説明

子宮内膜の機能におけるまたはそれに関する改良

【課題】哺乳類の個体の生殖系の細胞のうち少なくともいくつかの細胞の1またはそれ以上の特徴を改変する。
【解決手段】開示されるのは、哺乳類の個体の生殖系の細胞のうち少なくともいくつかの細胞の1またはそれ以上の特徴を、該細胞に核酸を導入することによって改変する方法および、該方法において使用するための核酸を含む組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、特に哺乳動物の子宮内膜組織の1つまたはそれ以上の特徴を変更する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
子宮内膜の生理機能
胚が哺乳動物の子宮内で確立するには2つの主要な出来事が必要である。まず、子宮内膜が胚盤胞の存在を受入れる準備ができ、胚盤胞が着床して、胎盤の形成により栄養物の供給を受けられるようになることであり、かつ第2には、子宮筋層の働きが変わって、無活動となり、排出の危険なく、胚盤胞が子宮腔内に定着できるようになることである。これらの出来事は、いずれも妊娠に関するホルモンの作用によって制御されるが、このうちエストロゲンとプロゲステロンが特に重要である。これらのステロイドホルモンは、標的細胞の核に存在する受容体を介して子宮内膜および子宮筋層に対し作用する。一旦活性化されると、ステロイド−核受容体複合体は、DNA内の特定の領域と相互作用して、酵素または増殖因子等のタンパク質およびポリペプチドをコードする遺伝子を刺激し、抑制しまたは誘導する。
【0003】
着床の開始は、連続して起こる生化学的変化および生物物理学的変化によってもたらされる。接着分子(たとえばCAM105)は胚盤胞の子宮壁に対する付着の初期の段階に関与している。その後、胚盤胞と子宮内膜はさまざまな戦略を駆使して胎児の組織と母体の組織との親密度を高めようとする。有蹄動物においては、胚盤胞の最も外側の層を構成する栄養芽層細胞が子宮上皮内へ移動して、その後融合する。細胞の移動は女性においてはもう一段階進んでおり、これは移動するものが孤立したまたは特定の細胞タイプのみならず、栄養芽層のうちかなりの領域が子宮上皮細胞の間に徐々に入り込むためである。このために、栄養芽層細胞のうちいくつかが相互に融合してシンシチウムを形成する。このプロセスは非常に急速で、胚は、子宮上皮であまり明らかな変性を伴わずに子宮組織内に確立する。いくつかの種においては、着床プロセスは遅延されるが、これは1年のうち好ましい時期に子供が確実に生まれるように環境が与える合図を待つためか、または次の妊娠が完全に確立する前に、母親が前に生まれた子供の離乳を完了するといった乳汁分泌等の生理学的要因によるものである。
【0004】
着床に向けての子宮の準備は、卵巣ホルモンの分泌によって調節される。卵管を通る受精卵の移送は、受精卵が発育の適正な時期および子宮が受精卵を受入れるのに適した状態にあるときに子宮に到着するように正確に時機を設定しなければならない。多くの条件下では、子宮は胚に対し敵対し、実際、身体の他の領域よりも敵対する。子宮の上皮内層は、多くの条件下で、栄養芽層による付着および侵入に対し抵抗性があり、この抵抗性が緩和されるのは非常に正確なホルモン状態にある場合のみである。
【0005】
マウスおよびラットにおいて、交尾していないものはプロゲステロンの産出量が増大する正常な分泌黄体を形成していないので、完全な発情周期を有することはない。卵子が出てくる卵胞から高レベルのエストロゲンが分泌される発情期に交尾を行なうと、黄体が、卵胞の裂けた場所に形成され、濃度の増大したプロゲステロンが分泌され、着床が行なわれて、妊娠が進行する(期間は21日間)。交尾後不妊の場合には、同様の出来事が起こるが、ただし黄体は約11日間しか継続せず、偽妊娠は短縮される。
【0006】
子宮内膜で発生する細胞の変化および生化学的変化については、近年ヒトの女性における情報もかなり増加しているものの、最も徹底して研究されているのはマウスおよびラットの場合である。すべての種の子宮内膜は3つの主な組織、すなわち管腔上皮、腺上皮および支質(ストローマ)により構成される。これら3つの組織においては、細胞の増殖は別々の時期に起こる。管腔細胞は、卵巣における卵胞により生成される増加レベルのエストロゲンの影響下で発情期(発情前期)の直前に増殖する。妊娠1日目(げっし類における交尾栓がみられる日)には細胞は分割をやめ、3日目になるとより小さいが第2の活動を引き起こす。腺の細胞は、4日目に最大の活動を見せた後減退する。支質細胞は4日目までは増殖せず、その後プロゲステロンの影響により5日目には増殖は高レベルに達する。ヒトの女性の場合、着床プロセスの前兆となるこのような変化についてはあまり知られていないが、マウスおよびラットの場合と同様、上皮細胞においては周期のうち濾胞期に、かつ支質細胞においては黄体期または分泌期に、増殖は最高になるようである。
【0007】
子宮内膜細胞の増殖の目的は十分に解明されていない。栄養および分泌機能(腺上皮)を果たしかつ胎盤形成(脱落膜形成)の非常に初期の段階に関与する細胞の数を増加させることによって子宮内膜を着床に向けて準備させることが目的であると考えられている。着床を成功させる前提条件として、細胞の有糸分裂が、細胞分化に向かって進行し得、そのため妊娠の確立の初期の事象において決定的な役割を果たす。この役割を支持する証拠は、増殖因子(マイトジェン)、サイトカインおよび核内がん遺伝子の子宮内膜生成である。これら化合物の多くは、それらの受容体を介して作用する卵巣ホルモンに応答して濃度が増大して生成される。
【0008】
増殖因子のうち、現在注目されているのは上皮増殖因子(EGF)、ヘパリン結合性上皮増殖因子(HBEGF)、アンフィレグリン(amphiregulin)およびインスリン結合性増殖因子(IGF−IおよびIGF−II)である。これら増殖因子のうちの少なくとも1つであるアンフィレグリンの局所的(パラ分泌)作用の重要性は、マウスにおける最近の実験によって証明されている。アンフィレグリンに対する着床特異的でかつプロゲステロン調節性遺伝子の阻害は、抗プロゲスチン、RU486によりもたらされ、これにより着床が防がれた (Das et al. Molecular Endocrinology 9, 691-705, 1995)。
【0009】
サイトカインのうち、白血病阻害因子(LIF)およびコロニー刺激因子(CSF)も着床時にマウスの子宮により生成されるが、遺伝子ノックアウトの研究により、取除くと着床および正常な胎盤形成が行なわれないことからこれら因子が不可欠であることがわかった (Stewart et al. Nature, 359, 76-79, 1992; Pollard et al. Developmental Biology 148, 273-283, 1991) 。
【0010】
核内がん遺伝子のうち、c−junおよびc−fos(遺伝子転写の初期のインジケータ)のレベルはエストロゲンを投与した後子宮内で増大し、かつプロゲステロンにより抑制される。
【0011】
着床時の栄養芽層浸潤の範囲については種の間で重大な相違がある。ヒトの女性の場合、初期の栄養芽層は浸潤性が高く、ブタの場合は、着床が非浸潤性の形態をとり、子宮内膜上皮は3カ月の妊娠期間の間中破られることはない。これらの種のいずれも着床失敗率は高く、それぞれ約60%と30%にものぼる。失敗率がこのように高い理由は複雑でかつ十分に理解されていない。ヒトの女性の場合、その失敗の約半分は遺伝的な異常によるものだが、ブタの場合、他の有蹄動物と同様その失敗率は高いが、遺伝的欠陥が原因のものは全体の数%を占めるにすぎない。
【0012】
ヒトの女性において着床が失敗した後、プロゲステロン分泌が低下して、通常の月経周期の終わりと同様出血を引き起こす。これは他の多くの動物にはみられない。月経および
着床に関する障害は共通のものである。さらに、連続的にホルモン療法を行なった結果としての月経出血または連続して行なう複合型ホルモン置換療法やプロゲスチンのみによる持続性避妊薬の使用に関連する月経出血のいずれもが、女性における不健康の大きな原因である。この出血の根本的な理由については、生化学(たとえばプロスタグランジン、酵素、ポリペプチドおよびタンパク質、血小板活性化因子PAFおよび血管内皮増殖因子VEGF等のバソアクティブ化合物)および細胞機構(たとえば免疫抑制化合物を生成する、子宮に戻ってくる移動細胞)が最近の多くの研究の焦点となっている。
