説明

姿勢制御装置および精密加工装置

【課題】 研削加工段階に応じて、姿勢制御装置上の載置物の姿勢を高精度に制御することのできる姿勢制御装置および精密加工装置を提供する。
【解決手段】 第一の面材21と、第一の面材21に間隔Lを置いて並列する第二の面材22とからなる姿勢制御装置1であり、第一の面材21と第二の面材22の双方に穿設された凹部21a,22aに球体3の一部が収容された姿勢で球体3が介装されており、さらに面材間にはX軸とY軸からなる平面に直交するZ軸方向に伸張する第一のアクチュエータ4aが介装されており、第二の面材22には、X軸とY軸からなる平面内の適宜の方向に伸張する第二のアクチュエータ4b、4bが接続されており、第二の面材22は、載置物を載置した姿勢で第一の面材に対して相対的に移動可能に構成されている。球体3は、弾性変形が可能な接着剤6にて第一の面材21および第二の面材22に接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハや磁気ディスク基板など、精密な形状寸法精度や仕上げ面の平坦性が要求される物品の加工をおこなう際に使用される姿勢制御装置および該姿勢制御装置が備えられた精密加工装置に係り、特に、研削加工段階に応じて、姿勢制御装置上の載置物の姿勢を高精度に制御することのできる姿勢制御装置および精密加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、次世代パワーデバイスは、そのエネルギー損失低減や小型化への要求が高まっており、例えば、エレクトロニクス用半導体の多層化や高密度化などがその一例として挙げられる。これらの要求に対する方策としては、シリコンウエハを代表とする半導体ウエハの極薄化、加工表面や加工面内部に転位や格子歪のない加工方法、表面粗度(Ra)をサブnm(サブナノメーター)〜nm(ナノメーター)レベル、加工面の平坦度をサブμm(サブマイクロメーター)〜μm(マイクロメーター)レベル、さらにはそれ以下とする加工方法の開発などが考えられる。
【0003】
ところで、自動車産業に目を向けると、自動車のパワーデバイスであるIGBT(Integrated Bipolar Transistor)は、インバータシステムの主要なシステムである。今後は、かかるインバータの高性能化や小型化によってハイブリット車の商品性が益々高まることが予想される。そのため、IGBTを構成するSiウエハの厚さを50〜150μm、望ましくは90〜120μm程度まで極薄化し、スイッチング損失や定常損失、熱損失の低減が不可欠となってくる。さらには、直径が200〜400mm程度の円形Siウエハの加工面、もしくは加工表面近傍内部において転位や格子歪などの欠陥をゼロとした完全表面とすること、表面粗度(Ra)をサブナノメーター〜ナノメーターレベル、平坦度をサブマイクロメーター〜マイクロメーターレベルにすることによって、半導体の電極形成工程での歩留まりや、半導体の多層化が向上する。
【0004】
一般に、上記する半導体の加工工程は、ダイヤモンド砥石による粗研削、ラッピング、エッチング、遊離砥粒を用いたWet−CMP(Chemo Mechanical Polishing/湿式化学機械的研削)など、多工程を要しているのが現状である。かかる従来の加工法では、加工表面に酸化層や転位、格子歪が生じてしまい、完全表面を得ることは極めて困難となる。また、ウエハの平坦度も悪く、加工時もしくは電極形成後のウエハの破損によって歩留まりの低減に繋がる。さらには、従来の加工法では、ウエハの直径が200mm、300mm、400mmと大きくなるに従い、その極薄化は困難となり、直径が200mmのウエハの厚さを100μmレベルにするための研究が進められているのが現状である。
【0005】
上記するSi半導体ウエハなどの超精密加工に際しては、シリコン半導体ウエハなどの被研削体を支持する回転装置を、極めて微小な距離だけ精度よく動かすことのできる装置(姿勢制御装置)の開発が従来望まれていた。これは、砥石研削の際に、砥石と被研削体双方が同心軸上となるように初期設定することに加え、研削過程で生じ得る砥石と被研削体双方の軸心ずれを適宜修正することなしには、被研削体表面の研削加工精度の向上を図ることができないといった要請に基づくものである。
【0006】
