着力を測定した。
【0076】
試料EVA−1、試料EVA−2、試料EVA−3の各々を用いた場合の実験結果を表2に示す。
【表2】

【0077】
同表に示されている様に、シランカップリング剤の量を増加するとともに接着力が向上することを確認した。
【0078】
〈実施例及び比較例の製造〉
次に、これらの試料のうち、試料EVA−1と試料EVA−3を用いて太陽電池モジュールを作成した。具体的には、太陽電池の光入射側封止材には接着力が150gのEAV−1を用い、太陽電池の裏面側封止材には接着力が350gのEVA−3を用いて実施例に係る太陽電池モジュールを作成した。
【0079】
また、比較例1として、太陽電池の光入射側及び裏面側の封止材をいずれもEVA−3を用いて作成したモジュールを作成した。さらに、比較例2として、太陽電池の光入射側封止材にはEVA−3を用い、裏面側封止材にはEVA−1を用いて作成したモジュールを作成した。なお、太陽電池としては、n型の単結晶シリコンとp型の非晶質シリコンとから構成されるpn接合を有し、間に薄いi型の非晶質シリコン層を介挿させた、HIT(登録商標)構造の太陽電池を用いた。
【0080】
〈温度サイクル試験〉
上述した実施例、比較例1及び比較例2に係る太陽電池モジュールについて、恒温槽を用いて次で述べるサイクル試験を行い、試験前後の太陽電池モジュールの出力を比較した。
【0081】
出力比(試験後のモジュール特性/試験前のモジュール特性)の結果を表3に示す。同表中の出力比は、温度サイクル試験前後のモジュール出力比(モジュール出力電力の最大値比)である。
【0082】
なお、温度サイクル試験は、JIS C 8917の規定に準拠して行った。恒温槽のコントローラにプログラムした温度条件変化のグラフを図12に示す。具体的には、各サンプルを恒温槽内に保持し、同図のように、45分かけて25℃から90℃まで上昇させ、この温度で90分間保持し、次いで90分かけて−40℃まで降下させ、この温度で90分間保持し、さらに45分かけて25℃まで上昇させる。これを1サイクル(6時間)とする。本温度サイクル試験を200サイクル実施した。温度サイクル試験を行い、裏面側保護部材の接着力の測定等を行った。なお、本実施形態では、温度変化の影響をより詳細に検討するために、200サイクルと規定されている試験を、600サイクルまで延長して実験を行った。
【表3】

【0083】
同表に示す通り、本発明の実施例に係るモジュールの出力比が最も高く、温度サイクル試験後も最も高いモジュール出力を有することがわかった。
【0084】
一方、太陽電池の光入射側及び裏面側の封止材を同じ接着力の封止材で作成した比較例1、及び光入射側封止材の方を裏面側封止材よりも大きい接着力の封止材を用いて作成した比較例2では、いずれも実施例よりも小さい出力比しか得られなかった。
【0085】
以上の結果から、光入射側封止材の太陽電池に対する接着力を裏面側封止材の太陽電池に対する接着力よりも小さくすることで、集電電極に蓄積されるダメージの影響を低減した太陽電池モジュールを提供できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来の太陽電池への応力を説明する図である。
【図2】従来の太陽電池への応力を説明する図である。
【図3】従来の太陽電池への応力を説明する図である。
【図4】実施形態に係る太陽電池モジュールを説明する図である。
【図5】実施形態に係る太陽電池を説明する図である。
【図6】実施形態に係る太陽電池モジュールの製造方法を説明するフロー図である。
【図7】ラミネート工程に用いる真空ラミネート装置を説明する図である。
【図8】キュア工程に用いる加熱装置を説明する図である。
【図9】その他の実施形態に係る太陽電池モジュールを説明する図である。
【図10】実施形態に係る太陽電池への応力を説明する図である。
【図11】引き剥がし強度測定器を説明する図である。
【図12】温度サイクル試験の温度条件変化のグラフである。
【符号の説明】
【0087】
a…応力
b…応力
1…太陽電池ストリングス
1a…太陽電池
2a…第1領域
2b…第2領域
2c…第3領域
2d…第4領域
3…光入射側支持部材
4…裏面側支持部材
5…配線材
6…光電変換部
7…集電電極
7a…光入射面側集電電極
7b…裏面電極
10…太陽電池モジュール
20…真空ラミネート装置
30…ダイアフラム
40…載置台
50…加熱装置
60…強度測定器
61…クリップ
62…ハンドル
63…ゲージ
100…太陽電池モジュール
101…太陽電池
102…光入射側支持部材
103…裏面側支持部材
104…封止材
105…光電変換部
106…集電電極
107…集電電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記第1領域の前記太陽電池に対する接着力は、前記第2領域の前記太陽電池に対する接着力よりも小さい
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記第1領域及び前記第2領域は、同じ封止用樹脂材料を含むと共に前記太陽電池との接着力を向上させる添加剤を含んでおり、
前記第1領域に含まれる前記添加剤の量は、前記第2領域に含まれる前記添加剤の量よりも少ない
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記添加剤は、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記太陽電池は、光入射面及び裏面に水酸基を有しており、
前記水酸基と共有結合又は水素結合を形成する官能基の前記第1領域における密度は、前記官能基の前記第2領域における密度よりも小さい
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項5】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記太陽電池の裏面は、前記第2領域との接着力を向上させる下塗り剤が塗布されている
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項6】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記太陽電池は、光入射面及び裏面において水酸基を有しており、
前記太陽電池の光入射面における水酸基の密度は、前記太陽電池の裏面における水酸基の密度より小さい
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項7】
光入射側支持部材、封止材、前記封止材中に封止された太陽電池、及び裏面側支持部材を備え、
前記封止材は、前記太陽電池の光入射面に接する第1領域と、前記太陽電池の裏面に接する第2領域とを含み、
前記太陽電池の光入射面における表面積は、前記太陽電池の裏面における表面積よりも小さい
ことを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−294869(P2007−294869A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29663(P2007−29663)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】