【0013】
生殖プロセスに関する現在の理解は、ステロイドホルモン生成の制御とこれらホルモンの標的組織に対する作用とが概ね中心になっている。しかしながら、パラ分泌因子および自己分泌因子は、ステロイドと相互作用するにもかかわらず、ますます生殖機能の重要なメディエータとして考えられるようになっている (Benton, 1991 Current Opinion in Cell Biology 3, 171-175; Rozengurt, 1992 Current Opinion in Cell Biology 4, 161-165; Tartakovsky et al., 1991 Developmental Biology 146, 345-352; Robertson et al., 1992 Current Opinion in Immunology 4, 585-590; Smith, 1994 Human Reproduction 9, 936-946; および Tabibzadeh, 1994 Human Reproduction9, 947-967) 。これに関する最もわかりやすい例は、卵巣を摘出したマウスに見られる。このモデルの場合、子宮はエストラジオールの単回投与に応答して顕著な増殖を示した。この効果は抗TGFα抗体(TGFは「トランスフォーミング増殖因子」)により遮断することができ、これはこの組織におけるエストロゲンのマイトジェン効果がTGFαにより仲介されていることを示唆している (Nelson et al., 1992, Endocrinology,131, 1657-1664) 。
【0014】
結果として、婦人科学における医学的介入は主に子宮のステロイド/抗ステロイド調節に基づくものである (Yen & Jaffe, 1991 in“Reproductive Endocrinology”, Eds. Yen, Jaffe & Benton, Pub. WB Saunders, Philadelphia; Baird, 1993 British Medical Bulletin 49, 73-87) 。この手法の成功には疑いの余地がないにもかかわらず、避妊技術の分野では20年にもわたって概念の進歩がみられず、着床を改善する手段は発見されず、胎盤の成長および発育を促進する上での進歩もみられず、良性の婦人科系疾病(月経障害およびフィブロイド)を治療する新たな手法も発見されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ある種の組織または組織類における少なくともいくつかの細胞の遺伝子型を変えるために哺乳動物に「遺伝子導入」技術を使用することに関し一連の文献が刊行されている。特に、受容者に核酸配列を導入することにより、導入された核酸配列によりコードされるポリペプチドの発現によって受容者の遺伝的欠陥を克服する目的で行なうヒトの「遺伝子治療」の試みが知られている。これまで行なわれた遺伝子治療の試みには、たとえばDNA配列(ウイルスベクター内に組込まれた)をのう胞性線維症の患者の気道内に導入し、その患者の気道の内側を覆う上皮細胞の少なくともいくつかの表現型を変えるものがあった。これまでのところ、哺乳動物の子宮内膜内へDNAを導入しようという試みは、これに適した技術の可能性にもかかわらず公表されたことがない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の要約
本発明は、1つの局面において、細胞内へ核酸を導入することによって哺乳動物個体の生殖系(生殖管)の少なくともいくつかの細胞の1つまたはそれ以上の特徴を変更する方法を提供する。
【0017】
本発明は、第2の局面において、哺乳動物個体の生殖系の少なくともいくつかの細胞の1つまたはそれ以上の特徴を変更する上で使用するための、核酸を含む組成物を提供する

【0018】
本発明は、第3の局面において、哺乳動物個体の生殖系の少なくともいくつかの細胞の1つまたはそれ以上の特徴を変更するための核酸を含む組成物の使用を提供する。
【0019】
本発明は、第4の局面において、哺乳動物個体の生殖系の少なくともいくつかの細胞の1つまたはそれ以上の特徴を変更するための物質の調製において核酸を含む組成物の使用を提供する。
【0020】
本発明は、第5の局面において、哺乳動物個体の生殖系の少なくともいくつかの細胞の1つまたはそれ以上の特徴を変更する上で使用するための組成物を製造する方法であって、核酸を生理学的に許容可能な担体物質と混合することを含む方法を提供する。
【0021】
本発明は、のう胞性線維症患者の肺に適用する場合に少なくとも部分的に成功することが既に知られている遺伝子治療技術の延長上にある、自明な技術として決して捉えることはできない。子宮内膜の疾病のうち知られたもののいずれについても、受け継がれた遺伝的欠陥が原因と考えられているものはないので、当業者が遺伝子治療技術を子宮内膜に応用しようとする動機は持ち得なかったはずである。さらに、子宮内膜の上皮は肺の上皮(層状化された)とはタイプが異なっており(体腔上皮由来の立方体様)、したがって同じような態様で機能するとは予測され得なかったと考えられる。さらに、少なくとも霊長目では、子宮内膜上皮の周期的排出があり、これによりどのトランスフェクトされた細胞も失われる傾向にある。発明者らは最終的に、いずれも起こる可能性があり、実際的な困難を生じさせる可能性があった、導入DNAの母体器官内への転移、および胚の胎盤内への転移が、生じなかったことを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
典型的には、核酸は哺乳類の雌(好ましくはヒトの女性)内に、特にその子宮内膜細胞内へ導入される。核酸は好ましくは子宮内膜の腺上皮内に導入される。この核酸は、同核酸が導入される細胞により既に自然に合成されるポリペプチドをコードすることができ、それによりそのポリペプチドの発現のレベルを遺伝子投与効果により増大させる。代替的には、本発明の方法を使用して、細胞に対し、これらの細胞においてこれまで合成されていないポリペプチドの発現を誘発させることができる。このポリペプチドは、たとえば2つまたはそれ以上の異なるタンパク質からの機能的ドメインを全体的または部分的に含むキメラポリペプチド等の、天然に存在しない「人工の」組換えポリペプチドであり得る。
【0023】
核酸は、好ましくはDNAだが、RNA(センス鎖またはナンセンス鎖のいずれか)の導入を検討することもできる。アンチセンス分子を使用して、核酸が導入される細胞内でのポリペプチドの発現を阻害するかさもなくばこれに妨害することができる。導入される核酸配列は、アンチセンスRNAかまたはアンチセンスRNAの合成を細胞内で導くDNA配列とすることができる。このような阻害を行なうもう1つの方法は、リボザイムの合成を導く配列を細胞内に導入することで、これが、発現を阻害しようとしているポリペプチドの合成に必要なmRNAを特異的に開裂させるのである。
【0024】
本発明者らは、核酸の投与時期(生殖周期の段階に対する)が核酸の取込みの効率に大きく影響することを発見した。発明者らは、一般に、投与した核酸の取込みの度合いを最適にするためには、排卵から、血中のプロゲステロンレベルがピークに達する日までの(その日を含む)期間に投与する必要があることを見出した。プロゲステロンレベルは、通常子宮内に胚が存在していれば、その胚が着床状態になり得る時点に近い時点周辺でピークに達する。
【0025】
そこで、発明者らは、たとえば周期における第2日目から第3日目(第1日目は膣栓が最初に検出される日として捉える)に、投与されたDNAの最大の取込みがマウスの子宮内膜で起こることを発見した。ヒトの場合、排卵は典型的には周期の第14日目に起こり、着床は黄体期中期に生じたと一般に計算する(ただしヒトの場合には正確な時期は十分明らかにされていない)。
【0026】
核酸は裸で投与してもよく、また他の物質(たとえばリポソーム)と結合もしくは関連させてもよい。核酸は、単純なトランスフェクション(リポソームを伴うまたは伴わない)により受容体哺乳動物の細胞内へ導入することが好都合である。本発明者は、このことが、ウィルスベクターに配列を導入する必要なしで、驚くほど効果的であることを見出した。しかしながら、ウィルスベクターの使用は好ましく、特にある種の細胞タイプ(たとえばWO 93/20221号に開示されたもの)を標的とすることができるものの使用が好ましい。