ところで、比較的微小な距離を極めて精度よく物品を移動もしくは変位させる方策として、サーボモータを使用する方法やピエゾ素子を用いた圧電アクチュエータを使用する方法、あるいは超磁歪アクチュエータを使用する方法などが一般におこなわれている。上記する姿勢制御装置をサーボモータにて稼動させようとすると、サーボモータの出力性能の限界から実現が困難であり、さらには、サーボモータのように回転を伴うものでは、ナノメーターオーダーの精度での制御は極めて困難である。また、ピエゾ素子を用いた圧電アクチュエータにて姿勢制御装置を稼動させる場合には、研削加工に使用される回転装置のような大荷重の物品を変位させようとすると素子自体の破壊に繋がってしまうといった問題がある。
【0007】
本発明者等は、上述する従来技術の問題点に鑑み、トンオーダーの大荷重の物品を、ナノメーターあるいはオングストロームのレベルで高精度かつ正確に動かすための装置について検討した。その結果、トンオーダーの大荷重の加工装置を、無摩擦で変位可能な弾性変位テーブル上に載置すれば、重力の方向に直交する方向への変位は載置物の重量の影響を受けないことに着目し、無摩擦で微細変位が可能な弾性変位テーブルを開発し、かかる発明が特許文献1に開示されている。この発明は、無摩擦で変位が可能な弾性変位テーブルと、超磁歪アクチュエータとによって構成されるものであり、超磁歪アクチュエータに設けられたロッドの変形によって弾性変位テーブルを変位させることにより、位置決めをおこなうものである。ここでいう無摩擦で変位が可能な弾性テーブルは、架台と、弾性変位が可能な支柱とから構成されるものであり、架台は支柱を介してベースに取り付けられている。支柱はバネ状に反発弾性作用を発現するとともに、トンオーダーの物品重量を支え得る強度を備えた材料から形成されている。架台の端面には複数の超磁歪アクチュエータが装着されており、位置指令値に基づく電流の印加によって励起される磁界が超磁歪素子に作用することにより、素子が伸張する構成となっている。
【0008】
さらに、発明者等は、上記する超磁歪素子の持つヒステリシス特性に起因する応答遅れを補償する制御システムを組み込むとともに、超磁歪アクチュエータのコイルから生じるジュール熱や渦電流による発熱に起因する精度低下を防止可能な超磁歪アクチュエータを備えた姿勢制御装置(を備えた精密加工装置)に関する発明を特許文献2に開示している。ここで、ヒステリシス特性に起因する応答遅れを補償する制御システムとしては、数学関数(直線、円弧、スプラインなど)で記述したヒステリシスモデル、好ましくはプライザッハモデルに基づく逆モデルを用いている。このプライザッハモデルは、磁性材料の磁化状態の変化を予測するためのものである。かかる姿勢制御装置においては、2枚の板が間隙を置いた姿勢で1つの接続部材により接続されている。上方の板のうち、接続部材に近い辺に直交する一辺には超磁歪アクチュエータが配されており、上方の板のうち、接続部材に近い辺に相対する辺の下部には2つの超磁歪アクチュエータが配されている。この接続部材も、特許文献1と同様に、弾性変形が可能であって、トンオーダーの物品重量を支え得る強度を備えた材料から形成されている。かかる発明においては、上記する3つの超磁歪アクチュエータの動きを制御することによって、砥石軸とワーク軸の間の微小なずれを3次元空間で補正することができる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−265441号公報
【特許文献2】特開2002−127003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の微細位置決め装置、および特許文献2の姿勢制御装置によれば、比較的大きな重量の物品(例えば、砥石研削時の回転装置など)を支持しながら、かかる物品の位置決め(姿勢)の高精度な制御を実現することができる。しかし、これらの装置においては、2つの板(プレート)の間に2つの超磁歪アクチュエータと1つの支柱(または接続部材)が介装されているが、この支柱(または接続部材)が高強度の弾性部材であることから、他方の板に対して相対的に動く側の板の水平方向の動きをかかる弾性部材が拘束することは否めない。すなわち、高強度であればある程、その軸心直角方向への動きを大きく拘束することになり、かかる拘束により、可動側の板の自由度は制限されてしまう。また、板の動きを超磁歪アクチュエータのみでおこなおうとすると、超磁歪素子から生じる発熱の影響が位置決め装置(姿勢制御装置)の他の構成部材におよび、該他の構成部材の損傷、ひいては姿勢制御精度の低下に繋がるといった問題がある。