【0027】
核酸は、構造物(たとえばプラスミド、コスミド等)の一部として都合よく導入され、その構造物は、導入された核酸の少なくとも一部の転写を引き起こすべく、哺乳動物において作用可能なプロモータを含むことが有利である。このプロモータは、構造的なものでよく、またより好ましくは導入された配列の発現の制御をより高めるために誘発的なものでもよい。
【0028】
本発明に従い行なわれるある特定の方法では、哺乳動物個体の雌の子宮内膜細胞内に核酸分子を導入することによってその雌の受胎能力の増減調節を図る。本発明を特に使用して、愛玩動物(たとえばネコやイヌ)が望まれない子供を妊娠しないようにするための避妊方法を提供することが可能である。他の実施例では、本発明はブタ、ウシ、ヒツジ等の家畜種の受胎能力を改良する方法を提供する。
【0029】
核酸は、好ましくは膣を介して生殖管内へ導入されるが、これは侵襲性の手術技術の必要性を回避する。しかしながら、必要であれば、核酸を手術を行なって直接的に生殖管内(たとえば子宮内)へ導入することもできる。本発明は、極めて多数の異なる核酸配列のうち1つまたはそれ以上を導入することにより、1つまたはそれ以上の特徴を変更する可能性を提供するものである。
【0030】
ある実施例において、生殖管細胞内へ導入される配列はサイトカインまたは増殖因子の有効部分の発現(好ましくは高いレベルでの)を導く(有効部分とは、特定のリガンド等に結合する等、特に全体に関連する生物学的活性を保持する分子の部分をいう)。これらに限られるわけではないが、導入された配列により発現され得るポリペプチドの例を以下に述べる。すなわちインターロイキン、白血病阻害因子(LIF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、ヘパリン結合性上皮増殖因子(HBEGF)、インスリン結合性増殖因子IおよびII(IGF−IおよびIGF−II)、アンフィレグリン、コロニー刺激因子(CSF)、および腫瘍壊死因子(TNF)などである。
【0031】
他の実施例では、導入された配列はIL−1受容体アンタゴニスト等のサイト
カインまたは増殖因子のアンタゴニストの有効部分の発現を導き得る。有利には、このアンタゴニストは、サイトカインまたは増殖因子の可溶性受容体でもよい。適当な例には以下のものの可溶性受容体が含まれる。すなわち、トランスフォーミング成長因子(TGF)α、繊維芽増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インターロイキン6(IL−6)およびVEGFである。
【0032】
他の実施例では、導入された配列は、免疫効果を有するポリペプチドの有効部分の発現を導き得る。特に、このポリペプチドは免疫原性活性を有して、局所的免疫応答を刺激す
る役割を果たし得る。こうして、本発明を使用して新規な免疫処置の方法を提供することができる。有利には、免疫原性ポリペプチドは、粘膜の病原体からの抗原である。共通の粘膜免疫系により、生殖管における抗体生成の刺激によって、消化器管、気道、涙腺等の遠位の粘膜部位にも対応する抗体が生成され得る。ただし、好ましくはこの抗原は、生殖管に侵入しおよび/または集落形成する病原体、典型的には性感染病を引き起こす病原体由来のものである。そのような例には、HIV、乳頭腫ウィルス(たとえばさまざまなタイプのHPV)等のウィルス、クラミジアおよびバクテリア(たとえば淋菌)が含まれる。代替的には、免疫効果を有するポリペプチドは、免疫グロブリンまたはその有効部分(たとえばFab、FvもしくはscFvフラグメントまたは単鎖抗体)とすることができる。免疫グロブリンまたはその有効部分を病原体(上に例を挙げたものなど)に向けるか、またはステロイドもしくは他のホルモン等の何らかの他の抗原に向けることが可能である。こうして、免疫グロブリンまたはそのフラグメントが局所的に発現されて、疾病の予防または受胎能力の調節を行なうことが可能になる。
【0033】
他の実施例では、導入された配列は、ポリペプチドまたはその有効部分の発現を導くことができ、これは月経に対し効果を有する。
【0034】
他の実施例では、導入された核酸は生殖管細胞の表面上で、受容体分子の有効部分の発現を導き得る。この受容体は、サイトカイン、ステロイドホルモン、または増殖因子のための受容体(EGF受容体、TGFα受容体またはVEGF受容体等)が可能である。その受容体に結合するリガンドが知られていないという点で「オーファン」受容体と呼ばれるいくつかの受容体が知られている。このオーファン受容体は新規な治療または予防薬用化合物の標的を提供し得るものとして製薬産業の大いなる関心を呼んでいる。
【0035】
したがって、本発明は、他の局面においてポリペプチドの生物学的性質を特徴づける方法を提供し、同方法は哺乳動物の生殖管の細胞内へ特徴づけられるべきポリペプチドをコードする配列を導入するステップと、発現されたポリペプチドの効果を評価するステップを含む。好ましくは、この哺乳動物とはマウスまたはラット等の実験用動物である。好都合なものとして、特徴づけられるべきポリペプチドはオーファン受容体で、かつ典型的にはその特徴づけの少なくとも一部分にそのためのリガンドの同定を含む。一般にこの方法は、実験用哺乳動物からとられた組織の切片の分析およびさまざまな標準的な方法(たとえば組織化学染色法、in situ ハイブリダイゼーション、免疫染色法等)のいずれかによるその処理を含むことになる。
【0036】
こうして、本発明は、子宮内膜機能(および生殖能力または受胎能力)のステロイドによる調節に対し、インビボで直接遺伝子を導入するという新規な代替手段を提供する。この達成のために、遺伝子の構造物は特にサイトカインの作用を調節するよう設計される。これはさまざまな方法によって行なうことができる。たとえば、分泌されるサイトカインを生成する細胞を、プロモータ駆動アンチセンス構造物またはリボザイムを使用する転写および翻訳の遮断によって該因子を合成しないようにすることができる。代替的には、分泌される因子の作用を受容体アンタゴニストにより遮断することができる。天然起源の可溶性受容体は、生体活性リガンドを除去および中和して、競合的受容体アンタゴニストとして作用し得る。代替的には、たとえばIL1Ra(インターロイキン−1受容体アンタゴニスト)等の天然の受容体アンタゴニストが存在する。このタンパク質を腹腔内投与することによってマウスにおける胚盤胞の着床を阻止する(Simon et al., 1994、他の箇所にも引用) 。
【0037】
卵巣および子宮上皮が分泌する可溶性増殖因子は、胚上に発現された受容体を介して直接作用することによって哺乳動物の胚の着床前の成長を制御できることを示す相当の証拠がある (Pampfer et al., 1990 In Vitro Cellular and Developmental Biology26, 944-
948) 。今度は、成長する胚が、自己分泌の形でまたは子宮内膜上で作用してその受容性に影響を与え得る増殖因子を生成する。たとえば、マウスの場合、LIF発現(母体の組織からの)は着床直前の4日目に腺上皮において劇的に上昇する。LIFは、着床前の胚盤胞に作用することができ、これによってLIF受容体(LIF−R)が発現される。胚は、偽妊娠母への移送の際には着床するのに、LIFノックアウトマウスの場合には着床しないため、このLIFの母体での発現は着床にとって極めて重要である(Stewart et al., 1992、他の箇所にも引用) 。
【0038】
本発明者らは、この研究をヒトの段階にまで発展させ、ヒトの胚がLIF−RをコードするmRNAを発現させるが、それら自体はLIFを発現しないことをRT−PCRによって示した。LIFはアフィニティの低い受容体LIF−Rに結合することによって作用する。高アフィニティ結合は、LIF/LIF−R複合体が、シグナル伝達補助タンパク質gp130と相互作用する際に生じる。ヒトの胚は、このタンパク質をコードするmRNAも含む (Sharkey et al., 1995 Biology of Reproduction 53, 955-962) 。本発明者らはまた、ヒトの腺上皮におけるLIFの分泌がステロイドによって調節されており、黄体期に最大になることを示した(予測される着床の時期周辺、Charnock-Jones et al., 1994 、他の箇所にも引用) 。さらに、ヒトの着床前の胚にインビトロでLIFを投与することで成長が改善されることが報告されている。すべての証拠が、LIFがマウスの場合と同様ヒトの着床においても重要である可能性を裏づけている。明らかにサイトカインは、子宮管腔の胚と子宮内膜との間の(双方向の)重要な連絡を仲介し得る。本発明は遺伝子の転移を利用してこの連絡を中断させたり強化したりすることを可能にし、新規な避妊法または逆に着床の改善をもたらす。
【0039】
生殖機能のパラ分泌および自己分泌調節に関する最近の研究の多くは、局所的サイトカイン/受容体レベルの有効な調節方法の欠如により、記述的な分析に限定されている。本願において提示する証拠によって、子宮上皮のインビトロでのトランスフェクションが実行可能であることがわかる。これにより、子宮内膜を実験的に操作して新たな治療戦略を提供することができる。以下に概略を説明する研究は、インビトロでの子宮遺伝子転移の実施可能性を示すレポータ遺伝子の使用を記載する。実際には、子宮の機能を変化させることができる遺伝子(または他のDNA構成)の使用が考えられる。これらの例には、受容体アンタゴニスト(たとえばIL−1Ra、可溶性VEGF受容体等)、天然または修飾されたサイトカインおよび増殖因子、プロテアーゼ阻害剤またはステロイド受容体ならびにさまざまなリボザイムおよびアンチセンス構造物が含まれる。この研究によって、遺伝子をインビトロで子宮内膜に転移することができることが示され、かつこれによってたとえば動物およびヒトの両方における着床の改善、着床の中断(すなわち避妊)、子宮内膜炎、月経過多、過形成および腺がんなどさまざまな子宮内膜(および胎盤)の条件下での有用性が見つかるであろう。
【0040】
我々が開発したプロトコールを用いて、以下に説明するような結果が得られた。これらの結果は、遺伝子構造物をインビボ(マウスの場合)およびインビトロのいずれでも子宮内膜に転移することができ、これらの構造物が、転写的に(および翻訳的に)活性であることを提示する。
【0041】
ここで、本発明についてさらに例を挙げかつ添付の図面を参照して説明することにする。
【0042】
図1Aおよび図1Bは、(A)βガラクトシダーゼレポータ遺伝子の発現を導くプラスミド構造物または(B)このレポータ遺伝子を欠く類似のプラスミドをトランスフェクトされたマウスの子宮内膜の組織学的断面を示す光学顕微鏡写真である。トランスフェクトされた細胞は細胞質内の濃い暗い(青色の)染色によって明確に識別され、これが断面B
には見られない。
【0043】
図2は、図1Aに示すものと同じプラスミドで形質転換されたインビトロのヒト子宮内膜細胞の光学顕微鏡写真であり、レポータ遺伝子の発現による暗い(青色の)染色は残りの腺構造体に主に関連しており、一方まわりの細胞はより染色状態が弱い。
【0044】
図3は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(pcDNA3CAT)をコードする遺伝子がうまくトランスフェクトされた子宮内膜細胞に関するCATアッセイ(管当たりのカウントで)の結果を、対照プラスミド(pcDNA3)をトランスフェクトした細胞と比較して示す棒グラフである。
【0045】
図4は、ルシフェラーゼ(pcDNA3LUC)をコードする遺伝子をうまくトランスフェクトした子宮内膜細胞に関するルシフェラーゼアッセイ(相対的光学単位での)の結果を、対照プラスミド(pcDNA3)をトランスフェクトした細胞と比較して示す棒グラフである。
【実施例1】
【0046】
マウス
未産の成熟したBALB/cJマウスを光(14時間は明るく、10時間は暗く、20時に消灯)および温度(22℃)が制御されたスモール・アニマル・ハウス内に入れて、マウスおよびラット食(Labsure; Christopher Hill Group, Poole, Dorset, UK) を与えた。これらのマウスを同じ種類の精管切除された雄と一晩一緒に置き、翌朝膣栓が存在するかどうかを調べた。交尾は02.00時に行なわれたと予測され、時間0および第1日目が膣栓がはじめて検出された日としてカウントされた。交尾した雌は実験の前には個別に置いた。
【0047】
メタフェーン麻酔下(メトキシフルオラン、C-Vet Ltd., Bury St. Edmunds) で無菌法を使用して側腹切開を行なった。子宮角は腹部中央または側部切開によって露出された。注入は、卵管子宮接合部で子宮角先端へまたは子宮頸部接合部で子宮角の基部のいずれかに行なわれた。研究を繰返すことによって、後者のやり方が最良の投与法であることがわかったが、いくつかの目的について生殖管への障害を最小限に抑える必要がある場合は前者の方法が好ましいことがわかった。
【0048】
リポソーム/DNA(pcDNA3構造物、+/−βガラクトシダーゼレポータ遺伝子)、裸のDNAまたは対照溶液(25−100μl)の注入が、平らなストラタチップの先端を子宮角の基部に挿入することによって行なわれた。溶液はトラベスティアプリケータによって事前にチップ内へ引き上げられており、このアプリケータは子宮角への溶液のゆっくりした注入を制御するためにも使用した。
【0049】
注入の後、切開部を断続さし縫い縫合により閉じ、かつマウスを各々のかごの中で回復させ、適宜食物と水を与えた。
【0050】
プラスミド構造物
本出願において記載する(例示する)プラスミドは、商業的に入手可能なベクタpcDNA3(カタログ番号V790−20、インビトロゲン(Invitrogen)サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)に基づくものである。レポータ遺伝子を伴わないプラスミドpcDNA3を負の対照として使用した。実験プラスミドpcDNA3−βgal、pcDNA3−CATおよびpcDNA3−Lucは、それぞれβガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、およびルシフェラーゼレポータ遺伝子を含んでいた。これらのプラスミドは以下の遺伝子要素を含んでいた。すなわちアンピシリン耐性
遺伝子、ColEl複製起点、CMVプロモータ、[レポータ遺伝子]、牛の成長ホルモンポリA付加部位、fl複製起点、SV40複製起点、ネオマイシン耐性遺伝子、およびSV40ポリA付加部位を、レポータ遺伝子がプラスミドが導入された際に真核細胞内で発現可能になるように動作可能な関係において含んでいた。プラスミドDNAは、アルカリ溶解により大腸菌から精製されかつさらにキアジェン(Qiagen)イオン交換カラムを使用して(製造者の注意書きに従い)精製された。
【0051】
リポソームの調製
使用したリポソームは、DOPSA(2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N−N−ジメチル−1−プロパナミニウムトリフルオロアセテート)と、DOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)とを3:1(w/w)脂質配合したものであった(LipofectAMINE; Gibco BRL Paisley, Scotland) 。使用したさまざまなDNA対脂質比およびさまざまな注入量について表1に示す。DNA/リポソームは各実験の直前に混合した。10μlのDNA溶液を10μlの脂質溶液に添加し、軽く混合して、室温で15分放置した。次に、80μlのPBSを添加して、DNAと脂質の最終濃度が表1に示すものになった。次に、これを偽妊娠マウスの子宮に注入した(マウスと手術の詳細については上の項を参照)。
【0052】
βガラクトシダーゼの組織化学的局在化
動物を二酸化炭素の吸入により死なせ、子宮角を摘出し、脂肪と腸間膜とを取り除いた。各子宮角は3つの切片に分けられ、上下切片は液体窒素中で急速冷凍され、βガラクトシダーゼ含量の定量化分析の前に−70℃で保存された。各子宮角の中央切片は、PBS中1.25%グルタルアルデヒド中で15分間固定され、PBS中で2回すすがれ、X−gal染色溶液(1mg/ml X−gal、5mM K3 Fe(CN)6 、5mM K4 Fe(CN)6 、2mM MgCl2 、0.02%NP40および0.01%デオキシコール酸ナトリウム)中に室温で24時間置かれた。切片はPBS/3%DMSO中ですすがれ(2×5分)、70%エタノール中ですすがれ(3×5分)、かつ100%エタノール中に置かれた。組織をグリコールメタクリレート樹脂中に固定し、7μmの切片を切り取りニュートラルレッドで対比染色して顕微鏡で検査した。