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、一方の板(プレート)に対して相対的に変位する側の板(プレート)の動きをほとんど拘束することなく、しかも砥石の回転装置のような比較的大きな重量を支持しながら、高精度の姿勢制御を実現することのできる姿勢制御装置を提供することを目的とする。また、加工段階に応じて、アクチュエータの出力レベルを選択的に選定することのできる姿勢制御装置を提供することを目的とする。さらには、かかる姿勢制御装置を備えることによって、高精度の研削加工を実現することのできる精密加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による姿勢制御装置は、載置物の姿勢を制御する際に使用される姿勢制御装置であって、前記姿勢制御装置は、X軸とY軸からなる平面内に延びる第一の面材と、該第一の面材に間隔を置いて並列する第二の面材と、からなり、2つの面材において対向するそれぞれの面には凹部が穿設されており、第一の面材と第二の面材の間には、球体がその一部を2つの凹部に収容されながら介装されるとともに、X軸とY軸からなる平面に直交するZ軸方向に伸張する第一のアクチュエータが介装されており、第二の面材には、X軸とY軸からなる平面内の適宜の方向に伸張する第二のアクチュエータが接続されており、第二の面材は、載置物を載置した姿勢で第一の面材に対して相対的に移動可能に構成されており、前記球体は、弾性変形が可能な接着剤にて第一の面材および/または第二の面材に接着されていることを特徴とする。
【0013】
第一の面材、第二の面材ともに、第二の面材上に載置される載置物の重量を支持し得る強度を備えた材料から成形されるとともに、非磁性材料から成形されることが好ましい。かかる材料としては、特に限定するものではないが、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS)が使用できる。
【0014】
一方、第一の面材と第二の面材の間に介装される球体も同様に、少なくとも第二の面材上に載置される載置物の重量を支持し得る強度を備えた材料からなることを要する。したがって、載置物の設定重量に応じて球体を形成する材料も適宜選定できるが、一例として、金属が挙げられる。
【0015】
第一の面材と第二の面材のうち、球体と当接する箇所には球体の形状に応じた凹部が穿設されており、双方の凹部に球体の一部が収容された姿勢で面材間に球体が介装設置される。この凹部の寸法(穿設深さや開口径など)は、面材や球体の大きさ、要求される姿勢制御精度などによって適宜調整される。尤も、双方の凹部に球体の一部が収容された姿勢で、少なくとも第一の面材と第二の面材との間に所定の間隔が保持されていることが要求される。この間隔は、例えば第二の面材が第二のアクチュエータの作動によって傾斜した場合でも、第二の面材が第一の面材に当接しないような適宜の離隔である。
【0016】
2つの面材の対向する箇所に穿設された凹部表面と球体は、接着剤にて接続できる。かかる接着剤は、常温にて弾性性能を有する材質を備えた適宜の接着剤が使用でき、一例を挙げれば、弾性エポキシ系接着剤や、弾性接着剤などが使用できる。例えば、引張りせん断接着強さが10〜15Mpa、減衰係数が2〜7Mpa・secで好ましくは4.5Mpa・sec、接着材のばね定数が、80〜130GN/mで好ましくは100GN/mの接着剤を使用することができ、接着剤の厚みを0.2mm程度に設定することができる。
【0017】
なお、双方の面材に凹部が穿設される実施形態のほかに、第一の面材、第二の面材いずれか一方のみに凹部が穿設されていて、この凹部に球体の一部が収容され、凹部表面と球体を接着剤にて接着する実施形態であってもよい。
【0018】