【0053】
結果
以下の表1は、DNA/リポソーム複合体を投与した後採用したさまざまな条件および得られた子宮切片の染色強度を示す。この表に示す結果によって、プラスミドDNAの投与のタイミングの重要性が示され、すなわち2日目に投与することが最良レベルの発現をもたらし、3日目で投与しても程よいレベルの発現が得られるが、4日目に投与した場合はレポータ遺伝子の発現が殆ど見られない。これは恐らくその時点では子宮内膜の細胞がこの構造物を取り込まなくなるからと考えられるが、その理由についてははっきりとはわかっていない。
【0054】
【表1】

【0055】
対照
注入を受けていない6日目の偽妊娠マウスは、βガラクトシダーゼ活性について子宮の染色を示さなかった。
【0056】
pcDNA3マイナスβガラクトシダーゼ(2μg/ml)と脂質(20μg/ml)50μlを注入した偽妊娠マウス(投与日2、剖検日6)はβガラクトシダーゼ活性について子宮の染色を示さなかった。
【0057】
X−galで染色した後の組織切片を調べたところ、腺上皮は強く染色されており、また管腔上皮も染色されていたが腺上皮に比べるとその強度は劣っていた。偽妊娠2日目に50μl中2μg/mlDNAおよび20μg/ml脂質をトランスフェクトされた動物において最適染色が観察された。図1aは、この動物からの切片を示し、かつ図1bはβ−gal遺伝子を欠いたプラスミドを受けた(同じ条件下で)対照動物からの切片を示す。
【実施例2】
【0058】
ヒトの子宮内膜の初代培養物のトランスフェクション
本発明者らはまた、ヒトの子宮内膜上皮細胞がインビトロで高い効率でトランスフェクションできることを証明した。
【0059】
既に上で説明した同じプラスミド(pcDNA3、+/−βガラクトシダーゼレポータ遺伝子)と脂質とを使用した。子宮内膜細胞は、スミス・アンド・ケリー法(Smith et al., 1987 Prostaglandins 34, 553-561)により調製した。培養物が確立すると、以下のトランスフェクションプロトコールを用いた。DNA(2μg)とリポソーム(8μg)を各々無血清培地(Opti−MEM1 BRL)100μl中で希釈し、混合しかつ室温で15分間インキュベートした。この後、さらにOpti−MEM1を800μl添加した。細胞(24のウェルプレート中の)をPBSで洗浄した後Opti−MEM1で洗浄した。DNA/リポソーム混合物(0.5ml)を細胞に加えてCO2 インキュベータ中37℃で3時間インキュベートした後、20%牛胎児血清を含む培地0.5mlを添加した。トランスフェクションから24時間後、細胞は固定され(0.1%グルタルアルデヒド)、すすがれてX−galで染色された。
【0060】
この研究は、遺伝子をインビボで子宮内膜に転移することができることを示し、さらにこの研究は、たとえば動物およびヒト双方における着床の改善、着床中断(すなわち避妊)、子宮内膜炎、月経過多、過形成および腺がんなど多くの子宮内膜(および胎盤)に関する条件下での有用性が考えられる。
【0061】
精製したヒトの子宮上皮細胞をインビトロでトランスフェクションすることに関してさらにデータが得られた。このデータはインビボでのマウスの研究を補完しかつ培養で最小限の時間をおいた後同様の細胞がインビボで使用される同じリポソームとDNAで効率よくトランスフェクトされ得ることを示す。
【実施例3】
【0062】
インビトロでのヒトの子宮内膜上皮のトランスフェクション
子宮内膜からのヒトの1次上皮細胞をZhang 他の方法に従い分離し培養した(J Cell Science, 1995; 108:323-331)。これら細胞を標準的な6ウェルの組織培養皿中に置いたところ、翌日集密密度は50%であった。これらの細胞を5日間培養し、ウェル当たり60,000個の細胞密度で24ウェルのプレートに移しかえた。翌日これら細胞にDNA/リポソーム複合体(DNA/LC)をトランスフェクトした。これらは以下のとおり調製された。
【0063】
トランスフェクションの経過
装置
Lipofect AMINE(Gibcoカタログ番号18324-012), Opti-MEM1(Gibco カタログ番号51985-018)
24ウェルの培養皿
細胞培地はZhang 他により記載のとおり(上に引用)。
【0064】
構成は、DMEM/HEPES、10%FCS Endothelial Cell Growth Supplement (Sigma カタログ番号E-2759) 、30μg/mlヘパリン(Sigma カタログ番号H-3149) 、90μg/ml、ゲンタマイシン(Sigma カタログ番号G-1272) 5μg/ml、およびファンギゾン(Gibcoカタログ番号15290-018)1μg/mlであった。また、Mg++、Ca++無PBSと2mlエッペンドルフ管も使用した。
【0065】
異なるレポータ遺伝子を含む2つの異なるプラスミド構造物を使用した。pcDNA3CATはInvitrogen Corporationから入手したもので、酵素クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードするレポータ遺伝子を含んでいる。第2のプラスミドpcDNA3lucは、同じベクタを含むが、CAT遺伝子は蛍のルシフェラーゼ酵素をコードする遺伝子に置換えられた。ベクタの大型DNA調製物が、Qiagenミディプレップシステムを使用して作られた。負の対照として、レポータ遺伝子を含まないpcDNA3が使用された。
【0066】
DNA/リポソーム複合体の調製
1) 溶液A
エッペンドルフ管で、DNA1μgを100μlのOpti−MEM1中で希釈する。DNAはトランスフェクション培地中1μg/mlの最終濃度のものを使用する。
【0067】
2) 溶液B
エッペンドルフ管で、Lipofect AMINE4μlを100μlのOpti−MEMI中で希釈する。Lipofect AMINEは、トランスフェクション培地中の8μg/mlの最終濃度のものを使用。
【0068】
3) 2つの溶液AとBとを新しい管中で合わせ、軽く混合する。
【0069】
4) 室温で15分間インキュベートする。
細胞をすすぐ
1) トランスフェクションの前に、血清を含まないFRESH PBS中で細胞単層をおよそ3回すすぐ。
【0070】
2) この細胞単層をOpti−MEMIで2回再びすすぐ。
【0071】
トランスフェクション
1) DNA−脂質混合物を含む各管にOpti−MEM800μl(全体で1.0ml)を添加する。最終的なDNA濃度は1μg/mlで、lipofect AMINEの濃度は8μg/ml。
【0072】
2) 細胞単層中のOpti−MEMIを除去する。
【0073】
3) DNA/LC混合液を軽く混ぜて洗浄した細胞に希釈した複合体の溶液を重ねる。0.5ml/24ウェル。
【0074】
4) 細胞単層をCO2 インキュベータ中で37℃で3時間インキュベートする。
【0075】
さらなる細胞の培養
1) 3時間後、トランスフェクション混合液を取り除き、Zhang 培地2mlを各ウェルに添加し、さらに培養する。
【0076】
定量アッセイ
トランスフェクションの24時間から48時間後、細胞が抽出され、CATまたはルシフェラーゼリポータ活性について適宜アッセイされた。
【0077】
1.細胞をPBS内で3回すすぐ。
【0078】
2.細胞を300マイクロリットルの溶解緩衝液(Promega カタログ番号E−3871)で抽出し、細胞を完全にエッペンドルフ管内にかき落とす。
【0079】
3.抽出物を−70℃で急速に凍結し、アッセイまで保存する。
【0080】
4.アッセイのために、抽出物を解凍し、13,000gで5分間遠心分離器にかける。
【0081】
5.凍結/解凍/回転サイクルを今一度繰返す。
【0082】
6.Tropix製ルシフェラーゼアッセイキット(カタログ番号BC100L)を使用してルシフェラーゼリポータ遺伝子活性をアッセイする。1管につき各40μlの抽出物を使用する。
【0083】
7.CATリポータ遺伝子活性は、Amersham製Quan−t−CATキット(カタログ番号TRK1012)を使用してアッセイされた。
【0084】
結果
一次の子宮内膜上皮細胞は、上述のように24ウェルプレート内でトランスフェクショ
ンされた。トランスフェクションは、pcDNA3(対照として)、pcDNACAT、およびpcDNA3LUCの3連のウェルで実施された。48時間後、細胞が採取され、ルシフェラーゼまたはCAT活性についてアッセイされた。
【0085】
CAT酵素は、アセチル補酵素Aからクロラムフェニコールへのアセチル基の転移に触媒作用を及ぼす。トリチウム化されたアセチルcoAを使用することにより、クロラムフェニコールへの放射性ラベルの転移が起こる。試料内のCAT活性は、生成されたトリチウム化クロラムフェニコールの量に正比例する。したがって、結果はチューブ当たりのcpmで表わされる。既知量の精製CATを含有する溶解緩衝液を使用して標準曲線が作成できる。
【0086】
結果が図3に示される。これは、典型的な実験に対する3連の測定の平均値±標準誤差を示す棒グラフである。数値の形での結果は以下に示されるとおりであった。ここでpcDNA3CATで処理された細胞内のCAT活性は、対照試料の約6倍高く、これは子宮内膜の細胞のトランスフェクションが成功したことを示している。
【0087】
【表2】

【0088】
ルシフェラーゼについてのアッセイにおいて、ルシフェラーゼを含有する細胞抽出物はその基質ルシフェリンと混合され、結果として光が放射されるようになる。この光シグナル強度は抽出物内に存在するルシフェラーゼ酵素に比例し、ルミノメーターによって測定が可能である。最初の結果を、相対的な光単位で得た。
【0089】
結果が図4に示される。これは、典型的な実験に対する3連の測定の平均値±標準誤差を示す棒グラフである。数値の形での結果は以下に示されるとおりであった。pcDNA3LUCで処理された細胞からのシグナルは、対照試料のバックグラウンドシグナルの30倍を超えたが、これもやはり子宮内膜細胞のトランスフェクションが成功したことを示している。
【0090】
子宮内膜遺伝子転移の可能な応用例
少なくとも7つの異なる種類の遺伝子構造物が、種々の異なる効果を得るために子宮内膜にトランスフェクションされ得る。これらの異なる種類の各々を順に記載する。
【0091】
1) サイトカインおよび増殖因子の過剰発現
これらは、子宮の上皮細胞内でサイトカインまたは増殖因子のいずれかを過剰発現するよう設計されるという点で、概念的に最も単純な種類の構造物である。このような過剰発現に好適なcDNAの例は、LIF、VEGF、EGF、CSF、TNF、アンフィレグリン(Amphiregulin)、ならびに種々のインターロイキンおよびコロニー刺激因子をコードするものを含む。これらは子宮内膜内で自然に発現されることがわかっており、子宮内膜の機能を調節するのに重要であると考えられる。(Stewart et al, 1992, Nature, 359,
76-79; Charnock-Jones et al, 1994, Journal of Reproduction and Fertility, 101,
421-426; Charnock-Jones et al, 1993, Biology of Reproduction, 48,1120-1128; Das
et al, 1995, Molecular Endocrinology, 9, 691-; Tabibzadeh は、この分野の広範囲な論評を出版した(1994, Human Reproduction Update, 9, 947-967) 。) これらの作用因子は各々、着床、血管発生、および白血球の生物学を含む生殖機能のさまざまな局面に影響を及ぼす。したがって、このような構造物が投与され得る状況とは、特に家畜の種において受胎能を向上させたい場合、またはヒトおよび愛玩動物の受胎を防ぎたい場合、およびヒトの種々の月経不順を治療したい場合であろう。
【0092】
家畜の受胎能を向上するよう設計された実験の例
LIFは着床のプロセスに不可欠であることがわかっている(上述のStewart et al, 1992 )。この因子は、着床時に子宮内膜によって生成される。したがって、胚の損失率が高い種において、着床時における子宮内膜からのLIFの発現レベルを増すことでこれらの損失率を減じることが可能である。したがって、着床時に子宮内膜からのLIFの合成を導くよう設計された遺伝子構成のトランスフェクションは、このような種における受胎率を高めることができる。子宮内膜内にトランスフェクションされる構造物は、LIFタンパク質が適当な時期に確実に生成されるよう、適切な調節配列を含有する必要がある。これは、問題とする種からのLIF遺伝子のプロモータを使用して達成され得ると考えられる。
【0093】
女性の月経機能不全を緩和するよう設計される治療もまた、子宮内膜遺伝子転移を使用して構想され得る。この一例として、子宮内膜内の血管発生をVEGF等の脈管形成の増殖因子をコードする遺伝子のトランスフェクションによって改変することが考えられる。VEGF生成の局所増加は毛細血管の成長を強化するものと期待され、したがって子宮内膜の肥厚を促進し得る。同様に、VEGFのレベルが増すことで、月経後の毛細血管の修復が容易になり、ひいては、この種類の構造物で治療された患者の出血のパターンを改変し得よう。
【0094】
2) 受容体の過剰発現
子宮上皮によって発現される受容体の数および種類の増加は、大きな生物学的結果をもたらすものと予想される。過剰発現が望まれる受容体の種類は、EGF、TGFα、VEGF等の増殖因子およびサイトカイン受容体、ならびに種々のコロニー刺激因子およびインターロイキンを含むが、これらに限定されるものではない。ステロイドホルモン受容体もまた、上皮細胞内の発現に好適である。受胎能の向上、受胎の防止、月経不順の治療および、オーファン受容体(オーファン受容体とは、リガンドが現時点で識別されていない受容体である)の機能の解明が望まれる状況下で、このようなトランスフェクションは有益であるものと期待される。オーファン受容体は、製薬工業にとって大いに関心のある領域である。なぜなら、リガンドの特性がわかれば新薬の生成に大いにつながり得るためである。
【0095】
子宮内膜の発育は、多くのサイトカインおよびそれらの受容体の相互作用によって仲介される複雑なプロセスであること、ならびに、卵巣ステロイドの刺激効果がしばしばこれらのサイトカインを通して仲介されることが、ますます認識されるようになっている。特に、TGFαがマウスの子宮内のエストロゲン作用の潜在的な仲介者であることがわかっている(Nelson et al, 1992, Endocrinology, 131, 1657-1644)。したがって、この因子の合成を導く構造物のトランスフェクションは、子宮内膜の成長を促進することが期待され、したがって、子宮内膜が十分に発育しなかった状況での受胎能を高めることができるかもしれない。同様に、この因子は月経後の上皮表面の修復を促すものと予想され、したがって、月経過多の治療に有益であると思われる。
【0096】
ステロイドホルモン受容体の上科には、リガンドが現時点で知られていないいくつかの
メンバーが存在する。このようなcDNAの子宮内膜内へのトランスフェクションは、これらの受容体の生物学的機能を解明するのに大いに有益である可能性があり、したがって、これらの受容体に作用する新しい薬剤の研究に応用できる (Evans 1988, Science 240,
889-895) 。
【0097】
3) サイトカイン増殖因子および他のホルモンの作用を阻止または防ぐよう設計された構造物のトランスフェクション
天然のアンタゴニストのサイトカインおよび増殖因子へのトランスフェクションは、子宮内膜の機能を調節する可能性を開く。このようなアンタゴニストの一例は、インターロイキン−1受容体アンタゴニストである (Hannum et al, 1990 Nature 343, 336)。このタンパク質の投与は、マウスの妊娠を阻止することがわかっている (Simon et al, 1994 Endocrinology 134, 521-528) 。サイトカインおよび増殖因子の他の天然のアンタゴニストは、天然の可溶性受容体を含む。可溶性受容体は、種々の増殖因子/サイトカイン系において説明されてきている。たとえば、TNF(Engelmann et al, 1990, J. Biol. Chem.