本発明の姿勢制御装置の一実施形態としては、第一の面材と第二の面材との間に球体と2つの第一のアクチュエータが平面的には任意の3角形の各頂点に位置するように介装配置されていて、第二の面材における四方の端辺のうちの少なくとも1辺には第二のアクチュエータが装着された実施形態がある。かかる少なくとも3つのアクチュエータにより、第二の面材は、載置物を直接載置した姿勢で、第一の面材に対して相対的に3次元的な変位を実現することができる。この第二の面材の変位に際しては、その下方で該第二の面材を支持する球体表面の接着剤が弾性変形することにより、第二の面材の変位がほぼ無拘束状態の自由変位を実現できる。
【0019】
なお、第一のアクチュエータ、第二のアクチュエータともに、少なくとも超磁歪素子を備えたアクチュエータであることが好ましい。ここで、超磁歪素子とは、ジスプロニウムやテルビウムなどの希土類金属と鉄やニッケルの合金のことであり、棒状の超磁歪素子の周りのコイルに電流が印加されることによって生じる磁界により、該素子が1μm〜2μm程度伸びることができる。また、この超磁歪素子の性質としては、2kHz以下の周波数領域において使用でき、ピコ秒(10-12秒)の応答速度を備えている。さらに、その出力性能は、15〜25kJ/cm程度であり、例えば、後述する圧電素子の約20〜50倍の出力性能を有する。
【0020】
また、本発明による姿勢制御装置の他の実施形態において、前記球体の表面には前記接着剤による被膜が形成されており、該球体と該接着剤による被膜は、双方が相対的に可動できるように縁切りされていることを特徴とする。
【0021】
接着剤は、既述する弾性変形が可能な材料からなり、例えば金属球体の表面にこの接着剤からなる被膜が形成できる。ここで、第二の面材の動きに対する拘束度をより緩和するために、本発明では、球体とその外周の接着剤とを縁切りする構成とする。例えば、球体の表面にグラファイト被膜を形成しておき、このグラファイト被膜の外周に接着剤からなる被膜を形成させる。接着剤とグラファイト被膜とは接着せず、実質的には縁切りされた構造となるため、第二の面材が変位する際には、球体は無拘束状態で定位置で回転する一方で、その表層の接着剤は、該球体からの拘束を受けることなく第二の面材の変位に呼応した弾性変形をすることになる。本発明においては、第一の面材および第一の面材と接着する接着剤、および、接着剤と接着しない球体(または球体表面被膜)を実現できる適宜の面材、接着剤、球体(の表面被膜)から構成される。
【0022】
本発明によれば、第二の面材の動きに対する拘束度がさらに緩和されることになり、姿勢制御装置に要求される極めて微小でかつリアルタイムな動きを実現することが可能となる。さらには、第二の面材の拘束度が無拘束に近いため、第二の面材を変位させる際に第二のアクチュエータに要求されるエネルギーも従来に比べて低減させることが可能となる。
【0023】
また、本発明による姿勢制御装置の好ましい実施形態において、前記第一のアクチュエータと前記第二のアクチュエータには、それぞれ圧電素子と超磁歪素子が備えられていることを特徴とする。
【0024】
超磁歪素子の材料や性能は上述の通りである。一方、圧電素子は、チタン酸ジルコン酸塩(Pb(Zr,Ti)O)やチタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸鉛(PbTiO)などからなる。圧電素子の性質としては、10kHz以上の周波数領域にて使用でき、ナノ秒(10-9秒)の応答速度を備えている。出力パワーは超磁歪素子に比して小さく、比較的軽荷重領域での高精度な位置決め制御(姿勢制御)に好適である。なお、ここでいう圧電素子には電歪素子も含まれている。
【0025】
本発明によれば、載置物の重量や、加工段階に応じて、各アクチュエータにおける超磁歪素子と圧電素子とを適宜使い分けることができ、したがって、超磁歪素子のみの場合の発熱の影響を格段に緩和することができる。超磁歪素子、圧電素子ともにその応答速度が速いことから、本発明では、原則として圧電素子を使用しながら、必要に応じて超磁歪素子を使用するといった双方の使い分けを適宜おこなうものである。また、双方の素子を使い分けることができるため、アクチュエータ稼動時のエネルギー効率の向上を図ることも可能となる。
【0026】
また、本発明による精密加工装置は、砥石を回転させる第一の回転装置および該第一の回転装置を支持する第一の基台と、被研削体を回転させる第二の回転装置および該第二の回転装置を支持する第二の基台と、から構成される精密加工装置であって、第一の回転装置と第一の基台の間、または、第二の回転装置と第二の基台の間には、前記姿勢制御装置が備えられていることを特徴とする。
【0027】
本発明は、前記姿勢制御装置が研削加工装置に適用されてなる精密加工装置に関するものである。本精密加工装置は、砥石による被研削体の粗研削〜最終の超精密研削までをかかる装置のみでおこなうことができ、前記姿勢制御装置を基台上に搭載した構成とすることで、研削精度を高めることが可能となる。
【0028】
本発明の精密加工装置が使用される研削方法は特に限定するものではないが、例えば、ダイヤモンド砥石による粗研削工程と、固定砥粒(CMG砥石)による最終研削工程からなる研削方法がある。ここで、固定砥粒(CMG砥石)とは、最終研削をCMG法(Chemo Mechanical Grinding)でおこなう際に使用される砥石のことであり、かかる方法は、従来のエッチングやラッピング、ポリッシングなどの多工程をCMG砥石を使用した研削工程のみでおこなうものであり、現在その開発が進められている技術である。姿勢制御装置を使用することにより、砥石と被研削体との軸心調整(初期設定)ができることは勿論のこと、加工に伴う機械的要因や摩擦により発生する熱や振動などに起因する変位が起こす砥石と被研削体との微小な軸心ずれを適宜修正することができる。ここで、粗研削時には、第二の面材を比較的大きく動かす必要があるため(被研削体に対して砥石を押し付けながら所要の研削深さだけ研削することから)、高出力の超磁歪素子を伸張させ、最終研削時には、第二の面材を大きく動かす必要はないことから(例えば、所定の定圧にて研削するため)、比較的低出力の圧電素子を伸張させることにより、エネルギー効率のよい研削加工を実現することができる。
【0029】
なお、かかる軸心の微小なずれは常時検知されるようになっており、検知された微小なずれは、コンピュータによって数値処理され、超磁歪素子(超磁歪アクチュエータ)や圧電素子(圧電アクチュエータ)の必要伸縮量として各アクチュエータに入力される。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の姿勢制御装置によれば、並列する面材の間に弾性変形可能な接着剤で被覆された球体が介装されているため、他方の面材に対して相対的に動く側の面材はほとんど拘束されることなく自由に動くことが可能となり、したがって、アクチュエータが過度の出力エネルギーを要することもなく、アクチュエータの作動に応じた面材のリアルタイムな動きを実現することができる。また、本発明の姿勢制御装置によれば、超磁歪素子と圧電素子を備えたアクチュエータによって面材の動きが制御されるため、加工段階に応じてこれらの素子を使い分けることが可能となり、超磁歪素子に生じ得る発熱の影響を極力低減することができるとともに、エネルギー効率の向上を図ることも可能となる。また、上記する姿勢制御装置を備えた本発明の精密加工装置によれば、砥石と被研削体との軸心のずれを加工の全過程においてリアルタイムに修正可能となるため、極めて高精度な被研削体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、姿勢制御装置の一実施形態の平面図を、図2は、図1のII−II矢視図を、図3は、図1のIII−III矢視図をそれぞれ示している。図4は、精密加工装置の一実施形態の側面図である。なお、図示する姿勢制御装置においては、第一のアクチュエータおよび第二のアクチュエータがそれぞれ2つずつの組み合わせから構成されている実施形態であるが、アクチュエータの設置数量はかかる実施形態に限定されるものでないことは勿論のことである。
【0032】
図1は姿勢制御装置1の一実施形態を、図2は図1のII−II矢視図をそれぞれ示している。姿勢制御装置1は、上方が開放された筐体からなり、該筐体は、第一の面材21と側壁211とから構成される。かかる筐体は、例えばSUS材から成形することができる。対向する側壁211,211の間には第二の面材22が第二のアクチュエータ4b、4bを介して装着されている。ここで、第一の面材21と第二の面材22との間には、第二の面材22が傾斜した場合でも双方が干渉しない程度の適宜の間隔Lが確保されている。図示する実施形態では、第二のアクチュエータ4bのほかに、第二の面材22をX−Y平面内に保持するために、複数のバネ5,5,…が側壁211と第二の面材22の間に介装されている。