265, 14497-14504), FGF (Givol et al, 1992, FASEB Journal, 6, 3362-3369),PDGF (Tiesman & Hart, 1993, J. Biol. Chem. 268, 9621-9628)およびIL−6 (Novick
et al, 1989, J. Exp. Med. 170, 1409-1414)が挙げられる。これらに共通の特徴は、受容体の細胞外リガンド結合ドメインが、自由な可溶性因子として細胞から放出されることである。これは、プロテオリシス、または、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを欠く切頭の(truncated )タンパク質分子を生成する別のスプライシングのいずれかによって、達成される。Kendall およびThomasは、VEGF受容体fltの可溶性変異型を説明した (1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,90, 10705-10709)。このタンパク質は、インビトロでVEGFの作用を阻止することができた。本発明者は、付加的な可溶性変異型をコードするさらなる3つのcDNAを分離した(PCT/GB95/01213参照)。これらの天然の作用因子の使用は、他のアンタゴニスト(抗−VEGF抗体等)に比していくつかの利点を有する。これらは体内で天然に発生するため、それらが免疫応答を引き起こすことなく、よく許容されるに違いないと予想される。さらに、それらは膜結合受容体から導き出されるため、それらの結合特性は非常に類似しており、したがって非常に効果的にリガンドと競合するものと思われる。他の可溶性受容体も天然に存在する可能性があり、または、インビトロで工作され得る。さらに、ステロイドホルモン受容体科のメンバーからのリガンド結合ドメインが発現された場合には、十分に高いレベルで細胞内に発現されればそれがリガンドと競合するであろうという点で、それは支配的な陰性の受容体として作用し得るものと思われる。この他にも、活性化しないがDNA結合する「受容体」が遺伝子転写を阻止するのに使用され得る。この応用は、オーファン受容体のための未だ識別されていないリガンドを含む天然のステロイドへの作用と拮抗するのに有益であろう(Pemrick et al, 1994 Leukemia 8, 1797-1806)。7つの膜貫通ドメイン受容体科からのシグナル欠乏受容体もまた、工作され、トランスフェクトされ得る。
【0098】
可溶性インターロイキン−1受容体アンタゴニスト (Eisenberg et al, 1990 Nature 343, 341)は、インビボでIL−1の作用と拮抗することがわかっている(Simon et al, 1994 Endocrinology 134, 521-528) 。したがって、アンタゴニストの合成を導くよう設計されたcDNA構造物で子宮内膜をトランスフェクションすることが、マウスの妊娠を阻止するものと期待される。
【0099】
増殖因子またはサイトカインの作用と拮抗すると思われる他の因子は、天然の受容体の可溶性変異型を含み、たとえば、fltのためのVEGF受容体の可溶性変異型がKendall およびThomasによって(1993,上に記載)、ならびにBoocock et al によって (1995 J. Natl. Cancer Ins. 87, 506-516)、説明されている。このような因子の局所生成は、VEGFの作用と拮抗するものと期待され、内皮細胞の過剰増殖が見られる状況において、治療に有益に使用できる可能性がある。この状況にはたとえば、子宮内膜内の毛細血管濃
度を減ずることが所望される種々の月経不順がある。これは悪性疾患も含む。
【0100】
4) 特定のタンパク質(または酵素)の局所生成を防ぐ、アンチセンス方法の使用
サイトカイン、増殖因子およびホルモンの作用を阻止するためのアプローチとしては他に、適切な細胞内の受容体の生成またはリガンドの生成のいずれかを阻止する、アンチセンスもしくはリボザイム技術を使用することが考えられる(James, 1991 Antiviral Chemistry and Chemotherapy, 2 191-214; Albert & Morris, 1994 Trends in Pharmacological Sciences 15, 250-254) 。
【0101】
アンチセンス技術は、いわゆるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの細胞mRNAへの結合に依存する。この結合はこのmRNAの翻訳を防止し、したがって細胞によって生成される適当なタンパク質の量を減じる。合成したオリゴヌクレオチドまたはポリリボヌクレオチドがいずれもこの手法のためにうまく使用されている。より長いアンチセンスポリリボヌクレオチドの合成を導く、リポソームが仲介するDNA構造物のトランスフェクション、またはリポソームが仲介するオリゴヌクレオチドのトランスフェクションは、トランスフェクションされた細胞によるタンパク質の生成を特定的かつ選択的に減じることが期待される。リボザイムもまた、問題とする特定のタンパク質をコードするRNAを選択的に開裂させることによって、タンパク質の生成を防ぐ。これらもまた、このようなポリヌクレオチドの合成を導くDNA構造物として、またはポリリボヌクレオチドとして、トランスフェクションが可能である(論評は、いずれも上に記載の、James 1991およびAlbert & Morris 1994を参照)。受胎能を妨げるアンチセンスリボザイムのこのような使用の一例は、以下のとおりである。LIFが哺乳類の妊娠における着床のプロセスに不可欠であることは既にわかっている(先に記載したStewart et al, 1992)。したがって、アンチセンスポリリボヌクレオチドの合成を導くDNA構造物もしくはオリゴヌクレオチドのトランスフェクション、またはLIF mRNAに対抗するリボザイムのトランスフェクションのいずれかが、この因子の合成を妨げることが期待される。この因子を欠くことは、着床の失敗につながり、したがって受胎が阻止されると考えられる。
【0102】
同様の手法が、VEGF等の脈管形成増殖因子の生成を阻止するのに使用され得る。これは、腫瘍の増殖に必要とされる内皮細胞の繁殖を防ぐものと考えられる。したがって、この種の治療は、悪性の疾病が治療される際に特に有利となり得る。
【0103】
5) 免疫グロブリンおよびそのフラグメントの局所生成
現在の組換えDNA技術を使用して、モノクローナル抗体に由来しかつ完全なモノクローナル抗体とほぼ同一の結合特性を有する、単鎖抗体を生成することが可能である。このような単鎖抗体は、細菌内にうまく発現されてきた (He et al, 1995 Immunology 84, 662-668)。原則的には、単鎖抗体の発現を導き、かつこれを上皮細胞内に発現する、構造物を工作することが可能である。もしこれがインビボで子宮内膜内で実行されれば、ステロイドホルモンに対抗する単鎖抗体がステロイドに結合して上皮細胞内でのその作用を防ぐことが予想される。このような抗体の一例は、抗プロゲステロンモノクローナル抗体DB3由来の単鎖抗体である (He et al, 1995 上に記載) 。もしこの抗体が子宮管腔内に分泌されれば、これはプロゲステロンをも結合し、子宮の区画内の別の場所でも作用を及ぼし得る。子宮内膜内で活性であることがわかっているサイトカインおよび増殖因子に対抗する抗体は、この態様によって局所的に生成された場合には、それらの機能を同様に阻止し得るものと考えられる。
【0104】
局所的に生成された単鎖抗体は、性交によって伝染する疾病を防ぐかまたは治療することにもまた応用できよう。この場合には、(パピローマウイルス、HIV、クラミジア等の)問題とする作用因子に対抗する抗体は、子宮管腔内に分泌されて、問題とする作用因
子による感染を防ぐであろう。精子または卵母細胞抗原に対抗する抗体は、避妊においてある役割を果たすものと考えられる。
【0105】
6) 粘膜の免疫を達成するための能動免疫
局所免疫を達成するのに使用され得る付加的な方法として、抗体の管腔内への分泌を導く構造物を設計することが考えられる。これは、局所的な免疫応答を引き起こし、それによって部位特異的粘膜免疫が達成されるものと考えられる。長年、子宮管腔が多くの白血球を含有することが知られてきた (Howe, 1967 Journal of Reproduction and Fertility
13,563-566) 。トランスフェクションされた子宮内膜細胞によって作られた抗体が、これらの白血球によってとり上げられて、その後粘膜免疫応答を引き起こすよう提示されることが可能である。腸の管腔に抗体を送り込むことにより、このような免疫が得られ、いくつかの例においては、非常に有効であることがわかっている(ポリオに対するワクチン接種等)。