【0033】
第二のアクチュエータは、適宜の剛性を有する軸部材4b3と、超磁歪素子4b1および圧電素子4b2から構成されている。なお、超磁歪素子4b1は、素子のまわりに図示しないコイルが装着されており、コイルに電流が流れることによって生じる磁界によって伸張可能に構成されている。また、圧電素子4b2も、電圧が作用することによって該素子が伸張可能となっている。さらに、図示しないが、第二の面材22上の載置物(例えば、回転装置など)の位置を検出するセンサによる載置物の位置情報に応じて、超磁歪素子4b1または圧電素子4b2に適宜の電流ないしは電圧が作用できるように構成されている。なお、超磁歪素子4b1と圧電素子4b2の作動の選択は、第二の面材22を比較的大きく動かす必要があるか否か等、加工段階に応じて適宜選択できるように構成されている。ここで、超磁歪素子4b1としては、従来と同様にジスプロニウムやテルビウムなどの希土類金属と鉄やニッケルの合金から成形することができ、圧電素子4b2としては、チタン酸ジルコン酸塩(Pb(Zr,Ti)O)やチタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸鉛(PbTiO)などから成形できる。
【0034】
例えば、姿勢制御装置1を平面台座上に載置した場合には、X−Y平面(水平方向)に第二の面材22を変位させる際には第二のアクチュエータ4b、4bを作動させ、Z方向(鉛直方向)に変位させる際には、第一のアクチュエータ4a,4aを作動させる。ここで、第一のアクチュエータ4aも第二のアクチュエータ4bと同様に、適宜の剛性を有する軸部材4a3と、超磁歪素子4a1および圧電素子4a2から構成されている。
【0035】
第一の面材21と第二の面材22との間には、第一のアクチュエータ4aのほかに、球体3が介装されている。かかる球体3を詳細に説明した断面図が図3である。
【0036】
球体3は、例えば金属からなる球状のコア部31と、該コア部31の外周に設けられ、例えばグラファイトからなる被膜32とから構成できる。さらに、被膜32の外周には常温で弾性変形が可能な接着剤6からなる被膜が形成されている。ここで、接着剤6は、例えば、引張りせん断接着強さが10〜15Mpa、減衰係数が2〜7Mpa・secで好ましくは4.5Mpa・sec、接着材のばね定数が、80〜130GN/mで好ましくは100GN/mの接着剤(弾性エポキシ系接着剤)を使用することができ、接着剤の厚みを0.2mm程度に設定することができる。
【0037】
第一の面材21および第二の面材22の球体3と当接する箇所には、それぞれ凹部21a,22aが穿設されており、球体3は、それぞれの凹部21a,22a内にその一部が収容されることで位置決めされる。また、球体3の外周を被覆する接着剤6は、凹部21a,22aと接着している一方で、球体3(を構成する被膜32)と縁切りされており、球体3は接着剤6の被膜内で自由に回転することができる。
【0038】
第二の面材22上に任意の載置物が載置された姿勢で、第一のアクチュエータ4aおよび第二のアクチュエータ4bが作動しながら載置物の姿勢制御をおこなう際には、接着剤6からなる被膜が弾性変形することにより、第二の面材22の3次元的な自由変位を許容することが可能となる。この際、球体3を構成するコア部材31は載置物の重量を支持しながらも、その外周の接着剤6からなる被膜を拘束することなく、定位置で回転しているのみである。したがって、球体3は実質的には載置物の重量を支持するに過ぎず、球体3と接着剤6は相互に接着していないことから、第二の面材22の変位に応じて、接着剤6は球体3に何らの拘束も受けることなく自由に弾性変形することができる。したがって、第二の面材22は、接着剤6の弾性変形による反作用力程度の極めて微小な拘束しか受けないことになる。
【0039】
次に、上記する姿勢制御装置1を搭載した精密加工装置10の一実施形態を図4に基づいて説明する。
【0040】
精密加工装置10は、例えば、シリコンウエなどの被研削体aを粗研削〜最終の精密研削(最終仕上げ)まで一貫しておこなうことのできる研削装置である。精密加工装置10を構成する台座19上には、砥石15を回転させる第一の回転装置13と該回転装置13を支持する第一の基台14、および、被研削体aを吸引把持した姿勢で回転させる第二の回転装置11と該回転装置11を支持する第二の基台12とから大略構成されている。
【0041】
第一の基台14は、サーボモータ16の出力軸に装着された送りねじ17に螺合されたナット18上に固定されており、ナット18の移動に応じて第一の回転装置13が対向する被研削体a側へ移動可能(矢印X方向)に構成されている。
【0042】
一方、第二の基台12と第二の回転装置11との間には上記する姿勢制御装置1が搭載されている。
【0043】
砥石15は、研削加工段階で取り替え可能となっており、例えば、粗研削時にはダイヤモンド砥石を使用し、最終表面仕上げの段階ではCMG砥石を使用することができる。かかる研削加工方法においては、粗研削時にはナット18による移動に応じて被研削体a表面を粗研削し、最終の表面仕上げ時には順次、第一の回転装置13の被研削体aへの圧力を調整しながら最終仕上げ研削をおこなうことができる。また、この粗研削工程〜最終研削工程の全過程においては、第一の回転装置13と第二の回転装置11双方の軸心のずれを姿勢制御装置1にて適宜調整しながら研削加工をおこなっていく。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】姿勢制御装置の一実施形態の平面図。
【図2】図1のII−II矢視図。
【図3】図1のIII−III矢視図。
【図4】精密加工装置の一実施形態の側面図。
【符号の説明】
【0046】
1…姿勢制御装置、21…第一の面材、21a…凹部、22…第二の面材、22a…凹部、3…球体、4a…第一のアクチュエータ、4b…第二のアクチュエータ、4a1,4b1…超磁歪素子、4a2,4b2…圧電素子、5…バネ、6…接着剤、10…精密加工装置、15…砥石、a…被研削体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置物の姿勢を制御する際に使用される姿勢制御装置であって、
前記姿勢制御装置は、X軸とY軸からなる平面内に延びる第一の面材と、該第一の面材に間隔を置いて並列する第二の面材と、からなり、2つの面材において対向するそれぞれの面には凹部が穿設されており、第一の面材と第二の面材の間には、球体がその一部を2つの凹部に収容されながら介装されるとともに、X軸とY軸からなる平面に直交するZ軸方向に伸張する第一のアクチュエータが介装されており、第二の面材には、X軸とY軸からなる平面内の適宜の方向に伸張する第二のアクチュエータが接続されており、第二の面材は、載置物を載置した姿勢で第一の面材に対して相対的に移動可能に構成されており、前記球体は、弾性変形が可能な接着剤にて第一の面材および/または第二の面材に接着されていることを特徴とする姿勢制御装置。
【請求項2】
前記球体の表面には前記接着剤による被膜が形成されており、該球体と該接着剤による被膜は、双方が相対的に可動できるように縁切りされていることを特徴とする請求項1に記載の姿勢制御装置。
【請求項3】
前記第一のアクチュエータと前記第二のアクチュエータには、それぞれ圧電素子と超磁歪素子が備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の姿勢制御装置。
【請求項4】
砥石を回転させる第一の回転装置および該第一の回転装置を支持する第一の基台と、被研削体を回転させる第二の回転装置および該第二の回転装置を支持する第二の基台と、から構成される精密加工装置であって、
第一の回転装置と第一の基台の間、または、第二の回転装置と第二の基台の間には、請求項1〜3のいずれかに記載の姿勢制御装置が備えられていることを特徴とする精密加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−181694(P2006−181694A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379810(P2004−379810)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】