【0106】
7) 病原体付着部位の阻止
病原体が粘膜の表面に付着することは、しばしば、感染の樹立に不可欠な前提条件である。これらの部位への病原体の付着を阻止することはしたがって、ヒトまたは動物を病気から、特に性交で感染する病気から保護する方法を提起できよう。このことは、(大腸菌および淋菌等のある種の病原菌株のような)細菌性病原体ばかりでなく、ウイルス性病原体にも当てはまる。細胞を感染させる際に多くのウイルスは細胞表面の「受容体」によって付着する。可溶性受容体が局所生成されることで、細胞表面の分子と競合して、したがってウイルスの感染を防ぐことが期待され得る。同様に、ウイルス擬似体(これはウイルスの「リガンド」と同様に作用する)で細胞表面の受容体を飽和することもまた、特定の免疫グロブリンまたはその有効な結合部分を局所生成すること同様、感染を阻止できるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1Aおよび図1Bは、(A)βガラクトシダーゼレポータ遺伝子の発現を導くプラスミド構造物または(B)このレポータ遺伝子を欠く類似のプラスミドをトランスフェクトされたマウスの子宮内膜の組織学的断面を示す光学顕微鏡写真である。トランスフェクトされた細胞は細胞質内の濃い暗い(青色の)染色によって明確に識別され、これが断面Bには見られない。
【図2】図2は、図1Aに示すものと同じプラスミドで形質転換されたインビトロのヒト子宮内膜細胞の光学顕微鏡写真であり、レポータ遺伝子の発現による暗い(青色の)染色は残りの腺構造体に主に関連しており、一方まわりの細胞はより染色状態が弱い。
【図3】図3は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(pcDNA3CAT)をコードする遺伝子がうまくトランスフェクトされた子宮内膜細胞に関するCATアッセイ(管当たりのカウントで)の結果を、対照プラスミド(pcDNA3)をトランスフェクトした細胞と比較して示す棒グラフである。
【図4】図4は、ルシフェラーゼ(pcDNA3LUC)をコードする遺伝子をうまくトランスフェクトした子宮内膜細胞に関するルシフェラーゼアッセイ(相対的光学単位での)の結果を、対照プラスミド(pcDNA3)をトランスフェクトした細胞と比較して示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の個体の生殖系の細胞内に核酸を導入することによって前記細胞のうち少なくともいくつかの細胞の1またはそれ以上を形質転換する薬剤を製造するための、核酸の使用。
【請求項2】
前記薬剤が、排卵に続き、血中のプロゲステロンのレベルがピークになる時点を含めてそれまでの時期に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
哺乳類の個体の生殖系の細胞内に核酸を導入することによって前記細胞のうち少なくともいくつかの細胞の1またはそれ以上を形質転換する薬剤であって、排卵に続き、血中のプロゲステロンのレベルがピークになる時点を含めてそれまでの時期に投与されるものである薬剤を製造するための、核酸の使用。
【請求項4】
核酸が内皮細胞に導入されるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
核酸が子宮内膜の腺上皮に導入されるものである、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
導入される核酸はDNAである、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
核酸は、リポソーム、ウイルス、または他の担体粒子内に導入される、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
核酸は、プラスミドまたは他の構造物として導入される、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
導入される核酸は、真核細胞内に転写されるべき配列に作動可能に連結されたプロモータを含む、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項10】
プロモータは遊動性である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
導入される核酸配列は、プロモータにアンチセンス配向で作動可能に連結された部分を含み、それにより配列が導入される細胞内でのポリペプチドの発現を阻害する、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項12】
核酸配列の導入によって改変された特徴が、個体の受胎能に改変をもたらす、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
導入された核酸は、サイトカインまたは増殖因子の少なくとも有効部分の発現を導く、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
導入される核酸は、インターロイキン,白血病阻害因子(LIF),血管内皮増殖因子(VEGF),上皮増殖因子(EGF),ヘパリン結合性上皮増殖因子(HBEGF),インスリン結合性増殖因子IおよびII(IGF−IおよびIGF−II),アンフィレグリン(amphiregulin),コロニー刺激因子(CSF),腫瘍壊死因子(TNF),肝細胞増殖因子(HGF),ならびに繊維芽細胞増殖因子(FGF)のうちの1つの少なくとも有効部分の発現を導く、前掲の請求項のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
導入される核酸は、サイトカインのアンタゴニストまたは増殖因子のアンタゴニストの
少なくとも有効部分の発現を導く、請求項1から請求項12のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
導入される核酸は、トランスフォーミング増殖因子(TGF)α,繊維芽細胞増殖因子(FGF),血小板由来増殖因子(PDGF),インターロイキン−6,血管内皮増殖因子(VEGF),もしくは肝細胞増殖因子(「Met」受容体)のうちの1つのための可溶性受容体または、インターロイキン−1受容体アンタゴニストの発現を導く、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
導入される核酸は、増殖因子、サイトカイン、またはステロイドホルモンのための受容体の少なくとも有効部分の細胞中および/または細胞上における発現を導く、請求項1から請求項12のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
導入される核酸配列は、EGF、トランスフォーミング増殖因子(TGF)α、またはVEGFのうちの1つのための受容体の少なくとも有効部分の発現を導く、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
導入される核酸は、局所的免疫効果を有するポリペプチドの少なくとも有効部分の発現を導く、請求項1から請求項12のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
導入される核酸は、病原体からの抗原の少なくとも有効部分の発現を導く、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
導入される核酸は、HIV、パピロ−マウイルス、クラミジア、または淋菌のうちの1つからのポリペプチドの少なくとも免疫原性の部分の発現を導く、請求項19または請求項20に記載の使用。
【請求項22】
導入される核酸は、免疫グロブリンまたはその有効部分の発現を導く、請求項19に記載の使用。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124402(P2006−124402A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6212(P2006−6212)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【分割の表示】特願平8−520293の分割
【原出願日】平成7年12月21日(1995.12.21)
【出願人】(501484851)ケンブリッジ・ユニバーシティ・テクニカル・サービシーズ・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE UNIVERSITY TECHNICAL SERVICES LIMITED
【Fターム(参考)】